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プレインズウォーカーのためのカルドハイム案内 その2
2021年1月14日
もう九つの領界
「プレインズウォーカーのためのカルドハイム案内」その2へようこそ。その1はこちらです。今回は、このセットに登場するもう九つの領界の秘密を披露します。まずはドワーフの領界アクスガルドから。
アクスガルド
アクスガルドで目を惹くのは、三つの独立した山岳地帯です。それらを隔てる岩がちの平地では、暖かな季節には丈夫な金色の草が育ちます。樹木は少なく、地表を見る限り、ピューマや山羊、不毛の山腹を棲処とする猛禽類以外に生き物の痕跡はほとんどありません。ですが幾つかの場所では工業的な活動らしきものの音が宙に鳴り響いており、近づいてよく観察すると、金属の閃きが垣間見えるかもしれません。山腹に築かれた、八つの黄金の扉のうちの一つです。
伝説にうたわれるドワーフの「八の扉の都」に入る手段は、それらの黄金の扉をくぐる以外にありません。そして扉が地上へと開かれるのは、途方もない危険が差し迫った時に限られています。この領界への侵略者や、侵略者でなくとも都への侵入に成功したものはなく、難攻不落であると広く考えられています。自称略奪者は険しい山岳地帯を何マイルも旅して入り口のひとつに辿り着くかもしれませんが、扉はどれも魔法と物理的な損害に対して頑丈に守られています。
《アクスガルドの武器庫》 アート:Cliff Childs |
山岳地帯と平地の下に、きらびやかな広間が何マイルもの長さに渡って伸びています。長い卓が置かれた饗宴の間、精巧な職人技が光る武器がずらりと並ぶ部屋は数知れず、そして何千人ものドワーフたちが物語へと耳を傾ける巨大な講堂があります。
それらの中でも最大の講堂が、鮮血の鎚の広間です。この都の創設者、鮮血の鎚のヴィルヌスを称えてそう名付けられました。ドーム状の天井は黄金で覆われ、壁にはあらゆる領界の英雄譚のさまざまな場面が描かれており、その中には遠い昔に破壊された、あるいは忘れ去られた領界のものも含まれます。ドワーフ最大の英雄譚試合がここで開催されます。スカルドたちがアクスガルドの多くの有力者の前で壮大な物語を朗唱し、誰が最高の物語を、あるいは疲れることなく最も長い物語を語るかを競うのです。高名なスカルド、息もつかぬグナーはかつて三日三晩休むことなく語り続け、その記録は破られていません。
ドワーフの広間を飾る柱や壁には黄金が散りばめられ、柔らかく暖かな光を閃かせています。都の遥か下に座す「黄金口」からは液体の金が見たところ無尽蔵に湧き出しており、そこから得られる黄金は、都の中で活動するドワーフが必要とする全ての明かりを提供しています。たやすく手に入るため、ドワーフたちは黄金を貴重なものとはみなしていません(彼らの貨幣は鉄で鋳造されています。貴重性ではなく、実用性によって重宝されています)。ですが美的には素晴らしいものと認めています。
アクスガルドのドワーフ
《ドワーフの狂戦士》 アート:Olivier Bernard |
あらゆる領界にてドワーフたちは二つの物事、完璧な武器と素晴らしい物語で称えられています。彼らは熱烈なほどに創造的であり、常に自分たちの技巧を上達させたいと強欲に切望しています。彼らは最も鋭い剣を、最も美しい宝石を、最も頑丈な鎖を作り出すために日夜努力します――そして自分たちの行いを歌と物語にして永遠のものとします。彼らは永久に残るように創造し、未来の世代が覚えていられるように世界に自分たちを記すのです。
ドワーフの社会はこの地下の都の各区画に集合した、不規則かつ緩い氏族構造から成っています。異なる氏族は異なる技に秀でており、十分に平和的に共存してはいますが、強い競争心を持っているため、時にはそこから対立が生まれます。
戦の技術
ドワーフにとって、戦士と腕のいい職人は同じものです。戦いの技術と創造の技術は共に、集中や辛抱や絶えない自己研鑽から引き出されるのです。赤のドワーフと白のドワーフがそれぞれ異なる視点からそれらに取り組んでいますが、創造物の完璧さが重要だという点は同じです。
赤に列するドワーフの職人戦士たちは荒々しいインスピレーションを爆発させやすく、しばしば現在進行中の製作に没頭します。彼らは唖然とするほど荒々しい力を持つ武器を作り出します――叩きつけたなら大地を割る鎚、一振りで鎧を融かしてしまう赤熱した剣、その軌跡に焼けつく稲妻を残す投げ槍などです。
白に列するドワーフの職人戦士たちは、理論的で整然としています。彼らは明確に定められた工程に従い、赤の同類よりも洗練されて繊細な作品を作り出します。美しい宝飾品、装着した者を不可視にする鎧、狼の涙から鋳造された鎖などが白のドワーフの製作物の例です。彼らは鋳造所においても戦闘においても、全く同じように正確かつ几帳面です。
特別な武器
ドワーフの職人は全員、青年期を捧げてひとつの武器を鋳造し、ルーンの魔法を込めて一生持ち歩きます。そうして完成した武器は創造主の矜持と喜びであり、多くのドワーフがその武器に合うよう衣服や鎧をしつらえします。ドワーフは百歳の誕生日に成人すると、大いなる創造物であるその武器と、それを元にした新たな姓を公表します。所有者の特別な武器から触発された姓の例として「黄金杖」「煌めく鎚」「炎盾」等があります。
黄金食らいと最終戦争
ある未完の英雄譚が、八の扉の都が崩壊に瀕すると予言しています。黄金口の裂け目の財宝を狙ってアクスガルドに引き寄せられるという、星界の巨人「黄金食らい」によるものです。ドワーフの戦士は誰もがこの最終戦争の予言を心に抱いて訓練に励み、そのため彼らは最高の戦士になろうと駆り立てられます。ほとんどのドワーフが、自分こそが黄金食らいにとどめの一撃を与える者となり、英雄譚の最終章に名を刻むのだと心に描いています。
詠唱者と戦のスカルド
ドワーフのクレリック、スカルドはドワーフ社会において特別な地位にあります。語り手たちの頭として、英雄譚や寓話の生ける書庫として、ドワーフをドワーフたらしめているのです。ドワーフは歴史を文字の形で残さないため、語り手は無数の世代の間に伝えられてきた複雑な口伝の運び手です。スカルドはあらゆるドワーフの共同体で歓迎され、常に賓客としてもてなされます。
スカルドの中でも詠唱者の第一の役割は、ドワーフたちに過去の功績を思い出させ、今日において同等に英雄的な行いを喚起するというものです。彼らは英雄の物語を語ることで新たな英雄を生み出します。また正義と友好の物語を語ることで、共同体の結束を強めて正義を成すのです。
戦のスカルドは、戦争から帰還してその戦いと英雄たちを語ることからその名を得ています。現代の英雄的行為と達成の物語を収集するのが彼らの役割です。その勇気や語り手としての力は多くの領界で称えられており、しばしば冒険家や、神々すらも自分たちの不朽の偉業の証人として彼らを雇います。人間の氏族タスケーリの間には、有名な言い回しがあります。「スカルドが見届けて初めて偉業は真実となる」。
ノットヴォルド
ノットヴォルドの手つかずの荒野には、古の巨人たちの草むした遺跡と、トロールに築かれた粗末な木の避難小屋があるのみです。この領界に広がるハムンダーの森は、高くそびえる木々と深い下生えの鬱蒼とした原生林です。森の中にはカロの木立と呼ばれる聖域が座し、風化した巨石の群れが、この領界でも最大にして最古の木々に取り囲まれています。それらの石は遥か昔に失われた巨人たちの文明よりもさらに時代を遡るものと信じられています。
岩がちの高地モスランには巨石や壊れた遺跡が点在しており、その中には古の巨人が遺した粗末な石塚や墳墓が多数含まれています。森の広大な範囲を見下ろす高い崖の上には、レイニールの広間と呼ばれる古の要塞が立っています。遠い過去のルーンの魔法で保存されており、ほとんどの部分が損なわれていません。一本の険しく危険な小路が崖からその広間へ続いており、好戦的で飢えたトロールの群れが待ち構えています――古の魔法を求めて遺跡を略奪しようなどと考える冒険家は、たいてい大いに怖気づきます。
トロール
ノットヴォルドの古の遺跡は、異なる二種類のトロールへと幾らかの棲処を提供しています。比較的小型で攻撃性に勝るハギのトロールは、この領界の至る所にはびこり、組織立たない群れで狩りを行い、トルガのトロールへと厄介な攻撃を仕掛けます。トルガのトロールは体格で勝り、家族単位で生活し、一度に数年間も続けて眠ります。彼らは眠りを好む一方、まどろみから不意に覚醒させられた際には怒りを燃え上がらせ、疲労して新たな睡眠場所を探すまで数週間に渡って破壊的な蹂躙を続けます。
ハギのトロール
ハギのトロールはトルガのトロールよりも小型でみすぼらしいながら、目ざましい体格へと成長する個体もいます。知性は低く、その行動原理は基本的かつ原始的です。たくさんの食べ物を手に入れ、最高のねぐらを確保し、一番いいものを見つける。そのために彼らは緩い群れで旅をし、混み合った巣で眠ります。ですが口汚い気質のため、喧嘩や反目は日常茶飯事です。
何世代もの間、ハギのトロールたちは多くの遺跡から得られる物を何でも漁ってきました。そして未だ手つかずの墳墓や石塚の捜索を続けています。彼らに貨幣の概念はありませんが、剣の破片やルーンが刻まれた金属細工、割れた杯などは氏族内にて貴重な有用品となっています。自分たちの文字は持たないながらも、彼らは古の巨人のルーンを幾らか解読しており、ほとんど制御不可能な、粗雑で原始的な魔法を次第に発展させてきています。それらは不意に爆発する傾向にあるため、ハギの魔道士は他のトロールよりもずっと短命です。
ほとんどの場合、ハギのトロールは素手か古の武器の破片を用いて戦います。他のハギの氏族から略奪する、もしくは何か欲しいものを奪うためにトルガの家族を襲う際は、岩を棒に縛り付けるような粗末な武器をしつらえますが、創造に対する彼らの興味はそこまでです。
トルガのトロール
トルガは草むした遺跡、特に深いハムンダーの森のそれを棲処としています。彼らは幾つかの家族の小集団で行動する傾向にあり、しばしば縄張りや食料源をめぐって他の集団と衝突します。ハギのトロールとは異なって、彼らはシャーマンとして自然世界と深く繋がっており、多くが自然や治癒の魔法に秀でています。この自然との繋がりから、トルガのトロールは非常に力が強く、また驚くべき再生能力を保持しています。彼らはハムンダーの森を熱心に守っており、踏み入ろうとするハギのトロールを攻撃します。よそ者の排除は、異なる家族のグループが協力する数少ない理由です。
トルガのトロールを何よりも突き動かすのは睡眠欲であり、また彼らは睡眠にとても秀でているため、時に目覚めることなく何年も眠ります。あまりに長く眠るため、彼らは周囲の環境に混ざり合います――眠りについて久しいトルガのトロールは、しばしば大岩や古い遺跡の欠片と見分けがつきません。事実、トルガのトロールの中には長い眠りの間にカモフラージュの一種として巨人の遺跡近くを選ぶ者もいます。
やがて彼らの身体には植物が成長し、トルガのトロールと遺跡との区別は困難になります。彼らは早まって目覚めるのを大変嫌い、まどろみが邪魔された際には手が付けられないほど暴れます。彼らは盲目の怒りの中で蹂躙し、やがて完全に疲れ切ってしまうまで、目の前のあらゆるものを破壊します――ハギのトロールも素手で半分に裂いてしまうほどです。そして眠りに戻るのです。
イマースターム
イマースタームは炎、デーモン、そして途切れることのない戦争の地です。空には稲妻が轟き、デーモンの略奪者たちが燃え立つ船で炎の海を渡り、他の領界へと略奪に向かう道を探してこの世界を漁ります。神々はイマースタームを取り囲むように強力なルーンの防護を設置し、デーモンを閉じ込めて他の領界にて彼らが破壊を引き起こすのを防いでいます。ですがその防護も完璧ではなく、デーモンが別の脱出手段を見つけるのは時間の問題となっています。
イマースタームの炎が消えることはありません。海には水ではなく炎が満ち、空は絶えない稲妻で照らされています。デーモンが住まうのは、鋭く容赦ない黒い岩で形成され、燃えるクレーターで穴だらけになっている、荒涼とした険しい大陸です。デーモン以外のあらゆる種族にとって有害な蒸気が、地割れから吹き出して空へと渦巻いています。イマースタームに植物は生えていません。唯一の野生「動物」は、炎の穴から吹き出たエレメンタルの炎が獣の形を成したものです。
敵対するデーモンの族長同士が血染めのエルスカルの戦場で激突します。デーモンはイマースタームから離れられないため、戦う相手は同族に限られています。そして飽くことを知らない血への飢えから、黒焦げの戦場に大規模な戦いが昼も夜も絶えることなく猛威を振るいます。理由あって戦う者や他のデーモンへの遺恨から戦う者はごくわずかです。彼らは単純に、戦いたいから戦うのです。
イマースタームの黒い山岳地帯、その奥深くに血の岩山と呼ばれる火山が座しています。そのカルデラから湧き出るのは溶岩ではありません――血で煮えたぎっており、血の岩山は全てのデーモンの源なのです。あるデーモンがデーモンではない生物を殺害するたびに(あらゆるデーモンがあらゆる可能な機会にそうします)、犠牲者の血が魔法的に血の岩山へと転移します。デーモンが征服した煮えたぎる血がカルデラの縁に達すると、新たなデーモンが現れるのです。ですがこの領界はルーンの防護によって封じられているため、新たな犠牲者は不足しています。そのため血の岩山から新たなデーモンは長いこと現れていません。
デーモンの略奪者たちが他の領界の略奪に成功すると、彼らは戦利品を地下のヘリールの宝物庫へと預けます。古の文明のアーティファクトや失われて長い秘儀の秘密が、燃え立つ海の下の迷宮の小部屋にて埃をかぶっています。
デーモン
イマースタームのデーモンは、破壊への渇望では並ぶもののない危険なヴァイキングの略奪者です。神々がデーモンをこの領界に捕らえるルーンを張り巡らせたため、相争うデーモンの族長とその獰猛な軍勢が、エルスカルの戦場にて途切れることない猛烈な戦いを続けています。互いを引き裂くことにかまけていない時は、他の領界へと略奪に向かう手段を貪欲に探し求めます。デーモンの社会は軍勢で分かれており、それぞれが殺戮士として知られる強大な指導者に率いられています。黒のデーモンは他の領界を手に入れ、畏れと恐怖を振り撒きたいと願う征服者です。赤のデーモンは破壊と苦痛に夢中であり、目に映るもの全てを焼き尽くし殺戮したいと願っています。
エルフの種族を生み出した神々アイニールは、自ら作り出した強力な魔法の物品を用いてデーモンをイマースタームに封じました。スコーティはルーンの魔法でイマースタームを再度封じましたが、彼らは油断なくその安全装置を保全してきたとは言えません。
イストフェル
霧に覆われた領界イストフェルは世界樹の根元に位置しており、広大な平原が、流れの速い川とそびえ立つ石の壁に取り囲まれています。平原には底なしの井戸と白い石塚が点在していますが、それらの起源や意味は遠い昔に失われました。頭上には世界樹が計り知れないほどの巨体となってうっすらとそびえ、揺れる根が領界に突き刺さっています。星界のオーロラが時折、この消えない薄闇を破って空に踊りますが、そのきらめきはイストフェルの中心に向かうにつれて濃さを増す、果てのない霧に抑えつけられています。動物、怪物、そしてほとんどの人々の霊魂は死ぬとイストフェルを訪れ、定命としての生を目的もなく模倣して永遠を過ごします。
イストフェルの平原は骨も凍るヴァンギル川の水に取り囲まれ、その川の先には高さ百フィートを超える壁がそびえ立っています。永遠にも思える昔、星界の怪物たちの攻撃から若き世界樹の根を守るために築かれたものです。イストフェル唯一の入り口は、その川を渡って壮大な「イストフェルの門」へと直接至る巨大な一本の橋です。
霊魂
《堕ちたる者の案内者》 アート:Anastasia Ovchinnikova |
とりわけ勇敢な、あるいは栄光ある死を迎えた人々は戦乙女の目にとまり、シュタルンハイムへと連れて行かれます。イストフェルはそうでない死者が向かう場所です。イストフェルの霊魂には自然死や事故死、あるいは戦闘において臆病さを見せた人々のそれが含まれています。これまで生きてきたあらゆる動物や怪物の霊魂も自由にイストフェルを駆けており、霧の中から狼やドラゴンの巨大な霊魂が現れる光景も珍しくはありません。
イストフェルに住まう霊魂は生前の姿に似ていますが、弱弱しく薄く、色合いは灰か青を帯び、生きた血の暖かな色を持ちません。霊魂として長く過ごすごとに、彼らはこの領界の絶えない霧や朧な背景に混じり合っていきます。複数の霊魂が共に移動する際は、巨大な霧の雲が形成されて風景を漂い、不断の霧と実質見分けはつきません。
多くの霊魂が生前の記憶を保持していますが、全ての情熱と、それに伴って戦いや関係形成への意欲を喪失しています。むしろ彼らは特に目的もなく群れをなして移動し、平原上を、あるいは川沿いを漂います。強大な魔法を用いて彼らの怒りを奮起させる、あるいは戦わせることは可能です。多くの霊魂は、死の神イーガンをこの地の支配者としてぼんやりと受け入れていますが、彼ですら霊魂たちを使役する、あるいは彼のために戦わせるには神の魔法を用いねばなりません。
神々の間
イストフェル唯一の建築物は壮麗な「神々の聖堂」、この領界では新しく建てられたものです。いかにしてこの建築物がイストフェルに至ったかは、英雄譚が語っています。
長きに渡り、スコーティの聖堂は神々の領界に建っていた。ある日、トラルフとハルヴァールが訓練試合を行っていると、ヴァルキーが現れた。彼はドワーフたちが神の石で作り上げた馬具の重みにもがいていた。何に苦しんでいるのかとトラルフが尋ねると、ヴァルキーは不満げに馬具を投げ捨てた。彼は幽霊馬ウィンドフェルを捕えたのだと語った。それは過去にも多くが試みていたが、達成できた者はいなかった。トラルフとハルヴァールは大声でヴァルキーを称えたが、彼は否定するように手を振った。その捕獲は終わっていないのだ。ウィンドフェルを神々の領界へと連れてくることには成功したものの、手懐けるにはルーンが込められた馬具を首に巻かねばならない。そんなことはとても不可能だと、ヴァルキーは弱音を口にした。
「不可能」の言葉にトラルフは背筋を正した。スコーティ最強の息子にとって、不可能なことは何もないのだ。これはヴァルキーの企みかもしれない、ハルヴァールはそうトラルフの耳へと警告を囁いた。ヴァルキーはその謀略で知られているのだ。だがトラルフはハルヴァールの言葉に耳を貸したことなどなかった。ハルヴァールはいかなる集まりにおいても、最も賢明な人物であるにもかかわらず。トラルフは楽々と馬具を手に取り、三柱の神々は聖堂を出た。庭園にて、彼らは畏敬とともにウィンドフェルを見た。この野育ちの霊は何にも捕われなどはしないと、彼らを軽蔑するように頭をもたげた。馬具を手にトラルフが近づくと、ウィンドフェルは足踏みをし、神の周囲を跳ね、門へと向かって速度を上げた。馬は門を跳び越え、カーフェルの嵐よりも速くスコーティの聖堂から離れていった。
それから三日に渡り、トラルフはウィンドフェルを霊魂の領界へと追跡し、イストフェルの門に入った所で追いついた。トラルフは馬具を乗せようと、力を込めて持ち上げた。その時不意に目がくらむ眩しい光が閃き、あらゆる領界にまで届くほどの雷鳴がとどろいた。トラルフはその力にイストフェルの門まで吹き飛ばされ、柱にひびが入った。目を開けると、ヴァルキーの企みが明らかになった。その馬具は神々の聖堂に繋げられており、トラルフの途方もない力はそのルーンの魔法を発動させ、神々の領界から世界樹の根元まで聖堂を引き寄せ、今やそれは根の中に収まっていた。他の神々も聖堂から出て、自分たちを見つめる霊魂の終わりなき列を見て困惑した。ヴァルキーの姿はどこにもなかった。
――英雄譚「ヴァルキーの企み」より
神々の領界に戻すべきだと神々は言い続けていますが、これまでのところ、世界樹からしみ出す何らかの魔法が彼らの気乗りしない奮闘を邪魔しており、優先的にこの件に取りかかると決めた者はいません。
カーフェル
氷に覆われた岸に極寒の波が打ち付ける、カーフェルは過酷な領界です。遠い昔、この領界は歴代の王と女王が統べる王朝が、歪んだ複雑な同盟や属国、強大な城塞を用いて支配していました。ですが栄光の日々は今や影が残るのみです。城塞は崩壊して雪に半ば埋もれ、この領界の現在の住人のほとんどはアンデッドです。ドローガーという名を持つそのゾンビは生前の知性と記憶を留めており、カーフェル最後の高王ナーフィへと忠誠を捧げています。
かつてカーフェルは無敵の城塞に住まう富裕な貴族が支配する地でしたが、全ては今や雪に覆われた廃墟です。零落していようとも、カーフェルの大いなる富はあらゆる領界で伝説となっています。氷の下や古の氷河の中に隠れていると噂されている古の支配者たちの豪奢な宝を求め、多くの略奪者が過酷な環境に踏み入ります。
リッチの王ナーフィは古の都でも最大のマーンの港から今なお統治を続けており、凍り付く風が石の隙間から吹き込む中で、アンデッド貴族の宮廷を抱えています。巨大な、要塞化した港を激しい波から守る防波堤は、その中に埋め込まれた何千もの骸骨から、死霊堤と呼ばれています。
ナーフィ王はデッドマーンと呼ばれる略奪者の軍勢を保有しています。ドゥームスカールや領界路によって道が開けるや否や、カーフェルの既に満杯の宝物庫にさらなる宝物を加えるために、デッドマーンは他の領界へと略奪に赴きます。
スカイブリーン山脈
内陸にそびえるスカイブリーン山脈は、カーフェルにわずかに存在する生きた人間の過酷な住処です――極めて厳しい環境にて、しがみつくように蛮族が生きています。彼らは人間同士で常に戦争状態にあり(そして時折、悲惨なことにドローガーとの間にも)、殺意を向けるほどよそ者を嫌っています。
浜墓
古き浜墓の宝物庫は途方もないものと言われており、あらゆる領界で「大いなる富」を意味することわざとなっています。ですが奇妙にも、この宝物庫に入って数枚のコイン以上のものを持ち帰った略奪者はいないのです。浜墓を探し求めたほとんどの者は、そもそも二度と戻ってきません。戻ってきた者は途方もない宝物庫の物語を語り、盗んだ宝石のゴブレットについて説明するかもしれませんが、見せつけるのは錆びた古い杯以上のものではないのです。
ドローガー
《残忍なドローガー》 アート:Grzegorz Rutkowski |
ドローガーはアンデッドの君主とその家臣たちからなる古の種族であり、富と権力への異常なほどの渇望によって動いています。彼らが貯めてきた古の宝者と強力な魔法を探し求めてカーフェルを訪れる侵入者がいますが、ドローガーは自分たちの宝物庫を極めて用心深く守っています。時折、彼らは風変りな石の船に乗り込んで他の領界へと略奪へ向かい、既に溢れている宝物庫にさらなる富を加えるために持ち帰ります。
数世紀昔、ナーフィ王は民を裏切り、死の神を仕向けてカーフェルの貴族と家臣全員をアンデッドに変えてしまいました。彼らは生前の記憶と知性を幾らか、あるいは全て保っています。死してからは、生前に彼らを駆り立てていた富と権力への同じ欲求に動かされています。古の貴族たちは、エルフたちが神に等しい力を保持していた時代を覚えており、エルフの凋落とスコーティの隆盛に至る巨大な戦いの目撃者でもあります。アンデッドの家臣が保持する生前の記憶はそれよりも少なく、今や彼らは意志を持たずに君主へと仕えています。
ドローガーは、カーフェルが生きた王国であった時代に確立された貴族の家門や厳格な階級制度を今も保っています。首長たちは数か月ごとにナーフィ王との会議に出席するために動くのみですが、デッドモーンとして知られる戦士階級は、かすかに記憶されている古の巡回路の名残をたどります。ドゥームスカールによってカーフェルが他の領界との接触を果たすと、デッドモーンは好んで海から他の領界へと略奪に出発しますが、時に物言わぬアンデッドの軍勢として戦争に向かいます。
リトヤラ
リトヤラは湖と松の森の神秘的な領界であり、この地の現実はここに住まう多相と同様に変幻します。木々の幹は不意に伸びる方向を変え、湖面は鉢状に湾曲し、水草は何もせずとも予期しない模様に成長します。訪問者は焚火の煙が宙に伸びる様を見るかもしれませんが、その場所に赴くと一匹の小鹿が草の上に横たわっているだけで、焚火などどこにも見当たらないのです。
リトヤラは奇妙に可変的、そこに住まう多相のように謎めいて秘密主義の領界です。真昼であっても、微かでぼやけた光だけが風景を照らし、奇妙な形の植物があらゆる方角へとねじれた影を投げかけています。
この領界と星界とを隔てる障壁は他の領界のそれよりも遥かに薄いため、リトヤラに入るのは簡単です――とはいえこの領界の奇妙さに訪問者は迷い、立ち去るのは容易ではありません。多相たちはたやすくリトヤラを出て星界に入りますが、この領界を訪れたよそ者は無力に迷うこととなり、立ち去れた者が再度の訪問を望むことは滅多にありません。
ペンタフィヨルドの湖
後にリトヤラとなる領界を古のエルフの神々アイニールが作った際、彼らの干渉がこの地に永久に記されました。幅数マイル、手に似た形をして澄んだ淡水が満たされた巨大な陥没は、リトヤラで不変である僅かなもののひとつです。星界のオーロラを共鳴させるかすかな虹色の光が、その水面下に踊っています。
そしてあらゆる多相は、その生の終わりにはリトヤラに引き寄せられ、ペンタフィヨルドへ向かうとその水面に滑り込んで生を終えるのです。
多相
《領界渡り》 アート:Zack Stella |
リトヤラの多相は、自らの意志で姿を変える能力を持つ、仮面をまとった神秘的な存在です。彼らは美しく彫刻された仮面と分厚い旅用の外套を身につけ、自分以外には知るもののない真の顔と姿を隠しています。彼らは周囲に溶け込むため必要に応じてあらゆる姿をとります――星界を自由に渡るために、揺れ動くオーロラにもなります。ですが動物の姿を好む傾向にあります。
林歩きと入江歩き
多相は緑と青に列しています。両方の色を持つ多相はあらゆる姿をとりますが、ある程度個々の色に属した異なる姿を好む傾向にあります。緑の多相は林歩きとして知られ、人型生物としての自己以上に野生の獣の姿を好みます。熊が人気ですが、森林地帯で目にする鹿やオオヤマネコ、鳥、リスといった獣は変身した林歩きかもしれません。青の多相である入江歩きは水が大好きです。彼らはしばしばセイウチやイルカのような海棲生物の姿をとります。また頻繁に水夫や海賊、漁師、灯台守といった水辺に住まう人型生物としての主体性を採用しています。
多相はしばしば悪役やトリックスターとして英雄譚に登場しており、現地の人型生物に厄介事をもたらし、英雄たちの奮闘を邪魔します。この描写は多くの人型生物が彼らへと密かに抱く根深い不信を反映していますが、他の種族と多相とのあり方を必ずしも反映してはいません。実のところ、多相は他種族の中で何年にも渡って察知されることなく生活し、無限の好奇心に耽溺して各領界のあり方に没頭するのです。
彼らに好奇心以上の動機があるとしても、他種族からは隠し通します――その真の姿のように。
領界を渡る
多相たちは星界そのものと同じ物質、揺らめく純粋な光と天のエネルギーでできている、そう広く信じられています。それが真の性質かどうかはともかく、彼らは星界のオーロラと同じ姿をとることが可能であり、領界路やドゥームスカールがなくとも領界の間を渡れるのです。
多相は領界の間を動く能力を生まれつき所有しており、躊躇なくその力を用います。好奇心旺盛で適応力のある彼らはしばしば、リトヤラで数年間の短い子供時代を過ごすと、星界へと踏み出して他の領界を見聞しに向かいます。多くの多相が生涯のほとんどを他種族の中で過ごし、晩年にようやくリトヤラに帰還してペンタフィヨルドの湖に沈んで包まれ、その生を終えるのです。
リトヤラの秘密
ある古い英雄譚が多相の起源を語っています。いわく、彼らはかつて、忘れられて久しい領界の小村に住む知られざる種族でした。圧政的な首長に支配され、この人々はアイニール(古のエルフの神々)に祈りました、首長の不条理な戦争に若者たちが徴兵されないようにと。アイニールは彼らの祈りを聞き入れ、姿を変化させる能力を与えました。若者たちは老人やありふれた動物に変装し、首長の軍に適した者は誰も残りませんでした。首長は怒り狂って皆殺しを命じ、村人たちは命からがら逃げ出しました。
逃走した村人たちを首長の軍が追うと、アイニールは彼らの苦境を見て安全な場所を創造しました。神々は自分たちの領界の破片を一つ引きはがすと、険しい山脈を作り出して壁にし、侵入不能の聖域を作り出しました。ですが彼らの混沌とした魔法は不安定で熟してしない世界を創造してしまいます。そこでは平坦な崖が不自然に正確な角度でそびえ、木々は根を冠して地面へと伸びる枝に支えられ、巨大な手の跡が今や澄んだ水をたたえる湖となりました。
新たな地に移住した人々はその移ろう特質を取り入れました。世代を重ねるごとに彼らは元々の種族としての姿を失い、多相となっていきました。今やその地と人々は同等に変幻し、謎めいて秘密だらけです。
スケムファー
スケムファーはそびえ立つ木々が空を覆い、広大な泥炭の沼が神々の古の戦いの残滓を隠しています。七本の大樹がその戦いの敗者を永遠に束縛しており、彼らの古の聖堂は今やその遠い祖先、エルフたちの家となっています。大いなる星界の大蛇が掘ったトンネルが地下を通っています。大気には生命と腐敗の匂いが強く漂い、途方もない年月の重みがのしかかっています。
表面的には、スケムファーは時の始まりから人の手が一切触れていない自然が果てしなく広がっているように見えます。実際には、風景の中にエルフの居住地が点在しています。あるものは地下に隠れ、あるいは節くれ立った根の中に彫られ、またあるものは頭上に伸びる枝の中に継ぎ目なく優雅に建っています。森のエルフと闇のエルフが新たな王のもとで共に生きている幾つかの居住地には、枝の上と根の中の両方の住居があり、エルフたちの絡み合った運命を反映しています。
エルフ最大の居住地がヨルムンド、彼らが神々だった頃に築かれた古の都です。その建築は華麗で仰々しく、現在の両エルフの建築との類似はわずかです。魔法がこの場所に浸透しており、梢の下で木々の枝が終わらない黄昏の光の中で淡く輝いています。都の中心は炉の聖堂、最近築かれたエルフたちの王の住まいです。
ヤスペラの樹
スケムファーの広大な森林に点在する七本の大樹は、自分たちの神聖なる権威に挑む者の末路を見せつける警告として、スコーティがアイニールの生き残りの長たちを監禁した牢獄であると言われています。幽閉されたアイニールは今や彼らを束縛した木々と一体化しており、エルフたちはその木々を古の指導者のように崇拝しています。大樹それぞれが、その内に封じられた神に基づく魔法的な特質を持っています。ある大樹はあらゆる病を治し傷を塞ぐ果実を実らせ、またある大樹は切ることも壊すこともできない木材を提供します(大樹の内の神が、相応しい嘆願者に一本の枝を与えると認めた場合を除いて)。エルフたちの王ヘラルドは、ヤスペラの果実を食べてその枝の下で眠った際に、エルフの王朝を統合する幻視を受け取ったのだといいます。
大蛇のトンネル
エルフたちは星界の大蛇コーマを信奉しています。彼らいわく、古の時代にその大蛇は自由にさまよっては古のスケムファーの秘儀的エネルギーを貪欲に飲んでいました。大蛇はその通り道に広大で複雑なトンネル網を残しており、森のエルフも闇のエルフもそれらの道を聖地とみなしています。エルフたちは敬意をもってそれらのトンネルを維持しています。いつの日か星界の大蛇がそれらを用いてスケムファーへと帰還すると信じているのです。とはいえ現在の神々、スコーティは大蛇へとあらゆる領界への侵入を禁じています。エルフたちはこれについて、スコーティが自分たちの神聖なる祖先アイニールを打倒した件と同じほどに憤慨しています。
エルフ
《古葉の導師》 アート:Zoltan Boros |
長い時代の中で森のエルフと闇のエルフは初めて一人の王のもとで統合されました。彼らはスケムファーの原初の森と広大な沼地にて、不安定な同盟の中でかつての力を取り戻そうと奮闘を続けています、あらゆる相違点以上に、両エルフは星界の大蛇への崇拝と、いつの日かカルドハイムの王としての座を取り戻すという希望を共有しています。
アイニールの凋落
ある古の英雄譚がアイニールとスコーティ、神々を自称する成り上がり者との戦いを伝えています。スコーティが勝利しましたが、その一部はドワーフ製の斧、ガルドリメルの力よるものです。ハルヴァールはこの武器を振るってアイニールに対抗し、破壊的な戦果を上げました。あらゆるものを、星界すらも切断できるというこの斧を用いてハルヴァールはエルフの種族を分断し、森のエルフと闇のエルフを作り出しました。スコーティは同時にアイニールが崇拝していた星界の大蛇を追放し、領界の侵入を禁じました。神々としての力を奪われ、凋落したアイニールは――エルフたちは――低俗な喧嘩と暴力的な内紛を始めました。
アイニールが打倒された際、アールンドは生き残った七人の指導者を捕えてこの領界の七本の大樹に幽閉しました。今それらはヤスペラの樹として知られています。
エルフの王
《スケムファーの王、ヘラルド》 アート:Grzegorz Rutkowski |
森と闇のエルフの戦いは数世代の間続きましたが、アイニールの子孫たちは今や再びひとつとなりました。ヘラルドという名のエルフが、ヤスペラの樹の果実を食してその枝の下で眠った後、全てのエルフをひとつの旗のもとに統一する大王朝が栄えるという幻視を受け取ったのです。その幻視を実現するのが自らの運命である、ヘラルドはそう確信するようになりました。長きにわたる奮闘の末、森と闇のエルフは遂に団結しましたが、その結束は弱いものです。それまで長と呼ばれていたヘラルドは、自らをエルフの王と称し、スケムファー全土を統治しています。エルフの中には、ヤスペラの樹に幽閉されているアイニールがヘラルドの行動を導いていると信じる者もいます。ヘラルドには古のエルフの神の霊魂が憑依していると信じる者すらいます。彼らの中でも、アイニールの霊魂の関わりはエルフたちの運命にとって吉となるか凶となるか、その意見は分かれています。
ヘラルドの統率下にて、エルフたちは共通の目的のもとでひとつとなっています。アイニールの力と、彼らが信じる正当な地位――全領界の支配者の座を取り戻すのです。共通の目的はありますが、古くからの敵対心は今も表面すぐ下で煮えたぎっており、ヘラルドが両エルフをまとめる唯一の効力であることは明らかです。もしも彼が死亡したなら、闇のエルフと森のエルフはほぼ確実に再び分裂し、古の戦争を再開するでしょう。
シュタルンハイム
世界樹の梢に位置する高遠な領界がシュタルンハイム、戦乙女と栄誉ある死者たちの家です。優美な長艇がガラスのように静かな黒い水面を滑り、中央の建築物へと辿り着きます。洞窟にも似た戦乙女の聖堂は、世界樹の生きた枝で編み上げられたものです。神秘的な魔法の印、シュタルンハイムの光が天頂から太陽のように輝き、その光は世界樹を流れ下ってあらゆる領界に届いています。
戦乙女の聖堂
古く精巧、魔力を脈打たせ、シュタルンハイムの中心となる長広間は見る者に畏敬の念を抱かせます。世界樹の最も高い枝が湖から伸びる所で編み上げられたその聖堂は、水面に浮いているように見えます。内部では天井から雲がうねり、下方の領界での戦いの量に応じて白から灰へ、雷雲の黒へと変化します。この巨大な長広間はこれまでに生きてきて、ここに加わるに相応しい全ての人々をその卓に座らせて永遠の饗宴を共にできるほどの広さがあります。多くの新たな魂が到着しながらも決して満員になることはなく、蜂蜜酒も尽きることはありません。
生を終えた後、この長広間で永遠の饗宴に加わる英雄を戦乙女たちが選びます。最も勇敢な魂だけが、伝説的な偉業を成して戦いにて勇敢に死んだ者だけが、その栄誉ある座を手にするのです。
戦乙女の広間に迎え入れられる者には皆、語り手としての才能を与えられます。そのためこの永遠の饗宴では、英雄譚が昼となく夜となく語られます。定命の魂それぞれに、生前の偉大な勝利を語り祝す機会が与えられます。そういった英雄譚は常に英雄的であり、時には苦々しい悲劇で終わっています。ですがそれらが喚起する強い感情は素早く過ぎ去ります。シュタルンハイムの栄光の中に、悲嘆が入り込む余地はありません。
ヴァルクマーとイェッタの船着き場
この領域の表面は滑らかで平坦、ガラスのように静かな黒い湖のように見えます。ですが実際、この「水」は全くもって水などではないのです。最初の英雄譚はそれをヴァルクマー、世界の創造のさなかに死した最初の戦乙女の血と呼んでいます。この湖から全ての戦乙女が生まれます。用いる者によって、ヴァルクマーの強力な魔法は癒しにも破壊にも用いられます。
戦乙女の聖堂を木造の船着き場が複雑に取り囲み、それらは星界の怪物の彫刻で飾られています。十二の長艇が船着き場の近くに漂っており、それぞれが現在の神々スコーティのためのものです。彼らの崇高な地位をもってしても、神々であっても死の際に永遠の饗宴を約束されているわけではありません。ある古の英雄譚は、シュタルンハイムに迎えられるに値しない神々は到着すると長艇から放り出され、より相応しい神々のために星界へと追放されると語っています。
戦乙女
《撲滅する戦乙女》 アート:Tyler Jacobson |
戦乙女は高遠な戦天使であり、シュタルンハイムの聖堂にて永遠の饗宴を過ごすに相応しい死者を選別します。スコーティよりも古い存在である戦乙女は神々に仕えてはいません。彼女らは時の始まりに姿を成し、平凡な関係や家族の絆、神々の性質を実際に定義する些細な対立といったものに判断を曇らされることは決してありません。この審判こそが彼女たちの第一の存在意義ですが、戦乙女が時に自ら大義のために戦いに加わる様を、複数の英雄譚が描写しています。
戦乙女は対になって審判の任務を遂行します、白に列する「番人」と黒に列する「死神」が常に連れだっています。
番人
白の戦乙女はシュタルンハイムに相応しい死者の番人です。勇気と栄誉とともに死した者がいたなら――戦死かどうかは問いません――番人が姿を現してその人物をシュタルンハイムへと導き、戦乙女の聖堂での座を与えます。
死神
黒の戦乙女は臆病者の死神です。番人はシュタルンハイムに相応しい者の死を待ちますが、死神は臆病な行いを目撃したなら介入します。しばしば、死神たちは単純にその臆病者を殺し、その恥をさらすルーンを刻印してイストフェルの門へと導きます。
番人と死神は、執行の前に死者それぞれの運命に同意しなければなりません。通常、これらの審判は率直であり意見の不一致はありません――両者とも公正な運命を求めており、特定の魂を「勝ち得る」ことへの執着はほとんどありません。ですが番人は時に、ある臆病者が後に勇敢な行いによって償う機会があると判断したなら、死神がその人物を早まって殺してしまうのを止めなければなりません。
戦乙女の聖堂へ加わることを許された者は「虹色の道」を通って星界を案内されます。戦乙女の翼から流れ出る、虹の橋に似た道です、
戦場の天使たち
幾つかの英雄譚が、戦乙女が神々の壮大な戦いに加わる様を語っています。暴れ回る星界の怪物を倒すためかもしれません。ですが戦乙女たち自らが戦いに加わる状況は極めて稀です。ひとつの村や氏族が生きるに値しないと戦乙女たちが審判を下し、番人と死神が共に降下して臆病者の社会をそっくりイストフェルに送ることがごく稀にあります。
一方で、戦乙女たちは躊躇なくデーモンとの戦いに赴きます。デーモンとはその性質的に下劣で嫌悪すべき存在であり、またイマースタームから逃走したデーモンは素早く対処しなければならない脅威であるためです。番人も死神もデーモンを殺害する、あるいは棲処の領界に送り返す戦いへと素早く加わります、
セルトランド
荒涼としたセルトランドは絶えない地殻変動の領界です。雪と氷を破って火山が噴出しては新たな山々を形成し、厳しい冷気に凍った間欠泉は氷の破片を噴き出します。地震と噴火が風景をほぼ毎日作り替え、雪と岩のなだれが山腹を下って半ば凍った川の流れを変えてしまいます。高山の頂上と氷原には、霜の巨人が住む氷の宮殿が点在しています。低地では溶岩の深い地割れが雪の広大な平原を貫くように切り裂き、炎の巨人たちの粗末な隠れ家が隠れています。
セルトランドの植物はわずかですが、それらは巨大に成長します。木々は少ないながら、スケムファーの古木ほどに巨大です。炎の巨人の王の家、カルダーの広間の梁はそういった巨木から切り出されており、その巨体に相応しい住まいを形成しています。動物もまた巨大に成長する傾向にあり、マンモスや大山羊の群れは巨人の食料の大半を提供しています。
セルトランドの地形はとても変わりやすいため、名前がつくほど長持ちするものはほとんどありません。ひとつの有名な例外がヴェラ高地です。これはひと続きの山頂と氷原からなり、通常は孤独を好む霜の巨人の魔術師たちが集団で住まい、共同社会に近いものを形成しています。ヴェラの巨人たちは魔法の力を合わせ、自分たちの高地に炎の巨人が侵入しないような防御を作り上げています。
巨人
ふたつの巨人種族が狂暴なセルトランドの領界に居住しています。知性的な霜の巨人は秘密主義であり、ルーンの魔法を用いて星界の秘密を見抜き、それらをよそ者の好奇心から頑なに守ります。炎の巨人は対照的に乱暴で衝動的、肉体的な力と体力は霜の巨人と同等ですが、彼らの知識や資産を一切持ち合わせていません。霜の巨人は高地を支配しており、安定した山岳地帯のほとんどを得て、氷の要塞を築いています。低地へと落とされた炎の巨人たちは、雪崩や溶岩流ですぐに押し流されるか覆われてしまうため、永続するものを築きたがりません。彼らは必要とあれば分解して移動できるような粗末な木の長屋を好みます。そして両種族は常に争っています。
セルトランドの、霜と炎の巨人は終わりのない争いに没頭しています。霜の巨人は孤独を好みますが、領界内でも最高の、最も安全な縄張りを欲しがります――そして自分たちのために宝物と秘儀的な秘密を山岳の宮殿に貯め込みます。怒れる衝動的な炎の巨人は群れを成し、大体において孤独な霜の巨人を襲います。霜の巨人は炎の巨人の氏族ひとつをそっくり追い払う、あるいは動きを奪うルーンの氷魔法で報復します、
非常に稀な状況下、例えばセルトランドが侵略者や暴れる星界の怪物によって脅かされた際は、霜と炎の巨人はその対立を脇に置いて共に自分たちの領界を守ります。
霜の巨人
《竜巻の召喚士》 アート:Andrey Kuzinskiy |
霜の巨人はセルトランドの高山の頂と氷原を占拠し、氷の宮殿を築いて非常に長い年月を孤独に過ごします。難攻不落の山頂の城塞からは、星界の光とその神秘的な秘密がはっきりと見通せます。彼らがセルトランドを離れることは稀であり、略奪に興味は一切ありません。ですが志を同じくするブレタガルドの領界路探しとは特別な関係を持っており、セルトランドを訪れた領界路探しは時に友好的な霜の巨人と情報を交換します。
ヴェラの魔道士と呼ばれる霜の巨人たちは、防御の固いヴェラ高地を主な住処としています。ヴェラの魔道士は予見者でもあり、魔法で冷気と氷を操るだけでなく、各領界の秘密を見抜くために研究を続けています。幻影魔法を用いて自分たちの聖域への招かざる侵入者を騙すこともできますが、彼らのほとんどが、これは劣った魔法であり究極的に必要のない限りは真面目な練習に値するものではないと考えています。
炎の巨人
炎の巨人はセルトランドでも標高の低い地域、溶岩の深い裂け目に分断された雪原に棲んでいます。彼らは家族や氏族単位で生活し、粗末な木の建物をこの領界の巨木で築きます。あるものは低地の地下に走る広範囲な洞窟網や溶岩洞を棲処としています。
炎の巨人は無謀で嫉妬深く、競争心に燃えています――まるで同類が持つ秘密の知識に嫉妬しながらも自分たちでは手に入れられない、大きすぎる子供のように。彼らは霜の巨人よりも小柄ですが、それでも巨人であることに変わりはなく、途方もなく頑丈で力は強く、素早く回復します。無数の英雄譚が、炎の巨人一体を殺すことの難しさを長々とかつ詳細に語っており、この不朽の偉業を成した英雄たちは伝説として称えられています。
ドゥームスカールによってセルトランドと他の領界の接触がもたらされると、炎の巨人は喜んで略奪に赴きます。彼らは一対一の戦いを愛していますが、敵に岩を投げつけるのをためらわず、彼らの魔術師は炎と溶岩を操ります。
炎の巨人の王はカルダーという名です。彼とアールンドは長年のライバル関係にあり、機会があるごとに騙し合いをしてきました。カルダーはアールンドに、霜の巨人へと向ける嫉妬と嫌悪の全てを抱いています――わけのわからない神秘性、傲慢さが、神であることでさらに高められているのです。カルダーが唯一望むのは、アールンドが神聖な地位を放棄するほど屈辱的にその神を騙すことです。
英雄譚は始まったばかり
カルドハイムの各領域について、知らなければいけない内容はこれが全てです。もしそれでも更なる知識が欲しければ(アールンドは大いに称えるでしょう)、この先に公式ウェブサイトから目を離さずにいるように! 君の名がシュタルンハイムに響き渡らんことを!
世界構築 クレジット
カルドハイムに命をもたらしてくれた全員に、今一度特別な感謝を!
コンセプト・アーティスト
- Alix Branwyn
- Chris Rahn
- Daarken
- Jehan Choo
- Jenn Ravenna
- Jonas De Ro
- Nick Southam
- Randy Vargas
- Sam Burley
- Steve Prescott
- Rebecca On
- Taylor Ingvarsson
- Tyler Jacobson
- Viktor Titov
- Zack Stella
世界構築 執筆チーム
- Jenna Helland
- Ethan Fleischer
- Emily Teng
- James Wyatt
- Annie Sardelis
- Hans Ziegler
- Doug Beyer
- Katie Allison
アートディレクター
- Cynthia Sheppard
クリエイティブ・プロデューサー
- Meris Mullaley
首席クリエイティブ
- Jenna Helland
クリエイティブ・ディレクター
- Jess Lanzillo
(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)
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