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「レジェンド・ルール」の変更

Sam Stoddard / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2013年5月23日


 反復。マジックのデザインやデベロップにおいて年とともに進化したものを1つ挙げるとすれば、ホワイトボードに書かれた粗いアイデアやメカニズムをプレイテスト用カードにし、そしてブースターに入った実際のカードにするという工程においてどう反復するかを理解したことだと言えます。反復によって、マジックを可能な限り充実したものだと私たちが信じているものにするためのルールや手順も進化して、デザイン空間も開けるのです。細かな変更はほぼ毎基本セットで、ほとんど気付かれることもなく行われていますが、時折、プレイヤー視点でも大きな影響を与えるルールの変更を加えることがあります。そうした場合には、その変更についてどういうものなのか、なぜ変更するのか、その結果どうなるのかについて説明するのが重要だと私は考えています。

 このテーマに関する今日の記事の中でこれを最初に読んでいるのなら、その前にマット・タバック/Matt Tabakのルール更新全体に関する記事を読むことを強くお薦めします。マットが「どういうもの」かを全体に説明してくれているので(ルール面での変更も含めて)、私は「なぜ」レジェンド・ルールやプレインズウォーカーの同一性ルールを変更するのかについて、そして「その結果どうなるのか」をデザイン、デベロップの視点から説明していこうと思います。

変更の分析

 マットが彼の記事で書いているとおり、『マジック基本セット2014』から、レジェンド・ルールやプレインズウォーカーの同一性ルールなど、マジックにおけるいくつかの要素の扱いを変更します。この新ルールはあなたの戦場とあなたの対戦相手の戦場を切り分け、そしてそれぞれの範囲において同名のレジェンドが複数体ないか、タイプの同じプレインズウォーカーが複数体ないかをチェックします。単一のプレイヤーのコントロール下に同名のレジェンドが複数体あった場合、残り1体になるまで、そのプレイヤーはその中から1体を選んで状況起因処理で墓地に置きます(訳注:マットの記事と矛盾しているので、おそらくマットのほうが正しいと思われます)。ジェイスならどれか1体、《聖トラフトの霊》なら1体しか同時にコントロールできませんが、対戦相手もまた同じものを1体コントロールできるのです。2体目をプレイした場合、あるいは他の何らかの理由で2体目が戦場に出た場合(《忘却の輪》が戦場を離れたとか)、どれを残したいかをあなたが選ぶことになります。これによって2体目のプレインズウォーカーを引いた場合に場合のデメリットが小さくなります。プレインズウォーカーを唱えて戦場に出して忠誠度を初期値に戻すことができますし、伝説のパーマネントの戦場に出た時の誘発型能力を使うこともできるのです。

 この変更全体の結果として、マジックはより有意義で満足できる相互作用を得ることになると信じています。「レジェンド・ルール」と《クローン》を使って対戦相手の対象に取りにくい伝説のパーマネントを除去したり、プレインズウォーカーを使って対戦相手の同タイプのプレインズウォーカーを除去したりするというのは、開発部内ではゲームを決める要素として相応しい相互作用だとは考えられていませんでした。元のルールがそんなにひどいものだったとは思いませんが、同じ伝説のパーマネントを使っているプレイヤー間ではそのパーマネントを《恐怖》代わりに使うことになり、その伝説のパーマネントなりプレインズウォーカーなりの本来のイカした力を発揮できないようになっていました。新しいルールでは、プレインズウォーカーや伝説のパーマネントを引きすぎた場合にはやはり不利になりますが、それでもその不利を緩和する手段を手にできるのです。

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この変更の理由

 この変更が今なされたのには、いくつもの理由があります。まず第一に、総合ルールへのあらゆる変更と同様、私たちはこの変更によってプレイヤーにより良いゲームプレイ経験をもたらせると信じたからです。2つめに、私たちがどんどんプレインズウォーカーを作ってきた中で、プレインズウォーカーについて色々と学ぶことがあり、より良いバランスの取り方、楽しいものにする方法を理解してきました。お互いに相殺しあってプレイヤーが自分のプレインズウォーカーを使えない状態が続くというのは面白いものでもありませんし、プレインズウォーカーそのものの楽しさをなくしてしまいます。3つめに、現在、これまで以上に伝説のパーマネントを作っています。これはマジックの物語をカードで伝えることができるのと、複数枚同時に使って欲しくない強力なカードを作れるという両方の理由からです。

 レジェンド・ルールの変更がなされたのはこれが初めてではありません。元々のルールは、最初に戦場(当時は「場」)に出た伝説のクリーチャー(当時は「レジェンド」)が完封するというものでした。これは、神河物語の時に変更され(リンク先は当時の記事・英語)、現在の対消滅のルールになったのです。神河物語でのルール変更によって伝説のパーマネントの使い方は非常に改善されました(変更なしでのこのブロックのあり方は想像もできません)が、完璧なものではありませんでした。反復を成功させる鍵は、巧く行っているからといって立ち止まらないことです。巧く行っている部分はどこで巧く行っていないのはどこなのか、常に議論を重ねるのが重要です。やがてその議論はレジェンド・ルールに戻ってきました。マジックの他の部分が時とともに進化してきて、レジェンド・ルールだけが可能な最高のゲームプレイから取り残されていたのです。この新ルールが、より大胆に伝説のパーマネントをデッキに入れられるようにするとともに、それぞれのプレイヤーが伝説のパーマネントを出した時にも「レジェンド・ルール」に毎ターン縛られることなく、より普通の相互作用に基づくゲームを可能にする進化だと私たちは信じています。

 「プレインズウォーカーの同一性ルール」はレジェンド・ルールよりもずっと新しいルールですが、少しばかり複雑です。すでに言ったとおり、プレインズウォーカーは約5年前にローウィンで導入されて以来どんどん重要になってきています。その次元の人々やクリーチャーの物語を伝えるために伝説のクリーチャーを使ってきていますが、次元を股にかけた数年越しのより壮大な物語を語るにはプレインズウォーカーを使うことが増えています。このことから、何年かごとにプレインズウォーカーの多くに新バージョンが作られることになります。ジェイスは現在4回の反復を得ています。ガラク、リリアナ、アジャニ、チャンドラもそれぞれ3種類います。ソリン、エルスペス、ギデオン、テゼレットは2種類です。この数字はどんどん増えていくことになりますし、そうなるとその性質やカードが変わるにつれて、いろいろなデッキで同じタイプを持つプレインズウォーカーが入ることになるでしょう。全ての種類のリリアナを1つのデッキに入れるのは最適とは言えないかも知れませんが、4マナのリリアナを入れているプレイヤーが、対戦相手が先に3マナのリリアナを出したから出せないということはなくなります。この問題は、プレインズウォーカーが唱えられたターンから能力を使えて、先にプレインズウォーカーをプレイできたプレイヤーが大きなアドバンテージを得られるという事実によってさらに拡大していました。新ルールの下では、プレインズウォーカーの能力を使ってから同じタイプを持つプレインズウォーカーを唱え、そしてそのプレインズウォーカーの能力を再び使うことも可能になります。これによって、同じプレインズウォーカーを複数引いてしまった時のデメリットは軽減されるでしょう。

 今後も毎年数枚の新しいプレインズウォーカーを追加していきますが、中核となる「ローウィンの5人」を取り上げることも増やしていきます。同タイプのプレインズウォーカーが増えることで価値が落ちていく、というようなことがないよう、彼らの魅力を高く保っていくことは私たちの絶対的な目標なのです。

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 これらの変更が開発部内での多くの議論やプレイテストを踏まえてのものだと言うことを重ねて宣言しておきます。会議室で、あるいはプレイテストのテーブルで、かなりの時間を費やしてこれらの変更をすべきかどうか、そしてするとしてその変更はどうすべきなのかについて議論してきました。レジェンド・ルール、プレインズウォーカーの同一性ルールのいくつかのパターンをプレイテストして、どれが一番ゲーム・プレイを向上させるかを選んだのです。

 内部では約1年この変更を試してきました。そして、私はいちプレイヤーとしてマジックの楽しみを向上させる変更だと信じていると確信を持って宣言できます。この変更は1年間かけて行われていたので、デベロップ中にはこのルールを気に留めていましたし、実際にそれでもゲームプレイが楽しいものになるかテストをしてきました。この変更が今後伝説のパーマネントやプレインズウォーカーのバランスをとるにあたってどう影響するかも把握できていますし、カードやその能力のコストを決める上でも計算に入れています。

 プレインズウォーカーや伝説のパーマネントが重要なのは、ストーリー上だけではありません。開発部は、これまでプレインズウォーカーや伝説のパーマネントが抜きんでていたために禁止されていたデザイン空間がこの変更によって開放されたことに興奮しています。この変更までは、私たちはパーマネントを追放するのではなく能力の起動を禁止する、《信仰の足枷》のようなカードを作りたくありませんでした。なぜなら、《信仰の足枷》をプレインズウォーカーに唱えると、使えなくなるのはそのプレインズウォーカーだけでなく、そのプレイヤーが手に持っているもう1枚の同タイプのプレインズウォーカーもだったからです。これと同じように、昔のように強力な《クローン》を作れなかったのも、それによって伝説のクリーチャーが使い物にならなくなるという重圧からでした。

 この変更によって、再び伝説の土地も作れるようになります。(《ウギンの目》以外では)伝説の土地は神河ブロック以来存在しませんでした。ほとんどのプレイヤーは以前のレジェンド・ルールの元でのプレイは楽しくない、と気付いていたでしょう。対応できない形で土地が破壊され、2枚目を引いたら手札で死に札になるのです。すぐにやる、という話ではありませんが、これは今後強力な土地を作る時にバランスを取るための道具となります。

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歴史との融合

 これらのルール変更は全体としてマジックの進化だと信じていますが、これまで19年間、これとは異なるレジェンド・ルールを意識してカードをデザインしてきました。そして、デザインされた時と違う働きをするようになることも当然あります。カードによっては強力になるものもあるでしょうし、逆に弱体化するものもあるでしょう。モダン、レガシー、ヴィンテージ、統率者戦において一番の変化は、伝説の土地がもっとデッキに入れやすくなるということです。複数枚引いた時に複数枚戦場に出せないというデメリットは変わりませんが、ハイランダーのデッキや《ガイアの揺籃の地》《Karakas》《アカデミーの廃墟》《オパールのモックス》などの強力な伝説のパーマネントを少しずつ入れているデッキはより作りやすくなります。モダン、レガシー、ヴィンテージにおけるそれらのカードの強さを注視していきますし、Commander Rules Committee(訳注:統率者戦のルールを扱っているグループ)もそのフォーマットにおけるそれらのカードや、これまで対処しにくかった《霧を歩むもの、ウリル》などの統率者の強さを注視していくだろうと信頼しています。このルール変更によって直接モダンやレガシー、ヴィンテージの禁止制限リストが書き換わるということはありませんが、基本セット2014やテーロスの発売の間それらのフォーマットを注視していきますし、必要であれば何らかの変更をします。

 変更というものは、告知すればポジティブなものもネガティブなものも含めて多くの反応を受けるものだということはわかっています。私たちはこれらの変更や今後のあらゆる変更に関するあらゆる意見を募集しています。心配には応えたいと思っていますが、その1つ1つに個別にお答えすることはできません。これらの変更が全体としてマジックをより楽しいものにするということを信じていただきたいと思います。そして、マジックをより良いゲームにするため、より楽しく面白いカードを作るために新しく得たデザイン空間を巧く使っていきます。この変更によって可能になった面白いことをお披露目できる、テーロスやそれ以降のことが楽しみです。

――サムより。

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