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戦略記事

渡辺雄也の「リミテッドのススメ」

アヴァシンの帰還 7つの分析編:?謎のアヴァシン7?

読み物

渡辺雄也の「リミテッドのススメ」

2012.05.09

アヴァシンの帰還 7つの分析編:~謎のアヴァシン7~


 こんにちは。渡辺です。

アヴァシンの帰還 好評発売中!

 先日発売になった最新エキスパンション『アヴァシンの帰還』、みなさん十分に堪能していることだと思います。
 新しいカードでデッキを組むもよし。まったく新しい環境のドラフトに興じるもよし。
 まだこの次期は構築やドラフトもみんなほぼ手探りの状況から始まるので、どんどん新しいことにチャレンジしていきましょう!
 思わぬところから意外な発見が見つかるかも知れませんよ。


 さて、今回は『アヴァシンの帰還』リミテッド特集の第2回、「アヴァシンの帰還 7つの分析編」です。

 特集記事の第1回もあるので、そちらをまだ読んでいない方は念のためにこちらからどうぞ。

 7つの分析とは、新しい環境を考える際に7つの視点からリストを見ていくことで、リストを見たときに得られる情報量を増やす手法です。
 詳しい説明は以前の記事(基本セット2012イニストラード闇の隆盛)を参照してください。

 では今回もこの7つの視点から、『アヴァシンの帰還』環境がどのような環境であるかを考察していきます。

  1. クリーチャー除去
  2. システムクリーチャー
  3. タフネス1クリーチャー
  4. マナ基盤
  5. コンバットトリック
  6. 装備品
  7. ブロックのメカニズム

 出現率の低いレアや神話レアについては考察せず、出現率の高いコモンとアンコモンに絞って考察していきます。
 それと、今回はプロツアーに向けた練習のおかげでそれなりにドラフトの経験を積めているので、実際にドラフトをやって感じたことも書いていきます。

 では各項目ごとに見ていきましょう


1. クリーチャー除去

 まずは環境にある除去カードをリストアップしてみます。

コモン
アンコモン

 環境にある除去と呼べそうなカードはこれくらい。コモン・アンコモンを合わせてこれしかないというのは、大型エキスパンションにしてはかなり少なめです。

 コモンでも《死の風》《牙抜き》《火柱》あたりは優秀ですね。

 しかし、それ以外だと《正義の一撃》や《幽体の牢獄》のようなタイミングを選んだり、単純に除去できる範囲が狭い《腐肉化》や《いかづち》のようなカードもあり、今回のコモンの除去カードはかなり弱めに設定されています。

 アンコモンを見ても、奇跡で唱えられたときこそ超が付くほど優秀な代わりに元のコストが重い《払拭の一撃》や《轟く怒り》、これまた対象を限定している《人間の脆さ》や《蜘蛛による摂食》など、お世辞にも優秀とは言えないような除去しかありません。

 大型エキスパンションのカードに対しての枚数の割合や能力の質を考えると、今回のアヴァシンの帰還環境は、除去が非常に弱い環境だと言えるでしょう。

 実際にプレイしていてもこの環境の除去は弱く、タフネスが3を超えるクリーチャーが除去されることは珍しいですね。

 ただ、除去が弱いといっても相手のクリーチャーに触れる手段がないわけではありません。それが《現実からの剥離》や《虚空への突入》のような青のバウンス呪文です。

 大型クリーチャーを除去することのできるカードが少ないこの環境では、これらの青のバウンス呪文は非常に重宝しますね。
 特に《現実からの剥離》はこの環境で数少ないインスタントタイミングで相手のクリーチャーに触れれる手段なので、青をやるなら絶対に押さえておきたい1枚です。

 バウンス呪文は除去と違って相手のクリーチャーを手札に戻すだけなので、カードの枚数だけで見たら損をすることになりますが、《現実からの剥離》は自分の戦闘で負けそうなクリーチャーを助けたり、《霧鴉》や《森林地の先達》のような場に出たときに効果のあるカードを使いまわしたりもできるので、思っていたよりも使い勝手は良かったですね。


2. システムクリーチャー

 次はこの環境に存在するシステムクリーチャーを見ていきましょう。

コモン
アンコモン

 この環境で、何かのシステムを作れそうなクリーチャーはこれくらいですね。

 この環境の「ハスク」枠(《ナントゥーコの鞘虫》のようにクリーチャーを任意のタイミングで生け贄に捧げてメリットを得る能力)の《流血の鑑定人》。元々の能力は低いですが、従来のハスクと違ってターン限定の修整ではなく+1/+1カウンターとなったので、コンボを決めた後に戦闘要員としての活躍が見込めます。

 ただ、この環境にはコモン・アンコモンに「レイコマ」系(《命令の光》などのコントロール奪取効果)のカードが無いので、いつものようにハスク+レイコマのコンボを決めるのは難しいですね。
 《死体の運び屋》や《アンデッドの処刑人》を筆頭に死亡した際に何かするカードとの相性は非常によいので、この環境でもコモンのシステム枠として機能してくれるでしょう。《屋根職人の反乱》と合わせて使っても面白いですね。

 この環境の「ルーター」枠(《マーフォークの物あさり》に代表される手札入れ替え能力)である《狂気の預言者》は赤いルータークリーチャー。普通ルーターは青いクリーチャーなので、赤のルーターは珍しいですね。

 赤になった影響かどうかは分かりませんが、従来のルーターと違って「先にカードを捨ててからカードを引く」ようになっています。カードを捨てるのが能力のコストなので、手札が無い場合は能力が起動できない点に注意してください。

 リミテッドでは往々にしてルーターは強いですが、このアヴァシンの帰還環境では相手のターン中に「奇跡」の能力誘発も狙える重要なクリーチャーです。もしデッキに「奇跡」持ちのカードが入っている場合は、なるべく相手のターンに起動して「奇跡」を狙いにいきましょう。

 《ネファリアの密輸人》は4マナで自分のクリーチャーを「明滅」できるクリーチャー。当然相方となるのはCIP能力(場に出たときに何かする能力)のクリーチャーです。

 《霧鴉》や《黄金夜の救い手》のようなクリーチャーの能力を繰り返し何度も使ったらそれだけでゲームに勝ててしまいそうですね。こういったクリーチャーが自分の場にいなくとも、戦闘で負けそうなクリーチャーを恒久的に助けることができるので、非常に優秀なシステムクリーチャーと言えるでしょう。

 また、クリーチャーではありませんが、《稲妻の勇気》はエンチャントしたクリーチャーを「ティム」(《放蕩紅蓮術士》のようにタップで任意の対象にダメージを与えるクリーチャー)化する能力を持っている、この環境の「ティム」枠です。

 普通のクリーチャーに付けたらただのティムにしかなりませんが、《電位式錬金術師》で何回も撃てるようにしたり、《ベラドンナの行商人》に付けてお馴染みの「接死ティム」コンボなどのコンボ要素は多いので、これらのクリーチャーと合わせて使うようにしたいですね。


3. タフネス1クリーチャー

 次は環境に存在するタフネス1クリーチャーの有用性と、それらに上手く対処できるカードを探していきます。
 まずは環境に存在するタフネス1のクリーチャーはどんなものなのかを見てみます。

 リストを見た感じでは、各色の2マナ以下のクリーチャーカードはタフネス1のカードが多いですね。
 各色の2マナ以下のクリーチャーの主要どころは、

 といった感じですね。
 これら以外にも2マナ以下のクリーチャーのほとんどはタフネス1です。逆に3マナ以上になるとタフネス1のクリーチャーは、ぐっと少なくなります。
 したがって、環境的には「タフネス1に対するキラーカード」≒「2マナ以下のクリーチャーにしか対処できない」となり、ほぼ序盤用のカードという認識になりますね。

 では次にタフネス1に有効に対処できるカードを見ていきます。

 有効的にタフネス1に触れるカードはこれくらい。

 《腐肉化》や《火の装い》は相手の2マナのクリーチャーに1マナで対処できるので、序盤の相手の攻勢を捌くときに役立ってくれるでしょう。

 2マナより重い《自警団の正義》や《稲妻の勇気》は恒久的なダメージが期待できるのでタフ1キラーというよりも普通に強いカードですが、《逆鱗》のような5マナくらいのカードだと、これを打てる頃にはもうそれほど有効な状況ではないかもしれないので、ちょっと使い辛そうですね。

 とりあえず『アヴァシンの帰還』環境は、タフネス1のクリーチャーは2マナ以下に多く、それらに対処するならそれよりも軽いマナコストのカードか、恒久的にそれらを対処できるカードが有効ということです。そして環境にタフネス1のクリーチャー自体の数はそれほど多くないので、あまりデッキにそういう役目のカードを入れすぎないように注意しましょう。


4. マナ基盤

 環境にあるマナサポート関係のカードを見ていきます。

 環境にあるマナサポート関係のカードはこの3種類。

 《豊かな成長》と《国境地帯のレインジャー》は両方とも緑のカードなので、今回はデッキを多色化する際は緑をベースにするのがよさそうです。両方ともコモンなので出現頻度も高く、十分に狙えるでしょう。
 逆にそれ以外の色をやるときは、無理に多色化せず無難に2色以内にまとめるようにしたほうがよさそうです。

 『アヴァシンの帰還』環境は従来と同じく、デッキ組むときは基本的に2色で、緑が絡んだときだけ3色も視野に入れるくらいの認識で問題ないでしょう。
 間違っても4色以上でデッキを組もうとしないように。


5. コンバットトリック

 次は環境にあるコンバットトリックを見ていきます。

コモン
アンコモン

 環境にある戦闘関連のカードはこれくらいですね。

 これだけ見ると枚数自体は多く見えますが、上で挙げたカードの半分くらいはデッキに入れたくないようなスペックのカードも含まれています。《掲げられた軍旗》や《異常な俊敏性》のようなカードは間違ってもデッキには入れたくないですからね。

 残った半分に当たる《連携攻撃》や《盲信の一撃》のような普通のクリーチャー強化呪文ですが、このアヴァシンの帰還環境ではこれらの「ジャイグロ(《巨大化》)」系のカードは非常に重宝します。

 というのも、この環境はインスタントで相手のクリーチャーに対処する手段がとにかく少なく、こういった普通のクリーチャー強化呪文を邪魔されることが少ないのです。

 インスタントでクリーチャーに触れてくる除去カードも、《死の風》や《正義の一撃》のようなクリーチャーのサイズを上げることで回避できるものなので、戦闘補助のみならず除去避けとして機能することもありますね。

 普段ならデッキに入れるのを躊躇する《天空捕え》のような微妙なスペックのカードでも、デッキに入れるのを検討するくらいこの環境のリミテッドではコンバットトリックのカードは貴重ですね。

 ただ、流石にタフネスの上がらない《異常な俊敏性》や、打つために3マナ必要でサイズ修整もない《信じ抜く心》などの弱いカードは話が別。やはりコンバットトリックは軽いジャイグロに限ります。

 とにかく覚えておいて欲しいのは、この環境ではインスタントで動けるのは非常に重要であるということ。環境にまともなインスタントが少ないので、いつもより少しインスタントの優先度を上げてみるとよいでしょう。


6. 装備品

 次は環境にある装備品を見ていきます。

コモン
アンコモン
レア

 環境にある装備品はこの5種類。
 大型エキスパンションの割合で見たら少ない枚数なので、メインデッキから茶(アーティファクト)破壊を入れて対策するほどではないですね。

 せっかくなので1枚ずつ見ていきましょう。

 《先兵の盾》は非常に防御的なカードですが、合計5マナ払ってやるにはちょっと能力が弱いですね。残念ながらデッキには入らないレベル。


 《刃の篭手》はコモンらしい良い装備品。コストが軽くて使いやすく、黒以外の各色には人間がいるので警戒を持たせられることも多いです。白で使うと、ただでさえ強い天使クリーチャーがさらに手に負えない生物になったりも。


 《天使の武装》はプレイと装備コスト合わせて7マナと非常に重いカードですが、それに見合った働きをしてくれます。緑の大型生物がこれを装備したらそれだけで簡単にゲームに勝ててしまうことも。


 《拷問者の三叉矛》はパワー+3修整に攻撃強制というかなり前のめりな能力ですが、タフネスは上がらないので相手のクリーチャーと接触しない回避持ちクリーチャーに装備させたいところ。

 《さまよう狼》や《掛け金探し》のようなクリーチャーに装備するのが理想ですね。


 《月銀の槍》は、まぁ説明するまでもないですね。
 出して、付けて、殴る。これだけで毎ターン4/4飛行が出るのは流石にリミテッドでは手に負えないでしょう。プレイに{4}マナと装備に{4}マナの合計8マナとかなり重いですが、必ずそれに払ったマナ以上の働きをしてくれます。流石はレア。


7. ブロックのメカニズム

 最後にこのブロックのメカニズムがドラフトでアーキタイプとして成立するかどうかを検証します。

 『アヴァシンの帰還』のメカニズムは「奇跡」と「結魂」の2つ。これらがアーキタイプとして成立するかを考察していきます。
 ではまずは「奇跡」から。


奇跡

 「奇跡」は残念ながらドラフトではアーキタイプとして成立しません。
 『アヴァシンの帰還』には「奇跡」のカードがコモンに存在しないので、「奇跡」をかき集めることはできませんし、たくさん集まって強い能力でもないですからね。

 ただ、「奇跡」のカードは「奇跡」で発動したときの能力が非常に強いので、もし「奇跡」のカードがデッキに入っているときは、それらを「奇跡」でプレイできる機会を増やせる《狂気の預言者》や《錬金術師の弟子》みたいなカードと合わせて使うようにしましょう。


結魂

 もう一つのメカニズムである「結魂」は、アーキタイプとして成立します。

 コモンに相当数の「結魂」クリーチャーがおり、それらをかき集めて相乗効果を狙うようなデッキは、この『アヴァシンの帰還』環境の基本アーキタイプと言って差し支えないでしょう。能力的に集めれば集めるほど強い系の能力ですからね。

 《花咲くもつれ樹》や《連携攻撃》のような「結魂」していれば恩恵を受けるカードもありますし、《ベラドンナの行商人》と《ハンウィアーの槍兵》で接死+先制攻撃みたいなコモンの「結魂」持ち同士のお手軽コンボもあります。

 「結魂」は黒以外の全ての色のクリーチャーが持っているので、黒が絡まなければ他のどの色からでも「結魂」を狙うことができることも考えると、この『アヴァシンの帰還』環境の基本的なアーキタイプの一つと言えるでしょう。



 アヴァシンの帰還・7つの分析編は以上です。

 冒頭でも触れましたが、今週末はバルセロナでプロツアー・アヴァシンの帰還が開催されます。

プロツアー・アヴァシンの帰還

 使用される構築フォーマットはイニストラード・ブロック構築で、あまり馴染みのないフォーマットかもしれませんが、ここで活躍したデッキは「ミラディンの傷跡」がローテーションした後の次期スタンダードで活躍する可能性が十分にあり得ます。

 果たして『アヴァシンの帰還』の加入によってブロック構築はどのような環境になるのか、ドラフトのシークレットテクは?
 世界のプロ達が魅せる答えを、是非楽しみにしていてください!


 では今回はこの辺で。次回のアヴァシンの帰還・点数表編でお会いしましょう。

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