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プレインズウォーカーのための『イニストラード:真夜中の狩り』案内
2021年9月9日
親愛なる友、ヴァドリックへ
これを書くのは残念ですが、真実と向き合わねばなりません。陽の光は、押し寄せる夜との戦いに敗れつつあります。
この秋、各州は例年よりも肌寒く、収穫は厳しいものとなっています。夜が明けるといつも、南瓜の畑やケッシグの森にかろうじて残る葉には霜が降りています。大患期が終わって以来、触手の怪物の姿は見られず、あの泣き叫ぶ太母は月の中で平穏にまどろんでいます。ですがあれ以来、農夫たちは何かがおかしいと囁いています。時間の進みにずれが、闇の形に歪みがあります。
大患期の後、全てが正されたのではないのかもしれません。そしてこの世界には、闇を力とするものが常に存在します。
勿論、私も夜にはあの遠吠えを耳にしています。当初、ケッシグ人はそれをシガルダ様からの祝福と呼んでいました。大患期からというもの、あのような遠吠えは常に、冷淡な月に対する孤独な嘆きへと消えていました。ですが次第に狼たちの声はこだまし、増幅し、満ち、強く熱烈で獰猛な咆哮の合唱となりました。
狼男たちは彼らの流儀で祝しているのです。清々しい大気に吐かれる熱い息を、鼻孔に感じる肉の匂いを、月の出に伴う自分たちの骨格の変貌を。狼男たちは夜が昼を貧弱で僅かな数時間だけに追いやる様を祝しているのです。夜はまもなく自分たちのものになるという確信を祝しているのです。
これを書きながらも、背後の森の中で私の群れが鳴き声を上げているのがわかります。土を踏みしめる彼らのはやる心を、闇のウルヴェンワルドを振り返る彼らの高鳴る鼓動を感じます。遠吠えの引力を感じているのがわかります、私もそうですから。物事を正す手段を探し出さねばなりません、それも早急に。
いつでもあなたの友
アーリン
イニストラードへおかえりなさい。ここは狼男や吸血鬼やその他闇に騒ぐものたちが跋扈する、ぞっとする次元だ。この次元の内も外も全部知りたいだろうか? 最初の訪問の際の「案内」をチェックだ。
もっと最近、何が起こったのかをおさらいするところから始めよう。
前回のあらすじ
アート:Jaime Jones |
古のプレインズウォーカー、ソリンとナヒリの破壊的な確執は遠い昔に始まった。意見の苦々しい不一致から、ソリンはナヒリを魔法の牢獄へ封じるという無謀な行動に出てしまい、彼女はその中で何百年という時を過ごした。この確執は二年前、解放されたナヒリがエルドラージの巨人エムラクールをソリンの故郷イニストラードへ呼び寄せたことで頂点に達した。それは彼女の復讐だった。
エムラクールの存在は狂気の嵐を放ち、この次元をあらゆるレベルで歪めた。村人たちは錯乱した幻視や身体の奇妙な変質を経験した。平常時であれば人類の守護者である天使たちは、狂気に駆られてアヴァシンが率いる恐ろしい異端審問を行った。かつて人類の希望と安全の象徴であったアヴァシンは、その創造主ソリンによって苦々しく破棄された。
英雄的なプレインズウォーカーの一団、ゲートウォッチがイニストラードにやって来た。屍術師リリアナがゾンビの大群を召喚してエルドラージの怪物との戦いを助け、他の者たちは力を合わせてエムラクールをイニストラードの月に――これは月銀と呼ばれる魔法的な物質から成る――封じた。
大患期
現在、この恐ろしい一連の出来事は人々に「大患期」と呼ばれている。この言葉は上品な婉曲表現から来たものである。あの時期の恐怖を思い返したいという者はいないため、礼儀正しい会話においては丁寧で気遣いのある言い方として「大患期」が用いられている。
アヴァシンとシガルダ
アート:Howard Lyon |
エムラクールの狂気は消散したが、新たな不安がとって代わった。イニストラードの人類は再び、その守護者たるアヴァシンの存在なしに夜に対峙するのだ。今や彼らは思考を過去へと向けている――古い伝統、古い護り、古い怖れへと。
イニストラードの住民の中には、大患期の後に残る最強の大天使、シガルダへと直接祈る者たちも現れている。シガルダはエムラクールの影響を全く被らなかった数少ない天使のひとりであり、彼女はエルドラージの怪物から人類を守るために気高く戦った。シガルダは可能な限りアヴァシンの役割を引き継いでおり、困窮した、あるいは危険にある者たちの熱心な祈りに応えている。誠実なるシガルダ、影を討つ者シガルダ、迷いし者の希望シガルダ……人々は彼女に多くの二つ名を与えている。
教会の象徴、アヴァシンの首飾り
各州の至るところで、村人たちは自らの手でアヴァシンの歪んだ聖印へと粗い修理を施した。引き延ばされたように歪んだ石が砕かれ、修理に使われた。今日では埋葬地の墓石、教会の祠、街道沿いの記念碑の全てで修理されたアヴァシンの聖印を見ることができる。破片を接合したもの、針金と麻糸で縛り付けたもの、それぞれが人の手で、荒い石細工によって修復されている。これらは希望と独立独行のシンボルである――世界を修復してくる天使はいなくとも、人々は進んで修復できるものを修復するのだ。
月の混乱
ひとたびエムラクールが月へと追いやられると、その表面に封印呪文を成していた巨大な印はやがて見えなくなった。だがそのエルドラージは今も月の中で、静かにまどろんでいる。著名な星術師とドーンハルトの集会の魔女たちは、あの宇宙的巨人が月に住んでいることとイニストラードの最新の問題は関係している可能性があると信じている。
イニストラードの昼夜のサイクルは不明瞭になっている。陽光は衰え、夜は次第に長さを増し、凍える霜が世界に降りている。更なる夜は狼男や吸血鬼やその他恐るべき生物の更なる襲撃を意味する。それらは生来、永遠の夜を作りたがっているのだ……
トヴォラーの吠え群れ
アート:Chris Rahn |
狼男の首領トヴォラーはかつて、モンドロネンの吠え群れを率いていた。アヴァシンが獄庫から解放された際、モンドロネンや他の吠え群れは散り散りとなって天使たちに追われ、狩られた。今、大患期から拡大を続ける闇の中、トヴォラーはふたたび首領の座につく機を見ている。狼男の獰猛な誇りに突き動かされ、彼は全ての吠え群れを自分の命令下に統一しようとしている。トヴォラーは内なる獰猛な獣に身を任せる自由をうたっており、多くの狼男が人間としての故郷を離れて彼のもとに加わっている。強大な吠え群れを背後に、彼はドーンハルトの集会と太陽を取り戻そうと奮闘するあらゆる者を止めるだろう。
凶兆の血の狼男
アート:Chris Rahn |
気まぐれな月の強い揺らぎは、「凶兆の血」と呼ばれる狼男の新たな種をもたらした。人間の姿であっても、この狼男らは際立って長身で、その容貌には残忍さが覗いている。彼らは他者を信用せず、窪んで黒い瞳でよそ者をじろじろと、疑念と退屈の目で見る。狼男の姿では、彼らは他の同類よりも遥かに巨大な姿、途方もない怪力となる。彼らは鉤爪で石を粉々に砕き、軽く噛むだけで骨を折り、祝福された銀ですらあしらうと言われている。凶兆の血の狼男たちはトヴォラーの主力、彼の軍勢の真の原動力である。
垣魔女
アヴァシン以前の時代には、各州のそこかしこに土着の魔法を行使する小規模な集会やドルイドの教団が存在した。彼らは作物の収穫を増やし、結婚に幸運をもたらし、夜の怪物たちから家族を守るために古の垣魔術や自然の儀式を身につけていた。これらの伝統に従事するものたちは垣魔女、あるいは単純に魔女と呼ばれ、隠者や追放者たちではあるがその伝統は街や村に普及していた。
アヴァシンが創造されると、村人たちは庇護を彼女に求め、垣魔術への依存は薄らいだ。垣魔女の集会は消滅し、あるいは俗世間から離れた。今日、各州の多くの住民が伝統に立ち返り、特にケッシグとネファリアで古の集会が再び執り行われている。
ドーンハルトの集会
アート:Bryan Sola |
垣魔女の小規模な集会のひとつがドーンハルトの集会、これは自然と共同体へと献身する結社である。この二年、彼らは長であるカティルダのもとに再び集い始めた。その構成員のほとんどはナッターノールズ周囲の小さな町の出身である。彼らは至る所に霊的なサインを見出し、古の伝統的な収穫祭を蘇らせることに注力している。
収穫祭
生存が決して保証できない世界において、人生とは祝福されるべきものである。アヴァシン教会よりもずっと昔に遡る古の収穫祭は、人生と共同体を称える年に一度の祝祭だった。村人たちは御馳走や踊り、歌、詠唱、仮面、かがり火、枝細工の人形で年一度の収穫祭を祝した。この収穫祭は、イニストラードの昼と夜のバランスを修復する儀式の遂行において極めて重要である、ドーンハルトの集会はそう信じている。
ウルヴェンワルドの木々は蝋燭やランタン、魔法の明かりできらめく。長旗やリボンが枝を飾る。収穫祭へと続く道を行く旅人は、枝細工が狼男やゾンビや吸血鬼といった恐るべき怪物の人形と共に「浮遊する」様子を見ることができる。それらは祝祭の間に、勝利と抵抗を表すために燃やされる。
セレスタス
何世紀も前に垣魔女たちが建造したセレスタスは、ウルヴェンワルドの中央に座す天文学的な機構である。その目的は、星々と月の動きを追跡することである。カティルダは呪文を用いて昼と夜の均衡を正せる、彼女とドーンハルトの集会はそう信じているが、そのためにはセレスタスの起動が必要とされる。起動のためには、セレスタスの中央にある「日金の錠」という機構に、祝福された銀で作られた魔法の物品「月銀の鍵」をはめる必要がある。だが不幸にも、月銀の鍵は何世紀も前に失われている……
廃墟のスレイベン ギサの大冒険!
アート:Karla Ortiz |
最愛の弟へ
あなたから連絡を寄越さないのは大変喜ばしいことですが、私の成功をあなたの顔面にすり込む価値は至福の二年間の沈黙よりも遥かに勝ると判断致しました。あのグールのような女友達、リリアン・ヴェストとかは、あなたのことを捨てたようですわね。あの女性は玩具を全部置いていってしまいました。触手の化け物と戦うために呼び出したゾンビの軍勢を。何があったのかは存じませんが、あの女はスレイベンの街路にゾンビを全て放置し、うろつかせたままです。住民は怯え、全員が逃げ去ってしまいました。なんと楽しいことでしょう!
私は頂き物にけちをつけるような者ではありませんので、引き取らせて頂きました。今や、ゾンビの軍勢と街ひとつがそっくり私のものです。私は被害が最も少ない建物の最高の部屋に住まい、あなたとの遊戯はほんの少しも惜しくなんてありません。戦うべき求婚者すらいるのです。ウィルバーという名前のケチな殿方ですが、殺す前に、いえ、もう一度殺す前にちょっとだけ相手をしてあげるのも良いものですわね。
何でしたかしら? あなたはあの枯れた老いぼれと暮らして、この二年間何ひとつ成していないのでしょう? なんと悲しいことでしょうか。私がどれだけあなたを憐れんでいるかをわかっていただくために、この手紙を持たせるグールには、むせび泣く以外に何もしないよう命じてあります。
早急な返事をお待ちしていますわ。
ギサより
終わり……これで?
『イニストラード:真夜中の狩り』の伝承の更なる深みへ潜りたい? ならば本サイトにて毎週掲載されている物語を読むといい。追加して、来週(編訳注:原文掲載日)にはイニストラードの伝説たちについて更なる学びを得るための記事が掲載される。数か月後には、『イニストラード:真紅の契り』の記事に牙を立てることが可能になるだろう。とはいえそれも、私たち全員が永遠の夜を生き延びることができればの話だが……
『イニストラード:真夜中の狩り』クレジット
『イニストラード:真夜中の狩り』クレジットの確認は、こちらの英語製品ページ最下部から参照していただきたい。
(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)
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