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津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ
第81回:歴史は繰り返す・ユーロブルー再び
読み物
津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ
2011.12.01
第81回:歴史は繰り返す・ユーロブルー再び
こんにちはー。
今週は先週の予告通り、世界選手権で4勝2敗以上の成績を残したデッキの中から、コントロールデッキに焦点を当てていきたいと思います。
少しだけですが、昔話を交えながら世界の強豪が持ち込んだ最新のコントロールデッキを見ていきましょう。
~今現代に蘇る・ユーロブルーの再来~
Andrew Cuneo |
Andrew Cuneo。みなさんはこの名前をご存じでしょうか? 失礼ながら僕はつい最近まで知らなかったのですが、それでは「Gainsay」、または「ユーロブルー」はどうでしょう?
ひとつめの「Gainsay」というのはMagic Online上のアカウント名です。MO界では昔から活躍し続けている超が付くほどの有名人で、おそらくMOをやったことのある人ならば、一度は耳にしたことがあるかと思います。
MOをやったことがないという方は「Gainsay」ではピンとこないかもしれませんが、それでは「ユーロブルー」というデッキはいかがでしょうか?
18 《島》 4 《流砂》 4 《隠れ石》 -土地(26)- 1 《虹のイフリート》 -クリーチャー(1)- |
4 《魔力の乱れ》 4 《対抗呪文》 3 《マナ漏出》 1 《記憶の欠落》 3 《禁止》 2 《雲散霧消》 4 《放逐》 4 《ミューズの囁き》 4 《衝動》 4 《ネビニラルの円盤》 -呪文(33)- |
4 《水流破》 4 《不毛の大地》 4 《シー・スプライト》 2 《転覆》 1 《丸砥石》 -サイドボード(15)- |
マジックの長い歴史を見てみても、ここまで大量のカウンター呪文が入ったリストにはなかなか巡り合えません。豪華21枚ものカウンターで相手の動きを妨害していき、相手が息切れしてきたら《ミューズの囁き》で心行くまでドローをする、実にいやらしいデッキです。クリーチャーも除去耐性のある《虹のイフリート》僅か1枚のみに抑えられており、ゲームに勝つことよりも、相手の邪魔をすること自体が目的なのでは、と疑ってしまいたくなるリストですよね。
この手のデッキは土地の供給が止まってしまうと致命的なので、安定して土地が置けるようにたっぷりと26枚入っていますが、ここで重要になるのが《流砂》と《隠れ石》。
どちらもマナが出るだけではなく、前者は青単にとって貴重な除去の役割を、後者はインスタントタイミングで目覚めるフィニッシャーとして活躍してくれます。これらの強い土地があるおかげで、26枚もの土地が入っていてもマナフラッドに陥りづらいため、より一層デッキとしての完成度が高まっています。
このデッキは13年の時が経過した今、改めて見直してみても素晴らしいリストだと感銘を受けますが、何を隠そうこのデッキの製作に携わった人物こそが、冒頭で登場したAndrew Cuneoさんなんです。
ここ数年間は、現実世界での露出を控えていたCuneoさんなんですが、前述の通りMOの世界では「Gainsay」としてその名を轟かせていました。ほとんどいつでも青いデッキを使っている典型的なコントロール志向のプレイヤーで、アカウント名である《反論》も青を連想させるカードですよね。
そんなCuneoさんが世界選手権に持ち込んだデッキは、もちろんのこと青いコントロールデッキでした。それもそんじょそこらじゃお目にかかることのできない、実に珍しいリストです。
「青白コントロール」
8 《島》 6 《平地》 4 《氷河の城砦》 4 《金属海の沿岸》 3 《幽霊街》 2 《埋没した廃墟》 -土地(27)- 2 《瞬唱の魔道士》 -クリーチャー(2)- |
4 《思案》 4 《マナ漏出》 2 《否認》 4 《熟慮》 3 《漸増爆弾》 3 《雲散霧消》 4 《審判の日》 2 《青の太陽の頂点》 2 《ギデオン・ジュラ》 1 《エルズペス・ティレル》 2 《解放された者、カーン》 -呪文(31)- |
1 《幻影の像》 1 《大修道士、エリシュ・ノーン》 1 《不死の霊薬》 3 《天界の粛清》 1 《瞬間凍結》 1 《否認》 1 《漸増爆弾》 1 《四肢切断》 3 《機を見た援軍》 1 《魔女封じの宝珠》 1 《白の太陽の頂点》 -サイドボード(15)- |
Cuneoさんのデッキ構成は、勝ち手段をプレインズウォーカーに頼ったほぼノンクリーチャーのデッキ。除去の飛び交うスタンダードにおいて、クリーチャーを入れない戦略は、相手の除去カードの多くを無駄にできるため、非常に有効な手段です。一応《瞬唱の魔道士》は入っていますが、これはフィニッシャーというよりはソーサリーとインスタントを使いまわすことが主な目的なので、除去を撃たれても痛くも痒くもありません。
フィニッシャーとして一般的な《聖別されたスフィンクス》などを敢えて入れないことで、相手のクリーチャー除去を腐らせることが可能なんですね。
この戦略は「ユーロブルー」に通ずるものがあり、Cuneoさんが長い年月をかけて培ってきた技術の結晶と言えます。
土地構成にもそれは顕著に表れており、《ケッシグの狼の地》や《ムーアランドの憑依地》を対処できる《幽霊街》、《漸増爆弾》を回収できる《埋没した廃墟》など、できるだけマナフラッドを回避できるように工夫されています。
《埋没した廃墟》は《漸増爆弾》を回収するだけでもそこそこ強いですが、このカードが真価を発揮するのは対「青黒コントロール」戦でのこと。コントロール対決では、「青黒コントロール」の《ネファリアの溺墓》の存在がネックとなるのですが、《埋没した廃墟》とサイドボードの《不死の霊薬》を入れることで、これに耐性を付けることが可能です。
《埋没した廃墟》さえ引いていれば、相手の《ネファリアの溺墓》で《不死の霊薬》が落ちれば回収できるので、ライブラリーをリカバーできるという仕組みですね。
他のパーツにも、細かな気配りの行き届いたカード選択が目を引きます。ビートダウンデッキに強い《審判の日》は当然の4枚採用で、さらに「青白イリュージョン」などに効果的な《漸増爆弾》も3枚と、現在のメタゲームを考慮して、クリーチャーデッキを意識した構成になっていますね。
カウンター呪文も《雲散霧消》を4枚にするのではなく、軽さを重視した《否認》を入れるなど、メタゲームを上手く読み切った成果が見受けられます。
《否認》は対コントロール戦での強さはもちろんのことながら、一見効果の薄そうなビートダウンデッキ相手にも完全な無駄カードにならないのが高評価の要因です。「緑白ビートダウン」には《情け知らずのガラク》と《エルズペス・ティレル》が入っていますし、「青白ビートダウン」には《戦争と平和の剣》などの各種剣だったり、《清浄の名誉》、《天使の運命》がありますからね。
それと「青黒コントロール」とは違い、《審判の日》というクリーチャーに対する絶対的な切り札があることで、クリーチャーよりもそれ以外のスペルの方が致命傷になりやすいことも、《否認》のメイン採用を後押ししています。
そして個人的にコントロールを使うにあたって、最も重要になるのはドローサポートをどれくらい入れるかという問題。《禁忌の錬金術》を使えない「青白コントロール」は、一般的には《熟慮》しか採用していないことが多いのですが、Cuneoさんはそこに《思案》と《青の太陽の頂点》を加えています。《青の太陽の頂点》は、他のリストでもたまに見かけるカードですが、《思案》の採用には驚きました。
ライブラリートップ3枚の順番を変えられると言えど、結局は1枚しかドローが進まない《思案》は、お世辞にもコントロール向けのカードとは言えません。とりわけ土地が27枚も入ったこのようなリストであれば、《思案》や《熟慮》のようにライブラリーを掘れる枚数が少ないカードしかないと、マナフラッドと言う名の息切れを起こす可能性が非常に高いです。《霧深い雨林》のようなシャッフル手段があれば、必要牌のみを引いてシャッフルという動きができますが、残念ながら今のスタンダードには有能なシャッフル手段はほとんどありません。
しかしCuneoさんは、《思案》が持つその欠点を、フィニッシャーの増量で補おうとしています。特に1枚でゲームに勝てる《解放された者、カーン》と《青の太陽の頂点》を2枚ずつ採用したのは実に絶妙なバランスで、こうすることで《思案》は、序盤はデッキの潤滑油として、中盤以降はフィニッシャーを探すカードとして機能します。
もしかすると、単純に他に良いドローサポートがないために苦渋の決断という可能性もありますが、何にせよ《思案》入りの独自のリストで全勝を果たしたのは見事としか言いようがないですね。
ドローサポートをどうすべきかという問題は、多くのプレイヤーが取り組んでおり、その中には「青白コントロール」に《禁忌の錬金術》をタッチしたこんなバージョンもあります。
「エスパー(青白黒)コントロール」
4 《島》 4 《平地》 1 《沼》 4 《氷河の城砦》 4 《金属海の沿岸》 3 《水没した地下墓地》 2 《闇滑りの岸》 2 《孤立した礼拝堂》 3 《幽霊街》 -土地(27)- 3 《瞬唱の魔道士》 2 《聖別されたスフィンクス》 1 《大修道士、エリシュ・ノーン》 -クリーチャー(6)- |
4 《破滅の刃》 4 《マナ漏出》 4 《熟慮》 3 《雲散霧消》 4 《禁忌の錬金術》 2 《忘却の輪》 3 《審判の日》 2 《白の太陽の頂点》 1 《ギデオン・ジュラ》 -呪文(27)- |
3 《幻影の像》 3 《外科的摘出》 1 《否認》 2 《漸増爆弾》 4 《機を見た援軍》 1 《審判の日》 1 《幽霊街》 -サイドボード(15)- |
こちらは黒を足すことで、《禁忌の錬金術》という優良ドローサポートの運用が可能となっています。ついでに、従来の「青白コントロール」が苦手とする《墨蛾の生息地》にも対処可能な、環境内でも最高クラスの単体除去である《破滅の刃》が使えるのもこのアーキタイプの長所です。
それと、Neemanさんがメインから採用している《白の太陽の頂点》は今後に要注目の1枚で、インスタントタイミングでフィニッシャーが出せるのはどんな相手にも役に立ちます。今回の本題とは逸れますが、コントロールデッキに限らず、白を使うデッキならばぜひ検討してみてください。
個人的には今回紹介するデッキの中で一番好きなリストがこの「エスパー(青白黒)コントロール」で、安定感のある動きが魅力です。以前3色以上のデッキは、土地構成が厳しいと指摘しましたが、このデッキは「太陽拳」とは違い、黒を極力薄くするように作られているため、マナベースも幾分かマシになっていますね。
続いては「《捨て身の狂乱》に惚れ込んだ」という「StarCityGames」メンバー謹製のデッキを見ていきましょう。
「青白赤コントロール」
4 《平地》 3 《島》 1 《山》 4 《金属海の沿岸》 3 《氷河の城砦》 4 《硫黄の滝》 3 《断崖の避難所》 1 《ムーアランドの憑依地》 1 《幽霊街》 1 《ゆらめく岩屋》 -土地(25)- 4 《瞬唱の魔道士》 3 《刃の接合者》 2 《霜のタイタン》 -クリーチャー(9)- |
4 《はらわた撃ち》 2 《旅行者の護符》 2 《思案》 4 《捨て身の狂乱》 3 《マナ漏出》 1 《否認》 1 《熟慮》 2 《四肢切断》 3 《忘却の輪》 1 《機を見た援軍》 1 《白の太陽の頂点》 2 《ギデオン・ジュラ》 -呪文(26)- |
2 《幻影の像》 2 《先駆のゴーレム》 1 《大修道士、エリシュ・ノーン》 2 《天界の粛清》 1 《神への捧げ物》 1 《否認》 2 《機を見た援軍》 2 《雲散霧消》 1 《饗宴と飢餓の剣》 1 《戦争と平和の剣》 -サイドボード(15)- |
黒が《禁忌の錬金術》なら、赤は《捨て身の狂乱》。こう呼ばれる日がくるだろうと思えるくらいに、《捨て身の狂乱》の使い勝手の良さは際立っています。
手札の質を向上させるのにはうってつけの1枚で、唯一の懸念材料であるランダムディスカードも、手札が多い状況であればそんなに気になりませんし、Patrick Chapin曰く「手札が充実してる時はキャストするのを待てばいいだけ」とのこと。
他に赤をタッチする意義としては、《はらわた撃ち》や、必要とあれば《感電破》のような軽量除去を積めるところです。世界選手権当時は、「緑白ビートダウン」「青白イリュージョン」「赤単」が非常に多かったので、軽量火力は《破滅の刃》よりも優秀な場面が数多くあったことでしょう。
依然としてそれらビートダウンデッキは多いですが、やはり世界選手権の影響を受けて、「赤緑《ケッシグの狼の地》」とそれをメタったカウンター多めのコントロールデッキが増加傾向にあるので、今後はこのアプローチがベストかどうかは疑問が残りますが、これもまた、Cuneoさんと同じく画期的で面白い構築ですね。
「クローシス(青黒赤)コントロール」
5 《山》 3 《沼》 1 《島》 4 《黒割れの崖》 1 《竜髑髏の山頂》 4 《闇滑りの岸》 2 《水没した地下墓地》 4 《硫黄の滝》 1 《銅線の地溝》 1 《ゆらめく岩屋》 -土地(26)- 3 《瞬唱の魔道士》 3 《オリヴィア・ヴォルダーレン》 2 《先駆のゴーレム》 1 《業火のタイタン》 1 《ワームとぐろエンジン》 -クリーチャー(10)- |
2 《感電破》 4 《捨て身の狂乱》 3 《マナ漏出》 2 《破滅の刃》 1 《喉首狙い》 1 《漸増爆弾》 4 《禁忌の錬金術》 3 《金屑の嵐》 1 《小悪魔の遊び》 3 《ヴェールのリリアナ》 -呪文(24)- |
1 《ワームとぐろエンジン》 2 《外科的摘出》 1 《感電破》 1 《霊炎》 2 《古えの遺恨》 1 《瞬間凍結》 1 《マナ漏出》 1 《否認》 1 《雲散霧消》 1 《金屑の嵐》 1 《ミミックの大桶》 2 《死の支配の呪い》 -サイドボード(15)- |
最後を飾るのは、Patrick Chapinの「クローシス(青黒赤)コントロール」です。
「StarCityGames」の面々が、「環境内にある強いカードを詰め込んだ」と豪語するこのデッキは、嘘偽りなく強力なカードのオンパレードで、それだけにプレイするのが非常に楽しいデッキに仕上がっています。
ドローサポートの役割を、《捨て身の狂乱》と《禁忌の錬金術》という環境を代表する「フラッシュバック」コンビが務めることで、息切れを起こしづらく、なおかつ「フラッシュバック」持ちのカードは《ヴェールのリリアナ》の[+1]能力と相性が良いので、その能力を使いやすくするという付加価値もあります。
除去のスロットには《感電破》《破滅の刃》《金屑の嵐》と、赤と黒を代表するカードが名を連ねていて、これらの軽量除去満載プランは、色こそ違えど、構築理念は彌永君の「赤緑《ケッシグの狼の地》」と似通ったものなので、このデッキも例に漏れずビートダウンデッキにとても強くできています。特に対「青白イリュージョン」はやりすぎと思えるくらいに相性が良いですね。
ここまでのカード選択だけを見ても、十分に禍々しいデッキですが、このデッキ最大のチャームポイントは何と言ってもクリーチャー選択にあるでしょう。除去、カウンターにドローと、何でもござれな《瞬唱の魔道士》。《稲妻》の抜けた穴を見逃さなかった《先駆のゴーレム》。ビートダウンに制裁を加える《業火のタイタン》&《ワームとぐろエンジン》は、このデッキに限らずスタンダードを代表するカード。
しかし、彼らは所詮脇役にすぎず、新の主役は3枚も搭載された《オリヴィア・ヴォルダーレン》さんに他なりません。
実際に使ってみると想像以上に強いカードで、生き残ればそれだけであっという間に戦場を支配できます。《破滅の刃》や《感電破》で死なないのもポイントが高いですね。
今週は以上になります。今週は学業の都合もあり、自分でも納得のいかない内容になってしまって非常に心苦しく思っています。この記事が掲載される頃には、おそらく時間に余裕ができるはずなので、来週からは心機一転、今まで以上に頑張らせていただきたいと思います。
もしもこの記事が、みなさんがコントロールデッキを使おうと思えるきっかけにでもなれば幸いです。
それでは、また来週ー!
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