READING
翻訳記事その他
勝つために何を生け贄に捧げる?
2020年7月28日
マジックには無数の戦略が存在する。あるデッキはブロッカーを突破するために大型クリーチャーを頼りにする。またあるデッキは相手が動き始める前に倒そうと戦場を埋め尽くす。さらにあるデッキはどっしりと構え、そのゲームの決着をつける前に相手のやろうとすることを全ていなしていく。
しかし、相手と競うことや相手を押さえつけることを目指さず、相手のしようとすることを妨害して後から決めにかかることもしない勝利への道筋が存在する。それが問いかける質問は実に明快だ――勝つために何を生け贄に捧げる?
《血胞子のトリナクス》 アート: Ralph Horsley |
そいつを全部投げ捨てろ
「生け贄」デッキは独特な戦略を持っている。通常はカードについている生け贄効果を通してリソースを勝利につながる別のリソースに変換していく。このデッキは長年に渡ってマジックのイベントにおいて現れたり消えたりしている。最初期の競技的なコンボ・デッキの1つである「プロスブルーム」は、 マジックの歴史上最も有名なデッキの1つだ。
7 《森》 6 《沼》 5 《島》 3 《湿原の大河》 4 《知られざる楽園》 -土地(25)- -クリーチャー(0)- |
4 《吸血の教示者》 1 《エメラルドの魔除け》 4 《衝動》 4 《資源の浪費》 2 《記憶の欠落》 4 《冥府の契約》 1 《三つの願い》 4 《自然の均衡》 1 《エルフの隠し場所》 4 《死体の花》 4 《繁栄》 1 《魔力消沈》 1 《生命吸収》 -呪文(35)- |
2 《根の壁》 4 《エレファント・グラス》 3 《エメラルドの魔除け》 1 《記憶の欠落》 3 《孤独の都》 1 《エルフの隠し場所》 1 《魔力消沈》 -サイドボード(15)- |
これは初期のスタンダードでブレイクしたデッキの1つであり、《死体の花》で手札を追放し《資源の浪費》で土地を生け贄に捧げ、(土地やマナを増やすための)《繁栄》か(ゲームを実際に決めるための)《生命吸収》を唱えることを中心に作られている。しかし現在では多くの人が手札からカードを追放することを生け贄の一種だとは考えていない。
5 《森》 1 《沼》 1 《平地》 1 《島》 4 《草むした墓》 1 《寺院の庭》 1 《湿った墓》 4 《吹きさらしの荒野》 2 《汚染された三角州》 2 《ヤヴィマヤの沿岸》 -土地(22)- 4 《極楽鳥》 4 《桜族の長老》 1 《萎縮した卑劣漢》 3 《永遠の証人》 1 《木彫りの女人像》 1 《ロクソドンの教主》 1 《貪欲なるベイロス》 1 《起源》 -クリーチャー(16)- |
4 《陰謀団式療法》 1 《強迫》 1 《師範の占い独楽》 3 《生ける願い》 3 《燻し》 4 《化膿》 2 《破滅的な行為》 3 《けちな贈り物》 1 《消えないこだま》 -呪文(22)- |
1 《ラノワールの荒原》 2 《萎縮した卑劣漢》 1 《戦争の報い、禍汰奇》 1 《木彫りの女人像》 1 《永遠の証人》 1 《ヴィリジアンのシャーマン》 1 《ディミーア家の護衛》 1 《ロクソドンの教主》 1 《曇り鏡のメロク》 2 《強迫》 2 《帰化》 1 《波停機》 -サイドボード(15)- |
マジック・プロリーグのプレイヤーであるハビエル・ドミンゲス/Javier Dominguezは世界選手権で白黒緑の「ザ・ロック」と呼ばれるデッキで大活躍し、そして現在の生け贄戦略の先駆者となった。「プロスブルーム」とは違って、このデッキは盤面にあるリソースをさまざまなものへと変える。
- 《貪欲なるベイロス》は自身をライフに変える。
- 《陰謀団式療法》はクリーチャーをすでに分かっているカードを捨てさせる呪文に変える。
- 《破滅的な行為》はそれ自身を生け贄に捧げて戦場を一掃する。
- 《桜族の長老》は自身を生け贄に捧げて基本土地にする。
他の「ザ・ロック」デッキと同じく、このデッキは段階的にアドバンテージを積み上げ、最終的な恩恵を得るために積極的にリソースを生け贄に捧げていく。しかしこのデッキはジワジワ削っていくミッドレンジなので完全な生け贄デッキとはまだ言えない。
3 《平地》 4 《神無き祭殿》 4 《孤立した礼拝堂》 4 《聖なる鋳造所》 1 《断崖の避難所》 4 《血の墓所》 3 《魂の洞窟》 1 《大天使の霊堂》 -土地(24)- 4 《教区の勇者》 4 《宿命の旅人》 4 《カルテルの貴種》 3 《悪名の騎士》 2 《スカースダグの高僧》 4 《ボロスの反攻者》 2 《銀刃の聖騎士》 4 《ファルケンラスの貴種》 1 《修復の天使》 2 《士気溢れる徴集兵》 -クリーチャー(30)- |
4 《オルゾフの魔除け》 2 《未練ある魂》 -呪文(6)- |
1 《スカースダグの高僧》 1 《弱者の師》 2 《幽霊議員オブゼダート》 3 《悲劇的な過ち》 2 《安らかなる眠り》 2 《未練ある魂》 2 《冒涜の行動》 2 《イニストラードの君主、ソリン》 -サイドボード(15)- |
トム・マーテル/Tom Martellは、生け贄に捧げることにオールインしたデッキを使い、その後プレイヤーズツアー・ブリュッセルの優勝者となるヨエル・ラーション/Joel Larssonを打ち破ってプロツアー『ギルド門侵犯』を制した。
- このデッキの名前の元となった《ファルケンラスの貴種》と《カルテルの貴種》は、どちらも利益を得るためにクリーチャーを生け贄に捧げようとする。
- 《宿命の旅人》は生け贄に捧げても気にならないし、《士気溢れる徴集兵》は対戦相手から生け贄を見つけてくることができる。
- 《未練ある魂》は《スカースダグの高僧》などあらゆるもの燃料となり、対戦相手を空から攻撃する手段として使われる大量のスピリットを生成する。
安定して利益を増やすために、カードや効果間のシナジーを使って生け贄を捧げるのが現代の生け贄デッキであり、モダンで禁止カードを出すほどに支配的な存在になった。
3 《森》 2 《平地》 1 《沼》 1 《寺院の庭》 2 《草むした墓》 1 《神無き祭殿》 4 《新緑の地下墓地》 3 《湿地の干潟》 3 《霧深い雨林》 3 《ガヴォニーの居住区》 -土地(23)- 4 《極楽鳥》 3 《貴族の教主》 1 《臓物の予見者》 2 《復活の声》 2 《根の壁》 1 《カルテルの貴種》 1 《シルヴォクののけ者、メリーラ》 1 《クァーサルの群れ魔道士》 1 《漁る軟泥》 1 《呪文滑り》 4 《台所の嫌がらせ屋》 1 《永遠の証人》 1 《オルゾフの司教》 1 《スパイクの飼育係》 1 《静寂の守り手、リンヴァーラ》 1 《ファイレクシアの変形者》 1 《テューンの大天使》 1 《目覚ましヒバリ》 -クリーチャー(28)- |
2 《突然の衰微》 4 《出産の殻》 3 《召喚の調べ》 -呪文(9)- |
1 《ブレンタンの炉の世話人》 1 《エーテル宣誓会の法学者》 1 《戦争の報い、禍汰奇》 1 《エイヴンの思考検閲者》 1 《調和スリヴァー》 1 《罪の収集者》 1 《強情なベイロス》 1 《最後のトロール、スラーン》 1 《叫び大口》 1 《鷺群れのシガルダ》 4 《思考囲い》 1 《流刑への道》 -サイドボード(15)- |
全盛期の「メリーラ・ポッド」は《出産の殻》が禁止される以前のモダンで最も支配的なデッキの1つであり、結果を残したイベントを全部まとめてリストにするとそれだけで記事が1本できてしまうだろう。
しかし生け贄を捧げて全体的な利益を増やすという点からすれば、マジックの歴史上これよりうまくやったデッキは存在しない。
- 《シルヴォクののけ者、メリーラ》と任意のサクり台――《臓物の予見者》と《カルテルの貴種》の仕事だ――と頑強持ちのクリーチャーで好きなだけループを繰り返せる。《台所の嫌がらせ屋》と《残忍なレッドキャップ》はどちらもものすごい数字を叩き出す。
- これらのサクり台は《目覚ましヒバリ》をアドバンテージを生み出すエンジンに変え、特に《ファイレクシアの変形者》との組み合わせが強力。《ファイレクシアの変形者》を生け贄に捧げるとパワー0のクリーチャーが墓地に置かれるので、これを戻してくるために《目覚ましヒバリ》の能力を誘発させる。《ファイレクシアの変形者》は《残忍なレッドキャップ》などをコピーして戻ってこられるが、横に《目覚ましヒバリ》がいるということはそのループを何度も繰り返せるということになる。ややこしいが、相手にとってはそれと同じぐらい致命的になる。
- 「メリーラ・ポッド」のもう1つの印象的なコンボが《テューンの大天使》と《スパイクの飼育係》を使ったものだ。《スパイクの飼育係》から+1/+1カウンターを取り除くことによりライフを獲得し、それにより《テューンの大天使》の能力が誘発してカウンターが1個戻ってくる、このコンボの良いところはこれらのクリーチャーが《出産の殻》(と《召喚の調べ》)を連鎖させるためのパーツでもあるため対戦相手が対策しづらいところだ。このデッキには同じクリーチャーを使わずに勝ちを決められる2~3枚コンボが複数搭載されている。
- 《根の壁》は複数のターンに渡ってマナを出し、コンボ始動のために生け贄に捧げて《台所の嫌がらせ屋》や《スパイクの飼育係》を持ってくるのに最適の、このデッキにとって地味ながらも鍵となるカードの1枚だ。必要とあらばブロックもこなせる。
「アリストクラッツ」と《出産の殻》デッキの遺産は現在のスタンダードのサクリファイス・デッキに受け継がれていて、マジック・プロリーグのプレイヤーであるピオトル・グロゴウスキ/Piotr Głogowskiが2019ミシックチャンピオンシップⅦ(MTGアリーナ)で優勝したデッキがその始まりになっている。
5 《森》 2 《沼》 1 《山》 4 《草むした墓》 4 《踏み鳴らされる地》 4 《血の墓所》 2 《ロークスワイン城》 3 《寓話の小道》 -土地(25)- 4 《大釜の使い魔》 4 《金のガチョウ》 4 《波乱の悪魔》 2 《残忍な騎士》 2 《打ち壊すブロントドン》 2 《フェイに呪われた王、コルヴォルド》 2 《虐殺少女》 3 《豆の木の巨人》 -クリーチャー(23)- |
4 《魔女のかまど》 4 《パンくずの道標》 4 《戦争の犠牲》 -呪文(12)- |
3 《恋煩いの野獣》 1 《残忍な騎士》 1 《打ち壊すブロントドン》 2 《不死の騎士》 2 《意地悪な狼》 1 《フェイに呪われた王、コルヴォルド》 1 《虐殺少女》 4 《強迫》 -サイドボード(15)- |
『エルドレインの王権』が加わって以降の数か月間にスタンダードをプレイしたことがある人は、サクリファイス・デッキがどんな動きをするか見たことがあるだろう。
- 《魔女のかまど》と《大釜の使い魔》は素敵だがゆっくりとしたダメージのループだ。マナがかからないので、ほぼ常時マナを使って他のことができる。
- 《波乱の悪魔》は何かが生け贄に捧げられるのを見るのが大好きで、《金のガチョウ》は生け贄になるものを生み出すエンジンだ。
- プレイヤーに生け贄にすることを求めるマナ・カーブの頂点である《フェイに呪われた王、コルヴォルド》は、何かを生け贄に捧げたときは必ず勝利の火を激しくしてくれる。
プレイヤーズツアー・オンライン2では、ライバルズ・リーグのメンバーであるイーライ・ラヴマン/Eli Lovemanが《悪魔の職工》の《出産の殻》型効果を追加したアップデート版のサクリファイス・デッキでトップ8入賞を果たした。
7 《沼》 2 《山》 4 《血の墓所》 2 《悪意の神殿》 2 《踏み鳴らされる地》 2 《ロークスワイン城》 4 《寓話の小道》 -土地(23)- 4 《大釜の使い魔》 4 《どぶ骨》 4 《忘れられた神々の僧侶》 3 《悪魔の職工》 1 《戦慄衆の解体者》 1 《ラゾテプの肉裂き》 4 《波乱の悪魔》 4 《悲哀の徘徊者》 3 《真夜中の死神》 -クリーチャー(28)- |
4 《初子さらい》 4 《魔女のかまど》 1 《死住まいの呼び声》 -呪文(9)- |
2 《エンバレスの盾割り》 1 《荒廃甲虫》 4 《朽ちゆくレギサウルス》 3 《苦悶の悔恨》 2 《無情な行動》 1 《害悪な掌握》 1 《焦熱の竜火》 1 《反逆の行動》 -サイドボード(15)- |
生け贄を2倍に
では、『ダブルマスターズ』ではこれはどういう意味だろう?
パックを開けると2枚のレアと2枚のフォイルがあり、それから2枚をピックする「ファースト・ピック」はドラフトがすごいことになるが、このセットにとっては派手で目立つという以上の意味がある。ドラフトやシールドのデッキは強力な動きをするものが詰め込まれ、そしてリミテッドでプレイできる戦略の1つが生け贄戦略だ。
そこでこれらのカードの出番となる。
『ダブルマスターズ』リミテッドでサクリファイス・デッキをプレイするということは、この3枚を繰り返し機能させるようにするということだ。どのようにすればいいかはマジックの歴史からすでに分かっている。
- 《コジレックの捕食者》は《未練ある魂》のように生け贄用のクリーチャーをたくさん出してくれる。エルドラージ・落とし子・トークンは追い詰められている状況で何かでかいのを出すのを加速させることだってできる。
- 《血茨》は《波乱の悪魔》や《フェイに呪われた王、コルヴォルド》のように何かを生け贄に捧げることを常に参照し急激に大きくなる。
- 《血胞子のトリナクス》はこれまた《フェイに呪われた王、コルヴォルド》のようにサクり台と生け贄を捧げることで恩恵を得るカードのどちらでもある。デッキが必要とする動きを確実にこなすためには、このような種類のカードを最大限に活かしたほうが良いだろう。
もちろん、これでは足りないだろう。1つ2つの繰り返し使えるサクリ台はすべてをまとめるのに役立つのだが、今日のところは『ダブルマスターズ』のすべてが公開されることはない。8月7日に地元の店舗で『ダブルマスターズ』が発売されたときに君がプレイするすべてのカードを最大限にする方法、さらにそれをダブルにする準備のために目を離さないでいてくれ。
(Tr. Takuya MASUYAMA / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru)
RANKING ランキング
-
戦略記事
とことん!スタンダー道!ゴルガリ・ランプと『ファウンデーションズ』の注目カード(スタンダード)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
-
戦略記事
世話人型白単コントロール、『ファウンデーションズ』の注目カードは?(スタンダード)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
-
戦略記事
今週のCool Deck:イゼット厄介者で機織りの季節を楽しもう(スタンダード)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
-
広報室
年末はカジュアルにマジックを楽しもう!11月15日より特別なフレンドリーイベント&キャンペーン3種を開催|こちらマジック広報室!!
-
読み物
第50回:『ファウンデーションズ』統率者ピックアップ|クロタカの統率者図書館
NEWEST 最新の読み物
-
2024.11.21戦略記事
とことん!スタンダー道!難解パズルなカワウソ・コンボ(スタンダード)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
-
2024.11.20戦略記事
緑単アグロ、原初の王者の帰還!(スタンダード)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
-
2024.11.19戦略記事
ボロス・バーン:基本セットと火力の関係(スタンダード)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
-
2024.11.18戦略記事
世話人型白単コントロール、『ファウンデーションズ』の注目カードは?(スタンダード)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
-
2024.11.15戦略記事
今週のCool Deck:イゼット厄介者で機織りの季節を楽しもう(スタンダード)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
-
2024.11.15お知らせ
MTGアリーナニュース(2024年11月11日)|お知らせ
CATEGORY 読み物カテゴリー
戦略記事
コラム
読み物
BACK NUMBER 連載終了
- Beyond the Basics -上級者への道-
- Latest Developments -デベロップ最先端-
- ReConstructed -デッキ再構築-
- Daily Deck -今日のデッキ-
- Savor the Flavor
- 射場本正巳の「ブロールのススメ」
- 津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ
- 浅原晃の「プレミアイベント三大チェックポイント!」
- ガフ提督の「ためになる」今日の1枚
- 射場本正巳の「統率者(2017年版)のススメ」
- かねこの!プロツアー食べ歩き!
- ロン・フォスターの統率者日記
- 射場本正巳の「統率者(2016年版)のススメ」
- マアヤのマジックほのぼの日記
- 金子と塚本の「勝てる!マジック」
- 射場本正巳の「統率者(2015年版)のススメ」
- 週刊連載インタビュー「あなたにとってマジックとは?」
- なかしゅー世界一周
- 中村修平の「デイリー・デッキ」
- 射場本正巳の「統率者(2014年版)のススメ」
- 中村修平の「ドラフトの定石!」
- 浅原晃の「プロツアー観戦ガイド」
- 鍛冶友浩の「プロツアー観戦ガイド」
- ウィザーズプレイネットワーク通信
- Formal Magic Quiz
- 週刊デッキ構築劇場
- 木曜マジック・バラエティ
- 鍛冶友浩の「デジタル・マジック通信」
- 鍛冶友浩の「今週のリプレイ!」
- 渡辺雄也の「リミテッドのススメ」
- 「明日から使える!」渡辺リミテッド・コンボ術
- 高橋優太の「このフォーマットを極めろ!」
- 高橋優太の「このデッキを使え!」
- 黒田正城の「エターナルへの招待」
- 三田村リミテッド研究室
- 新セットめった切り!
- シングルカードストラテジー
- プレインズウォーカーレビュー
- メカニズムレビュー
- その他記事