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超督励
超督励
Ian Duke / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2017年6月20日
こんにちは! 私はイアン・デューク/Ian Duke、マジック開発部の上席ゲーム・デザイナーで、『破滅の刻』の最終デザインとデベロップのリーダーだ。セット作成の後半部にあたるこの期間、私たちはショーン・メイン/Shawn Main率いる初期デザイン・チームが定めた展望を実現することに焦点を置いている。デベロップ・チームではこのセットのメカニズムの反復工程を行ない、セットのテーマをリミテッドや構築向けに整え、そして大抵は最終的なカード・デザインの約半分を手がけることになる。
ブロックの第2セットを手がけるということには独特の課題がある。第1セットで作られたテーマやメカニズムの基礎が前提となって始めるが、第2セットではデザイン空間の細部をもう一度詰め直し、場合によってはテーマを次のレベルに押し上げることもあるのだ。単純で直接的なデザイン空間の多くは第1セットで使われている。例えば、『アモンケット』の《聖なる猫》や《突風歩き》は不朽や督励を使った最も明瞭なデザインで、《華麗な苦悶》は-1/-1カウンターを使った単純なデザインだ。
私たちは、どのセットも新鮮だと感じてもらいたい。同じテーマやメカニズムの焼き直しではなく、新しいカード・デザインだと感じてもらいたいのだ。その一方で、ブロック内の2つのセットにはある程度の連続性が必要だ。セット同士があまりにも離れていれば、リミテッドで上手くプレイできないことになるし、構築でも第1セットのテーマに基づいて作られたデッキをわかりやすく強化することができなくなる。また、単純に新しいメカニズムをいくつか投入し、以前のメカニズム全てを残すようなことをすれば、セットに詰め込みすぎることになる危険性がある。新規プレイヤーにとっては複雑過ぎることになるし、経験豊富なプレイヤーにとっても全てのテーマそれぞれを支えるだけの充分な枠が足りないということになる。
そこで、『破滅の刻』では、『アモンケット』のメカニズムを『アモンケット』で完全には掘り下げていなかった新しい方法で使うという方法を取った。一番わかりやすいのが、不朽から永遠への進化だ。メカニズム的には多くの類似点があるが、プレイの仕方は大きく異なっている。こちらに1/1の永遠クリーチャーが立っているときに、本当に攻撃してくるのか? 蘇って襲ってくるぞ! サイクリングや-1/-1カウンターもいくらかの進化を経ていて、リミテッドでも構築でもデッキの軸になるものが増えている。
しかし、私が一番エキサイトしている今日紹介するメカニズムは、督励だ。『アモンケット』では、クリーチャーは攻撃時にしか督励できなかった。そしてクリーチャーを督励することによる利益の中で一番多かったのは、そのクリーチャーを戦闘で一時的に強化するというものだった。これはフレイバー的には非常にわかりやすい話で、そのクリーチャーは物理的に全力以上の力を出して大胆な攻撃を仕掛け、あるいは致命傷を与えようとするのだ。これらのカードをフレイバー的にもメカニズム的にもまとめたことで、これらのカードについて理解しやすくなり、またプレイもしやすくなった。ブロックの第1セットとしては素晴らしいデザイン理念だ。
『破滅の刻』では、クリーチャーを督励する手段や理由について、さらなる多様性が求められているということがわかっていた。これは新奇なカードを見つけるという観点からも、またこのメカニズムに攻撃以外の方向性を与えるというプレイパターン的観点からもだった。ショーン・メイン率いるチームは、督励することで非常に強力な効果を持つ起動型能力をクリーチャーに与えるということを検討することにした。その最初のバージョンの1つが次のようなカードだった。
〈井戸探し/Well Seeker〉
{2}{G}
クリーチャー ― 人間・アドバイザー
1/1
超拡(あなたがこのクリーチャーの能力を起動するたび、これを次のアンタップ・ステップにアンタップしないことを選んでもよい。)
{T}:あなたのマナ・プールに{G}を加える。あなたが井戸探しを超拡していたなら、代わりにあなたのマナ・プールに{G}{G}を加える。
ショーンの最初の発想は、督励(当時は「超拡/overextend」)できる起動型能力を持つクリーチャーは元となる能力を持ち、督励することを選んだ場合にそのまま強化されるというものだった。強化すると通常の効果を2倍にするというものが多かった。
〈井戸探し〉は、毎ターン1マナ生み出すか、次のターン使えないという代償で2マナを1ターンに生み出すかのどちらでもできる(開発部語で言うところの)「マナ・エルフ」として非常にいい仕事をした。場合によっては、どちらが有利かが明らかなこともあった。大型クリーチャーを予定より1ターン早くプレイできるのだ。
また場合によっては、面白い選択をもたらすことになった。《森》が3枚と〈井戸探し〉が戦場にあって手札に《森》1枚と5マナのクリーチャー2枚と6マナのクリーチャー1枚があった場合、このターンに〈井戸探し〉を督励して6マナ・クリーチャーを出す代わりに次のターンに土地を引かない危険性を甘受すべきか、それともこのターンも次のターンも確実に5マナのクリーチャーをプレイできるようにすべきか?
しかしながら、両チームはすぐに、プレイがうまくいきこのパターンにハマるようなデザインは最初考えていたよりも少ないということに気がついた。例えば、タッパー(《扇持ち》など)を督励してクリーチャー2体をタップするようにすると、とどめを刺す準備以外ではほとんど督励することはなかった。ティム(《放蕩紅蓮術士》など)を督励して2点ダメージを与えるようなものをリミテッドで相手にするとイライラさせられるし、督励するかどうかの選択が明らかなことも多かった。このデザイン空間を掘り下げていけばいくほど、単純な「督励して2倍の効果」という構造から離れることが必要だとわかってきたのだ。
幸いにも、このセットのデザインが進んでいき、メカニズムのルールを文章に起こす作業に入った。周知の通り、仮名だった「超拡」は「督励」になり、テンプレートもいくらか変化した。このカードは最終的なものに近づき、こうなった。
〈進化版井戸探し/Updated Well Seeker〉
{2}{G}
クリーチャー ― 人間・アドバイザー
1/1
{T}:あなたのマナ・プールに{G}を加える。
{T}, 進化版井戸探しを督励する:あなたのマナ・プールに{G}{G}を加える。(督励されたクリーチャーはあなたの次のアンタップ・ステップにアンタップしない。)
起動型能力を分けたことで、2つの効果をメカニズム的にもフレイバー的にも関連していると感じさせたままで楽しいゲームプレイを生み出すように調整する自由度が大きく増えた。例えば、上述のティムはこのようなものにできたのだ。
〈勤勉な紅蓮術士/Hard-Working Pyromancer〉
{2}{R}
クリーチャー ― 人間・シャーマン
1/1
{T}:プレイヤー1人を対象とする。勤勉な紅蓮術士はそのプレイヤーに1点のダメージを与える。
{T}, 勤勉な紅蓮術士を督励する:クリーチャー1体を対象とする。これはそれに1点のダメージを与える。
これらの2つの能力は同じカードに存在していても違和感がないが、一方が他方の単純な倍になっているわけではない。また、同じ能力に両方の効果を持たせることは簡単にできることではない。
また、クリーチャーを督励することが必要な起動型能力1つだけを持つようなデザインを掘り下げることさえもできるようになった。こうして、追加ターンに攻撃やブロックできるようにすることと能力そのものを引き換えにするという選択になったのだ。
このセットのデベロップ中に、私のチームはこの督励のデザイン空間の新しい使い方を見つけた。一番クールな発想の1つはケン・ネーグル/Ken Nagleからの「プレイヤーが自分を督励してすごい呪文を唱えられるってのはどうだい」というものだった。これを表すようなデザインはどんなものだろうか。ケンは、すごいことをするがその後で土地がタップされたままになるという呪文のサイクルを提出したのだった。例示されたデザインを見た後、チームはそれを受け入れた。
なぜ呪文を唱えた後で土地がタップされたままになることを選ぶのかって? もちろん、それだけの見返りがあるからだ! つまり......
秘密は、事前に必要とするマナが非常に少ないのに効果が非常に大きいということだ。非の打ち所のない完全な《滅び》を第3ターンに唱えられたらどうだろう? 身にしみるだろう。
確かに、ある意味では2ターンに渡って合計6マナを「支払う」ことになるという面はあるが、ゾンビやドワーフ、蛇の大群に襲われるという状況なら、可能な限り早く全体除去が必要なはずだ。次のターンのことなんて気にしていられない!
そして私の経験上、いつ「構えを解く」べきか、カード1枚のためにマナ・カーブを投げ捨てるべきかという選択があるカードはプレイして本当に楽しいものだ。こういったカードをデザインすることもそうだ。こういったカードは最初、強さについて大量の非難を浴びることになるが、最終的には本当に楽しいパワー・レベルにできたと思っている。
皆さんには、督励が『破滅の刻』のリミテッドやスタンダードにもたらした楽しく印象深い選択や、比較的アグロ寄りでないデッキやプレイスタイルに上手く馴染む新しい督励のデザインを楽しんでもらいたい。ブースタードラフトの間には休憩を取って、あまり根を詰めてやりすぎないように。皆さんには......ああ、いや、なんでもない。
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