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スタンダードのデベロップ
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スタンダードのデベロップ
Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru
2013年2月15日
この間の週末はプロツアー「ギルド門侵犯」で、新たなスタンダード環境を見る最初のプロツアー・レベルのイベントでした。我々ウィザーズは、多くのプレイヤーがここ数年のスタンダードのメタゲームの中で最もバランスが取れていて多様性があると言っているラヴニカへの回帰の最終的なメタゲームをとても嬉しく思っています。ギルド門侵犯でこのフォーマットに残り半分のショックランドが加わり、それらの影響もすぐに現れるでしょうが、《ボロスの反攻者》や《ドムリ・ラーデ》、《幽霊議員オブゼダート》などもまた強力です。私はプロツアーでプロたちが何を考え出すかを見ること、そしてメタゲームが新しいセットを取り込んでどんな進化を遂げるかということに興奮しています。
《幽霊議員オブゼダート》 アート: Svetlin Velinov |
構築の観点から言うと、スタンダードはデベロップの過程で最も検討されているフォーマットです。理由はとても簡単、認定マッチの数から最も一般的な構築フォーマットで、モダンやレガシーに比べてテストがしやすいからです。ほとんどのデベロッパー達は週最低8時間はデッキ構築に時間を費やし、その後お互いにプレイして、我々のスタンダードのメタゲームに何が起こっているかを討論するために会議をします。毎週あるフューチャー・フューチャー・リーグ(以下FFL)のミーティングでカードのマナ・コストやパワーとタフネスを調整されないことは珍しく、セットがFFLに入った最初の数週間はなおさらです。
平等化
私がここで働き出して驚いたことの一つは、実際にデベロップで行う個々のデッキのバランス調整が、私が想像したような方法ではなかったことでした。私は現実世界のメタゲームを作り上げるようなデッキを考え出す多くの作業を期待していましたが、それはFFLの目的ではありませんでした。その目的は適正なパワーレベルの、現実世界でそれらのカードでメタゲームを構築することが可能な個々のカードを得ることです。理由はとても簡単、我々は多くの事柄を間違います。未来において完璧にバランスの取れたメタゲームに必要とされるようなデッキを注意深く作り上げようとしたなら(おそらくは派手な形で)失敗するのは必然でしょうし、その失敗を解決するカードを印刷するのに数ヶ月かかるでしょう。例えばFFLでは5マナ域のクリーチャーは《スラーグ牙》ではなく《ウルフィーの銀心》が基本でした。私は《ウルフィーの銀心》はもっと注目に値すると思いますが、一方で我々のカードセットのバランス調整が《ウルフィーの銀心》にあわせたものにならなかったことを嬉しく思っています。これは《スラーグ牙》が人気カードである場合、それが現実のメタゲームを破壊しないことを意味しています。我々の予想とは違いはしましたが、依然として健全なままです。
結果的に、我々が現実世界ほど《スラーグ牙》をプレイしなかったことはクレイジーに見えるかも知れませんが、FFLのデッキが完璧に調整されることはめったにありません。我々は現実世界の2週目か3週目に挙がるものの80?90%のものを得られるかもしれませんが、少数のデッキを「深く」調整する時間は「広く」多くのデッキを試す時間よりも少ないのです。我々が取り組んでいるカードは頻繁に変更がなされていて、もしちょっと強すぎるからと言って4/4を3/4にしたり、マナ・コストや起動型能力のマナを増やしたりすると、あっという間に素晴らしい調整のための多くの働きが失われてしまいます。
また、我々がFFLで作ったデッキの多くは現実世界で見られることはありません。その理由は、我々が1つか2つカードを変化させて、超強力なバージョンのデッキは現実世界には存在しないからであったり、単に我々の調整不足のバージョンのデッキではメタゲーム上位のデッキを倒すことができないからだったりします。現実世界に存在しているこれらのデッキをあてにしてメタゲームの健全さを図ることは危険な道です。カード自体がバランスが取れているかを確認することは、健全なメタゲームの発生を保証するはるかに安全な方法です。
健全なメタゲームの構築
以前言及したように、我々は完全にバランスの取れたゲームを目指したメタゲームを注意深く形成する代わりに、健全なメタゲームのブロックを構築することが一般的に最重要だと気づきました。しかしながらこれは我々がこれらのブロックに力を注がない、ということではありません。これは全てのデベロッパーの仕事のうち大きな部分を占めていて、そしてそれは年々次第に良くなってきています。
スタークラフト(訳注:アメリカのビデオゲーム)のようなゲームはそれぞれの派閥の間で完璧なバランスを保っていたことで過去に絶賛されていて、そしてそれは人々に、我々はなぜその目標に向かって進まないのか、という疑問をもたらしました。簡単に言うと、スタークラフトや他のビデオゲームには、バランス調整の分野で我々にはないとても大きなアドバンテージがあったのです。これらは何十万時間ものプレイで強すぎたり弱すぎたりするものが明らかになったものにパッチを当てました。我々はインスタントをソーサリーに変えたり、カードのコストを増減したりするステッカーを送付することはできません。我々は我々が印刷したものに縛られています。セットが発売された後にできるならば変更をしたいと思うことはいつもあります。例えば、もし戻れるのなら我々は多分《ボロスの反攻者》の報復のダメージを対象の他のクリーチャーに与えるように変えるでしょう。それによって、「破壊されない」と絆魂の無限ループがはるかに発生しにくくなります。しかし現実は、メタゲームが3枚コンボに対処できるぐらい十分に頑丈であることを信頼するしかありません。このようなことに対処するのにメタゲームに頼る必要がなければいいのですが、これのような相互作用をデベロップで捕まえられなかったとき、我々が努力してより緩いバランスにしたことは、弾力性をより強くし、そしてゲームを全体的に頑強にすると信じています。
では、どうやって健全なメタゲームを作るのでしょうか? 基本はこんな感じです。
1. デッキが十分にあるか確かめる
元デベロッパーであるザック・ヒル/Zac Hillは我々が異なった戦略を表すのに使う「バケツ」についての記事を去年書きました。記事を読むのが面倒な人のために簡単に説明すると、それはアグロ、ミッドレンジ、ランプ/コンボ、コントロール、撹乱的アグロの分類についてです。これらそれぞれのバケツは、ほとんどのマジックのデッキが分類される基本的な戦略です。スタンダードのプレイテストをする間に焦点を当てる事柄の一つに、これらのバケツを十分満たすデッキがあることを確認する、というものがあります。我々はアグロ・ゾンビが、例えばエスパー・コントロールに対して適正な勝率になるかどうかを厳密に確かめることに焦点を当てようとはしません。代わりに、これら全てのデッキが可能になるのに十分なカードがあるかどうか、そして1つの戦略が多すぎる手段を得ないことを確かめます。もし誰もFFLで新しいコントロールを作らない、もしくはイベントで誰もプレイしたがらない場合は、その後で我々は何が起こっているのかを見て、何が問題なのかを考える必要があります。アグロ・デッキが強すぎるためにいくつかのカードを調整する必要があるかもしれませんし、もしくはコントロール・デッキをミッドレンジ・デッキよりも魅力的にするための強力なゲーム後半用のカードが不足しているのかもしれません。我々はFFLの全ての人々が違ったデッキをプレイして幸せになれて、そしてゲームを楽しめる環境を目指して努力しています。
2. デッキに進化の余地を与える
いったん、そのデッキにフォーマットの中で競争するのに十分なカードがあることが分かると、さらに我々はそれらに変化する余地があるかどうかを確かめます。ほとんどのメタゲームでは、これはつまり他のデッキと戦うために毎週よりよい調整ができる十分な広さがカードプールにあるかを確かめるということです。我々はデッキが75枚を満たすのに十分なカードがあることだけを求めているのではありません。現実世界のメタゲームに、よりよく適応するデッキを構築する違った方法があるべきです。
《実験体》 アート:Chase Stone |
これが現実世界で起こる最も顕著な面の一つはコントロール・デッキの中にあり、そしてそれはタップアウト・コントロール対打ち消し呪文コントロールについての問題です。伝統的に、ほとんどのコントロールは打ち消し呪文を2ゲーム目と3ゲーム目はサイドアウトして除去を追加する傾向にあるので、タップアウト・コントロールは打ち消し呪文コントロールよりもクリーチャーに基づいた戦略に対して有利です。その結果、いくつかのメタゲームでは人々はそういった構成から始めて、サイドボードに打ち消し呪文を入れる(あるいはサイドボードにも入れない)ということが起こります。その結果、コントロールが食い物にしがちなアグロが減り、打ち消しに弱いコンボとランプが増えることになるでしょう。この時期は、多くのアグロが、コントロールの打ち消し呪文の不足とミッドレンジに対してより強くなるために、低マナ域のクリーチャーから離れて高コストの呪文を持つようになるでしょう。この時点で打ち消し呪文を備えたコントロールをイベントに持ち込む人はそのフォーマットで有利になり、勝利するチャンスがより多くなるでしょう。このように生命のサイクルは続いて行き、メタゲームは他のデッキの動きに対抗するために新たな戦略を採用するデッキによって毎週毎週進化していくのです。
この輪舞の美しさは我々が人為的に作ったものではないところにあります。これは自然に起こるもので、我々はただそれが起こりうる余地を与える必要があるだけです。理想的には、できれば我々は人々に何も強制したくはありません。現実世界は複雑な計算や新しいことを試す点において我々よりもはるかに優れています。代わりに、我々はこの数年でどんな手段がその存在に必要なのかを学び、そしてそれらを供給することが求められているだけなのです。かけられる時間が違うので、現実世界はやはり私達がするよりもはるかに面白く、そして楽しいデッキを考え出します。まさにプレイヤーが時間を費やして考え出そうとしているデッキの種を私達が蒔いたマジックのゲームは、私達が今プレイしているものと同一のゲームではないのです。
3. 安全弁をフォーマットに仕込んでおく
我々が確かめるべき最後の事柄は、手に負えないデッキや戦略をなくすことです。これはしばしば、メインデッキでのプレイには全く不十分に見えながらも、メタゲームが一つの方向に行き過ぎた場合素晴らしい効果をもたらす、狭いカードをフォーマットに入れることを意味しています。例えば《殺戮遊戯》はほとんどのメタゲームで極めて強力、というわけではありませんが、多くのデッキが1枚のカードに極度に頼る場合、それらの戦略を叩き潰すためにすぐにサイドボードに、もしくはメインデッキにさえ入ります。
これの最も一般的な形は墓地対策でしょう。ギルド門侵犯発売後最初の大きなトーナメントで優勝したデッキの一つは《悪鬼の狩人》《高原の狩りの達人》《カルテルの貴種》を《栄光の目覚めの天使》で墓地から戻してループを起こし、大量のライフと狼トークンを得るコンボを搭載していました。このコンボはFFLで発見されましたが、そのデッキから何かを排除されるほど強すぎないと判断されたものでした。強力すぎなければ、我々はこのようなデッキが存在することを好みます。それらはゲームに面白い局面を多く加えますし、コンボに伴うリスク以上の価値があります。今回はプレイテストで捕まえたデッキでしたが、我々がそれを見逃してしまったとしても、対処は可能です。理由の一つは安全弁をフォーマットに仕込んでおいたからです。我々がミスをした場合、フォーマットにはカードを禁止したり対策カードを一年後に印刷したりせずに対処する手段があります(その時点でダメージはすでに負っています)。
墓地を使うデッキが強力すぎると分かれば、プレイヤーは《死儀礼のシャーマン》をメインデッキに入れたり、《安らかなる眠り》や《トーモッドの墓所》をサイドボードに入れるでしょう。同じように、アーティファクト、クリーチャー、エンチャント除去も、それらのカードが強力すぎるようになった場合に人々が使えるよう、必要以上に用意してあります。
行ってみよう
デベロップの過程は鉛筆を置く時を迎え、そして我々はカードを送り、編集され、各国語に翻訳され、イラストがつき、最終的に印刷されます。デザイン・チームのビジョンの実行過程において、我々の力によってそのセットを楽しくバランスの取れたものにした、と信じるべき、まさにその時です。
《予想外の結果》 アート:Mike Bierek |
現実世界の約一年先の仕事をすることに慣れるのは時間がかかります。それは矢を射ることに似ていますが、風を計るために前の射撃を利用することはできず、昨日撃った矢を利用するしかありません。幸運なことに、我々はこのことに関してかなり上達してきました。確かに、その時からあなたが実際に手に入れるまでの間に発見されてしまうカードはかなりありますが、カードが市場に出るまでは我々が開発したセットがどのようにプレイされるか正確に知ることはあまりできないのです。我々はお気に入りのカードがあり、そしてそれらが我々が思うのと同じぐらい愛される価値があると期待していますが、予想外のものを期待もしています。予想外のものは、我々によりよいデータを与えてくれて、将来よりよいセットを作る助けになるので、どんな変化がプロツアーでもたらされるかに、皆さんと同じように興奮しています。
もし時間があればプロツアー「ギルド門侵犯」の結果をチェックしてみてください。でもあなたがそうしなくても、我々がそのセットをまとめて楽しんだのと同じぐらいに、あなたがそのセットに時間を費やして楽しんでくれることを願っています。
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