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Savor the Flavor
音素、それはフレイバーの分子
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Savor the Flavor
音素、それはフレイバーの分子
Adam Lee / Translated by Mayuko Wakatsuki / Translation-supervised by Yohei Mori
2011年12月14日
我々全員、こんな日々を過ごしてきた。
《古えの遺恨》 アート:Ryan Yee |
何人かはこんな日々を過ごしてきたかもしれない。
《研究室の偏執狂》 アート:Jason Felix |
そして、こんな日々を過ごしてきた。
《堀葬の儀式》 アート:Ryan Pancoast |
私はこれらの日々全てをイニストラード――大喜びから恐怖の深淵にまで跨るゴシックホラー世界――のドライブ中、ずっと経験してきたと考えている。セットの最初の礎石を置いてから2年ほどしか経っていないにもかかわらず、私の頭の中には永遠とも思える年月の伝承が詰め込まれているようだ。だがイニストラードは私の心の中で常に特別な場所にいるだろう。それは私が初めから完成まで見てきた本当に最初のセットだからだ。一部始終、ジャムの猟犬からゼリービーンズまで。幸せな時間だ。
セットは多くの段階を通過する。コンセプト、デザイン、開発、クリエイティブな処遇。それらの構成要素はそれぞれ、もっと小さな部分に分けることができる。このフラッシュバック週間で私がちょっとだけ探検したいと思う部分は、あらゆるカードセットの背景にあるものだ。それは世界全体の雰囲気に緻密な影響を与えるものの一つだ。その材料は、音の響きだ。
我々がイニストラードの世界設計を始めた時は、ミラディンの傷跡、ミラディン包囲戦、そして新たなるファイレクシアのセットを仕上げている真っ最中だった。その頃「新たなるファイレクシア」の名前はとても厳重に秘密として守られ、私はその名前をつぶやいてしまう、もしくはタイプしてしまうことさえも非常に怖れていた(どうも、それはクトゥルー的なパワーをもって私を圧倒していたらしい)。とにかく、我々はミラディンの苦境からゴシックホラーの新たな世界へと転換し、この新しいシチュー鍋で何を作るべきか思案に暮れた。
この奇妙なギアチェンジはいつものことだ。一つの世界との繋がりを切って別のものに繋ぐ時は、仕事を行ったり来たりして、一つのセットから次へと受け継ぐものがないことを確かにする。それぞれの世界には明確な独自性と雰囲気が必要であり、それを達成する一つの方法は、音がどう響くかによる。世界は統一性があること、そしてプレイヤー達に没頭してもらえるように、信頼できるものである必要がある。優雅さに欠ける、もしくは奇妙に際立つ響きは、我々が狙いをつけているようなよどみない没入体験と食い違う。そのためクリエイティブ・チームマネージャーのブレイディ・ドマーマスは我々に、イニストラードの音声要素はプロシアと古ドイツ語、オランダ語、そしてフランス語を混ぜたようなものにするべきであると指示した。それとともに、我々全員は次元の骨格を構築する作業に入った。
その頃、様々な名前が飛び交っていた。イニストラードには、私達が遊んでいた名前がいくらでもあったかもしれない。マジックのアートディレクター、ジェレミー・ジャーヴィスはそれを「スケルタウン」と呼ぶべきだと言い、それはまた私のお気に入りだった。コンセプトから移り変わり、カードの仕事が始められた。私は「イニストラード」の名前が最終的にチーム内で決定し、マジックのセット名として刻まれたのがいつだったかを正確には思い出せない。だが名前が決まったならすぐに、我々全員は世界が固まったことを感じた。それほど長い間、名前のないセットの仕事をするという経験は妙なものだった。私にとっては、我々がまだ「Shake」と呼んでいたこの次元との繋がりが切られた感覚だった。そのコードネームは私に、どんなゴシックホラーの雰囲気も喚起させてくれない。だから私はその感覚を覚えている。一度我々がその名前を手にしたら、この深い独自性はほとんど即座に「ああ! これはイニストラードだ。さあこれについて書くぞ」という感覚となった。
名前の中には何がある? どっしりとした、そして心が作り出す独自性だ。明らかに。
我々がその口で発音した響きは力強いと私は思う。
そこで私が最近受け取ったこのお便りを持ち出そう。
アダムへ
ラヴニカブロック以来、私が不思議に思っている事があります。その疑問はイニストラードが発売してからもっとずっと顕著なものになりました。
ラヴニカはギルド名、人々、そしてローカルな物事の名前にスラヴ的なルーツを隠そうとしていませんでした。同じことがイニストラードにも当てはまります。その中央ヨーロッパという現実世界のルーツは、本物のホラーの雰囲気を高めるために意図されたと私は推測します。
ですが、私はどうやってクリエイティブ・チームが名前を選ぶのかを不思議に思っています、一貫した道筋は存在しないと思われるので。例えば、「ガヴォニー」「ネファリア」という名前は明らかにサクソニー(訳注:Saxony、英語でドイツ北部を指す)やウエストファリア(訳注:Westphalia、英語でドイツ北西部を指す)的ですが、ドイツに住んでいる人にとっては意味をなさないでしょう。これらの地域はドイツではザクセン/ Sachsen、ヴェストファーレン/ Westfalenと呼ばれているのですから。「geist」(霊、スピリット)のような単語はドイツ語からそのまま。「Kruin」(樹冠)や「graf」(墓所)はオランダ語からそのまま。そして「Ulvenwald」はたぶん、スカンジナビア言語とドイツ語の奇妙なハイブリッド(勿論、それは「狼の森」を意味します)でしょう。最後に、いくつかの奇妙な、「マルコフ」のようなものがあります。
ですので、私の質問をまとめます。他の言語から直接名前を採るのか(そして何故特定の言語を選ぶのか選ばないのか)、その言語を英語に翻訳して使用するのか、もしくは掛け合わせて単語を作るのか、もっともらしく意味をなすようなものを完璧に発案するのか、それらはどのように決められるのでしょうか?
前もってお礼を申し上げます。
アントン・Vより
私の返事はこうだ。
アントンへ
お便りをありがとう! 我々と同じくらい世界の真価を本気で認めているマジックプレイヤーがいてくれて、とても嬉しく思う。
質問に答えよう。我々は世界構築を全体の雰囲気、その世界がどういう響きでどんな感じなのかということから始める。イニストラードの場合、我々はゴシックホラーの雰囲気を求めた、だが明白な決まり文句は無しで。そこで我々は主にプロシアやドイツを語根として世界を着飾らせ、オランダとスカンジナビアからいくつかの要素を組み入れることを選んだ。君が指摘してくれた通りだ。
我々が世界を部分部分に(この場合、州に)分解すると、我々はどんな「音」が良いのかという感触を掴む。我々は最終的にカードに使われる単語を考え出す必要がある。だからあまりにもかけ離れたものを採用したくはなかった(すなわち、プレイヤーにとって発音が困難であったり、もしくはカードに収容するには長すぎる何か)。「Graf」は墓地にぴったりはまり、「Geist」はスピリットにちょうどよかった。両方とも短く、我々英語を話すプレイヤーにとっても理解しやすく、世界の中に混ぜられている。個人的には、私は英語圏のプレイヤーだけを考えるのではなく、その単語の内なる意味がわかる、英語圏以外のプレイヤーにとっても意味を持つ単語を投入することを試みた。そして意味がわかったと我々に知らせてくれる、そういったプレイヤーがいるというのは楽しいものだ。ほとんどのアメリカのプレイヤーは「Ulvenwald」の意味を理解することはないだろう、彼らへとこれを解明してやってくれ!
我々の最終目的は、名前を通して世界を信じられるものにすることだ。まるでそれらの名前が、一つの地域から来たものであるように全て違和感なく結合し、そしてクールな響きをくれる名前だ。カードの要求に役立つために、我々は新語や地域図の縁に位置するいくつかの単語を創造した。
全体としてそれは楽しく、我々は言語のルーツについて多くを学んだ。そしていかに名前が変化し、地域から地域へと展開していったかを学んだ。
ブロックからブロックへと跨る基礎について、いかにして我々がこれらの問題を解決するか、君がいくらかの見識を得てくれたことを願う。マジックを多層の経験とするべく、長い時間にわたって我々がゲーマーのために働いてきたことへと、そして言語的な研磨にも同様に注意を払ってくれる、君のようなプレイヤーの声を聞くのは素晴らしいことだ。
セットを楽しんでくれ、そしてお便りを心からありがとう!
マジック・クリエイティヴ・デザイナー アダム・リーより
イニストラードのために私は、どんなスピリットがこの世界に存在するか、そしてネファリア州の様子、そのグール、幽霊、スカーブ師、錬金術師、モンスターの作成を担当していた。
《嵐霊》 アート:Terrese Nielsen |
この州は主に青に列しており、そこには一続きの港町がある。私の両親はともに英国リヴァプール出身で、私は「リヴァプール人」というルーツを利用し、そこに飛び込むことができた。私はそこを交易のせわしい中心、秘術科学の神秘的な領域、フランケンシュタイン博士の遊び場、そしてごくつぶしと悪党の巣穴にすることが必要だと知っていた。何よりもまず、何かむずむずする響きの名が必要だった。
私はヨーロッパの広域地図を見て、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、ドイツ、デンマークの地名をチェックし、何かアイデアを引き出そうと試みたのを覚えている。私は名前の響きが地域から地域へと、どのように変化しているかに興味をそそられていった自分自身に気が付いた。何がその音をドイツっぽく、ベルギーっぽく、デンマークっぽくしているのかを本気で考えたことはなかったが、鳥の目でヨーロッパを見た後で私は、図表的に国境はどこなのか見る必要はないと実感した。私は、ある地域から次へと、どのように名前が混ざっていくのかを、国境沿いにハイブリッドの名前が作られているのを見ればよかった。時々私は、別の地域から近隣の国へと深く入り込む名前によって。どこに昔の国境があるかを見ることができた。
私がこれについてあれこれ考えている間も、我々はゴシックホラーの舞台を作っているのだから、その名前は心をかき乱す雰囲気を必要としているのだと脳裏では気付いていた。他よりも、確実により縁起の悪さを醸し出している音の集合。何故? そのいくつかは我々の文化からプログラムされている。だけどもしかしたらそれはもっとより深いものなのかもしれない。これは音素の興味深い世界の扉を開いた。そしていかにしてそれらは脳へと、一定の感情や発想という効果を及ぼすような、潜在意識的に確固たる位置を占めているのか。
「ブローボ/ Blorbo」と「クリッジク/ Krittzik」、大きな木偶のクリーチャーのように響くのはどちらだろうか?
「エレシア/ Elethia」と「ガルラス/ Gulrath」、バーで喧嘩をするようなクリーチャーはどちらだろうか?
ここにブレイディが見つけた、音素という題目に少々深く分け入るNPRの興味深い記事(訳注:アメリカのラジオ局、National Public Radio。リンク先は英語)がある。
ムードと舞台を創造するというクエストの中、神秘的や気味悪く聞こえる、そして同時に場所の雰囲気をプレイヤーへと伝えるのに十分な言葉を狩りだすのは面白いものだった。
私がうまくやったと感じている大いなる一つが「ウルヴェンワルド」だ。
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《ウルヴェンワルドの神秘家》/《ウルヴェンワルドの根源》 アート:Dan Scott |
暗い嵐の夜、ウルヴェンワルドの森を通り抜けようとするなんてことはありえないだろう。家の中に引きこもれ。パジャマ。毛布。ココア。ショットガン。
ウルヴェンワルドが私の「神秘的、はい出るような」ボタンを叩く理由は、私の大脳辺縁系のシステム、理由と合理性がほとんど支配している脳の奥深く、そのどこかにしまい込まれているからだ。
ダグが「もめごとを探しているドイツの狼男」という雰囲気を捕らえていると考え出したもう一つの名前を、私は本当に気に言っている。かくして「The Krallenhorde /爪の群れ」が誕生した。
《灰毛ののけ者》/《爪の群れののけ者》 アート:Randy Gallegos |
「Krallen /爪の」は単独ではドイツの、圧倒的な神のように響く。そして今その神は群れを得ている。二股の驢馬尻叩きのような音は、7/7の旋律への道だ。
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イニストラードには、合理的左脳がこの上なく幸せに読み上げた時に、ぞっとするような、我々の根源的本能を駆り立てる、感情的な震えを作り出す、そんな名前が豊富にある。君はガヴォニー、人類の最も高い人口数を誇る領域内を歩く中で、エストワルド、スレイベン、ヴィデンズといった、頑丈で心のこもったこれらの名前を見出すだろう。だが人間の文化圏から遠く離れると、クルーイン、ヘイヴングル、ドルナウといったような、より縁起の悪そうな名前に出会う。それらの名前を道路標識で見始めた時に、感情が訴えてくる。「引き返す時だ、お願い」
それぞれのセットはデザイン、開発、数学、アート、著作、そして今や音を含む挑戦だ。人間であることは、あらゆる類の経験によってくすぐられ、突っつかれる、奇妙でとても緻密な生物機械の中に住まうことであるいくつかの理由から、音は、特に言語によって作られた音は我々に大いに影響を及ぼす。それぞれの単語は意味を持ち、その意味はあらゆる者にとって異なる。我々が理解し合えるというのは、驚くべきことだ。
君達がこのちょっとした滞留と、イニストラードを我々が作ったことと同じくらい楽しんでくれることを願うよ!
《骸骨の渋面》 アート:Eric Deschamps |
闇の隆盛、より多くの恐ろしい音のために、チャンネルはそのまま!
翻訳監修:森 陽平
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