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プレインズウォーカーのための『イクサラン:失われし洞窟』案内
2023年11月10日
『イクサラン:失われし洞窟』は、『機械兵団の行進』の出来事が終了してから約1年後のイクサラン次元を舞台としている。そのストーリー「太陽の下の三百段」や『機械兵団の進軍』の他の場面から、太陽帝国が多大な犠牲を払いながらもファイレクシア人を退けることができたとわかる。だがこの次元の残りの部分はどうなったのだろうか?
この「案内」では『イクサラン:失われし洞窟』にて起こる出来事を含め、過去と現在のイクサランの全体像を提供する。
イクサランのこれまで
最初の『イクサラン』『イクサランの相克』では、神話に語られる失われた黄金都市オラーズカを発見して再開放するための競争が語られた。そこには強力なアーティファクト「不滅の太陽」が隠されているというのだ。イクサラン次元にて敵対する四勢力が――太陽帝国の人間、鉄面連合の海賊、川守りのマーフォーク、薄暮の軍団の吸血鬼が――それぞれの征服欲を満たすため、オラーズカを見つけ出して不滅の太陽を我がものにしようと競い合った。
だがオラーズカへの到達こそ成し遂げたものの、四勢力のどれも不滅の太陽を確保することはできなかった。物語の結末にて、ニコル・ボーラスに仕えるプレインズウォーカーのテゼレットがこの次元から不滅の太陽を持ち去ったのだ。それでもなお、オラーズカは太陽帝国にとっての大いなる褒賞であり続けた。最初の『イクサラン』ブロックは太陽帝国の勝利に終わった。彼らはイクサラン大陸をほぼ支配し、吸血鬼の王国が自分たちの土地の征服を試みたことに対する報復として、トレゾンとの戦争の準備を始めた。
ファイレクシアの侵略
『イクサラン:失われし洞窟』の開始から一年前、ファイレクシア人(多元宇宙の有機的種族を虐殺し支配しようと躍起になっている、多次元間にまたがるサイボーグの怪物の文明)が長年に渡って計画してきた多元宇宙征服作戦を開始した。無数の次元が同時に生物機械的怪物の波に襲われ、イクサランもそのひとつだった。ファイレクシアの侵略はこの次元の地表の隅々にまで及んだ。既知の主要な大陸、イクサランとトレゾンは共に甚大な被害を受けた。
イクサラン大陸の密林は震え、焼き払われ、生物機械的怪物に蹂躙された。ファイレクシア軍の先兵はアゾカン近くに着地し、太陽帝国の不意を突くとともに準備の整っていない防衛隊を圧倒した。数日のうちに何万人という太陽帝国の臣民とケツァカマ(恐竜)の大群がファイレクシア化され、帝国全土への侵略準備が整った。続いて起こった戦闘にて、窮地に陥った太陽帝国の連隊はファイレクシア化した同胞たちの容赦ない攻撃の波に直面した。士気が低下する中で帝国軍は止めることのできない、かつ損失の大きな一連の牽制と撤退作戦を強いられた。これは別の言葉で言えば行軍命令――帝都パチャチュパの防衛準備が完了する時間を稼ぐ行軍命令だった。
首都だけを守るという帝国の決定により、帝国の首都以外の部分はファイレクシア人に対して無防備となった。機械の軍勢は帝国の中核以外の都市を一掃し、首都を包囲した。ファートリとその特殊部隊によるオラーズカへの決死の作戦と、帝国軍兵士と国民によるパチャチュパの必死の防衛が相まって、太陽帝国とイクサラン大陸はファイレクシアへの陥落を免れた。これらの出来事は「太陽の下の三百段」の物語と、今回の記事における太陽帝国の項目にて詳細を述べている。
アルタ・トレゾン(トレゾン大陸を統治する君主国家)の吸血鬼たちもまた、自国に対するファイレクシアの攻撃に立ち向かった。とはいえ太陽帝国が直面した試練に比較したなら、その悲惨さはずっと小さかった。むしろ戦後に起こった物事の方が桁違いに破滅的な結果をもたらすかもしれない。そちらの詳細は今回の記事におけるアルタ・トレゾンの項目にて述べている。
同様にイクサラン大陸の他の人々――鉄面連合と川守りもファイレクシア人と戦った。彼らの奮闘、現在の成果、将来の可能性についてもこの記事後半にて詳しく説明する。
ファイレクシア人の撤退は新たなイクサラン次元をもたらしたが、共通の敵によって抑えつけられた古の遺恨が轟音とともに戻ってきた。穴が開いたり欠けたりした剣を剃刀のような鋭さにまで磨く帝国や王国を背景に、探検家、巡礼者、鉱山労働者、あらゆる種類の冒険家が、富と栄光に飢えて再びイクサランの海岸に呼び寄せられている。
イクサランの現在:地表の人々
太陽帝国
太陽帝国は古くからイクサラン大陸を支配する誇り高き大国である。太陽帝国は四つの主要な都市国家――パチャチュパ、アゾカン、オテペク、オラーズカと、その間にある数百の小さな村や要塞や町で構成されており、物質的な富、自然の美、居住に適した土地、生物多様性、そして人々に恵まれている。ファイレクシアの侵攻において非常に多くの死傷者を出したものの、国民には結束と決意がみなぎっている――侵略の恐怖を乗り越えたいという暗黙の願望から、そして何らかの報いを自覚させられるかもしれないという恐れに駆り立てられたものであることは間違いない。新皇帝とその顧問評議会の統治下、ファイレクシアに対する勝利に勇気づけられた帝国は――多大な犠牲を払ったとはいえ――古き敵にして最初の侵略者、アルタ・トレゾンの吸血鬼たちに傷ついた目を向けている。
新たな太陽
『イクサラン:失われし洞窟』時点での太陽帝国は、伝説に自らの名前を刻もうと熱望する少年皇帝アパゼク・イントリ四世が率いている。彼の父であるイントリ三世は侵略のさなかにファイレクシアの潜伏工作員によって暗殺された。父と同様にイントリ四世も顧問団や、司祭、行政官、将軍に囲まれており、帝国の日常業務の多くからは隔絶されている。王位に就く年齢に達するまで、この少年皇帝は大切な表看板として、多くの帝国国民を鼓舞する光景として機能している。父の死により、彼は帝国の将来の体現者として人々からの好意を吹き込まれている。彼が支配する土地と同じように、新たな世界に、善かれ悪しかれ、多元宇宙に向き合うべく成長しなければならない。
イントリ四世の領土は、帝国の再建を計画し、トレゾンに対する先帝の遠征計画を再開しようと目論む家令たちで構成される臣下たちによって管理されている。ファイレクシアの侵略以前、太陽帝国はトレゾンの吸血鬼と長きにわたる紛争を繰り広げていた。帝国の家令たちは再建活動に報復主義の感情を織り込むことに成功したが、この努力は国内の平和主義者や孤立主義者たちを狼狽させた。だがこれは同時に、帝国の人々にとっても活力をくれる大義となっている。帝国の臣下内に派閥が形成され、太陽帝国の基盤は依然として強固で団結力があり、士気は高いものの、支配貴族の最深部では不満が高まっている。少年皇帝には順応性があり、すでに人々の心を掴んでいる。戦争か平和か。再起途中の国家の方向性を決定する穏やかな政争は、勝ち取るべき宝として皇帝を賭け、まだ始まったばかりである。
帝国の未来
侵略の恐怖を経験したにもかかわらず、太陽帝国の人々は明るい未来があると感じている。自分たちは生きており、古き世界は最後のファイレクシア人とともに死んだのだから。侵略以前の太陽帝国は高度に階層化された事実上の階級社会であり、司祭階級と戦士階級の貴族たちが商人も農民も同様に支配していた。侵略の際には武器を振るうことのできる全帝国臣民が防衛に駆り出され、現在では旧世界のやり方に戻りたいと思う者はほとんどいない。あまりにも多くの人々が、生き残るという報酬を得られないほど血なまぐさい戦いを繰り広げたのだ。
司祭と戦士は今なお帝国を率い、守る地位にある。だがそれらはもはや貴族だけに許される職業ではない。侵略によって多くの犠牲者が出たため空席が生じ、これらの職業は民主化されて学院や寺院の扉はそれらを守った農民や信徒たちへと開かれた。貴族的な司祭と近衛騎士の古い軍団は残っているものの、現在ではこれらの職業は高貴な血筋を持たない帝国臣民によって占められている。
この制度は人々を奮起させ、帝国は生気を得た。庶民出身の司祭たちが帝国中を旅し、野卑なアゾカン語で三相の太陽の恵みや力や洞察を広めている。四つの都市国家外の共同体は帝国の支援を受け、侵略時に用いた物資輸送の経路を恒久化するとともに新たなインフラを構築した。農民と労働者の集団がイクサラン全土に繰り出し、ファイレクシア人の残骸と不活性化した油を浄化するために働き、侵略で破壊された町や村を再建して人口を呼び戻すことに努め、同じように侵略に苦しんだ古の密林や平原、湖、河川の回復にも取り組んでいる。帝国軍は長いこと、融通の利かない貴族の指揮官たちによって管理される硬化した組織だったが、現在は勇敢で洞察力を備えた申し分のない士官たちによって率いられている。彼らの大半はかつて無名の兵士であり、侵略中に戦地昇進を果たした者たちだ。
太陽帝国の信仰は、彼らこそすべての人々の中で最初のものであり、その光が触れるあらゆる土地を統治するために三相の太陽そのものによって創造されたのだと教えている。したがって、イクサラン大陸全体は本来自分たちのものであると彼らは信じている。このファイレクシア戦争後の時代において、太陽帝国の首脳陣は遂に帝国の夜明けが次元全体に広まる時が来たと確信している。この勝利の瞬間は、帝国の家令たちの知恵に導かれた国民の共同作業によってのみ実現し、少年皇帝の即位という形で最高潮に達するのだ。世界を支える玉座は自分たちのもの、だがそれはまず彼らの帝国の都市や平原にレンガの一つから、砂粒ひとつから造られなければならない。
都市国家群:帝国の中心、パチャチュパ
太陽帝国の人々にとってパチャチュパは文明の中心地であり、すべての道が通じる場所だ――侵略によってその栄光は色褪せようとも。もはや太陽帝国の首都ではなくなったものの、帝国で最も人口が多くかつ発展した都市国家であるため、依然として非常に重要な都市となっている。
海岸平野が高山地帯へと至る起点に建つパチャチュパは、かつて帝国がオラーズカを放棄した後、今日までの数世紀に渡って帝国王朝の本拠地だった。この都市は、かつて皇帝とその近親者たちが住んでいた帝国の城塞群であるトカートリを取りまくように建設されている。パチャチュパの段々畑、石造りの巨大な建造物群、広大な範囲に及ぶ灌漑システム、頑丈な城壁は太陽帝国の工学技術の証だった。だが侵略中、帝国のこれらの業績は窮余の砦となった――パチャチュパの清潔で上質な通りは帝国中からの難民で溢れかえり、血と油まみれの戦場と化し、農民の徴収兵と皇帝直属の衛兵が肩を並べてファイレクシア軍と戦った。彼らの奮闘は都の強靭な防衛線に支えられ、パチャチュパは、ひいては太陽帝国は侵略を生き延びた。
皇帝の城塞トカートリは、パチャチュパの中心部に位置する壮麗な要塞宮殿である。この宮殿には皇家の近親者たちやその分家に属する多くの貴人の邸宅が含まれている。トカートリの広大な敷地には、太陽の三相――キンジャーリ、ティロナーリ、イクサーリ――それぞれを祀る素晴らしい神殿もある。この壮大な複合施設はパチャチュパの頂上に座す大都市として、侵略前は帝国の貴族や市民でも最高階級の者たちだけが利用可能となっており、一般市民は排除されていた。だが侵略戦争中にトカートリは帝国の戦争活動の中心となり、特権階級専用の広場と邸宅も必要から太陽帝国の庶民に開放された。彼らはトカートリの高い城壁の中に長いことしまい込まれていた富を忘れていない。かつては高級な宮殿であったこの複合施設は現在、新皇帝の臣民に対する愛の象徴として多少の制限はあるものの一般に開かれている。皇帝の家令たちは懸命に宥めようとしているが、勇敢な臣民の意志によって実現している。
《統一の詩人、ファートリ》 // 《五代目の咆哮》
侵略戦争後のパチャチュパは戦前よりも平等主義的になったが、その輝きは薄れた。全盛期においてこの帝国首都は帝国の唯一の中枢であり、すべての貴族がここに相当な量の財産を保持していた――政治的駆け引きから、皇帝の近辺にいることが要求された――そして貢物や税や収穫の分け前が流れ込んでいた。侵攻戦争の終結直後、パチャチュパは再建の主要目標となった。だが大規模な清掃と再建の努力にもかかわらず、この古都は呼び物の多くを失った。太陽帝国の最初の首都であるオラーズカは奪回されており、皇帝は玉座をその地に移したのだ。政治権力の座もまた彼とともに移動した。パチャチュパの強固な城壁と密集した通りには、侵略の精神的外傷と、街と人々が耐え抜いた恐ろしい包囲の残影が今もつきまとっている。
今日でもトカートリの中にいれば、イクサランは手つかずのままだと想像するかもしれない。だが城塞の外では現実に目を背けることはできない。帝国の賜物と皇帝の恩恵という高貴な栄光は消え去った――その場所には、新たに権利を与えられた下等な臣民がいる。彼らは遠くに座す皇帝の臣下でありながら、今や自分たちこそがパチャチュパを所有していると、守っていると、そして継ぐのだと考えている。かつて、太陽帝国のすべての道はパチャチュパへと通じていた。今では、かつての首都の人々がコンパスの隅々に目を向けると、すべての道が都の外へと伸びている。帝国権力の古都から発して、恐るべき敵から都市と帝国を守った農民、商人、職人、労働者たち手によって未来が書き換えられた世界へと続く道。最も暗き夜に直面し、パチャチュパは折れなかった。やがて訪れる夜明けは都だけでなく人々をも照らすことになるだろう。
《中心核の瞥見》
都市国家群:侵略の平原、アゾカン
アゾカンは標高の低い海岸平野に位置しており、かつては広大な畑と緑豊かな森林が土地の肥沃さを証明していた。全盛期のアゾカンはパチャチュパの鏡映しといえた。厳格で統制されて断固とした都市、帝国の穀倉であり漁網。とはいえ、それは内陸部の帝国軍がしばしば表現したほどに陰気でも貧弱でもなかった。アゾカンは海岸沿いに位置するために驚くほど国際的であり、商人や貿易業者、探検家、トレゾンや鉄面連合やその先の土地から来るあらゆる類の人々を楽しませていた。
アゾカンは太陽帝国の三つの大都市でも最も海に近い位置にあるため、ファイレクシアの侵攻以前も鉄面連合の略奪者と薄暮の軍団からの攻撃の矢面に立たされていた。この不運な流れはファイレクシアの侵攻でも変わらず、アゾカンはイクサランにおける次元壊しの最初の着地点となった。最初の衝撃と種子殻の集中砲火によって都市の大部分が破壊された。これは遠くパチャチュパでも揺れが感じられるほどに恐ろしい規模の出来事だった。生存者はわずかだった――その住民のほとんどは、アゾカンの軍隊や帝国が効果的な防衛を開始する前に、押し寄せたファイレクシア人によって捕らえられるか殺され、改宗させられた。
侵略の後、この都で無傷のまま残っているものはほとんど存在しない。アゾカンの崩れた城壁内は大部分が空き地となっており、かつての広大な市場、風通しの良い邸宅群、密集した海浜地区は放棄され、朽ち果てるままに放置されて帝国の帰還を待っている。アゾカンの生存者たちは、侵攻の開始時にパチャチュパに滞在していた貴族、仕事で外出していた商人や農民、市外を巡回中だった兵士たちなどであり、彼らはアゾカンがかつての姿を取り戻すため真剣に取り組むよう帝国へと熱心に働きかけている。彼らはすでに民間の資金による多くの計画を立ち上げ、アゾカンの汚染された田畑や郊外の小規模共同体や穀倉地帯の浄化に取り組んでいる。この取り組みはゆっくりとして厳しいものだが、それでも進行中である。アゾカンが再び帝国を養えるようになるまでには何年もかかるだろう。とはいえ初期の取り組みについては成功が証明されている――アゾカンからパチャチュパへと少量ではあるが穀物が届き始めている。これは沿岸都市の難民だけでなく、帝国の兵站担当者や軍事計画立案者にとっても頼もしい兆しである。太陽帝国がトレゾンからの侵攻に対して軍事的な報復を開始するなら、アゾカンは再び穀倉地帯になる必要があるのだろうから。
帝国の穀倉地帯というだけではなく、アゾカンはかつて太陽帝国の恐竜飼育の中心地でもあった。アゾカンを取り囲む平原は、数種類の大型で力強い恐竜の本来の生息地だった。巨大な竜脚類が最外縁部の平原をぶらつき、頑丈な外皮の角竜類、鎚尾類、板背類、棘尾類が都市を囲む共同体や村や野原を自由に歩き回っていた。アゾカンの司祭たちは魔法を用いてこれらの恐竜を呼び出し、統制し、都市内や周辺で働かせていた。そのためアゾカンは帝国の他の都市よりも、街路を移動する大型恐竜に対応するよう設計されていた。そしてその広々とした通りは、おぞましいファイレクシアの獣や軍勢の巣窟となった。今やそれらは侵略者の残骸で塞がれている――大通りはぞっとする記念碑のように、その純粋な大きさと量だけで、街を再建しようという試みをはねつけている。
アゾカンの亡命総督はアトラチャン・フィシントリ、賢明な人物で先帝の法的書類上の息子であり、現皇帝イントリ四世の寵臣でもある。アトラチャンはイントリ三世にとって非嫡出の弟にあたる。イントリ三世の遺言の一部として、現皇帝はアトラチャンを法的に「書類上の息子」とし、彼を帝国王朝の一員として正式に認めた。アトラチャンは、アゾカンの三大名家であるカブラナ家、パラーニ家、クイッツァン家を秘密裏に動かしてきた経験を活かし、新たな宮廷における権力を確保した。アトラチャン・フィシントリは新皇帝の友人という立場に最も近く、また力ある仲介者であるため、この人物こそが王位を支える真の才気であると言われている――噂されている。彼がアゾカンを気にかける理由はふたつある。ひとつは、その回復はまさしく帝国の勢いの象徴であるため、もうひとつは、アゾカンの土地の多くにはもはや所有者が存在しないため、都と領土が取り戻されて浄化されたなら、フィシントリはその富の大部分を支配する立場になるためである。
都市国家群:歩哨の神殿、オテペク
精巧な石造りの神殿で知られるオテペクの都は、太陽帝国の領土の西端にある高山の森の中に位置している。古代都市であり、帝国の都市国家の中で最も人口が少ないオテペクは、侵略戦争の初期には影響を受けていなかった。
侵略は、高地都市の荒涼とした環境に避難しようとやって来たマーフォークと人間の難民を通じてオテペクに到達した。侵略戦争が長引くにつれて難民の数は増加し、そしてその中に潜伏工作員が隠れていた。彼らは都市に入ると活動を開始し、混乱を振りまき、その脆弱な平常状態に終止符を打った。オテペクの神殿を巡る戦いは迅速なものだった。ファイレクシアの戦闘員の数が少なかったため、侵攻の中で最も犠牲者は少なかった。潜伏工作員は非常に恐ろしいものだったが、オテペクの守備隊は初期の侵攻による被害が最も少なく、かつ最も備えていた部隊の一つだった。彼らは最初の侵略の波に対峙した他の守備隊とは異なり、油から身を守ることを学んでいた。神殿周囲の都市は灰燼に帰したが、神殿自体とそこに避難していた人々は生き残った。
オテペクは儀式の都市であり、帝国から命令を受ける立場であるにもかかわらず、その権力は都市を統治する神権に集中している。堂々とした建造物群からなる巨大な神殿が三つ、都市の北側の広大な台地を占拠している――太陽の創造的な相を讃える源泉の神殿、支え育む相を讃える静水の神殿、そして破壊的な相を讃える滝の神殿。オテペクの聖職者たちは、教団員のためにこれらの神聖な場所を維持管理している。また彼らは、政治権力は敬虔な者の手にあるべきだと、帝国は聖職者が統治する一種の神権政治となるべきだと信じている。彼ら自身も、遠縁とはいえ正統な王朝の血統に連なる皇家の一員であるため、常に現在の支配者一族にとって潜在的な脅威となっている。
黄金の要塞、オラーズカ
多くの国にとって権威的、精神的、経済的、文化的欲望の対象である黄金都市オラーズカは、今一度太陽帝国の支配下におかれた。この掌握への道は多難かつ損失も大きかったものの、それでもこの都の支配は帝国の近年の指導者たちにとって主要な目標だった。オラーズカはファイレクシアの侵略の数年前、好景気の中で獲得され、帝国の新たで輝かしい中心となった。帝国全土から移民がこの古代都市に流入し、家や畑や店や神殿を自分たちのものだと主張し、人口は爆発的に増加した。街には再び人々の生活のざわめきが満ち、一時は太陽帝国が絶頂に達したかのように見えた。
太陽帝国の中核に侵略の一報が届いた時、オラーズカにはファイレクシア人に備えるだけの余裕があった。アゾカンとは異なり、恐るべき敵がイクサランに降り立ったという警告はオラーズカへと大量に届いていた。またパチャチュパとも異なり、市民と増え続ける難民や撤退する兵士たちを効果的な戦闘部隊へと組織する時間もあった。帝国の司祭は川守りの形成者と協力してオラーズカを再び封じ、イクサランそのものの土と石によって攻撃から都を守ることに成功した。とはいえこの防衛作戦は不十分であることが証明された。太陽帝国は、外部の脅威に対して閉じこもることで、意図せずして未知の恐ろしい内部の脅威にさらされることとなった――オラーズカの安全を求めて殺到した兵士や難民の中そこかしこに、ファイレクシアの潜伏工作員が潜んでいたのだ。
オラーズカの戦いはこの封じられた都の内側、イクサランの暖かな太陽から遠く離れた地下で起こった。地上の太陽帝国が皇帝を中心に団結し、止めどなく続くファイレクシア人の大群からパチャチュパを守る戦いを繰り広げていた一方で、炎に照らされたオラーズカの暗い広間での戦いは、陰惨で偏執的な虐殺だった。何万人という帝国臣民と川守りが戦いの開始から数時間のうちに殺されるか転向させられ、続く数日間に潜伏工作員の第二の波が動きだすと、更に数千人が失われた。内部に閉じ込められた人々は必死に脱出しようとし、都は再び開かれた。この作戦により、図らずもファートリ指揮下の太陽帝国軍は都に進入することができ、イクサランの古の恐竜たちを目覚めさせ、それはファイレクシア人との戦いにおける決定的な勝利となった。
侵略が終わると、オラーズカはファイレクシア人からの解放を宣言した最後の都市となった。今ひとたびイクサランの太陽へと開かれたこの黄金都市は、太陽帝国の人々の間で新たな評判を獲得した。そこは墓所であり、暗黒の日々に都を守った者たちが発見したように、更なる深い秘密が隠されている記念碑なのだと。オラーズカ内部、地表から遥か離れた深層にて、ファイレクシア人の巣窟を一掃するために戦っていた太陽帝国兵士の一団が、堂々たる破片で封印された壮大な古代の扉を発見したのだ。これは地表下の世界へと至ることのできる、地下への扉だった。
川守り
川守りはマーフォーク――イクサランの海や川、湖、熱帯雨林に生息する水陸両棲の独特な人型種族だ。彼らの身長は7~8フィート(訳注:約2.1~2.4メートル)で、皮膚の色は深い赤色、紫色、青から明るい橙色、黄色までさまざまに及ぶ。姿形は人間に近く、肩と前腕から伸びる長いヒレと長い脚で、泳ぐことも陸上を歩くこともできる。
部外者の目には、川守りは統一された単一の集団に見えるかもしれない。オラーズカを目指す争奪戦の間、川守りたちは太陽帝国や薄暮の軍団、鉄面連合に対して共同戦線を張った。オラーズカの防衛は川守りにとって前例のない団結の瞬間だったが、議論が巻き起こり、最終的には失敗に終わった。川守りの中には多くの部族が存在し、文化的、精神的、実践的な類似点が多数存在する。だが実際のところ、彼らは団結してはいない――もっとも、侵略の恐怖の後にはこれも変わるかもしれないが。
侵略と深根の木の死
川守りは古き民であり、イクサラン大陸とは先祖代々の魔法的な繋がりを持っている。かつての彼らはオラーズカ及びイクサランの九本の大河の誇らしき管理人であったが、太陽帝国による征服、内紛、病気、そして最近ではファイレクシアの侵略によって少数の部族と放浪集団にまで減少してしまった。
ファイレクシアの侵略は川守りに大打撃を与え、既に少数だった彼らの数を更に選別した。だが都の封鎖中にオラーズカに滞在していた、あるいは皇帝が門を閉じるよう命じた時に偶然パチャチュパの市場にいた少数の一団はイクサランの奥深く、彼らだけが知る秘密の場所へと逃れた。幾つかの一団は地下の暗い洞窟へと逃げ込んだが、川守りの大部分は最も神聖な寺院の大枝の下に避難所を求め、深根の木を取り巻く聖地へと撤退した。
深根の木は巨大なマングローブの古木であり、広大な沼地に同類の小さなマングローブから約400フィートの高さでそびえ立っている。何世代にもわたってマーフォークたちは巨大な神殿を造成し、中央の城塞を建造物が取り囲むように深根の木の周囲に枝や木々が成長するよう導いていった。ここはすべての川守りにとって重要な集会場であり、彼らの首都に最も近いものだった。常に何百という集団がこの木に野営し、共同の儀式や祭礼に従事していた。年に一度、それが可能なすべての集団は深根の木への巡礼を行ってきた。
《深根の巡礼》
深根の木では、川守りたちは途方もない魔法によって守られていた。川守りの多くの集団がその木と仲間たちの防衛に尽力し、パチャチュパのそれと同等の恐ろしい包囲に抵抗した。深根の木が生来持つ魔法、形成師、戦士、術師たちの奮闘のおかげで川守りたちはしばし持ちこたえた。だがファイレクシア軍は疲れ知らずで辛抱強く、一方の川守りは――英雄的な努力にもかかわらず――結局は限られた命を持つ者たちだった。
イクサランの何処にいようとも、川守りの形成師や術師たちは深根の木での殺戮を感じ取った――自分が属する支流やイクサランに満ちる緻密な魔法との潜在的な繋がり以上のものを持たないマーフォークでさえ、深根の木の死に精神的外傷を負った。最終的にファイレクシア人は光素に強化されたイクサランの人々からの反撃によって聖地から駆逐されたが、帰還した川守りの遊撃兵と巡礼者たちが見つけたのは墓と、軍隊によって踏みにじられた切り株と、倒木で汚染された沼地だった。そしてそこには侵略者の死骸が、ねじれた金属の残骸が満ちていた。
団結するための聖地を失い、川守りのはかない団結は砕け散った。侵略終結後の一年間、多くのマーフォークが生きるために太陽帝国の輸送団、鉄面連合の採掘地、女王湾会社の活動に対する必死の略奪に従事した。そうでない者は鉄面連合と契約し、あるいは太陽帝国に加わって案内人や狩人、衛兵、占術師、あるいは少なくとも熟練の労働者として働いている。イクサランの地表で今も活動している川守りの数は少なく、更に減少し続けている。今ではほとんどが、地下に潜って大会議に参加せよという呼びかけに応じている。
マーフォークの集団
マーフォークのひとつの集団は形成師が率いており、十二人ほどで構成されている。形成師は尊敬される長老あるいは指導者であり、通常は(常にではないが)魔法に順応している。彼らは集団を(時には文字通りに)導き、争いを裁き、他のマーフォークに対する代表者となり、人間と関わる際には集団の代弁者となる。形成師には常に一人の弟子がいる。ある形成師が死亡したなら、自然死であろうとそうでなかろうと、その弟子が集団の指導者となる。ひとつの集団がその地域内にて大規模になりすぎた場合には、弟子が一部を率いて新たな集団を作り、新たな縄張りを得る――とはいえ侵略戦争後の時代において、これが問題になることは滅多にない。
《川守りの偵察》
九本の支流と大いなる語り部
マーフォーク曰く、大いなる川の九本の支流がイクサランの内陸部を支配している。この九本の川の源流は最も重要な領域と考えられており、その源流を管理する集団のシャーマンは高く尊敬されている。
九本の支流は、最初の九人の形成師の名前で知られている。だがその後、それらの名は尊称として、その担い手である形成師の出生名に代わる名前として与えられるようになった。ティシャーナの名を抱く者は偉大な形成師として尊敬されている。ティシャーナは大いなる源流とも呼ばれ、これはティシャーナの流れが大いなる川の最も主要な支流であることを示している。そして大いなる川が九つの支流に対して優位性を主張できるように、形成師ティシャーナは他のあらゆる川守りの集団に対して正当な指導権をもつ。現在の形成師ティシャーナはこの規定の権利に従って行動することを決意し、次元の運命を共に決定するため、彼女の声を聞くことができるすべての川守りを部族会議へと召集している。
《支流の教官》
現在の名高い形成師のうち、侵略前から九つの名前のうちひとつを保持していた者はほんの一握りである。大形成師ティシャーナ、コパラ、クメーナ、パショーナは侵略を生き延びて引き続きその名を保持している。残りは新たな保有者である。
- ティシャーナ、「轟く声」にして大いなる源
- コパラ
- パショーナ
- ヴハーナ
- ミティカ
- ノタナ
- ファラニ
- トゥヴァーサ
- クメーナ
海と空
川守りは、密林と川は同じ生態系を等しくふたつに分かつものであると、つまりそれぞれがこの次元の半分であるとみなしている。川と海が下部分、密林と空(雨や霧は熱帯雨林の特質だ)が上部分というように。水は両者の間を自由に流れ、両者を結び付けて全体を形成する。そしてマーフォークは本質的に水の生き物である。
マーフォークの中には、上の世界に住む者もいれば下の世界に住む者もいる。それでも彼らは同じ世界の半分ずつだ。密林と川の違いを認識するように、彼らは互いの違いを認識している。だがその違いを巡って争うのではなくそれらの違いを尊重している。
自然の形成師
記憶に残る限りの昔から、川守りは自然界と平和に調和して生きてきた。都市の建設や技術開発のための技能や知識を持たないというわけではない――むしろ彼らは自然界の一部として生きることを意図的に選択しているのだ。大昔に太陽帝国が歩んだ帝国への道、彼らはそれを拒否しているのがその主な理由である。
川守りの術師が用いる魔法は風や水、そして密林の環境を呼び起こして制御することが中心となっている。彼らは自然に対する征服や反抗ではなく、自然との平和的な共存を維持しようと努めている。形成師という名は、風や水の流れを変え、嵐や洪水を引き起こし、枝や蔓を曲げるなど周囲の自然を作り変えるやり方にちなむ。彼らは密林の中を移動しながら、自分たちの必要に合わせて周囲を適応させる。そして水に小石を落としてもひとたび波紋が過ぎたら何も残らないように、通過した痕跡を残さず元の状態に戻す。
《急流の歌い手》
形成師はすさまじい力を持つため、川守りの小さな一団でさえも太陽帝国や鉄面連合、薄暮の軍団の遥かに大きな軍隊に立ち向かうことができる。川の流れを変えて侵入者を阻止する、霧の塊を呼び起こす、大波を召喚して敵を押し流す、巨大な蔓を作り出して船や要塞を破壊する、風を起こして敵を空中に持ち上げる、はたまた飛んでいる敵を墜落させる、等々。彼らはまた、水や密林の植生で形成された生き物であるエレメンタルを召喚することもできる。
シャーマンからシャーマンへと口伝で受け継がれてきた長老たちの知恵は、川守りの社会の中心となっている。縄張りによって集団は分かれているが、それらの間を行き来する語り部や歌い手が共通の文化を生み出している。彼らはオラーズカと不滅の太陽の記録、密林での生活に関する有益な物語、呼び起こし使役する自然の精霊の名前、安全に食べられる食物、太陽帝国の残酷な歴史、この次元の出来事についての情報を伝える。そして――侵略を生き延びた川守りにとって最も重要なこととして――すべてのマーフォークが地下世界に降り、部族会議に出席するよう呼びかけている。
鉄面連合
規則も制約もなく、あるのは無限の可能性と自分の価値を自分の条件で証明する機会――これがファイレクシア侵攻以前に鉄面連合が掲げる約束だった。支配しているのはほんの一握りの小さな諸島だけでありながらも、鉄面連合は海こそが自分たちの領土であると誇らしげに語る。紺碧の海、浅い海岸地帯、そして海に注ぐ深い川の河口に至るまで、鉄面連合員は波の達人である。
当初の鉄面連合は、今から一世紀前に薄暮の軍団による征服作戦中にトレゾンから逃れてきた難民で構成されていた。だが彼らは太陽帝国に追い払われ、イクサラン大陸で安息を得ることは叶わなかった。太陽帝国に追われ、故郷に帰ることもできず、難民船団は大嵐海に散り散りとなった。あるものは地平線の彼方に消え、またあるものは水上に新たな故郷を築こうと決意した。それが水上都市の孤高街である。
故郷と呼べる土地を持たず、したがって海上で平和に生きていく方法もなく、絶望したこの難民船団は海賊行為に走った。彼らはイクサランの沿岸部からの略奪を始めた。トレゾンの西海岸にあるかつての自由都市を守備していた吸血鬼よりも、彼らは他の人間との対決を好んだ。だがやがて彼らはより恐るべき船や乗組員を訓練し、装備を整え、管理するための産業を独力で発展させ、トレゾンも標的とするようになった。数十年をかけて、彼らの難民海賊たちはより恒久的な組織を設立した。これまでに慣れ親しんできた自由を乗組員や船舶に認めながら、共通の利益を提供することのできる連合体。これが鉄面連合の始まりだ――それは船舶の連合体であり、各船長は船の甲板上という国家の主権者であり、水上都市の孤高街は中立地(実際には常に争われているが)とされている。
鉄面連合の最初の一世紀、つまり設立前の数十年から孤高街創設後の数十年間、偉大な伝説たちが船を集めて大船団を形成し、大嵐海に点在するいくつかの島に旗を立てた。この船長たちは様々な呼び名で自らの階級を表現したが、その効能は王と同じだった――艦隊と呼ばれる領地を統治し、鉄面連合全体に対する事実上の支配を巡って敵対し、あるいは共闘する。他の誰よりも権力を握りたいという願望を明確に抱く者もいたが、ほとんどの者は自分たちと祖先を支配していた古い法の言葉を拒否した。
海賊の時代は大砲の砲火と冒険で大嵐海を照らした。だが勝者総取りの苛烈な自由は、機能するひとつの社会をまとめるための持続可能な方法では決してなかった。鉄面連合の人々は自由を重んじたが、彼らもまた王国や帝国を築いたのだ――土地にではなく船に。そして個人的な恨み、権力の探求、栄光の夢が船長や反抗的な乗組員の陰謀の動機となったため、彼らは常に流動していた。法は――鉄面連合軍内に存在する範囲で――最後まで立っていた船長によって作成され、カットラスの刃で最初に施行された。
《待ち伏せる海賊》
鉄面連合はその存在の大部分において、外部の者たちによって定義されてきた。太陽帝国にとって彼らは文明から離れた海賊であり、イクサランの強大な帝国の塵芥であり、トレゾン西部の野蛮人が集まって混乱を振りまいているという存在である。トレゾンの王権と教会にとって彼らは黄金と深淵を崇拝する異端者であり、進歩と救済の両方にとっての敵である。だがファイレクシアの侵略を生き延びた後、鉄面連合の人々は自らを主権者と称する船長たちへと更に多くを要求するようになった。最初の海賊時代は終わったのかもしれないが、来たる時代は更なる平和を約束するものではない。新たな世紀を迎えるにあたって、鉄面連合はひとつの本質的な問題に直面している――自由の限度とは何か、そして連合が――本当に団結を維持したいのであれば――その旗に集うすべての人々が、自らが所有すると宣言している自由を確実に享受できるようにするには、どのように組織すべきなのか。
無から築く国家
ファイレクシアの侵略を受け、長く中立地帯であった孤高街は鉄面連合の中心地としての権力を主張すると決意した。孤高街は海上に浮遊する多層構造の都市であり、元は「天罰」号と「烏賊の目」号という二隻の船の修復不能の衝突によって形成され、その後一世紀をかけて築き上げられた。水平線上に見える孤高街は熱病の夢だ――街と艦隊が激しく打ち合い、叩き合い、融合し、絡み合い、水を汲んだり交易品や物資を降ろしたりする停泊中の船団で混雑している。間近で見る孤高街は、一世紀に渡って何人もの異なる市長の管理と様々な組織理論のもとに成長してきた巨大で印象的な建造物である。その歴史を通して、孤高街は鉄面連合の中で常に変わらない存在であり続けている――常に主要な寄港地であり、暴君の志望者、病気、飢餓、深海生物による襲撃を生き延びてきた街。そして侵略戦争後の時代、孤高街は内外からの前例のない脅威とひとつの好機に直面している。好意や約束、債務、そして盗まれたコインを使い果たした孤高街は、今や適切な海洋経済、信用借り、そしてコズミューム貿易で繁栄している。
孤高街はひとつの都市へと成長したが、元々都市へと成長する意図は持っていなかった――鉄面連合が国家や王国となることを意図していなかったように。だが孤高街の上層部や少数の主要な同盟艦隊は孤高街がひとつの都市であるように努めている。かつて深海艦隊の艦長であった鉄面提督は、今や孤高街の艦長室の航海机に座し、鉄面連合が国境のない連合体から国民国家へと至る航路を描いている。
侵略戦争
ファイレクシアの侵略戦争中、孤高街はイクサランとトレゾン両大陸からの難民で膨れ上がった。果ての無い自由という鉄面連合の夢は消え去った。病気、恐怖、空腹を抱えた何千人もの難民がぼろぼろの船から孤高街へとよろめきながら上陸した。彼らはファイレクシアの侵略者からの庇護を求めた。鉄面連合の多くの艦隊は、孤高街を離れるという形でその不満に応えた――何と言っても、そうするのは自由だったのだ。だがそれはおろかな選択だと判明した。孤高街の豊富な物資の貯蔵がなければ、海上貿易は完全に崩壊する。そしてイクサランでもトレゾンでもファイレクシア人は猛威を振るっており、自由な船が自由いられるのはそこが公海上だからこそ。空腹で物資も欠乏した艦隊は孤高街に戻った。だがそこは包囲されており、守備する鉄面連合と転向した側との争いの中に閉じ込められた。
鉄面連合の創設者である鉄面提督はファイレクシアの侵略を生き延びた。だが彼女の艦隊と、当初の理想主義的な夢としての鉄面連合はそうではなかった。侵略の開始時、鉄面提督とその艦隊の主力部隊は、噂に囁かれる南の大陸を目指す大遠征を敢行していた。だが海上の空にかかる次元壊しの枝を見て彼女は引き返した。この旅は密林の島々での厳しい戦闘と、ファイレクシア化した恐るべき海の怪物たちとの戦いを経る長い遠征行となった。鉄面提督とその船団は孤高街に帰還し、街を奪回して住民たちを解放し、ファイレクシアの侵略者を追い出した。彼女による街の守備隊のへの増援は英雄的な偉業として賞賛され、鉄面提督は街のただひとりの指導者として孤高街の指揮を執ることとなった。
鉄面提督と孤高街の蜜月期間は侵略が終わるまで続いたが、トレゾンと太陽帝国のそれと同様に、その後は変化への要求が圧倒的に高まった。だが孤高街の人々にとってありがたいことに、鉄面提督の「自由」の概念もまた進化していた。自由とは、船が海を走り続ける限りにおいてのみ保証されるものなのだと。航行可能な状態を保つためには、船にはあらゆる手を尽くさねばならない。一隻の帆船はひとつの森から始まり、船を建造した者が実際に航海に出ることは滅多にない。鉄面提督は宣言した――略奪行為は人を寄生虫にする。かつて自由を誇った多くの鉄面連合員を堕落させ、転向させたファイレクシア人と大差ないのだと。怒れる群衆が孤高街の波止場にある旗艦を取り囲んだが、彼女は出航しなかった。代わりに彼女は上甲板の上に出て両腕を大きく広げ、海賊行為の時代は終わったと宣言した。鉄面連合はひとつの国家となる。鉄面帝国が考える真の自由、すなわち恐怖からの自由を確保することを主目的とする国家へと。
侵略戦争後のイクサランにおける鉄面連合
イクサラン大陸でのコズミュームの発見により、採掘と抽出の事業が盛んになった。そして産業と貿易の好景気だけでなく、公海上の海賊行為においても新時代が訪れた。イクサラン大陸でのコズミューム採掘事業、採掘許可書の唯一の保証人および発行者の地位を獲得することを推進し、そして太陽帝国とトレゾンから公海国家としての承認を得ることによって、鉄面連合はこの新時代の両側にまたがろうとしている。
太陽帝国と鉄面連合は常に激しく敵対してきた。一世紀前に遡る最初の接触から第一次海賊時代の終わりと現在のコズミューム景気に至るまで、太陽帝国の首脳部は鉄面連合をありがたくない侵略者とみなしてきた。鉄面連合の前身となるトレゾンからの難民は皇帝アパゼク・イントリ二世の統治時代にイクサランへと辿り着いたが、太陽帝国に歓迎はされなかった。彼らは帝国軍兵士によって入植地から追い出され、イクサランの海岸に二度と足を踏み入れるなと警告された。
パチャトゥパは鉄面連合を追い返す方針を常にとっていたが、実際にはアゾカンの商人たちはしばしばこの禁制を無視した。ファイレクシアの侵攻以前は、岸に停泊する鉄面連合の船や、陸上で娯楽や交易や冒険に興じるその乗組員たちを見かけることは珍しくなかった。アゾカン州の各地にある灰色市場と闇市場には珍しい品物が集まり、帝国の不徳な業者によって売られたアーティファクトや黄金と交換されたビジネスは――貿易、海賊行為、小規模商人の取引は――帝国の頂点に立つ人々をはじめとしてあらゆる人々に利益をもたらすのだ、特に目をつぶっているなら。
侵略はこの古い秩序を転覆させ、アゾカンを壊滅させ、沿岸部の大部分を過疎化させた。戦争の終結から一年、旧領土を偵察していた帝国軍は、鉄面連合員の大規模な移動を確認した。彼らは多くの辺境の町に定住し、貿易港を設立し、大規模なコズミューム採掘事業を開始していた。この陸上における成長は、鉄面連合をひとつの国として州として正当化するために新しく任命された鉄面総督の取り組みの多くの部分の基礎となっている――コズミューム採掘許可証を発行し、イクサランの沿岸部に土地を分配するのだ。これらの執行者は、かつて名手艦隊と呼ばれた青服の軍人たちである。彼らはトレゾンから逃れた軍人たちの子孫であり、鉄面総督によって国の海軍としての古い地位に戻った。当初は懐疑的だった個人経営のコズミューム探鉱者も、すぐに鉄面連合が発行する証書を保持することの有用性に気づいた。孤高街の事務所が署名し捺印した正式な契約書は、青服の軍人たちがやって来て道具を壊したり、野営地を破壊したり、収穫を没収したりしないことを意味していた。そして代わりに、鉄面連合との契約書を持たない人々からの庇護を保証してくれるのだ。
《金脈発見》
陽光湾はイクサラン大陸における鉄面連合の主要港であり、陸上における連合の最大の居留地でもある。厳格なリプリー・ヴァンス船長が仕切る陽光湾は金やコズミューム、合法か違法かにかかわらずあらゆる種類の貿易品で溢れており、決して退屈せず、常に危険な場所だ。その地の利のおかげで、陽光湾は青服の軍人たちによって厳重に警備されており、鉄面連合の戦闘員が常駐している。また湾周囲の水域はヴァンスの私有船と、結成されてまもない海軍の両方によって保護されている。だがそれでも、陽光湾は無秩序な辺境の町である。あらゆる類の人々がここでイクサランへの上陸を果たして夢を追いかける――あるいは騙されやすい者から財産を巻き上げる。
「下の町」はイクサラン大陸における鉄面連合の最大の事業である。イクサランの地下の非常に奥深くまで達する古代の干上がった陥没泉を取り巻いて、地下数百メートルに渡って恒久的な採掘作業が行われている。下の町は大きな貯蔵庫や精製工場、加工場で構成されており、採掘された鉱石や業務に従事する鉱山労働者を下の町全域に運んだり、作業現場を往復したりするトロッコの軌道が縦横に交差している。
下の町は巨大な昼光灯で照らされており、油圧式の大型昇降機、ジグザグの階段、複雑な水路網で地上と繋がっている。下の町の住民は通常、岩の中での生活に適したヘルメットと丈夫な衣服を着用しており、ほとんどの者はピック、ハンマー、ルーペ、照明用の予備の芯、刷毛、ノミといった職業道具を入れた鞄やベルトポーチを持ち歩いている。下の町において照明は生命線であり、光源や燃料、そしてそれらの多くの予備を持たずに歩き回る者はいない。通常は、両手が自由に使えるようヘルメットや肩に取り付けた明かりが用いられる。下の町は多くの地下探検の出発地点にもなっている。
アルタ・トレゾン、薄暮の軍団、女王湾会社
薄暮の軍団はトレゾン大陸の吸血鬼が統べる宗教国家、アルタ・トレゾンの名高い軍事部門の名である。軍団は800年の歴史を持つ高名な親衛隊組織として続いており、征服の専門家たちで構成されている――探検家、航海士、世話役、兵站員、そしてアルタ・トレゾンの帝国事業の管理者たち。人間からなる大勢の志願者に支えられた現代の薄暮の軍団はアルタ・トレゾン最高の遠征軍であり、海を越えて大規模な作戦を動かしてはその利益をトレゾンの金庫へと持ち帰っている。
イクサラン大陸への最初の遠征は現地民の抵抗と無益な内紛によってはねつけられたが、軍団自体は存続した。この辛辣な失敗にひるむことなく、ファイレクシアの侵略からアルタ・トレゾンを守った薄暮の軍団は女王へと再びのイクサラン遠征のための勅許を請願した。アルタ・トレゾンは再建しなければならず、アクロゾズに祝福されたその人々を養わねばならない――イクサラン大陸ではアルタ・トレゾンのために膨大な量の物資と血の富が手に入る、そう軍団は主張している。同様に、軍団でも最も信心深い兵の多くはイクサランに惹かれている。彼らの魂の影は深く引き込まれるものを感じ、吸血鬼の祖である神アクロゾズがイクサラン大陸の地下深くにて、子供たちが到来して自らを発見してくれる時を待っていると思い出させるのだ。
トレゾンの黄昏
アルタ・トレゾンの歴史は少なくとも千年前まで遡ると古文書は記しているが、薄暮の軍団に関連する歴史は現在から八百年前に始まる。当時のトレゾン大陸には科学の進歩、芸術の隆盛、活気ある貿易のルネサンスを享受する多種多様な王国や独立した都市国家が栄えていた。この時点でのアルタ・トレゾンは大陸の北東部遠くの山中にひっそりと建つ、小さくも繁栄するひとつの都市国家だった。政治形態は様々であり、時には傭兵たちが主導する戦争に従事したこともあったが、それでも大半の時代で平和を享受していた。現代の文献は当時をこの大陸の黄金時代と記している――西のきらびやかな自由海岸から、大陸を二分する大河である東のデオロ川の広い岸辺までトレゾンは繁栄し、人々は幸せだった。だがこの時代は終末を思わせる流血と戦争で終わった。
現在から四世紀ほど前、大規模な不死者の軍隊がアルタ・トレゾンから出陣し、青ざめた旗を掲げて広大なデオロ川を渡った。彼らは軍団と複数の傭兵団の恐るべき集合体で、かつては相争う3兄弟に分かれていたが、「トレゾンの薔薇」聖エレンダ騎士団という単一の宗規のもとに団結したのだ。彼らは「薄暮の軍団」を名乗った。戦争をよく知るこの恐るべき騎士たちは迅速な征服作戦に乗り出し、トレゾン東部の大部分を奪い去った。やがて西部の諸州がその進撃をかろうじて阻止した。この最初の猛攻撃の後、西部は一世紀の間持ちこたえた。だが軍団は内戦で鍛えられ、吸血という不滅の賜物に恵まれていたため、容赦のない強さを誇っていた。ついには大陸全体が陥落した。海を渡って逃げることができなかった者たちは、立てこもった砦で虐殺されるか、膝をついてアルタ・トレゾンの新たな王位への忠誠を誓った。
暁前暦803年:異統戦争とアルタ・トレゾン
薄暮の統一軍団がデオロ川を渡って大陸の征服を開始する以前、アルタ・トレゾンは何世紀にも渡る劇的な動乱、内戦、そして焼けつくような宗教的対立を経験していた。
暁前暦(Before Dawn、BD)803年。アルタ・トレゾンはまだ吸血鬼の国ではなく、トレゾン大陸東部の山間部にひっそりと位置する信心深い都市国家だった。何世紀にも渡って、アルタ・トレゾンは大陸の信仰の中心としての役割を果たしており、大陸全土や更に遠くの土地へと使節団を派遣してきた。古代の歴史のある時点で、信仰と領土的利益の理由からこの宗教都市は大陸の他の部分から切り離されたのだった。アルタ・トレゾンとその人々はデオロ川東岸の王国の物事だけに目を向けており、それで満足していた。アルタ・トレゾンの教会は公使や宣教師を派遣していたが、当時の記録によればアルタ・トレゾンの君主制度は自ら孤立し、大陸の他の地域の黄金時代から取り残されたとされている。
アルタ・トレゾンの人々がもっぱら自分たちの州の問題だけに集中しているとしても、それは平和を意味するわけではなかった。大陸の他地域の平和な黄金時代とは対照的に、800年前のアルタ・トレゾンは危機に瀕していた――尊敬すべき君主が明確な後継者を指名しないまま崩御したのだ。国王の継承法に従ってその子供たち三人がそれぞれ称号と土地を継承し、王国を三つに分割した。三人の中でも最年長である君主の長女がアルタ・トレゾンの首都の版図を相続した。だがその弟ふたりは姉の取り分に嫉妬した。かつて君主の評議員を務め、自分たちの郡や公領を継承していた弟たちは、領主たちを戦争に招集した。教会の意向に逆らい、弟たちは姉へと遺産を自分たちに分けるよう要求した。姉は拒否し、アルタ・トレゾンは内戦に突入した。
《困惑の謎掛け》
この戦争は国だけでなく教会も引き裂こうとした。内戦前の教会は相争う領主や貴族の世俗的な事柄から距離をおいており、アルタ・トレゾンの精神的および経済的保護区として機能していた。だが弟たちが姉の地位を簒奪しようと試みた際には、教会は行動を強いられた。ただちに教会の指導者のほとんどは兄弟を異端者であると、自分たちに栄光を授ける神の計画に対する背教者であると宣言した。一方で兄弟は、信徒伝道者や教会の急進派からの支援を得て、姉および教会の指導者たちは信仰の宣教精神から離れてしまったと宣言した。教会と王権は硬化して融通のきかない、腐敗した組織であると兄弟は語った。枢機卿や司教らを打ち倒し、女王の王冠と教皇の黄金の冠を融かして人々に分け与えるのが自分たちの義務なのだと。自分たちは異統の王子であると兄弟は高らかに宣言し、内戦が始まった。
内戦は250年の間続き、統治者三人の子供たちがその戦争を引き継いだ。戦時中に残虐行為によってアルタ・トレゾンの人口は激減し、その土地は隅々まで奪い合いになって荒廃した。比較的静穏な時期には、小規模で練度の低い軍勢同士のくすぶるような争いだけが繰り広げられた。貴族は数を減らし、騎士や小領主も減少し、悲惨な戦いで大量の農民が虐殺された。だがどちらの側も敗北を認めようとはしなかった――代わりに停戦協定が合意に至った。張り詰めた平和が支配し、この空白期間は次の戦争が始まるまで50年間続いた。
暁前暦495年:アルタ・トレゾンの戦いと聖エレンダの帰還と賜物
暁前暦495年、内戦は再燃した。攻撃する異統軍は一連の勝利を収め、まもなくアルタ・トレゾンの尖塔が見えるという所まで到達した。君主と教会の連合軍の残党は、圧倒的な侵略軍に対抗するために集結した。だが敗北が確実と思われたその時、ひとりの見知らぬ人物が現れた――波打つ黒い霞に身を包んだこの騎手は異統の王子たちの儀仗隊に突撃し、行く手を阻む者を皆殺しにした。敵軍は隊列を崩して後退し、ただひとりの攻撃の前に潰走した。君主と教会の連合軍は結集し、異統の王子たちの軍勢を始末してその戦いは決着した。
《贖罪の聖歌》
この見知らぬ人物はエレンダと名乗った。「不滅の太陽」の管理人であり、イクサランを何世紀にもわたって放浪した後にアルタ・トレゾンに戻ってきたのだと。エレンダは不滅の太陽を、何世紀も前にアルタ・トレゾンからスフィンクスのアゾールによって盗まれたアーティファクトを探していた。君主と教皇はそのような主張を信じなかった――その出来事は古代の歴史に属すると言ってよく、エレンダがトレゾンに戻る何世紀も前に起こったものだった。エレンダは君主へと告白した。イクサランにて不滅の太陽の探索を続けるために吸血鬼の祝福を受けたこと、そしてトレゾンに戻ってきたのはこの賜物を同胞たちにも贈り、探索を助けてもらうためだと。教皇はエレンダの啓示を、無私の自己犠牲的行為と解釈した。教会の祝福を受け、現体制支持者の貴族たちはエレンダの賜物を受け取った。この儀式的な祝福は吸血を伴うもので、救済の儀式として知られるようになった。
暁前暦494年-暁暦5年、現在:トレゾン征服と最初のイクサラン遠征
エレンダの吸血の賜物によって超自然的なまでに強化された王権と教会は、ただちに異統の王子たちに勝利するとアルタ・トレゾンを再統一した。だがたとえ統一されたとしても、アルタ・トレゾンの支配者たちは古くからの国境に満足しなかった。吸血鬼としての力と血への食欲に駆り立てられた彼らは大陸全体の征服作戦を開始した。何世紀にもわたる戦場経験と吸血鬼の超人的な力を併せ持つアルタ・トレゾンの騎士たちは、大陸でも最も恐ろしい軍隊となった。それから4世紀にわたってアルタ・トレゾンの軍隊は諸王国を次々と容赦なく飲み込み、山中の故郷から外へと拡大し、難民の波を沿岸部の自由都市へと追いやった。アルタ・トレゾン拡張の最後の世紀には、わずかに残っていた独立都市国家が薄暮の軍団へと陥落し、一時的に定住していた難民たちは再び逃亡した――今度は海を越えたイクサランやその先の土地へ。5年前、不滅の太陽を取り戻すために薄暮の軍団は海を渡った。こうしてトレゾン大陸全土におけるアルタ・トレゾンの支配が始まった。
《ヴィトの審問官》
アルタ・トレゾンは現在、征服したトレゾン大陸を華々しく統治している。トレゾンの人間の大衆の間で吸血鬼は崇拝されている。何世紀にもわたる伝道により、吸血鬼になるということは、教会からの究極の祝福という賜物を受け入れることを意味するようになった。吸血鬼とは単なる不死の怪物ではなく、神に近づくために死すべき人間性を脱ぎ捨てて永遠の命という賜物を与えられた者なのだ。
権力や金や土地、そして血に対するアルタ・トレゾンの欲望が満たされることはなかった。そのため教会と王権は海の向こう、彼らの調査員がまだ探検していない伝説の土地に目を向けた。やがて彼らの船は、最初の尊き聖人であるエレンダが訪れたと主張する遠い大陸の知らせをもたらした――イクサラン。そこはオラーズカと不滅の太陽が座す地であり、アクロゾズの生まれ故郷であり、聖エレンダが救済の儀式を発見した地。だが薄暮の軍団の最初のイクサラン遠征は散々に終わった。オラーズカでは屈辱を受け、不滅の太陽をまたも失い、アルタ・トレゾンに戻った軍団はエレンダからの懲罰を受けた。
トレゾンでのファイレクシア軍
トレゾン大陸もファイレクシアからの侵略を免れることはできなかった。トレゾンの西海岸沿いに分布するかつての自由都市群は――大陸最大の人口密集地、つまりアルタ・トレゾンの「穀倉地帯」は――侵略で最も大きな被害を受けた。ファイレクシア軍はデオロ川を渡ることも、アルタ・トレゾンの山々を突破することもできなかったが、これらの都市を解放するための奮闘は西部一帯を泥まみれの廃墟に変え、数万人という聖騎士が死亡し、数十万人という血税人が殺され、都市は焼き払われ、大聖堂は倒壊し、無数の聖遺物が失われた。
再建は遅々として途切れ途切れである。アルタ・トレゾンは侵略の余波に苦しんでいる。貴族たちは毎日のように、戦債の返還と報酬を国王に請願している。人間の請求者たちは導きと保証を求めている。終末的熱狂が教会の聖人伝的な部分を活気づけ、新教皇マーブレン・フェインへと行動を要求している。それに加え、飢餓の波が大陸の人間と吸血鬼の両人口を襲っている。アルタ・トレゾンの吸血鬼でも薄暮の軍団と繋がりのない者たちは、教会の狭い許容範囲内に収まる食料源を見つけるのに苦労している――異端者、法律違反者、戦争捕虜、あるいはファイレクシアの油や光素への曝露による長引く影響を受けていない、認可されたドナーたち。トレゾン全土で不満と飢えがくすぶっている。飢餓による断血や悲惨な摂食の報告が王室や教会の法廷に毎日寄せられている。そして王室と教会の本流はこうした異端的行いの停止を要求しているが、急進的な司教と枢機卿らはさらに大規模な流血を要求している。トレゾンはファイレクシアの侵略者を退けたかもしれないが、ミラルダ女王は秩序を保つべくもがいている。
信仰の危機
ファイレクシア人の到来とそれに続く侵略戦争により、多くの信者は終末が近づいていることを確信した。ミラルダ女王による戦後の緊縮経済政策、大飢餓、そして経験した恐怖と和解する時間が相まって、トレゾンの住民の多くは不満をくすぶらせている。古い組織は自分たちを取り巻く大破壊に対応できていないように見え、アルタ・トレゾンの外の人々は首都に嫉妬の目を向けている。この古い首都は無慈悲な侵略を免れ、今では王国の他の地域に対して「養うことができない」と言っているのだ。変化が必要とされ、機は熟している――新しい世界が生まれようとしている。
教会内では終末論的な興奮と堅固な正統派的信仰が衝突している。司教や枢機卿たちは大聖堂のアーチ型天井の下、呟き声で互いに異端を宣告している。首都では金糸で飾った司祭たちが、ぼろを纏うカリスマ的街頭説教者たちと争う。一方アルタ・トレゾンの外では公認牧師たちが辺鄙な小教区と小規模な会衆を力づけ、大規模な告解の行進を阻止している。信仰においては、薄暮の教会にとって教義の方向性以上に重要な問題はない――古からの体系に、分裂の最初の亀裂が広がっている。唯一の問題はそれが打撃で粉々になるのか、それとも着実な手で閉じられるのかということだ。
正式は分裂してはいないものの、信者の間で派閥が生じていることは明白である。教会の正統派は敬虔なるマーブレン・フェイン教皇が統べている。急進派は――正統派によれば「異端者」は――ヴォーナに導きを求めている。この分裂は王室と国の世俗的政治にまで影響を及ぼしている。ミラルダ女王は事実上、教皇と教会の正統派に同調している。そしてその統治に反して、無数の分離主義者が「反逆者」ヴォーナ・デ・イエードのもとに結集している。
女王湾会社
ファイレクシアの侵略が終結すると、アルタ・トレゾンはイクサランへの一連の遠征へと資金を提供したがった。教会内で高まる緊張を考慮し、また海外での活動における中立性を確保するために、アルタ・トレゾンは薄暮の軍団へと、トレゾンの人々の利益に供する新たな商的企業を創設するよう命じた――それが女王湾会社である。この会社は商人や貿易業者、船長、鉱山労働者、およびその後援者たちがただひとつの商業的事業へと団結している。すなわちイクサランからの商品や宝物や資源の採取とそれらの輸送、精製、販売である。
《女王湾の聖騎士》
この会社の中立性は、書類上は他にない独立した所有構造によって確保されている。会社の持ち株は、ひとつ(または複数)を購入する余裕のある者へと提供される。王権、教会、薄暮の軍団はそれぞれが結構な数の同社の株式を所有しており、合わせておよそ半分に相当する。残りはさまざまな関係者、貴族、銀行家、裕福な商人が所有しており、彼らの多くは会社で直接働いているか、会社との提携によって恩恵を受けている。女王湾会社は、薄暮の軍団の聖騎士という権限とともにイクサランの女王湾にある古い要塞の独占権を与えられた。そしてトレゾン大陸における唯一のコズミューム供給者であることから、比較的若い組織であるにもかかわらず、彼らは急速にトレゾンの政治における実力者となった。会社の支配権を巡る争いにおいて血は流れていない――今のところは。
女王湾会社の取締役はエレナ・デ・サイロス王女、副取締役はバルトロメ・デル・プレシディオである。
地下世界
イクサランの地下洞窟群は中心核の外側から地表まで伸びており、途方もない長さに及ぶ巨大な洞窟網となって次元全体を取り囲んでいる。探検家たちは地表から中心核に向かって下降していくにつれてイクサランの歴史を深く掘り下げ、今も生きている文明と、長い間歴史と闇に失われていた遺跡や遺物に遭遇する。
マラメト
マラメトの歴史
豹人種族であるマラメトは、かつてマーフォークや人間と同じように地表に暮らしていた。だが遠い昔に、太陽帝国の力から身を守るため自分たちの領土を地下に移した。彼らの歴史は、次元の地表を割いた戦いについて語っている。そこでは楽園から締め出された神々の子供たちが対立し、激突したのだという。この戦争は徹底的かつ苛烈なもので、神々の子供たちは身に着けていた豪奢な衣服や装飾をすべて捨て去り、今の彼らが持つ定命の殻だけが残されて終わりとなった。すなわち痛みや病気や弱点や加齢といったものにさらされる、生きた身体である。マラメトはこの伝説を、絵文字が刻まれた石碑を用いて公の歴史として残している。そこでは人間、マーフォーク、そしてマラメトが勝利者として記録されている――アクロゾズの歪んで邪な子供たちに打ち勝った、友人同士ではなく兄弟姉妹として。
《マラメトの古参兵》
古代のマラメトの石碑は、家族や祖先から遠く離れ、故郷から締め出され、迷い恐怖しながらさまよう定命たちの脱出を語っている。兄弟姉妹たちは――人間、マーフォーク、マラメトは――増大する辛さと怖れから互いに敵対した。それ以来の彼らの歴史は厳しく、ゆっくりとした衰退となった。そのためマラメトの多くは自分たちの未来に対して攻撃的な態度を取るようになった。彼らは力によって、失われたものを取り戻したいと願っている。
マラメトの文化
生き延びたマラメトの精鋭たちは誠実で利口で賢明、だが一方で彼らは疑い深く、縄張り意識があり、冷酷である。彼らの帝国は遠い昔に崩壊し、太陽帝国以前の人間に敗北し、地下洞窟網へと追いやられた。洞窟網は豪奢に作られてはいるが、彼らはそれを自分たちの地位が低下した証拠であるとみなしている。マラメトの豹人たちは太陽の地を我がものにしたいと長いこと願っているが、自分たちの文化は黄昏のさなかにあると一般的に認識している。これを真に受け、卑劣で残忍かつ執念と嫉妬に満ちた君主へと自らを委ねる者もいる。だがそうでない者はこの衝動に抗い、灰の中から未来を築こうと努力している。知恵や外交、そして彼らの物語を記録し共有することで勝ち取る未来に、再び穏やかな太陽の光を浴びることになると信じて。
書かれた言葉はマラメトにとって途方もない重みと重要性をもつ。彼らの言語は、その毛皮に生まれつき形成される斑点模様に似た象形文字で記録される。マラメトの織物、彫刻、衣服、鎧、武器、地位の象徴などにはすべて、深い意味をもつ象形文字や、語句、名前が含まれている。膨大なマラメト文字を使いこなすことはマラメトが望んでやまない資質である。象形文字を組み合わせて最も情報密度の高い詩を作成する能力もまた非常に重宝される。マラメトの魔法も同様に彼らの象形文字から派生したものである。彼らの祖先の意志、知恵、物語、そして祖先そのものの姿がこれらの象形文字に書き込まれており、必要に応じて召喚して助力を願うのである。
宙吊りの都、バン・コージ
バン・コージはイクサランにおける豹人族の実質的な首都であり、その最大の人口密集地である。宙吊りの都という名の通り、この都市は広大な洞窟の天井からぶら下がる巨大な鍾乳石の森の周囲や隙間に、そして内部に建設されている。突き刺すような鍾乳石の間の空中には縄の吊り橋、荷車の列、歩道、網、昇降台が縦横に交差し、建物と建物を結び、都市をつなぎ合わせている。都の人口は数万人で、貿易や詩や文学、そして豹人文化の中心地である。バン・コージのマラメトは巨大な要塞のような鍾乳石の中に作られた共同住宅に住んでいる
バン・コージは古く、それが築かれた鍾乳石の基礎と同じように成長してきた。バン・コージの逆さ塔の光景は、その所属に関係なく、豹人たちにとって深い神話的、歴史的、文化的に重要な場所を占めている。何世紀、あるいは何十世紀にも渡って、バン・コージはその逆さ塔を我がものにしたいと熱望する君主たちによって争われてきた。稀にバン・コージの高所でその戦争が激化することがある――ある時はひとつの塔がそっくり切断され、バン・コージの下にある都市ポロバル・コージに落下するほどの大惨事となった。
ポロバル・コージ
バン・コージの下は、主に深淵のゴブリンの居住地となっている。これは宙吊りの都の更に地下の洞窟の地面を占拠しており、広い川の両側にまたがっている。ここに住むゴブリンはバン・コージの豹人が雇う傭兵、商人、荷運び、斥候、労働者である。ミッデン・コージは放浪する深淵のゴブリンや傭兵たち、その他バン・コージが誇る高みに登る必要がない、または登ることを望まない者たちのための賑やかな貿易都市にして川港である。ポロバル・コージには都市間の交通機関を担う縄の昇降機が点在している。
霊の都、チャマ・コージ
チャマ・コージは液体のような流砂が危険な速度で流れる、半ば沈んだ都市複合施設の遺跡である。チャマ・コージは豹人の都としてではなく、忘れられた古代文明の――恐らくは遠い昔の人間の――首都として築かれ、豹人たちが後に手に入れたものだった。司書たちや消え去った残響曰く、チャマ・コージは征服で手に入れたか、勇士の戦いで勝ち取ったか、玉座についた最初の君主に遺贈されたとされているが、そういった物語はすべて時と流れ続ける砂の中に失われた。現在のチャマ・コージは無人だが、消えかけた豹人の残響がさまよっている。ここは神話織りや象形書記たちにとっての巡礼の地である。彼らは緩やかに砂の流れるこの街を訪れ、自分たちという民、チャマ・コージを建設した人々、そして今や忘れ去られた遠い過去にこの都をめぐって戦ったすべての人々の埋もれた謎を明らかにしようとしている。
深淵のゴブリン
深淵のゴブリンは小さく頑丈な生物だ。地上の同類たちが船の帆やロープの隙間を巧みに進むように、彼らは暗く狭い地下通路を進むのが得意である。豹人の軍隊の中に彼らの姿はよく見られる。このゴブリンの社会は豹人たちと同盟を結んだ者と独立を保ち続ける者とに分かれている。
深淵のゴブリンの歴史
深淵のゴブリンはイクサランの地下世界に生息しており、洞窟網の最下層を分かつ深い裂け目やマラメトの都市内、あるいはその周囲を好んで居住している。コウモリと鳥のように、深淵のゴブリンは地表に住む親戚とは別に進化した。とはいえ外見や行動を見るに、地表のゴブリンと同じ生態系的地位を占めているように思われる。
洞窟網の内部において深淵のゴブリンは長い歴史を持つが、地下世界の豹人やマイコイドや人間のように大規模な中央集権社会の中で集団を形成したことがないため、記録された歴史はほとんど存在しない。一方でそのように一極集中したことがないため、他の文明の始まりや終わりとなったような、存続に関わる壊滅的な危機に直面したこともない。深淵のゴブリンは壮大な文明の隆盛、戦争、そして崩壊とともに存在してきた。巣の中で安全に暮らし、常に支配的な勢力と関わってきた。深淵のゴブリンにとって、成功とは生き延びることである。栄光とはどれだけ沢山の金を集められるかではなく、長寿にあるのだ。
深淵のゴブリンたちはファイレクシアの侵略の影響を受けなかった。だが彼らは洞窟内での活動の増大によって引き起こされた、初めての文化的危機に直面している――地表からの侵略者やマイコイドに対して豹人と組むか、それとも独立を続けるか。
《鍾乳石の追跡者》
深淵のゴブリンの文化
深淵のゴブリンの社会は、豹人に忠誠を誓う者たちと、彼らを残酷な主人とみなして独立を望む者たちとに分かれている。この政治的階層化は、深淵のゴブリンの文化に裂け目をもたらした。独立を保つゴブリンは文字言語を持たないが、豹人についたゴブリンは豹人文字の方言を採用した。
独立のゴブリンもそうでないゴブリンも、焼いた泥と粘土で作られた巣穴の中に居住地を作り上げている。独立した深淵のゴブリンの居住地は概して、そうでない深淵のゴブリンの居住地よりも古く、規模が大きく、人口も多い。
深淵のゴブリンには豊かな口伝の、神秘的な、そして物語的な伝統が存在する。太陽とそれに伴う昼夜のサイクルを持たないため、深淵のゴブリンはさほど厳密ではない直線的な時間の概念を持っている。つまりひとつの時代と終わらない一日が存在し、それぞれの瞬間とサイクルが優先されるのだ。
深淵のゴブリンには、額から吊り下げる小さなランプのような生物発光器官をもつ者も存在する。これらはその美しさと珍しさから、ゴブリン族の間で珍重されている。
《溶岩舌のゾヨワ》
帝王マイコイド
帝王マイコイドは中心核から弾け出て地下洞窟網の大半に拡大した毒性の菌類種族、マイコイドの形態的支配者である。遠い昔、マイコイドはイクサランの多くの地下文明を意図せず破壊した原因となっていた。マイコイドは自分たちが消費し、独自の形状や形態やパターンに統合した文化がひとつの奇妙な融合体となったものである。帝王マイコイドはマイコイドの首領であり、単一の心が肢体を制御するように彼らを管理する。その目標は難解かつ不可解だが、それを達成するには中心核全体に拡大し、アーティファクトや探検家を取り込み、マラメトの領土に侵入し、中心核への封印された入り口に辿り着く必要がある。
マイコイド
マイコイドはイクサランの洞窟全体で見ることができる。その鮮やかな色、異質な形状、大きさは非常に多種多様である。数千年前にオルテカによって偶然もたらされたマイコイドは着実に成長し、イクサランの地下世界の大部分を圧倒した。ある所では都市のように密集し、またある所ではひげのような細い菌糸体の形状をもち、イクサランのマイコイドは洞窟内のあらゆる領域で見ることができる。
マイコイドは知覚を発達させる能力と意識の表現方法が独特であるため、イクサランの地表に増殖するありふれたキノコや菌類とは全く異なっている。イクサランのマイコイドはひとつの形態であり、すべての構成部分に分散する単一の精神であり、その構成部分によって作成され維持されているものである。この精神は自らを帝王マイコイドと呼んでおり、自分自身は多くの部分から構成される、世界にまたがる巨大な存在だと考えている。各マイコイドは最小の胞子から最大の原基に至るまでが帝王マイコイドの目、口、手、そして乗り物である。帝王マイコイドにとって生きることとは、人間や吸血鬼、マーフォーク、豹人、その他単一の身体をもつ存在とはまったく異なる経験である――帝王マイコイドは痛みや飢えを感じず、死を恐れず命を大切にもせず、ただ蔓延し、消費し、繰り返し、克服するためだけに存在している。
マイコイドの塊が十分に大きく成長すると、形成中の身体の中に支配的な精神が生じ始める場合がある。こうした帝王マイコイドの幼い精神は通常、歩行可能なマイコイドのコロニーが人間ほどの大きさまで成長すると発達を始める。大きなマイコイドほど賢く、すなわち危険――オルテカのレインジャーはこれを良い経験則としている。個々のマイコイドが独自の意識を発達させ始めるかもしれないが、帝王マイコイドがはびこる洞窟内に存在する限り、彼らが帝王マイコイドの命令から完全に自由になることは決してない。自分自身の考えを形成し、遠い親のそれに反する存在の形を発達させ、自分自身は一個の意識であると考えるかもしれない。だがイクサランでは帝王マイコイドは常にそこに存在し、彼らの精神の中に居続け、その命令を囁いている。
《帝王マイコイド》
帝王マイコイドの文化
帝王マイコイドの目標と計画は人間の精神から見て異質なものだが、いくつかの認識可能な基準を中心として文化を組織している。彼らの成長の多くは、彼らが遭遇する生物からの影響を受ける。事実、帝王マイコイドの主たる学習方法は消費と消化と複製である。この過程によりマイコイドは原始的な魔法、道具作成、武器のシステムを発達させられるようになった。とはいえマイコイド自身の内で独自に生成された魔法や技術が存在しないわけではない。
《末梢の屍道士》
人間が理解している限りにおいて、マイコイドは消費し成長するために存在している。消費し、研究し、複製を試みるため、帝王マイコイドは生きている(あるいは不死の)有機体という形の情報やデータを重宝する。彼らの主要なデータ元は人間であるため、人間の文化を再現しようとする傾向がある。マイコイドは、人間が建設した都市を真似るように巨大な都市サイズのコロニーを形成する。地下世界に踏み入った太陽帝国の冒険家たちは、パチャチュパのテラスやオテペクの階段状の寺院が巨大な傘やひだや菌類の身体で再現され、彼らの知らない他のランドマーク(ではあるが、マイコイドの形態全体が持つ古代の知識)の中にひしめき合っていることに気づいて驚愕した。
《イトリモクの成長儀式》 // 《太陽の揺籃の地、イトリモク》
マイコイドはあらゆる形状の、あらゆる明るさの洞窟を移動することに長けている。物を見るために光を持ち歩く必要はないものの、通常は消費的学習のためにそうしている。マイコイドは生物発光を用いて他の文化の照明装置を再現し、多くの場合はそれを身体に直接組み込んでいる。
洞窟に生息するマイコイドは、最も重要なふたつの文化的動機をもつ――それは消費と拡大である。したがって、彼らは征服を目指す思想的な動機は持たないものの、事実上征服に従事しており、豹人の王たちの支配領域の境界やオルテカの中心核の入り口に迫っている。
楽園の中心核
楽園の中心核はイクサラン次元内部の巨大な空洞であり、小さな、生命を与える神の星チミルを取り囲んでいる。したがって中心核の居住可能な表面は、その空間の外側ではなく内側に存在する。中心核の中に地平線はなく、遠くへと霞んで消えていく緩やかな上り坂があるだけである。十分な準備と決意を持つなら、正面玄関から出発して中心核を周回し、正面玄関に戻ってくることができる。中心核の中心に浮かぶ恒星チミルから重力が常に外側に働くためである。
中心核はイクサラン次元で最も古い場所であり、人類の発祥の地であり、数千年の歴史をもつ。したがってその地には鉄面連合が最も評価する類の富、薄暮の軍団が求める神性との結びつき、そして太陽帝国が探す知識が豊富に存在する。
《大いなる扉、マツァラントリ》 // 《中心核》
オルテカ
オルテカは中心核の支配的な文明であり、今も生きる太陽帝国の人類の祖先である。イクサランという世界はチミルによって創造され、その子供たちである深淵の神々によって養われている。そして自分たちはその最初の民である――オルテカはそう信じている。オルテカは中心核の守護者であり、この驚嘆すべき空間への入り口すべてを守り、この誇らしき牧歌的な世界に入り込む可能性のある脅威に対して警戒を続けている。オルテカは人々同士が調和して、そして自然界と調和して生きている。彼らは自分たちを自然界の番人であると、つまり支配者ではなく世話役であると考えている。
オルテカは近代的で進歩した人間の文明であり、中心核で数千年に渡って生きてきた。彼らは太陽帝国の前身となる文明であり、今も親類であり続けている。だが太陽帝国の祖先が最初にイクサランの地表に到達して以来、大きな接触はもっていなかった。彼らはイクサラン最初の人類として歴史を誇っている。今でこそオルテカという名であるが、彼らは――そしてすべての人間は――かつては第五の民、コモン・ウィナクであった。彼らの世界観においては、人類が存続するならば第五の時代も存続し、すなわち自分たちはチミルに選ばれた、チミルに愛される者であることの証明なのだという。
《日々の賢者》
太陽帝国とは対照的に、オルテカは帝国的野心を持たない。彼らは帝国ではなく共同体の集合である――貿易と共有の歴史と目的によって結び付けられた、平等主義的で歴史的な都市国家群。オルテカは中心核の保護者、世話役、歩哨、守護者であり、それ以上の何ものでもない。もちろん彼らは地下世界の性質や地上世界の政治への興味を持ってはいるが、国家的な征服計画は抱いていない。だがそれは、正当な理由があるならば征服に向けて動かない派閥がオルテカ内に存在しないということではない。
《千の月の歩兵》
古代の勝者、警戒を絶やさぬ番人
自分たちは見識のある隠遁的番人であるとオルテカは考えている。彼らの目的にはふたつの要素がある―大いなる脅威から世界を守ること、そして庭師が愛する土地を育むように中心核を育むこと。
オルテカは次のふたつを中心核への大きな脅威とみなしている:
- アクロゾズ:現在では吸血鬼の始祖と理解されているアクロゾズは、母なる神チミル、砕けた星、そして深淵の神々の永遠の敵としてオルテカに広く知られている。オルテカの神話や歴史においてアクロゾズはトリックスター、貪欲で強欲な大食家、卑劣な獣、わずかな力のために同胞を裏切る殺人者として登場する。それでも多くの者たちが依然としてアクロゾズを探し求めており、その囁きに従って中心核の暗き場所へ赴いている。そこで神を見つけ出して解放することができれば、富と力と永遠の命が約束されるのだ。
- マイコイド:地下世界全体のマイコイドが爆発的に拡大したため、オルテカは現在の隔離生活を強いられた。以来オルテカは残響たちを通じてマイコイドをある程度監視してきたが、相手を打倒する方法もその影響を癒す方法も発見できていない。
中心核こそが世界
オルテカにとって、世界とはすなわち中心核である。イクサランの洞窟網と地表は異国的な生物、文化、獣が生息する奇妙な土地である。地表世界の姿は――端から落ちてしまいそうな、切り立った崖のような地平線、広大で暗い虚空に開けた果てしない空は――落ち着かないのだ。一方で地下洞窟網はそこまでではない。そちらについてオルテカは理解しており、マイコイドに対して中心核へと閉じこもる以前には多くの接触を持っていた。
太陽帝国との遭遇後、オルテカは自分たちがふたつの方向に引っ張られていると感じている――地上の子孫たちの文明に手を差し伸べたいと願う者もいれば、子供たちの政治活動に興味を持たない者もいる。
オルテカの都市
オルテカの都市は壮大で清潔、人口密度の高い建造物群であり、自然と調和して構築されている。それらの中を曲がりくねって運河が流れる風景はしばしば見られ、また緑地や自然の美はよく保存されている。オルテカは自然の美を舗装して潰してしまうよりも、自然の特徴を中心に構築してそれを都市の姿へと組み込むのを好む。オルテカの都市内の移動は公共の運河船、テレフェリコ (吊り下げ式ケーブルカー)を用いることができ、あるいは徒歩でも同じく可能である。
《不穏な投錨地》
オルテカ人はチミルと関連づけるように、また敬意を込めて都市を建設している。通常これらは九芒星の形状に配置され、周辺地区、町、港、神殿は大きな陸橋で市の中心部と結ばれている。都市は整然としていて清潔であり、通りが混乱するのは市場地区や祭日に限られる。それらの際には公共の空間が大いに活用され、白い大理石の都市が式典や商売、祝祭の活気に満ちた場所に変わる。
《市場のノーム》
都市には活気があり、多層構造になっているがあらゆる人々に開かれている――オルテカにとっての秩序は、太陽帝国の秩序と階級構造の考えと同じではない。オルテカは共同体に生きており、比較的水平な権力構造を持っているため、彼らの都市もこれを反映して広大な公共的空間や建物、共同生活における取り決め、複数の家族が住み働いている団地などが存在している。この環状の配置は大都市の外にも反映されており、地方のオルテカは共有の土地内にある共同体にて生活し働いている。
《島》
チミルと深淵の神々
深淵の神々はオルテカ社会にて尊敬されているが、太陽帝国の人々にとっての太陽の相ほどに遠い存在ではない。三相の太陽とは対照的に、深淵の神々はオルテカの中を歩き、ともに戦い、ともに飲み、ともに泣き、ともに愛し、そしてオルテカのために死んだのだ。この神性と定命の混じり合いは、平等主義者や多くの役割を持つ者に対するオルテカの衝動に反映されている――司祭たちは多くの場合において市民の指導者や軍事指導者、教師、農民などである。金で着飾った太陽帝国やトレゾンの司祭たちの目に、オルテカの大祭司は平信徒の説教者か野の伝道者のように映るかもしれない。だがオルテカにとって、装飾品の欠如は信仰の欠如を示すものではない。
オルテカの主神はオヘル・タクであり、オヘル・パクパテクがそれに続く。チミル、あるいは砕けた星はオヘル・タクの母神であり、オルテカには三相の太陽と同一の神であると理解されている。
中心核には深淵の神々それぞれに捧げられた神殿が存在するが、アクロゾズを崇拝する場は隠されている。通常はひとつの社か小さな洞窟ほどの大きさで、ほとんどのオルテカからは嫌悪と忌避の目を向けられている。中心核最大の神殿建築群はオテクランに建つ文明の神殿、それに次ぐのは文明寺院の真向かいに位置する、巡る刻の神殿である。
砕けた星、チミルは中心核にその神殿を持たない――いつも空にあるのだから。ただそこに行くか見上げて崇拝すればよいのだ。だが多くの共同体において、小さな社、ランタン、またはチミルの象徴が集会場に収められている。同様にオルテカの建築、衣装、鎧には様式化されたチミルの象形文字や刻み模様がしばしば組み込まれており、常に頭上に存在する星の存在とオルテカの歴史におけるその重要性が反映されている。
オヘル・アショニルとオヘル・カスレムは、それぞれ主に千の月と庭師の兵団によって、彼らの技に関連する神として崇拝されている。この二柱の神殿は小規模で訪れる者も少ないが、崇拝者間では尊ばれており、祭日や祝日が決められている。
コズミューム
コズミュームは地下世界全体と中心核にて鉱脈や空隙に、あるいは塊状に産出する鉱物である。それは採掘または抽出され、精製され、有機物と無機物の両方に付加され、その物体あるいは生物に内在する、あるいは注入されている潜在的な魔法の特性を強化することができる。精製されたコズミュームは魔法のための電池や導管や投影器として最も適切に機能し、また無尽蔵であり、それを使用する者または適用される物体によってのみ制限される。
コズミュームは砕けた星チミルによって、暗夜戦争のさなかに中心核と洞窟網にもたらされた。コズミュームはチミルの生命の本質と密接に結びついており、実際には神の血や魂に相当するものであるとオルテカの科学者と地質学者は理論づけている。チミルはこの件について何も語っておらず、ただ破滅をもたらす殻の破壊から回復する際に、すすり泣くこの星がコズミュームを血のように流したという当時の発言や神話が残るのみである。コズミュームはイクサランにおいて非常に(地質学的な尺度で)新しく、その源は次元の中心核にあるため、その密度は中心核内で最も高く、離れるほど希薄になる。
《宝物》トークン
様々な文化がコズミュームを発見したが、まもなく彼らはコズミュームを武器や防具の表面処理や象嵌として用いると、その品物の耐久性が向上し、既存の特性が強化されることを突き止めた。コズミューム製の、あるいはコズミュームを施した剣の切れ味は決して鈍らない。コズミュームを散りばめた、あるいは塗布した胸当ては砲弾の直撃に耐える。コズミュームの塗料で保護されたドリルの先端はどんな岩も削る、等々。
コズミュームに関する研究は地上で進行中である。魔法的な用途だけでなく、精製されて宝石細工師によってカットされたコズミュームは極めて美しい物質となる。トレゾンとイクサランの両大陸において、富裕層と権力者はコズミュームを象嵌した衣服や高級品、武器、勲章を珍重している。トレゾンの吸血鬼たちの間では、コズミュームの摂取は吸血鬼の飢えと血液の必要性の代替として機能することが証明されている。そのため重要な工業的原材料として、また美食家向けの高級品として、この驚異的な鉱物を更に大量に求める声が高まっている。
オルテカとコズミューム
オルテカはチミルによって、遠い昔に中心核と洞窟網にもたらされた。彼らはコズミュームに触れ、そしてそれを用いることによって小規模な農耕社会から、おそらくイクサラン次元の地下と地上両方で最も先進的な文化へと自分たちを変化させることができた。
オルテカの間では、成人の儀式としてコズミュームのインクで刺青を入れるのが非常に一般的である。チミルの賜物を常にその身に蓄えておくのだ。この経験が与える影響は大きい。寿命が延び、健康が増進し、様々な魔法への親和性が増し、コズミュームの強化を受けていない者の限界を超えた力と持久力を得ることができる。オルテカの若者が最初に入れる刺青は、長い時間をかけた成人の儀式の集大成である。それは自らの力で必要な量のコズミュームを入手するという旅で終わる。
《千の月の撃ち手》
オルテカの役割
執政
執政はオルテカ市民の指導者であり、共同体の一般投票によって選出された代表者である(共同体は小規模な農業集団からオテクランの大都市全体まで、あらゆるものが含まれる)。選出された執政は地域評議会の委員を務める。これら地域評議会はオルテカの主要な統治機関である平等評議会に派遣する代表者を選出する。執政に候補する資格を得るには、チミルへの最初の巡礼を完了していなければならない。
執政は豪奢に整えられた官職用ローブと、その人物が代表する共同体を示す象形文字が刻まれた冠を身に着けている。またしばしば簡素な木製の笏を持ち、首周りには真鍮または金の板が編み込まれたキープを着用する。ほとんどの執政は老人であるが、若い執政の存在も決して珍しいものではない。特に大規模な共同体においては、執政はしばしば重要な役職というよりも更なる地位への道とみなされる。
庭師
庭師はオヘル・カスレムの司祭と信徒たちである。彼らは中心核の熱帯林や山岳地帯の密林を本拠地としており、自然を健康に保ち、薬草やその他の植物を栽培および収集し、古代遺跡や記念碑や残響の石碑を維持管理している。庭師は辺境地域の道路や小道を最初に整備し、火災の監視をし、辺遠の農民や漁民や牧場主たちを支援することが多いため、深淵の神々の司祭たちの中でも最も一般大衆にとって近しい存在である。
庭師は旅に適したローブや衣服をまとい、湿気が多く荒れた環境で働く。彼らの姿は歩行杖や背の高い帽子、そして簡素な結び縄文字によって簡単に見分けることができる。
説教者
説教者は、巡る刻の神であるオヘル・パクパテクの司祭たちだ。彼らは教師でもあり、その神殿はオルテカの高度な学問と深遠な研究の中心地として知られている。インスピレーションはいつでも、どこでも浮かぶかもしれない。だが生のインスピレーションを洗練するには、あらゆる年齢のオルテカが学びを終える教訓的な神殿が適しているだろう。
説教者は探検家であり学者でもある。彼らは野外にいようと、古代の保管所や図書室にいようと我が家のように寛いで過ごすが、その服装は遭遇する場所によって大きく異なる。野外では、説教者たちは実用的で動きやすい服をまとい、現場で必要な装備をすべて身に着けて持ち運ぶ。都市内ではその役割を示す簡素なローブや頭飾りを身に着けており、メモを取ったり発案を書き留めたりするための巻物と黒鉛を必ず持ち歩いている。
千の月
千の月は千人からなるオルテカの熟練の戦士団であり、各人が訓練を経てオヘル・アショニルの司祭の資格を得ている。千の月はオルテカの社会でも名誉ある者たちだが、彼らが守るべき平等主義的で平和主義的な文明の中では特異な存在である。千の月は階級制度を構成しており、十番目ごとが士官を、百番目ごとが部隊長を、そして千番目の月が最高司令官として機能している。千の月は地面の上での戦闘に熟達しており、コズミュームで強化された武器や鎧や魔法の有無にかかわらず、十人単位の緊密な分隊で本格的な訓練を行っている。
ノーム
ノームはコズミュームを動力とする小型の補助的機械装置である。オルテカは暗夜戦争の終結時フォモーリから鹵獲し、リバースエンジニアリングでその制作技術を得た。それから何世紀にもわたってオルテカはノームの機構を洗練し、最初期の様式を拡張し、単純な給仕用の自動人形から深遠な思考を可能とする複雑な型まで、様々な役割を果たす何百ものバリエーションを作成してきた。帝王マイコイドが台頭して以来、ノームは中心核の安全な範囲の外における探検家や測量士、偵察員として非常に役に立っている。「ノーム」という名前はオルテカにとって異質なものだが、何にせよこの自動人形たちの外来的な由来を示すために使われている――侵略者への好意や信頼としてではなく、生きているオルテカがそれを忘れないように。中心核のノームは様々な都市や組織や集団が注文し、評議会に承認を受けた後にまとめて生産される。これはノームの作成と雇用を確実に抑えるためである。中心核が開いて以来、太陽帝国はノームの秘密を手に入れて自分たちでも用いたいと多大な関心を示しているが、今のところオルテカはその取引を許可してはいない。
《加工鋳造所》
コズミューム食らい
コズミューム食らいは正式な組織ではない。彼らは中心核のオルテカ内に潜むアクロゾズ崇拝者の秘密教団員であり、半ば吸血鬼でもある。彼らの本当の人数は不明だが、数百人は確かにいる――邪な禁断の神と緩い関係をもつカルト教団であるため、自ら公然と口にすることはないのだ。堕落、強欲、憎悪、またはアクロゾズの賜物を求めるようなその他の暗い動機によって、誰もがコズミューム食らいになる可能性がある。コズミューム食らいはひとつの目的を目指してアクロゾズに仕えている――死への大いなる恐怖から解放されること。アクロゾズはこの条件付きの忠誠を嫌ってはいない。神自身もまた。オヘル・アショニルによる幽閉からの解放という自らの目的を達成すべく信者を利用しているのだから。
重要地点
オテクラン
オテクランはオルテカの首都であり、運河、神殿、大規模な住宅地、市場、様々な工業用地が広がる古代からの共同体である。ワシバル湖の湖岸に建てられたオテクランは、ひとつの大きな中心都市と多くの衛星都市で構成されており、すべてが大きな高架道路と公共のケーブルカーで結ばれている。オルテカは調和を重んじているため、オテクランは開かれた都市となっている――そこは商売や人通り、移住者、巡礼者、冒険家、そして日常生活を営む人々でいつも賑わっている。オテクランは他のすべてのオルテカの都市の見本である。チミルと、後年にはその背後に尾を引くコズミューム礁を様式化して表現したものとして、円形の配置で建てられている。
コズミューム礁
コズミューム礁は、コズミュームの原石や希少金属、そして破滅した入植者の破片であり、砕けた星チミルを周回するとともにその背後に長い尾を描いている。コズミューム礁は危険だが、オルテカの生活と文化にとって鍵となる場所である――オルテカの若者は最初の刺青に必要なコズミュームを集めるため、ここに向かわねばならないのだ。ほとんどの若者はコズミューム礁の端をかすめるだけだが、時には深く入り込む者もいる。彼らは巨大な原石と、深い礁の中に何か暗く邪なものが潜んでいるという噂を携えて戻ってくる。
居留地の末端
居留地の末端は、落下したチミルの殻ひとつの破片とその残骸の道を取り巻く、奇妙で不気味な山中の一帯の名称である。暗夜戦争中にチミルの破片が落下したのはこの場所だけではないが、居留地の末端は間違いなく最大のものである。破片の半分は一帯の中央の地面から突き出ており、古代の残響がさまよっている。宝の噂が大胆で無謀な人々をこの地に引き寄せ、早すぎる――そして不気味な――死へと導く。
《沼》
ムトゥティクの塔
ムトゥティクの塔はすべてのオルテカの都市を繋ぐ通信塔であり、中心核全域に一定の間隔で建てられている。これらの塔を介して、オルテカは広大な距離を越えて複雑な情報を伝達することができる。オテクランからの布告のように複雑で重要なものから、天気に関する最新情報のような単純なものまで、彼らはコズミュームで強化した魔法を放って通信を行う。これらの塔は小規模な人口密集地でもあり、しばしばその塔の名を冠した街や、トウモロコシや豆やカボチャを栽培する農場に囲まれている。そしてそれらはよく整備された未舗装の道路で互いに(より遠く離れた大規模な都市にも)接続されている。
《森》
大いなる扉、マツァラントリ
「大いなる扉」マツァラントリは中心核へと至る由緒ある正面入り口であり、何世代にもわたるコモンの人々がそこから脱出して地上にやって来た。マツァラントリは、洞窟網と中心核を繋ぐ自然に形成された (そして後に拡張された)陥没泉に巨大な金の栓をして封じてある。中心核側のマツァラントリは、オテクランを見下ろす山の高所に位置している。洞窟網の側では、オルテカがマイコイドに対して扉を封じたずっと後、今や忘れ去られた子孫の文明によって建てられた神殿の中心に座している。
《大いなる扉、マツァラントリ》 // 《中心核》
残響
残響はイクサランの地下洞窟網と中心核全体に見られる幽霊やスピリット、シェイドである。残響は人間だったものもそうでないものも、知性を残しているものも残していないものも、自立したものも生前の仕事に囚われているものもいる――そのすべてはその残響がどのように作られ、どのように記憶されているかによる。残響は骨や剣やローブといった様々なものに結びついており、そこから出現する。また彼らはひとりの人物の霊ではあるが、更に恐ろしい残響もまた存在する。それらは殺人者、邪悪な者や残忍な者、大きな喪失の犠牲者、そして和解も癒しも得られずに世俗的な恐怖を経験した、あるいは世俗的な恐怖をもたらした人々の成れの果てである。
深淵の神々
深淵の神々はオルテカに今も存在する、生きた神々である。そのうち四柱はオルテカと密接に関わっているが、五柱目のアクロゾズは吸血鬼の始祖であり邪悪な神とみなされている。アクロゾズを除く深淵の神々は中心核全域に壮大な神殿が建てられており、その中で最も壮大な神殿はオルテカの首都オテクランに座している。
中心核における深淵の神々は、コモン・ウィナクの歴史を通じて登場している。現在でこそ遠く離れたが、それらはオルテカ以前から生ける記憶に現れている。この神々への信仰心は強く、儀式の日、社や神殿の存在、物語、人々の会話などを通じて神々は日常生活の一部となっている。深淵の神々は神聖な存在ではあるが、言葉や人々の感情を超越したものではない――事実この神々と人々を結び付けているのはその明らかな「人間性」なのだ。これは、神々の肉体的な姿と力はしばしば人間の標準からかけ離れているためである。
オルテカは太陽帝国が奉る三相の太陽を認識しているが、それ自体やその相を自分たちの主神のように称えてはいない。事実、三相の太陽はオルテカの主神チミルのひとつの姿に過ぎず、チミル自身もまた万神殿のうちの一柱なのだ。彼らの万神殿は何十という神々で構成されているが、これらの神々は一般に、祖である五柱の一時的な子供であるか、主要な相のいずれかであると理解されている。
文明の神、オヘル・タク
オヘル・タクは最初の神にしてコモンの守護神、三つの顔の神として認識されている。オヘル・タクの神殿はオテクランで最大の規模を誇り、その信者人口は最も多く、その伝説はオルテカ神話でも最も壮大かつ最も古い。オヘル・タクは、これまでに存在したすべての人々、今存在するすべての人々、そしてこれから存在するすべての人々の唯一にして神聖な集合であると理解されている。また祖先、家族、子孫の――文明、人類、そして第五の民コモン・ウィナクすべての神である。オヘル・タクは執政、行政官、祖先、残響、都市、記録、水準の守護神であり、コズミューム及びチミルとは密接な関係をもつ。同様に都市、道路、インフラ、その他の計画された世界指標とも密接に関係している。
オヘル・タクは背の高い半男半女の人型で現れ、その顔は三枚の層が重なっている。この神は白いローブをまとい、その上に飾るキープには歴史、現在、未来の瞬間が同時に記録されている。司祭や執政、そしてオヘル・タクの敬虔な信者もまた、白いローブと結び縄文字や三層の顔を思わせる頭飾りや刺青を好む。
《最深の基盤、オヘル・タク》 // 《文明の神殿》
巡る刻の神、オヘル・パクパテク
オヘル・パクパテクはオヘル・タクの恋人にしてオルテカの第二神である。恋人とは対照的にオヘル・パクパテクは人型ではなく、翼をもつ蛇のような姿をとり、その尾は渦を巻いて果てしなく続くように見える。オヘル・タクへの忠誠心とその率直さから、オルテカはこの神を尊敬している。ぞっとするような外見を持ち、司るものはしばしば困惑するような性質を持つものの、オヘル・パクパテクは裏表のない率直さで知られている。オヘル・パクパテクの信奉者や祝祭への参列者はこの性質に倣うことでこの神を崇める。彼らの儀式は難解かもしれないが、彼らの学問は簡潔であり、すべてのコモン・ウィナクの向上のために修められるべきものとされている。
オヘル・パクパテクは博識な学者、建築家、科学者、残響、呪文師、漁師、船乗り、時、そしてあらゆる種類の水面と関連づけられている。ほとんどの学校にはオヘル・パクパテクに捧げられた、あるいは描いた祭壇や壁画やモザイク画が備えられている。実際、その神殿の多くは高度な科学研究のための学校としても機能している。
《最深の紀元、オヘル・パクパテク》 // 《巡る刻の神殿》
裏切り者、アクロゾズ
オルテカの間では、アクロゾズは第四の民の最後に残った子供であると理解されている。彼は自分以外のすべての人々を虐殺し、その後自らを維持するために彼らの血を摂取することで神性を獲得したとされている。アクロゾズは朽ちかけて燃える巨大なコウモリの姿をとり、自らが簒奪して殺害したコモン・ウィナクの神の装飾品をまとっていると理解されている。アクロゾズは中心核の内に幽閉されているが、その言葉は第一の脱出期に外へと逃れた。中心核にてこの神を崇拝する者はわずかだが、その神殿は地表の辺鄙な場所に潜んでいる。アクロゾズを引き寄せて永遠の命という闇の賜物を得たいと願う信者によって建てられたのだ。砕けた星チミルを完全に消し去り、神々の頂点に立つのがアクロゾズの目標である。その力をもって第五の時代を終わらせ、第六にして最後の時代を開始し、死と再生という永遠のサイクルを終わらせる。アクロゾズはその重き罪から裏切りと夜(命を与えるチミルの光とは逆である)、そして死に関連づけられている。
《最深の裏切り、アクロゾズ》 // 《死者の神殿》
力の神、オヘル・アショニル
オヘル・アショニルはオヘル・タクの獰猛な弟である。オヘル・タクとはしばしば対立するが、険悪になることは決してない。オルテカと全コモン・ウィナクに苦痛を与える一方で、彼は入植者が到来した時やアクロゾズが最初にオヘル・タクを殺害しようとした囁き戦争の間にはオルテカを守るために最も頼もしく立ちはだかった。その大乱闘のさなかに彼はアクロゾズを打倒し、片目を引き裂いて中心核から隔離した。
オヘル・アショニルは戦士、点灯夫、嵐、炎、夏、稲妻、恐竜、運動選手、情熱、火山、山々の守護神である。彼は偉大な戦士の筋骨隆々とした体と、巨大で力強い恐竜が融合した恐ろしい姿をとっている。頭の代わりに黄金の輪で飾られた裸の頭蓋骨がついている。その右腕は暴君恐竜の首と頭部であり、戦いにおいては燃え立つマクアフィトルを振るう。オヘル・アショニルは千の月が第一に崇める神である。
《最深の力、オヘル・アショニル》 // 《力の神殿》
生命の神、オヘル・カスレム
オヘル・カスレムは生命を司る深淵の神である。その身体と年齢はキメラのようであり、姿は活気に満ちて混沌として美しく、自らが体現し司る力のように恐ろしいものである。オヘル・カスレムの教団は深淵の神々の中で最も小規模かつ最も散在しており、その神殿は中心核の奥深くの森林内や密林の谷間に散らばって位置している。自分たちの文化における主要な一柱ではなくとも、オルテカはオヘル・カスレムを深く敬っている――カスレムは静かな神として、常に存在するものとして知られている。そしてその不在を感じるまで、多くの人々はそれが当たり前のことだと思いがちである。
オヘル・カスレムは、庭師、農夫、牧場主といった自然の中で働くあらゆる人々と結びついている。この神は恐竜や蝶と密接な関係をもち、オルテカは野でそれらを見た時はしばしばこの神へと呼びかける。彼女の信奉者はオオカバマダラも崇拝しており、祭祀服や鎧の模様はその羽根の模様に倣っている。
《最深の成長、オヘル・カスレム》 // 《豊作の神殿》
砕けた星、チミル
チミルは中心核の更に中心にある星の名前である。深遠の神々の母なる女神であり、イクサランの地上と地下すべての生命を支える存在であると広く理解されている。チミルの影響は地表にいても感じることができ、太陽帝国はこの神を三相の太陽として崇めている。オルテカ創造への積極的な関与から現在の探検時代に至るまで、チミルは中心核の歴史の中で多くを経験してきた。現在は休眠状態にあるが、それでもチミルはオルテカから尊敬され、称えられ、敬われている。例え祈りを捧げる者がごく僅かだとしても。
中心核の歴史
時の始まりよりの物語
時が時である以前、イクサラン次元における最初の人間たちは楽園の内に目覚めた。虚無のヴェールが滑り落ち、現実が夜明けのようにゆっくりと訪れた。人間たちはチミルの下でまっすぐに立ち上がった。チミルという名をまだ呼んではいなかったが、それが自分たちの創造主だとは知っていた。チミルを通して彼らは、この世界は新しいこと、人類は新しいこと、それでも自分たちはコモン・ウィナク、第五の民と呼ばれるのだと理解した。
この時代の文字記録はごく少ないながらも存在している。これらの石板、文書、記録は中心核でも最も深い湖、谷、空洞で発見された。現在そのほとんどはオルテカの首都であるオテクランの大庁舎に展示されている。だがこの時代の膨大な知識は口伝によって残され、伝えられてきた。時の始まりからの物語のうち、三つの真実が過去から現在へと伝えられている。
一つ。世界はコモン・ウィナクが生まれ出る以前から存在し、その後も存在する。彼らは第五の民である。すなわち第四の民がかつて存在した。第六の民も、その先もやがて存在する。
二つ。コモン・ウィナクは楽園に生きていたが、甘やかされてはいなかった。彼らは悪魔や悪鬼や恐怖から守られた牧歌的な地の世話人であり、より優しく、より穏やかな未来を育むために創造主によってそこにもたらされたのである。
三つ。チミルは見守るが、決して干渉はしない。この女神は創造主であって庭師ではない。コモン・ウィナクが世界を整え終えたなら、チミルの子供たちである深淵の神々がその役割を引き継ぐであろう。
これらの真実をコモン・ウィナクは喜んで任務として請け負い、彼らは世界と調和する文明の創造に着手した。
星を取り囲む殻
第五の民の暁、その世界は今と同じだった――緑豊かな森、山々、渓谷、淡水の海、川、そして暖かく穏やかな太陽を取り囲んでうねる平原からなる楽園。いわゆる地平線はなく、陸地はゆっくりと内向きの弧を描いて隆起して頭上の霞の中へと消え、そして反対側に再び現れる。コモン・ウィナクはこの牧歌的で広大な地域に散らばっていき、野や密林に赴き、生きるために必要なものをそこから引き出した。平野や川岸に、空地や高山地帯に、コモン・ウィナクは家を、村を、神殿を建設し、産業の始まりを築いた。
中心核の恩恵によって彼らの必要は満たされ、コモン・ウィナクは余暇と学びの時間を確保できるようになった。知識を重視する彼らは地図を作り、世界の形を理解していった。見たものを記録するための文字や、遭遇したものを数えたり測ったりするための数字を考案し、楽園の形を理解するようになった。この事業はコモン最初の伝説的人物、「世界を歩む者」タン・ジョラムを生み出した。タン・ジョラムは、コモン・ウィナクの中で最初に中心核を一周し、賢明な数学者や司祭たちの仮定を証明した――世界はひとつの星を中心に築かれた球体であると。
さらなる世界
タン・ジョラムは生ける伝説であり、世界を歩む者であり、コモン・ウィナクにとっての比類なき英雄であり、何十年も生きて彼方への放浪者たちを理解へと導いた。だがひとたび世界を見たタン・ジョラムは、もっと多くの世界を見たいと切望した。自らの理解の先にある世界を地図に描きたいと願い、彼は現実を超えた土地を熱心に探しはじめた――彼は楽園に満足しなかった。やがて、彼は静かな声に耳を澄ました。
世界を歩む者はつねに仲間を伴って旅をした。チミルは常に共にあり、そして他にもいた。あるものは彼が見ることが叶うであろう別の土地を語った――第四の民の地、かつて生きた、そして去った人々の地。好奇心から、タン・ジョラムはどうすればその土地を目にできるかと声に尋ねた。声は答えた……死ぬことだと。
第五の民の時代において、死は生者にとって恐怖ではなかった。中心核は楽園であり、人々が歩む世界から隠された死後の世界は存在しない。過ぎ去った人々の魂である残響たちは生者の間を歩んでいた。生と死後を隔てる帳は紗織りのように薄かった。タン・ジョラムにとって、死後の世界を探索するという前途は単に、次の新たな冒険だった。そのため彼は残響となって死後へと旅立ち、境界の先にある第四の世界を探し求めた。囁き声に導かれ、彼は精霊や神々の、悪魔の、悪鬼の領域へと渡った。そこで彼は深淵の神々を――チミルの子供たちを――探して伝えようとした。あなたがたの民は中心核の地図を作成し、あなたがたの帰還を待っていると。
最深の裏切り
タン・ジョラムが開け放った扉を通り、闇の生き物たちが死後の世界から忍び込んだ。中でも最も恐ろしいのは、第四の民の最後の子供だった――アクロゾズ。第四の民の地へ導く、そう世界を歩む者へと約束を囁いた者。
アクロゾズは第四の民の最後の生き残りである。彼らはコモン・ウィナク以前に存在し、その死によって第五の民が誕生する余地が生まれたのだった。第四の時代の終わりには、アクロゾズはまだ神ではなく、ただの定命に過ぎず、名も姿も異なっていた。死への恐怖が彼を神性へと駆り立てた――手段は不明ながら、彼は万物の終わりを超えて、時代と時代の間の空隙である神聖なる無の中に留まり続けることができた。
この空隙の中で、やがてアクロゾズとなる存在は第五の時代の始まりとその最初の神々の誕生を目撃した。死を越えて存在し続けるためにならなければいけないものを彼は悟った。最後の神が出現する前にこの痛ましい生物は割って入り、その神を食らって地位を奪い取った。彼は死の簒奪者、アクロゾズとして中心核に現れた。神の屍から神性を飲み干して獲得し、その領域は生と死後とを隔てる薄い帳。
囁き戦争
恐怖が自らに力を与えるとアクロゾズは知っていた。そのため彼は、生と死を隔てる薄い帳を決して屈さぬ石へと変えた。生と死は厳格に二分され、生者は祖先から切り離された。死者は居残らず、今や生者は自分たちが生きていると知った。死は悼み怖れるものと化し、アクロゾズはその怖れを糧とした。密かに、彼は最も怯え、最も悲しみ、最も絶望した人々を探し出した。そして彼らを罠にかけて暗い秘密を囁いた――我に身を捧げよ、さすれば永遠の生を得られるであろう。
悲嘆、恐怖、死、そして究極の終わりからの脱出という囁きが中心核に広がった。自分を見つけ出した者には永遠の命を与える、アクロゾズの約束に多くの者がそれを試みた。巡礼者と伝道者たちが熱心に都市を駆け巡り、アクロゾズを光の中に誘い出すことを目的とした教団を結成した――もし死と、闇の神の抱擁が自分たちを待っているのなら、その教義に歓喜することで闇の神の好意を勝ち取り、帳を超えて多くの賜物が授けられるだろう。彼らの絶望的な儀式はコモン・ウィナクの多くを恐怖に陥れたが、指導者たちがこれら闇の教団に立ち向かっても止まらなかった。事実、長老や指導者たちが最初に教団を止めようとした際、彼らは萎縮させられるような暴力で迎えられた。次にこれらの教団へと暗黒の儀式を止めるよう要請しに向かった役人たちは、兵団を伴っていった。アクロゾズの教団は反撃し、コモン・ウィナクの野や都市に暴力が吹き荒れた。
この暴力は囁き戦争としてオルテカに記憶されている。恐怖の時ではあったが、多くの英雄や伝説が生まれた。そしてこの猛威は、残る深淵の神々の到来も早めた。最初に現れたのはオヘル・アショニル、馴染み深い戦いの音を聞きつけて中心核に引き寄せられた。彼自身も暴力に生きるものであり、目撃した猛威や残酷さには驚かなかったが、この戦争を起こしたものには衝撃を受けた。オヘル・アショニルが予想していたように、アクロゾズは彼の同類ではなく、甥の皮をかぶった悪魔だった。そのためオヘル・アショニルは天空へと引き返し、兄弟姉妹でも最年長のオヘル・タクへと中心核内での様相を警告した。その後彼は囁き戦争に突入し、千人からなる勇士隊を率いてアクロゾズと戦った。
太陽の時代
オヘル・タクは、恋人のオヘル・パクパテクから離れて中心核へと現れた。この神の到来はコモン・ウィナクに希望と力をもたらし、彼らは更なる戦意を得てアクロゾズの教団を打ち砕いていった。アクロゾズの悪しき揺さぶりに屈したと思われた多くの人々が、オヘル・タクの美しい三層の顔によって光の中へと呼び戻された。この神は、死を越えて魂が存在し続けることの体現だった。
それでも囁きの戦争は流血の中に終わった。オヘル・アショニルとアクロゾズは、最も忠実でかつ熱狂的な戦士の大群に取り囲まれて最終決戦に突入した。オヘル・アショニルと千人の勇士たちは、アクロゾズとその吸血者たちが潜む最深の棲家にて対峙し、そこで激怒と力の神はアクロゾズの片目を引き裂いて敵を制圧した。オヘル・アショニルがアクロゾズ自ら固めた帳の先へこの闇の神を引きずり戻すと、アクロゾズの最も忠実な信徒の最後の生き残りたちは、彼らだけが知る抜け穴と通路を辿って中心核から脱出した。中心核で過ごした短い間に、アクロゾズは信者たちへと見せていたのだ。既知の世界を超えた世界、そしてその下の世界を。より暗く、アクロゾズの賜物を持つ人々により適した世界。穏やかな中心核から離れて這い上がることのできる世界。
囁き戦争は終結し、大いなる再建の時代が始まった。生と死の帳は今一度薄くなり、栄誉ある残響たちが帰還できるようになった。コモン・ウィナクの首都オテクランの基礎が、ワシバルという大きな湖のほとりに置かれた。オヘル・タクが見守る中、コモン・ウィナクはそれから数千年続く黄金時代を築いた。これが太陽の時代である。
開かれた門
太陽の時代は、後にコモン・ウィナクがキシクと名付けた存在の到来によって終わった。この名前は、新たなこの存在の恐ろしい外見と帝国的野心を伝えることを意図した刺激的な言葉である。キシクは頑丈で巨大な肉体をもち、武装しており、創造の彼方から来た帝国的権力の公使たちだった。今日のオルテカは彼らを入植者と呼んでいる。クイントはコインの帝国と名付けている。彼らは自分たちをフォモーリと名乗った。
コモンの伝説はフォモーリの到来を、穏やかな中心核への恐怖の侵入として記録している。まるで晴れた夏の日に吹き荒れるハリケーンや、静かな湖の中心から火山が噴火するかのように。口伝で語られる歴史によれば、稲妻が弾ける分厚い雲から長く暗い夜の破片が滑り落ち、チミルを取り囲む宙に音もなく静止して浮かんだのだという。フォモーリの船が投げかける長い影がチミルを遮った。コモン・ウィナクは歴史上初めて、暖かな太陽が陰るのを経験した。
数日してこれら黒い破片のひとつが開き、そこから神殿ほども大きな円筒形の容器が落ちてきた。それは音もなく着地し、その細い亀裂からひとりの巨人が踏み出した。巨人はコモンの言語を話し、自分たちの民をこの楽園に避難させて欲しいと懇願した。
コモンの指導者たちが交渉に入った。その間、神殿は深淵の神々へと助けを懇願する請願者たちでごった返したが、彼らの耳に答えは聞こえなかった。チミルは閉じ込められ、ならばその子供たちもそうなのかもしれない。巨人たちは中心核の各地に散らばり、コモンの都市上空や都市内に居座り、空は更に陰った。この巨人たちは過去に何かから逃げていたのかもしれない。だがコモンはただちに気付いた――彼らは事実征服者であり、中心核を支配する目的で到来したのだと。
閉ざされた核
自分たちは征服者であるとフォモーリは明かした。彼らは円筒を介して中心核に対する事実上の支配権を確立し、チミルを取り囲む空に浮遊したままの破片船から支配した。更に多くの破片が到来し、やがてフォモーリはチミルを取り囲む殻を完成させ、中心核全体に完全な暗闇が降りた。コモン・ウィナクの歴史の中、彼らがそれほどの闇を見たのは初めてのことだった。誰にとっても恐ろしいものだったが、奮起する者たちもいた。コモン・ウィナクはこの暴虐に、チミルや深淵の神々や祖先からの隔離に甘んずる人々ではないのだ。
フォモーリに対する抵抗の火花が弾けた。最初は残響たちから、そして生者へと。ひとりの英雄的人物が先頭に立った――九百番目の月、オラネム・テク。千の月の一員であるオラネム・テクは、オテクランの衛星都市にして城塞であるオクティニミットに住んでいたと言われている。その地からオラネム・テクとコモン・ウィナクは一連の抵抗作戦を開始し、フォモーリの円筒を襲撃し、フォモーリの公使たちを捕らえ、最終的にチミルまで進むと占拠するフォモーリたちの中心部を攻撃した。
暗夜戦争
「暗夜戦争」は三世紀の歴史にまたがる叙事詩の表題であり、抵抗軍を築き上げるためのオラネム・テクの活動の始まりから、それに続く闘争の終わりまでを描いている。この戦争は中心核に荒れ狂ったが、コモン・ウィナクが勝者となった。
この戦争の末期、コモンの戦士たちがチミルを閉じ込めた暗い破片の上に降り立った時、この星は彼らに手を差し伸べた。チミルもまた、恐ろしくも強力なエネルギーを殻の内側に叩きつけて反撃していた。破片は弱く、未知の魔法で回復しようとしたが失敗した。中心核全体での抵抗軍の攻撃によってもたらされた混乱により、フォモーリの施設の機能は低下した。チミルを解放しようと勇敢なコモンの戦士たちは主要な破片を攻撃し、このフォモーリの牢獄は耐えられなかった。チミルもひとつの破片を砕き、次の破片を砕き、そして連鎖が始まった。蒸気をあげる破片の暗き雨が降り注いだ。コズミュームがチミルから弾け出てフォモーリを吹き飛ばし、そしてコモンと反応した――その日その場にいた人々は、そうして半神的存在となった――イクサランの最初の天使となった。ようやく母の叫びと人々の嘆願が耳に届き、深淵の神々も続いた。
この戦争はフォモーリが中心核から追放されて集結した。チミルを周回する彼らの破片船の残骸と、中心核全体に及ぶ多種多様な小規模施設や完成途中の住居群が後に残された。コモンは長い年月をかけてこれらの傷を修復してきたが、今もいくつかの遺跡が残っている。
中心核の開放
砕けた星チミルは解放され、コモン・ウィナクに知られるようになったが、変化した――この神々の母は傷つき、その輝きは以前よりも薄れ、さらにはフォモーリの遺跡がしばしばその顔を覆い隠して光を陰らせた。同様に、神々の帰還はアクロゾズの帰還をも意味していた。再びこの暗黒神の教団がコモンの都市と中心核でも傷ついた場所に現れた。
この時代に多くのコモンの冒険家が中心核の地下にある空洞を探索し、そこで――予想通りに――重力が反転することを発見した。中心核の外の洞窟内では、彼らは中心核内のように世界の頂上に立ってはいなかった。代わりに何か別の、巨大な構造物の底に立っていたのだ。その頂上には何が待っているのだろうか?
探検の時代が幕を開け、移住と開拓の時代が続いた。耕作が可能で定住に適した土地があると明らかになるにつれ、コモンは大挙して中心核から移住していった。それから何世紀にも渡って、何十万人というコモンが出発した。残った者たちはオルテカを名乗りはじめた。これはフォモーリと戦った抵抗軍が採用した英雄的な名前である。怒りや対立はなかったものの、時と距離によって引き起こされる自然の流れによって、中心核を離れた人々は自分たちこそがコモンであると考えるようになった。彼らはオルテカとは異なる自分たちの都市や文化を築きはじめ、中心核から離れるごとにあらゆる面で遠ざかっていった。
帝王マイコイドの誕生
最初の移民の時代から数世紀後、コモンの最も壮大な都市のひとつを疫病が襲った。オルテカの科学者たちは、この病気は真菌性であり、胞子によって広がり、非常に発達したものであると判断した――遠い昔に中心核の外へと放出された、フォモーリの生きた遺物であったのかもしれない。
この菌類がマイコイドの始まりだった。それらを止める障壁は何もなく、マイコイドはただちに洞窟網へと広がりはじめた。オルテカとコモンの人間たちは協力してマイコイドの拡散を阻止しようとしたができなかった。文明と文化全体が感染に屈し、そしてより進化した大型のマイコイドに屈した。その中には明らかに魔法を使えるものもいた。
洞窟網のコモンとオルテカは逃げ出し、洞窟の外に安全を求めた。そして後にイクサランと呼ばれる大陸の地上に現れた。彼らこそ、後に太陽帝国を築く人々の古き祖先である。
隔離
中心核内で猛威を振るうマイコイドを止められず、オルテカは苦渋の決断を下した――中心核を閉ざす。彼らは故郷へのすべての入り口を封鎖し、自分たちをこの次元の他の部分から切り離した。
深淵の神々に介在を求め、オルテカは中心核へのすべての主要な入り口を一連の大きく複雑な、コズミュームで強化された黄金の扉で封じた。この瞬間は残響たちとオルテカの歴史において、重大な瞬間、恥ずべき失敗の証として記憶されている。自分たちは守ることができた、けれど兄弟姉妹たちは。
とはいえこの思い切った措置は功を奏した。その後の数年間、マイコイド発生の兆候はなかった。危機を逃れ、だが孤独となったオルテカは内へと目を向けた。
沈黙の時代
そうして沈黙の時代が始まった。イクサラン次元の他部分とコモンの同胞たちから隔離され、オルテカは庭師が庭を世話するように中心核を育み維持することを誓った。地上では太陽帝国がイクサラン大陸で勢力を広げ、トレゾンは(アクロゾズが与えた吸血の暗き賜物がそれを可能にした)征服に熱狂する一方、中心核のオルテカはその歴史の進行を遅らせた。
沈黙の時代の間、中心核では集団の間の争いはごく少なく、戦争もなかった。オルテカは公共工事と居住地の修復という大規模な事業に取り組み、最終的に暗夜戦争による被害の多くを修復した。新たな都市がいくつも建造され、オルテカはゆっくりと中心核でも未踏の地へと拡大した。オルテカ人は神々との関係を深め、魔法を洗練させ、コズミュームの実用的・空想的両方の応用を次第に理解していった。
オルテカは『イクサラン:失われし洞窟』の開始時まで、沈黙の時代の内にあった。
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(Tr. Mayuko Wakatsuki)
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