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『カルドハイム』リミテッド・プレビュー

Melissa DeTora
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2021年1月14日

 

 マジックプレイヤーのみなさんこんにちは! わたしが前に記事を書いてからずいぶんと時間が経っているので、自己紹介をさせてください。わたしはメリッサ・デトラ、マジックのプレイデザイン・チームで働くウィザーズ・オブ・ザ・コーストのゲームデザイナーです。私のチームの仕事は基本的にスタンダードやリミテッドなどの競技的なフォーマットに関するものですが、主な目標はマジックを楽しいものにすることです。ウィザーズで仕事をするのはとても楽しいことであり、生涯をかけた趣味と情熱を仕事にしていることをものすごく感謝し、誇りに思っています。

巧みな軍略》 アート:Donato Giancola

 『カルドハイム』では、わたしはセットデザインのチームに、リードのデイブ・ハンフリー/Dave Humpherysとメンバーのコーリー・ボーウェン/Corey Bowenとマイケル・メジャース/Michael Majorsと一緒に所属していました。今日、わたしはこのセットのカードのプレビューをして、『カルドハイム』のメカニズムやそれらがリミテッドやスタンダードで持つ役割についてお話できてワクワクしています。

 最初にプレビューするカードは予顕メカニズムを使っています。セットにメカニズムを追加するとき、わたしたちは多くのことを考慮します。そのうちの1つが、異なる複雑さのメカニズムやさまざまな層のプレイヤーに向けたメカニズムをセットに入れるようにすることです。たとえば『イコリア:巨獣の棲処』には大きくて派手なティミー向けメカニズムとして変容がありました。このメカニズムは派手さと複雑さに関してかなりの割合を占めていたので、わたしたちは派手さ複雑さを抑えた、もう少し簡単にプレイできるメカニズムを追加したいと考えました。その役割を担うためにサイクリングがこのセットに追加されました。このタイプの複雑さのバランスを、マジックのデザイナーがセットをデザインするときには常に考えています。

 予顕は自分が最強であることを証明したいプレイヤー(そのようなプレイヤーをわたしたちはスパイクと呼びます)向けのメカニズムです。予顕は秘匿情報とブラフを用い、それらはリミテッドのプレイヤーが基本的に楽しんでいるものです。対戦相手のコンバット・トリックに対するプレイングを学ぶことはより高いレベルのゲームへと進むための最大のレッスンの1つです。新しいプレイヤーやカジュアル寄りのプレイヤーが、このような種類のゲームプレイに手を出さずにいることができる大部分のリミテッドのゲームとは違って、予顕された裏向きのカードがあるゲームはとても難しくなります。対戦相手は確実にそこに「何か」を持っているのです。それはあなたの止めの攻撃を邪魔するコンバット・トリックや除去呪文でしょうか? それとも極限のブラフのために裏向きのままにしてあるクリーチャーでしょうか? そこに何かがあるのは確実であり、あなたは手札をどうプレイしていくか決めるときにそれを考慮しなければいけません。

 ここに《杯に毒》があります。

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 このカードは昔のマジックの象徴的な除去呪文を彷彿とさせるかもしれません。このカードは最初《殺害》を思い起こさせるように〈計画された殺害/Premeditated Murder〉という名前で提出されましたが、後でヴァイキング風セット向けによりフレーバーの効いた名前になりました。

 スパイク向けのメカニズムとして、わたしたちはプレイヤーに選択肢を与えることで賢さを感じさせたいと思いました。《杯に毒》では、{1}{B}{B}で素打ちするか、予顕することでターンをまたいでもう少し多めにマナを支払うかの選択肢があります。後者の選択肢にはブラフの要素もあり、特に複数のカードを予顕しているとその要素は大きくなります。わたしたちの目標は、予顕カードの使い方には明確な最善手がないようにすること、そして状況次第で最善手が変化するようにすることでした。1枚のカードに複数の選択肢を持たせるとゲーム毎にさまざまなプレイパターンが生まれます。それはリミテッドのゲームプレイの最も楽しい部分の1つです。

 《杯に毒》が完成するまでの期間の大部分は、占術2のおまけがついていませんでした。以下はこのカードにどのように、そしてどうして占術がついたかのお話です。わたしたちは予顕カードに、ゲーム中のどの時点でもそれを予顕するかどうかについて選択に意味を持たせたいと考えました。わたしたちは予顕したなら1マナ軽減される、手札以外から唱えたら何らかのボーナスを得られる、などの効果で選択肢に意味を持たせました。しかし、《杯に毒》においては前者のものは正確ではありません。これはこのセットに何枚か存在する「予顕するとマナが余計にかかるカード」であり、そして元になった呪文がすでに軽いのでメイン・フェイズにすぐに唱えたい場合は予顕することができず、他のどんな予顕カードよりもはるかに予顕されていませんでした。わたしたちはこれをなんとかしたかったので、予顕モードを強くするために占術2のおまけをつけたのです。

 今日ご紹介する次のカードはメカニズムはありませんが、リミテッドで墓地シナジーを利用するプレイヤーにとって重要なカードです。そのカードとは……《巧みな軍略》です。

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 もしあなたがプレビューを追いかけているなら、このセットに軽めの墓地テーマがあることに気づいた方もいるかもしれません。わたしたちはいくつかの方法で墓地を利用しました。黒緑エルフと青黒氷雪の両方でリアニメイトをするので(《背信の王、ナーフィ》をチェックしてください!)、この戦略を効果的に遂行するために自分の墓地を切削するカードをピックしたくなります。他にも赤黒コントロール・デッキ用フィニッシャーの《戦慄の乗り手》のような、自分の墓地からクリーチャーを追放することでさまざまな効果が得られる名前のついていないメカニズムが全色に存在します。この名前のついていないメカニズムはもともと葬火/Pyreという名前がついていましたが、この能力を使ったカードの枚数を減らし、そして誇示メカニズムをこのセットに追加するにあたって、この名前はボツになりました。

 リミテッドのプレイテストをしたときに、この墓地シナジーが特に序盤のクリーチャーがないデッキや相打ちさせたいクリーチャーがたくさん入っていないデッキで使いづらすぎるという意見をもらいました。基本的にマナ・カーブに沿って唱えたり能力を起動したい何枚かの「葬火」カードは、プレイしていてほとんどの場合満足いくものではありませんでした。墓地シナジーを持つカードがうまく機能し、戦闘でクリーチャーが相打ちになっていなくても使用可能であることは、わたしたちにとって重要でした。その時点で自己切削するカードは実質ないようなもので、何枚か存在したものは常に信頼できるというものではありませんでした。このセットのリミテッド・フォーマットには追放するためのクリーチャーをすぐに供給してくれる2マナの自己切削呪文が本当に必要でした。私はこの目的を達成しつつスタンダードでプレイしても楽しいので、このセットに《巧みな軍略》を追加することを提案しました。試してみたところかなりうまくいき、あとはご存知のとおりです!

 本日最後のカードはわたしの『カルドハイム』お気に入りのメカニズムの誇示を持つカードです。わたしの好きなマジックのフォーマットはドラフトで、呪文を順番に並べてマナの最も効果的な使い方を考え出すのが大好きです。そして誇示はそれを行うための手腕が真に問われるメカニズムです。誇示はわたしたちがリミテッドのプレイをよりスムーズにするため、低レアリティ帯で頻繁に収録しようとする「マナのはけ口」能力です。マナ・フラッドを起こしたマジックのゲームが楽しくなることは絶対になく、リミテッドでそれを緩和する方法は、マナの使いみちのあるパーマネントにをたくさん提供することです。誇示メカニズムはそのようなマナのはけ口の1つです。

 わたしが誇示で気に入っているところは、誇示を持ったクリーチャー自身が攻撃したターンの間ならどのタイミングでも起動できるところです。これはつまりその能力を使いたい場合、決断する前に相手がどう動くか見ることができるということです。誇示クリーチャーはしばしば対戦相手が可能な限り早く盤面から排除したいようなカード・アドバンテージをもたらし、そして対戦相手は誇示クリーチャーは複数ターンに渡って誇示されないように、仕方なく相打ちを取ることがよくあります。対戦相手が何もしないことを選んだ場合、戦闘後に誇示するか他の呪文を唱えるかを判断することができます。リミテッドでこのような選択肢があることは、リミテッドを超楽しくする事柄の1つです。

 こちらが本日最後のプレビュー・カード、《堕ちたる者の案内者》です。

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 このカードには目標が複数あります。1つ目はスタンダードで白アグロの優れた1マナ域になることです。《先兵の精鋭》は普通に十分強力であることが多いですが、競技レベルになるには通常もうちょっとおまけの能力が必要です。《尊い騎士》のようなカードはちょうど適正な強さのライン上にあるように感じられるので、わたしたちはこのカードを白のアグロ・デッキの素晴らしい選択肢にするためにそれよりももう少し強くしたいと思いました。またこのカードはスタンダードの戦士デッキで《兵員の結集》と組み合わせても素晴らしいです。

 《堕ちたる者の案内者》は『カルドハイム』のリミテッド・フォーマットでも重要な役割を演じます。『カルドハイム』リミテッドでの赤白のアーキタイプはアグレッシブな戦士デッキで、《堕ちたる者の案内者》は1枚のカードで2体以上の戦士をもたらします。どうにかして2回戦闘をしてマナがあればカード2枚以上の価値を得ることができ、それは1マナ域としては強力なことです。

 リミテッドでの赤白の2つ目のテーマは装備品です。北欧テーマのセットである『カルドハイム』は戦士の使う剣や斧には事欠きません。装備品、特にリミテッド・レベルでコモンを使うとマナ効率が悪いことがよくあります。しかし装備品と、装備品を他のクリーチャーに送り出す1マナクリーチャーと組み合わせると、そのマナ効率はだいたい改善されます。

堕ちたる者の案内者》 アート:Anastasia Ovchinnikova

 皆さん最後まで読んでくださってどうもありがとうございました! わたしはみなさんが残りの『カルドハイム』プレビュー・シーズンを楽しんで、そしてMTGアリーナや現実世界の安全な環境でこのセットのドラフトをして素晴らしい時間を過ごせることを願っています。わたしはMTGアリーナでリリースされ次第ドラフトをするでしょうし、それを楽しみにしています。どうかわたしが『カルドハイム』リミテッド・フォーマットに取り組んだのと同じぐらい、あなたが『カルドハイム』リミテッドを楽しんでくれますように!

――メリッサ・デトラ (Twitter: @MelissaDeTora)

(Tr. Takuya Masuyama, TSV YONEMURA "Pao" Kaoru)

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