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『統率者デッキ:Warhammer 40,000』をデザインする
2022年9月19日
過酷なる暗黒の遠未来にようこそ! 今日は我々が「Warhammer 40,000」をマジックのカードに落とし込んでいく間に下した具体的なデザインの決定について話していこう。『ユニバースビヨンド』のセットにおける高レベルでより一般的なデザイン的課題については、マーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterの記事をチェックしてくれ! 『統率者デッキ:Warhammer 40,000』はお近くのゲーム店やAmazonなどのオンライン販売で予約することができる。
ではまず(とてつもなく素晴らしい)デザイン・チームの紹介から始めようか。「Warhammer 40,000」には展望デザインからセットデザインへの伝統的な提出文書がなく、チームのメンバーが順番に1人ずつ入れ替わって緩やかに切り替わっていった。
クリックしてチームのメンバーを表示
「Warhammer 40,000」とは?
「Warhammer 40,000」はイギリスのゲームパブリッシャーであるGames Workshopが作ったミニチュア・ウォーゲームで、戦争で荒廃した第41千年紀の未来、人類が無知、全体主義、抑圧的な官僚制度に苦しみ、そして敵対的エイリアン、反逆、文字通りのディーモンらに囲まれている暗黒時代が舞台になっている。希望は遺伝子操作された人類であるアデプタス・アスタルテスのスペースマリーンが味方にいることだ。だが悪いことに、そのスペースマリーンの半分が1万年前に前述のディーモンを崇拝するようになり、今や人類の最も忌むべき敵に数えられている。
私がマジックのプロのデザイナーとしてのキャリアを歩み始めてから数年後、私は自分が『統率者デッキ:Warhammer 40,000』デザインをリードするということを知った。私の興奮はみんなの想像通りだ! 1人の熱心なファンとして、私はすでに「Warhammer」の背景についてたくさん知っていた。しかし、さらなる調査が必要なのは明白だ! 私は書籍をこのゲームの初期の基礎的な文書から読んでいった。
もちろん、私は「Warhammer 40,000」のクリエイティブ的方向性がマジックと同じような時間枠で進化していたとしたら、参照文献を現代化する必要があるかもしれないなと考えた。私はさらに書籍を――今千年紀に出版されたものを当たってみた。
陣営
『統率者デッキ:Warhammer 40,000』の製品開発者のマーク・ヘゲン/Mark Heggenがこれのデザイン初期段階に製品デザインのために私に聞いてきた。彼の要求は3つあった。
- 4つの構築済みデッキを作る。これらはマジックの新規プレイヤーにも慣れているプレイヤーにも簡単な出発点となる。
- この製品ではネクロンを目立たせる。それはこの銀河の他のすべての種族と異なり血肉の体を持たない金属生命体だ。Games Workshopは『統率者デッキ:Warhammer 40,000』が発売される時期にミニチュアの使用可能な期間の延長や、ネクロンをフィーチャーした多数の製品でサポートを行う。
- この製品の各カードは「Warhammer 40,000」を題材とした新規アートでなければならない。
マークの初期要求を出発点にして、私とデザイン・チームはどんなデッキにするべきか議論した。我々はすぐに、各デッキを操ることによって陣営のうち1つをテーマにしたアーミーでミニチュア・ゲームをプレイしているように感じるようにするべきだと思いついた。デッキの統率者は自分の属する陣営のアーミーを戦闘に連れて行くリーダーとなる。デッキの各クリーチャー・カードは「Warhammer 40,000」のアーミーのミニチュアで表されているさまざまなユニットを表すことができる。
この最後の項目は特に良さそうに見えた。いろいろな意味で「Warhammer」とマジックの世界構築の重要性はとてもよく似ている。どちらのゲームも大小さまざまなクリーチャーのコンセプトが必要で、その一部は飛ぶことができてある意味同じもののように見える。これらのクリーチャーはかなり小さく表現されていてもすぐに把握できる必要がある。
デッキのテーマについて議論しているときに誰かが「デッキのうち1つはスペースマリーンのデッキにするべき」と言った。スペースマリーンは「Warhammer 40,000」で最も人気のある陣営だ。これに私は戸惑ってしまった。
「Warhammer 40,000」の熱心なファンなら、タクティカル・マリーン、インターセッサー、グレイ・ハンター、インフィルトレイター、プライマリス・インカーサー、スターンガード・ベテラン、ケイオス・マリーンの違いは明白かもしれない。しかし「Warhammer 40,000」未体験のマジックのプレイヤーにとってはどれも同じものに見えてしまう――銃を持った重装備のスペースマリーンにね。
プレイヤーがカードを他のカードと簡単に区別できることは大事だ。我々がうっかりお互いに見た目の似たカードを作ってしまって、ゲームで熱くなったプレイヤーが間違えてしまったマジックのセットが存在する。私は各デッキに多様性のあるキャラクターのコンセプトを入れ、Games Workshopのミニチュア・デザイナーが「Warhammer 40,000」の陣営のために生み出した特徴的なシルエットを活かすことでこのリスクを減らしたいと考えた。これは各デッキをプレイすることで対応するアーミーをプレイしてるような感じにするという我々の目的に反するように思えるかもしれない。説明していこう。
Games Workshopは「コデックス」と呼ばれる「Warhammer 40,000」ルールブックのシリーズを出版していて、ゲームでプレイ可能なアーミーの解説とそのアーミーをプレイするための詳細なルールが書かれている。1冊のコデックスには、各タイプのユニットごとにその戦闘パラメータとそれに関連した特別なルールと陣営キーワードを解説するエントリがある。「Warhammer 40,000」のキーワードはマジックのそれとは違った働きをする。「Warhammer 40,000」のキーワードはマジックのクリーチャー・タイプに似た感じで使われている。それ自体に特別なルールはないが、ルールはいくつかの方法でそれを参照する。
たとえば、グレイ・ハンターのユニットは3種類の陣営キーワードを持っていて、それぞれ前のものより具体的な陣営を表している。インペリウムは地球を首都にする人間の帝国を表している。アデプトゥス・アスタルテスはインペリウムに忠誠を誓うスペースマリーンを表している。そしてスペースウルフはスペースマリーン内の特定の戦団(約1,000人で構成される)を表している。アーミー内のユニットは必ず1つは共通の陣営キーワードを持っていなければならないが、範囲の狭い陣営キーワードが多いと強力なシナジーのボーナスがあり、プレイヤーにテーマの強固なアーミーを構築することが推奨されている。
しかし『統率者デッキ:Warhammer 40,000』では、我々はカードが視覚的にもコンセプト的にも区別できるようにしたかったし、作ることができるカードの枚数制限の中で「Warhammer 40,000」の素晴らしい世界構築を可能な限り多く見せたいと考えた。これはつまり『統率者デッキ:Warhammer 40,000』は最も大きく範囲の広い陣営キーワードをテーマにするべきだということだ。
こののトップレベルの陣営について、我々はその陣営に最も適した色と、その戦略を支配する中心色の最高の推測を行った――マーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterがすでにやった課題だ。またその陣営のアーミーのコデックスが出版された数にも注目した。コデックスの多いアーミーは選べるコンセプトも多い。
アエルダリ:5色
アエルダリは古の人間型エイリアンで、ファンタジーのエルフといくつか類似点が見られる。
コデックス数:3
中心色:青。敏捷なサイカーであるこの種族は青の回避能力と精神魔法の熟達を体現している。
その他の色:アエルダリには目がくらむような数の専門家集団がいて、その多くはマジックの色のうちのどれか1つととても相性が良さそうな雰囲気を持っている。そのすべてを適切に把握するには5色デッキが必要かもしれない!
ケイオス:青黒赤
コデックス数:5
中心色:赤。渾沌と感情の概念そのものがまさに赤の領域だ。さらに、コーンの戦闘の狂乱とスラーネッシュの享楽主義は赤にピッタリだ。
その他の色:ティーンチの運命を操作する方法はとても青らしく、ナーグルが疫病と疾病を支配するのは黒らしい。
インペリウム:白青黒
インペリウムは人間の主要な陣営だが、第41千年紀の人類は中世のような暗黒時代に陥り、無知、全体主義、そして絶え間ない戦乱に苦しめられている。
コデックス数:11
中心色:白。インペリウムには無尽蔵に供給されるように見えるものがひとつある――人間だ。大量のトークンを横並べするのは我々がサポートできる戦略だ。
その他の色:青と黒。我々は知識に飢えたアデプトゥス・メカニカスをうまく表現したかった。インペリウムの臣民が死体を崇拝し、空いているあらゆるものの面に頭蓋骨をペイントし、人類最大の英雄たちが「エンジェルス・オヴ・デス」と呼ばれていることは、このデッキの3色目が黒であることを示している。
ネクロン:青黒白
ネクロンは意識を不死身のロボットの体に移植した古の種族だ。
コデックス数:1
中心色:黒。ネクロンは破壊された後に体を修復し戦闘に戻ってくる不死のロボットだ。不死はまさしく黒の領域だね。
その他の色:ネクロン、特にクリプテックは技術的に洗練されていて、ネクロンの色の1つは青であるべきだと匂わせている。奴らはその古代社会で厳格なヒエラルキーを有していて、このことはネクロンの色に白があることを示している可能性がある。
オルク:赤緑
オルクは暴力的で破壊的なエイリアンで、大きな騒音と良い戦い以外に何も好まない。
コデックス数:1
中心色:赤。オルクは「熱烈に」破壊的だ。
その他の色:オルクは本質的に性質に満足していて、いつもやっていることを続けることに幸せを感じている。これは緑の特徴だ。さらに、奴らは文字通り緑色をしている!
タウ・エンパイア:緑白青
タウは絶えずテクノロジーを改善し続けることに依存し、大善大同の中に個人の相違は内包されるべきであると信じる新興のエイリアン種族だ。
コデックス数:1
中心色:青か白。タウの活発なテクノロジーの進歩は青の要素だ。だけど、大善大同の理念の本質は明らかに白い。他の要因によってどちらかの色に傾いてしまうのは想像に難くない。
その他の色:我々はクルート(タウ・エンパイアでもっとも重要な他種族)を絵の外に置き去りにしたくなかったし、奴らとその木工技術や動物との親和性はとても緑らしい。
ティラニッド:緑青赤
この外銀河からやってきたエイリアンどもは従来のテクノロジーではなく生体工学による生命体を使用し、遭遇したあらゆる脅威に応じて特化型クリーチャーに進化することが可能だ。
コデックス数:2
中心色:緑。ティラニッドにはこのゲームで最大のモンスターが存在する。こいつらは伝統的なテクノロジーを意図的に避けている。あらゆる兵器と宇宙船が生命体だ。こいつらは惑星の環境に適応して高速で進化する。
その他の色:ティラニッドが集合意識帯によってそのすべてが繋がっていること、そして絶えず進化し続けていることは固有色に青が含まれていることを示している。ジーンスティーラー・カルト(ティラニッドと人間の混血クリーチャー)はインペリウムの惑星で革命を扇動し、いるのが1体だけだとしても赤の特徴を示している。
どの陣営をデッキにするかを決めるときに、我々はいくつかの基準を定めた。
- すべての色が最低でもどれか1つで使われていなければならない。
- 楽しそうで実装が簡単なメカニズム的テーマがある陣営はそうでない陣営よりも優先されるべきである。
- 各デッキは他のデッキと異なるプレイスタイルを持っているべきである。これはおそらくそれぞれ異なる中心色を持つべきだということになる。
- コデックス数の少ないデッキはリスクが高い。統率者デッキ1つが埋まるぐらいの十分なカード・コンセプトはあるだろうか?
- インペリウムは当確だ。ここが「Warhammer 40,000」ユニバースに存在する陣営で一番「顧客の視点」に近い。
- ネクロンも当確だ。我々はサポートしたいし、そしてGames Workshopの幅広い製品でサポートされることを望んでいる。もし「コデックス数1のアーミー」のリスクを取るならネクロンだ。
というわけで、我々が選んだ陣営はこのようになった。
インペリウム(白青黒):最も大きく、最も人気があり、最も識別しやすい陣営で、インペリウムを使わないわけにはいかなかった。我々は兵士の巨大なアーミーを構築したり大きなアーミーを持つことで恩恵を受けられるさまざまなカードを入れることができた。
ネクロン(黒単色):我々は同じ3色を使うデッキや、他のデッキのサブセットになる2色デッキを作りたくなかったので、ネクロンを多色デッキにしないことにした。我々は強力なアーティファクト・テーマにリアニメイト要素を組み合わせて、斬新で魅力的な黒単デッキが組めると考えた。それに、大量のドクロの形をしたマナ・シンボルをすべてのカードに置くことでロボ骸骨を表現できると考えた。
ティラニッド(緑青赤):加速して大きなクリーチャーを出すのは、統率者戦での伝統的な最高のゲームプレイだ。コデックス数は2しかないが、ティラニッドのクリエイティブ的特徴と定評のあるプレイスタイルが明確に結びついていることは、これをいいチョイスにした。
ケイオス(青黒赤):「ケイオス(渾沌)」をテーマにしたデッキは『統率者(2016年版)』の《大渦を操る者、イドリス》を統率者にした青黒赤緑デッキで前にも作られたことがあるので、卓上のプランを引っ掻き回すような渾沌として振れ幅の大きい効果のデッキを作ることはできると知っていた。それに、私は単純にケイオスの四大神、歪みの堕落、そしてさまざまなディーモンのすべてが大好きだ。
メカニズム
デザイン過程の序盤、我々は「射撃技能」と呼ばれるメカニズムを研究していた。「Warhammer 40,000」では多くのユニットは火器を装備していて、中には射撃専門で接近戦は得意じゃないものもいる。他のものは対照的なアプローチで、剣や爪で敵を補足できるように接近する必要があるものもいる。「Warhammer 40,000」 統率者デッキのカードに射撃技能とパワーとタフネスがあるとしたらどうだろう?
我々はいくつか形にして実験をしてみた。一番有望そうな動きをしたのは二段攻撃の変種で、先制攻撃ステップに射撃技能と同じだけのダメージを与えるというものだった。突き詰めた結果、このゲームプレイには十分な面白さがなかった。
カードをデザインしてデッキをテストするにつれて、我々はこのゲームプレイが複雑すぎることに気がついた。新カードはすべてレアで、すべてのカードがかなり区別しやすい動きをする。我々は複雑さを減らすために2つの方法を使った。1つ目は通常レアのカードを作るよりもシンプルで影響の少ない「アンコモン」を作るというものだ。我々はそれらのカードに、同じ製品の中のレアや神話レアと出てくる割合が同じであってもアンコモンのエキスパンション・シンボルを割り振った。(これは以前の統率者デッキのアンコモンのエキスパンション・シンボルとは扱いが異なる。アンコモンのシンボルはそのセットの2つ以上全部未満のデッキに収録されている新カードにも使われている)
複雑さを減らすために使ったもう1つの方法は、各デッキごとに1つメカニズムを作って、そのデッキのコモンにそのメカニズムを持つカードを複数入れるというものだ。これはそれらのメカニズムを持つカードをプレイヤーに「ひとまとめ」にさせることで認識する負荷を減らすことができる。当初、各デッキには新メカニズムが1個づつあったが、反復工程を続けるうちにそのうち2個が既存のメカニズムにどんどん似ていってしまい、我々はそのデッキに既存のメカニズムを使うことにした。
ケイオスのデッキでは我々は続唱のメカニズムを選んだ。このメカニズムは「あなたがこの呪文を唱えたとき、マナ総量がこの呪文より小さく土地でないカード1枚が追放されるまで、あなたのライブラリーの一番上から1枚ずつ追放していく。その結果の呪文のマナ総量がこの呪文のマナ総量よりも小さいなら、あなたはそのカードをそのマナ・コストを支払うことなく唱えてもよい。その後、これにより追放されたすべてのカードを、あなたのライブラリーの一番下に無作為の順番で置く。」というものだ。
続唱のデビューは『アラーラ再誕』で、その効果はめくれるカードのマナ総量に大きく左右される。《徴兵されるワーム》のようなマナ総量の高いカードはとても渾沌としていて、5マナのカードを唱えるかもしれないし、1マナのカードかもしれない。どれがライブラリーの一番上に近いかで決まる。《断片無き工作員》のようなマナ総量の小さいカードは続唱能力は大体教示者のように機能し、ライブラリーからマナ総量2以下のカードを探してきてタダで唱える。前回の渾沌をテーマにしたデッキ、『統率者(2016年版)』の「無規律な反乱」では、続唱はかなり大規模に使われた。
ネクロンのデッキでは蘇生を選んだ。このメカニズムは「[コスト]:このカードを墓地から戦場に戻す。そのクリーチャーは速攻を得る。次の終了ステップの開始時かそれが戦場を離れる場合に、それを追放する。蘇生はソーサリーとしてのみ行う。」というものだ。
これの初出は『アラーラの断片』だ。我々は墓地から機能しネクロンが破壊された後に戦場へ戻ってこられる能力が欲しかった。蘇生は素晴らしいメカニズムで、クリーチャーを戻してくることができるけど、それは1回だけだ。これはアグロに寄ったカードと時間をかけてアドバンテージを稼いでいくカードの両方と相性がいい。
インペリウムのデッキでは、新しく分隊メカニズムを作り出した。このキーワード能力はクリーチャーが持っている。分隊を持つクリーチャー・呪文を唱えたとき、分隊コストを望む回数払うことができる。そのクリーチャーが戦場に出たとき、そのクリーチャーのコピーであるトークンを分隊コストを支払った数だけ生成する。
分隊は比較的シンプルなデザインのクリーチャーの強さをゲームの進行に応じて拡大することができる。またこれは「Warhammer 40,000」の他の陣営を圧倒するインペリウムの数的有利を表現している。
ティラニッドのデッキでは、新しく貪欲メカニズムを作った。このキーワードもクリーチャーについている。貪欲は「このクリーチャーは+1/+1カウンターX個が置かれた状態で戦場に出る。Xが5以上であるなら、これが戦場に出たとき、カード1枚を引く。」を意味している。我々はティラニッドもゲームの長さに応じて規模を大きくしたくて、そしてティラニッドのデッキにおいては、大きいことはいいことだ。
デザイン過程の多くの間、貪欲にはカードを引く誘発型能力はなく、単純に「《キヅタの精霊》メカニズム」と呼ばれていた。プレイテストのときに、プレイヤーがゲームの後半に1ターンで複数呪文を唱えることができたらもっと楽しいということがわかった。我々は常に1つの呪文のXを全開で唱えるのではなく、たまには1ターンに複数の呪文を唱える動機を持たせるためにカードを引ける閾値を追加した。
また我々はマジックの過去のキーワード能力を、それがテーマ的にふさわしいものであれば使うようにした。たとえば、我々は『アヴァシンの帰還』の奇跡メカニズムを持ったエキサイティングな新カードを作りだした! このメカニズムはインペリウムの教会の兵士であるアデプタ・ソロリタスにうってつけだ。
クリーチャー・タイプ
「Warhammer 40,000」のクリーチャー・タイプをマジックのカードにするとき、矛盾する2つの目標があった。
- 「Warhammer 40,000」の独特な世界構築をマジックのカードを媒体として表現する。
- 新しいカードをマジックのデッキ構築とゲームプレイの生態系に統合して、それらをマジックのプレイヤーが集めたくなる魅力的なものにする。
マジックのアプローチには明確な前例がある。マジックの多元宇宙にはたくさんの次元があり、中にはテーマ的な問題などで種族などの命名方法を通常から逸脱したくなるものがある。たとえば、魚人間はドミナリアではマーフォークと呼ばれ尾があるかもしれないけど、テーロスの魚人間はトリトンと呼ばれて頭にヒレが付いてるかもしれないし、シャドウムーアの魚人間はセルキーと呼ばれてアザラシの特徴を持ってるかもしれない。これら3つのクリーチャーはすべてマーフォークのクリーチャー・タイプを持っている。
プレイヤーはこれらのどのカードも自分のマーフォーク・デッキで使うことができて、《真珠三叉矛の達人》はこのすべてを強化する。世界構築チームは個別の次元のテーマをカード名を通して説明するが、クリーチャー・タイプが揃えられていることで異なるセットのカードを同じデッキで機能させることができる。
これはつまり、通常我々が有限ではあるが膨大なクリーチャー・タイプのリストに追加を行うのは、その労力を上回る理由があるときだけだということだ。『統率者デッキ:Warhammer 40,000』で我々が出した答えがなんであれ、それがプレイヤーに取って納得でき、将来のユニバースビヨンドの発売に繋げられるものでなければならない。
個別のクリーチャー・タイプに関する考察の一部を紹介しよう。
- 普通の人間=人間。一見当たり前に見える――第41千年紀には複数の一般的な人間の亜種(「Warhammer 40,000」ではアブヒューマン)や生まれた後にもはや人間とみなされないぐらい改造された人間がいることに気づくまでは。
- オグリン=オーガ。「Warhammer 40,000」のアブヒューマンとこのファンタジーのクリーチャーの類似点ははっきりしている。
- ラットリング=ハーフリング。「Warhammer 40,000」のアブヒューマンとこのファンタジーのクリーチャーの類似点ははっきりしている。
- キン=ドワーフ。「Warhammer 40,000」のアブヒューマンとこのファンタジーのクリーチャーの類似点ははっきりしている。
- ビーストマン=ミュータント。マジックのヤギ頭の獣人との類似点ははっきりとはしていないが、それらはよく「ミュータント」と記載されている。
- ナビゲイター=ミュータント。マジックの航海士との類似点はない。しかし頻繁にミュータントと記載されているので、ミュータントのクリーチャー・タイプが適切に思える。
- スペースマリーン=アスタルテス。スペースマリーンは人間として生まれるが、背景資料には彼らはもはや人間ではないと頻繁に書かれている。彼らは人間よりも戦闘力において優れていて、人間よりも社会とのつながりにおいて劣っている。彼らが2つの心臓と酸性の唾液を持ち、脳を食べることで他人の記憶を奪えることやその他の能力がこのアイデアを支えている。
- アデプトゥス・カストード=近衛団。人間にとってのアスタルテスが、アスタルテスにとっての近衛団だ。近衛団の正確な能力は明らかにされていないが、私は近衛団にも独自のクリーチャー・タイプが必要だと考えた。
- 総主長=総主長。我々は最初総主長のロブート・グィリマンがインペリウムをテーマにしたデッキを統率すると考えていた。しかしグィリマンはここにはおらず、残されたのは2人の総魔長、モータリオンとマグヌスだった。将来我々が他の「Warhammer 40,000」の製品を発売するなら、グィリマンのカードを作りたいと思うので、このクリーチャー・タイプを用意しておいた。これは成功のためのベストな準備だ。
- ティラニッド=ティラニッド。これを包括的な動物のクリーチャー・タイプであるビーストと呼ぶこともできるけど、「Warhammer 40,000」においてはビーストという言葉はオルクと一番強く結びついている。「エイリアン」のような新しい包括的クリーチャー・タイプを作るのは、それ自身の条件ではなく人類知の関係性で定義されるので私の好みではなかった。
- ネクロン=ネクロン。ネクロンは明らかにアンデッドのアーキタイプにまとめられ、物理的にはスケルトンと共通点がある。マジック的な考え方では、ものの見た目というのはものの起こりよりも重要なことが多い。そういうわけで、我々はネクロンにはスケルトンのクリーチャー・タイプを考えていた。ところが、一部のネクロンはスケルトンの姿からかけ離れていて、ホバージェットや他の純粋な機械と合体してパーツのようになっていた。最終的に、ティラニッドと同じく独自のクリーチャー・タイプを持つことでつじつまがあった。
- ディーモン=デーモン。これはそのままだ。「Warhammer 40,000」のディーモンはデーモンの表記ゆれだ。
- オルク=オーク。これはそのままだ。「Warhammer 40,000」のオルクはオークの表記ゆれだ。
- グレッチェン=ゴブリン。グレッチェンは明らかにゴブリンに類似している。
- アエルダリ=エルフ。アエルダリは明らかにエルフに類似している。
- タウ=タウ。マジックでタウに一番近いのはヴィダルケンだが、ヴィダルケンはマジックの世界構築独自のもので、ファンタジーの基本的な種族じゃない。この違いは重要だ。
多くのクリーチャー・カードが「種族」のクリーチャー・タイプと「クラス」のクリーチャー・タイプを持っている。デザイン作業で出てきたクラスに関連する事柄がいくつかある。
- 異端審問官=人間・異端審問官。我々は通常マジックでの異端審問官を、現実世界の異端審問官と類似しているのでクレリックのクリーチャータイプにする。しかし「Warhammer 40,000」の宇宙では、異端審問庁は教会とは分かれた組織で、異端審問官はハイレベルな刑事やスーパースパイに近い。我々は異端審問官を「Warhammer 40,000」の世界構築において妥協するにはあまりにも重要な要素だと判断し、彼らのために新しく異端審問官のクリーチャー・タイプを作った。
- ローグトレーダー=人間・ならず者。インペリウムには領土外での取引、探検、及び戦争行為を認められた世襲制の宇宙船の船長たちがいる。ローグトレーダーについて、我々はならず者、貴族、果ては海賊まで複数のクリーチャー・タイプを検討した。最終的には、既存のマジックのカードで最もメカニズム的シナジーが多く、そして「ローグトレーダー」の中に「ローグ(ならず者)」が含まれているという事実が決め手となってならず者のクリーチャー・タイプに決まった。
ユニバースビヨンド
異なるIPをマジックのカードを媒体として見る機会というのが『ユニバースビヨンド』の決まりごとだ。我々は通常よりもクリエイティブに密着した統率者デッキを提供することによって、その決まりごとに寄り添った。スタンダードで使用可能なセットと同時に発売される統率者デッキには、そのメインとなるセットとクリエイティブ的に結びついた10枚の新カードと、メカニズム的機能を考えてあらゆるマジックのセットから選ばれた90枚の再録カードがある。「『統率者デッキ:Warhammer 40,000』では、すべてのカードが「Warhammer 40,000」の世界構築をテーマにしている。
我々は4つの統率者デッキがクリーチャーに大きく偏重したものになるべきだとわかっていた。クリーチャーやユニットのアーミーは「Warhammer 40,000」の素晴らしいゲームプレイの核心を表しているからだ。適切な再録クリーチャーの選択肢はほとんどなく、さまざまなクリーチャーを表すために大量の新カードを作る必要があるとわかっていた。我々は必要なあらゆるカードを作るための十分な柔軟性を得るために、1つのデッキごとに42枚の新カードを作り、残りを再録カードで埋められるようにした。
再録を選定するとき、我々はカードの名前が「Warhammer 40,000」の世界観の中にあってもおかしくないかどうかを考慮した。《シミックの成長室》のようなカードは強くて魅力的なカードだが、「Warhammer 40,000」の設定には「シミック」というものは存在しない。同じように、我々はクリーチャー・タイプについても注意深く検討する必要があった。結局、この製品に再録できそうなクリーチャー・カードはごくわずかしか見つからず、実際に再録されたのは1枚(そして数枚のトークン生成カード)だけだった。再録の大部分は土地、アーティファクト、そしてクリーチャーではない呪文だ。
「Warhammer 40,000」の設定は陣営が大きなテーマなので、我々は複数のデッキに再録されるアーティファクト・カードにはそのデッキの陣営をテーマにした特注のアートを作ることにした。
たとえば、4陣営それぞれの《太陽の指輪》を考え出すのはとても楽しかった。そして基本土地も各陣営ごとに発注を行った。その時までに、我々のアートの供給は限界点に達していて、基本でない土地についてはデッキ間で使いまわしができると判断した。これらの土地は戦いが起こっている戦場を表していて、長いキャンペーンの間にどこかの陣営の支配下になるかもしれないからだ。
アートとクリエイティブ・テキスト
私の通常の仕事はマジックのセットの独特なゲームプレイを作り出すことに集中している。しかし、何度か世界構築に足を踏み入れたことがある。何度かカードのアート・コンセプトのトップラインに参加したことがあるし、『ドミナリア』と『カルドハイム』のワールドガイドを書く手伝いをしたこともあるし、『モダンホライゾン』のクリエイティブ・テキストを書くのを助けたこともある。スタジオXの「Warhammer」主題専門家(SME)として、私はいつもの仕事からかなり離れたものに関わるようになった。
トップライン・チームは新アートが必要な土地やマナ・アーティファクト向けの新しくて識別しやすいコンセプトをたくさん考え出した。クリーチャー・カードのトップラインはGames Workshopのオンラインショップから参考画像をアーティストに送ることができたので簡単だった。
他の多くのカードについて、我々は「Warhammer 40,000」の既存の世界構築を取り上げ、そこから推定しなければならなかった。ジーンスティーラー・カルトによって冒涜された帝国の寺院はどんな感じだろう? ク=タンの星の神が現れるときのいい視覚的ダジャレはなんだろうか? 侵略するティラニッドの無茎生命体は風景をどのように変化させてしまうのだろう?
また私はアーティストから送られてきたスケッチのレビューにも参加した。これは主にキャラクターデザインやその他のディティールがモデルどおりになっているようにすることに関係している。もちろんGames Workshopのライセンス・チームもすべてをレビューするが、私は彼らがその間違いを目にする前に少なくともいくつかを訂正する手伝いをした。
カード名を決めるのは簡単だった。クリーチャー・カードについては大体は単純にミニチュアの同じものの名前をつけて、新しい呪文カードのほとんどは「Warhammer 40,000」の豊富な歴史のフレーズから名前を取った。
フレイバー・テキストは大変だった。クリエイティブのテキスト・チームは「Warhammer 40,000」の本を何十冊も隅々まで目を通し、最高の引用文を見つけ出した。ふさわしいものが見つからない場合、我々が新しいものを書いた! 我々の中の多くのファンと一緒に、完成版で同じタペストリーの一部に見えるように努力した。
「Warhammer 40,000」の製品特有のエキサイティングな機会はGames Workshopの膨大なイラストの目録だ。これは本や箱のカバーから本の挿絵まである。これらのイラストの品質基準はとてつもなく高く、その多くはマジックのカードのイラストとして再利用できる形で書かれていた――実際そうなったものもある。我々はすでにデザインされたカードに合ったイラストを単に見つけただけというケースもあった。他にも、イラストをもとにしてそれに合うようにカードをデザインしたこともあった。
このピックアップ・アートを使うことが決まったら、私の好きなファンタジー・アーティストであるジョン・ブランチ/John Blanche(リンク先は英語)の作品をマジックのカードにすることが私のミッションになった。私はブランチの絵をうちの廊下に何枚か飾っている。長い間それはうまくいかなさそうに思われたが、過程の後半に星の巡り合わせによりブランチの絵に最適の場所ができた。そしてそれはうちの壁に掛けられた作品のひとつになった!
この製品で行った個別のデザインの決定については何年でも話せるが、「Warhammer 40,000」のマジック製品がもたらす独特な課題と機会については触れられたと思う。私はこれらのデッキがこれまでで最も楽しいバイオドーム・プレイ(構築済みデッキ同士で対戦すること)を提供していると信じている。
ぜひ試してみてほしい! 『統率者デッキ:Warhammer 40,000』で、マジックの第41千年紀という過酷な暗黒の世紀への旅が楽しめると思うよ。
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2024.12.18広報室
2024年12月18日号|週刊マジックニュース
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- Beyond the Basics -上級者への道-
- Latest Developments -デベロップ最先端-
- ReConstructed -デッキ再構築-
- Daily Deck -今日のデッキ-
- Savor the Flavor
- 射場本正巳の「ブロールのススメ」
- 津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ
- 浅原晃の「プレミアイベント三大チェックポイント!」
- ガフ提督の「ためになる」今日の1枚
- 射場本正巳の「統率者(2017年版)のススメ」
- かねこの!プロツアー食べ歩き!
- ロン・フォスターの統率者日記
- 射場本正巳の「統率者(2016年版)のススメ」
- マアヤのマジックほのぼの日記
- 金子と塚本の「勝てる!マジック」
- 射場本正巳の「統率者(2015年版)のススメ」
- 週刊連載インタビュー「あなたにとってマジックとは?」
- なかしゅー世界一周
- 中村修平の「デイリー・デッキ」
- 射場本正巳の「統率者(2014年版)のススメ」
- 中村修平の「ドラフトの定石!」
- 浅原晃の「プロツアー観戦ガイド」
- 鍛冶友浩の「プロツアー観戦ガイド」
- ウィザーズプレイネットワーク通信
- Formal Magic Quiz
- 週刊デッキ構築劇場
- 木曜マジック・バラエティ
- 鍛冶友浩の「デジタル・マジック通信」
- 鍛冶友浩の「今週のリプレイ!」
- 渡辺雄也の「リミテッドのススメ」
- 「明日から使える!」渡辺リミテッド・コンボ術
- 高橋優太の「このフォーマットを極めろ!」
- 高橋優太の「このデッキを使え!」
- 黒田正城の「エターナルへの招待」
- 三田村リミテッド研究室
- 新セットめった切り!
- シングルカードストラテジー
- プレインズウォーカーレビュー
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