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とびっきりの6品をあなたに――プロツアー『神々の軍勢』プレビュー

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とびっきりの6品をあなたに――プロツアー『神々の軍勢』プレビュー

Rich Hagon / Tr. Tetsuya Yabuki / TSV Yusuke Yoshikawa

2014年2月17日


 マジックは、どんな環境で遊んでもこの上なく素晴らしいゲームです。キッチン・テーブルを囲んでも、地元のお店に足を運んでも、プレリリースやゲームデーに参加しても、プロツアー予選に挑んでも、グランプリ参戦のため海外に渡っても......どんな場所でも、マジックは私たちを迎えてくれるのです。さらに、たとえ実際にプレイしなくても、「試合の観戦」という形で楽しむことだってできます。「マジックの試合を観戦したい」という声はもはや押しとどめることができないほどに膨らみ、今ではそんな「貪る目玉」たちを満足させる手段もたっぷりと用意されています(マジック開発部の皆さんへ:「貪る目玉」というカードを将来のセットに収録してください。よろしく)。「Magic Online」配信者の放送はもちろん、有志によって店舗にフィーチャー・マッチ・エリアが作られ、フライデー・ナイト・マジックやその他大会の様子が配信されているところもあります。それからコミュニティ・カップやスーパー・サンデー・シリーズ、そして高レベルの競技イベントであるグランプリまで、それぞれのプライドや賞品のパック、トロフィーや栄光、そして賞金をかけた戦いを、私たちは好きなだけ観戦できるのです。

 しかしなんと言っても、プロツアーほど魅力的なイベントはないでしょう。プロツアーが最高のビッグ・ショーであるのは疑いようがありません。マジックの歴史をたどっても、プロツアーの舞台では幾度となく劇的な瞬間が生まれてきました。《稲妻のらせん》や《ラクドスの復活》のトップデッキには、心の底から湧き上がるような感動を覚えたはずです。また、その環境の完全な解答となるコンボ・デッキやコントロール・デッキが登場し得るのも、プロツアーです。あるいは、マジックの歴史が塗り替えられるような勝利につぐ勝利を目にするかもしれません。ときには、勝者にとっても敗者にとっても人生が変わるような一戦が繰り広げられることでしょう。プロツアーを取り巻くものごとは、賞金を含めそのすべてが一大事なのです。

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 さて、こうしてマジック最高峰の大会が行われる週末が再びやって来るわけですが、スペインが誇る美しき都市バレンシアで開催されるプロツアー『神々の軍勢』は、これまでにない見事な大会となるかもしれません。そこで今日は、今回のプロツアーを彩る6品を皆さんにお届けします......

1品目:チーム

「歴史は繰り返す」という言葉をご存知でしょうか? 競技マジックの黎明期を振り返ってみると、チームというものが大きな役割を果たしていることにお気づきになるでしょう。プロツアーが隆盛を見せるより以前は、チームと言えばそのほとんどが国ごとに結成されたものでした。ヤマを張って大会に臨んだプレイヤーや大会への覚悟が足りないプレイヤーは、「オランダ勢」や「フランス勢」、「アメリカ西海岸勢」が持ち込んだデッキに完全に翻弄されていたのです。どのチームも、プレイテストの有用性をしっかりと心得ていたと言えるでしょう。とはいえ、これはあくまでインターネットが発達する前の話です。当時、環境の理解が進んでいるチームの持ち込むデッキはナイフでの戦いに核ミサイルを持ち込むようなもので、手がつけられないほどでした。やがてマジックが広く普及するにつれて、チームのあり方は実に様々な変化を遂げていきました。メタゲームの均衡を打ち破るのはいつも「日本勢」だ、と密かにささやかれた時代もありました。

 その後、チームという概念は――いつのまにか――流行の波から外れていました。確かに、デッキリストをシェアするプレイヤーたちはいましたし、プロツアー直前に少人数で集まり、調整するプレイヤーたちもいました。しかし、「スーパー・チーム」と呼ばれるものは――永遠に失われた時代が到来したのです。

 そこで登場したのが、ルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargasが率い、カリフォルニアに本拠地を置くチーム「ChannelFireball」です(リンク先は英語)。今になって思えば、「わかりやすいチームの形」は「ただわかりやすいだけ」だったのかもしれません。チーム「ChannelFireball」は新しいチームのあり方を一から作り上げ、そして驚くべきことに成功を収めているのです。素晴らしい才能を持つ有名プレイヤーたち――パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosa、ベン・スターク/Ben Stark、ジョシュ・アター=レイトン/Josh Utter-Leyton、デイヴィッド・オチョア/David Ochoa、エリック・フローリッヒ/Eric Froehlich、中村修平、ブライアン・キブラー/Brian Kiblerといった面々――が名を連ねるこのチームは「本物のプロ意識こそが勝利をもたらす」と信じ、世界一のチームを目指しています。しかし、彼らがその行く手を遮られても不思議ではありません。なぜか? 世界一のチームを目指すのは、チーム「ChannelFireball」だけではないからです。他のグループも然るべき時をうかがっていて、いずれも劣らぬ英傑たちが先駆者であるチーム「ChannelFireball」から学んでいるのです。プロツアー『神々の軍勢』を間近に控えた今、チーム「ChannelFireball」にならってアパートやホテル、その他の宿泊所に居を構えているプレイテスト・グループが山ほどあります。どのチームもひたすらに、新たなドラフト・フォーマットの分析とモダンのメタゲームの打開に心血を注いでいるのです。中でも注目のチームをご紹介しましょう。

チーム「ChannelFireball」

 現在のチームのあり方を見出した草分け的な存在。最強の証明に挑みます。

チーム「ChannelFireball」――「万神殿」

 「ChannelFireball」がスポンサーを務める、もうひとつのチーム。6人の殿堂顕彰者(ジョン・フィンケル/Jon Finkel、カイ・ブッディ/ Kai Budde、パトリック・チャピン/Patrick Chapin、ズヴィ・モーショヴィッツ/Zvi Mowshowitz、ガブリエル・ナシフ/Gabriel Nassif、ウィリアム・ジェンセン/William Jensen)に加え、リード・デューク/Reid Dukeやブラッド・ネルソン/Brad Nelson、サム・ブラック/Sam Black、ポール・リーツェル/Paul Rietzlなどなど、ファンの多い有名プレイヤーを多数抱えています。他にも挙げればキリがありません!

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(左から)ジョン・フィンケル、カイ・ブッディ、パトリック・チャピン、ズヴィ・モーショヴィッツ、ガブリエル・ナシフ、ウィリアム・ジェンセン
チーム「Revolution」

 このチームは、シンプルにフランス人で結成されたものです。メリッサ・デトラ/Melissa DeToraも所属していますが、彼女は名誉フランス人として認められているのかもしれませんね。このチームに関してひとつ確かなのは、前回のプロツアー「テーロス」で大活躍を見せたことです。ジェレミー・デザーニ/Jeremy Dezaniとピエール・ダジョン/Pierre Dagenが、チームメイト同士で決勝を争ったのです。 finals_dagen_dezani.jpg

プロツアー「テーロス」決勝を戦う、ピエール・ダジョン(左)とジェレミー・デザーニ(右)。
チーム「TCG Player」

 こちらもスポンサー契約を結んだアメリカのチームです。看板プレイヤーには、ついに世界クラスへ登り詰めたアリ・ラックス/Ari Lax、プロツアー「ドラゴンの迷路」を制したクレイグ・ウェスコー/Craig Wescoeがいます。そしてチーム「ChannelFireball」から「フリー・エージェント移籍」したローグ・デッキ使いコンリー・ウッズ/Conley Woodsには、モダン環境への切り込みが期待されています。

チーム「Face 2 Face Games」

 このチームにもアメリカのプレイヤーが多く在籍しているのですが、チームを率いるのはジョン・スターン/Jon Sternとプロツアー「アヴァシンの帰還」のチャンピオン、アレクサンダー・ヘイン/Alexander Hayneであるため、「チーム・カナダ」と言うこともできるでしょう。このふたりを中心にして、マジック最高レベルの戦いを目指す才能あるプレイヤーたちがたくさん所属しています。

チーム「Elaborate Ruse」

 チェコ、スロバキア、スウェーデンの強豪が中心となった、ヨーロッパのチームです。所属メンバーにはスタニスラフ・ツィフカ/Stanislav Cifka、ルーカス・ヤクロフスキー/Lukas Jaklovsky、イワン・フロック/Ivan Floch、マテイ・ザトルカイ/Matej Zatlkaj、それからヨエル・ラーション/Joel Larsson、オーレ・ラーデ/Olle Rade、エリアス・ワッツフェルト/Elias Watsfeldt、ルッデ・ロンド/ Ludde Londos、デニス・ラシド/Denniz Rachidがいます。またプロツアー・チャンピオン、サイモン・ゴーツェン/Simon Goertzenを輩出し、さらにブラジルのウィリー・エデル/Willy Edelとジュリアーノ・ジェナーリ/Juliano Gennariも在籍する、火力満載のチームです。

チーム「Doge」

 マジック・プロプレイヤー・ランキング・トップ25に入っているクリスチャン・カルカノ/Christian Calcanoが、新たなチームを率い強者との戦いに突入します。メンバーは揃っている――10人がプロツアーへ送り込まれる――ものの、カルカノ以外のメンバーはその力を証明する必要があるでしょう。

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クリスチャン・カルカノ
チーム「Magic Mint」

 アジア全域にメンバーを持つ、活気溢れるチームです。ワールド・マジック・カップ優勝経験を持つクオ・ツーチン/Tzu Ching Kuo、日本のプロ行弘賢、それからケルビン・チュウ/Kelvin Chewやリー・シー・ティエン/Lee Shi Tianのような安定した成績を残すプレイヤーも所属しています。

ドイツ・オーストリア同盟

 このチームに名前があるか確認できなかったため、便宜上こう呼ぶことにしました。このチームの中心は、ヨーロッパのグランプリを巡る「グッド・スタッフ」たちです――ヴェンツェル・クラウトマン/Wenzel Krautmannやパトリック・ディックマン/Patrick Dickmannのようなグランプリ・チャンピオン、プラチナ・レベル経験者のトーマス・ホルツィンガー/Thomas Holzinger、世界選手権団体戦の優勝経験を持つニコ・ボーニー/Nico Bohny、そして現在注目を集めているヴァレンティン・マクル/Valentin Mackl、他にもヨーロッパの最前線で戦う6名のプレイヤーが在籍しています。

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ヴァレンティン・マクル
チーム・ジャパン

 恐らく、最も楽しみなチームがこれでしょう。斎藤友晴が発起人となり、日本のプロツアー参加者たちを強力な軍勢へとまとめ上げたのです。最盛期(2005年から2009年)には、日本人プレイヤーがプロツアー・シーンを席巻していました。斎藤友晴、渡辺雄也、森勝洋、高橋優太、三原槙仁の「ビッグ5」を擁する日本チームが、今週大躍進を遂げるかもしれません。

2品目:プレイヤー

 先に挙げたどのチームにとっても重要なのは、「それぞれの戦いはそれぞれのものである」ということです。ひとたび大会がスタートしパックが開封されれば、男女や年齢の垣根なく、みなそれぞれの戦いに入るのです。3日間19ラウンドにわたるプロツアーのスポットライトは、現時点で最も注目すべき者としてマジック・プロプレイヤー・ランキング・トップ25のプレイヤーたちへと向けられます。今シーズンはこのランキング最初のシーズンなので、これから週が進むごとに、世界中で行われるグランプリの結果によってランキングの変動が見受けられるでしょう。通常、ランキングに入っているプレイヤーがグランプリに優勝すると、そのプレイヤーはいくつか順位を上げ、4人か5人のライバルが順位を落とします。また、普通最も入れ替わりが激しいのは第25位の席です。新たなプレイヤーがトップ25に入れば、それと同時にランキング外へ落とされるプレイヤーが現れるのです。一方、上位陣は普通そこまで大きく動くことはありません。プロツアー「テーロス」後に10位以内のプレイヤーたちは、ほとんどがそのままの順位でプロツアー『神々の軍勢』を迎えることでしょう。

 それでも、プロツアーは「普通」ではありません。このランキングでは前シーズンに集めたプロ・ポイントが徐々に失われていくため、最も多くのポイントが与えられるプロツアーが極めて重要なものとなります。現在、ランキング10位のウィリー・エデルからランキング1位のベン・スタークまでわずか12ポイントの差しかありません。極端な例ですが、上位10名――ベン・スターク、ジョシュ・アター=レイトン、リード・デューク、シャハール・シェンハー/Shahar Shenhar、ジェレミー・デザーニ、サム・ブラック、トム・マーテル/Tom Martell、中村修平、渡辺雄也、ウィリー・エデル――のうち誰かひとりだけ今回のプロツアーでトップ8・ラウンドへ進出し、他が全員トップ8入りを逃せば、来週のランキングでは今回のプロツアーでトップ8入りしたプレイヤーがポール・ポジションを獲得している、ということが十分にあり得るのです。

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ウィリー・エデル、ベン・スターク

 もちろん、これらのビッグ・ネームを抜きにしても、実に様々なストーリーが生まれることでしょう。これまで同様、会場には数百人のプロツアー予選通過者がいて、その多くが初めてプロツアーの舞台で戦うのです。行われるフォーマットも、対戦相手も、開催都市も関係ありません――初めてのプロツアーでの試合は特別なものです。そのための権利を勝ち取ったプレイヤーたちは今、全勝記録と大会の牽引役へと続く第一歩を踏み出すのですから! 実に56ヵ国から、下は16歳、上は49歳の人々がみな共通の目的を持ってバレンシアの地に集います。マジック歴の長さに関わらず、すべての参加者たちにとって記憶に残る週末になるはずです。そう、彼らの中からプロツアー・チャンピオンが誕生するのです。

3品目:『神々の軍勢』

 今回のプロツアーは金曜、土曜ともにドラフトから始まります。つまり、400個を超える『神々の軍勢』のパックが同時に開封されるのです。参加者たちはそれぞれどんなドラフトを見せてくれるでしょうか? 『神々の軍勢』には2色を要求されるカードが多く、3色以上を要求されるものもあります。色に関する影響はかなり大きいと言えるでしょう。果たしてプレイヤーたちは、色を決め打ってそれを貪欲に追い求めていくでしょうか? それともデッキ・パワーを抑えて広く構え、慎重にドラフトを進めていくでしょうか? また、再び「信心」が用いられますが、今回の神々はより多くの信心を必要とする一方、その条件は緩くなっています。2色のデッキなら神々を顕現させることが多くなるでしょう。

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 そして「神啓」がプロツアーにデビューします。これはリミテッドのゲーム展開に影響を与えることでしょう。普段では見られない攻撃や、ついでにクリーチャー・トークンを連れてくるアンタップ・トリックに気をつけるべきです。「怪物化」は収録されませんでしたが、「貢納」が対戦相手に難しい選択を迫るでしょう。「どちらを選んでも最悪」という状況に陥ることもあるはずです。それから、「授与」もありますね。プレイヤーたちは自軍の怪物を神話級のサイズに育て、英雄でなくとも脅威に仕上げることができるのです。ひとたび舞台の中央でドラフトが始まれば、放送席のマーシャル・サトクリフ/Marshall Sutcliffeはそこで行われるリミテッド・ラウンドのすべてに、次々と目を移していくことになるでしょう。

4品目:モダン

 ちょっと数字の話をしましょう。DailyMagic.comにあるマジック公式のサーチ・エンジン「Gatherer」によると、モダンには《肉切り屋のグール》から《ズアーの運命支配》まで8,139種のカードがあります。『神々の軍勢』に収録されたカードは165種で、モダン全体の約2%です。『神々の軍勢』が「平均的な」セットであれば、2,3枚はモダンに影響を与えるカードが期待できるかもしれないですね。と、かなり甘く言いましたが、要するにブロックの真ん中に位置する小型セットの優秀さを示すには、基本的に巨大なフォーマットは向かない、ということです。

 今週末の構築ラウンドで最新のカードが一切使われない、と言うつもりはありませんよ。《オレスコスの王、ブリマーズ》は非常に優れたカードですし、《クルフィックスの狩猟者》は多くの議論と期待を呼びました。《胆汁病》は、トークン対策待望の軽い除去です。《荒ぶる波濤、キオーラ》はプレインズウォーカーであり、プレインズウォーカーには常に構築での採用を検討するだけの力があります。また、いずれ各種「神殿」が使われるのは、間違いないと言ってもいいでしょう。そして少なくとも1枚は、『神々の軍勢』のカードが使われるのは確実です。モダンの第一線にいる「親和/ロボット」デッキに、《バネ葉の太鼓》が採用されているのですから! まあとにかく、『神々の軍勢』が本当に輝くのはドラフト・ラウンドの方ですし、ここは素直にマジックの歴史上でも傑作とされるカードの数々を搭載したデッキに焦点を当てていきましょう。

 サミュエル・エストラティ/Samuele Estrattiが栄冠を手にしたプロツアー・フィラデルフィア2011でのデビューから、常にスリルに満ちていたモダン。それ以来、このフォーマットは驚くほどの多様性を見せ、また各大会で上位入賞デッキが違うという「激動」のフォーマットでもありました。プロツアー『神々の軍勢』に伴い、ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社はモダンにおける大きな変更を発表しました。あらゆるところに姿を見せた(それほど優れていたということです)《死儀礼のシャーマン》を禁止し、《野生のナカティル》と《苦花》を解禁したのです。この禁止と解禁がモダンに与え得る影響について、私は殿堂顕彰者、ランディ・ビューラー/Randy Buehlerに尋ねてみました。彼は以下のように答えてくれました。

「大きいね。これでジャンドが明確に弱体化して、Zooやフェアリー、それとたぶん白黒トークンも強力なアーキタイプに加わることができる。でも実は、一番の影響は他のデッキに現れるんじゃないかと思うよ。《死儀礼のシャーマン》がいなくなったことで(それから恐らく《漁る軟泥》も減ることで)、墓地を利用する戦略が強くなる。《瞬唱の魔道士》を使うデッキや、(「頑強」を絡めたコンボが墓地対策で潰されていた)『メリーラ・ポッド』、そして《御霊の復讐》みたいなリアニメイト戦略が楽になると思う」


 モダン人口は急速にその数を増やしていますが、私たちは皆さんの多くが今回のプロツアー・カバレージで初めてモダン環境を詳しく見ることになるのだ、と意識しています。私は続けてランディに、モダンというフォーマットを素晴らしいものにしている要因と、それからプロツアーを観戦していたらあるデッキにひと目惚れをしたモダン未経験者が、モダンへ参入するために必要なことを聞きました。

「モダンは、そのフォーマットでできることが本当に多いのが魅力だ。小さな大会で優勝できるデッキならそれこそ大量にあるし、莫大なカード・プールにはいまだ出番を待ち望んでいるカードがまだまだたくさんある。モダンへ参入したいと思ったら、まずは楽しめそうな戦略を見つけることだね。そうすればきっとデッキが組めるはずさ。ローテーションもないし、広いカード・プールには求めていたぴったりな戦略があるし、それを何年も使い続けることができるよ」


 10回戦にわたって繰り広げられるモダン・ラウンドを観戦することで、新たなモダン環境のメタゲームの一端を掴むことはできるでしょう。しかし400を超えるデッキリストを読み込み、その概要を読み取ることは簡単なことではありません。ご安心ください、ちょうど皆さんのために、わずか10個のデッキリストからこのメタゲームの難題を解き明かして見せようとしていたところです(鵜呑みにしちゃダメですよ)。私の(文句のつけようがない完璧な)推理は、以下の通りです。

ジェレミー・デザーニとリード・デューク

 強いプレイヤーは、その場のすべてのデッキに対してチャンスのあるデッキを好みます。プロ・プレイヤーたちは「プレイの余地がある」デッキと呼ぶのですが、これは対戦相手よりカードをうまく使えるかどうかが試合結果に大きく影響し、「完全に不利なマッチアップ」はほとんどありません。多くの「プレイの余地がある」デッキがあれば、(例えばレガシーの《ゴブリンの放火砲》デッキのように)そうでないものもあります。ジャンドは多くの「プレイの余地」があるデッキですが、《死儀礼のシャーマン》不在で失ったものも多くあります。デザーニとデュークはともにジャンドの達人です。《死儀礼のシャーマン》が禁止されてもなお彼らが黒と赤と緑の呪文をバレンシアへ持ってくるなら、ジャンドがモダンの最前線に残るのは100%間違いないでしょう。

ジョシュ・マクレイン/Josh McClain

 私は「メリーラ・ポッド」には警告表示をつけるべきだと考えています。マジックに精通したプレイヤー以外がこのデッキを使うというのは、ピンを抜いた手榴弾でジャグリングをするようなものだからです。《死儀礼のシャーマン》が環境から姿を消すことは「メリーラ・ポッド」にとって追い風ですが、ジョシュ・マクレインほどのプレイヤーが使わないなら、今週末に勝利を重ねることはないでしょう。

ジョシュ・アター=レイトン

 私はチーム「ChannelFireball」勢のデッキリストを選んで見ていましたが、解禁された《野生のナカティル》がZooを復権させ、頼りになるアグロ・デッキを環境にもたらしてくれたと確信しました。ジョシュ・アター=レイトンがこの1マナ3/3を駆使するなら、Zooは勝つための現実的なデッキ選択となるでしょう。

パトリック・ディックマン/Patrick Dickmann

 このドイツ人プレイヤーは、昨年モダンで行われたグランプリ・アントワープ2013(リンク先は英語)で《欠片の双子》デッキを使い、優勝を果たしました。彼は「Magic Online」で、このデッキをなんと1000マッチ以上使ってきたそうです。モダンへの深い知識と経験は彼の成功を強く後押しし、またメタゲームの洞察にかけても大きく先を行くことで、この一線級のコンボ・デッキが頭ひとつ抜ける結果になるでしょう。彼が《欠片の双子》を使わないなんて、《詐欺師の総督》ファンが絶望に沈みますよ。

アレックス・マイラトン/Alex Majlaton

 未知の環境においては、積極的に攻める戦略の価値が増します(そしてモダンも、少なくとも部分的にはそうなっています)。マイラトンがチャンスを掴むときにはいつも、「親和」や「ロボット」と呼ばれるアーティファクト・アグロ・デッキを使っていました。もはや彼自身が「親和(ロボット)」のキーワード能力を持っている、と言っても差し支えないと思います。彼が何か他のものを使うとしたら、そのデッキはよほどの強さなのでしょう。そう、彼の「頭蓋を囲う」のは「親和」以外にないのですから。おっと、これは失礼しました。

パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサと高橋優太

 一見、このふたりに共通点はなさそうですが、彼らはフェアリー・デッキを使わせたら右に出るものはいない、というふたりなのです。そんな彼らにとって《苦花》の解禁は大事件でしょう。PVは単純に、その場のすべてのデッキに強いベストなものを選択し、彼のキャリアの中心に据えていました。その姿勢が彼をフェアリー・デッキへ向かわせたのです。そして高橋もまた、フェアリー軍団で数々の大会を制してきました。今回のプロツアーで《苦花》が活躍するかどうかを心配しているプレイヤーは少ない、ということが想像できるはずです。もしこのふたりが《苦花》を持ち込まなかったら、恐らく《苦花》の出番はないということでしょう。

アリ・ラックス

 2012年、大躍進のシーズンを迎えたラックスは、シアトルで行われたプロツアー「ラヴニカへの回帰」で第9位の成績を収めました。彼が使用したデッキは驚くべき速さを誇る「感染」で、その速さゆえにどのラウンドも会場内の施設に並ばずに済むというおまけもついていました。すべての事態に備えることは不可能であり、その隙に「感染」のような「オールイン」するタイプの戦略が生まれます。今週末のラックスが、良い意味で毒を仕込んでいることに私は期待していますよ。

コンリー・ウッズ

 最後は、ラックスのチームメイトであり、とりわけ「ローグに定評のある」コンリーです。何が起きてもおかしくないですが――モダンで、コンリーですから――、サイド後に形を変えるコンボ・デッキを私は予想しています。どこからともなく《死せる生》か《集団意識》か、はたまた《運命の気まぐれ》が飛んでくるかもしれません。ちゃんと《運命の気まぐれ》にも注意してくださいよ。

5品目:カバレージ

 ランディはマジックの知識も、モダンの知識も、そしてカバレージの知識も豊富で、彼が今回のプロツアー『神々の軍勢』で再び生放送チームの一員になってくれることは実に頼もしい限りです。私たちが新たなモダン環境を解説する上で、彼は殿堂顕彰者としての経験を存分に使って私たちを支えてくれるでしょう。また、彼ならではの専門的な分析も見られるはずです。私たち実況チームの総合司会を務めますのは、プロツアーの歴史家ブライアン・デヴィッド=マーシャル/Brian David-Marshallと、コラム「Limited Information」を書いているマーシャル・サトクリフ/Marshall Sutcliffeです。他にザック・ヒル/Zac Hill、ティム・ウィロビー/Tim Willoughby、そしてラシャド・ミラー/Rashad Millerなどのキャスターが放送をお届けします。そして、報道デスクの司会はいつものように私リッチ・ハーゴン/Rich Hagonが務めさせていただき、皆さんにスコアや順位、熱いストーリー、インタビュー、デッキテク、ゲストとのお話などなど、金曜と土曜の16ラウンド通して生放送でお送りします。

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 それから、日曜日にカバレージ・チームで新たな取り組みが行われます。今回初めて、日曜日の試合は全試合が生放送されるのです。もう試合の途中でカットされることはありません。準々決勝で最後のいいところなのに別の試合へ移ることもありません。すべての試合を最初から最後までお見せします。準々決勝も1試合ずつ順番に放送し、続けて準決勝を2試合、そして最後に決勝をお届けします。準々決勝と準決勝は3ゲームのうち2本先取で行われ、それまでの成績がより大切になってきます。このため、土曜日最後の数試合は厳しいものになることが予想されます。とりわけチームへの想いが絡んでくるなら尚更でしょう。そして、嬉しいお知らせがもうひとつ――次々と勝ち進み、例えばトップ8入りしない限りは、殿堂顕彰者ルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargasが日曜日の放送に参加してくれます。

 さあいよいよ、フランク・カーステン/Frank Karsten、ルイス・スコット=ヴァーガス(チーム「ChannelFireball」)、マテイ・ザトルカイ、オーレ・ラーデ、サイモン・ゴーツェン/Simon Goertzen(チーム「Elaborate Ruse」)、ラファエル・レヴィ/Raphael Levy(チーム「Revolution」)、チャップマン・シム/Chapman Sim(チーム「Magic Mint」)のカバレージ・メンバーの面々がどんな記事を作るのか、待ちきれなくなりました。みんな頑張れ! 生放送ブースで会いましょう!

6品目:人と人

 皆さんの中には、スーパースター・チームの一員に友人がいて、今回のプロツアーが気になっている人もいるでしょう。LSVが口にする冗談やデイヴィッド・オチョアの帽子が好きな、チーム「ChannelFireball」のファンもいるでしょう。オーウェン・ツァーテンヴァルド/Owen Turtenwaldはマーシャル・サトクリフとの勝利者インタビューの練習をずっとしていて、そんな彼が大会に勝ちインタビューを受けているところを目撃したい人もいるでしょう。《彩色マンティコア》にロマンを感じていて、ジョン・フィンケルが最初に開ける『神々の軍勢』のパックからその5色のレアが飛び出し、彼がそれを用いたデッキで3戦全勝を果たすのを見たいと願っている人もいるでしょう。日本が世界中を席巻していた時代を懐かしみ、日本人プレイヤーが再び大活躍を見せるのを楽しみにしている人もいるでしょう。生粋のデッキ・ビルダーで、新たなモダン環境に向けた一風変わったデッキのアイデアを書き留めようと、ノート片手に観戦する人もいるでしょう。そして何より、私たちみんなが大好きなマジックというゲームを週末にプレイし、激戦を乗り越えて40,000ドルもの賞金を持ち帰ることになる驚くべきプレイヤーの姿を、その目で確かめたいと思っていることでしょう。


彩色マンティコア》 アート:Min Yum

 突き詰めれば、プロツアーでのマジックに関わるのはカードでもなく、デッキでもなく、結果でもなく、チームでもありません。プロツアーのマジックに関わるのは人と人なのです。今まさにマジックの歴史の一部に刻まれようとしていても――マジック界の英雄たちと交流するためにバレンシアまでいらっしゃるなら、最高のひとときをお約束します――、また別の神話の舞台へと漕ぎ出す準備をしている途中であっても、プロツアーを作り上げるのは、人なのです。

 ここで言う「人」とは、そう、あなたのことです。

 それでは金曜日にお会いしましょう。

 リッチ・ハーゴン。

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