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「神河チャンピオンシップ」アルケミー入門

Mani Davoudi
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2022年3月8日

 

 間もなく始まる「神河チャンピオンシップ」にて、アルケミーが最高峰の競技の舞台へデビューする。ここでは入門記事としてこのフォーマットについての疑問に答え、大会で見受けられるであろうデッキをご紹介しよう。

「アルケミー」とは?

 「アルケミー」は、デジタル専用のメカニズムやカードの更新を活かしスタンダードと並行して遊べるよう意図された、MTGアリーナの最新フォーマットだ。カード・プールはスタンダードのものを土台としながら、以下の3つの方法で変化していく。

  1. 「アルケミー:(セット名)」の形でスタンダードのセットごとにリリースされる、小規模なサプリメント・セット。デジタルならではのカードが収録され、アルケミーおよびヒストリックで使用できる。
  2. 昨年の後半に初めてヒストリックに導入された、カードの再調整。アルケミーではその機能をさらに拡張し、デジタルで使用するマジックのカードのパワーを上方あるいは下方修正する手段となる。
  3. デジタル・プレイ用にデザインされた新規メカニズム。
 

 アルケミーで再調整されたカードの例としては、《アールンドの天啓》や《ゼロ除算》、《不詳の安息地》、《創造の座、オムナス》が挙げられる。どれもスタンダードでは禁止されているカードだ。再調整されたカードは、アルケミーやヒストリックなどMTGアリーナのデジタル限定フォーマットでは調整後の効果になる。

 アルケミーとアルケミー・セットは、スタンダードと同じ周期でローテーションする。

 アルケミーというフォーマットについては以上だ。しかしこれでは、まだ答えていない重要な疑問がある――その目的だ。

なぜアルケミーなのか?

 アルケミーについての最大の疑問はおそらく、「そもそもなぜフォーマットとして存在するのか?」だろう。マジックの最新セットに注目したローテーションするフォーマットなら「スタンダード」という完璧なものがあるのに、なぜ「デジタル・スタンダード」とも言えるものを作ったのか?

 MTGアリーナが始まって以来、スタンダードは「これまでにない膨大な数のゲームがプレイされるようになった結果、環境が古くなるのが早い」という声に晒されてきた。数週間で環境が解明されてしまう状況では、マジックの新しいエキスパンションが発売される頻度があまりに遅く感じられてしまうだろう。その上、新しいエキスパンションが既存のデッキを打ち破れず、同じメタゲームが数か月続く場合もあるのだ。

 このような流れはデザイン・チームにも影響し、彼らがすべてを正しく把握する上で信じられないほど偏った見方をしてしまうことにもつながる。そしてカードやメカニズムのデザインが的外れな方向に進めば、競技の舞台に壊滅的な影響を与える可能性があるだろう。マジックの歴史が証明していることがあるとすれば、毎セット行われる大規模なテストや素晴らしいデザイン・チームの尽力をもってしても、製品を手にする何百万ものプレイヤーには敵わないということだ。

 そのことを念頭に、私たちは再びMTGアリーナと向き合った。MTGアリーナの人気ぶりは、マジックが抱える問題を悪化させたのかもしれない。しかし代わりに、その技術はこれまで不可能だった解決策ももたらした。そうして生まれたのが、アルケミーの核となるアイデアだった。つまり、テーブルトップのマジックの発売スケジュールを乱すことなく存在できるフォーマットだ。

 アルケミーは柔軟性と可能性を持つフォーマットだ。ダイナミックに変化を続けるこのフォーマットは、次の再調整が数週間後にあることを把握した上で野心的なデザイン哲学に安心して挑戦できる。アルケミーは、登場した当初は構築フォーマットで使われるに至らなかったメカニズムにもう一度チャンスを与えてくれる。アルケミーでなら、紙では物理的に不可能なデザインを探究できる。アルケミーでマジックは、再び未開の領域を探検する。このフォーマットがこれから本領を発揮したときの可能性に、期待せずにはいられない。きっとスタンダードの先を見せてくれるはずだ。

アルケミーのデッキ

 さて、退屈な話はこれくらいにして、皆さんお待ちかね(そうであることを願うよ)のアルケミーの今を見ていこう。「神河チャンピオンシップ」のアルケミー・ラウンドで見受けられそうなデッキをいくつかご紹介する。

「ナヤ・ルーン」
アルケミー (2022年3月)[MO] [ARENA]
2 《
1 《平地
4 《枝重なる小道
4 《岩山被りの小道
4 《針縁の小道
1 《落石の谷間
1 《日没の道
1 《耐え抜くもの、母聖樹
1 《皇国の地、永岩城
1 《ハイドラの巣
-土地(20)-

4 《気前のいい訪問者
4 《樹海の自然主義者
3 《無常の神
4 《ルーン鍛えの勇者
-クリーチャー(15)-
4 《精霊との融和
4 《強力のルーン
4 《速度のルーン
4 《持続のルーン
2 《精霊界との接触
4 《スカルドの決戦
-呪文(22)-

3 《見捨てられた交差路
-MTGアリーナ専用(3)-
2 《黎明運びのクレリック
1 《勇敢な姿勢
2 《精鋭呪文縛り
2 《ポータブル・ホール
2 《タミヨウの保管
3 《監禁の円環
2 《婚礼の発表
1 《群れの希望、アーリン
-サイドボード(15)-

 「ナヤ・ルーン」はアルケミーで一番ホットな新デッキだ。このデッキは、『神河:輝ける世界』のエンチャント・テーマのカードと『カルドハイム』の「ルーン」を最大限に活かしている。かつての「エンチャントレス」デッキや「オーラ」デッキを思わせる「ナヤ・ルーン」はアグレッシブなデッキでありながら、安定したカード・アドバンテージと+1/+1カウンターで、ゲーム後半の消耗戦でも戦える。

 このデッキの花形は《樹海の自然主義者》だ。コストを軽減する能力も《スカルドの決戦》などを使う上で素晴らしいが、真に輝くのは《ルーン鍛えの勇者》と組み合わせたときだろう。2枚の能力を組み合わせると「ルーン」のコストが0マナになり、爆発的な動きを実現するのだ。

 「ナヤ・ルーン」はすでに、予選イベントで目覚ましい活躍を見せている。私の注目デッキだ(「神河チャンピオンシップ」の出場選手たちも注目しているに違いない)。

「グルール狼男」
アルケミー (2022年3月)[MO] [ARENA]
5 《
4 《
4 《落石の谷間
4 《岩山被りの小道
4 《ハイドラの巣
-土地(21)-

3 《隆盛な群れ率い
4 《群れ率いの人狼
4 《無謀な嵐探し
4 《不吉な首領、トヴォラー
3 《結ばれた者、ハラナとアレイナ
-クリーチャー(18)-
4 《レンジャー・クラス
2 《轟く叱責
2 《髑髏砕きの一撃
-呪文(8)-

2 《見捨てられた交差路
4 《執拗な仔狼
3 《指名手配の殺し屋、ラヒルダ
4 《街裂きの暴君
-MTGアリーナ専用(13)-
3 《蛇皮のヴェール
2 《辺境地の罠外し
2 《垂直落下
2 《轟く叱責
1 《バーニング・ハンズ
1 《乱動する渦
2 《群れの希望、アーリン
-サイドボード(13)-

2 《脆性破
-サイド(アリーナ専用)(2)-

 「ナヤ・ルーン」が「今」一番ホットなら、「グルール狼男」は「かつて」一番ホットだったデッキだろう。『神河:輝ける世界』が登場する前は、どのマナ域でも強力なクリーチャーが出てくるこのデッキこそ倒すべき相手だと意識するプレイヤーがいた。夜を迎え狼男たちが真の力を解放すれば、対戦相手には「どうにかして昼を取り戻さなければならない」という厳しいシナリオが待っているだろう。そしてたとえ昼になっても単体で強力なクリーチャーが数多くいるため、それらへの対応を迫られるという悪夢は続く。

 狼男たちが「ルーン」の世界をどう渡るのか、そして攻撃的な新デッキにどう立ち向かうのか、興味は尽きない。

「アゾリウス・コントロール」
アルケミー (2022年3月)[MO] [ARENA]
3 《平地
3 《
4 《さびれた浜
4 《連門の小道
2 《ストーム・ジャイアントの聖堂
1 《皇国の地、永岩城
1 《天上都市、大田原
2 《廃墟の地
-土地(20)-
 
-クリーチャー(0)-
4 《ジュワー島の撹乱
3 《冥途灯りの行進
2 《運命的不在
2 《激情の報復
1 《軽蔑的な一撃
4 《襲来の予測
2 《未来の目撃
4 《多元宇宙の警告
4 《放浪皇
2 《ドゥームスカール
1 《告別
2 《エメリアの呼び声
2 《オンドゥの転置
-呪文(33)-

2 《A-船砕きの怪物
3 《神聖な粛清
2 《公式発見
-MTGアリーナ専用(7)-
3 《心悪しき隠遁者
3 《黄昏の享楽
2 《軽蔑的な一撃
2 《才能の試験
1 《激情の報復
1 《冥途灯りの行進
1 《ドゥームスカール
1 《告別
-サイドボード(14)-

1 《神聖な粛清
-サイド(アリーナ専用)(1)-

 アルケミーにおける「アゾリウス・コントロール」はまさに伝統的なコントロール・デッキで、カード・アドバンテージを得る手段と除去、そして機が熟したときにゲームを終わらせる切り札で構成されている。コントロール・デッキは通常、メタゲームが確立してから最大の力を発揮する。対面する相手を想定した上でデッキを調整できるからだ。

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 上記のリストで目を引くのは《神聖な粛清》だろう。3マナで強烈な対アグロ性能を持つ《神聖な粛清》は、「ルーン」と狼男の世界でこの上なく心強い。

 『神河:輝ける世界』では《放浪皇》や《冥途灯りの行進》を得て、インスタント・タイミングで動くゲーム・プランがさらに強固なものになった。現在の「アゾリウス・コントロール」の形は私も気に入っている。今大会で予想外の活躍を見せてくれるかもしれない。

「イゼット・コントロール」
アルケミー (2022年3月)[MO] [ARENA]
2 《
3 《
4 《嵐削りの海岸
4 《河川滑りの小道
2 《ストーム・ジャイアントの聖堂
1 《天上都市、大田原
1 《反逆のるつぼ、霜剣山
2 《廃墟の地
-土地(19)-

3 《燃え立つ空、軋賜
-クリーチャー(3)-
4 《棘平原の危険
2 《消えゆく希望
4 《削剥
4 《表現の反復
4 《ジュワー島の撹乱
2 《感電の反復
4 《予想外の授かり物
2 《家の焼き払い
2 《マグマ・オパス
1 《髑髏砕きの一撃
-呪文(29)-

3 《A-溺神の信奉者、リーア
4 《A-ゼロ除算
2 《脆性破
-MTGアリーナ専用(9)-
3 《くすぶる卵
3 《バーニング・ハンズ
2 《燃えがら地獄
2 《軽蔑的な一撃
2 《才能の試験
1 《環境科学
1 《アルカイックの教え
1 《マスコット展示会
-サイドボード(15)-

 「イゼット・コントロール」はかつて、アルケミーで最も支配的なデッキの1つだった。その結果《ゼロ除算》と《溺神の信奉者、リーア》が再調整され、このデッキも勢力を縮小することになった。

 だがそれでも、成功を勝ち取るためのツールはまだある。赤の軽量妨害手段に、《表現の反復》、そして強力な新戦力《燃え立つ空、軋賜》。「イゼット・コントロール」はまだ戦える力を持っており、除去されなかった《溺神の信奉者、リーア》のゲームを終わらせる力は依然として過小評価すべきでない。

 「アゾリウス・コントロール」と同様に、このデッキはメタゲームをもとにうまく構成を練ることで力が発揮される。そのための選択肢は、豊富にある。

「ラクドス・アンヴィル」
アルケミー (2022年3月)[MO] [ARENA]
5 《
4 《
4 《憑依された峰
4 《荒廃踏みの小道
1 《目玉の暴君の住処
1 《バグベアの居住地
1 《見捨てられたぬかるみ、竹沼
1 《反逆のるつぼ、霜剣山
-土地(21)-

4 《よろめく怪異
4 《ヴォルダーレンの美食家
4 《税血の収穫者
1 《面汚しの乙女、エインジー
-クリーチャー(13)-
4 《実験統合機
3 《電圧のうねり
1 《血の長の渇き
1 《村の儀式
4 《命取りの論争
4 《鬼流の金床
3 《食肉鉤虐殺事件
1 《髑髏砕きの一撃
1 《アガディームの覚醒
-呪文(22)-

4 《血塗られた刷毛
-MTGアリーナ専用(4)-
2 《墓地の侵入者
4 《強迫
3 《血の長の渇き
1 《レイ・オヴ・エンフィーブルメント
1 《電圧のうねり
2 《削剥
1 《不笑のソリン
-サイドボード(14)-

 この「ラクドス・アンヴィル」デッキは、多種多様な「生け贄」シナジーを武器に最近のランク戦で大きな成果を出している。《鬼流の金床》はこのデッキにぴったり収まり、このデッキで生成される宝物・トークンや血・トークンと最高の相性を見せてくれる。さらに《食肉鉤虐殺事件》や《血塗られた刷毛》のようなカードも駆使することで、このデッキは行動するたびに対戦相手へのダメージを積み重ねていき、ライフを削り切るのだ。

 《血塗られた刷毛》が再調整され血・トークンを生け贄に捧げてもライフを得ることができなくなったため、攻撃的な戦略に対するリスクは増したものの、このデッキの強さはまだまだ健在だ。競技の舞台でも存在感を発揮できるかどうかは結果が気になるところだが、間違いなくその力はあるだろう。

デジタル・マジック時代

 この週末に行われる「神河チャンピオンシップ」は、ヒストリックの採用に加えてアルケミーが競技フォーマットにデビューするということで、まさにデジタル・マジックの大会となる。

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 まだ環境が明確に定まっていない2つのフォーマットが戦いの舞台になるのは、本当に楽しみだ。私は日頃から、デジタル・マジックへのサポートの強化を支持してきた。こうして黄金時代を迎えたデジタル・マジックの未来は輝かしい。

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 「神河チャンピオンシップ」の模様は、3月11日よりtwitch.tv/magic(英語)にて全日生放送でお伝えする。私たち実況解説チームとともに、戦いを見守ろう!


「神河チャンピオンシップ」 日本語版放送ページ・放送日程
日程 放送日・放送時間 放送ページ
1日目 3月11日(金) 26:00~ Twitch」「YouTube
2日目 3月12日(土) 26:00~
3日目 3月13日(日) 25:00~

日本語版放送出演者

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