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ハイドラのできるまで
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ハイドラのできるまで
Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru
2013年10月25日
今回は英雄的特集ですが、私は英雄的メカニズムではなく『テーロス』の「英雄の道」と名づけられた特別なプレイ・キャンペーンについてお話ししようと思います。我々は通常のマジックの発売サイクルに沿った個々のカードや、セットが作り出される時のことについて多くお話ししていますが、デベロップ・チームは他にもエントリーセットやハーフデッキ、そしてこの「英雄の道」のような新たなプロジェクトにも携わっています。
〈英雄の丸呑み/Swallow the Hero Whole〉 アート:Scott Chou |
冒険の呼び声
この物語は私がまだしがないインターンで、この業界で自分の居場所を探していた頃から始まります。最近特別なプレイ体験の陣頭指揮を執り始めたデイブ・ガスキン/Dave Guskinは「英雄の道」キャンペーンに取り組んでおり、その1つに「お店のイベントでハイドラと戦う」というアイデアがありました。奈落のメンバーの多くはその投げかけられたアイデアに興味を示しましたが、彼らは『テーロス』のデベロップと 「Huey」のデザインをしており時間がありませんでした。そんなところに私がやってきたのです。
新人インターンの持つアドバンテージの1つは他の社員やインターンよりも暇なことであり、そして私は考えついたことを世界に発表する絶好のチャンスを得ました。これはまた競技マジックの腕前だけでなく、私のゲームデザイナーとしての手腕を試す素晴らしいテストでもありました。
私は元開発部のインターン、ピーター・ナトソン/Peter Knudsonのデザインした大群マジックを基にしてプロトタイプを組み立てました。このアイデアは次から次へと襲ってくるゾンビの代わりに、ハイドラの頭が次々に生えてくるというもので、それぞれの頭は異なったエンチャントの能力(結局のところこのセットはエンチャントがテーマです)を持っていました。このバージョンでは、ゲームの目標はハイドラのライブラリーを削りきることでした。ハイドラはゲーム開始時に無作為に選ばれた3つの頭を持っており、ハイドラのターンにライブラリーの一番上をめくってそれを唱えていました。ハイドラのデッキの何枚かは各クリーチャーに1点のダメージを与えるなどの小さな呪文で、そのほかは頭で構成されていました。そしてハイドラの頭が死亡すると、他の頭が出るまでライブラリーを削り、そしてその頭を唱えます。ライブラリーを削りきり、最後の頭を倒せばプレイヤーの勝利です。このバージョンでは、勝利することはすなわち12の頭を倒すことを意味していました。
左:〈面倒な頭〉 プレイヤーの唱える呪文は、それを唱えるためのコストが{1}多くなる。
中央:〈武装した頭〉 ハイドラの行動は打ち消されず、頭は呪文や能力の対象にならない。
右:〈炎の頭〉 終了ステップの開始時に、(カード名)は各プレイヤーにそれぞれ1点のダメージを与える。
どんなに良い出来であっても、探し求める目標のうちいくつかを達成していても、プロトタイプというものには多くの改良点が残されているものです。このバージョンも例外ではありませんでした。これの最もはっきりした問題は、全ての頭が違う能力を持ち、一部の頭しかダメージを与えないので、このゲームがプリズン・デッキとプレイしているように感じられたことでした。上の画像にある〈面倒な頭〉のようなカードはゲーム後半ではとても弱い上に、ゲームの序盤を無茶苦茶にしてしまいます。これらのうちいくつかは開始時の頭を固定することで調整されましたが、それだけでは問題は解決しませんでした。
同じ頃、デュエル・マスターズとKaijudoの元リード・デザイナー、ライアン・ミラー/Ryan Millerが、カードで頭を表現し、各ハイドラのターンにライブラリーの一番上をめくる彼のバージョンのハイドラ・デッキを作ってきました。このデッキは実際のマジックのクリーチャーを唱え、その他の呪文はハイドラの唱える呪文でした。ハイドラの頭の数がが右上の数字以上あれば、ハイドラは呪文を唱えます。そうでない場合は、ハイドラのリソース置き場に行き、それ以降の呪文を唱えるための「頭」として機能します。このバージョンのデザインにはとても良いものが多くありましたが、自動で動かすには少し複雑すぎ、攻撃とブロックを含め人間に決定を要求しました。
左:〈焦熱の終わり〉
全ての人間・プレイヤーと各クリーチャーに3点のダメージを与える。
全ての人間・プレイヤーと各クリーチャーに10点のダメージを与える。
右:〈集団精神支配〉
各敵はそのコントロールするクリーチャーを1体選ぶ。それのコントロールを得る。
各敵のコントロールする点数で見たマナ・コストの最も高いクリーチャーのコントロールを得る。複数いる場合、それらから無作為に選ぶ。
最終的に、実際のプロトタイプを作る仕事が正式に私に任されたとき、私は自分とライアンの両方のデザインの要素を取り入れ、より面白い呪文の効果と、ハイドラの頭が一定数あるときに起こる閾値効果をいくつか作りました。数週間このプロトタイプをいじくり回し、私はこれをこの製品のリード・デザイナー、ケン・ネーグル/Ken Nagleに引き渡しました。
品質を向上させ続ける
デザインとデベロップの間の相互作用は、我々を部署として強固なものにする要素の1つです。とは言え、私のゲームは機能するように見えても、良いものからは程遠いかもしれません。開発部にデザインとデベロップの両方のチームがある理由の1つは、セットを他の人に引き渡すことが製品の品質向上につながると分かったからです。というわけで、このハイドラには別の角度から時間を費やし、新しいことに挑戦する誰かが必要でした。私にはこのセットで達成したい目標がありましたが、ケンもまた目標をもっていました。実際に彼は私が描いたこのハイドラをはるかに面白いものにすることができました。
ハイドラ・デッキがデザインから戻ってきたときには多くの変更が加えられていました。ケンはいくつかの「必殺技」呪文を含んだ、楽しく興味深い頭と呪文のデザインを作り出す素晴らしい仕事をし、そしてプレイヤーたちの新しい楽しみを生み出しました。また彼はハイドラの頭の能力がタップ状態だと機能しないようにし、頭をタップするためにそれを攻撃できる、などのいくつかのルールを追加しました。これはプレイヤーに、自動のプログラムが相手でも実際に対戦相手とやり取りをしているような感覚をより大きくさせ、それは私が右往左往してやろうとしていたことをはるかによく描いていました。
左:〈武装した頭〉 タップ状態で戦場に出る。これがアンタップ状態である限り他のハイドラの頭は呪文や能力の対象にならない。
中央:〈酸の頭〉 タップ状態で戦場に出る。各ターンの終了時にこれがアンタップ状態である場合、酸の頭はあなたにアンタップ状態のハイドラの頭に等しい数のダメージを与える。
右:〈鳴き叫ぶ頭〉 これがアンタップ状態である限り、クリーチャーは-1/-0の修正を受ける。
私はハイドラ・デッキのために週に2時間会議をする小チームのリーダーの役割を与えられました。チームのメンバーはマジックの主席デベロッパー、エリック・ラウアー/Erik Lauerと、組織化プレイ部門で働いており店舗でハイドラのゲームデーを行うことの連絡責任者の1人になるであろうチャールズ・ラプキン/Charles Rapkinの2人です。
デベロップでの最初のプレイテストで、その時点でのデザインの多くの長所と短所が示されました。エリック・ラウアーのデベロッパーとしての最大の長所の1つは、彼は常にルールを守るわけではないところです。プレイヤーが行うと考えられていた明確な目標が全て定められていましたが、彼はすぐさま反対のことをしました――わざと頭を殺さなかったのです。頭をタップさせることはプレイヤーに多くの戦略的決断をもたらしましたが、それはしばしばゲームを簡単すぎるものにしてしまいました。何体かの早いクリーチャーでプレイヤーがハイドラの頭を「栽培」すれば、プレイヤーは全ての頭を同時に殺せるようになるまで生き延びることができたのです。
他に行われた変更は、頭は攻撃するときにタップせずターンの終わりにアンタップ状態の頭がダメージを与えるようになったことと、頭が場を離れたときに誘発する「頭の新生」が加えられたことでした。ハイドラとの駆け引きのためにプレイヤーが望めば頭をタップできます(そして英雄カードはそのチャンスを与えてくれるでしょう)が、それにしても、「ハイドラ」を行うことと、ハイドラの頭をどこかの時点で切り落とすする必要があることになりました。
シンプルなままに
私が推奨しており、そして最初期のバージョンからあった道具の1つが、ルールと始めるときの説明が書いてあるプレイマットでした。私の考えでは、それは誰か教える人がいないお店のために、1人でプレイするときにだけ機能するものでした。プレイヤーが1人でもプレイできるように、ハイドラのルールは直感的で簡単でなければなりません。しかしこれにはいくつか問題がありました。これの利点はプレイヤーがゲームを始める前にルールを覚える必要がないということですが、そのためにはルールを小さなスペースに記入する必要があり、そのためには本当に重要なことだけを書かなければなりませんでした。
ルールが全体的に簡単になったのはこの頃ですが、結果的に素晴らしいものになったと私は考えています。「精鋭」と通常の頭の概念は、ゲームの始め方を分かりやすくさせるとともに、さらに多くの多様性をこのゲームにもたらしました。精鋭の頭はエンチャントの能力から楽しいものをいくつかを取り、それを誘発型能力に変えました。また通常の頭が死亡して精鋭の頭が現れた時は、映画『ジョーズ』の「この船じゃ小さすぎる......」の瞬間を彷彿とさせます。
私が受け取った意見のうちいくつかは、ハイドラが《漸増爆弾》や《精神削り》のようなカードに対して弱い、というものでした。最初期のバージョンのルールではそれを解決しようと試みましたが、私はすぐに全てを修正しようと試みることは労力に見合わないと学びました。これを機能させようとする最初期の試みでは、全てのカードを合理的な方法でハイドラとのやり取りを想像できるようにしようとしましたが、それはプレイヤーに「今の状況が、印刷されているどの特例なのか」を見つけ出すために毎回ルールを読み直させるだけでした。それらの問題に一々取り組むよりも、我々は最終的に「楽しくあれ」という大原則に従うためにそれらを切り詰めました。もしプレイヤーがハイドラ対策をした特別なデッキでこれを倒そうとするのなら、それはそれで構いません。ルールを扱いやすいレベルに維持することのほうがはるかに大事なのです。
英雄の報酬
開発部が製品をテストするための最も頼れる助っ人は、開発部の中ではなく、1つ上の階のカスタマー・サービスからやってきます。もしあなたが問題を解決しようと我々に電話したことがあるならば、カスタマー・サービスの代表と話したことがあるかもしれません。カスタマー・サービスで働くことの特典の1つは、定期的に奈落へやってきて新しいセットや他の製品のプレイテストができることです。開発部内の人間はゲーム・プレイやデザインの細かいところを見すぎてしまうので、露骨で明らかなことを見逃してしまう恐れがあります。カスタマー・サービスのテストプレイヤーの素晴らしいところは、その製品に慣れていない人たちがどのように我々の作ったものを扱うかを見せてくれるところです。
〈弱点への一撃/Strike the Weak Spot〉 アート:Jason A. Engle |
カスタマー・サービスによるプレイテストで判明したのは、プレイヤーが多くのダメージを受けてハイドラとダメージ・レースをしている場合、戦いの多くが最初の数ターンで決着してしまうことでした。デッキにライフ獲得手段が入っていなければ、それは叙事詩の戦いというよりも、万力がゆっくりプレイヤーを潰していくように感じるでしょう。足場を固める前に最初の数ターンでライフが少なくなり、残りの数ターンでハイドラを倒せなければ呪文によって倒されるだけでは、カスタマー・サービスが表したように不満が出るでしょう。
次のターンに受けるダメージが今よりも酷くなることがあるので、しばしば彼らは頭を殺したがらないようになり、我々はこのゲームの開始ターンの難易度を下げようと試みましたが、そうするとハイドラが脅威にならず勝負がついてしまうことがしばしば起こりました。ちょうどいいぐらいのレベルでこのデッキを機能させることは不可能のように思われました。
ケン・ネーグルと話していたとき、彼は多くのコンピューターゲームに任務を達成したときにライフが回復できる報酬システムがあると教えてくれました。この会話から、プレイヤーが頭を倒したときに報酬を与えるというアイデアが浮かびました。これが英雄の報酬メカニズムの成り立ちです。我々はすぐにゲーム初期のハイドラの性能を上げられることと、しばしばプレイヤーが頭を1つか2つ倒すまで絶望感を抱いていることに気がつきました。そのプレイヤーは回復を図りますが、ハイドラの運がいいだけで再び死にそうになります。このメカニズムによって、プレイヤーとハイドラの間の応酬は現実のものとなり、このゲーム全体を単なるダメージ・レースよりもっと互いのやり取りのある戦いにしました。
これがハイドラのデベロップの最後の部分ではありませんが、今の形に至るまでの最後の大きな変更です。私がここで取り上げた以外にも、多くの人たちによって多くの取り組みが行われました――デイブ・ガスキンのこのプロジェクトへの継続的な支持、クリエイティブのコンセプトの作成およびイラストの発注とカードの枠のデザイン、編集チームの筋が通っているだけでなく実際に機能するルールの把握がこの製品を販売できるバージョンにしました。ウィザーズのあらゆる製品は膨大な数の人の手を経ており、そして彼らは全員が可能限り取り組んできちんと動くようにすることを要求します。
英雄の旅
私は我々が「ハイドラとの対峙」を何とか完成させたことをとても誇りに思っています。我々は「ハイドラとの対峙」のデッキをデザインする中で多くの良いものを得たと思いますが、それらには常に改良の余地があります。私は様々な人達から多くのとても興味深いルールの提案や、リミテッドから統率者戦にまで対応させるアイデアを聞きました。人々に、彼らなりのチャレンジデッキを作ろうとさせることや、これを彼らがプレイしているフォーマットに対応させるよう促すことは、私がこのプロジェクトで常に望んでいたことです。
私は皆さんが「英雄の道」のこの段階を楽しんでほしいと願い、そして来年、我々が次の段階を提供できることを楽しみにしています。
ではまた来週お会いしましょう。
サムより(@samstod)
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