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翻訳記事その他
カルドハイムの伝説たち
2021年1月21日
カルドハイムは神々と武勇の物語の次元、伝説のクリーチャーでぎゅうぎゅう詰めなのも当然と言えます。ですがカルドハイムの素晴らしい物語に全員が登場するわけではないので、バックストーリーを多少なりとも紹介しましょう。統率者として選んだ時に、あるいはドラフトでピックした時に、ともに戦場へ赴く相手のことを知れるように。
カルドハイムの神々
星界の神、アールンド
アールンドは智慧の神です。生まれながらに賢いため、自分は決して全知などではないと自覚しています。そのため彼は若い頃、あらゆる領界で最も賢い存在になるという使命を自らに課しました。
星界の怪物たちが存在を成した際、世界のあらゆる秘密が――未だ起こっていない出来事も含めて――それらの精神に封じられました。何世紀もかけ、星界の怪物を一体また一体と屈服させることでアールンドはそれらの知識を得ていきました。彼が大いに失望したことに、この長い探索行を経ても真の全知に、啓発に手は届いていません。カルドハイムは彼が知らない秘密を未だ有しているのです。
気分によりってアールンドの態度は異なります。何か重要な物事を熟考している時の彼はよそよそしく、横柄で苛立たしい謎かけのみを口にします。ですが満ち足りてくつろいでいる時には、堂に入った語り手として人々を楽しませ、良き饗宴を愛する素晴らしい友となります。
傑士の神、レーデイン
レーデインは正義の神です。若く傲慢で熱狂的なレーデインは、正義を追求することを心から熱望しています。ひとたび、ひとつの問題に対して心を決めたなら、その判断は決して揺らぎません。レーデインにとっての正義の概念は「公正さ」を軸としており、あらゆる不法は血を含む同等の犠牲で償われるべきであると彼女は定めています。その信念は、ブレタガルドの人間氏族のほとんどが従う「氏族の掟」に反映されています。支払うべき血の債務を負う定命に、レーデインは望んで力を貸します。そして彼女はベスキール氏族を特に気にかけています。その祖がかつてアールンドの生命を救ったことによるものです。
航海の神、コシマ
海の神コシマは非常に好奇心旺盛で狂暴、長いことひとつ所にじっとしていられません。彼女は年上のスコーティを血族とみなすのではなく、海の娘を名乗っています。そこで最初に生まれ出たためです。コシマは他の神々とともに住んではいませんが、時折の帰還は歓迎され、望むだけ神々の聖堂に滞在します。
コシマは星界の怪物として生まれました。かつての彼女は領界の間のオーロラを泳ぐ、巨大なイルカでした。ですが神々の領界へ入った際、人間の姿をとって神聖を獲得しました。彼女とアールンドには三人の子供がおり(トラルフ、ビルギ、コルヴォーリ)、二十年の間をともに過ごしました。それは彼女がひとつ所に留まった最も長い年月です。それでもコシマは海の呼び声に応えるのを止めず、いずれ聖堂を離れて生まれ出たところへ戻っていくのです。
波に潜るや否や、コシマは再びイルカの姿をとり、あらゆる領界の海を自由奔放に泳ぎます。彼女は生涯のほとんどをリトヤラにて、謎めいた多相たちの中で過ごしているのではと推測する者もいます。ですが神々の領界を長く不在にしている間、コシマの所在を真に知る者はいません。
死の神、イーガン
イーガンはスコーティでも最年長の一柱です。しかしながら歳を経るごとに若返っているため、外見は――そして苦々しく否定的な態度は――十代の少年のそれです。辛辣かつ悲観的に、彼はスコーティの凋落をしばしば予期しています。その若い外見のため、他の神々はしばしばイーガンの言葉を軽んじ、彼は苦々しく立腹しています。スコーティは各領界の支配よりも身内でのつまらない喧嘩にかまけている、そうイーガンは信じています。そして恐らくはエルフの手による凋落が迫っていると考えています。
スコーティとアイニールが戦った際、イーガンはカーフェルの王であるナーフィを騙し、死者の軍勢を支配しました。この陰惨な恩恵によって、戦いの形勢はスコーティへと逆転しました。この手柄からイーガンはあらゆる死者の神となり、ほとんどの時間をイストフェルの死者の霊魂の中で過ごしています。今や彼はイストフェルと全領界の死者の最高君主を名乗っています。
恐怖の神、ターグリッド
ターグリッドは名高い戦士であり、その影までも恐ろしい生命を持つに至っています。四歳の時、それは生命を得て彼女を絞め殺そうとしましたが、幼い子供でありながら彼女は数日に渡って影と戦い、屈服させました。今それは背の高いフードの人影として現れ、決して口を開かずに彼女の背後にそびえ、あるいは時に影の指を彼女の首へと回します。ターグリッドはそれが存在しないふりを装い、指摘した者には猛烈な怒りを向けます。
赤子の頃、ターグリッドはただ泣くだけではありませんでした――何か未知の言語で泣き叫び、それを聞いた者は一時的な狂気に堕ちました。今、彼女は何処へでも追いかけてくる威圧的な人影を背負いながらも、ありふれた人々のように生きるよう全力を尽くしています。不幸なことに、彼女には何か恐ろしい前兆や脅しを不意にわめくという危うい傾向があります。それは会話を中断し、耳にした人々を数日に渡って混乱させます。
語りの神、ビルギ
楽しみに生き、カリスマ的なビルギは幾つもの領界を渡りながら、常に衆目の中心となっています。彼女は神々の使者を名乗り、それほど幸運でない領界へと「神々の恩寵」をもたらすことを自らの任務と公言しています。ですが快楽主義的なビルギの唯一の目的は、領界中でも最高の饗宴と祝祭を見つけてともに楽しむことである、誰もがそう知っています。
ビルギはアールンドとコシマの第二子であり、トラルフの妹にあたります。トラルフが不可能な偉業をやってのけることを喜ぶ一方、ビルギは自分の行いとされるものの自慢を好みます。トラルフの偉業を自らのもののように言い張ることもためらいません――もちろん、よりよい物語のためです。彼女はかつて、ひとりのドワーフのスカルドを雇い、途方もない行いを報告させるためにトラルフを追わせました。ですがトラルフは英雄としての偉業を孤独に成すことを好み、厄介なスカルドを嫌って崖から放り投げてしまいました。ビルギはもっと隠れるのが上手く、トラルフすら気付くことのできないスカルドを雇って対抗しました。ビルギは饗宴の場でそういった偉業の物語を語るのが大好きです。そしてもしも、兄の偉業を自分のものと言い張っているのではと疑う者がいたとしても、それは気にしすぎというものです。
ビルギの魔法は周囲の人々に活力を与え、静かな集会をすぐさま騒々しいパーティーに……そしてやがては制御不能の暴動へと変えてしまいます。
種族の神、コルヴォーリ
コルヴォーリは話好きで活気に満ち、自然のあらゆる場所で目にした美について何時間でも語り続けます。蜘蛛の巣についた水滴を、あるいは生まれたばかりの子猫を抱くことの崇高さを長々と語ります。彼女はスコーティの英雄譚を心に留め、神の家族の栄光と偉業の記憶を守っています。
コシマとアールンドの末娘であるコルヴォーリは、家族の運命を深く気にかけています。それぞれの違いを乗り越えてもっと近しくなってほしいと彼女は願っており、仲違いが起こった際には調停者のように振舞います。兄弟姉妹と従兄弟たちのそれぞれが何を好むかをコルヴォーリは把握しており、贈り物を届けることで神々の間に平和を保とうと懸命に努力しています。
スコーティはばらばらになる寸前である、コルヴォーリは密かにそう感じています。イーガンも同じ懸念を持っていますが、自分たちはあまりにかけ離れており、上手くやれることはないだろうというのが互いの見解です。
樹の神、エシカ
物静かで謙虚なエシカは世界樹と星界を誰よりも、あのアールンドよりも理解しています。彼女とターグリッドは姉妹であり、アールンドが世界樹と交信するためにルーンの魔法を用いた際に姿を成しました。世界樹に深く繋がっているため、彼女は星界と交信できます、ですがその方法は彼女自身も理解し始めたばかりであり、他の神々は困惑するばかりです。それだけでなく、彼女はあらゆる領界を歩き、あらゆる森がどのように世界樹を繋がっているかを知っています。
エシカは星界の霊薬を作り、神々はそれを飲んで加齢の速度を緩め、超自然的な力を維持しています。彼女はその霊薬の製法を知る唯一の存在であり、その秘密を他の誰かと共有するつもりはありません。
戦闘の神、ハルヴァール
アールンドがあらゆる星界の怪物と戦う探索行に出ている最中、アクスガルドの大鷲の巣にて、親のないひとりの赤子を発見しました。アールンドはその赤子をハルヴァールと名付けて養子としましたが、探索行の途中であったため神々の領界へ連れて行けませんでした。彼は赤子をドワーフの王に委ねると、二十年後に約束を思い出して戻ってきました。
ハルヴァールは無私無欲で不屈、固い信念を持ち、常にあらゆる集まりの中で最も分別のある人物です。彼は静かな確信をもって話すため、人々は彼を本能的に信頼します。危機の際にはなおさらです。ハルヴァール自身は家に留まるのが好きな性質なのですが、自らをスコーティの守護者とみなしているので、彼らの冒険と探求の際には護衛を名乗り出ます。
嘘の神、ヴァルキー
悪辣で身勝手なトリックスター、ヴァルキーは他のスコーティへと終わりのないトラブルをもたらします――無論、目的あってのことです。彼は愛想よく、必要とあらば有益な人物にもなります。ですが詐欺的な行いをあまりに何度も繰り返してきたため、彼の言葉や行動を真に信用する者はいません。
ヴァルキーは常にいたずらを楽しみますが、それらは概して残酷というよりは迷惑なものです。とはいえ近頃では何かが変化し、ヴァルキーのいたずらは悪質かつ破壊的なものとなっています。他の神々も、彼を制御できずにいます。ヴァルキーは何らかの極悪な陰謀に関与しているのではとアールンドは感づいていますが、誰にも明かしていません……今のところは。
神々は知りませんが、冷酷なプレインズウォーカーのティボルトがヴァルキーをカーフェルに幽閉し、すり替わったのです。ティボルトは何か極悪な目的から世界樹について学びたがっており、ヴァルキーの姿を用いてそれを試みています。彼はエシカに取り入って気に入られようとしていますが、世界樹の神は関わろうとしません。今、彼は個人的な調査を進めており、長く姿をくらましては何かを求める時にのみ他の神々の前に姿を現します。神々のほとんどは、安堵しながら彼の不在を歓迎しています。
怒りの神、トラルフ
トラルフは荒々しい妙技と英雄譚に相応しい冒険への情熱を持った、怖れ知らずの勝負師です。雷を操るトラルフは敵へと破壊的な一撃を振り下ろすことが可能ですが、戦争に興味はありません――それよりも、新しくかつ興奮する挑戦を熱心に探し求めています。
不可能と言われる偉業を何度となく成し遂げ、トラルフは名声を勝ち得ました。セルトランド最大の霜の巨人メータの頭から髪を一本引き抜きました。カーフェルの凍てつく海の最深部に棲む、裂け目の獣の殻に自らの印を刻みました。タイライトの鎚を空牙の炉へと振るっただけで、二つの領界を衝突させました。彼の望みは荒野で孤独に、誰にもできないような、何よりも大きな数多くの挑戦を克服することです。
トラルフはアールンドとコシマの長男ですが、息子は才能を浪費していると父は考えています。何といっても、嵐という極めて危険な力を振るうことができるのは彼だけであり、その力はスコーティの大義を支えてくれるかもしれないのです。やきもきする父親をトラルフは無視し、互いの隔たりは広まっています。それは神々の家族の中で、心地の悪い分断となっています。
冬の神、ヨーン
ヨーンは並外れた追跡者です。自然世界に魅了されており、荒野の果てで何十年も孤独に過ごします。彼は来たる嵐を何年も前に予期し、自らの周囲の気候を制御できます。それでもヨーンは、自然をそのままに任せて観察し、学ぶ方を好みます。
アールンドがあらゆる星界の怪物と戦ってその秘密を学ぶ探索行に出る際、唯一助力を求めたのが弟のヨーンでした。ヨーンは唯一、星界の中の道を見つけ、とらえどころのない魔法の怪物を追跡する手段を知っているため、アールンドの使命になくてはならない存在でした。兄弟は今も強い絆で結ばれており、スコーティが助けを必要としたならヨーンはすぐに放浪から帰還します。
ヨーンはあらゆる領界を渡る、あるいは領界同士を繋ぐ最も早くかつ安全な道を知っており、他の誰にも見えない徴候を読むことが可能です。彼はまた動物と会話ができ、神々や人間以上に彼らとの付き合いを好み、しばしば一体か二体を旅に伴います。
伝説の人型生物たち
万物の姿、オルヴァール
オルヴァールは最古にして最も経験ある入江歩きの一人です。同類の全員と同じく自らの姿を変化させることができ、海棲生物や水に生きる人型生物を好みます(漁師、灯台守など)。オルヴァールは非常に長い時を生きてきたため、自らの力のより創造的な使用法を学んできました。例として、彼は物理的な肉体を複数に拡大する方法を学んでいます。参照先がある限り、彼は観察した生物の「複製」を作り出せるのですが、その複製は彼自身の文字通りの延長なのです。
オルヴァールの意図は謎に包まれています。彼は何世紀もかけて知識と新たな姿の両方を集めてきましたが、その目的は不明です。古の物語が一体の多相について言及する際、その正体はしばしば暗にオルヴァールなのです。
厚顔の無法者、マグダ
家族との大喧嘩の後、マグダはアクスガルドを離れて二度と戻らないと誓いました。自ら課した追放の中、彼女はドワーフ社会に幻滅して育った他のドワーフたちに出会いました。マグダは彼らと連れ立って追放者の一団を作ると、盗みと略奪をしながら幾つもの領界を放浪しました。彼らは盗人かつ略奪者として悪名を上げていき、やがて、誰にも止められなくなりました。
旅のある時、マグダと仲間たちは見捨てられたドラゴンの卵の一群を発見しました。自分たちのドラゴンを所持するという利益を考え、仲間たちはしばし泥棒から離れて卵を見守りました。孵化したその獣を手懐けることに成功したかどうかはまだわかりません。
ドゥームスカージ、カルダール
イマースタームのデーモンは、破壊への渇望では並ぶもののない危険なヴァイキングの略奪者です。神々がデーモンをこの領界に捕らえるルーンを張り巡らせたため、相争うデーモンの族長とその獰猛な軍勢が、エルスカルの戦場にて途切れることない猛烈な戦いを続けています。カルダールは最も獰猛な族長の一体であり、他のデーモンの心にすら恐怖を呼び起こします。おそらく歴史上で初めて、他の族長たちは協力してカルダール地表から数百マイルの地下深くに封じました。ですが彼はゆっくりと戻りつつあります。日ごとに、数インチずつ。カルダールが再び地上に現れた時、イマースタームは恐ろしいことになるでしょう。
ブレタガルドの守護者、メイヤ
メイヤはベスキール氏族の軍事的指導者です。民は守護を求めて敬意を捧げ、メイヤは彼らを失望させません。彼女は氏族の掟の知識を幅広く有しており、ブレタガルドの全土で尊敬されています。五つの全氏族の多くの人々が、自分たちの不和を解決してもらおうとメイヤを頼り、彼女は力強くかつ尊敬される指導者として戦場の内外で名声を得ています。
武勇の審判者、ファーヤ
「番人」とは、シュタルンハイムの座に相応しい死者を導く戦乙女です。「死神」とは、相応しくない者の生命を刈り取ってイストフェルへ連れて行く戦乙女です。両方の戦乙女が合意した上で、死した戦士の運命が定められます。ファーヤは番人であり、死神の片割れがいました。ある時二人はともに、戦場から逃げたひとりの戦士を裁かねばなりませんでした。これは救いがたい臆病者の行いであると死神は主張しますが、ファーヤは予見に長けていました。この戦士には遥かに偉大な行いが定められている。今回の不名誉が戦士を駆り立て、やがてこの領界でも最も偉大な戦士の一人となるのだと。
死神はその予見に同意せず、戦士の命を奪おうとしました。ファーヤは前代未聞の行動に出ました――その死神を打ち倒したのです。片割れが死して横たわる中、気がつくとファーヤはその精髄を吸収していました。一対の黒翼が不意に背中から生え、白い一対に並びました。彼女は今や唯一無二の存在、番人であり同時に死神であるただひとりの戦乙女です。
彼女はひとりで領界を旅し、自らの審判だけで定命の魂を、そして自らを導いています。
氷結する火炎、エーガー
かつて炎の巨人の王カルダーは、とある霜の女巨人と秘密の関係を持ちました。そして生まれた子供がエーガーです。エーガーは霜の巨人の慎重な気性と、炎の巨人の闘争の才と、両者のエレメンタルの技を保持しています。エーガーは霜の巨人たちの中で育てられたため、思春期に達してその力が顕現するまで炎の巨人の血筋を知りませんでした。炎の巨人たちや顔も知らない父に会うために、彼はすぐさま巡礼の旅に出ました。炎の巨人の中にはエーガーを嘲る者もいましたが、彼は自らを見くびった者たちを手際よく打ち負かし、速やかに認められました。
その騒ぎを聞きつけ、カルダーが調査に訪れました。短い会話で互いの関係が明らかになると、カルダーは存在すら知らなかった息子に会えたことを大喜びしました。両氏族の中に居場所を得たエーガーは、いつの日か全ての巨人を統一したいと願っています。
霜のモーリット
モーリットはひとつの謎です。リトヤラの多相である彼女は林歩きとして生まれました。成長した多相の多くがリトヤラを旅立って探検に赴く一方で、モーリットは更なる知識を求めました。その目的のため、彼女は若い入江歩きの姿をとりました。入江歩きたちの中で生活し、モーリットは彼らのあらゆる知識と秘密を吸収すると霧の中へと消えました。彼女は今や領界の放浪者となって、最も知識ある多相として、答えのない新たな疑問の答えを探しています。
神に愛された者、シグリッド
シグリッドはベスキール氏族の精神的指導者です。遠い昔、シグリッドの祖先であるハリックがアールンドの命を救いました。アールンドは礼として草原地帯フェルトマークの全土を、そして護りの祝福を彼とその子孫たちに与えました。アールンドの言葉は真実であり続け、シグリッドもその祝福を保持しています。子供の頃、とある星界の熊がシグリッドに近づきました。熊は近づくだけで襲いかかりはせず、彼女の額に鼻をすりつけ、やって来た森へと帰っていったのです。この出来事は神々の恩寵のしるしであり、アールンドの約束が今も消えていないことを示し、そしてシグリッドの統率力を裏付けるものとされています。
ルーン目のインガ
領界路探しの長であるインガは盲目の予見者です。彼女は視力を捧げ、異なる類の視界を得ました。インガの両目はルーンの印に曇っており、心には氏族が航海の旅で得てきた全ての知識が刻まれています。長艇の船首に座し、インガは領界路探したちがかつて足を踏み入れたあらゆる場所へと乗組員たちを導きます。
インガは領界路探しの間で広く尊敬されており、彼女を守るために自らの命を投げ出そうとしない者はいません。それほどの崇拝をインガはどこか心地悪く感じており、自らの力を用いて氏族を可能な限り危害から守っています。
傷頭のアーニ
タスケーリの指導者の座は、いついかなる時にも最強であり、最も大胆であり、そして最も熟達しているとみなされた氏族員に委ねられます。指導者の地位は、特に注目に値する偉業に対する報酬として授けられることもあります。つまりいつでも、途方もない偉業を成し遂げた次の戦士へとその職が譲られるのです。
タスケーリ氏族の現指導者はかつて山羊裂きのアーニとして知られていました。ある時、暴れ回るトロールの群れがタスケーリの縄張りに近づいているという噂を耳にし、戦士の全員が名乗りを上げました。権力を、名声を、ふさわしい名を得る機会なのです。アーニもそのひとりであり、何とかトロールたちを追い詰めました。ですが一度に複数体のトロールを倒すことはできず、彼は狡猾とも言える手段をとると決めました。彼は最大の、最も恐ろしいトロールを見つけて言ったのです。「お前に挑戦する、毛なしの子豚の息子。頭突き勝負だ!」と。
少々の幸運が(そしてタスケーリのクレリックの祝福も)あって、アーニは頂点に立ちました。彼は新たな称号と、タスケーリの長の座と、頭蓋骨から永遠に抜けない戦利品を獲たのでした。
牙持ち、フィン
カナー氏族の長は、星界の大蛇に傷を負わせることに成功した唯一の人間として有名です。フィンは大蛇を刺した際に有毒の血を浴び、それは彼の身体へと吸収されました――ですがその毒は彼を殺すのではなく、彼の血もまた有毒なものへと変化しました。今やフィンは攻撃を受けると、敵に対して腐食性の復讐を行います。フィンの物語は到底ありえないように思えるかもしれませんが、彼はその大蛇の鱗から作られた盾を誇らしく持ち歩いています。
背信の王、ナーフィ
何世代も昔、ナーフィはカーフェルの王でした。ナーフィの父はエルフと契約を交わし、何人であろうと乗せて領界を渡る魔法の長艇を与えられました。ナーフィはその長艇を用いて軍勢を新たな領界へ運び、望むままに略奪しました。彼の財産はすぐにマーンの港から溢れ、その宝と軍勢は幾つもの領界に知れ渡りました。
しかしながら、エルフたちが神々との戦のためにナーフィの軍勢を借りようと訪れた際、王は拒みました。彼は逃げるつもりでしたが、エルフたちは王が首を縦に振るまで長艇を取り上げました。その夜、とある異邦人がナーフィのもとを訪れて助力を申し出ました。自分はナーフィの軍勢を率いてエルフたちに対抗するつもりである。対価として王とその民は死から守られるであろう、と。ナーフィは合意しました。そうすれば彼自身は死を免れ、さらに民は(そして宝物は)無事でいられるのです。しかしながら、ナーフィの兵士たちが戦場で倒れると、彼らはドローガーとなって再び立ち上がりました。訪問者は正体を明かしました。イーガン、後に死の神となる者です。ナーフィが気付いた時には、彼もまた一体のアンデッドと化していました――確かに、死が来ることは決してありません。
それから数百年が過ぎ、ナーフィは今も権力と富への渇望に突き動かされた、残酷な王のままです。
血空の主君、ヴェラゴス
イマースタームから脱出した悪魔ヴェラゴスの後見を受け、今日のスケレ氏族は恐るべき勢力となりました。ブレタガルドに至ると、彼は素早くスケレの略奪者の長という座を確立し、氏族の全員が悪魔との結びつきを大いに喜びました。悪魔は氏族をベスキール会堂へ導き、そこに至るまでに遭遇した全員を虐殺しました。神々は他の領界からの侵入者によってもたらされた惨劇を見て介入し、一か月に及ぶ戦いの末にヴェラゴスをイマースタームへと押し返すと、悪魔たちをその地に束縛する魔法印を修復しました。ブレタガルドにおいて冬の季節は今も「血空」と呼ばれ、その虐殺の記憶を留めています。
今も捕らわれていますが、ヴェラゴスはそれに甘んじるような者ではありません。彼はイマースタームの脱出を目論んでおり、一世紀に渡って神々とブレタガルドに対する遺恨を抱いています。
スケムファーの王、ヘラルド
ヘラルドという名の平凡な森エルフは、ヤスペラの樹の果実を食した後にその枝の下で眠り、ひとつの幻視を見ました。偉大なエルフの王朝が隆盛し、全てのエルフをひとつの旗のもとに統一するというものです。その幻視を現実にするのは自分である、ヘラルドはそう確信するようになりました。長年の努力を経て、森と闇のエルフは遂に手を取り合いました。ですがその結束は弱弱しいものです。それまで長と呼ばれていたヘラルドはエルフの王を名乗り、スケムファー全土を統治しています。
エルフの中には、ヤスペラの樹に幽閉されているアイニールがヘラルドの行動を導いていると信じる者もいます。ヘラルドには古のエルフの神の霊魂が憑依していると信じる者すらいます。彼らの中でも、アイニールの霊魂の関わりはエルフたちの運命にとって吉となるか凶となるか、その意見は分かれています。
ヘラルドの統率下にて、エルフたちは共通の目的のもとで一つとなっています。アイニールの力と、彼らが信じる正当な地位――全領界の支配者の座を取り戻すのです。共通の目的はありますが、古くからの敵対心は今も表面すぐ下で煮えたぎっており、ヘラルドが両エルフをまとめる唯一の効力であることは明らかです。もしも彼が死亡したなら、闇のエルフと森のエルフはほぼ確実に再び分裂し、古の戦争を再開するでしょう。
鍛冶場主、コル
有能なドワーフの鍛冶師であるコルは、あらゆる領界の最高の金属を手にしてきました。ですが彼は自らが扱う素材の質に決して満足していません。彼は絶えず安全な都を離れては、興味に火をつけるかもしれない新たな鉱石や稀少鉱物を求めに向かいます。ある日、採集のさなか、コルは星界の怪物に襲われました。彼は命を落としかけましたが、戦いの神ハルヴァールが介入してその怪物を倒しました。怪物が倒れたところに、コルはタイライトの輝ける塊を目撃しました。ハルヴァールは止めようとしましたが、コルはその素材へと駆け寄って触れました――そして彼の手はタイライトそのものへと変化してしまったのです。
当初の衝撃を乗り越えると、そのタイライトの手は神の素材を安全に扱えるとわかりました。感謝のしるしに、コルはタイライトで剣を鋳造して、ハルヴァールへの贈り物にすると誓いました。全ての領界がかつて見たこともない最高の剣を。彼は何日もの間不眠不休で働き、やがて鍛冶場から出てきました。その手には、領界の間への路を切り裂くほどに鋭い剣が――領界の剣がありました。
エルフの刃、ラスリル
ラスリルはエルフ族が二分される遥か昔より、エルフの栄光の頂点として讃えられていました。天性の指導者かつ熟練の戦術者として、その勇敢さをもってエルフの権力を長きにわたり維持し続けました。自ら戦場に立つことを恐れず、常に軍の最前線で大規模な死をもたらし、兵を集めて壊滅的な敗北をも圧倒的な勝利へと導きました。
「ラスリルの聖歌」はエルフ族随一の民話であり、ラスリルの誕生、功績、そして謎めいた星界の怪物アイダーモウとの闘いを経て神へと昇格した出来事などが謡われています。エルフの間では彼女の意識がヤスペラの樹に宿っていると信じる者もおり、森と闇のエルフを統一できる古きエルフの神々アイニールの再来を願い、彼女に誠実な祈りを捧げているそうです。
恒久守護のラナール
生前のラナールはとある伯爵に仕える栄誉ある戦士でした。ドゥームスカールの際、彼の王国は他の領界からの略奪者に襲撃されました。伯爵は自ら兵を率いて侵略者の迎撃に出向き、ラナールひとりに王国の子供たちの護衛を任せました……やがて領界路は閉じ、戦士たちを侵略者の領界に封じ込めてしまいました。
指示を仰ぐ者も盾仲間もいなくなっても、ラナールは持ち場を断固として離れようとしませんでした。侵略者や魔物を追い払い、食料を狩り、子供たちに生き抜く術を教え込みました。子供たちが皆成長したのを見届けてから、ようやくラナールは戦乙女の誘いを受け入れました。戦乙女は彼をイストフェルの守護者に任じ、幾年にもわたって子供たちを守り続けたその気高さで精霊の領界を守るよう命じました。
伝説の怪物たち
巨怪な略奪者、ヴォリンクレックス
ヴォリンクレックスは新ファイレクシアの法務官です。彼は直観という概念を嫌い、捕食者と獲物という関係だけで多元宇宙が動くことを求めています――適者生存が全てです。エリシュ・ノーンが法務官たちの頂点に立った際、彼女にとってヴォリンクレックスは最も御しやすい存在でした。彼の欲求は法務官たちの中で最もさもしいためです。
ヴォリンクレックスがカルドハイムへ到来した理由は現在のところ不明ですが、その目的が極悪であるのは間違いありません。彼が次元を渡った手段もまた謎です。ヴォリンクレックスの有機組織はその旅の間に破壊され、金属と骨が残るのみでした。残骸の匂いを嗅ぎにきた雄鹿の肉を用いて彼は新たな身体を創造すると、ヴォリンクレックスはゆっくりと森の食物連鎖を上り、満足のいく姿を手に入れました。
見張るもの、ヴェイガ
神々の密偵であるヴェイガはスピリットの梟であり、神々の聖堂にほど近い世界樹の根の中でほとんどの時間を過ごしています。ヴァルキーがトラルフを騙して聖堂をイストフェルに移動させた後、神々はそのようなことが再び起こってほしくありませんでした。ここで何か異常なことが起こったなら、ヴェイガはただちにコルヴォーリへと知らせます。
氷刻み、スヴェラ
ほとんどのトロールは特別賢くはありませんが、氷刻みのスヴェラは別です。彼女は魔法の才能と芸術への洗練された愛を持っているのです。あらゆるトロール氏族から追放され、彼女はノットヴォルドを放浪しながら氷で神秘的な彫刻を作り出しています。カロの木立の巨石を複製したものが彼女の傑作であり、他のトロールには理解できない魔法が吹き込まれています。スヴェラは極めて孤独であり、芸術を愛する他の誰かとの出会いを何よりも求めています。
秘密を知るもの、トスキ
トスキは悪戯好きなリスであり、世界樹の神エシカの伝令を務めています。彼は(他の星界の怪物に比べれば)小型ですが、信じられない速度で世界樹を跳ね回って各領界へと伝言を運びます。小さいゆえにあらゆる領界での出来事を監視でき、エシカへと持ち帰る秘密を入手します。
トスキは言葉を話しません。彼とエシカは一種の謎めいたテレパシーで意思疎通をしているため、トスキが神へと持ち帰る秘密は厳重に守られています。
囁く鴉、ハーカ
アールンドは鴉と密接な関係を持っており、伝令や密偵として使役しています。彼は一羽の鴉へと領界の間を飛ぶ能力を与え、伝言を運ばせ、秘密を探求させています。ハーカはアールンドのお気に入りの鴉であり使い魔です。アールンドと同じようにハーカも輝く片目で、身体には虹色の光をまとっています。ハーカはほとんどの時間をアールンドの肩で過ごし、他の鴉が集めてきた秘密を主人の耳へと囁いています。ですが失敗が許されないような時には、アールンドはハーカをその任務に送り込むでしょう。
領界喰らい、サルーフ
巨大狼サルーフは各領界を放浪しながら、その周囲に破壊を刻みます。神々とドワーフたちが力を合わせ、アクスガルドにてサルーフを捕えました。サルーフはとある洞窟に封じられ、八本の魔法の鎖で拘束されました。ですがその絶え間ない咆哮をドワーフたちは我慢できず、この狼をどこか別の場所へ幽閉するよう神々へと要求しました。そしてリトヤラへと輸送される際にサルーフは逃走し、今や星界を自由にさまよっています。
星界の大蛇、コーマ
星界の大蛇は星界の怪物でも最初に生まれた、最も古きものです。自らをいくつもの姿に分断してそれぞれが世界樹の周囲を独立して動きまわるため、真の大きさは知られていません。
星界の怪物のほとんどは自由に各領界へと入ります。ですがスコーティがアイニールの神々を屈服させた際、彼らは自らが崇める星界の大蛇へと、領界の侵入を禁じました。コーマがスケムファーに入ってアイニールを解放するのを怖れたのか、あるいはその超巨大な蛇がやがて、どの領界にも入りきらないほどに成長するのを怖れたのかもしれません。何にせよ、コーマの信奉を続けるエルフたちは、その追放が世界樹を害していると信じています。領界の外で絶えず動き続けるコーマの興奮は世界樹を不安定にし、ドゥームスカールにおける危険を増大させているのです。星界の大蛇が領界を自由に行き来するようにならない限り、世界樹は確実に枯れる――そしてすべての領界も道連れになる、エルフたちはそう信じています。
さて、カルドハイムが輩出する全36の新伝説を紹介しました。もっと読みたいですか? 「プレインズウォーカーのためのカルドハイム案内」その1・その2をどうぞ。それでは次にお会いする時まで、十の領界が提供する全てを皆さんが楽しんでくれますように。
(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)
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