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床下から

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床下から

Blake Rasmussen / Tr. Tetsuya Yabuki / TSV Yusuke Yoshikawa

2016年3月24日


 今の聞いた?

 何かが軋む音。古い家がたてるような音が、繰り返し聞こえるんだ。

 音はだんだん大きくなってきてる。いや、ただの気のせいかもしれない。『イニストラードを覆う影』のプレビューなんかやってるから聞こえるのかな。たぶん――待って、聞こえた?

 ほら。なんかおかしいよ。まるで......

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やっぱり気のせいだよね。

 『イニストラードを覆う影』は、私たちがこれまで出会った中で最も感情に訴えてくるセットのひとつであり、フレーバーに満ちたこのセットのファイルを眺めるのはここ数か月の私の楽しみでした。そして本日ご紹介する《床下から》(こんなにぴったりな名前があるでしょうか?)は、フレーバーだけでなく強さも持ち合わせています。本日はこのカードについて、フレーバー面とカードとしての強さ、その両方をお話ししましょう。

フレーバー面

 まずはそのカード名から見ていきましょう。そう、カード名。『イニストラードを覆う影』には、この上なく見事な名前を持つカードがいくつかあります。名が体を表し、不気味な雰囲気を伝え、夜の帳が降りる世界へ皆さんを引き寄せるようなものが。中でも私のお気に入りは、《ただの風》、《罪人への急襲》、《驚恐の目覚め》、《絶え間ない悪夢》、《餌食》、そして《苦渋の破棄》です。

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個人的には、「Hungry like the Werewolf(狼男のごとき飢え)」という名前のカードがないのは残念ですね。

 私はあらん限りのヴォーソス魂にかけてカード名を大切にしますが、カードの持つフレーバーとそのアートが見事に噛み合ったそのとき、素晴らしいカード名をも超える感動が押し寄せます。《床下から》は基本的に3体のゾンビを生み出します(もちろん、タップ状態で)。そこでアートを見ると? ゾンビが3体いますね。このアートは、きちんと決められたものなのです。当時のアート概要をご覧ください。

舞台:イニストラード

色:黒の呪文

場面:木の床が敷かれた室内 (詳細は以下を参照)

状況:木製の床板が朽ちるほど時間が経っている霊廟か教会を想像してほしい。床板は抜け、空いた穴から3体のゾンビが這い出てきている。ゾンビたちは腐った木に手をかけ登る。新鮮な肉を求めて。

アートの中心:ゾンビたち

全体の雰囲気:ぞっとするような恐怖。大昔からの防御が弱まっている!(地下に閉じ込めれば大丈夫だと思っていたのに!)

 この雰囲気をさらに強めているのが「マッドネス」能力です。確かに、普通に唱えても悪くないのですが――ソーサリー・タイミングでは忍び寄るゾンビを表現しきれません。それに、出てくるゾンビも3体だけです。勇敢なプレインズウォーカーなら3体くらい対処できるでしょう。

 しかし「マッドネス」が機能した場合は? 3体だったはずのゾンビは突然5体、7体、13体にも膨れ上がるのです! さらに、例えば《ヴリンの神童、ジェイス》が真相に近づいた瞬間、どこからともなくゾンビの群れが襲いかかります。また、《忍び寄る驚怖》も現実のものとなるでしょう。

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 いずれの方法でも、「マッドネス」が機能すれば戦場にはゾンビがはびこることになります。そんな光景を目撃したら、発狂してしまうかもしれませんね。

カードとしての強さ

 「マッドネス」について語るなら、『マジック・オリジン』で登場し『イニストラードを覆う影』導入後のスタンダードでも使用できるこのカードなしには語れないでしょう。

回転

 ね、誰もが――それこそ皆さんのお母さん、お祖母さん、おじさん、いとこ、またいとこ、親友、大学の友人、今はもう疎遠になったFacebook上の友人、明らかにフリーWi-Fiを利用するためだけに喫茶店に入った客、そして皆さんの飼っている犬まで、きっと「マッドネス」を持つカードと《ヴリンの神童、ジェイス》を絡めて話すことでしょう。私もそうですし、《床下から》も《ヴリンの神童、ジェイス》なしには語れません。《ヴリンの神童、ジェイス》+「マッドネス」=強い。以上です。

 そして、《床下から》に注目すべき理由はまさにそこにあるのです。

 《ヴリンの神童、ジェイス》は、呪文が豊富なデッキでこそ力を発揮します。できれば「変身」後も活かしたいところですよね。その点ではコントロール・デッキ、特にゲームを長引かせるのが得意なものは《ヴリンの神童、ジェイス》をうまく扱えるでしょう。それから、《教団の歓迎》との相性は言うまでもありません。《教団の歓迎》は《ヴリンの神童、ジェイス》と同じ色ですし、昨今ではクリーチャーが採用されていないデッキは極めて珍しいですから。

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私たちのクラブへようこそ! これが君の分のマントだ。不気味だろう。水曜はタコス・ナイト。火曜はお楽しみだ。

 それでも、こちらがゲームをうまく運びコントロールしきったら、《教団の歓迎》は対象を失ってしまうでしょう。青黒のコントロール・デッキたるもの、すべてを除去し尽くしたくなるのも仕方ありませんよね?

 その点《床下から》は、対象不在の問題に悩まされることはありません。「マッドネス」できるなら望むところです。このカードに限ったことではありませんが、「マッドネス」を持つ呪文を捨てた場合は直接墓地へ行かず、(すでに墓地に5枚のカードがあるのでない限り)《ヴリンの神童、ジェイス》は「変身」しないということは覚えておいてください。これをうまく活かすことで、《ヴリンの神童、ジェイス》はより長い時間にわたり最高の《マーフォークの物あさり》として活躍してくれるのです。

 ゲーム序盤に1体か2体のゾンビを繰り出しつつライフを少し回復する、という動きも文句なしですね。ではゲーム後半は? マナが十分に貯まったらどうなるでしょう? 《スフィンクスの啓示》ならぬ「ゾンビの啓示」とも言うべき、ゾンビらしい決定打になるはずです。しかも「マッドネス」の持つ狂ったルールにより、それはインスタント・タイミングで唱えることができるのです。

 「マッドネス」が新たなスタンダード環境を襲撃し、このカードが多く見られるようになる日が目に浮かぶようです。この呪文を唱えるたびに(きっと頻繁に唱えることになるでしょう)、私はその強さに楽しくなってつい声をあげてしまうでしょう。

「来るぞ――床下から!」

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