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『イクサランの相克』のデザインをする

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『イクサランの相克』のデザインをする

Ben Hayes / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2018年1月2日


 こんにちは! 私はベン・ヘイズ/Ben Hayes、マジック開発部の上席ゲーム・デザイナーだ。また『イクサランの相克』のリード・ゲーム・デザイナーでもある。このセットは、これまでに作られた他のマジックのセットのほとんどと比べて、少し普通ではない作られかたをしていいる。

 開発部はカードの作りかたを、旧来のデザインとデベロップの形から展望デザイン、セット・デザイン、プレイ・デザインの形へ過程を根本的に変更をしている最中だ。それに加えて、大小大小の年間発売スケジュールも変更されたので、『イクサランの相克』は最後の「小型セット」エキスパンションになる予定だ。

 このことは開発部のリーダーのありかたに複雑な問いを投げかけた。私は『イクサランの相克』のデベロップ・チームをリードする予定だった。しかし、展望チームの新しいコンセプトは、前のセットが定着させたものを拡張しようとする小型セットの目標に適用すると全く筋が通らなかった。加えて、デザイン・チームの古いコンセプトは小型セットの目標に合わせたものだったが、我々もう正しくはないと判断したシステムを使うことを本当に求めているだろうか?

 結局のところ、私が『イクサランの相克』のゲーム・デザインすべてのリードを担当する決定がなされ、そして初期のデザインをリードするような分野で私よりも経験豊富なマジック開発部のゲーム・デザイナーとの多くの交流の機会を得た。

 マーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterが彼の記事でチームの紹介を完璧にしてくれて、君たちはある程度の背景をもう分かってもらえていると思うので、このセットがどのようにしてできたかを見ていこう。

 そもそも、我々は何をつくろうとしたのか? 『イクサランの相克』では、我々のデザイン作業の核となるいくつかのアイデアから始めた。メカニズム的な視点では『イクサラン』の主要4部族それぞれにカードを追加することが分かっていて、そしてクリエイティブ的視点ではプレイヤーにオラーズカの都市を征服し支配するための帝国を築き上げる物語を演じているように感じさせたかった。

もっと部族を!

 我々がデザインした各部族に加える新しいカードでは、言うまでもなくまず『イクサラン』で何をやったかを詳しく調べる必要があり、そして分かったことは、多くの場合『イクサラン』でやらなかったことを見るほうが実際にはより重要だったということだ。

 具体的には、『イクサラン』では部族の要素と探検や発見のような他の要素との間で異なるバランスを持つことを目指していた。『イクサランの相克』ではこれらの部族に新セットでの最後の花道を飾らせたかったので、我々は部族偏重のゲームプレイへとバランスを変えることに決めた。

 これら全てを念頭に置いて、我々が極めて早い時期にこのセットに加えたカードが《軍団の副官》だ。

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 このカードは『イクサラン』ではうまく適応しないかもしれないが、部族と探検のバランスを取って組み合わせの柔軟性を与えるという目的においては、部族の役割を限界以上に上げたいセットでは完璧に適応する。《軍団の副官》は完全な吸血鬼満載のデッキを作るように激しく主張していて、それは我々が今回強化したいと望んでいるデッキの1つだ。

 我々が部族デザインのインスピレーションを求めたもうひとつの場所はマジックの過去だった。では部族デザインをたくさん見つけたいならどこを見ればいい? 『ローウィン』だ!

 私はこのサイクルがやっていることとプレイヤーに求めていることを簡潔に表してるところが大好きだ。この相対的に強力なカードを使ってみたいか? それには適切なタイプのクリーチャーが手札に必要になる。 どうやってそうなるようにする? デッキをそのクリーチャー・タイプで満たせばいい。

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昇殿

 先に述べたように、それぞれの部族向けのクールな新しいおもちゃに加えて、我々はオラーズカの征服を表現する方法を探したいと思った。『イクサラン』では探検を表現していて、『イクサランの相克』では部族が探し求めていたものを見つけたので、今こそそれを手にするのだ!

 デザインの初期段階のほとんどはこのアイデアを実現する最も楽しく興味深い方法を探すことを中心に動いていた。我々はとても手広く始め、チーム内の皆にこのテーマに適合すると思ったメカニズムを考えさせた。そこから我々は多くのメカニズムをプレイテストして、より抽象的な意味で機能するものとしないものを見つけていった。

 例えば、我々が初期に試したメカニズムの多くは、あるプレイヤーに追加の力を与えるが、それを達成できるのは一度に1人だけで、それが行ったり来たりするという『コンスピラシー:王位争奪』の統治者に似た要素を持っていた。これらのメカニズムで分かったのは、それを1対1のゲームに採用すると、ほとんどの場合先に達成した側がそのアドバンテージを使って優位を保つ「雪だるま式」のゲームになるということだった。

 そこから、我々はプレイヤーが戦場で特定の閾値を達成を目指すというアイデアを研究することにした。テーマ的には、このアイデアはクリーチャーと土地の形で大軍と多くの領土を支配することによって自らの帝国を築き上げるというものだ。また我々は両方のプレイヤーがゲーム中にこれを達成できるというアイデアを組み込み始め、それは全体で1つのものの支配を巡って戦うのではなく、勢力を拡大させながらお互いの支配を完成させないために戦うというものだ。

 我々はそのコントローラーが十分な数のクリーチャーや土地を持っていれば特定のカードを強くする閾値のメカニズムを色々試してみたが、それぞれある大きな問題を抱えていた。

 土地だけを数えた場合、そのメカニズムをプレイヤーが実際に経験できるものにするためには閾値をいくらか低くしなければならなかった――しかし低い数字に設定すると人々から達成感を奪ってしまうのだ。さらに、近年のマジックでは土地を除去する方法が実際にそれほど多くないので、その戦略に負けてしまう場合対戦相手が達成する前に勝つ以外ほとんど対抗策がないことになる――とんでもなく満足のいかない答えだ。最後に、相手が緑マナを扱えない場合、盤面をざっと見て達成するのに何ターンかかるか大雑把に見通しが立ち、それを変えるためにできることが(土地の置き忘れ以外には)ほとんどないのが分かるので、このゲームプレイはとても劇的でエキサイティングなものとは言えない。


勇敢な海賊》 アート:Jason Rainville

 これらの問題をすべて踏まえて、我々はそれらのほとんどに対処できる変更は土地だけを数えるのではなく土地とクリーチャーを数えることだと考えた。これだと閾値を高くすることができ、(プレイヤーはお互いに達成を阻むことができる能力を持っているので)最も対処が簡単なタイプのパーマネントが得られ、あと3~4つで達成できそうなプレイヤーを見渡して、次のターンに実際に達成できるだけのカードを持っているかどうか分からない、素晴らしいレベルのダイナミズムが加えられた。

 我々がその認識にたどり着いてそこから何か考え出そうとしたとき、マジック開発部のゲーム・デザイナーで『イクサランの相克』のメンバーであるヨニ・スコルニク/Yoni Skolnikは(おそらく彼を含む)チームのほとんどの人が機能するとは実際に思わないような案を出した。「一回達成したら戻らないようにしたらどうだろう?」

 うん、まあ、それはどうなるの? マジックにおいて達成していることを常時参照しない閾値メカニズムというのはあまり前例のないものだ。スレッショルド、昂揚、暴勇、金属術――と数えればきりがないが、これらすべては マジックの歴史を通して同一の挙動をしていた。 それでも、もしこれがうまくいくのなら基本的にすべての問題が解決するんじゃないだろうか? 試してみる価値はあるんじゃないか?

 チームのメンバーほとんどが、おそらく誰より私自身が驚いたことに、このメカニズムをプレイしてみると実際に素晴らしくうまく行ったのだ。しかしまだ多くの問題が残されていた。例えば、どんな文章をこれらのカードに書けばいいのか? さっき書いたようにこのようなメカニズムはほとんど前例がないのだが、その話はまた別の機会にしよう。

 我々は最終的に、他のマジックのセットとの幅広いシナジーを与えるため、数えるものを土地とクリーチャーからすべてのパーマネントに拡大し、閾値として最も楽しい数を見つけ出すために多くの時間を費やして取り組んだが、我々がしようとしていたことを正確に達成するための核となる機能を見つけることに比べれば、それは些細なことだった。

 OK、君たちはもう十分に待ったと思うので、昇殿メカニズムのカードの中で私のお気に入りの1つである《クメーナの覚醒》を紹介しよう。

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 私がこのカードを好きな理由の1つは、これが実際にこのメカニズムへの探求の原点の一部に回帰しているからだ。これの場合、どちらかのプレイヤーがこれをゲームに導入しただけで両方のプレイヤーがアドバンテージを得ることはプレイヤーにとって気乗りがしないということを我々は見てきたが、それは「試練」を達成しこれを完全に支配下に置けることがこのカードを唱える報酬であるというアイデアと組み合わさっている。それに、カードを引くことが嫌いな人はいるだろうか?

振り返ってみて

 『イクサランの相克』が『イクサラン』とはいくらか違った目標を持っていることに関して色々話してきたが、我々はその時にもっと楽しくできた物事を見つけた。特に探検して収穫がありそうだと発見した部分の1つが『イクサラン』のメカニズム......探検の拡張だ! そして私は今そのくだらない「ジョーク」をやめて、《翡翠光のレインジャー》を紹介しよう!

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 これは極めて初期にこのセットに加えられたカードの1枚だ。我々は最初これをコモンで試してみたが、すぐにその能力がエキサイティングで楽しく強力であることが明らかになったので、我々はこれをレアのマーフォークに作り直した!

 もう1つの明確な振り返りはマジックの歴史上2体目のチュパカブラだ。『イクサラン』には隠れ潜むやつががいたが、『イクサランの相克』には貪欲なやつがいる!

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 私は完全に別の理由で《貪欲なチュパカブラ》が本当に好きだ。私は人生のほとんどの間マジックをプレイしていて、このゲームの長い歴史を通して心の中に特別な場所を持っている象徴的な定番カードがある。《ショック》、《恐怖》、《対抗呪文》、《ネクラタル》のようなカードはマジックの用語の一部になっている。デザイナーとして、私は純粋でシンプルな形のメカニズムを発見して作ることを高く評価している。《恐怖》については、我々はついに《殺害》を作ったが、黒の古典的な《ネクラタル》スタイルのクリーチャーは同じ表現になったことはないので、『イクサランの相克』でそれを行う余地を見つけてとても興奮していた。

 なんにせよ、この記事を読んでくれてありがとう! 私は君がこのカーテン裏の覗き見を楽しんでくれたことを願っているし、私がこのセットに取り組んだのと同じくらい楽しんでこのセットをプレイしてくれることを心から願っている。

――ベン・ヘイズ

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