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開発部のとある日常
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開発部のとある日常
Gavin Verhey / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru
2013年11月22日
どこへ行っても、誰と話しても、私の仕事について誰もが揃って尋ねる最もありふれた質問は「開発部でどんな仕事してるの?」だ。
では1日一緒に過ごしてみて、我々がどのように働いているかご覧に入れよう。
君は携帯の画面を見る。木曜日、8:51。素晴らしい――今日は何分か余裕があるみたいだ。人々が前後にぽつぽつといる中、駐車場を通って前方の建物の大きなガラスの扉へと歩いていく。
君はエレベーターを待ち、3階で見かける顔ぶれに会釈をする。いつも車で一緒に来ているルームメイトの2人、アダム・プロサック/Adam Prosakとティム・アトン/Tim Aten、そして「グレート・デザイナー・サーチ2」の覇者、イーサン・フライシャー/Ethan Fleischerだ。彼らはいつものように会釈を返し、無言で「よう、今日は早いな」とメッセージを送ってくる。
エレベーターが到着する。君は自分の社員証をスキャンし(これは開発部の機密フロアに入るために必要なことだ)、そして3を押す。
エレベーターは「Magic Online」チームの多くがいる2階を飛び越え、ブランド、法務、ビジネスなどのある4階の前、君の目的地である3階に停止した。
1人残らずエレベーターから出てニューヨークの地下鉄にいるゾンビの群れのようにぞろぞろと歩き、もう1つのセキュリティ地点である2つの巨大な二重扉に到達できるようにまっすぐ右に曲がった。君は社員証をスキャンし、扉を開けて中へと入っていく。
それから君は角を曲がったところに着く。それはある種の区切りのように君を朝もやから引き離し、この日も少しワクワクさせてくれる。その光景はふらふらした君の朝の足取りを弾んだものに変える。ここがマジックが起こる場所(と大文字で印刷してある)、奈落だ。
右から左まで、それぞれマジックの様々な区分に焦点をあてた様々な区分があり、基本の概念化から始まりカードが開発部の外へと出されるまで様々な仕事が行われている。
君が足を踏み入れた場所の一番近くには多くのデザイナーとデジタル・チームが座っている。彼らの仕事はセットのコンセプトやデジタル・ゲーム、そして経験などを1から作り出すことだ。彼らはキャンバスに絵を描く。
そこから後ろの壁に向かうとデベロッパーの席に突き当たる。彼らはデザイナーの作ったものを取り上げ、それを楽しくバランスが取れた方法で実装している。彼らはキャンバスの上に描かれたものを洗練し、絵の具と位置取りを調整する。
後ろの壁に突き当たるとそこはカードが奈落の外へ出る前の最終ラインであるルール・マネージャーとエディターの席だ。彼らはセットのキャンバスを組み立て、全てを実際に機能するようにし、カードが奈落の外に出る前に読みやすいものにする。
君は自分の席にたどり着き、そして腰を下ろした。
君はPCを起動させ、関わっていることに緊急のものがあるか見るためにメールを見る。普通は夜の間に多くのメールが来ることはない――メールは人々が入ってくるとともに送られ始める――だが、それでもチェックすべきだ。
とりあえず、君は開発部の一番の新人であるゲイリー・トンプソン/Gerry Thompsonが目の前に座って君に話しかける。彼は君にデッキを手渡し、君は1つ2つ提案をした後カードの選択に関していくつか冗談を言った。よくあることだが、カードの選択についての冗談はあるカードのコストが適正かどうかへの話に発展していった。
ゲイリーは彼のカードのうち1枚が少し強すぎて彼の白いデッキ全てに入るので、もう1マナ重くして本当にこのカードを使いたいデッキだけに入るようにするべきだと主張し始めた。いくつか意見を交換していると、あっという間に午前9時になった――そういえば今日は9時から会議があるんだった!
君はOutlookを見て今日の会議の予定を確認した。
君はコーヒー・ステーションを通り抜けてグレイスランド/Gracelandへと向かう。もう始まる時間だ!
ウィザーズ内の会議室のほとんどは、ポップ・カルチャーにちなんだ名前がつけられている(会議室を「どこか」、「どこでもないところ」やもっと分かりにくい「私のオフィス」と言うのは馬鹿げているよな)。この場合、グレイスランドはエルヴィス・プレスリーの邸宅から名前を取っている。しかし君はここで番犬の気分を味わってるわけじゃない。マジックのセットの仕事をするんだ!
この会議の内容は次期セットのデベロップについてだ。それぞれのセットには担当するチームがあり、君は来年のセットのためのチームの1つに所属している。デベロップの目標はデザインのアイデアを取り上げて、そいつを楽しく、バランスが取れていて、そして興味深いものに上手くまとめることだ。
このチームのリーダー(そして大体はその会議のリーダーでもある)は各会議ごとに達成するべき目標を定めている。この会議の場合、それはリミテッドに焦点を当てた議論だ。
このセットのドラフト・フォーマットは今のところバランスが少しよろしくなく、黒と緑が最強色のようだ。デイブ・ハンフリー/Dave HumpherysはABCの比率がおかしいのではないかと疑っているので、今日の会議は全体でのコモンとアンコモンの徹底調査と、それぞれのカードの等級付けの合意を得ることに費やされるだろう。思い出してほしい:Aは《風のドレイク》以上のカード、Bは《盲目の幻》以上のカード、そしてCは《盲目の幻》より弱いカードのことだ。
君は白から始めて(もちろんWUBRGの順番に沿って、だ)、意見の相違があったのはわずか3枚のカードだけだった。
意見が食い違ったカードは2マナ2/2にプラスの能力がついたやつだ。両サイドの論者は能力のメリットについて議論を始めた。これをAに格付けするかどうか? この議論は、デイブが次に行こうと決め、全ての意見を聞いてこれをBにすると決定するまで2?3分続いた。
この会議はこんな感じであちこちでちょっとした口論が起こり、それがデイブによって解決されて続いていった。結局は確かに黒と緑は他の色よりも優れているようだ。しかしデイブがA、B、Cの数を数えた結果、黒と緑は強すぎるわけではなく他の色が弱すぎる――つまり他の色には十分な数のAのカードがなかったんだ。
これはゲームのデザインの段階によくあることだ。君の直感は正しかったが、それがどれぐらい上手くいくかを実際に見てみなければ間違った選択を選んでしまいかねない。この場合だと黒と緑が強すぎると決め付けてそのパワー・レベルを下げ、ドラフト・フォーマットを目標よりもかなり劣ったものにしてしまうのは簡単なことだ。その代わり、白、赤、青が弱すぎたのだ!
もちろん、ゲームのデザインとデベロップは芸術と科学が出会う場所だ。君は数字だけでここまで来ることができただろう。そして今数字が問題を明らかにしたので、君の熟練した芸術の兆候に取り組む時間がやってきた。この会議の残りの時間は何が機能するかについての我々の直感を通して、力不足の色を少し強化する方法を見つけることに費やされた。最終的に、力不足の3色でそれぞれ2枚のカードに変更が行われることになった。
君は時計を見上げる――もうすぐ10時になる。つまりカード技術の時間だ!
開発部では、長年続いている様々な会議が毎週同じ時間帯に行われている。デザインやデベロップのチームは儚い命だが、カード技術のような会議は永遠のものだ。
カード技術は毎週行われ、デザイン、デベロップ、デザインやクリエイティブも含んだ開発部の誰もが参加して包括的な問題を議論する会議だ(結果的にカード技術は部屋が満員になり、君が何分か早く行かずに時間通りに行ってしまった場合、椅子が足りないことで悪名高い会議になった。不幸にもどうやらこの会議は立って参加することになりそうだ!)。
カード技術は全ての人が集まって新しい問題を始める、もしくは長年の問題を最終的に投票する方法だ。これは未来のメカニズムがどう機能するべきか、古いメカニズムがどう機能するべきか、クリーチャー・タイプをどう扱うべきか、ルール・マネージャーのマット・タバック/Matt Tabakが解決しないといけない今話題のルール問題の内側を紹介する月例企画「マット・タバック・パワー・アワー」までなんでもアリだ。
今回の会議は、後者のうちの1つのようだ。
マットは議論を始める。「今日皆さんに集まってもらったのは、全く馬鹿げたカードを作り続ける皆さんの衝動に、さらなる影響を与える議論のためです。今回のお題は《ストリオン共鳴体》です。
君の横に座っているデイブ・ガスキン/Dave Guskinが猛烈にキーボードを叩きだした――デイブはカード技術の記録係を任されていて、何かあった時に後で皆が記録を見られるように内部のWikiに議論を投稿している。
「秘匿土地を《ストリオン共鳴体》と一緒に使うとどうなると思いますか? 例えば秘匿土地をプレイして、誘発型能力をコピーして2回土地を追放する。マナを払わず唱える能力を起動した場合何が起こるでしょう?」
会議室はそれを考えるために一瞬静まり返る――開発部は結局のところ考える集団なのだ――前のマックス・マッコール/Max McCallが思い切って「追放されたカードのうち1つだけがプレイされるべきだ。それが一番筋が通ってる。」といった。室内のほとんどが同意してうなずいた。
「OK」タバックは続ける。「《忘却の輪》についてはどうでしょう?《忘却の輪》をプレイして、戦場に出たときの誘発型能力を《ストリオン共鳴体》でコピーし、その能力が解決された後、それが破壊される。何が起きますか?」
会議室の静寂は更なる思考のために広がり、各人の脳の水道に相互作用の水滴を通していく。それからショーン・メイン/Shawn Mainが答えを口にした。「両方戻ってくるはずだ。片方が追放されっぱなしであるべきじゃない。それはおかしすぎる。」
タバックの唇の端に小さな笑みが浮かぶ。「引っかかりましたね!」彼は叫ぶ。会議室の静寂は広がっていく。「答えはどちらか1つです。」
恐らくそれが答えだと考え、何人かは回答を投げかけ始める。カード技術では大抵の場合さらに多くの人々が話し始め、各自がその話題に革命的な追加を持っていると確信し、彼らの主張を聞かせようとするにつれて声が大きくなっていく。
それから部屋の中が正解にたどり着いただろうと思われたとき、タバックは切り札を切ってきた。「デイブ、《試作品の扉》のテキストを出してください。さあ、このカードと《ストリオン共鳴体》を組み合わせるとどのような動きをするか教えてください。」
君は確かにこの会議は面白くなりそうだ、と思った。
11時-12時
一時間ちょっとを《ファイレクシアの摂取者》、《映し身人形》、《精鋭秘儀術師》、《呪文織りのらせん》と過ごした後、君はよろよろとカード技術から抜け出した。
開発部は《ストリオン共鳴体》の問題を解決するための「関連している能力」を使い、最終的に統一された結論にたどり着いた。《試作品の扉》は2枚の合計分のマナを払って2つのトークンを作り、《忘却の輪》は追放した両方のカードが戻ってくるだろう。《風立ての高地》は一度の起動で両方のカードをプレイできるが、このような珍しい事例は十分に議論された後で受け入れられると決定されたものだ。
声は張り上げられ、質問が投げかけられる。しかし最終的には、少なくとも合意された答えが出た。いつもそうではないけどね。
君は自分の机に戻って椅子にもたれかかった。始業から2?3時間経ったので、恐らくエキサイティングなメールが届いているはずだ――そしてそれは実際に届いていた!
受信トレイには2通の該当するメールが届いていた。1通目はマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebからの穴埋めメールだ。穴埋めメールは社内の開発部以外の何人かにも送られる。これらは上手く機能しない手間のかかるカードに対して、アイデアを生み出すデベロップ・チーム外の人々の力を借りようとする試みだ。このメールには10枚の再デザインを必要とするカードが取り上げられていて、期限は1週間後だ。
君は後で対応するためにメールにフラグを立てた。
もう片方はもっと緊急なもののようだ。そのメールはリズ・ラムフェロー/Liz Lamb-Ferro(また、彼女は何人かの同僚から時折冗談めかしてリズ・レモン/Liz Lemonとして知られている)から送られてきた。リズは4階のブランド部門で働いていて、そのチームはマーケティングからプロモーション、広告カードの作成までほとんどの大変な仕事をしている。
このメールの用件は何かって? ああ、リズは最新のGeek and SundryのSpellslingers(リンク先は英語)の見直しをやっていた。そして開発部の代表として指摘し、動画の中で全てが適切に説明されるようにするのが君の仕事だ。
開発部のメンバーとして多数のデザインやデベロップの仕事がある一方で、君はまたひとりでに他の部署のあちこちからいくつか仕事を拾ってくるはめになる傾向がある。ウィザーズでは一般的に「結局得意なことをすることになる」と言われている。
ある人達はクリエイティブを手伝い(実際に今、11時から12時の世界技術と呼ばれる会議が行われていて、それは基本的に世界観を作るためのカード技術だ――が、君はクリエイティブの代表ではないのでその会議には参加していない)、ある人達は他のウィザーズのゲームを手伝い、またある人達はブランド経験の仕事を少しやったりする――ウィザーズ内部の人々はそれぞれただの「ゲームデザイナー」を越えたユニークな仕事を持っているんだ。
この場合、これらの動画に向けて開発部を代表することは君の多くの職務のうちの1つだ。
君は動画をダウンロードし落ち着くと、20分余りをかけてそれを見る。こいつはタフな仕事だが、誰かがそれをしなければならない。
君はしばらく動画を止めて記録を取るが、指摘するところは少ない――いい感じだ。動画をYouTubeの動画に時間を費やす他の奈落の人々に送り見てもらうが、心配のしすぎではない。
君は時計を見る。11:29だ。ああ、これは永遠の問いだ、ランチの30分前に何をする?
開発部の皆は結局自由時間を過ごすことにし、そして君は無数のプロジェクトから選んで取り組むことができる。多分さっきの穴埋めメールを開いて確認し、いくつかのカードをデザインするのにいい時間だろう。前の会議から、やらなくてはいけないデベロップの宿題があるかもしれないし、でなければいつでもマルチバースに目を通してデベロップのコメントを残すこともできる。人にもよるがDailyMTG.comの記事を書く必要があればそれを始めてもいいだろう。
しかし、いつでもそれ以上に重要なことがある。フューチャー・フューチャー・リーグ(略してFFL)でスタンダードのプレイテストをすることだ。
昨日のFFLの会議の後で、そのデベロップ・チームは君のデッキの中心的カードをいくつかに変更を加えることにした――つまりは君のデッキのうち2つは使えなくなってしまったってことだ。現実世界のトーナメントでは、カードを壊すことはトーナメントで勝てるようになることを意味しているが、開発部ではカードを壊すことはそのデッキをもうプレイできないようになることを意味している。この違いはいつでもちょっと変だ。
こんなのがデベロッパーの生活だ。
良いニュースがある。この必要を満たすために、新しいデッキを何個か作るための時間が少しあることだ! 前日にあまりプレイされていないコントロールについての話があり、従ってコントロール・デッキを作ってそれがスタンダードに適切かどうかを確かめるにはいい日のようだ。君は後ろで行われている80年代のベスト・アドベンチャー映画についての会話(加えて、君は『プリンセス・ブライド・ストーリー』が正解だともう知っている)と、盛り上がっているマルチバース(全てのカードセットのデータが含まれている内部プログラムのことだ)に加わりたいのをぐっとこらえ、デッキを作り始めた。
君は素早くデッキを作り上げ、開発部がプレイテストに使っているステッカーを印刷する。開発部には存在しないカードの物理的なコピーは無いからだ。ドクター・フーのターディスは開発部の予算では買えない――代わりに君はデッキリストをカードの形にしてステッカー用紙に印刷するツールに入力した。それからステッカーの裏紙をはがして、よく似た色のカードの上に貼り付けていった。
《アスフォデルの灰色商人》 |
ステッカーの貼り付けが終わった――そしてちょうどランチタイムだ!
12時-1時
ランチトレインは駅を出発する! 急がないと乗り遅れてしまうだろう。
12時から1時が開発部のランチタイムだ。ほぼ毎日ランチに向かういくつかのグループを見つけることができる。開発部は全体的にとても社交的な部署で、社内で食べるよりも機会を見つけては出かけて行き、他の皆とランチの情報交換をしている。つまり美味い食べ物についてだ。
ランチに行くグループが形成されるのには特に理由はなく、単に出かける順番か特定のレストランに行きたい人達によって起こる。まさにこの日は、君はジョナソン・ロークス/Jonathon Loucks、イーサン・フライシャー、ショーン・メイン、そしてベン・ヘイズ/Ben Hayesと一塊になってエレベーターに向かっていった。向かう先にはリー・シャープ/Lee Sharpe――4階のメンバーで週に1、2回は開発部のメンバーと一緒にランチに行っている――がいて、彼も同じように加わった。
どこに行くかどうやって決めるのかって? ああ、もちろん拒否ゲーム/the Veto Gameでだ!
このゲームのルールはこんな感じだ。一人が場所を提案する。誰でもそれに賛成するか拒否してまだ提案されてない新しい場所を示すことができる。みんなが同意したならそこに決まりだ!
しかしもちろん、かの偉大なる哲学者プラトンは「ゲーマーとはゲームをするものだぞ、なあ」という言葉を残している。このゲームにはちょっとした戦略があり、1つか2つ拒否された後にそれを推して他の選択が却下されるように、本命のレストランをほとんど出さないことだ。
ジョンが中華料理の提案をしてゲームは始まった――イーサンが近くのチャイニーズ・レストランを嫌いなのを良く知っているのに最初から思い切ってきた。イーサンは拒否して近くのサンドイッチ屋を提案し返す。無難なチョイスだ......だがベンは気に入らず、拒否すると共にベトナム料理のフォーを勧めて攻めの姿勢をとった。
誰もすぐには反対しない。皆の頭の中ではプロレスのレフェリーがカウントを取る。「ワン・ツー・スリー!」
フォーに反対は出なかった。皆はリー・シャープの車に乗り込み、ランチへと向かう!
暖かい味わいのフォーが君の胃に流れていき、そしてリー・シャープの政治的な議論が君の脳に流れていって、1時からの会合のために戻ってきた――ドラフトだ!
君はロスト・テンプルに向かい、そこにはドラフトをするためにたむろしている人達がいた。
ドラフトをするには2人足りないようで、エリック・ラウアー/Erik Lauerは奈落の外から2人呼んで来て卓を埋めた。デジタル・デザイン・マネージャーのケン・トループ/Ken Troopと、デジタル・デザイナーでドラフト狂のライアン・スペイン/Ryan Spainだ。
君のドラフトは順調な滑り出しを見せたが、どうやら右に座っているトム・ラピル/Tom LaPilleがカットし始めたようだ。それかもしかしたら本当はトムの右のティム・アトンが失敗して、トムはティムの不可避のパスカットから身を守ろうとしているのかもしれない(パスカットとは誰かにある色の強力なカードを1枚かもしくは複数パスして、それからその色をカットすることだ)。
エリック・ラウアーはドラフトには実際に参加しないがドラフトの展開を見ているのでデータを手に入れることができ、少し笑いながら君の後ろに立って最初の数ピックを見ている。しかしながら、君にはそれが実際にパスカットだからなのか、彼が幸せで笑うのが好きなだけだからなのかは分からない――エリックにはよくあることだ。これは見分けるのが難しい。
いずれにせよ、君はどうにか2パック目からいくつか強力なカードをピックし、そして3パック目はトムが協調してくれたようで爆弾レアを流してくれて、君のデッキはいい感じに仕上がった。
最初のパックのおかげで余り余分に使えるカードはないが、君はデッキを作るのに2?3分を費やし、それから土地の配分をどうするか考えた。後でエリックが、君が何色を何枚プレイしてレアが何枚使われたかを知ることができるように数を記録するようにした。
それからはプレイする時間だ。
ドラフトは2時間分の枠が割り当てられている。君は大抵2?3回はマッチをしようと努めている。幸運なことに君はかなりアグレッシブなデッキをドラフトし、そしてどうにか3回のマッチを多少の時間の余裕を持って素早く終わらせた。成績は2-1で、完璧じゃないが悪いわけでもないね。
余った時間で、君は席に戻ってそのデッキの記録をいくつか書きとめた。毎回のドラフトの後に、セットのリーダーが調べて変更を加えることができるように、ウィザーズの内部Wikiにリンクが貼られて誰でもコメントが残せるようになっている。少し時間があるので、君はそれを後回しにせず今書くことにした。
君はいくつか個別のカードのパワー・レベルについて書き、また君のアグレッシブなデッキには大型クリーチャーを突き抜けて殴るいい方法がないこと、そして多分このセットに《反逆の行動》の亜種を入れたらその助けになるだろうと書いた。さらに君は自分のデッキのクリーチャーの多くがタフネス1で、サイドボード後には自分に対してパワー1の普通よりも効果的なため勝ちにくくなること、おそらくそれらのクリーチャーのいくつかのタフネスを上げるべきだと書いた。
この記録は後で君を助けてくれるだろう。そして別の会議に出かける時間だ!
マジックだけがウィザーズ・オブ・ザ・コーストの作っているゲームではない。君は本来マジックのデベロッパーだが、この会社の多くの場所(そして特に開発部で)で強く信じられていることは、異なる分野の交流は良いことだということだ。君のスキルを他のゲームにもたらすことで、違った視点をそれに供給することができ、そのお返しにデベロップの新しい見方を与えてくれる。最終的には両方の部署がより良い完成した製品とともに豊かになるわけだ。
さっき君はGeek and Sundryの動画をレビューしてブランドとの交流をした。今度は全く違うゲーム、Kaijudoの会議に行く時間だ!
会議室の中には君がいつもいる奈落とは違った顔ぶれが並んでいる。彼らはマジックの奈落のすぐ隣のデュエル・マスターズとKaijudoの奈落のメンバーだ。(近年のマジックの成長によってデュエル・マスターズとKaijudoのチームがどこかへ引っ越さなければならなくなるまで、彼らは1つのエリアを使っていたのだ。)
君の周りに座っているのは昔からの開発部の重鎮にしてKaijudoのデベロップ・マネージャー、モンス・ジョンソン/Mons Johnsonと、Kaijudoのデベロッパーのスティーブ・ワーナー/Steve Warner、そしてKaijudoのスタッフの中で一番新しいデベロッパーのブライアン・ホーレイ/Brian Hawleyだ。そしてちょうど君がこの会議にいるように、しばしば彼らも知識を広げるためにマジックの会議やプレイテストに参加し、そして同じようにマジックに意見を述べるだろう。
大抵これらのゲーム間を越えたデベロップ会議では、君はマジックのデベロップ会議ほど話そうとはしない。君はこのゲームと印刷された全てのカードを知らないのだ。しかしながら、幸運なことにKaijudoはマジックと多くの類似点を持っていて君の知識の多くが適用できる。結果として君は核心的な楽しさや、何が機能して何が機能しないかの話になると指摘することできる。
......そして事件は会議室で起こった。このチームは、苛立たしい場の停滞を引き起こすことからマジックのセットから最近は排除されてきたものと本質的に等しいカードをデザインしたのだ。君がこの場にいなければ、彼らはマジックのチームと同じプレイテストをして、最終的にそれが厄介な状況を招くことを発見する羽目になったかもしれない。素晴らしい仕事だ。君はまさに貴重なテストプレイの時間の浪費からこのチームを救ったんだ。
デベロップは個別のカードやセットのデベロップを手がけるが、この部署は組織化プレイの仕事もすることがある。開発部の大部分はプロツアーを経験したプレイヤーで構成され、その割合は他のどの部署よりも多い――これは彼らの意見を重要な組織化プレイの決定に加えることは極めて大事だということだ。
「攻撃部隊」は特定の問題に対処するウィザーズ内部のチームだ。そして今回は、君がイベント・カバレージに関わる時が来たんだ。
この会議で君の周りにいるのはやはり開発部から来た二人の大物、開発部ディレクターのアーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe、そして『テーロス』や『イニストラード』のような驚異的なセットのリーダーを務めた上級デベロッパー、エリック・ラウアーだ。ウェブサイト側の代表はDailyMTG.com関連全ての勇敢なるリーダー、トリック・ジャレット/Trick Jarrettだ。さらに「Magic Online」などのビジネス・インテリジェンス・チームの仕事も多く手がけるリー・シャープも参加している。
部屋の後ろで椅子にもたれかかり、ニック・フューリーのように君を見据えているのは、この攻撃部隊を召集したグレッグ・コリンズ/Greg Collinsだ。イベント・カバレージ担当のグレッグはこの会議の意見を全て取り上げ、そしてつなぎ合わせてプロツアーとグランプリのための明確な構成要素にするのだ。
あたかも実際にニック・フューリーの役割を演ずるようにグレッグが切り出す。「お集まりいただき感謝する。本日の任務は最近のプロツアーのカバレージのデック・テク/deck techをいくつか見て、何が機能して何がそうでなかったかを記録することだ。それによって次のイベントで担当のコメンテーターにその情報を伝えられるようになる。」
グレッグは最近のイベントの動画を流し、そして君はその間中どんな小さなことも改善できるよう記録を取る。時々大きな違いができてしまうのはまあ小さなことだ。
その後で、君達は持っているあらゆるアイデアと気付いたことを手早く述べ、そしてグレッグはそれを書き留めていった。注意深く見れば、間違いなくこの反映のいくらかを次のプロツアーのデック・テクで見ることができるだろう。
5時-6時
今日の会議はようやく終わったが、君の仕事が全部終わったわけではない! どのプロジェクトのためにも使える時間が1時間残っている。そしてこの場合、君は何をしたいかちゃんと分かっている――昼前に作ったコントロール・デッキでゲームをプレイすることだ!
作ったデッキをすぐにプレイできないのはまるで痒いところをすぐにかけないような気持ちで、君はデッキをシャッフルして他のデベロッパーのところへゲームをしに向かっていった。
フューチャー・フューチャー・リーグのプレイテスト時間は火曜日と水曜日の両日に全てのデベロッパーのスケジュールの決められた時間に存在する。さらに、FFLチームのメンバーには全体で持ち回りの役割がある。彼らはセットのデベロップ・チームのようだが、唯一の違いはスタンダードにのみ焦点を当てているところだ。彼らはセット全体分の開発時間を1週の中のプレイテスト専用の会議に費やしている。
しかしその時間外であっても、全てのデベロッパーはできるだけFFLでプレイすることを推奨されている。プレイテストのやり過ぎなんてことはありえないからね。
同僚のマジックのデベロッパー、イアン・デューク/Ian Dukeは対戦を熱望して君とプレイするためにいくつか新しいデッキを持ってきた。
まず彼はアグレッシブなデッキを試し、そして大きな問題もなく君は4連勝した。そして試しにイアンはミッドレンジにデッキを替えると突然流れは変化するように見えた。彼のプレインズウォーカーは言うに及ばず、そのデッキがプレイする大きな脅威や撹乱のいくつかに君はうまく対処することができなかったのだ。そのコントロール・デッキは大型クリーチャーを一掃するだけでなく、プレインズウォーカーも対処できる除去を実際に使っていたのに、だ。
それをデッキに加えることは対ビートダウンのゲームにどんな影響があるだろうか? 君は疑い始める。このデッキには既に多くのビートダウン対策があり、このマナ・コストでこれをプレイしているのはミッドレンジ対策をしたいからだが、これがビートダウンに対して有利なわけではないのか?
何人かがバッグを持ってエレベーターに向かうのに気付いて、君の思考は中断される。君は携帯を取り出して時間を見る。6:04だ。
君は一晩中考え込むことになるだろう。君が明日戻ってきたとき、他のデベロッパーに質問することができる。明日はそうしなければならないだろう。
明日は。
マジック開発部のデベロッパーとして1日を一緒に過ごしてくれてどうもありがとう! ウィザーズの平均的な1日の仕事を少しの間楽しんでくれたなら幸いだ。
ウィザーズに戻ってくることに興味があるかい? ウィザーズのウェブサイト内の求人部門に注目していてほしい(リンク先は英語)。気付いたかもしれないが、開発部と交流したり我々の会議に参加したりするのに開発部に入らなければならないわけではないんだ。君がマジックの仕事をしたいなら、ウィザーズよりもそれに適した場所はないだろうね。
もし意見や感想があれば、お気軽にフォーラムに投稿するかツイートを私宛てに送って欲しい。私は君からの話を聞くのが大好きだ! そうでなくとも、私は通常の役割である火曜日のReConstructedに戻って、そこでまた会えるだろう。
そして君が夢をかなえられますように――たとえ1日であっても。
Gavin / @GavinVerhey
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