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戦略記事

津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ

第84回:「The Deck of the Month」

読み物

津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ

2011.12.22

第84回:「The Deck of the Month」


 こんにちはー。
 時間が経つのは早いもので、気が付けば今年も最後の連載となりました。どこかで聞いたようなセリフですが、個人的にも今年を一言で表すのなら、《激動》の1年でした。
 スタンダードで実に6年ぶりとなる禁止カードが発表されたり、マジック史の新たな1ページを切り開いた両面カードの登場など、みなさんもかなりの衝撃を受けたのではないでしょうか?

 僕個人の話をさせていただくと、今年はライターとして色々なチャンスをもらった1年だったと感じています。自身の筆の遅さと実力不足ゆえに、今まで敬遠気味だったカバレージライターを初めてやらせてもらったり、ニコニコ生放送に出演させていただけたりと、今年初めて挑戦したものが多かったです。しかしながら、せっかく与えていただいた機会を上手く活かせない自分にもどかしさを覚えた1年でもありました。

 週刊連載でもいくつかの変化があり、最初は戸惑いの連続でしたし、正直に言うと、今週は休みたいと思うことが何度となくありました。ですがそんな中でも必要最低限以上に休むことなく続けられたのは、編集長や友人の支え、そして何よりもこの記事を楽しみにしてくださっている読者のみなさまの存在があってこそでした。

 まだまだ完璧な記事とは程遠い内容かとは思いますが、それにも関わらず、今この記事を書けているのは、間違いなくみなさんのおかげです。来年以降がどうなるかは今のところ分かっていませんが、もしも機会があるようならば、今まで以上に努力して取り組んでいければと思っています。

 少し身の上話が長くなってしまいましたが、今週はそんな感謝の想いを込めて、今年1年を振り返ってみたいと思います。

 今週も最後までお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。


1月 「青黒コントロール」(第35回

Guillaume Matignon
世界選手権2010 優勝[MO] [ARENA]
5 《
3 《
4 《忍び寄るタール坑
4 《水没した地下墓地
4 《闇滑りの岸
1 《霧深い雨林
1 《新緑の地下墓地
4 《地盤の際

-土地(26)-

2 《海門の神官
3 《墓所のタイタン

-クリーチャー(5)-
4 《定業
3 《コジレックの審問
1 《強迫
2 《見栄え損ない
4 《広がりゆく海
4 《マナ漏出
2 《破滅の刃
1 《取り消し
2 《弱者の消耗
2 《ジェイス・ベレレン
4 《精神を刻む者、ジェイス

-呪文(29)-
2 《強迫
2 《見栄え損ない
1 《破滅の刃
3 《漸増爆弾
1 《剥奪
2 《瞬間凍結
3 《記憶殺し
1 《ソリン・マルコフ

-サイドボード(15)-

 世界選手権2010で1・2フィニッシュを記録した「青黒コントロール」は、2011年に入ってもメタゲームをリードし続けました。
 《コジレックの審問》という歴代でも屈指のハンデスから始まり、《マナ漏出》や《破滅の刃》を駆使して盤面をコントロールしていき、最終的には《精神を刻む者、ジェイス》で圧倒的なアドバンテージ差を付けるか、当時は「出れば勝ち」とまでに恐れられた《墓所のタイタン》で一気に殴り勝つのが理想の展開になります。

 後述の「赤緑《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》」対策としても優秀だった《広がりゆく海》は、環境にはびこる《忍び寄るタール坑》や《天界の列柱》のようなミシュラランド対策としても重宝されていましたね。

 この「青黒コントロール」と「赤緑《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》」は、他のデッキに比べ頭ひとつ飛び抜けた強さを誇っていたので、「ミラディン包囲戦」登場後すぐに行われるプロツアー・パリでも、この2つのデッキが猛威を振るうのだろうと多くの人が予想していました。

 しかし、そんな僕たちの予想を良い意味で裏切ってくれたのは、世界最強のチーム、「ChannelFireball」の面々が持ち込んだ「あの」デッキでした。


2月 「Caw-Blade」(第41回

Ben Stark
プロツアー・パリ2011 優勝[MO] [ARENA]
5 《
4 《平地
4 《天界の列柱
4 《氷河の城砦
4 《金属海の沿岸
1 《霧深い雨林
4 《地盤の際

-土地(26)-

4 《戦隊の鷹
4 《石鍛冶の神秘家

-クリーチャー(8)-
4 《定業
4 《呪文貫き
3 《マナ漏出
1 《剥奪
1 《冷静な反論
4 《審判の日
1 《シルヴォクの生命杖
1 《饗宴と飢餓の剣
4 《精神を刻む者、ジェイス
3 《ギデオン・ジュラ

-呪文(26)-
2 《悪斬の天使
4 《失脚
3 《漸増爆弾
2 《神への捧げ物
2 《瞬間凍結
1 《否認
1 《肉体と精神の剣

-サイドボード(15)-

 「Caw-Blade」。2011年を代表するデッキをひとつ挙げろと言われれば、おそらく過半数以上の人がこのデッキを選ぶでしょう。
 このプロツアーが始まるまでは、あくまで普通のカードでしかなかった《石鍛冶の神秘家》ですが、「ミラディン包囲戦」で《饗宴と飢餓の剣》が登場したことで、世界は一変してしまいました。

 《饗宴と飢餓の剣》の持つ「土地をアンタップする」能力と、「手札を1枚捨てさせる」能力は、《石鍛冶の神秘家》と組み合わさることで隙のない完璧なフィニッシャーとして機能します。一度《饗宴と飢餓の剣》が通り始めたならば、黙っていると手札が無くなってしまう対戦相手は動くしかなくなるのですが、仮に対戦相手がどんな一手を打とうとも、デッキに大量に含まれたカウンター呪文がそれすらも刈り取ります。

 装備品の弱点として、「装備先のクリーチャーがいない場合」が挙げられますが、《戦隊の鷹》のおかげでその問題も表面化することはありません。《戦隊の鷹》と《石鍛冶の神秘家》のシャッフル能力は、《精神を刻む者、ジェイス》の持つ《渦まく知識》能力と相性が良く、ゲーム終盤でも息切れを起こすことが少ないので、序盤から終盤にかけて常に手札が7枚ある、そんなことも日常茶飯事でした。

 《饗宴と飢餓の剣》が付随させるプロテクションが、「青黒コントロール」と「赤緑《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》」に突き刺さる(黒)と(緑)だったこと、そしてメタゲームを完璧に読み切った《呪文貫き》の存在も相まって、このデッキは瞬く間に王座へとたどり着きました。

 しかしながら、これはここから始まる「Caw-Blade」の快進撃のほんの序章にしかすぎなかったのです。僕たちがそれに気付くことになるのは、もう少しばかり先のお話でした。


3月 「赤緑《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》」(第45回

Joey Mispagel
「StarCityGames・オープントーナメント・メンフィス」優勝 (2011-03-13) [MO] [ARENA]
11 《
5 《
4 《溶鉄の尖峰、ヴァラクート
3 《霧深い雨林
1 《カルニの庭
3 《広漠なる変幻地
1 《進化する未開地

-土地(28)-

4 《水蓮のコブラ
4 《草茂る胸壁
4 《原始のタイタン
3 《業火のタイタン

-クリーチャー(15)-
4 《探検
3 《カルニの心臓の探検
4 《砕土
4 《召喚の罠
2 《槌のコス

-呪文(17)-
3 《酸のスライム
1 《テラストドン
3 《紅蓮地獄
2 《金屑の嵐
3 《転倒の磁石
3 《緑の太陽の頂点

-サイドボード(15)-

 「ゼンディカーブロック」は土地をフィーチャーしたブロックということで、《霧深い雨林》や《乾燥台地》のような各種フェッチランドに加え、《怒り狂う山峡》や《地盤の際》といった強力な土地カードのオンパレードでした。中でも《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》はとても土地とは思えない強力な能力を秘めており、《原始のタイタン》から導かれる《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》は、無慈悲なまでの破壊力で多くの対戦相手を葬りさりました。

 「青黒コントロール」と「Caw-Blade」に圧され、徐々に数を減らし始めた時期ではありましたが、この頃はまだまだ第一線級のデッキとして世界各地で活躍を続けており、とりわけ日本ではそれが顕著に表れていたように思えます。Magic Onlineの大会結果が載っている「Decks of the Week」を見てみても、「赤緑《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》」は根強い人気を誇っており、今後のメタゲームにおいても、重要な立ち位置を占めるデッキだと期待されていたと記憶しています。

 ですがそんな中行われたグランプリ・ダラスは、世界中が驚く衝撃の結果で幕を閉じたのです。


4月 「青緑赤Turboland」(第49回

Owen Turtenwald
グランプリ・ダラス/フォートワース2011 / 3位[MO] [ARENA]
5 《
3 《
2 《
4 《怒り狂う山峡
3 《銅線の地溝
4 《霧深い雨林
4 《沸騰する小湖
2 《ハリマーの深み

-土地(27)-

4 《水蓮のコブラ
1 《ムル・ダヤの巫女
3 《先駆のゴーレム
4 《業火のタイタン
1 《ゼンディカーの報復者

-クリーチャー(13)-
4 《定業
4 《稲妻
4 《探検
4 《マナ漏出
4 《精神を刻む者、ジェイス

-呪文(20)-
3 《強情なベイロス
2 《酸のスライム
1 《噴出の稲妻
3 《紅蓮地獄
3 《瞬間凍結
1 《剥奪
2 《転倒の磁石

-サイドボード(15)-

 このグランプリでトップ8に残ったデッキの種類は僅かふたつ。その内訳は4つの「Caw-Blade」と4つの「青赤緑Turboland」でした。「Caw-Blade」を倒すために生まれたと言っても過言ではないこのデッキは、「Caw-Blade」に飲み込まれつつある世の中に希望の光を照らしてくれました。

 と言いますのも、「Caw-Blade」唯一の弱点は「除去をほとんど持たないこと」であり、それに着目したプレイヤーたちが白羽の矢を立てたのが《水蓮のコブラ》だったというわけです。
 生き残ってさえしまえば、その膨大なマナ生産能力により、「Caw-Blade」の《呪文貫き》や《マナ漏出》を嘲笑うことができますし、「Caw-Blade」側よりも早く《精神を刻む者、ジェイス》をキャストできるのも、《水蓮のコブラ》の強みのひとつでした。

 このグランプリを境に、「Caw-Blade」に《迫撃鞘》が採用されることが増えたのですが、その主な要因は間違いなく《水蓮のコブラ》にあったと言えるでしょう。

 ちなみに、このグランプリのトップ8では、合計32枚の《精神を刻む者、ジェイス》が使われており、Twitter上で《精神を刻む者、ジェイス》を禁止にすべきだという声が続出。ついにはWizardsの開発部から「《精神を刻む者、ジェイス》を禁止にすべきか否か」(『ジェイスの話』)という声明文を出す異例の事態にまで発展しました。

 この声明文の中には、「"新たなるファイレクシア"には少なくとも2枚のプレインズウォーカー対策がある。まずは、それがどういった影響を与えるか見てみようじゃないか。」という希望に満ち溢れた文章があったため、《精神を刻む者、ジェイス》騒動はひとまず鎮火されることに。

 そしてここから約1ヵ月後、様々な思惑が渦巻く中で、満を持して発売されたのが「新たなるファイレクシア」です。


5月 「ボロス」(第56回

ミツイ ヒデオ
日本選手権2011予選・川崎1次 / 2位[MO] [ARENA]
6 《平地
6 《
4 《乾燥台地
4 《湿地の干潟
3 《沸騰する小湖
3 《進化する未開地

-土地(26)-

4 《ステップのオオヤマネコ
4 《ゴブリンの先達
4 《石鍛冶の神秘家
4 《戦隊の鷹
4 《ミラディンの十字軍

-クリーチャー(20)-
4 《稲妻
3 《四肢切断
2 《戦争と平和の剣
2 《殴打頭蓋
3 《槌のコス

-呪文(14)-
4 《コーの火歩き
3 《呪文滑り
4 《神への捧げ物
1 《肉体と精神の剣
1 《饗宴と飢餓の剣
2 《ギデオン・ジュラ

-サイドボード(15)-

 しかし、そこに待っていたのは予想外の結果でした。スポイラーの隅々まで見渡してみても、《精神を刻む者、ジェイス》に対抗できると思えるようなカードはなく、それどころか《石鍛冶の神秘家》にさらなる力を与える《戦争と平和の剣》、《殴打頭蓋》の存在が世界を絶望の淵へと追いやったのです。

 もはや《石鍛冶の神秘家》の強さは、歴代最強の2マナ域と呼べるほどにどうしようもないものになってしまい、ここからは「Caw-Blade」の独壇場そのもの。どこの大会結果を見ても、上位入賞者の半数以上が「Caw-Balde」といった惨状でした。それにより必然的に《精神を刻む者、ジェイス》を禁止にすべきかという議論が再燃してしまい、そこには《精神を刻む者、ジェイス》だけでなく《石鍛冶の神秘家》も禁止にすべきだという意見が多数見受けられました。

 世界中の多くのプレイヤーが「Caw-Blade」以外のデッキを諦め、どの形の「Caw-Blade」が一番強いのかについて討論をかわす。そんな日に日に増えていく「Caw-Blade」に対し、なんとか対抗しようとプレイヤーたちもがんばっていたのですが、「白赤ボロス」はその対抗勢力の代表格でしょう。ここでも当然の如く《戦隊の鷹》+《石鍛冶の神秘家》セットが使われているのが印象的です。

 このアーキタイプは「Caw-Blade」に対して互角・・・とまではいかないものの、《戦隊の鷹》《石鍛冶の神秘家》の新たな可能性を示す構築として注目を集めました。実際に中島(主税)さんは、「ボロス」を用いてグランプリ・シンガポールで準優勝をはたしていますし、中島さんの今年の大ブレークのきっかけとなったのがこの「ボロス」だったのです。

 しかし現実とは非情なもので、中島さんが決勝で敗れたデッキは、やはり「Caw-Blade」でした。


6月 「Caw-Blade」(第57回

Paulo Vitor Damo da Rosa
グランプリ・シンガポール2011 / 優勝[MO] [ARENA]
5 《
4 《平地
4 《天界の列柱
4 《金属海の沿岸
3 《氷河の城砦
2 《墨蛾の生息地
4 《地盤の際

-土地(26)-

4 《戦隊の鷹
4 《石鍛冶の神秘家
1 《聖別されたスフィンクス

-クリーチャー(9)-
4 《定業
3 《呪文貫き
4 《マナ漏出
2 《乱動への突入
1 《神への捧げ物
3 《四肢切断
1 《饗宴と飢餓の剣
1 《戦争と平和の剣
1 《殴打頭蓋
1 《ジェイス・ベレレン
4 《精神を刻む者、ジェイス

-呪文(25)-
1 《太陽のタイタン
3 《失脚
2 《糾弾
2 《神への捧げ物
2 《瞬間凍結
1 《天界の粛清
1 《剥奪
1 《四肢切断
1 《審判の日
1 《殴打頭蓋

-サイドボード(15)-

 「新たなるファイレクシア」は「Caw-Blade」のためにリリースされた。そんな声すら聞こえてきそうな結果となってしまったのがグランプリシンガポールです。
 前述の通り、《戦争と平和の剣》と《殴打頭蓋》を得た《石鍛冶の神秘家》は手が付けられず、さらに「Caw-Blade」唯一の課題であった「除去カードがない」ことすらも《四肢切断》が解決してしまい、「Caw-Blade」の天下は揺るがないものになりました。

 Magic Onlineの結果が載っている「Decks of the Week」でもそれは顕著に表れており、おそらくこの時期に「Decks of the Week」に掲載された6~7割以上のデッキが「Caw-Blade」だったと思います。

 この由々しき事態に、ついにWizardsが大きな決断を下しました。《石鍛冶の神秘家》《精神を刻む者、ジェイス》がローテーション落ちするまで、残りわずか3ヵ月まで迫ったこの段階で、その2枚のカードを禁止カードに指定したのです。

 プレイヤーたちにとって、基本的に禁止カードの発表というのはあまりいいニュースではないと思いますが、この《石鍛冶の神秘家》《精神を刻む者、ジェイス》の件に関しては、好意的な意見が多かったと聞いています。
 僕もそのうちの1人で、この禁止カードはプレイヤーに好影響を与えると信じていました。記事を書こうと色んなサイトをチェックするものの、どこを見ても「Caw-Blade」しかいないような状況では、ネタを探すのにも一苦労で、これは多くのプレイヤーにも良くないことだと感じていましたからね。

 この件に関しては、「スタンダードの禁止に関する声明」にそれまでの経緯がしっかりと書いてあるので、興味のある方はぜひご覧になってみてください。
 個人的には、この記事があったからこそ、なおのことプレイヤーたちはこの禁止カードに対して寛大な対応をしてくれたのではないかと思っています。それほどまでに誠意の伝わるすばらしい記事で、僕もいつかこんな文章を書けるようになりたいと思ったものです。

 少し脱線してしまいましたが、ようやく、長い長い夜は明けました。《石鍛冶の神秘家》《精神を刻む者、ジェイス》を失ってなお、「Caw-Blade」は活躍を続けるのですが、大幅なパワーダウンをしてしまったことは紛れもない事実であり、ここからは実に様々なデッキが活躍するようになってきます。


7月 「白単《鍛えられた鋼》」(第63回

石田 龍一郎
日本選手権2011 優勝[MO] [ARENA]
11 《平地
4 《墨蛾の生息地
3 《激戦の戦域

-土地(18)-

4 《メムナイト
4 《羽ばたき飛行機械
4 《信号の邪魔者
4 《きらめく鷹
4 《大霊堂のスカージ
4 《鋼の監視者
3 《磁器の軍団兵

-クリーチャー(27)-
4 《オパールのモックス
4 《急送
3 《きらめく鷹の偶像
4 《鍛えられた鋼

-呪文(15)-
3 《呪文滑り
4 《コーの火歩き
2 《精神的つまづき
2 《天界の粛清
4 《忠実な軍勢の祭殿

-サイドボード(15)-

 この「白単《鍛えられた鋼》」は、新時代の幕開けを飾るに相応しいデッキでした。

 当時はMagic Onlineでも爆発的な流行を見せていましたが、MOの一般的なリストとは違い、石田さんのリストは《羽ばたき飛行機械》、そして《激戦の戦域》をメインから入れたスピードに特化した形で、このたった数枚の差が彼を優勝に導く大きな原動力となりました。

 2ターン目に手札を使いきる展開も多々あり、ほとんどのデッキはそのスピードについていくことが叶わず、何も抵抗できずに負けてしまうことも多かったでしょう。この日本選手権を機に、「白単《鍛えられた鋼》」のデッキパワーは広く認知されていき、その後も隙あらば優勝をさらっていくデッキとして活躍を続けました。
 年末に行われた世界選手権2011や、「StarCityGames・オープントーナメント」などでも結果を残しましたし、来年以降も対策を怠りたくないデッキですね。


8月 「青緑白《出産の殻》」(第66回

Noppolis (4-0)
Standard Daily #2681022 on 08/15/2011[MO] [ARENA]
4 《
2 《
1 《平地
1 《
4 《剃刀境の茂み
4 《金属海の沿岸
4 《霧深い雨林
2 《地盤の際

-土地(22)-

4 《極楽鳥
3 《ラノワールのエルフ
2 《ヴィリジアンの密使
2 《幻影の像
3 《海門の神官
1 《刃の接合者
1 《シルヴォクの模造品
2 《ファイレクシアの変形者
1 《真面目な身代わり
1 《石角の高官
1 《強情なベイロス
2 《酸のスライム
1 《剃刀のヒポグリフ
1 《正義の執政官
1 《太陽のタイタン
1 《ワームとぐろエンジン
1 《大修道士、エリシュ・ノーン

-クリーチャー(28)-
4 《出産の殻
4 《思案
2 《滞留者ヴェンセール

-呪文(10)-
2 《強情なベイロス
1 《酸のスライム
1 《正義の執政官
3 《瞬間凍結
3 《帰化
2 《忘却の輪
3 《記憶殺し

-サイドボード(15)-

 僕の大好きな「《出産の殻》」デッキが結果を残し始めたのがこの時期でしたね。
 その名の通り《出産の殻》を用いて1枚差しの「戦場に出た時」、または「戦場を離れた時」効果を持つクリーチャーを使いまわすデッキなのですが、8月~9月にはリストも引き締まり、本当に完成度が高く、「Decks of the Week」で見かける頻度も高かったです。何よりも、使っていて非常に楽しいデッキなのがこのデッキのいいところ。禁止カードによって広がった可能性を、これ以上ないほどまでに見せてくれた良いデッキでした。

 ローテーションにより失うカードが《海門の神官》と《定業》しかなかったため、「イニストラード」発売後もTier1を維持するかと思いきや、その2枚の抜けた穴を埋めることはできず、残念ながら当時予想していたほどの勝ち組にはなれませんでしたね。
 しかしながら、まだこの時期くらいの完成度に到達したリストはないように思えますし、依然として今後に要注目のアーキタイプです。


9月 「青赤《欠片の双子》」(第68回

Matt Nass
グランプリ・ピッツバーグ2011 6位[MO] [ARENA]
5 《
5 《
4 《ハリマーの深み
4 《沸騰する小湖
3 《乾燥台地
3 《霧深い雨林

-土地(24)-

3 《渋面の溶岩使い
4 《詐欺師の総督

-クリーチャー(7)-
2 《ギタクシア派の調査
4 《思案
4 《定業
4 《払拭
2 《呪文貫き
3 《よじれた映像
2 《乱動への突入
4 《貫く幻視の祭殿
4 《欠片の双子

-呪文(29)-
3 《竜使いののけ者
1 《渋面の溶岩使い
3 《変異原性の成長
2 《精神的つまづき
3 《二股の稲妻
2 《否認
1 《核への投入

-サイドボード(15)-

 「新たなるファイレクシア」で登場した《詐欺師の総督》と、《欠片の双子》を組み合わせた無限コンボデッキ。
 スタンダードで無限コンボが出るのは実に久しぶりのことでしたが、たった2枚のコンボはいつの時代も強力なものです。それをバックアップする手段も豊富で、《払拭》《呪文貫き》擁するこのデッキは、対戦相手の妨害手段をいとも簡単にやりすごすことが可能でした。このデッキがいかにすごかったかというのは、数多くのデッキが《焼却》を専用サイドボードとして用意していたのを見れば一目瞭然でしょう。

 《戦隊の鷹》を意識して《渋面の溶岩使い》が採用されたり、ドローサポートが最終的に《貫く幻視の祭殿》になったりと、デッキの成長過程を見るのも個人的に楽しかったです。
 特にサイドボードの「オフェンシブサイドボード枠」をどれにするかで好みが分かれていて、このリストに採用されている《竜使いののけ者》以外にも、《聖別されたスフィンクス》や《ワームとぐろエンジン》などが一般的でした。今後もモダンでよく見かけるはずのデッキなので、そこでの活躍と成長に期待したいですね。


 そして、9月の最終週に「ゼンディカー」ブロックと「基本セット2011」がローテーション落ちし、「イニストラード」が加入しました。
 長い間環境を支配し続けた《戦隊の鷹》や、青いデッキの顔と呼ばれた《定業》。優良ハンデスの《コジレックの審問》、《強迫》。赤の代名詞こと《稲妻》。《原始のタイタン》最高の相棒であった《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》などが軒並みスタンダードの舞台を去ることに。

 一般的に、新環境というのは様々なデッキが切磋琢磨し、そして時間が経つにつれデッキの強弱がはっきりしてくるものですが、今回はローテーション直後に新環境を牛耳るデッキが現れたのが印象的でした。


10月 「緑単タッチ赤」(第76回

中村 修平
グランプリ・ブリスベン2011 15位[MO] [ARENA]
20 《
1 《
1 《ケッシグの狼の地
2 《墨蛾の生息地

-土地(24)-

4 《極楽鳥
1 《ラノワールのエルフ
4 《ダングローブの長老
4 《真面目な身代わり
1 《最後のトロール、スラーン
1 《酸のスライム
4 《原始のタイタン
1 《ワームとぐろエンジン

-クリーチャー(20)-
4 《不屈の自然
3 《内にいる獣
3 《緑の太陽の頂点
2 《殴打頭蓋
4 《原初の狩人、ガラク

-呪文(16)-
1 《ヴィリジアンの堕落者
1 《最後のトロール、スラーン
1 《解放の樹
1 《ワームとぐろエンジン
2 《古えの遺恨
2 《電弧の痕跡
2 《冒涜の行動
2 《饗宴と飢餓の剣
1 《情け知らずのガラク
1 《解放された者、カーン
1 《墨蛾の生息地

-サイドボード(15)-

 そう、それはつい最近までTier1に位置していた「緑単タッチ赤」です。このデッキのフィニッシャーは《ダングローブの長老》なんですが、このクリーチャーの長所は「呪禁」による対処の難しさと、その圧倒的なまでのサイズにあります。その半面で弱点はと言いますと、回避能力がないことでした。そのため、チャンプブロックで時間を稼がれ、逆転を許すことが多々あるため、この問題はなんとしても克服する必要があります。

 以前であれば《饗宴と飢餓の剣》や《戦争と平和の剣》で「プロテクション」を与えて無理やり突破するのが一般的でしたが、「イニストラード」には、これを改善できる《ケッシグの狼の地》があったのです。

 《ケッシグの狼の地》さえあれば「トランプル」によりチャンプブロックなど許しはしませんし、《原始のタイタン》からサーチできる点もデッキ戦略に合致していて非常にすばらしいですね。

 環境初期とは思えない完成度の高さに加え、今年見事に殿堂入りをはたしたナック(中村 修平)さんがグランプリで使用したこともあり、一時期はMagic Onlineを制圧するほどの勢いで数を増やしていましたが、とあるデッキの登場によりあっという間に王座を陥落させられてしまいました。強いデッキがメタられるのは当然のことですが、このデッキはそれに耐えうる強さや器用さを持ち合わせていなかったのです。


11月 「緑白ビートダウン」(第77回)

Martin Juza
グランプリ・広島2011 優勝[MO] [ARENA]
8 《
4 《平地
4 《ガヴォニーの居住区
4 《剃刀境の茂み
4 《陽花弁の木立ち

-土地(24)-

4 《極楽鳥
4 《アヴァシンの巡礼者
4 《ミラディンの十字軍
4 《刃砦の英雄
2 《刃の接合者
2 《霊誉の僧兵
2 《月皇ミケウス

-クリーチャー(22)-
2 《迫撃鞘
3 《忘却の輪
3 《踏み荒らし
3 《情け知らずのガラク
3 《エルズペス・ティレル

-呪文(14)-
1 《悪鬼の狩人
2 《最後のトロール、スラーン
1 《大修道士、エリシュ・ノーン
2 《帰化
2 《天界の粛清
1 《忘却の輪
2 《饗宴と飢餓の剣
2 《戦争と平和の剣
1 《情け知らずのガラク
1 《原初の狩人、ガラク

-サイドボード(15)-

 このデッキがグランプリ・広島を制した主な理由は、これ以上ないほどまでに《ミラディンの十字軍》がメタゲームにフィットしていたことが挙げられます。
 「緑単タッチ赤」の《ダングローブの長老》や、「青黒コントロール」の《破滅の刃》をものともせず、たった5回のアタックで対戦相手をマットに沈める《ミラディンの十字軍》は、この時期のメタゲームを語る上で欠かせない存在でした。「緑単タッチ赤」はこのクリーチャーの前に手も足も出ずといった様子で、この「緑白ビートダウン」と時を同じくして現れた「青白ビートダウン」の存在も相まって、瞬く間に数を減らしたのは記憶に新しいところ。

 このグランプリ直後に、メタゲームをさらに複雑にさせる「青白イリュージョン(第79回)」も登場し、今年半ばまでの「Caw-Blade」一強状態とは打って変わって、すぐに王座が入れ代わる群雄割拠の時代となりました。この時期に特に際立った活躍を見せていたのは、「緑白ビートダウン」、「青白ビートダウン」、「青白イリュージョン」の3つでしたが、それ以外のデッキも決して弱いなんてことはなく、どのデッキにもチャンスがあるなという印象を持っていました。

 ですが、そんな僕の予想はどこ吹く風で、実際の世界選手権2011の結果はみなさんご存じの通り、彌永君が見事な「赤緑《ケッシグの狼の地》」を組み上げ、予選ラウンド6-0からの優勝と、完全勝利で幕を閉じたのです。


12月 「赤緑《ケッシグの狼の地》」(第80回

彌永 淳也
世界選手権2011 優勝[MO] [ARENA]
6 《
5 《
4 《銅線の地溝
4 《墨蛾の生息地
4 《根縛りの岩山
3 《ケッシグの狼の地

-土地(26)-

1 《極楽鳥
1 《最後のトロール、スラーン
4 《業火のタイタン
4 《原始のタイタン
4 《真面目な身代わり

-クリーチャー(14)-
4 《感電破
2 《小悪魔の遊び
2 《緑の太陽の頂点
1 《ショック
4 《不屈の自然
3 《金屑の嵐
4 《太陽の宝球

-呪文(20)-
4 《秋の帳
2 《古えの遺恨
1 《金屑の嵐
1 《ヴィリジアンの堕落者
2 《最後のトロール、スラーン
1 《内にいる獣
2 《饗宴と飢餓の剣
2 《解放の樹

-サイドボード(15)-

 実は世界選手権2011が行われたのは12月ではなく11月だったりもするのですが、ラストを飾るのにこれ以上相応しいデッキはないと思い、最後にさせていただきました。

 個人的な「The Deck of the Year」を挙げるとすれば、それは「Caw-Blade」になるでしょうが、それに次ぐ、またはそれに並ぶほどの完成度を披露してくれたのが彌永君でした。メタゲームを完全に読み切った勝利は本当にお見事でした。来年もこのデッキを軸にメタゲームがまわるのは間違いないでしょう。僕も一度でいいので、これほどまでにすばらしいデッキを作ってみたいものです。



 さて、それでは、そろそろお別れの時間です。冒頭でも述べたように、みなさんへの感謝の気持ちでいっぱいです。改めまして、今年1年本当にお世話になりました。今後とも、MTG-JPと津村 健志をよろしくお願いいたします!

 それでは、よいお年を!

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