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翻訳記事その他
プレインズウォーカーのためのイコリア案内
2020年4月2日
アート:Viktor Titov |
序
私はビビアン・リード。この案内を読んでいるということは、かつての私みたいにあなたもイコリアの神秘を探求したいということね。これは、私がこの次元を旅する中で記録してきた教訓と観察。きっと余計なことに惑わされずにこの美しい世界を探検して、満喫できるわよ。もしもイコリアに到着済みなら、この先を読む前に立ち去るか安全な場所を見つけることをおすすめするわ。ここはぼんやり突っ立っている相手に対して親切な場所じゃないから。
怪物
イコリアは怪物の世界。私は旅の間に途方もない生物をたくさん見てきたけれど、この点でイコリアに敵う次元はどこにもないって断言できるわ。ここの怪物は、都市も踏み潰せる恐ろしい巨獣から人の肩に乗るくらいの利口な小動物まで、姿形も背格好もありとあらゆるものがいるのよ。のし歩くゴリアクの群れの遥か上を空鮫が飛んで、翼を生やした狐が水晶の森をかすめて、気味の悪いナイトメアが影から現れて油断した者を狩る。至る所に怪物がいて、そのどれもさまざまな意味ですごいのよ!
アート:Jesper Ejsing |
この前、この大物がぼんやりとさまよっているのを見たのよ。最初は穏やかそうだったけど、遠くで叫び声がひとつ上がったかと思うと、ものすごい勢いでそっちへ向かっていったの。あれほど大きな生物があんなに素早く動くなんて!
この案内からひとつだけ教訓を得るなら、これね。イコリアの怪物には敬意を払いなさい。一見しただけで彼らを理解できるとあなたは思うかもしれないけれど、一体一体が、あなたがわかったと思うよりも遥かに大きな力と美しさを持っている。その上、すぐ目の前で全然違う姿に変身することもよくあるのよ! 足取りに気を付けて、遠くから観察して、予想外の出来事に備えていれば、そういった驚異の生物もあなたに秘密を明かしてくれるでしょう。けれど彼らを侮ったなら、安全だと思ったとしても、もしくは自分の方が勝っていると思ったとしても、彼らは喜んであなたの間違いを証明するでしょうね。
人間
イコリアで生き残ってきた種族のうち、人間は唯一「文明的」と言えて、狂暴な食物連鎖の不安定な中間点を占めているわね。私は他人とはあまり関わらないけれど、イコリアで生き続ける者は称賛に値するわ。存在し続けるのは簡単じゃないこの次元で、人間はさまざまな戦略を柔軟に使いこなして、何世代にもわたって絶滅を免れているのだから。
イコリアの人間は、肉体的には怪物に敵わないことを熟知しているから、ほとんどは守りを固めた聖域の中に住むことを選んでいるわね。そういう共同体は荒野の小さな入植地から城壁に囲まれた大きな都市まであって、どれもさまざまな技術を組み合わせて怪物の攻撃を防いでいるわ。私が立ち寄った大体の聖域では、物理的な防御(高い壁、濠、スパイク)と魔法的な防御(監視の魔法印、警告の水晶)の両方を備えていた。人間の自然主義者や賢者、狩人は近くの怪物の振る舞いを学んで身を護るか、少なくとも前に立たないようにしているわよ。
人間には才覚と決断力があるけれど、イコリアは飼いならせる世界じゃない。怪物からの攻撃に対する「解決策」なんてない、そう人間は困難な中を学んできた。何せ、自分を攻撃している怪物がいついかなる時に変容するかわからないのだから。つまるところ、イコリアでは怪物に敵うものは怪物だけなのよ。
眷者
イコリアの人間のほとんどは世界のあり方に抵抗しているけれど、それを受け入れている者もいるわ。眷者は怪物と魔法的な繋がりを持つ、特別かつわずかな人間のこと。その絆はエルーダと呼ばれていて、信頼や友情のような関係を遥かに超えたもの。その人間と怪物を一つに結び付ける霊的な繋がり、神秘的で消えることのない結束ね。私は旅の間にたくさんの眷者に出会って、彼らからたくさんのことを学んできたわ。怪物との繋がりは、都市に住む同類を遥かに超えた知恵と洞察を彼らにもたらすのよ。
眷者が持つエルーダはそれぞれが異なっているわ。ある眷者は一目見ただけで怪物と繋がる(これは大抵、すごい衝撃ね!)。他の眷者は何年も荒野で、将来の相棒と過ごしてやがて絆を結ぶ。眷者は自分たちの怪物をペットや持ち物とは思っていない。それは「彼らの」怪物であると同時に、「彼らの」親友や、「彼らの」信頼できる生涯の相棒なのよ。
ウィノータという名前の眷者が私に語ってくれたことがあるの。怪物を倒すために片腕を失って、それと絆を結ぶに至るまでの話を! 今、その人と相棒はイコリアを旅しながら、他の眷者と怪物がともに戦うための手助けをしているわ。
アート:Magali Villeneuve |
怪物は人の言葉を話せないけれど、眷者と怪物は言葉以外のさまざまな方法で意思疎通をしている。身振りと抑揚に加えて、エルーダが互いの間に感情的な繋がりをくれるのね。眷者によれば、この繋がりは潜在意識のレベルで働いて、彼らもその相棒も、本当の感情を相手に隠すことはできないのだとか。私はずっと動物たちとともに生きてきたけれど、それでも眷者とその怪物の間にある天性の親密さには嫉妬するわ。
眷者はよく、相棒の怪物の見た目に似せた衣服や道具を身につけているわ。精巧な枝角を模した手作りの頭飾りをかぶった眷者に出会ったことがあるし、怪物の毛皮と同じ模様に髪を染めている眷者も。小動物と繋がる眷者は手掛かりのたくさんついた服を着ていて、相棒が簡単に身体を登れるようにしているわ。逆にずっと大きな怪物の眷者は鎧に突っ張りや取っ手をつけていて、簡単に掴んで運んでもらえるようにしていたわね。
大体の眷者は一体の怪物を相棒にしているけれど。キナンみたいにたくさんの怪物と繋がる人もいる。どうやって、って尋ねようとしたのだけど、彼はただ私に向けてうなると獣の背に乗って去ってしまったわ。思うに、怪物と一緒に育ったなら、行儀なんて要らないものね!
都市生活の人間と同じように眷者にも適応力や創造力はあるけれど、彼らは友好的とはとても言えないわ。聖域の社会は怪物のことを危険な脅威と見ていて、関わりを厳しく禁じている。新しく眷者になったらその絆を諦めるか、故郷と人間の家族から追放されるかを選ぶことになる。私がイコリアの荒野で出会った眷者は、自分たちの選択を後悔していないようだった。けれどひとつの人生を諦めてもうひとつの人生の呼び声に応えるのは、間違いなく難しいことだと思うのよ。
トライオーム
アート:Jonas De Ro |
イコリアには地理的に重要な地域が五つあって、「トライオーム」と呼ばれているわ。各トライオームにはそれぞれ独自の地形、支配的な怪物相があって、恐るべき頂点捕食者がいる。ナーセットっていうプレインズウォーカーが語ってくれたのだけど、トライオームにはこの次元の大地に特有の魔力の流れがあるのだとか。それぞれの地域は三つの異なるマナが入り混じってできている。地元の人たちがそれをどこまで理解しているかは私もわからないわ。彼らは普段、もっと大きな心配事に気をとられているから。
サヴァイ
アート:Titus Lunter |
サヴァイは長い海岸線に沿って広がる、乾燥してひび割れた平らな草原よ。それと地下には枝分かれした洞窟網が広がっている。大猫の群れがステップで狩りをして、草に覆われた地表下のトンネルや溝は、人間や獲物となる他の種族の隠れ場所になっているわよ。
概要
地勢 ― 山地の頂上に広がる草原、沼がちの地下トンネル
支配的な怪物相 ― 猫
- サヴァイの気候は乾燥していて、自然の年間降水量はたったの数インチよ。人間は水を慎重に使うか、魔法で作り出している。一方サヴァイの野生生物の多くは、気候そのものを運んでくる巨大な怪物の動きに頼っているわね。
- ユヌンドーの洞窟網、その峡谷とトンネルはサヴァイの地下に何マイルも広がっているわ。その暗闇に足を踏み入れる際には注意すること。底なしと噂されるグロンドーの谷のように、巨大な縦穴で突然途切れているトンネルもあるのよ。
- 「恐怖の道」の二つ名を持つジャル・コルチャはドラニスから西に延びて、アテヤルの岸をたどって、ラウグリンの山脈を通ってラバブリンクの街まで続いているの。サヴァイ内のその道を進む時は、トライオームのたくさんの溝にかかる危ない石橋を渡らないといけないわね。
猫
怪物相のうち、猫はサヴァイの平原と台地を群れで放浪する獰猛な肉食獣で、野牛やアンテロープや象といった草食獣を狩っているわ。他の次元でよく見るような猫と同じように、イコリアの猫も獲物を狩るのを楽しんでいる。群れの中でも大型のものは喜んで人間を狩るわね。猫は力と素早さと狡猾さで狩人の立場を逆転させて、旅の商人を追跡して、聖域の都市の防御をかいくぐるのよ。絆を結んだなら、猫は信愛の情の証として食物をよく用いるわ。
アート:Sidharth Charturvedi |
猫の怪物は幾つかの、ずっと「よくいる」猫と同じ特徴で判別できるわよ。似たような耳、尾、足があるし、しばしばライオンに似たたてがみ、虎やチーターやジャガーに近い毛皮模様もあるわ。多くのイコリア猫は翼も生やしている。私が驚いたのは、地元の人たちはこれを特別な変容ではなく群れの自然な特徴としてとらえていること。けどどちらでも私からの助言は同じ。常に頭上には気を付けていなさい。
全てを狩るもの、スナップダックス
アート:Viktor Titov |
サヴァイには頂点の怪物スナップダックスの巣穴があるわ。獰猛な狩人で、獲物から戦利品を集めている。戦利品集めは人類最大の残酷行為だから、その人間から戦利品を集めるというのは怪物にとっての歪んだ正義ね(イコリア人はそれをユーモアとは認めないだろうけど)。スナップダックスは比類なき捕食者で、猫の器用さとナイトメアの身かわしに恐竜の攻撃性を併せ持っている。これ以上に効率的な殺人機械を想像するのは難しいでしょうね。
アート:Seb McKinnon |
スナップダックスがサヴァイ中の人間の居住地を全滅させたという昔話を、リエールが語ってくれた。彼女いわく、その攻撃の生存者たちは力を合わせて新しい聖域を築き、それにドラニスと名付けたのだとか。
無敵の街、ドラニス
ドラニスはこの次元最大の人間の聖域で、何万人もの住人がいる賑やかな街よ。サヴァイの低地帯、肥沃なイガーリ平地にあって、巨大な水晶の柱で支えられていて、同心円状の高い石壁に守られている。ドラニスの軍隊はよく訓練されていて、怪物の攻撃を防ぐことについては追随を許さないわ。地元の人たちによれば、その壁は建造された時から崩れたことはないのだとか。ドラニスは人間の数が危険なほどに減少した時に興ったと聞いたわ。だから彼らの文化と指導者の思想は、怪物への許しがたい恐怖に根差しているのかもしれない。
ドラニスは、世界最大の水晶塊アガリスを取り囲むように築かれている。それは住人たちの希望と防護の象徴でもあるのよ。アガリスは街の中軸を成していて、怪物に対する魔法的防御の基礎となっているわね。
ドラニスの生存戦略は力ね。彼らは怪物の脅威と真っ向から対峙して、壁の内から撃退する。ドラニス防衛軍は、その統一された制服とぴかぴかのボタンから「銅纏い」とも呼ばれるのだけど、この世界で最も豊かで強い軍隊よ。緊密な軍隊組織で、都市の防衛隊と防衛魔道士と司法官で形成されているわ。
兵士たちは長槍、バリスタ、投網といった武器を用いて怪物を押し留めているわ。魔道士は攻撃魔法や防御エンチャントで怪物に直接対峙するし、怪物の接近を知らせる水晶の警告装置の維持も担っている。乱暴なやり方だと私は思ったけれど、彼らの粘り強さと結束は素晴らしいものね。銅纏いの兵士たちは力を合わせて戦っているわ、まるで彼らが街から追い出した眷者と怪物のように。
アート:Zoltan Boros |
ケトリア
アート:Sam Burley |
ケトリアは水晶の列石に満ち溢れる、川に育まれた温帯林よ。木々が生い茂る崖から滝が流れ落ちて、内陸の湖や河川系へ続いているわ。ケトリア以上に水晶が継ぎ目なく並ぶ風景はないわね。自然主義者や賢者はよくこの地へ旅をして、目を見張るようなありのままの自然の驚異から霊感を引き出すのよ。
概要
地勢 ― 水晶の森を縫うように流れ、山腹から下る河川と滝
支配的な怪物相 ― エレメンタル
- タル川が注ぎ込むアテヤル湖はこの次元最大の湖よ。知らずに見たなら海と思うくらい! さらにとても深くて、膨大な数の水棲生物を支えている。そこで私はリエールに出会ったわ、歳を経てなおその知恵を増すばかりの賢者よ。彼女が教えてくれたたくさんの伝説や秘密を、今こうしてあなたへと伝えるわ。
- クオーツウッドは水晶の列石が特に密集した特別な森。その森は昼も夜も、色とりどりに輝いている。自然主義者の中には、ここで生まれたエレメンタルの怪物は近隣のそれよりも不安定だという者もいるわね。
- 巨大な草食獣たちがタル川に沿う木立を二十マイルも踏み倒し、広大な範囲に渡って幾つもの堰を作り上げたわ。それらが作った池には魚が豊富で、怪物の餌場になっている。人間にとっても同じく豊かな食料源よ。
エレメンタル
ケトリアの水晶の森では、大気も水も土も炎も、あらゆる植物や動物のように生きている。エレメンタルの怪物相はそういった自然の力の顕現よ。彼らは動物の馴染みある姿をとるけれど、鮮やかな色をしていたり希薄な輪郭だったり、もしくは身体の部位が重力を無視して割れたり離れていたりするの。
水晶はケトリアの風景の一部であるだけじゃない。エレメンタルと融和していて、その周囲に浮遊したり、表皮で輝いていたりしているわ。
アート:Lie Setiawan |
エレメンタルは生来よそよそしいけれど、ひとたび信頼を勝ち取ることができたならとても友好的になるわよ。けれど、彼らの根本的な性質を忘れないこと。そうでなければすぐに小さな自然災害にとらわれてしまうことになる。大地のエレメンタル一体はひとつの地滑りと同じくらいに危険なのだから、あなたの安全についても同等に注意を払って。
願いを叶えるもの、イルーナ
アート:Chris Rahn |
ケトリアの水晶から水晶へと浮遊するのは頂点の怪物イルーナ。夢を織り上げ、願いを叶える力を持つ霊的な存在よ。イルーナについて確かなことはほとんど知られていなくて、知られているのは、どうも目覚めている世界の論理を否定しているらしい、というくらい。イルーナは文字通りに夢を叶えると言われていて、けれどその恩寵を完全にそれ自身の気まぐれで与えるのだとか。私はイルーナの叫びを聞いたことがあるけれど、忘れられないほど美しいその音は世界そのものと調和しているように思えたわ。
アート:Seb McKinnon |
リエールがイルーナについての昔話を語ってくれたわ。イルーナは夢から生物を作り出す、けれど話のたびにその生物は違うものなのよ! ついにリエールの心が衰えはじめたのか、それともこれもまたイルーナの大いなる神秘の一つなのか。
水晶、変容
自然発生した水晶はイコリアのどこでも見られる光景だけど、ケトリアでは特に豊富よ。都市の人々にも眷者にも、水晶の並びについてはあまり理解されていない。けれど、怪物の成長と進化の原動力となることは知られているわ。怪物は死ぬまでずっと成長し、歪み、新しい形態に変容する。ある怪物は単純に巨大化するかもっと強くなる。他にも、全く新しい特徴を得ることもあるわね。私は怪物が翼や肢や分厚い羽毛や、あろうことかもうひとつの頭を生やすところを見たことだってあるのよ!
アート:Jason A. Engle |
怪物の中には、複数の怪物群の特徴を混ぜ合わせた混種へと変容するものもいるの。例えば恐竜と虎とか、エレメンタルとヌーとか。
アート:Cristi Balanescu |
イコリアの水晶の多くは怪物が近づくとエネルギーに揺らめくから、都市の人々はこれを優秀な警報装置として使うことを学んできたわ。建物くらい巨大な水晶は、人間の聖域の多くで建造物に取り込まれている。小型のものはよく軍隊の制服に組み込まれて、怪物探知装置であると同時に階級や所属を示しているわね。軍隊の魔道士が用いる魔法には、聖域内や近隣で見つかる水晶の形や色彩を反映しているものが多いわ。
インダサ
アート:Noah Bradley |
インダサは低い丘陵と謎めいた雰囲気の低地帯で、ぞっとする発光性の生物に照らされた場所よ。らせん樹と不気味な葉状地が旅人を誘い込むと言われていて、それをこの地の恐ろしいナイトメアが食らうの。インダサは開けていて隠れ場所は少ない、つまりほとんどの捕食者は密かに獲物を待ち伏せすることに長けているわけよ。
概要
地勢 ― 低地帯の平原内に浅い沼地、独特な形状の木々が点在する。
支配的な怪物相 ― ナイトメア
- インダサの低地帯の幾つかは、長く続く巨大な足跡が作ったと言われている。南のゼイゴスの森からインダサ北西の海岸にまで至るものよ。かつてこの次元を歩いていたけれど、遠い昔に海へと姿を消した最大の怪物によって作られたとリエールは信じているわ。
- インダサは夜猫や蝙蝠鳥、昆虫、そして燐光を発する生物の棲家よ。インダサで最も暗い谷ですら、しばしば不気味な生体発光の獣に照らされているの。
- インダサのらせん樹は根から成長するに従って複数の幹に分かれて、しばしば互いに絡み合って二重らせんを形成して、梢には広大な群葉を抱えるわ。らせん樹の中には、成長すると中に水晶や他の物体を取り込んで、歪んで奇妙な形になって夜行性の生物を引き付けるものもあるのよ。
ナイトメア
ナイトメアは、その名前から想像できるように、人間の最も暗くて根源的な恐怖(もしくは多分、そういった恐怖の物質的な顕現)を刺激するものよ。影の丘陵や森やインダサの低地帯で夜に狩りをして、闇夜にそれらの目(時に十個を超える)が輝くの。獲物を追うことに正真正銘の喜びを見出しているらしいわ。ナイトメアの攻撃を生き延びた者は、その怪物は実際に恐怖そのものを食らうと証言しているわね。
ナイトメアの怪物相はすごく多彩な姿と背格好に渡るけれど、いくつかの明確で恐ろしい身体の形状からすぐに見分けることができる。ナイトメアはだいたい普通以上の本数の手足や器官を持っているの、細長い腕やしなやかな尻尾をね。ほぼ確実に余分の目があって、それが頭以外の場所についていることもある(ちなみに全く目を持たないものも私は見たことがあるわよ)。
アート:Antonio José Manzandeo |
私が出会ったとある兵士いわく、「ナイトメアを判別する最も簡単な方法は、それがどこからともなく、最悪の時に現れるかどうかだ」ですって。
率直に言うけれど、ナイトメアと関わりを持とうとするのはおすすめしない。遠くから観察するなら驚くばかりの存在だけど、一番可愛らしいものでも想像を遥かに超えて恐ろしいことがわかっているのだから。ナイトメアと絆を結ぶことに成功した眷者は、私が出会った中でも最も勇敢な魂の持ち主よ。
死に棲まうもの、ネスロイ
アート:Slawomir Maniak |
インダサで出会った旅人は全員、同じ助言をくれた。囁きに気をつけろ、って。彼らが言う囁きとは頂点の怪物ネスロイ、死体から力を引き出す狡猾な猫とナイトメアとビーストの混種が発するもの。遥か昔にその呼び声を聞いて死んだ生物の魂に取り囲まれていて、ぬかるみからは腐敗した死体が、ぞっとするような生命の紛いものとなって這い出してくる。仲間が獲物を殺したけれど、それが立ち上がって復讐してきたっていう物語を、狩人たちはたくさん伝えているわ。とても恐ろしい物語だけれど、少なくとも全て終わり方は幸福なものよ(私の見方では、だけど)。
リエールはネスロイの最初の狩りについての昔話をしてくれた。ネスロイに食べられることは、真に存在から消し去られる唯一の手段だと彼女は信じている。その怪物は死を支配しているために、肉体と魂の両方を食らうことができるというのよ。
スカイセイル
スカイセイルは気球で動く何十もの飛行船からなる、空に浮かぶ「都市」よ。気球と舵翼の力でその聖域はほぼずっと空に浮かんでいて、地上を歩く、這う、泳ぐ怪物の脅威の遥か頭上を飛ぶことができる。その床と梁は極めて軽い木材と翼竜の中空の骨で作られていて、個々の気球船が自由に分離したり合体したりできるのよ。
アート:Piotr Dura |
スカイセイルの生存戦略は機動性ね。この聖域は決して一か所に長く留まらず、イコリアの空を飛ぶ多くの怪物の渡りの経路を避けているわ。攻撃されたなら、スカイセイルはたくさんの小片に分かれて散らばって、後に安全な場所で合流する――もしくはおとりの船を送り出して空飛ぶ脅威を引き付けて、船団の主要部から遠ざけるのよ。
スカイセイルの住人は大胆で自立していて、攻撃を座して待つよりも動き続ける人生を好むわ。聖域は軍隊を一応備えているけれど、敵意のある怪物は触らずに放っておくのがほとんどね。そこは私も高く評価しているわ。
これは空の住人たちが話してくれた物語よ。何世代も昔、かつてインダサに、壁に守られたオルンという聖域があった。その都市は夜光性の夜猫と蝙蝠鳥を訓練して安全を保っていた。それらは聖域を巡回し、塔に巣を作り、聖域を常に照らしていた。けれどある夜、知られざる理由からその光る生き物たちは現れず、夜闇にまぎれてナイトメアが門をくぐり抜けた。オルンの住人には逃げ延びた者もいて、街の残骸から素材を集めて粗末な熱気球を作り上げた。やがて次々に風船使いたちの船が加わって、今やスカイセイルと呼ばれるものに成長した。私としては、いつの日か聖域の市民は先祖の道に戻って、敵ではなく相棒として怪物とともに生きていくことを学んでほしいと願うわ。
ラウグリン
アート:Jonas De Ro |
ラウグリンは火山の頂を取り囲む一帯と、白砂の海岸と、溶岩が流れ下る崖が海沿いに伸びている地域よ。オングラ山脈によって大陸の他地域とは隔てられていて、ラバブリンクの聖域はその山中、火山崖と溶岩湖カルドとの間に築かれているわ。
概要
地勢 ― 白砂の海岸線を取り囲む火山地帯
支配的な怪物相 ― 恐竜
- ラウグリンの眩しい白砂の海岸は何百マイルもの長さに渡るけれど、その海岸線は今も伸び続けているのよ! オングラ山脈から流れる溶岩が海へ零れて、火山岩の黒い突堤がゆっくりと大地を伸ばしているわ。
- ジャル・コルチャ、「恐怖の道」は南西のラバブリンクから何千マイルと曲がりくねって、オングラ地帯を通ってアテヤルの岸をたどり、大エガリ平原のドラニスへと至る。ラウグリン内のジャル・コルチャには恐竜や他の怪物の脅威の接近を知らせる警告の水晶が並んでいるわ。
- オングラ山岳地帯の頂上、チャログ火山はこの世界の最高点らしいわ。恐竜はチャログの焼けつく斜面で卵を抱く。どうやら大地を有効活用することを学んだのは人間だけではないということね。
恐竜
恐竜こそ、火山性のラウグリンの焼けつく環境で栄える怪物相よ。まさに融けてうねる岩の暴力と憤怒全ての体現。彼らは巧妙さも区別もなく狩り、動くものは何でも食らって、食物と自分たちの間に立つものは何であろうと粉砕する。必要とあれば腐肉も食らうけれど、激しく抵抗する獲物を倒す方を好むわね。
イコリアの恐竜はイクサランのような他の次元で見られるものよりも頑丈で、爬虫類に似ているわ。鱗の皮膚は棘や角、岩のような板に覆われていることが多い。多くは二足歩行で、太くて筋肉質の尾を持っていて、それらを敵に叩きつける。翼のある、もしくは水棲の恐竜も多いけれど、どれも気質は好戦的なようね。
ある眷者いわく、恐竜から尊敬を得る最良の方法は、正面から対峙して持ちこたえることですって。まずは最も小さい恐竜から試してみることをお勧めするわ。
雷の猛竜、ヴァドロック
アート:Zack Stella |
その名前は空を切って飛ぶ際の恐ろしい響きからよ。轟き渡る頂点の怪物ヴァドロックはラウグリンの空を支配しているわ。空における最大、最速の怪物ではなくても、獰猛さでは他の追随を許さない。ヴァドロックは飛行しながら魔法的なエネルギーを発生させて、それを青い炎の息として解き放つ。賢者たちいわく、ヴァドロックの炎には魔法的な成分が含まれていて、あらゆる種類の破壊的影響を及ぼすことができるのだそうよ。でも歴史的に最後の結果は常に同じらしいわ。つまり死。ヴァドロックの支配力と機動性は並ぶものがない、つまりそれはラウグリンの何処にでも現れる可能性があるということ。他トライオームの都市に住む者の多くは、この地域を嘲笑するように「ヴァドロックの庭」と呼んでいるわね。
リエールがヴァドロックの昔話をしてくれたわ。人間の聖域を灰と帰した話。彼女いわく、その魔法の炎は街を破壊するだけでなく、その存在のあらゆる記憶を消し去ってしまったのだとか! 当然だけど、他にこの物語を知っている人は見つけられなかった。
ラバブリンク
ラバブリンクはラウグリンの中、オングラ山岳地帯の巨大な火山崖の下に押し込められた聖域の都市よ。その崖からは溶岩の細い流れが注意深く管理された運河に注がれて、溶岩湖カルドに流れ出している。ラバブリンクの住居や市場はそういった溶岩の運河を渡る橋や通路の上に建てられているのよ。
ラバブリンクの生存戦略は、近づきにくさね。火山崖の下に築かれたラバブリンクは頼もしい防衛機構を作り出しているわ。飢えた怪物に、もっと危険のない食事を他のどこかで見つけようと思わせるの。石歌いと呼ばれる魔道士たちは街の上の斜面に火山岩の堰を作り出して、溶岩の流れを思うままに変える。危険な状況には、ラバブリンクは街全体の目の前にほとんど途切れない溶岩のカーテンを作り出すこともできる。それで止められないのは最も根気強い怪物だけね。
ラバブリンクの住人たちはすごく頑健よ。もっと危険な怪物から身を守るために、途方もなく危険な環境で生きることを選んだのだから。
ラバブリンクの住人たちは絶えない火山の熱を容易に利用することができて、鍛冶や金属加工、道具の製作、彫刻の腕前で名高いのよ。イコリアの至るところで都市の住人や狩人から聞かされてきたわ、最高の武器と道具はすべてラバブリンク製だって。ここは怪物との戦いをなるべく避ける共同体だというのに、それらに向ける人間の暴力を多分に持ち合わせている。そこは失望したわ。
ゼイゴス
ゼイゴスは茸に似た樹木と湿潤な沼地からなる、深い雨林よ。巨体の草食獣が扇胞子の木立の間で草を食んで、浅い池や湿地に浮かぶ巨大な睡蓮の葉の上には虹色の昆虫が舞うの。
概要
地勢 ― 豊かな雨林、広大な睡蓮の池と沼がちの湿地
支配的な怪物相 ― ビースト
- ゼイゴスの逞しい森は蒸し暑い湿地に根を張っていて、そういった湿地をなす池にはゼイゴスの巨大な睡蓮が生息しているわ。この巨大植物は直径三十フィート以上に育って、複数の生物を一度に載せられるほどに頑丈よ。私のように地上を歩く者にとって、巨大睡蓮は水上を移動する最も簡単な手段ね。
- ゼイゴスの獣の群れはそれらが最も好む植生とともに移動する。いくつかの草食種は互いの渡りの経路を追いかける――一つの群れが森の頑丈な外側の葉を食んで、残るもっと柔らかい、無防備な果実を次の群れが食べるというふうに。
- ゼイゴスは狩人の活動がとても盛んな場所で――牙、角、皮、そしてこの地域の獣の肉は交易や売買のための貴重な産物になっている。練達の狩人を自称するチェビルはほとんどの時間を、湿地の中を歩き回って過ごしているわ、まるで自分のもののように。あの男は結構な種類の動物の鳴き声を真似るのがとても上手くて、それを用いて大角のボスを群れから遠ざけている。最低の類の人間だわ。
ビースト
ゼイゴスの豊かな森は生命に満ちていて、さまざまな背格好や姿のビーストの怪物相に支配されているの。それらのほとんどは巨大な草食獣に似ている――ヘラジカ、馬、サイ、ラクダ、猪などね――けれどそれらがすべて御しやすいと結論づけるのは危険よ。比較的小型のビーストであっても縄張り意識は強いし気も短いの。恐れたり敵意を感じたりしたらすごい勢いで走り出したり踏みつけてくるわよ。
ビーストには多くの象徴的な特徴があるわ。毛深い皮、分厚い皮膚、枝角や牙、太くて短い脚や蹄とかね。ほとんどはそびえ立つほど巨大だけど、小型で優雅な、ずっと馬やアンテロープに似たようなビーストもたくさんいる。ビーストは食物を差し出されたなら好意的に応えてくれるわ。ただ、どこまでが食物でどこからがあなたかをはっきり区別できるようにしておくこと。
永遠の獣、ブロコス
アート:Filip Burburan |
頂点の怪物は全て古の時代から生きているけれど、ブロコスはそれらすべての前にまで遡ると信じられているの。この優しき巨人はゼイゴスの森を、背中に小さな森を乗せて放浪している。ブロコスは私たちとは異なる時を過ごしていると言われているわ。その瞬きは数分を要し、呼吸は数時間を、昼寝は数週間に及ぶの! けれど時間そのものと同じく、ブロコスは止めることのできない力よ。ひとたび動きだしたなら、何にも止めることはできない。人間も、怪物も、大地そのものでも。リエールによれば、ブロコスの動きはイコリアの季節の移り変わりと同時に起こっているのだとか。けれどブロコスが季節を追っているのか、それとも季節がブロコスを追っているのかはわからない。
アート:Seb McKinnon |
リエールがブロコスの昔話を語ってくれたわ。伝説によれば、最初の人間はその頂点の怪物を倒そうとした狩人だった。けれど立ち向かうのではなく、ブロコスはその人間へとふたつの贈り物を与えた。ひとつは過去の幻視、自らの誤りから学ぶことができるように。もうひとつは未来の幻視、皆を前へと導けるように。
狩人
最も無謀で、頑固で、必死で、残酷な人類だけが狩人としての人生を選んで、比較的安全な聖域の都市から獲物を求めてさまよい出るのよ。ある狩人はスリルと楽しみのために。ある狩人は特定の怪物に対する個人的な復讐心を持ち、またある狩人は怪物の部位を欲しがる者へ売る。私の目には、どれも等しく汚らわしいものだわ。
私だけじゃなくてほとんどの他の人間も、ある程度は同意しているわね。狩人が都市へ入るのを拒否されることは滅多にないけれど、歓迎もされない傾向にある。代わりに、多くの狩人は文明とその規則を窮屈に感じている――その点だけは私も同意できるかもしれない。特定の聖域から歓迎されない追放者や、破壊された聖域の生き残りという狩人もいるわ。でも彼らに同情はしない。故郷を守るために戦う兵士というのは理解できるけれど、利益や楽しみのために生命を無感情に奪うというのは見過ごせない。
アート:Svetlin Velinov |
狩人は獲物を捕らえるために、ありふれた罠と魔法的な罠の両方を配置するわね。捕らえた怪物を生きたまま逃がすというのは滅多になくて賢明でもない仕事だけど、最も熟達した狩人の間になら全くないわけじゃないわ。
アート:Livia Prima |
狩人はその装備で狩人と判別できるわよ。ほとんどは兜やゴーグル、もしくは他の頭装備を防御や威嚇のために身に着けている。狩人の武器は、同じように巨大な獲物と戦うためにだいたいが巨大ね(それを振るう狩人本人よりも大きいことすらあるのよ!)。最も残酷な狩人は棘や鋸歯のついた武器を用いるわ。獲物を傷つけ、殺せなかった時も傷が重症になるように。
旅の幸運を!
さあ、自分の脚でイコリアの探検に繰り出す時よ! ここは雄大さと危険度を同じ分量混ぜてできている次元。準備と敬意と少しの幸運があれば、たくさんの驚異に出会えるでしょう。落ち着いて進むにあたって、この案内が参考になってくれればと願うわ。どうか役立てて、そして案内を必要とする次のプレインズウォーカーに出会ったなら、手渡してあげてね。
――ビビアン・リード
(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)
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2024.12.18広報室
2024年12月18日号|週刊マジックニュース
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BACK NUMBER 連載終了
- Beyond the Basics -上級者への道-
- Latest Developments -デベロップ最先端-
- ReConstructed -デッキ再構築-
- Daily Deck -今日のデッキ-
- Savor the Flavor
- 射場本正巳の「ブロールのススメ」
- 津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ
- 浅原晃の「プレミアイベント三大チェックポイント!」
- ガフ提督の「ためになる」今日の1枚
- 射場本正巳の「統率者(2017年版)のススメ」
- かねこの!プロツアー食べ歩き!
- ロン・フォスターの統率者日記
- 射場本正巳の「統率者(2016年版)のススメ」
- マアヤのマジックほのぼの日記
- 金子と塚本の「勝てる!マジック」
- 射場本正巳の「統率者(2015年版)のススメ」
- 週刊連載インタビュー「あなたにとってマジックとは?」
- なかしゅー世界一周
- 中村修平の「デイリー・デッキ」
- 射場本正巳の「統率者(2014年版)のススメ」
- 中村修平の「ドラフトの定石!」
- 浅原晃の「プロツアー観戦ガイド」
- 鍛冶友浩の「プロツアー観戦ガイド」
- ウィザーズプレイネットワーク通信
- Formal Magic Quiz
- 週刊デッキ構築劇場
- 木曜マジック・バラエティ
- 鍛冶友浩の「デジタル・マジック通信」
- 鍛冶友浩の「今週のリプレイ!」
- 渡辺雄也の「リミテッドのススメ」
- 「明日から使える!」渡辺リミテッド・コンボ術
- 高橋優太の「このフォーマットを極めろ!」
- 高橋優太の「このデッキを使え!」
- 黒田正城の「エターナルへの招待」
- 三田村リミテッド研究室
- 新セットめった切り!
- シングルカードストラテジー
- プレインズウォーカーレビュー
- メカニズムレビュー
- その他記事