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『統率者(2019年版)』デザイン理念

Glenn Jones
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2019年8月9日

 

 『統率者(2019年版)』プレビュー・シーズンはお楽しみいただけただろうか! 私はウィザーズに入ってから『統率者』各製品のデザイン・チームに加わってきたので、これらは私にとって特別なものだ。『統率者(2019年版)』は私のフルタイムのゲーム・デザイナーとしての初めてのプロジェクトであり、初めてセットデザインのリードの役割を務めた製品だ。また私は展望デザインを見事に仕上げて素晴らしい出発点を我々にもたらしてくれた、イーサン・フライシャー/Ethan Fleischerとともに展望デザイン・チームで仕事に取り組んだ。

チーム・プレイヤー

 これまでの多くの『統率者』チームに参加したこともあって、私は『統率者(2019年版)』を将来の製品に恩恵をもたらす可能性のある過程の変更と新しいシステムを試す機会にしたいと考えた。大きな変更の1つはセットデザインの構造に対するものだった。4人ないし5人のデザイナーがそれぞれのデッキを完成させるのではなく、毎月チームのメンバー2人を新しいデザイナーに入れ替え、担当するデッキ自体を何回も入れ替えた。社内でのプレイテストの勧誘が急増したこともあって、私はこれらのデッキが他のどの『統率者』製品よりも多くのプレイヤーによってプレイテストが行われたのではないかと信じている!

 この種の記事では最初にチームメイトとその努力を紹介するのが通例になっているが、今回は、9人の仲間たちは完成品に強烈に寄与しているので、その紹介は本文に譲ることにしよう!

 デザイナー紹介(クリックで表示)

 チームメンバーを何度も入れ替えたことで得られた大きな予想外の恩恵は、完全にチームを離れた人が誰もいなかったということだ。元チームメンバーは我々の進捗をチェックし続け、デザインをレビューし、追加のプレイテストを志願してくれた。初めてのリードとして、このように献身的に私を支えてくれたグループがいたことは言葉に言い表せないものがある。

 上記のことに加えて、私は長年の友人であり『統率者』の協力者であるであるベン・ヘイズ/Ben Hayesとガヴィン・ヴァーヘイ/Gavin Verheyの両名から指導とアドバイスを受けた。2人ともありがとう!

デザイン目標

 私は物事の舞台裏を見ることに興味がある人向けにいくつか「デザインの話」をツイートしたことがあり、このセットに関する質問は @SecludedGlenn まで気軽に送ってほしい(英語)。ここでは『統率者(2019年版)』の制作について細かく取り上げていくよりも、我々の『統率者』製品での目標と、デザインの選択がその目標の達成と究極的には君のプレイヤーとしての体験にどのように役立つかについての洞察を話したいと思う。

1.統率者戦への導入

 統率者の構築済み製品は主に2種類の客層に向けられている。統率者戦のプレイヤーと、統率者戦が楽しそうなのでやってみたいと思っているマジックのプレイヤーだ。どちらもマジックのプレイヤーなので、我々には多人数戦の経験のための強固な土台がある。マジックのルール、複雑なゲームプレイ、プレイするグループ、ゲームをする場所、そして恵まれたコンテンツ源さえも――多くがあって当たり前と思われているものだ。

 我々にはこれらの客層が楽しい時間を過ごせるようにする責任があるが、もう1つ別の客層が存在する。それはマジックの新規プレイヤーだ。我々は新規プレイヤー向けに他の製品をデザインしているが、プレイヤーは最終的に自分で何から始めるかを決める。『統率者』の構築済みデッキは友達がすでにプレイしているプレイヤーや、イベントを開催しているお店のプレイヤーがよく買う製品だ。これらは完成したデッキであり、コレクションへの確かな足がかりであり、そしてマジックの差し伸べるべき多様性の見本である。統率者戦を主体とするゲームのコミュニティはマジックのより競技的な環境のコミュニティよりも威圧的ではないので、お店が新規参入者をその方向に向かわせるのは理にかなっている。

 これらの客層を結びつけるために特に有用な要素が3つある。1つ目はテーマだ。クリエイティブ的もしくはメカニズム的、もしくはその両方の独自性に基づいてデッキを構築することはあらゆる人の体験にとって効果的な仕組みで、今年の居住デッキはその素晴らしい例だ。巨大なクリーチャー・トークンを複数作り出すことは誰にとっても魅力的だが、赤いカードによって生成された「一時的な」トークンを居住するような小さな仕掛けを十分に備え、経験豊富なプレイヤーが探求できる深さがある。

 2つ目は多人数戦の環境だ。統率者戦はややこしい! いくら構築済みデッキがシンプルにできているといっても、他のプレイヤーのデッキと合わさると予想外の複雑さになることは確実だ。これは新規プレイヤーがマジックのコミュニティに加わる時に存在するありがちな障害だが、統率者戦には独自の強みがある。各プレイヤーが対戦相手と一緒に楽しむように努めるというのが統率者戦コミュニティの性質なので、ゲーム中であっても経験豊富なプレイヤーから何かを学ぶのに最適な場所だ。疑問が起こったとき、複雑なことを説明してくれたり次回のためにより良いプレイを教えてくれたりしてくれるプレイヤーが常に何人かそばにいるということになる。

 とはいえ、バンドをテーマにしたデッキが近いうちに現れるとは思っていない。複雑さは手段だが、それ自体が目標ではないのだ。

 3つ目はデッキの構築だ。これらの構築済みデッキの強さはその年の他のデッキとバランスが取れているようになっているので年ごとに異なるのだが、我々はこれら構築済みデッキに全体除去、エンドカード、マナ基盤といった統率者戦の基本的なツールを入っているよう努めている。しかし、自分の周りのメタゲームに合わせてデッキを改良するのは統率者戦の大事な要素なので、これらのデッキには改善の余地を残してある。同じように、思いも寄らないカードや相互作用は、特に新規プレイヤーにとって最適な社交的体験だと我々が考えているものだ。プレイするグループはそれぞれ違いがあるので、君のところが《塩水の精霊》を気にしない卓であれば、ぜひともそれを変異デッキに入れて友達に塩をお見舞いしてやろう!

2.新しいデッキをひらめく

 各年の『統率者』は異なるレンズを通して統率者戦を見て、プレイヤーがまだ持っていないものを提供している。『統率者』において最もエキサイティングなカードとは、言うまでもなく新しい伝説のクリーチャー(そしてたまにプレインズウォーカー)だ。新しい統率者は新たなる可能性の予感をもたらし、そして私もそうだが統率者戦コミュニティは独自のデッキ構築に情熱を傾ける。各『統率者』チームは好機に変えられる虚無を見つけるべくウェブサイトやフォーラムの研究に時間を費やしている。ここで我々が自問していることの一部を紹介しよう。

  • どの色の組み合わせに統率者が欠けているか?
  • どの部族に統率者が必要か? それはどの色?
  • どのアーキタイプが新しい統率者を使えるか?
  • どのアーキタイプが別の色の組み合わせで存在できるか?

 これらの質問に対する答えのいくつかが、『統率者(2019年版)』を含む複数の製品とそれに含まれる伝説のクリーチャーのデザインに直接影響を与えているのが分かると思う。

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 我々は各デッキに1人、主要なテーマとは異なるデッキ構築の挑戦をもたらす新しい統率者がいるように努めている。また『統率者(2017年版)』での試運転以降、新しいデッキを作る可能性を持つ「おまけ」の伝説のクリーチャーを入れるようにもしている。色の合っている伝説のクリーチャーは統率者として機能する必要があるが、色の合わないやつは無茶ができる。

 色の組み合わせは常に予想通りになるわけではなく、そしてそれは意図的なものだ。今年は非常に分かりやすい2つの例がある。ジェスカイ・フラッシュバックとナヤ居住だ。ほとんどのプレイヤーがグリクシスとセレズニアがそのメカニズムの明らかな候補だと考えていた――そしてそのプレイヤーは正しい! これらの戦略において強くて人気のある統率者がすでにいる理由の1つだ。テーマの色が変わると新しいデッキがこのフォーマットに加わり、マジックに新しいデザイン空間が生まれ、そして既存のカードに新しい可能性ができる。《心臓貫きのマンティコア》トークンを《満開》するのは言葉通りのすごさだ。

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 我々はケス、ライズ、トロスターニのための新しいカードが作れて満足しているが、我々の主目的は統率者の色を散らしてこのフォーマットに深みを与えることだ。これは既存のテーマの多様化のために「リーダーの変更」をしないということではない。実際に『統率者(2017年版)』のドラゴンでそれは行われている。

3.既存のデッキをサポートする

 新しいデッキを生み出すための負担は主に伝説のクリーチャーにのしかかっていて、新しいカードの内容にそれを操作する余地を与えている。我々はこれらのカードで多くのことを試み、理想的にはすべてのカードに複数の試みがある。統率者戦に追加や増強のできる可能性のあるリストの中身は無限にあり、各年ごとにどれを解決していくかを考えていくこと自体が課題になっている。我々はこのフォーマットに足りないものを見つけるため、そして支援を差し伸べる機会を探すためにインフルエンサー、ソーシャルメディア、そして統率者戦ルール委員会からの意見を取り入れている。

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 《セヴィンの再利用》を見てみよう。このカードはセヴィンが秘宝を探しているのをメカニズム的テーマを使って表現しているのだが、適切な条件下であればマナ加速もできる白のカード・アドバンテージでもある――さまざまな要素を持っている。これは特に多人数戦でよく息切れする白単デッキにうってつけで、そして我々は各製品に1~2枚は白のカラー・パイに忠実でありながら白単デッキを強化するカードを入れるように努めている。

 特定のカードや戦略が人気になりすぎる、もしくはあまりにもムカつくものになった場合、我々はそれへの対策をそのフォーマットに追加しようとする。《サイクロンの裂け目》のような効果や呪禁持ちの統率者はその古典的な例だ。《平和の執行》と《指導者の欠如》はこれらの問題やそれ以上のものに対処するのにとても適している。《指導者の欠如》は仲間を邪魔する効果的な方法でもあるので、1枚分のお値段で2つの回答を得られることになる。

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 カードを強くしすぎずに統率者戦に影響を与えるようデザインするのは難しく、優れたデザインの働きは長期的に見た場合に誤算のリスクを避けきれない。エリック・ラウアー/Erik Lauerの言葉を借りるなら「禁止されそうなカードをデザインしたことがないなら、あなたは慎重すぎる」だ。この部分はゲームバランスのエキスパートであるところのプレイデザイン・チームが大きな助けになるところだ 。『統率者(2019年版)』ではマイケル・メジャース/Michael Majorsが助けてくれて、そして私の絶え間ない仮説に対して驚くほど寛大だったが、プレイデザイン・チーム全体がさまざまな方面で貢献してくれた。

 『統率者(2019年版)』はいくつかのデッキが強くするはずだが、同じカードで全てのデッキがそうなるわけではない。統率者戦にはすでに多くの準定番カードがあるので、どのデッキに入れても強そうに見えるカードを推す必要はなかった、

4.驚きと喜び

 『統率者』の構築済みデッキは、スタンダードの製品では機能しない可能性のある物事を試すためのマジックの変わったデザイン空間を表している。以前の『統率者』の構築済みデッキをプレイしたことがあるなら、我々の頼ったものの多くはおなじみのはずだ。

  • 人気があるかすでに死亡した(もしくはその両方)物語のキャラクター。
  • 統率者戦特有の効果
  • 古いメカニズムの新カード

 今年は最後のやつを激しく掘り返した。

 再登場させるために昔のキャラクターを探すことは、伝承好きの私にとっていつもエキサイティングだ。『統率者(2019年版)』の再訪は私のマジック歴の中で好きだった部分が多く含まれていたので特にゾクゾクした。『テンペスト』は私にとって『ポータル』以外での初めてのブースターで、それ以来私はウェザーライト・サーガの根っからのファンだ。「Time Streams」は私の大好きなウルザのプレインズウォーカー・ノベルで、クリエイティブ・チームがケリクを出すことに同意した時はテンションが上がった。そして、言うまでもなく、チェイナ―本人を抜きにしてどうやってマッドネス・デッキを組めばいいというのか?

 私はウィザーズのコンセプト・ライターやアートディレクターとの共同作業をいつも楽しんできたし、『統率者(2019年版)』も例外ではない。エミリー・テン/Emily Tengとタイラー・イングヴァルソン/Taylor Ingvarssonのこのセットにアートをもたらしキャラクターに命を吹き込んだ働きは称賛に値するものだ。

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 我々は悪役が大好きかって? 多分ね。

 各デザイン・チームはこれらのカテゴリーに含まれる斬新なカードを見つけ出すために努力している。なんだかんだ言っても、他にどこでターンの順番を逆にできるというんだ? 最高のものを見つけ出すためには常に心を開いていなくてはいけない。斬新さを追求する中で『統率者』の穴埋めとデザインの宿題はあらゆるところからエキサイティングなカードが戻ってくる傾向にある。それらをすべて使うことはできないが、余ったものは他のセットに入る素晴らしいデザインになり、時々スタンダードのカードになることもある。

 再録も新しい発見の瞬間を生み出すことができる。 私がこれらの製品を作る上で好きな部分は、常にプレイヤーが各デッキでゲームを重ねて見つけるカード2枚のシナジーを探すことだ。このセットでのお気に入りは《ラル・ザレック》が《大出力自動生成器》の充電を早めるためにアンタップすることだ――しかし発売前にこれ以上お楽しみを奪ってしまいたくはない。

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 私と一緒に『統率者(2019年版)』の発売をお祝いしたい人は、マジックフェスト・ラスベガスで会おう! 私はCFB Eventsが開催する全てのイベントにワクワクしている。 私は会場内を歩いてこのセットについて話したり、意見やクールな話を収集したり、統率者戦をたくさんプレイしたりしてるので、私を見つけたら気軽に「ハロー!」と声をかけてほしい!

――グレン・ジョーンズ

(Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru)

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