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フレイバーとマルチタスク

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フレイバーとマルチタスク

Doug Beyer / Translated by Mayuko Wakatsuki / Translation-supervised by Yohei Mori

2011年12月7日


 マジックのセットはどれほど複雑になりうるのだろう? 扇情的な質問だ。その答えは「フレイバー次第」だと私は信じている。

 もし複雑さについて話をしたいなら、脳がどのように働くかを考えることだ。人間は、神経伝達物質の複雑なバレエの中で、何千という神経細胞を同調させることに驚くほど優れている。個々の脳細胞を大規模な軍隊に編成し、一つの認識仕事を行う。これを表現する別の言い方は、人間はマルチタスクが極めて下手だということだ。

 現時点でこの記事を書くにあたって、クリエイティブ・チームの私の同僚たちは、「Three's Company」(訳注:1970-80年代にアメリカで放映されたシチュエーション・コメディ番組)の全エピソードがいかに本質的に同じであるかを話し合った。そしてチームの各メンバーがその番組のどのキャラクターに当てはまるかを話し合った。私はブルネットのジャネットだと思うがどうだろう? もしかしたらその当てはめは実際には合っていないかもしれない。今、私の頭の中ではテーマソングが流れている。グレート。

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 人々は実に上手く仕事を切り替えることができる、なんとも素晴らしい。我々の脳の内容物の塊は極めてしなやかで、驚異的な多様性の仕事へと順応することができる。そしてそれは良いことだ。何故なら与えられた期日の間、我々は自分たちが理解しているよりもずっと多くのことに襲いかかられているから。だからもしそれが真実なら、人はマルチタスクが苦手などと何故私は言うのだろう? もし十分な経験を経たなら、人々は仕事をさらに早く仕事を切り替えられるようになるという良い証拠がある。我々はギアを入れ替えるための時間を短くすることができる。そしてそれによって、より多くの仕事を与えられた時間内にこなすことを学ぶ。うん、マジックのゲームの間、もしくは勤務日の間。だけど究極的には、我々は前頭葉前野の機能によって制限されている。それは情報を一定の方法で処理する。その方法とは(極めて大雑把に言うと)一度に一つのことに集中するというものだ。例外はある。例えば、十分な報酬が約束されている中では、我々は本当の意味で複数の仕事を同時進行する(リンク先は外部、英語記事)ことが可能となる。だが通常、我々は決して真のマルチタスク、一度に二つの異なるものへと実際に注意を払うことを全て上手くやってのけることはない。

 2012年の始まりに公開するいくつかのWeb記事を私が引き受けたのは誤りであった、そう理解したのはこの時点だった。私はそれらのスケジュール問題について話し合うために編集者ケリー・ディゲズを捜しまわった。オフィスでは今、誰もがとても忙しかった。感謝祭シーズンがやって来てウィザーズ・オブ・ザ・コースト社が閉まるまでたったの数週間しかないからだ。物事を動かすのは難しい時期だった。だけどケリーと私はスケジュールをすっきりとさせ、全てがうまく動くようにいくつかの事を移し替えた。我々はサンタクロースが目論んだように、Webチームの中で誰も記事の執筆や編集やイラストレーションが感謝祭の休暇にまたがるべきでないようにとスケジュールの問題を解決した。私は感謝祭の買い物をまだ何も始めていないという事実を強調するために時間をとった。それについて今はもう心配いらない。机に戻ろう。記事に戻ろう。

 例えば、マルチタスクにおける人間の限界は、マジックを面白くしてくれる物事の一つである。君は魔法の戦争を、多様な認識を必要とする最前線で繰り広げている。君は手札に何があるか、戦場にはいくつのゾンビもしくは狼男もしくはスピリット・トークンがあるか、ライフはいくつか、《霊炎》のフラッシュバックが可能となるまでに何枚の土地を引く必要があるか、次のアップキープの間に何が誘発するのか、机の反対側の《ヴェールのリリアナ》の忠誠値はいくらになろうとしているのか、そのおはじきは緑の2/2の狼トークンだったか少しずれた+1/+1カウンターだったか、君のライブラリー内にはリリアナへの回答はまだあったか、そしてそれを引く可能性は、そんな諸々を同時進行的に追跡し続けている。マジックは我々の、そういった仕事全てを同時に管理する能力をテストする。ドローステップは時々、ゲームの方向を決定づける。シャッフルされたカードで行うゲームの中では、間違いなく運が役割を持つ。だけど、目の前の精神的作業の整列を能率的に調整する、そしてそれらを意識上の注意の中で前後に首尾よく移し替える君の能力、それは君が勝とうとしているのか負けようとしているのかの大きな割合を決定づける。

 この時点で、クリエイティブ・チームのマネージャーであるブレイディ・ドマーマスはチームへと仮定のストーリーについて質問した。それはビデオゲームにおけるストーリーの役割についてのちょっとした話し合いへと発展した。デジタルなゲームをプレイする経験を通じて、どのような方法をとれば、積み重ねられていく物語を魅力的にできるか。もしくは下手を打つことで幻滅させられてしまうのか? 例えば、何故人々は過去のいまいちなビデオゲームで会話シーンをスキップするのだろう? それは確かにじれったいものだ、だけどそこまでじれったい理由は何だろう? 理由のいくらかは確実に、まさしく物語が弱いからだ。だが我々は、そこには何か別のものがあるのだと判断した。事実、何が語られているかということに左右されないゲームは、物語をあまりにも別のもの、取るに足らないものにする。もしその会話が飛ばせるものならば、君は座ってそれを通して見ることに当然いらいらする。もしそれが実際にゲーム内で行う決定に何も作用していなかったら、全くもって何故それは存在するのか? 我々は全員、考え深く自身の頬を一度叩き、思案し、そして椅子を回転させて様々な仕事へと戻った。自発的に、一つの曲が私の脳内にかかった。「Come and knock on our door...」(訳注:「Three's Company」テーマソングの一節)ちくしょう!

 ここ数ヶ月間、私が君たちに向けてイニストラードについて書いてきたように、我々は未来のマジック製品のために忙しく働いてきた。君たちの中には知っている者もいるだろう、ウィザーズ社ではどれほど未来のR&Dや他の部署が、カードを出すべき時に出すために働いているかを。最近、我々は来年夏に出す何かの最後の校訂の仕上げを打ち出した。そして来年秋発売の製品のための、既に上がって来ているスケッチとアートの最後の一つをチェックして、秋に出る別の製品の初期のカード名と提案されたフレイバーテキストを査定し、2013年初頭発売製品の世界の詳細を広げて初期のアート依頼を書き、いつか不意に現れるかもしれない、デジタルとアナログのクールなものたちを自由に出し合う。そしていくつかのコンセプトイラストレーションを伝える、もっと未来に発売される何かのために。そしてその類の物事は勿論、私の仕事にまでは上がってこない......皆、学校対マジック対仕事対家族対社会生活対レジャータイム対TV番組のテーマソング、もしくはそれらの部分集合とどうにかやり合っている。それら全ての頂点に居座るのは、複数の仕事をこなすという脳の能力テストのもう一つの例だ。それには頻繁に取り替えられるほどの同時性はない。ならばこれがマジックのフレイバーと何の関係があるのか、そしてセットはどれほど複雑になりうるのか?

 そして今、チームは気を散らされ、穂軸についたままのトウモロコシを食べるヤマアラシの動画を見ている。我々は単なる人間だ。つまり、それを見るんだ。それは......それは本当に動画のトウモロコシのようなものだ。しかしヤマアラシを責めるのは本当に困難だろうか? トウモロコシの進化的全戦略は、幅広い雑食動物のために美味しくなることなのだろうか? そしてヤマアラシの進化的戦略は、そのカロリー源をライバルから守れるかどうかに一部左右されるのだろうか? ......すごくかわいいよね?

 お腹すいた。

 私は究極的には、一つのセットが持つことのできるメカニズムやサブテーマの厳密な数は考えていない。我々はマジックの全セットについて膨大なデータを解析し、自由な文脈の、観念的なキーワードメカニズムの正しい数は4ぐらいだと決定することができるが、それとは違う。恐らく0は正しくない、そして12以上もきっと外れだ(どうだろうね、未来予知は?)。だけどその間のどの数が正しいのか、それは君の目標による。特に、人々が仕事を切り替える能力をどのくらいテストしたいか、君は考える必要がある。

 昨年のゲームプレイはどれほど複雑だったか、そして来年のゲームはどれほど複雑になりうるだろう? どのくらい我々は振り子を動かしたいと願うだろう、ああ、新たなるファイレクシア、それともマジック2012? 人々を引き寄せるのはどんな類のカードか、そしてどんな類のデッキがキッチンテーブルやトーナメントでプレイされるのか? そして特別大切なこと......フレイバーは、それらのメカニズムを学び把握するプレイヤーの能力にどんな効能をくれるだろう? フレイバーとメカニズムが滑らかな、認識的な一つの塊へとどれほど良く溶け合うだろう?

 もう一つの気晴らし。私は年末の自己評価フォームを埋める必要がある。それは私が仕事の目標に今年どれほど達成できたか考えているかをマネージャーに伝えるものだ。これももう一つのある意味執筆なので、思考をこれに移行するのは難しくない。だけど執筆の形式としては文体も内容も、とても異なる。我が前頭葉前野は将来性の所で立ち止まった。私は低い声を漏らした。12月よ!

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 フレイバーは君たちにもっと多くをやってのける。多数の複雑なアイデアを一つの馴染み深いカテゴリーに統合させる。メカニズムがフレイバーに満ちている時、君はカード能力の味気ない一覧を覚えるよりもずっと、自身を導く事前知識を信頼することができる。フレイバーは認識的速記を提供してくれる。例えば、これだ。

 このクリーチャーは空中を飛ぶことができる。

 このクリーチャーは炎を吐く。

 これは次に挙げる文章よりも、心に留めるのが遥かに楽だろう、

 このクリーチャーは同じ能力を持つクリーチャーか、この能力を持つクリーチャーをブロック可能としている別の能力を持つクリーチャー以外にはブロックされない。

 {R}:このクリーチャーはターン終了まで+1/+0の修整を受ける。

 それはただテキストの長さの問題ではない。単語のフレイバーはクリーチャー・タイプ(ドラゴン)のフレイバー、アートのフレイバー(炎を吐いている格好いいドラゴン)、そしてカード名のフレイバー(《シヴ山のドラゴン》)を繋げ、認識の統合を作り出す。それは君たちへと、把握し、扱うことをより簡単にしてくれる。

 精神的小細工を楽にすることは、単位時間あたりのより多くの仕事を意味する。単位時間あたりのより多くの仕事は、複雑さのより上手な扱いを意味する。複雑さのより上手な扱いはプレイヤーの脳を爆発させない。爆発しない脳こそ我々が奨励したいものだ、手札破壊呪文のアートはたぶん例外として。

 今週はここで止めるのが良いだろうか? 私は自分の脳をスキャンして、その主題について何か言いたいかを捜した。

 私はガールフレンドに尋ねないといけない、玄関の修理について契約者との話し合いがどうだったか。値段が心配だが、その計画は良いものに思える。修理によって入口の外観はまことに改善されるだろう。「Come and knock on our」......ちくしょう。

 みんな、また来週。

翻訳監修:森 陽平

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