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『テーロス』のデベロップ
『テーロス』のデベロップ
Erik Lauer / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2013年9月9日
こんにちは。私は、『テーロス』のリード・デベロッパーを務めたエリック・ラウアー/Erik Lauerです。今までもいくつものデベロップ・チームに所属していましたし、いくつかではリーダーを務めてもいました。最近私がリーダーを務めたセットは、『イニストラード』『ラヴニカへの回帰』『Modern Masters』が挙げられます。
今回、私は皆さんに『テーロス』のデベロップに関する裏話をしようと思いますが、その前に、デベロップ・チームの紹介をします。
ダグ・ベイヤー/Doug Beyer
彼は『テーロス』のクリエイティブ・チームのメンバーです。このセットがうまくプレイできるようにするだけでなく、彼はカード・ファイルとクリエイティブの展望がデベロップ中に進化していくようにするという責任を負ってくれました。
ザック・ヒル/Zac Hill
彼は『マジック2013』や『ドラゴンの迷路』のリード・デベロッパーで、ウィザーズ在籍中には多くのデベロップ・チームに所属していました。1年ほど前まで、彼はこの公式コラムでLatest Developmentの執筆をしていました。
デイブ・ハンフリー/Dave Humpherys
彼は上級デベロップ・マネージャーで、デベロップ・チームの監督をしています。彼は多くのデベロップ・チームに名を連ねており、『アヴァシンの帰還』や『ギルド門侵犯』ではリード・デベロッパーを務めました。
トム・ラピル/Tom LaPille
彼は経験豊富なデベロッパーで、『基本セット2010』から多くのデベロップ・チームに所属しています。『基本セット2012』や『闇の隆盛』ではリード・デベロッパーを務めました。また、彼はLatest Developmentのコラムを書いていたこともあります。
ショーン・メイン/Shawn Main
彼は『テーロス』のデザイン・チームのメンバーです。デベロップ中にこのセットをうまく働くようにするだけでなく、彼はデザインが下した選択の理由を説明するために会議に参加していました。そのおかげで、デベロップはカードに関するデザインの目標と、デベロップの目標のバランスを取ることができたのです。ショーンは私のデベロップ・チームに、『ラヴニカへの回帰』『Modern Masters』そして『テーロス』とよく参加しています。
カード・デベロップ譚
プレビューをチェックしている皆さんは、なぜこんなテキストになっているのかと不思議に思うカードを目にしているかもしれません。カード・デベロップ譚をお聞かせしましょう。
デザインがセットを手がけ、そして「デヴァイン」と呼ばれる期間が訪れます。この期間は、デザインがセットを手がけていますが、デベロップからのフィードバックが頻繁に送られます。そして最終的にはデザインからデベロップにセットが渡されます。デベロップ中には、ほとんど変更なしで通過するカードもありますし、大きく変更されるカードもありますし、まったく違うカードで差し替えられるカードもあります。
デベロップの開始時には、《パーフォロスの試練》は:
〈情熱的な旅路/Passionate Journey〉
{R}
エンチャント
エンチャント(クリーチャー)
エンチャントされているクリーチャーが攻撃するたび、それの上に+1/+1カウンターを置く。
エンチャントされているクリーチャーの上に3つ以上の+1/+1カウンターが置かれている限り、それはトランプルを持つ。
私はこのカードには可能性があると考え、マーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterはこのカードが大好きでした。デベロップ・チームの中にはこのデザインが気に入らないメンバーもいました。もしクリーチャーに3つの+1/+1カウンターが置かれる前に倒せなければ、巨大クリーチャーに殺されるまでのわずか数ターンの猶予の間に除去を引かなければならないのです。マークはこのセットに、達成という雰囲気を与えたいと考えていた。私はこれをエンチャントが死亡し(つまりクリーチャーが大きくなり続けるのではなくなり)、何らかの見返りを得る調整を提案しました。デベロップ・チームの他のメンバーもその変更を気に入ったので、次はふさわしい見返りを探すことになりました。
デベロップの開始時には、《世界を喰らう者、ポルクラノス》は:
〈ハイドラの格闘/Fight O' Hydra〉
{2}{G}{G}
怪物化 ― {X}{G}{G}{G}:プレイヤー1人を対象とする。[カード名]の上に+1/+1カウンターをX個置く。それはそのプレイヤーがコントロールするすべてのクリーチャーと格闘を行う。この能力は各ゲームで1度しか起動できない。(この能力は働かない)
4/4
注釈文を見て、私はデベロップのコメントを確認しました。
Del 7/6: 差し替え用カードを探し中
Del 7/23: まだ差し替え用カードを探し中
コメント主はなんと編集のボス、デル・ロージェル/Del Laugelでした。格闘はクリーチャー2体によってのみ行われるものです。マークにどういう能力にしたかったのかを尋ねたところ、マークは対戦相手1人のクリーチャーそれぞれと格闘するようにしたかったそうです。そこで私はこんなテキストに差し替えました。
怪物化 ― {X}{G}{G}{G}{G}:プレイヤー1人を対象とする。[カード名]の上に+1/+1カウンターをX個置く。それはそのプレイヤーがコントロールする各クリーチャーにそれぞれそのパワーに等しい値のダメージを与え、その後それらのクリーチャーはそれのパワーに等しい値のダメージを[カード名]に与える。この能力は各ゲームで1度しか起動できない。
Del 7/31: これなら動く!
私はマークとこれについて話しあいましたが、彼は順番に格闘するようにしたかったそうでした。順番? それをカード上で表現する方法は見つからなかったので、編集を頼むことにしました。確かに面白そうだけれど、全てのクリーチャーと同時に格闘するしかできなかったのです。
新しい問題として、このカードは緑らしいとは言えませんでした。盤面の反対側に存在する全てのクリーチャーを除去して、自分も死ぬ。これは大型の緑クリーチャーらしいと言うより、むしろ《疫病風》の振る舞いに近い振る舞いです。私たちは何度か繰り返し、そしてやがて私はこの強さは起動型能力にあるのではないかと考えました。そこでこの起動型能力を弱め、代わりにハイドラ本体を5/5にしました。これでプレイしても楽しく、もっと緑らしいものに仕上がったのです。
神々とその武器
デザイン・チームは神々に考えを巡らせましたが、完成したカードになるまでの道のりは非常に長いものでした。デザインの最上の部分は、神々がどういうもので、このブロックにどう関係するのかという物語の部分でした。面白いデザインも存在していました。例えば、黒の神は元々こんなデザインでした:
〈ダイモーン/Daimon〉
{3}{B}{B}{B}
伝説のクリーチャー・エンチャント ― 神
神性(この神がニクス以外のいずれかの領域から戦場に出る場合、代わりにこれをニクスに置く。あなたのこれの色への信心が0であるとき、これをニクスから追放する。戦闘開始時に、あなたのこれの色への信心が5以上である場合、あなたはこの神を速攻を持った状態で戦場に出してもよい。そうしたならそのあとこれを戦闘終了時にニクスに戻す。)
[カード名]がニクスか戦場にあるかぎり、あなたはあなたの墓地からクリーチャー・カードを唱えてもよい。
5/4
このカードの中で、この神を他の神と違うものにしているのは「あなたはあなたの墓地からクリーチャー・カードを唱えてもよい」という部分だけで、カードの文章欄的にもそれ以上書くことができません(普通よりも小さめのフォントを使ってさえです)。このカードはプレイしても面白いのですが、問題はこのブロックには合計15柱の神々が存在する予定だということで、これだけの文章量では15種類の差別化できたデザインを描くことはできないのではないかと考えました。
私はいろいろな人に、何が好きで何が嫌いかを聞いてみました。神と聞いて何を想像しますか? と。人々が神々と聞いて真っ先に連想したのは、その不滅性でした。充分な信心がなければ攻撃したりブロックしたりできないというのもよかったようです。統率者戦のプレイヤーは、神々が統率者になりうるということに興奮していました。
私はそれらすべてを活かしたまま、文章を短くしようとしました。不滅性を表すのにもっとも自然な表現は、「破壊不能」です。ニクス関連の文章はクリエイティブ的にはふさわしいものですが、あまりに複雑すぎます。ここで私は『ミラディンの傷跡』の《錆びた秘宝》のことを考えていました。元の神のデザインで、もし対戦相手のクリーチャーを全て除去したなら、神も去ってしまいます(信心の源となるクリーチャーでないパーマネントがなければ)。私は神々と他のクリーチャーにはもっと大きな差を付けたかったので、この文章を取り除きました。この変更によって、他の文章を書くための場所が広がったのです。
初稿は:
〈ダイモーン/Daimon〉
{4}{B}
伝説のクリーチャー・エンチャント ― 神
威嚇
[カード名]は破壊されない。
あなたのアップキープの開始時に、対戦相手を対象とする。そのプレイヤーはX点のライフを失う。Xはあなたの黒への信心に等しい。
あなたの黒への信心が5以下であるかぎり、[カード名]はクリーチャーではない。
8/5
私たちはこの版でプレイしてみて、テンプレートには問題はありませんでしたが、ルールが間違っているとわかりました。このクリーチャーが攻撃できるようになると、毎ターン対戦相手のライフを5点ずつ減らします。パワー8で攻撃するのは過剰というものです。神々ははっきりと有効でなければなりませんので、方向性は間違っていないと考えました。
カードを1枚捨てることでクリーチャーを再生できるようにするという黒の神を試してみました。とてもクールでしたが、いらつかせるものでした。基本的に、カードを引く呪文と組み合わせると、他のクリーチャー全てを破壊不能にする破壊不能なエンチャントのできあがりです。
最終的に、私たちは現行の版にたどりつきました:
武器にはまた別の問題がありました。タイプ行です!
デザインが作ったのは、こういうものでした:
〈太陽の投げ槍/Sun Javelin〉
{1}{W}{W}
アーティファクト・エンチャント ― 装備品
装備しているクリーチャーは「{T}, [カード名]をはずす:攻撃かブロックしているクリーチャー1体を対象とする。[カード名]はそれにX点のダメージを与える。Xはあなたの白への信心に等しい。」を持つ。
装備 {6}
クリエイティブはこれを伝説のパーマネントにすることにこだわりました。編集は、タイプ行に入りきらないと言いました。2行入る新しい枠が必要になります。しかし、今回は新枠を導入しているので、文字数を減らすことにしました。
ルール・マネージャーのマット・タバック/Matt Tabakにアドバイスを求めたところ、彼は、装備品であればアーティファクトでなければならないと言いました。デベロップ・チームは、クリーチャーにつくものとしてはオーラを使うことにしていましたので、装備品でないとすればこの環境でよりくっきりと浮き立つと考えました。私たちは、神々の武器がそのアーティファクト性からタップ能力を持つことにし、そのエンチャント性から常在型能力を持つことにしました。
これで、このサイクルが持つものについての基本的な考えが固まりました。それではデザインです。
私は通常のデベロップを1週間中断して、「ミニチーム」を組織するというのが好きです。このセットのデベロップ・チームのメンバーそれぞれにファイルのうち一部分を任せ、他の3人のメンバーとチームを組ませます。このことにはいくつかの利点があると私は思っています。まず、これによってセットの各部分により独特な雰囲気を与えられます。さらに、デベロップ・チームに完全に所属する時間はないという人たちを取り込んで構想をもらうことができます。そして、経験の浅いデベロッパーにも、より影響の小さい形で1週間のリーダー経験を与えることができるのです。各チームはこのセットにいろいろなものをもたらしてくれました。
私は神々と武器に関するミニチームのリーダーとなりました。他のメンバーは才能豊富なゲーム・デザイナーですが、それだけでなくそれぞれがチームに独特な視点を与えてくれました。
マジックの首席デザイナーであるマーク・ローズウォーターは、神々それぞれがすることという展望をもたらしてくれました。彼はとても忙しいので、最後の会議には参加できませんでした。
マジック開発部ディレクターのアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheはマークの代わりに最後の会議に参加してくれました。彼はカードをデザインするだけでなく、出来映えに不満なカードを見付けたら、それをどうすべきか指示してくれるのです。幸いなことに、この指摘は今回発生しませんでした!
組織化プレイ・プロジェクト・マネージャーのチャールズ・ラプキン/Charles Rapkinは、経験豊富で楽しい統率者戦のプレイヤーです。神々は伝説のクリーチャーなので、統率者戦への楽しい追加になるようにしてくれました。
ライアン・スペイン/Ryan Spainは優秀なドラフト・プレイヤーです。このサイクルは神話レアやレアですが、10枚も存在するので、ドラフトにも影響を与えます。ライアンはドラフトで強すぎず、かつ魅力的になっているかどうかというところに焦点を当てました。
最後に、リード・デベロッパーである以上に、私は競技プレイヤーの役割を担いました。これらのカードを使ってデッキを組みたいか、そして神々のデッキに武器を入れて意味があるかどうかが問題です。
私たちは神々5枚とそのそれぞれの武器5枚、あわせて10枚のカードを作りました。私はナイレアのものに一番注意を払いました。弓矢としていいものができたかどうか不安でした。弓矢と言えば強力な殺傷兵器ですが、緑はクリーチャー除去に長けた色ではありません。しかし、アーロンは4つの季節を表す4つの能力を持たせるというすばらしい構想を持っていました! そこでできたのがこれです:
もちろん、最初のデザインが存在し、その後でプレイしていくうちに変更されていきました。しかし、このチームは誇りを持ってデザインを作り上げたのです。
黒や赤でエンチャントに対処する
黒にも赤にも、戦場からエンチャントを除去する手段はありません。赤は、エンチャントを速度で凌駕するデッキにしたいと思いました。黒はよりコントロール的な戦略を採ります。通常、新セットにどんな呪文が入っていようと、あるいはデッキにどんな呪文が入っていようと、それを取り除くことができる《思考囲い》はスタンダードでは強すぎると思っています。《思考囲い》はゲームを正常な状態よりも縮小とカード・アドバンテージの方向に向かわせます。しかし、時折存在するのなら問題ない場合もあると思いますし、今回はその時折にあたります。
残念なことに、フューチャー・フューチャー・リーグ(FFL)を始めてみると、それだけでは不充分だということがわかってきました。アーティファクト、エンチャント、プレインズウォーカーが『テーロス』には存在し、黒はそのどれにも対処できないのです。そこで、FFLの何週間かを費やして黒のデッキを赤のデッキと似た振る舞いをするまで高速化することにしました。私は何かを変えなければならないと判断し、その変えるべきものの構想もありました。しかし、その構想だけでは不充分だと考えた私は、マークにアドバイスを求めたのです。
マークが『イニストラード』をデベロップに渡したとき、彼は緑はクリーチャーが墓地にあることで有利になり、青はライブラリー破壊に長けているので、緑青のドラフト・デッキは自分のライブラリーを削ることになるという意見を持っていました。デベロップの期間を通して、私たちは戦場に出たときに自分のライブラリーを削る《甲冑のスカーブ》や自分の墓地にあるカードをライブラリーに混ぜて切り直す《記憶の旅》、《記憶の旅》のような追放されたフラッシュバック・カードを戻す《ルーンの反復》、エンジンを回す時間を稼ぐためにライフを得る《骨までの齧りつき》といったカードを追加していきました。このセットが世に出たとき、この変更によってマークのジョニー的感覚は興奮しているだろうと思っていたのですが、実際はマークは《ルーンの反復》がセットに入っていたことを残念に思っていたのです。
マークが、追放されたカードを戻すことを一般的に嫌っているのは知っていましたが、この小さな例外によってこのセットのプレイに充分得るものがあると考えていました。『イニストラード』後、私はマークの指針を回避するのではなく、マークにチェックしてもらうことを学んだのです。
アート:Ryan Pancoast |
マークはカラー・パイの管理をしているので、私は彼にFFLにおける黒の問題を説明しました。マークは少し考え、そして「黒はプレインズウォーカーを殺せるよ」と答えました。プレインズウォーカーを殺せるだけのカードでは、1マナだとしてもスタンダードでは弱すぎると言うと、彼は、クリーチャーかプレインズウォーカーを殺せるカードを作ればいいと言いました。それは想像の範囲内でしたが、次にマークが言ったのは想像を超えていました。プレインズウォーカーを殺すのはレアなことだ、というのです。
私たちはFFLで《英雄の破滅》をプレイし、黒はこのカードの柔軟性で、黒の持つ問題に対処する道具を手に入れ、コントロール戦略を取り戻せるとわかりました。一方で、軽い除去呪文がデッキでうまく働くことがよくありました。これは私にとって重要なことで、《英雄の破滅》は『テーロス』、そしてスタンダード環境にしっかりと追加されたのです。皆さんが私たちと同じようにこれを楽しんでくれれば幸いです!
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