MAGIC STORY

神々の軍勢

EPISODE 06

閃足の舞踏

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閃足の舞踏

Jennifer Clarke Wilkes / Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori

2014年2月19日


「また子供が攫われたか。この悪事だけは、絶対に見逃すわけにはいかない。そして容赦もしない。」

――アンソーザ


我が子よ、あなたのそんな幼い子を何処へ置き去りにしてきたのです? あなたが行かせ、放り出してきたその孤児達に何の憐れみも持たないのですか? あなたは子供達を街路に置き去りにしたのですよ、あなたは!

――クレタ島の古い哀歌


 静かで暗い聖廟には今一度、細長い布が下げられていた。それぞれに幾つかの小さな玩具が取りつけられている――小さな腕輪、馬の彫刻――絶望した親達の沈黙の叫びが込められて。その捧げ物は街路を通り過ぎる一陣の風に、静かに音を立てていた。

 死や喪失を公的に示すもの、棺の後に続く哀悼者達の行列は何も見られなかった。荘厳な灰色の外衣を着せられ、金や聖なる葉の冠をかぶせられ、儀式に則って清められた屍もない。葡萄酒と血が捧げられる大理石の記念碑も、煙を上げる祭壇もない。この、あどけない形見には底無しの虚無が刻まれている。死の確かな悲しみさえここでは行き場もなく、ただ哀れな希望だけがゆっくりと黄昏へと消えていく。


「また一人、いなくなりました」彼女は相棒にそう報告した。彼女たち巡回兵二人は、メレティスの集会場へと早足で向かっていた。

「今月、これで三人目だ」彼は首を横に振った。「困ったものだ。何が起こったのか、まだ何もわからないのか?」

「何も。まるで彼らはニクスそのものへ消えてしまったようです」

「家族がどれほど悲しんでいるか、想像もできないな。神々よ、我らをこのような運命から守り給え」

「もしかしたら、予見者様達が天文所で真実を見定めて下さるかもしれません。どうかクルフィックス神が我々の目の覆いを取り払って下さいますように」

 二人はその場から去った。楽しそうな笑い声のささやきが彼らの後を漂っていった。


ア-ト:James Ryman

 あごひげが伸び放題の若者は肩を落とし、大理石の床をじっと見つめていた。その表面には淑やかに外衣をまとった女性の浅い浮き彫りがあり、彼女の両腕は二人の、子供の彫刻へと伸ばされていた。男の唇が声を出さぬまま動き、彼の手は穏やかに、腰の高さの印に置かれた。そして彼は色を塗られたレキュトス、細身の壺を持ち上げると石碑の足元へと真紅の液体を注いだ。彼は最後に一瞥して背を伸ばすと、踵を返して墓からゆっくりと去った。


 デカティアの階段を上り、密集軍の隊長は勇ましく敬礼した。学院の黄金の扉を守る歩哨は敬礼を返し、入り口へと頷き示した。「どうぞお入り下さい、敬虔隊のお方」

 石から彫り上げられ黄金で上張りされながらも、その重々しい扉は青銅の軸からなめらかに開いて兵を迎え入れた。彼は羽根飾りの兜を脱いで入ると、注意して右足で入り口をまたいだ。頭を下げ、彼はその内に集う威厳から認められるのを待った。

 都市国家の最も優れた精神の持ち主達は静かに、だが熱心に議論していた。市民、都市国家を取り巻く平原、港、そして近隣のダクラ諸島について全てが慎重に観察、討論、管理されている。ある種の合意に達し、尊敬を集める哲学者達が彼らの頭を隊長へと傾けた。青い縁どりのある簡素な長衣をまとう灰色の髪の女性が、立ち上がって進み出た。

「ようこそいらっしゃいました、敬虔隊の隊長殿。貴方の献身にはいつも感謝しております。本日はどのような知らせをお持ちになられたのですか?」

 密集軍の隊長は胸当てに手を沿えた。「栄誉ある言論者ペリソフィア様、この闖入をお許し下さいますことをお願い申し上げます」

 その女性は微笑み、わずかに首を横に振った。「都市国家の幸福は常に最も優先される事項です。貴方は誰よりも、我らを脅かすものをご存知でしょう。どうか、心の内を明かして下さい」

「感謝致します、言論者様。我らの国の境から不気味な報告がありました。沿岸の沼沢地付近の巡回兵より、アスフォデルの呪われし住人どもの新たな活動について報告がありました。私は自らの目で確かめて参りました」

「攻撃ですか?」

「違います、言論者様。蘇りし者の奇襲は珍しいものではありませんし、我らは多くを退けてきました。ですが、これは......」 男は遠くを見て、少しの間、その唇をしかめていた。ペリソフィアは黙って待った。

 彼はかすれた声で続けた。「『泣く女』をまた目撃しました。さらに......彼女は今や一人ではありませんでした」

 息を呑む低い音が評議会場に響いた。そして言論者は穏やかに話した。「彼女は子供達を見つけたのですか?」

「わかりません。もし連れている子らが彼女のものであっても、彼ら自身にはわかりません。その不幸な子達が安らかにいることを願います」

「子供が三人、彼女に付き添っています。二人が彼女の手を握って。女の子が一人と男の子が二人、恐らくは。子供達の顔は見ることができませんでした。仮面を......かぶっていた子も、いました」


絶望の偽母》 アート:Winona Nelson

 ある男性議員が吐き捨てた。「忌まわしきものめ!」

 ペリソフィアは一歩進み出て、その手を隊長の震える肩に置いた。「そして、どうなりました?」 彼女は低い声で尋ねた。

「我らはそのまやかしの生を、見かけ次第終わらせるべきだとわかっております。ですが、できませんでした。あの小さな子達は......」 隊長は涙声を飲み込んだ。「誰もあの子らに刃を向けることなどできませんでした。霧の中へ帰っていくのを見ていることしか、できませんでした」

「申し訳ございません、言論者様。私は弱き者です。自身の行動への報いを受け入れます」 彼は深く頭を下げた。

 言論者は手を離さなかった。「そのようなことはありません。我らが人々の栄誉ある従僕殿。決してそのようなことはありません。あなたの手に宿るそれは優しさであり、弱さではありません。子供へと刃を振り下ろせるほど意志の固い者が何処におりましょう?」

「そして、やがてこういった類の出来心はより大きな悲劇を導きます」 ペリソフィアは議会へと顔を向けた。「何ヶ月もの間、私たちはラクリモーサについての話を聞いてきました。彼女の存在は悲劇そのものであり、気の毒なことですが、私たちは彼女をアスフォデル、死の国を拒絶した者達の国へとやりました。私たちは自身に言い聞かせました、彼女らはその選択に相応しい報いを十分に受けたのだと」

「ですが、私たちの寛容が新たな悪をもたらしました。都市国家の内で最近、子供達が行方不明になっていると聞いています。今や私たちはその原因を知りました。彼女は死んだ子らを永遠に探し続けます。『泣く女』は生者をも引き寄せているのです」

「その子供達は彼女のように、永遠に生と死の間に囚われます。死よりも遥かに悪い、ぞっとするような定めです。この冒涜を続けさせてはなりません」

 彼女は胸の前で腕を交差し、目を閉じた。「その子供達に安息の眠りを与えましょう」


アート:Dave Kendall

 寺院の壁、その血のような黒の斑岩は、松明が運ぶあまりに僅かな励ましを飲み込んでしまいそうだった。今にも消えそうな光の中、外衣を着て頭巾を目深にかぶった者達が鉢のような祭壇を小さな円を描いて囲み、ひざまずいていた。彼らは一人ずつ、片腕を上げるとナイフで左の掌を切りつけた。そしてその手を傾け、無地の黒色をしたレキュトスへと真紅の滴を落とした。


 塩気と腐臭が夕刻の冷たい空気に乗って流れてきた。十二賢の言論者が塩水の湿地帯の向こうを見た。彼女の左には密集軍の隊長が立っていた。彼はその盾を高く掲げ、剣の柄を握り締めていた。彼女の右には黒の外套をまとったあごひげの若者がおり、その表情にはまだ新しい悲嘆が刻まれていた。彼は黒のレキュトスを手にとった。

 一団に顔を向けて、厳粛な様子の司祭が立っていた。彼の瞳は重い僧衣の下に隠されていた。同様の身なりをした者が三人、彼の脇を固めていた。その帯から下げられた黄金色の小さな鞭が、彼らが仕える陰気な神を無言のうちに宣言していた。

 司祭長が哀歌の詠唱を始めた。憂いに沈む暗黒の音色の中、彼と司祭達は沼へと身体を向けた。集った一団は詠唱を繰り返した。司祭はある定められた言葉を繰り返し発し、他の者達が応答した。そして司祭が身ぶりで示すと、若き寡夫は急いでその横に向かった。彼は不快なぬかるみの地面にひざまずき、祈りの言葉を囁いた。そしてレキュトスを掲げてその中身を暗黒の水へと注いだ。

 一団は待った。光が風にかき消えた。海鳥の悲しげな鳴き声が止んだ。

 そして、霧の中から、彼女が現れた。死のような静けさの中、黄金の仮面をつけた女性が歩み出た。彼女は二人の子供と手を繋いでいたが、子供達は彼女の沈黙を共有してはいなかった。絶えず、切望するような泣き声が彼らの顔を覆う仮面、その膨張した口から洩れていた。三人目、年長のように見える女の子が彼女らの後ろについて歩き、黄金の唇で静かに泣いていた。


ゾンビ・トークン アート:Winona Nelson

 若者は泣き叫び、髪をかきむしった。他の者達は驚きに息を呑み、彼の嘆きを遮った。

 司祭達はその手を前方へと伸ばし、一つの旋律を単調に繰り返す詠唱を穏やかに始めた。一人また一人、他の司祭達も軽快な和声へと加わり、その音楽に身体を揺さぶり始めた。か細い泣き声は次第に微かになり、ついに消えた。仮面の四人は聞き入るように立っていた。

 優しく歌いながら、司祭達は血のにじんだ左手の包帯を解いた。一斉に、彼らは沼地へと歩み出した。そして一体となって、彼らは血の流れる掌で黄金の額へと優しく触れた。一つ溜息とともに、仮面の者達は地面の下へと滑り込むように消え去った。細波一つさえ残らなかった。


閃足の幻霊》 アート:Chase Stone

 曙光が空を照らす頃、厳粛なその一団は頭を下げて集会場へと入った。誰も言葉を発しなかった。若者は肩を落として歩き、彼の足取りは敷石につまずいた。ペリソフィアと敬虔隊の隊長が彼を支えた。

 突然、高く鳴り響くような子供の声がその沈黙を破った。近くの壁から、ぼやけた人影が現れた。それは子供ほどの大きさで、霧のようにかすんでいた。ほの暗い星の輝きが、大人達の進路を陽気に通り過ぎた場所にかすかにきらめいていた。一同は目と顔を上げ、その遊び戯れる姿を追った。

 そのきらめく姿は驚いて振り返る巡回兵の間を踊るようにすり抜けた。かすかな笑い声を残して、それは広場を横切って大理石の記念碑の中へ入り、一瞬の後に反対側から再び現れた。他にも輝く人影が現れ、街路を通り、集まった大人達の間を曲がりくねって追いかけるにつれ、くすくす笑いは大きくなった。そして一人また一人、広場に並ぶ壁の中へと消えていった。

 陽気な声は消え去った。見ていた者達の唇からは訝しげなつぶやきが漏れ出た。ペリソフィアは空を、日の出とともに消えゆくニクスの輝きを見上げた。そして一同へと振り返った。「子供達は安らぎの中にいます。彼らの夢の光が都市国家の希望を目覚めさせますように」

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