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意識の根源へ

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意識の根源へ

Adam Styborski / Tr. Tetsuya Yabuki / TSV Yusuke Yoshikawa

2016年7月5日


 ルーブ・ゴールドバーグ・マシン(ピタゴラ装置)がそれを作る労力に見合う働きをすることは滅多にない。だが確かに、取るに足らない動きが複雑に絡み合ったすえに、不合理極まりない結果を生み出す様は面白い。それと同様に、取るに足らないミスが複雑に絡み合ったすえに、大きなミスにつながることを人はつい見落としがちだ。終わりは唐突にやってくる――美しく連鎖する動きが突如止まり、不完全なままぶら下がるように。

 それは、扱いの難しいカードを使用する際に誰もが抱えるリスクだ。だが一風変わったカードを使うのが好きなら、常にそれと向き合わなければならない。例えば、本日ご紹介するルーブ・ゴールドバーグ・マシンを思わせる長いテキストを持った最新のカードがそうだ――《意識の拡張》をご覧あれ。

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 これほどの作品、間違いなく未熟な縫い師の手によるものではないだろうね。

意識を解き放て

 《意識の拡張》はシンプルなカードだ。対戦相手が各ターンに(どちらのターンでも)1つ目の呪文を唱えるたび、ライブラリーの一番上のカードが追放される。追放されたカードが土地でないものなら、こちらがそのマナ・コストを支払うことなく唱えられるのだ。類似の効果と同様に、この効果で唱える場合は通常の呪文を唱えるタイミングは適用されない。追放されたカードがクリーチャーやソーサリーでも、その時点で唱えることができる。シンプルだね。

 《意識の拡張》の英語名は「Mind's Dilation」だが、「Mind's」といえば有名なカードがあるね。「Mind's Desire」――《精神の願望》だ。コストも近く色も同じと、見た目はよく似ているこれら2枚だが、似ているのは見た目だけだ。《意識の拡張》はそもそも、《精神の願望》とは視点が異なる。自身のライブラリーを意識する必要はないが、対戦相手のライブラリーに注目するようになるのだ。

 《精神の願望》は強烈なコンボを生み出し、複数のフォーマットで禁止になった。マナを生み出す呪文を大量に唱えてから《精神の願望》へ繋ぐと、マナを支払うことなく自身のライブラリーから呪文を連打でき、その過程でさらに《精神の願望》が連鎖したのだ。一方《意識の拡張》は......まったく異なる動きを見せる。

 《意識の拡張》は、やられた側が気持ちよく受け入れられるようなカードではない。このカードは、「呪文を唱える」というこのゲームに必要とされる基本的なことを罰するのだ。《淀みの種父》をプレビューしたとき、私は「土地を戦場に出す」という基本的なことを罰することが、やられた側にとっていかに辛いかを述べた。《淀みの種父》と対峙する可能性があっても、土地を戦場に出すことは避けられない。《意識の拡張》を相手にする場合も、同じ壁に直面することになるのだ。ゲームを進めるための行動を起こすと、つまり何か呪文を唱えると、《意識の拡張》をコントロールするプレイヤーにタダで何かを与えてしまう。

 「懲罰者カード」と呼ばれることはないにせよ(「懲罰者カード」とは《うろつくセンザンコウ》のような能力を持ったものだ)、他にも基本的なことを罰するカードはたくさんある。

 他にもまだ、探せばいくらでも出てくるだろう(対戦相手が唱えるものを限定すればさらに多くなる)。だがここで重要なのは、《意識の拡張》はそれらとは異なる、一風変わった抑止手段であることだ。

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わかってきた?

 《意識の拡張》は、対戦相手が各ターンの最初に呪文を唱えたときにこちらが大きな恩恵を受ける、ということを主眼に置いたものではない。相手が呪文のプレイを躊躇することを活かした戦略を組むカードなのだ。《冬の宝珠》や《停滞》は「面白くない」と多くの声が挙がる悪名高いカードだが、《意識の拡張》のようなカードは相手の動きを完全に縛るものではない。

 だが《意識の拡張》とともに《淀みの種父》や《リスティックの研究》、それから《隠れ潜む捕食者》のようなカードも組み合わせれば、対戦相手は何をするのも嫌がるようになる。多人数戦で一歩抜きん出ることはできるものの、集中攻撃を受けるきっかけにもなるだろう。

 使う側にとっても使われる側にとっても、刺激になるわけだ。

 《意識の拡張》と組み合わせられるカードは他にもある。中には、君たちもすでに使っているものがあるだろう。

 私としては、「《意識の拡張》を中心にしたデッキをぜひ組んでみてくれ」と積極的におすすめしているつもりはない。それでも、対戦相手のライブラリーの一番上に干渉する手段が多くあることを鑑みると、もうひとつ採用を検討すべきカードがある。長きにわたって評価が定まっていない《上天への門》だ。ライブラリーの一番上のカードをコストなしに繰り出す効果を全員に与えるのは、リスクも大きい。だがあらかじめ対戦相手の繰り出すものを操作してしまえば、話は変わるだろう。

 ちなみに《上天への門》によって繰り出されたものは「唱えた」わけではないため、《意識の拡張》の能力は誘発しない、ということを忘れないでくれ。

 《意識の拡張》はきっと、統率者戦において「ここしかない」というデッキに巡り会えるだろう。強力な呪文に満ちた多人数戦のフォーマットは、《意識の拡張》のような能力にとってこの上なく活躍しやすい、希望に満ちた環境のはずだ。ただし、輝く星々が直列したとき何が起こるかはわからない、ということだけは伝えておこう。

 ああ、特に深い意味はないよ。

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