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戦略記事

津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ

第73回:新環境の主役を探せ!ビートダウン編

読み物

津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ

2011.10.06

第73回:新環境の主役を探せ!ビートダウン編


 こんにちはー。
 先週末9月30日はイニストラードの発売日ということで、土日には早くも各地で新環境の大会が行われたようです。
 先週の記事は、メタゲームをあまり気にせずに「《出産の殻》」デッキの特集をしただけだったので、今週から2週にわたって環境初期のメタゲームをチェックしつつ、様々なデッキリストをお届けしたいと思います。

 今週追いかけるのは以下のふたつのトーナメントです。

 StarCityGames オープントーナメント・インディアナポリス

 第304回PWC」(デッキリスト掲載「ストライクと大会」)

 StarCityGamesの結果で目を引いたのは、「赤単」、「白単《鍛えられた鋼》」、「太陽拳(青白黒コントロール)」のみっつで、PWCの方は「緑単」の多さが気になりましたね。
 私事ではありますが、「《出産の殻》」デッキの少なさに涙で前が見えなくなりました...。
 まあそれは置いておくとして、今週はこの中からビートダウンに分類されるデッキをお届けしたいと思います。トップを飾るのは、旧環境からスタンダードを牽引するこのデッキ。


「赤単」

David Doberne
「Starcitygames・オープントーナメント・インディアナポリス」優勝 [MO] [ARENA]
23 《

-土地(23)-

4 《流城の貴族
3 《渋面の溶岩使い
2 《ゴブリンの付け火屋
2 《トゲ撃ちの古老
4 《嵐血の狂戦士
3 《チャンドラのフェニックス
2 《オキシド峠の英雄

-クリーチャー(20)-
3 《電弧の痕跡
3 《火葬
4 《硫黄の流弾
4 《燃え上がる憤怒の祭殿
3 《槌のコス

-呪文(17)-
2 《危険なマイア
4 《ヴァルショクの難民
3 《躁の蛮人
2 《オキシド峠の英雄
1 《電弧の痕跡
1 《裏切りの血
1 《戦争と平和の剣
1 《

-サイドボード(15)-

 言わずと知れた「赤単」。第67回などで紹介してきたものには、火力の多い「バーン型」と、クリーチャーの多い「ゴブリン型」がありましたが、このリストはちょうどその中間の「スライ型」に分類されます。
 《ゴブリンの先達》《燃えさし運び》、《稲妻》《焼尽の猛火》《よろめきショック》、《ぐらつく峰》などがローテーション落ちしたために、大幅な弱体化を余儀なくされましたが、イニストラードでいくつかのカードを得たことで、見事に新環境でも勝ち頭に名を連ねています。

 新加入したカードの中で、特筆すべきは《流城の貴族》でしょう。
 《炎歩スリス》もびっくりな性能のこのクリーチャーは、今後の赤いデッキを支えていく強力な1マナ域です。一見おまけ程度にしか見えない「人間にブロックされない」能力も、意外なほど「人間」クリーチャーの多い環境なので、想像以上の活躍を見せてくれます。下で紹介する「緑白ビートダウン」デッキなどはその最たる例で、デッキを作る段階で、強いクリーチャーを入れていくと自然とデッキが「人間」だらけになってしまうので、《流城の貴族》には手を焼くことになりそうです。

 《流城の貴族》以外にも、《渋面の溶岩使い》や《トゲ撃ちの古老》、そして《電弧の痕跡》と、「人間」のような小粒なクリーチャーを多様するデッキ相手に強いカードが多いのも、最近の赤のトレンドと言えます。

 このリストには入っていませんが、それらに加え《はらわた撃ち》まで投入して、タフネス1クリーチャーへのマークをさらに厳しくしているものを見受けられました。《はらわた撃ち》はただタフネス1に強いだけでなく、2ターン目にファイレクシア・マナでキャストすることにより、0マナで「狂喜」の条件を達成することができるので、《嵐血の狂戦士》とも相性がいいですね。

 クリーチャーに関して簡潔にまとめると、不満の少ない精鋭揃いと言えますが、では赤の最大の魅力である火力はどうでしょう?

 残念ながら、ローテーションの影響はあまりにも色濃く、火力は大幅に弱くなっています。新環境になって火力過多の「バーン型」よりも、クリーチャー過多の「スライ型」が増えたのは、主に火力の弱体化が原因でしょう。

 しかしながら、《硫黄の流弾》の登場によって、それも幾分か緩和されたように思えます。
 「陰鬱」条件を達成していなければ、《稲妻》を返して!と嘆きたくなるような性能でしかありませんが、「陰鬱」してしまえば3マナで5点と、あの《黒焦げ》や《炎の投げ槍》をも凌ぐ優良火力になります。

 「陰鬱」をスムーズに達成するために、自殺できる《焼炉の悪獣》を採用しているリストもありますね。個人的な見解としては、「スライ型」であれば、適当にアタックを繰り返すだけでクリーチャーが墓地に落ちるので、《焼炉の悪獣》まで入れる必要があるのかどうかは現状把握しかねていますが、1マナ域の候補には挙がってしかるべき1枚でしょう。

 火力の弱体化というトピックは大きなものではありますが、《チャンドラのフェニックス》《燃え上がる憤怒の祭殿》という2枚看板はもちろんのこと健在ですし、コントロールデッキの多いメタゲームであれば、《槌のコス》も以前のような輝きを取り戻すでしょう。環境が変われど、《》を見かける機会は一向に減りそうにありませんね。

 このリストのサイドボードに《ヴァルショクの難民》が4枚採用されているのは、ミラーマッチの多さを見越してのことでしょうし、《危険なマイア》の採用理由も、ミラーマッチの《ヴァルショクの難民》対策という意味合いが強いでしょう。
 更にこのリストには《戦争と平和の剣》までもが入っているので、一般的なものよりも、ミラーマッチを強く意識していることが分かります。

 他のサイドカードは、比較的受けの広いカードで構成されていますね。

 「《出産の殻》」デッキのように、軽いクリーチャーを多用したデッキや、《機を見た援軍》に強い《オキシド峠の英雄》。手軽に1対2の交換ができる《電弧の痕跡》。

 《出産の殻》《戦争と平和の剣》、《燃え上がる憤怒の祭殿》と、環境に蔓延るアーティファクトを目の敵にした《躁の蛮人》。《原始のタイタン》を初めとした、デカブツキラーの《裏切りの血》と言った具合ですね。
 サイドの《》は、サイド後に《オキシド峠の英雄》を追加する場合や、土地の伸び方が勝敗に直結するミラーマッチで活躍するでしょう。


 「赤単」の解説は以上になるのですが、新環境で最も注目を集めるビートダウンデッキがもうひとつあります。それは日本選手権を制したアーキタイプでもある「白単《鍛えられた鋼》」です。


「白単《鍛えられた鋼》」

Ari Lax
「Starcitygames・オープントーナメント・インディアナポリス」7位 [MO] [ARENA]
17 《平地
4 《墨蛾の生息地

-土地(21)-

4 《メムナイト
4 《信号の邪魔者
4 《大霊堂のスカージ
3 《脊柱の飛行機械
4 《刃砦の英雄
1 《月皇ミケウス

-クリーチャー(20)-
3 《オパールのモックス
4 《急送
4 《きらめく鷹の偶像
2 《忠実な軍勢の祭殿
2 《四肢切断
4 《鍛えられた鋼

-呪文(19)-
3 《ファイレクシアの破棄者
3 《呪文滑り
1 《月皇ミケウス
2 《存在の破棄
2 《忘却の輪
2 《機を見た援軍
1 《忠実な軍勢の祭殿
1 《ギデオン・ジュラ

-サイドボード(15)-

 ミラディンの傷跡ブロック構築や、旧環境のスタンダードでも猛威を振るっていたのがこのデッキ。デッキに含まれる大量のアーティファクト・クリーチャーを、歴代でも屈指の全体強化エンチャントである《鍛えられた鋼》で後押しするデッキです。

 このデッキがローテーションによって失ったものは《羽ばたき飛行機械》と《鋼の監視者》の2枚なのですが、これによって爆発力と安定感が著しく低下してしまいました。

 その枠を埋めるべく新たに加わったのが、《刃砦の英雄》と《月皇ミケウス》で、ローテーション前と比べると、マナカーブこそ高くなってしまったものの、その分単体のカードパワーも上がっていますね。
 《刃砦の英雄》の破壊力は、すでにみなさんご存じの通りですし、使用法もただ殴るだけなので、解説は不要でしょう。

 新戦力の《月皇ミケウス》も《鋼の監視者》のような役割を担ってくれます。
 《オパールのモックス》のおかげで、早ければ1ターン目に登場するこいつは、対戦相手からしてみれば脅威以外の何者でもないでしょう。
 土地の少ないこのデッキだと、Xは1か2でキャストすることも多いかと思われますが、それでも十分な活躍を見込めるはずです。仮にXが3を超えるようなことがあれば祭りですね。
 《月皇ミケウス》はこのデッキに限らず、クリーチャーが並ぶデッキなら採用する価値のあるものだと思うので、ぜひご一考を。

 《月皇ミケウス》の話はこれくらいにしておくとして、ここからはこのデッキの課題についてお話ししましょう。

 このデッキは、単純なデッキパワーだけで言えば、間違いなくTier1か2の上位に位置するデッキです。
 しかしながら現在は《出産の殻》を筆頭に、アーティファクトだらけのメタゲームなので、《古えの遺恨》や《忍び寄る腐食》などが多くのデッキで使われており、アーティファクトを主軸にするこのデッキにとっては、世知辛い世の中になっています。

 ですが、このデッキには、《ヴィリジアンの堕落者》や《酸のスライム》のような単体除去ならば、なんなく乗り越えるデッキパワーがあります。
 そのため、いつの日かメタゲームが緩くなった時期がくれば、このデッキにも必ずチャンスが訪れるでしょう。今は環境初期かつこのデッキが目立っているので、《忍び寄る腐食》もよく見かけますが、もしも《忍び寄る腐食》が減るようであれば、《不退転の大天使》なんかで対抗できなくはないですしね。

 このデッキを使う際には、どれくらいメタられているのかをしっかりと把握したうえで使うように心掛け、また、使わないにしろ常に警戒はしておきたいデッキです。


 ここまではみなさんもよくご存じのアーキタイプふたつをご紹介したので、次は日本謹製のデッキをご紹介しましょう。


「緑単」

イシイ タイスケ
第304回PWCin新宿 7位(5-1-1)[MO] [ARENA]
24 《

-土地(24)-

4 《極楽鳥
4 《ラノワールのエルフ
3 《肌変わり
4 《ダングローブの長老
1 《酸のスライム
4 《始源のハイドラ

-クリーチャー(20)-
2 《転倒の磁石
3 《茨潰し
2 《饗宴と飢餓の剣
1 《肉体と精神の剣
1 《戦争と平和の剣
3 《情け知らずのガラク
4 《原初の狩人、ガラク

-呪文(16)-
3 《解放の樹
2 《帰化
2 《内にいる獣
1 《転倒の磁石
4 《忍び寄る腐食
1 《戦争と平和の剣
2 《解放された者、カーン

-サイドボード(15)-

 第64回の「今週の一押し」で紹介した「緑単」の新環境対応バージョンがこちらです。
 このデッキの使用者であるイシイさん、もといマンモスさんは、MOでこのデッキを使って勝ちまくっていたプレイヤーですので、新環境にもすぐに対応できたとのこと。1つのデッキをひたすらに使い続けると、そのアーキタイプのベストな形が、環境が変わってもすぐに分かるというメリットがありますね。

 このデッキの主軸である《ダングローブの長老》はありえないほどにデカく、これだけでゲームに勝てることが多々あります。
 課題である回避能力が無いことも、各種「剣」でカバーできますし、なんといっても《原初の狩人、ガラク》の-3能力との相性の良さは特筆に値します。

 ただし、旧環境であれば《ダングローブの長老》→《原初の狩人、ガラク》でドロー→《圧倒する暴走》でフィニッシュ、とこれ以上ない決め手があったのですが、今回のローテーションで《圧倒する暴走》はなくなってしまいました。そのため、そのフィニッシュの部分をどうするか、というのはこのデッキの新たな課題と言えます。

 マンモスさんは、「剣」や《転倒の磁石》で道をこじ開ける戦略に加え、《肌変わり》と《始源のハイドラ》を追加のフィニッシャーにしていますね。しかし《圧倒する暴走》は本当に強いカードだったので、完全な代用品を見つけることはできないだろう、とマンモスさん本人も仰ってました。
 そんな中、比較的《圧倒する暴走》に近いと思われる理想的なアプローチを、すでに何名かの方が実践し、結果を残しています。


「緑単タッチ赤」

イトウ モトアキ
第304回PWCin新宿 3位(6-1)[MO] [ARENA]
21 《
1 《
1 《根縛りの岩山
1 《ケッシグの狼の地

-土地(24)-

4 《極楽鳥
1 《ラノワールのエルフ
4 《ダングローブの長老
4 《真面目な身代わり
1 《最後のトロール、スラーン
2 《酸のスライム
2 《原始のタイタン

-クリーチャー(18)-
4 《不屈の自然
4 《内にいる獣
3 《緑の太陽の頂点
1 《赤の太陽の頂点
3 《殴打頭蓋
3 《原初の狩人、ガラク

-呪文(18)-
2 《解放の樹
3 《電弧の痕跡
2 《古えの遺恨
2 《帰化
2 《饗宴と飢餓の剣
2 《情け知らずのガラク
1 《解放された者、カーン
1 《ケッシグの狼の地

-サイドボード(15)-

 PWCの長、AKKA(相澤 恵司)さんが生み出したのは、《原始のタイタン》から《ケッシグの狼の地》を導く画期的なシステムでした。
 《原始のタイタン》で《》と《ケッシグの狼の地》を持ってくるだけなので、デッキの動きを阻害することなく組み込めるのが秀逸です。これさえあれば、《ダングローブの長老》はさらに手の付けられない回避能力付きのクリーチャーへと昇華します。

 《原始のタイタン》は2枚しか入っていませんが、そこは(禁止適用前の)モダンやレガシーよろしく、《緑の太陽の頂点》がここぞというタイミングで運んできてくれるというわけですね。
 上の「緑単」の冒頭でも触れたように、このデッキは《ダングローブの長老》にかなり依存したデッキなので、それを水増しできるという点でも《緑の太陽の頂点》は良いチョイスだと思います。

 他にも赤を足すことで、《電弧の痕跡》や《古えの遺恨》を使えるといった付加価値もありますし、このアプローチにも要注目ですね。

 それと、他に赤の注目サイドカードとして、《冒涜の行動》があるようです。これは「緑白ビートダウン」のようなトークンが大量に出るデッキ相手に有効な対策だそうで、展開次第では3~4マナでのキャストも可能だとか。トークン系のデッキが流行るようであれば、ぜひ検討してみてください。

 このリストで唯一残念に感じたのは、《原初の狩人、ガラク》が3枚なことでしょうか。個人的には、このカードはデッキの核だと思っているので、ぜひとも4枚採用したいですね。《真面目な身代わり》か《殴打頭蓋》1枚を入れ替えるといいでしょう。


 最後は、「人間」クリーチャーをフィーチャーしたこのデッキを。


「緑白ビートダウン」

イシザカ アキラ
第304回PWCin新宿 2位(6-1)[MO] [ARENA]
7 《
5 《平地
4 《剃刀境の茂み
4 《陽花弁の木立ち
4 《ガヴォニーの居住区

-土地(24)-

4 《極楽鳥
4 《アヴァシンの巡礼者
4 《肌変わり
4 《アヴァブルックの町長
4 《ミラディンの十字軍
4 《悪鬼の狩人
4 《刃砦の英雄

-クリーチャー(28)-
4 《天使の運命
4 《情け知らずのガラク

-呪文(8)-
3 《呪文滑り
2 《最後のトロール、スラーン
2 《天界の粛清
4 《忘却の輪
1 《迫り来る復興
3 《戦争と平和の剣

-サイドボード(15)-

 先週紹介した「緑白《出産の殻》」デッキから、《出産の殻》要素を抜いたような構成が、流行の兆しを見せています。僕の大好きな《天使の監視者》も《出産の殻》も入っていませんが、4枚差しの多い僕好みのリストですね。

 緑白というカラーリング上、黙って殴る男らしいリストに仕上がっていますが、お洒落ポイントとして《天使の運命》と《情け知らずのガラク》が入っています。これらがあれば、全体除去からも容易に立て直せるでしょうし、《情け知らずのガラク》は、このデッキが苦手とする《渋面の溶岩使い》や《流城の貴族》を除去できて便利ですね。

 全体除去対策、という意味では、《悪鬼の狩人》もそれに近い動きができます。自分の場にすでに十分すぎるほどのクロックがあるけれども、全体除去を撃たれたら負けそう...そんな時は《悪鬼の狩人》で自分のクリーチャーを隠しておきましょう。こうすれば仮に《審判の日》を撃たれても、次のターンには異世界より舞い戻ったクリーチャーで攻撃を続行できます。

 それと《天使の運命》は、MO上で徐々に値上がりしている注目株で、2~3週間ほど前に僕が買った時は2チケでしたが、今ではその4倍くらいの値段がついているそうです。今後はこの手のデッキに必須のカードになるかもしれませんね。

 最後に、この系統のデッキは《渋面の溶岩使い》《流城の貴族》《電弧の痕跡》擁する「赤単」系のデッキを苦手としています。そのため、イシザカさんのリストのように、サイドボードにはしっかりとした赤対策を施すようにしましょう。



 今週は以上になります。駆け足でのデッキ紹介になってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?

 来週はコントロールデッキの特集をしようと思っています。日本の大会からも積極的にデッキをピックアップしていこうと思っているので、みなさんの力作に期待しております!

 それでは、また来週ー!

イニストラード

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