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マジック:ザ・ギャザリング『Fallout』統率者デッキをデザインする
2024年2月27日
こんにちは! 私はマジック:ザ・ギャザリング『Fallout』統率者デッキのリード・デザイナーを務めました、アニー・サルデリス/Annie Sardelisです。「Fallout」は、数々の賞を受賞している「Bethesda Game Studios」による、核戦争後の終末世界を舞台にしたロールプレイングゲームで、私はこのシリーズが大のお気に入りです。何年も前にワシントンDCの地下鉄の駅を歩いていたとき、私の目はパワーアーマーに身を包んだ鋼鉄の同志の兵士が描かれた「Fallout3」の巨大広告に釘付けになりました。それ以来、キャピタル・ウェイストランドでスーパーミュータントをふっ飛ばしながらスリードッグのラジオを聞いていると、現実のワシントンDCがとても平凡なものに感じるようになりました。
「Fallout」に馴染みのない方へ、簡単にご紹介しましょう。「Fallout」は、核戦争後の終末世界を舞台にしたロールプレイングゲームです。ゲームの舞台となるのは、2度にわたる巨大な技術的進歩によって原子力が手に負えないものになり、世界のほぼすべてが破壊し尽くされた別の未来です。地下の「Vault」にいた人類は生き残り、放射線に汚染されたウェイストランドへと出ていきます。「Fallout」シリーズのゲームではそれぞれアメリカの異なる地域を探検し、そこでは記念碑やスーパーマーケット、ソーダ工場、ドライブインシアターなど、過去の断片が見つかります。
「Fallout」の世界には戦火に引き裂かれた歴史がありますが、ゲームは楽しくプレイでき、ときには笑いを誘うおかしさもあります。ですがもちろん、対処すべき深刻な問題もあります。ミュータントの怪物や放射線に汚染された食物、冷酷なレイダーたち……それでもこの世界は魅力や未知のものにあふれ、誰もが恋に落ちずにはいられないのです。最大の難関は、この素晴らしいゲームの要素を4つの統率者デッキにできる限り多く収めることでした。
ここで、このセットをともに実現させた私の仲間たちを紹介させてください。
まずはイーサン・フライシャー/Ethan Fleischer。イーサンは「ユニバースビヨンド」全体のデザイン哲学を監督しています。『指輪物語:中つ国の伝承』と『Warhammer 40,000』統率者デッキを指揮した彼の経験は、マジックと「Fallout」を織り込んでそれぞれの強みを引き出す助けになりました。私は以前、イーサンの指揮下で統率者デッキをデザインしたことがあります。ここでもその知識を活かし、最後まで走り切ることができました。ありがとう、イーサン!(「Fallout」でお気に入りの曲:インク・スポッツの「Maybe」)
ダニエル・ホルト/Daniel Holtは、このチームに参加する以前に「Fallout」のゲームをプレイした経験はありませんが、統率者のデザイン経験が豊富です。「ミュータントの脅威」デッキのデザインを任された彼はミュータントの物語へ真っ先に飛び込み、FEV(強制進化ウイルス)とユニークなクリーチャー・デザインのアイデアまみれになりながら出てきました。ダニエルは統率者コミュニティに精通しており、マジック・プレイヤーが広く求めるクールなデザインを目指す助けになりました。(「Fallout」でお気に入りの曲:ビング・クロスビーとアンドリューズ・シスターズの「Pistol Packin' Mama」)
レジー・ヴァルク/Reggie Valkは『Fallout』で初めて統率者チームに参加し、「シーザー万歳」デッキのデザインを率いました。このセットを作る仕事のために「Fallout: New Vegas」のプレイを少し中断してくれたのが嬉しかったです。皆さんがトップダウン・デザインのカードを見て「当然こうだよな」と思ったなら、それはきっとレジーのしわざでしょう。(「Fallout」でお気に入りの曲:マーティ・ロビンスの「Big Iron」)
クリス・ムーニー/Chris Mooneyも「Fallout」の専門家であり、豊富な知識を活かしてよりニッチな伝説のキャラクターをデザインしました。「科学の力!」デッキを担当した他に「たくましき生存者たち」デッキの作成にも協力してくれて、統率者デッキを楽しくも実戦的にするためのデザイン上のギャップを見つけてくれました。(「Fallout」でお気に入りの曲:ディオンの「The Wanderer」)
そして私です! 「たくましき生存者たち」デッキのデザインを率いましたが、できることならトンネルスネークに入りたいですね。最強!ですから。(「Fallout」でお気に入りの曲:ワイノニー・ハリスの「Grandma Plays the Numbers」)
それから、アート・ディレクター(リード:マット・カヴォッタ/Matt Cavotta)、クリエイティブ・テキストライター(リード:ディロン・ドゥヴネイ/Dillon Deveney)、世界構築ゲーム・デザイナー(リード:ミゲル・ロペス/Miguel Lopez)で構成されたクリエイティブ・チームのみんなにも、心から感謝を。アートやフレイバー・テキストを通して、「Fallout」シリーズの情趣をしっかりと付けてくれました。エディターのデル・ロージェル/Del Laugelは、私たちが作ったクレイジーなカードに意味を持たせてくれました。そしてプロダクト・アーキテクトのザキール・ゴードン/Zakeel Gordonは、この製品を素晴らしいものに仕上げるためにあらゆるチャンスをものにしてくれました。
《デスクロー・アルファ》 | アート:Daarken |
グラウンド・ゼロ
このプロジェクトが始まったとき、私たちが最初に取り組まなければならなかったのは「Fallout」の世界を4つのデッキに分ける方法を見出すことでした。私たちは、「Fallout」シリーズの主要ラインアップ(「Fallout」、「Fallout 2)、「Fallout 3」、「Fallout: New Vegas」、「Fallout 4」、「Fallout 76」)から、それぞれの要素を取り入れたいと思いました。それから鋼鉄の同志や新カリフォルニア共和国、エンクレイヴ、インスティチュートといった陣営も表現したいと考えました。しかし各ゲームは舞台となる時代も地域もさまざまで、これらを組み合わせるのは少々骨が折れる仕事でした。皆さんがプレイしているゲームによっては、登場しなかったり存在しなかったり、あるいは時代とともにその哲学が変化したりする陣営があるかもしれません。特定のデッキで他のデッキよりも特定のゲームや陣営に寄せていることを表現することはできますが、私たちが選んだのは、もっと「Fallout」のゲームをプレイしているときの全般的な体験を捉えることでした。「Fallout」の世界は広大なため、チームがお気に入りのキャラクターやシーンなどをデザインしていくにつれて、どのカードにも居場所を用意したくなっていったのです。
それでは、これらのデッキを作成する中で行われたデザイン上の決断や新規メカニズムについて、語っていきましょう。
「たくましき生存者たち」
デッキの顔となる伝説のクリーチャーを考える上で、私にはどうしても譲れないキャラクターがいました――ドッグミートです。姿形や大きさに違いはありますが、ドッグミートが最高の犬であることはシリーズを通して変わりません。そこで私は考えさせられました。統率者戦のゲームにおいて「私たちプレイヤー」は何者なのか、と。私は普段、それは私が選んだ統率者だと思っていました。選ばれし者や運び屋、孤独な放浪者など、「Fallout」におけるプレイヤー・キャラクターをカードにすることについても考えましたが、「Fallout」ではプレイヤーが何者で、何をするのかを自分で決められるため、それらのカードをどうするのか決めるのは難しいという結論に至りました。そこで私たちは、プレイヤー・キャラクターではなくノンプレイヤー・キャラクターを推し出すことにしました。NPCはそれぞれの物語や動機を持っており、誰を旅のお供に選ぶかはプレイヤーのプレイスタイルが出やすいのです。例えばプレストン・ガービーと行動をともにした方はみな、ミニッツメンにとって居住地がどれだけ重要か知っているため、私たちは彼のカードを「居住地」という名前のオーラ・トークンをあなたの土地にエンチャントするものにデザインしました。あなたが選んだコンパニオンやデッキがあなた自身を表現し、そのデッキを扱う人物として「Vaultの住人」の感覚も味わえるのではないかと私たちは考えています。それは「Fallout」のゲームにおけるロールプレイングとよく似た体験になるでしょう。
「たくましき生存者たち」(赤緑白)
ドッグミート……取ってこい!
次に目指したのは、「Fallout」らしさを感じられるメカニズムを探すことでした。終末世界でなんとか生き抜いていく感覚を味わえるよう、私は核戦争以前から世界に残されたジャンクを表現するアーティファクト・トークンが必要だと思いました。宝物・トークンはボトルキャップ(「Fallout」世界における通貨)を表現し、食物トークンは(リスのサクサク角切りや肉詰めといった)ユニークな食品の数々を表現するのに割り当てられましたが、卓上ファンやダクトテープ、歯ブラシを表現するものがなかったのです。それなら私が、トラシュカン・カーラの誇りにかけて成し遂げなければなりません。新たな「ジャンク・トークン」は、デッキを掘り進めてそのターンにプレイできる便利なものを探せます。追放したものを唱えられるだけのマナが準備できるまで温存したり、プレイの選択肢を見てから動きを決めたり、といったことができるでしょう。「ジャンク」と聞くと使い物にならないのではないかと思われるかもしれませんが、「Fallout」の世界では売ってボトルキャップに換えたり、武器や防具を改造したり、シェルターを作ったりと、驚くほど有用です。さあ、皆さんも外に出てジャンクを集めましょう!
ジャンク・トークン
食物・トークン
宝物・トークン
「ミュータントの脅威」
新規メカニズムといえば、とりわけ野心的な「RADカウンター」についてお話ししましょう。「Fallout」では、放射線が風景を完全に歪めています。この「部屋の中の放射線汚染された象」問題を扱う上で、既存の「変容/mutate」ではルールが「Fallout」におけるミュータントの創造と噛み合いませんでした。「Fallout」では、人間でない動物と同様に、人間も突然変異するのです。そのため、変容と同じくらい野心的でユニークなメカニズムを見つけたいと私は思いました。「Fallout」シリーズでは、どのゲームでも放射能に対処しなければならないのですから。そこで私は、「あなたはプレイヤー・キャラクターである」という命題に則って、プレイヤーに放射線を照射したいと考えました。「Fallout」にもマジックにも、ライフ総量(ヒットポイント)があります。それなら被ばく量も記録するのが自然というものでしょう。
「ミュータントの脅威」(黒緑青)
あの輝く紫の瞳を愛さずにいられましょうか?
「放射能」のルールは、「あなたの戦闘前メイン・フェイズの開始時に、あなたがRADカウンターを持っている場合、その個数に等しい枚数のカードを切削する。これにより切削されて土地でないカード1枚につき、あなたは1点のライフを失い、あなたの持つRADカウンター1個を取り除く。」となっています。RADカウンターの詳細はクリス・ムーニーが詰めたのですが、ランダム要素のある方法でライフを失わせるようにしたそうです。これにより、あなたがRADカウンターを持っていてライフも心もとない状況でも、次のターンまで生き残る希望があります。半減期を参考にRADカウンターを半分取り除くのを試したときもありましたが、ちょっとした計算のためにプレイが中断されるのは望ましくありませんでした。RADカウンターは、プレイヤーが持つには良くないものですが、《マイアラーク・クイーン》や《金切り声のスコーチビースト》といったミュータント・クリーチャーの多くはRADカウンターによって強化されます。この二面性こそが「Fallout」の世界における放射能の影響を表現する助けとなり、デッキのプレイスタイルにさらなる質感をもたらします。「増殖」に墓地利用、+1/+1カウンター、切削、そして自己切削。私たちはあらゆる角度から新規カードをデザインし、再録カードを見つけていったのです。
「科学の力!」
「Fallout」の持つ独特な雰囲気は、楽観的なレトロフューチャーと放射能によって荒廃した土地の恐怖が同時に存在することで生まれています。のどかな郊外の街路をデスクローが歩く光景。ウェイストランドの恐怖について教えてくれる、作り笑いのVault Boy。そしてパワーアーマーやロボット、レーザーといった戦前の未来的な技術と、こじんまりとしたシェルター。鋼鉄の同志やインスティチュートは戦前の技術を自分たちのために維持しており、それらのハイテクな陣営に属さない者は、スカベンジング(やそれらの陣営からの略奪)で生きていくことになります。そこで私たちは、技術の原動力となる希少で価値ある資源に目を向けました。そのことを念頭に、リソースに関わるマジックの既存メカニズムを通して見てみると、「エネルギー・カウンター」がぴったり当てはまったのです。
「科学の力!」(青白赤)
Dr.マジソンは、「Fallout 3」にも「Fallout 4」にも登場する数少ないキャラクターです!
エネルギー・カウンターを利用する再録カードはかなり少なく、それは難題であり同時にチャンスでもありました。新たなカードを作る余地はありましたが、再録カードに頼らずにエネルギー・カウンターがデッキの「燃料」になる方法を見つける必要があったのです。その答えは、デッキの顔となる統率者《Dr. マジソン・リー》や注目の統率者《再稼働、リバティ・プライム》に見受けられるように、エネルギー・カウンターを生み出す主な方法としてアーティファクトを使うことでした。これにより私たちは、アーティファクトの再録カードやデッキをサポートする人気のアーティファクト・トークンに頼ることができるようになりました。それから、ロボットも最高ですよね。
「シーザー万歳」
ウェイストランドで生き残るためには、他者と団結することが一番です。この世界ではレイダーから兵士、傭兵までみな結束しています。数は紛れもなく力であり、グループの結束を固めるものなのです。このデッキを率いるのはシーザーですが、シーザー・リージョンの他にもさまざまな武装勢力の派閥があります。ロールプレイングゲームには遠慮なくふっ飛ばせる嫌なやつがつきものですが、「Fallout」がユニークなのは、そういう嫌なやつの陣営にも参加できるところです。シーザー・リージョンが最も有名な例の1つでしょう。シーザーは独裁者のように陣営を率います。彼は知謀に優れ、カリスマ性があり、巨大な軍隊に汚れ仕事をさせています。私たちはそんな彼を、自分は後ろに控えながら他のクリーチャーに攻撃させて、兵力やリソースをさらに高めるカードとして表現しました。ラヴニカから《軍勢の集結》を再録できたのも、面白い偶然ですね。
「シーザー万歳」(赤白黒)
ローマのライブRPGを真に受けすぎるとこうなります。
このデッキは横並び戦略ですが、生成するトークンは1/1だけでなくさまざまなものを望みました(もちろんデッキには他にもさまざまな兵士やレイダーを表現したものがたくさんあります)。そこで『Warhammer 40,000』統率者デッキから、「分隊」メカニズムを再録することにしました。このメカニズムによりクリーチャー1体から軍勢を築くことができ、それらのクリーチャーもテキストを持つことで、より大きなインパクトと質感を与えられるのです。ゲイリー部隊ほど恐ろしいものはありませんよね。
[全員を喜ばせた]
「Fallout」の世界観だけでなくゲームとしての側面も捉え、それらをマジックに変換できたことが、このセットにおける個人的なハイライトです。私たちはさまざまなオーラで「Perks」を表現し、コレクターの皆さんのためにシリアル番号付きのボブルヘッドを用意し、他にもRADカウンターやジャンク・トークン、V.A.T.S.なども収めることができました。この「ユニバースビヨンド」セットへの私たちの取り組み方については、マーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterも「ゲーム開始」記事にて語っていますので、そちらもぜひお読みください。これらの統率者デッキを作るのは、これまでトラジック:ザ・ギャザリングマジック:ザ・ギャザリングのカードをデザインしてきた中でも特に楽しい経験でした。皆さんにもお楽しみいただけたら嬉しいです!
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