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死者の王、ケルゥ――可能性のかたまり
死者の王、ケルゥ――可能性のかたまり
Bruce Richard / Tr. Tetsuya Yabuki / TSV Yusuke Yoshikawa
2014年9月9日
みんな新カードが欲しいかい? そうでなくっちゃね。早速どうぞ!
うわ、超すげえ! さいっこうのカードだ! ただ地面から6フィート下に埋まってるだけのはずの死んだクリーチャーたちが、止めることのできない爆風となって即ダメージを喰らわすなんて! 抽選マシーンからピンポン球をひとつ取って、それに合った死体を掴んで投げ飛ばし、戦場を越えて相手にぶつける、なんて光景が思い浮かぶね。死んだ兵士をその死体まで有効に使い切れるなんて、ありがたいなんてもんじゃない! こりゃあきっと、とんでもないことになるぞ! 《死者の王、ケルゥ》が持つ色の組み合わせは黒、緑、青の3色だから、墓地を肥やすのだって簡単だ! こいつでみんなをやっつけてやる! 早くこいつをちょうだいちょうだいちょうだい!
オーライ、つい興奮してはしゃぎすぎてしまった。ここでひとつ深呼吸して、今回僕たちが手に入れたものをじっくりと見ていこうじゃないか。
見た目
《死者の王、ケルゥ》のコストは{3}{B}{G}{U}の6マナだ。重くて唱えられないなんてことはないけれど、3色の組み合わせはデッキの選択肢を狭めるね。また6マナということで、早い段階での登場も期待できない。それから、こいつ自体は除去耐性のない4/4のクリーチャーだ。能力を使うチャンスが全くないなら、6マナもかけて繰り出してもわくわくしないよね。とはいえ、タフネス4のクリーチャーは多くの火力呪文に耐性がある。除去呪文から身を守るすべは持っていないものの、4点ものダメージが必要になる赤にとっては厳しいものだろう。
そして、画面の向こうの統率者プレイヤーたちに悲報がひとつ――こいつは伝説のクリーチャーじゃないんだ。《死者の王、ケルゥ》が兵隊を率いて戦いに赴くことはない。「死亡したクリーチャーを対戦相手に向けて放つ」という彼の能力は、統率領域に据えて置けるものじゃないんだ。それでも、対戦相手の誰かがあと1回の統率者ダメージで倒れるという状況に備えて、次のことを覚えておくといいだろう。君の統率者を慌てて統率領域に戻さなければ、それはたった3マナで飛行とトランプルを持つことができるぞ! それから、《死者の王、ケルゥ》が4枚入った60枚デッキも面白そうだね。こいつの能力を2体同時に起動しようものなら、そのターンはきっと愉快なものになるはずさ!
中身
僕たちみんなが気になって仕方がないのは、その能力だ。ここでゆっくりと見ていくことにしよう。ぱっと見ではわからない良い点と悪い点が確認できるからね。
極めて限られたタイミングだね。これはつまり、《死者の王、ケルゥ》をプレイしたターンには能力が発揮されない、ということだ。次のターンまでこいつを守り切ってはじめて、その能力が使えるってわけさ。こいつを使うなら、「瞬速」のタイミングでクリーチャーを出せる手段の価値が、ただ自分のターンにすぐ攻撃できるという以上のものになるだろうね。
《死者の王、ケルゥ》の能力を使うには、ターンのはじめにそのコストを支払わなくちゃいけない。対戦相手がこちらのターンに何を仕掛けて来るかはわからないし、そのターンのドローすらまだわかっていないタイミングだ。ターンのはじめに持っている情報だけで、コストを支払うかどうかを判断することになるんだ。そこでコストを支払えば、そのマナは戦闘中のコンバット・トリックや他の呪文に(ブラフにも)使えず、対戦相手のターンにも使えなくなる。10マナ以上あるなら3マナなんて大したことじゃないけれど、6マナのうち3マナを支払うとなればその見返りは絶対に欲しいし、必ずしも毎ターンのアップキープに支払うべきものでもないかな。
《裏切り者の王、セドリス》と比べてみよう1。
《裏切り者の王、セドリス》も、墓地のクリーチャーを「蘇生」するために同じマナがかかる。ところが、「蘇生」はソーサリー・タイミングで使えるんだ。だからドロー・ステップを迎えてからで大丈夫だし、また戦闘前のメイン・フェイズをいっぱいに使って、対戦相手の妨害手段を先に引き出すことができるんだ。
支払うタイミングはアップキープだけど、これがアップキープ・コストってわけじゃない。毎ターン必ず支払うものじゃないんだ。こいつのコストを支払いたくないターンはきっとあるだろうから、これはいいことだね。ただ、「支払ってもよい」って書いてあるから、能力を使うのを忘れてドローまで行ってしまった場合、アップキープまで巻き戻すのを許してくれないことが多いだろう。僕の仲間たちはたぶん許してくれるけれど、僕からそれを求めることはしないかな。一度ドローするカードを見てしまったら、そこからアップキープに戻して《死者の王、ケルゥ》の能力を使うなんてフェアじゃないからね。もし君たちのプレイ・グループがルールに厳しいところだったら、それ以上のペナルティを喰らうことになるかもしれないよ。
ちなみにこの文言だと、コストを一度に複数回支払うことは一切できない。対象がランダムに選ばれるなら、お目当てのクリーチャーを引き当てるまで何度も使いたいところだけどね。《裏切り者の王、セドリス》による「蘇生」は1ターンに複数回起動できるけれど、《死者の王、ケルゥ》は運次第ってわけだ。
このランダム性こそが、この能力の威力をやや抑えている。墓地に小粒なクリーチャーがいくつかあって、それから序盤に強大なクリーチャーを捨てさせられたとしよう。どのカードを墓地から戦場に呼びたいかは明確だが、お目当てのものが当たるかどうかは運に左右されるんだ。《裏切り者の王、セドリス》の場合は好きなカードを選べるから、墓地から呼び寄せるのはもちろん、疑問の余地なく強大なクリーチャーの方だ。僕としては、《裏切り者の王、セドリス》をプレイした時点でまだゲーム序盤なら、《真面目な身代わり》を「蘇生」させて土地を増やすかな2。デカい奴も素敵だけど、まだ土地を伸ばす段階ならそうするね。《死者の王、ケルゥ》だと、それも運に任せるしかないんだ。
このランダム性は《死橋の詠唱》を思い起こさせるね。
ちゃんと準備してから使ってやらないと、《死橋の詠唱》は無駄な土地やそのときは活躍できないインスタントなんかを持ってきちゃうんだ。《死橋の詠唱》を思い通りに活用するには、墓地を本当に欲しいものだけできちんと整えておくことが大切なんだよ。こういった「墓地の管理」は、《死者の王、ケルゥ》を使うときもぜひ意識しておきたいね。《死者の王、ケルゥ》がもたらす利点は、クリーチャーのみに集中している。ランダムに戻すのはクリーチャーだけだから、墓地を整えるためにやらなきゃいけないことも比較的少なく、墓地の管理も難しくないはずだ。《死橋の詠唱》と驚くほど相性の良かった《死儀礼のシャーマン》が、同じように《死者の王、ケルゥ》とも相性抜群だろう。
《死者の王、ケルゥ》は確実性を失った代わりに、回避能力でそれを補っている。《裏切り者の王、セドリス》は好きなクリーチャーを戦場に戻せるけれど、攻撃を通す手段がなければ、そのまま攻撃は通せないままだ。その点、《死者の王、ケルゥ》が呼び戻したクリーチャーは止まらない! 墓地から戻った大型クリーチャーが飛行とトランプルを持てば、対戦相手にダメージを与えるか、あるいはクリーチャーを何体か仕留めることになるだろう。
こうやってはっきりと攻撃を支援する形に向かっているのが、僕は大好きだ。もちろん複雑なコンボっぽい動きもできるけれど、《死者の王、ケルゥ》が本当に望んでいるのは、一時的にせよ戦場に加わったクリーチャーをタップして、突破口に送り込むことなんだ。こちらのアップキープに戦場へ戻るなら、そのクリーチャーをブロックに使うことはないよね。それなら投げ飛ばしてやろう!
この文言によって、繰り返し墓地からクリーチャーを戻そうという試みはすべて閉ざされる。手札に戻す? 死亡させる? 生け贄に捧げる? どんな手段をとっても、結果は「追放」されるんだ。《死者の王、ケルゥ》は墓地からクリーチャーを呼び戻してくれるけれど、それはそのターン限りだ。それ以上はダメ。不正はなしだ。
さて、《死者の王、ケルゥ》を使うなら、どんなデッキがお望みかな?
4 《森》 2 《沼》 1 《島》 3 《草むした墓》 2 《繁殖池》 2 《湿った墓》 3 《新緑の地下墓地》 2 《霧深い雨林》 2 《汚染された三角州》 3 《ボジューカの沼》 -土地(24)- 4 《死儀礼のシャーマン》 4 《激浪の幻惑者》 4 《酸のスライム》 4 《叫び大口》 4 《墓所のタイタン》 1 《グリセルブランド》 4 《死者の王、ケルゥ》 -クリーチャー(25)- |
4 《納墓》 2 《ガイアの恵み》 2 《砕土》 3 《死橋の詠唱》 -呪文(11)- |
僕は自分のデッキには必ず何かしらの除去を入れたいと考えている。対戦相手が好きなようにクリーチャーを使えるというのは、ただただ危険だ。《死者の王、ケルゥ》を中心にしたデッキなら、戦場に出たときや対戦相手に戦闘ダメージを与えたときに他のクリーチャーを除去できるものが欲しい。《死者の王、ケルゥ》はそれらの強さを倍にしてくれるからね。
《叫び大口》はすんなりと採用されるだろう。それ単体でも十分な脅威になるし、すぐさま除去しなきゃならないものがあるけどマナが足りないときには、「想起」してやればいい。《酸のスライム》は万能ツールで、どんな厄介なパーマネントでも戦場に出たときに除去してくれる。こういったクリーチャーを2回使えるようにしてくれる《死者の王、ケルゥ》は、まさに夢のようなカードだ。
《激浪の幻惑者》も「除去」のカテゴリーに含めるつもりだ。クリーチャーを除去するわけじゃないけれど、そのクリーチャーが対戦相手のもとからいなくなるのは変わらないから、もちろん良いことだ。しかも、クリーチャーを奪い取っても取らなくてもどうせ《激浪の幻惑者》はターン終了時にいなくなるから、心置きなく生け贄に捧げられるね!
《墓所のタイタン》と《グリセルブランド》はこのデッキの主砲だ。それらが飛行とトランプルと速攻を持てば、とんでもない一撃を加えることだろう。また《墓所のタイタン》は、自身がいなくなっても戦場に残るゾンビの仲間たちを連れてきてくれる。《グリセルブランド》の方はクリーチャーを残したりしないけれど、大量のドローをもたらすその能力はきっと厄介な状況を抜け出す助けになるだろうし、墓地にカードを送りたいときにも役に立つだろう。
《納墓》は《死者の王、ケルゥ》で手札に戻ってくるわけじゃないけれど、必要なクリーチャーを探して墓地に放り込んでくれる。いいタイミングで《ボジューカの沼》を置き、続けて《納墓》をプレイすれば、次のアップキープにはお目当てのクリーチャーを戦場に戻せるってわけさ。
《死儀礼のシャーマン》は墓地の余分なクリーチャーを省いて、《死者の王、ケルゥ》の不安定さを和らげてくれる。墓地に落ちる土地もたっぷりと採用したから、クリーチャーを直接唱えて戦場に出したい場合は《死儀礼のシャーマン》がマナ加速の役目も担ってくれるはずだ。さらなるマナ加速には、《砕土》と《ガイアの恵み》が役立つだろう。少なくとも6マナは素早く用意したいからね。
《死者の王、ケルゥ》みたいなカードには、使い道がたくさんある。ぜひとも君たちの中に眠る「ジョニー」を解き放ってくれ。《死者の王、ケルゥ》を使ったデッキは毎週組み直してもいいくらいで、そうすれば君たちの友人は次にどんなものが来るのかまったく予想できないだろう。近い将来、君たちが遊ぶカジュアル環境を《死者の王、ケルゥ》が侵略することになると、僕は信じているよ!
ブルース・リチャード (@manaburned) / mtgseriousfun@gmail.com
脚注1
この比較に問題はないね。《裏切り者の王、セドリス》は《死者の王、ケルゥ》とかなり似通っていて、知名度も高い。僕はこんな風に新しいカードと昔のカードを比べるのが好きなんだ。話に挙がっている新しいカードの良さが、よりわかりやすくなるからね。(戻る)
脚注2
そうそう、《真面目な身代わり》を墓地から戻しても、ターンの終わりにドローはできないよ。《真面目な身代わり》がカードをもたらすのはこれが「死亡」したときで、「追放」されたときはその能力が誘発しないんだ。《裏切り者の王、セドリス》も《死者の王、ケルゥ》も、ターンの終わりに墓地から戻したクリーチャーを「追放」するからね。(戻る)
脚注3
そうとも、その通り。死亡した統率者を墓地に残して《死者の王、ケルゥ》で再び戦場へ戻すと、その後追放された統率者は「統率領域」へ行き、再度プレイして同じ動きができる。まあ僕の言っていることもわかるよね。(戻る)
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