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開発秘話

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あるヴォーソスのオリジン

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あるヴォーソスのオリジン

Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2015年9月4日


 今回はヴォーソス特集ということで、カードの名前とデザインの両面での、デベロップにおけるフレーバーの重要性についてお話ししようと思います。

 あらゆるデベロッパーの中で、私は多分一番のヴォーソスです。イーサン・フライシャー/Ethan Fleischerのように『アイスエイジ』の物語について辞典のような知識を持っているというわけではありませんが、私は確かにかなりの量の物語を知っています。私はたくさんマジックの小説を読み、カード上の複雑な物語の流れをたどり、ヤヤ・バラードのフレーバーテキストのほとんどを覚えています。これが私が子供の頃にこのゲームにのめり込ませ、そして大人になっても惹きつけているものです。私はマジックをプレイし始めたときにプレインズウォーカーの存在が実際に意味しているところを完全に理解していなかったかもしれませんが、あらゆるものすごいクリーチャーを召喚できるということは理解しました――そして、それが最強ではないとしても、お気に入りのカードを自分のデッキに入れることができました。《リバイアサン》、あなたのことですよ。

 マジックのカードが全て飾り気がなくて、「クリーチャー48480」と番号だけ振ってあってアートがなくても多くの人々はそれをプレイできるかもしれませんが、私には耐えられなかったでしょう。私にはルールを学び、能力の挙動を理解し、そして(当時)何百枚もあったカード全てを吸収するためにファンタジーの土台が必要でした。私は「千夜一夜物語」を読みもしました。持っていたいと思うほどにはクールではないと感じられた『アラビアンナイト』の全てのカードをよりよく理解するために、です。《Ali from Cairo》が誰なのか、《Diamond Valley》が《シンドバッド》とどう動かなければいけないか、そしてなぜ《Shahrazad》がサブゲームを始めるのかは説明できます。この手のつながりは私をさらなる深みに引き込み、まさにマジックに一生ハマらせました。

 私がセットに取り組むとき、十分なフレーバーを持たせようとします。まさにマジックへ踏み入れようとしていて、そして物事が機能する理由を理解する足場を探して深い知識を取り入れようとする、次の若いデベロッパーに影響を与えられるように。フレーバーはデベロップの主要な目標ではないかもしれませんが、確かに無視できないものです。

フレーバーの重要性

 フレーバーはデベロップにとって重要です。皆さんが我々をただ数字を調整しているだけだと思っているとは思いますが、我々はプレイ経験の調整もしています。大抵の場合それはフレーバー豊かなカードをそうあるべきだという動きにして、基本的に楽しいものにすることを確実にする方法を探すという意味です。我々はその呪文の解決に2時間かかって最終的にあなたに400ドル払わせる「税金を納める」トップダウンのデザインを作ることもできましたが、アゾリウスのカードに取り組んでいるのでもない限り、実際に唱えて楽しいデザインにこだわったほうが良いでしょう。

 《飛行》を例にしてみましょう。これは古いカードで、バージョンによって奇妙な女性が地面に立っているように見えるものから変なシマウマが描いてあるものまであります。私はシマウマのバージョンが好きですが、それはどうでもいいことです――重要なのは、このカードが全体的に筋が通っていることです。《飛行》を《大喰らいのワーム》につけて対戦相手を攻撃した場合、色んなルール知識を置いておいても、物事に筋は通っているでしょう。その飛行を持ったクリーチャーを地上のクリーチャーではブロックできないというのは筋が通っています。飛行は直感的で簡単なので、ある意味では最高のキーワード能力です。


飛行》 アート:Jerry Tiritilli

 《飛行》は他にも大きなアドバンテージを持っています――名前です。それは最高にフレーバー豊かなものではありませんが(《幽体の飛行》や《幻影の翼》はどちらももっと良い響きです)、豊潤な存在であるというアドバンテージがあります。セットにとても限定的なカード(《ニッサの天啓》、《ケラル砦の修道院長》)と、基本的で豊潤なカード《投げナイフ》、《閉所恐怖症》が混ざっていることは良いことです。このことは人々をそのカードの重要なフレーバーに注目させ、そのゲーム・プレイをよくするいくつかの背景カードの存在を可能にします。《閉所恐怖症》をセットに入れるたびに改名しなければならないなら、すぐに良い単語を使い果たし、必要以上に人々の記憶力に負担をかけてしまします。我々はその脳の容量を物語に重要なカードのために使うほうが良いと思っています。

 さて、マジックが出回って20年以上経ち、我々は多くのとても象徴的な名前を使ってきました。その多く――例えば《生まれ変わり》、《Subdue》、《瞬間移動》など――は『レジェンド』のようなセットのかなり忘れられがちなカードです。現在では、我々は少なくとも最も良い名前のうちいくつかを保護し、半定期的に再録したいカードに使おうとしています。前述の《閉所恐怖症》はその良い例で最初は『イニストラード』で印刷され、今までに2回――『基本セット2014』と『マジック・オリジン』――再録され、将来また再録される可能性が高いでしょう。これはどこにでも存在できる豊潤な名前を持つシンプルで良い効果です。

フレーバーの成功

 デベロップは稀に(でも時々)セットの物事をでフレーバー的に筋の通ったものにしようとします。《神送り》と《神討ち》は極めて意図的に《歓楽の神、ゼナゴス》を殺せるようにしています。我々は少なくとも《ジェラード・キャパシェン》が《サーボ・タヴォーク》よりもはるかに小さいということを別にしても、ジェラードのカードがサーボのカードを殺せないようなことは避けたいと思っています――なぜなら物語でジェラードはサーボを打ち倒すことができたからです。デザイン・チームはファイルの中の最終デザインのカードを物語を伝えるために用います。デベロップはそれらのカードが物語のそのページを確実に伝えるようにしなければならず、また同じようにそれらのカードがうまくプレイされてゲームの中で同じ物語を伝えるようにしなければなりません。

 数週間前、私がお話ししたのは、物語のキャラクターを伝説のカードにする作り方に関して、我々がそれを正しいものにしようとしていることでした。また我々はその世界を全体的にまとまりがあってふさわしい方法で描こうとします。『マジック・オリジン』の《巨森の予見者、ニッサ》を例にしてみましょう。彼女は森を探してくる伝説のクリーチャーです。なので《ニッサの巡礼》は森を1枚戦場に出し、1枚(か2枚)を手札に加えることができます。そして7枚目の土地が戦場に出たとき、彼女は変身します。7枚なのはバランスの理由からでしょうか? ええ、部分的にはそうですが、この数字を選んだ理由はこのセットの他のカード――実際にニッサの灯が点った瞬間を表しているカードのためです。

 彼女がアクームでエルドラージを見つけたときにこの呪文を唱えるためには、ちゃんと7マナ必要ですね? さて、私は偶然の部分と意図的な部分からなるこのラインナップに満足しています。《ニッサの天啓》は物語の瞬間を捉えるためにデザインされましたが、とにかく何か7マナ域の効果と決まっていました。《巨森の予見者、ニッサ》や《ニッサの天啓》が異なる数字になることでゲーム・プレイが改善されたらなら、我々はその数字にしていたでしょう。しかし私はこの数字が上手く機能したこと、そしてこの数字のままにしたことに満足しています。

 他にも多くの様々なフレーバーの成功がこのセットのプレイテスト全体を通してもたらされました。初期のプレイテストは基本的に恐ろしいぐらいこれにとって有用ではなく、そのカードは大抵くだらない名前や使えない名前をつけられています。例えばデベロップのファイルに最初は《霊感》が入っていて、我々が再録ではない異なるドロー呪文を同じスロットに入れようと決めた場合、我々はそれを人々が違うカードだと分かるように「非霊感」と呼ぶかもしれません。「ウラモグは激アツ!」という火力呪文のプレイテスト名はキュートです――が、明らかに決定稿のカード名にはなりません。いったんクリエイティブが実際に名前をつけ始めたら、今度はデベロップが仕事をする番です。もし物語の一場面について、あるカードがそれが合わなかった場合にそのことをクリエイティブに伝えるのはデベロップの仕事です。例えば、『マジック・オリジン』に取り組んでいるときに我々は《チャンドラの灯の目覚め》をプレイしていて何か変だと気づきました。チャンドラの灯が点る瞬間を現しているにも関わらず、この呪文がダメージを与えているために実際彼女を変身させませんでした。対象のクリーチャーがダメージを与えるようにしたのは大きな変更ではありません(副作用として接死や絆魂とも相性が良くなりました)が、人々が後になってフレーバーの成功であると発見するのに大きな役割を果たしました。これらの小さな変更はそれぞれのセットを作る上で一番重要な部分ではありませんが、そのセットの最後の仕上げに役立ちます。

フレーバーの失敗

 マジックには多くのフレーバーの成功がありますが、我々はまたフレーバーの失敗も知っています。《ジェラード・キャパシェン》は実際に《サーボ・タヴォーク》を殺せません。《炎の精霊》は《焙り焼き》で殺せます。《魂無き者》は《魂裂き》され、《アクアミーバ》は《脱水》されても死にません。こんなことが起きても、ほとんどの人々は深く考えません。全てに筋が通っているわけではなく、それで構わないのです。

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いやいやいやいや。

 マジックはまずゲームであり、そしてカードのフレーバーが合っていることはほとんどの場合大事なことです。しかし、我々はそれが役に立たない場合もあると当然理解しています。《稲妻のすね当て》、《速足のブーツ》、《速羽根のサンダル》を(正しい順番なら)《殺人鯨》につけることができます。これは筋が通っていませんが、通す必要はないのです。写真家がナイフをもったイヌワシの写真を撮影したことがありますが、私は《戦隊の鷹》が《饗宴と飢餓の剣》と《殴打頭蓋》を実際に保持する力を持っているとは思っていません。これらはとても重いのです。装備品を人型のクリーチャーに限定することはクリエイティブとリミテッドのバランスを取ろうとするデベロップに合理的な方法よりも重圧をかけてしまいます――犬が盾を運べないと決めても、どうやって厳密に戦槌を口で保持するかについての話し合いに発展します。さらにナーガはどうでしょうか? 彼らは人型で、剣を持つことはできますが靴は装備できません。このような細かさが向いているゲームもありますが、マジックはそうではありません。

 他にも《引き裂かれし永劫、エムラクール》が飛行機械・トークンにブロックされるなどの妙な事柄もあります。つまり、このエルドラージの巨人は移動するときに多くの世界を食らうのですが、飛行機械によって急に止まってしまうのです。一方で、小さな《突進するアナグマ》はちょっとした助けがあれば突進を続けることができます。そしてエムラクールは《異臭のインプ》にさえ殺されてしまいます。このことはマジックの物語の背景上全く筋が通っていませんが、我々はゲーム・プレイのやり取りのための能力を選び、そしてフレーバーが機能するように行なった全ての仕事によって、避けようのない筋の通らない部分が許されることを願っています。

 私はこれらの瞬間が魅力を持っているとも考えます。少し第四の壁を壊していますがそれでも構いません。私が最初にマジックをプレイしたとき、《聖なる力》を《Demonic Hordes》につけて楽しんでいました。私はそれで攻撃するべきではなかったのですが、それはやっていて楽しいことでした。もしくは《邪悪なる力》と《聖なる力》を同じクリーチャーにつけて、お互いが相殺されると主張したりしました。このようなフレーバーの失敗の認識が総じて私をこのマジックのさらなる深みへ誘い、究極的には今現在私がいる場所へと推し進める助けとなりました。

 今週はここまでです。来週は『戦乱のゼンディカー』のプレビューが本格的に始まります! とても素敵な1枚をご紹介する予定です。

 それではまた来週お会いしましょう。

サムより (@samstod)

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