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迷路の作り方
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迷路の作り方
Zac Hill / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2013年5月1日
やあ、みんな!
私が古き良き公式サイトの記事を書く栄誉にあずかっていたのは少し前の話になるけれど、『ドラゴンの迷路』のリード・デベロッパーだった私にもう一度このサイトに戻って『ドラゴンの迷路』についての話をしてほしいという要請があったんだ。
私が初めて取り組んだセットは『エルドラージ覚醒』で、最後の仕事は"Huey"。(私がウィザーズを離れてしばらく経つけれど)これの発売は今から1年半ほども先の話になる。いくつものマジックのセットを弄り回してきたけれど、この『ドラゴンの迷路』は今まで見た全てのセットの中で一番独特な条件が課せられていたと言えるかもしれない。
ウィザーズ・オブ・ザ・コーストが『時のらせん』と呼ばれるブロックを作っていた当時のこと。私はプロツアー予選やプロツアーの常連だったが、驚くべきドラフト環境と、多分一番面白いブロック構築・予選フォーマットのことを今でも懐かしく思い出せるよ。でも、ブロックはプレイヤーの大多数にはまったく人気がなく、販売実績も悪く、ウィザーズは後に考察して様々なことを学ぶことになったんだ。
最大の問題は、単純に言って「パックを開けても理解できない」ことだった。何もかもが別々のことをするもので、各カードに無数のキーワードが書かれていて、そのほとんどはお互いに関係していなくて、(私のように)マジックに充分親しんでいて全ての情報を掴んでいるのでない限りは、目の前に突然壁が現れて「悪いな初心者、このセット上級者用なんだ」と言ってくるようなものだったんだ。
「全てを初心者向きにすることはできない、永遠に楽しんでくれる濃いファン向けはどうだろう」というささやきはもちろん魅力的だ。それには利点もある。けれど、その方向性で見てもこのセットが成功したと言い切ることはできないね。イニストラードで、膨大な数の言葉を使わなくても本当に楽しいゲームは作れるということが証明された。一方、《隻眼の巨人》《板金鎧のペガサス》《ガラスのアスプ》といったカードは魅力的だったけど、なぜそれが魅力的だったのかを完全に把握できてはいない。「ん......《隻眼のミイラ》2体が《Cyclopean Tomb》に綴じられてる! 思い出した! この3枚のクソカードより良い物は? これを組み合わせたクソカード1枚だ!」
さておき、重要な点をまとめると、あまりにも大量のものをセットに詰め込むことに慎重になったということ。一方で、『ドラゴンの迷路』の構造そのものが大量のものを詰め込むことを必要としていたんだ。1つのセットに10個のギルド、つまり10個のキーワードと10個の色の組み合わせがあることが最初から決まっていて、それに加えて新しいものを入れなきゃならない。私たちは最初から危険領域に足を踏み入れていて、慎重にならなければならなかったんだ。
ただし、利点もあった。『ラヴニカへの回帰』と『ギルド門侵犯』には史上最高のセットに名を連ねる可能性があった。『ドラゴンの迷路』は前例のないかたちでその2つのセットを組み合わせるものなので、それに引っ張ってもらえるわけだ。長所は旧ラヴニカ・ブロックに並ぶものだが、旧ラヴニカ・ブロックにはいくつかの欠点があった。中でも最大のものである「チャンスは一度きり」という問題だった。ゴルガリが好き? そうか、残念だなぁ、ディセンションにはゴルガリで使えるカードはないんだ。旧ラヴニカ・ブロックを素晴らしいものにしていた骨格をそのままに、この問題を解決すれば、マジック史上最高のブロックにできる可能性が出てきたわけ。
プレッシャーはなかったよ。
問題は、『ドラゴンの迷路』がどうあるべきかだった。結局は、史上初の連続した大型セットからなるブロックのトリを務める独特のセットだ。156枚のカードに10個のギルドを入れ、さらに独立したカードを入れる場所も作らなければならなかった。後で考えているのと違って、発売日のためのスケジュールもあった。でも、それで新しい概念を示すブロックの大トリを務める大傑作を作れるわけじゃない。どんなことをやったのか?
やがて、このセットが目指す方向は、他の第3セットがそうしてきたようなその前のセットから別方向への展開、ではないということがわかった。このセットでは、『ラヴニカへの回帰』や『ギルド門侵犯』の気に入った部分をさらに延ばし、同時にこの2つのセットをそれぞれ単独ではできないことができるように組み合わせることが必要なのだ。「同種のすばらしさを加える」こと。構築では、新しいカードを提供すること。リミテッドでは、新しい視点を提供し、『ラヴニカへの回帰』から『ギルド門侵犯』を見たり、あるいはその逆を見たりすることができるレンズを提供すること。それが、このセットの目標だ。
そして、もしかしたら、可能性としては、何らかの「味付け」を加えることができる、かもしれない。
それを踏まえて、アレクシス/Alexis Jansonと彼女のチームはデザインに突入した。
スイッチ入れて、チャンネル合わせて、スイッチ切って
デザインの各段階で、アレクシスと彼女のチームが複雑さの水準を非常に警戒していたことは知っている。彼女はセットをまとめ、セットが対称性を持ってまとまるようにサイクルやスロットを作るのに、かなりの時間を費やしていた。彼女はラヴニカへの回帰やギルド門侵犯と組み合わせてこのセットを使い、カードが相互に意味を持つように進化させていた。彼女はあらゆる手を尽くし、あらゆるカードのあらゆる言葉が役割を果たすようにしていったんだ。
それでもなお、このセットは迷宮、あるいは漠然とした可能性のジャングルだった。いろいろなものが埋まっているのはわかっていても、張り出した枝に隠れて見えもしない。そこで、私たちは斧を振るい始めたんだ。
最初の被害者
導き石。最初は、導き石を生け贄に捧げたときにそれぞれ違う効果を持つものだった。それから、戦場に出たときにそれぞれ違う効果を持つものに変わった。さらに変化して、生け贄に戻った。アレクシスはこのセットに同じカード10枚のサイクルをいくつも入れて手狭にしたくなかったんだけど、実際、そうなった! 不幸なことに、違う効果を持たせてもただただ混乱させるだけだったんだ。「え? この黒の導き石は1点吸うんだっけ、除去だっけ、墓地から2枚釣ってくるんだっけ?」 新世界秩序の下では、これは特に悪夢のような話だった。さらに、その10個を均等にするのも難しかったし、ギルドのバランスの問題もあった。最終的には、単純さと優雅さの観点から、良くて、綺麗で、直観的で、普遍的に実用的な現在のデザインに落ち着いたのさ。
2番目の被害者
金色カード。『時のらせん』の問題の話はしたけれど、個人的にはお気に入りのセット『アラーラ再誕』の問題の話はしていなかったね。どちらのセットも、ほとんどの人がブースター・パックを開いたときに理解できなかったのは一緒だけれど、『アラーラ再誕』の場合の理由はまったく違うものだった。『時のらせん』と違い、カードを読むところに到達することもできない。ただただ金色の海で、どのカードをデッキに入れるかという前にこの奇妙な組み合わせの問題に取り組まなければならなかったんだ。あまりに奇妙な話だったので、それ以来多色セットでも金色のカードをどの程度だけパックに入れるかを意識するようになった。私は構造(セット間、ブロック間の繋がりを考慮することに専念する開発部内のチーム)がラヴニカへの回帰・ブロックにおける多色カードの割り振りを決めるにあたり、その一員として、旧ラヴニカ・ブロックを下敷きに、ギルドの割り振りの変更、セット内に含まれる枚数の変化を踏まえて、多くの仕事をしてきた。
実際、『ラヴニカ:ギルドの都』はパック単位で見るとそれほど金色のカードは多くなかった。《稲妻のらせん》や《化膿》、《セレズニアの福音者》といったカードの印象は強いが、《野良剣歯猫》や《通りの気転》、《巻き込み》その他多くの単色カードが「穴埋め」として含まれていた。デザイン終了時点で、『ドラゴンの迷路』には各ギルド3枚のコモンの金色カードが含まれていた。そう聞くとあまり多く感じないかもしれないが、全てあわせるとパックに9枚の金色カードが入っていることになる。『アラーラ再誕』の教訓を踏まえて、金色サイクルをギルドあたり1枚に削り、全体として5枚を少し超えた程度に減らしたんだ。
それでも、プレイテスターは混乱した。この問題を一気に解決したのは、マーク・グローバス/Mark Globusが私のチームを集めてこう言ったときだった。「オーケー、このセットは何がメインなんだい」 2つ、正確に言えば2つと半分の答えが浮かんだ。1つめは、多色カード。なんと言ってもこれはこのブロックの最大の魅力だ。ギルドというモデルは全体として魅力的だけど、その魅力の源はと言えば大前提のカラー・パイのおかげで本質的に魅力的な多色クリーチャーという前提をもたらしているということ。そして2つめが、ギルド門。これは『ドラゴンの迷路』のブースター・パックのど真ん中を占め、ブロック全体のストーリーを貫く迷路をなしているということだ。ローズウォーター語録による「コモンに存在しないものは、セットのメインではない」を踏まえて、セットをまとめるコモンのサイクルを作るという考えに至った。これでできたのが門番サイクルと迷路クリーチャー群で、これが「半分」の目標を巧くこなしてくれた。セットを遅いものにしてくれたんだ。
プレイテストでは、デザイン上、『ラヴニカへの回帰』と『ギルド門侵犯』のリミテッドはどちらも比較的速いフォーマットになっていた。なぜなら、この両セットを組み合わせてドラフトすると、マナ・ベースがぐちゃぐちゃになるということがわかっていたからだ。マナ事故を起こせば、武器を素早く揃えることができない。そこで、『ドラゴンの迷路』後のドラフト環境は比較的遅くなると見ていた。この変化を際立たせるため、フォーマットを充分速いようにしたかった。『ラヴニカへの回帰』から『ギルド門侵犯』への変化は、ギルドが5つとも入れ替わることで感じられるようになっていて、『ギルド門侵犯』から『ドラゴンの迷路』への変化は、フォーマットが劇的に遅くなることで感じられるようになっていた。4マナ2/4のサイクルと、強力な6マナ・コモンのサイクルを入れることでテンポの変化はずっと大きくなる。
鎖に一工夫
これらの変更と、通常のデベロップの手順で、この『ドラゴンの迷路』は有意義なプレイテストの準備が整った。その結果、骨格上から、リミテッド環境に注目する必要があることがわかった。重要なのは、金色環境にするという風潮から、プレイしても楽しくない「グッド・スタッフ」デッキが出てきてしまうということだった。強力なカードを何度も何度も唱え、ただ対戦相手を打ち倒すだけ。つまり、ピック順さえ決まってしまえば、ドラフトそのものが面白くも何ともなくなってしまうのだ。
解決のために2つの方法を採った。まず、強力な多色カードをアンコモンの「大尉」サイクル、つまりプレイスタイルを特定の方向に誘導する能力を持つ強力なクリーチャーに集めた。こうすることで、ドラフトでもっとも強力な選択肢を取るためには文脈を気にせずに強力なカードをピックするんじゃなく、方向性を定めてピックしなければならないようになった。その後、ブロック内を見直して各ギルドで最強のカードのマナ・コストを調べ、その空いているところに最強のカードが入るように調整した。これでアグロもコントロールもできるようなピックをするとデッキ全体のクオリティが保てないようになる。そして、特定のアグロ戦略に、ある割合であるマナ量にあたるカードが欠けているということに気付いたら、『ドラゴンの迷路』でその穴を埋めるカードを作った。目標は、環境を全体として遅くする一方で、アグロ・デッキがちゃんと働くだけの道具を供給することだったんだ。
ここに至って――それと、様々なデザインの細かい調整を経て――リミテッドは非常に満足できるものになったんだ。実際、ここで言ってきたような形で、デベロップ初期のかなりの割合はブースター・ドラフトに捧げられたって言ってもいい。そういうもんだ。実際どうだったかというと、同じようにかなりの時間をプレリリース・フォーマットを良いものにするために費やしてきた。でも、ドラフトの問題を解決していくことでプレリリースの問題も解決されていったんだ。一般に、リミテッドのプレイテストによってシールドデッキ、ブースター・バトルパック、カジュアル構築なんかも進化していくんだ。どれも、プレイヤー1人あたり何個かのパックを開くと仮定してるわけだからね。それについて掘り下げて考えてみると、調整の結果がどうなるかはかなり正確に予想できるものだよ。
さて、ここでようやく構築のテストに入ることになった。調整するとリミテッドに大きな影響を与えてしまうコモンやアンコモンを先に構築プレイヤーにふさわしいものにしたい、と思うのは普通だけど、幸いにもそういったレアリティの低い効果が構築でどういう働きをするかは簡単にわかる。だって、今までに見てきたのと同じことだからね。ここでの例外が《稲妻のらせん》だった。私はセットに残したいと思ったんだけど、《瞬唱の魔道士》や《スフィンクスの啓示》と組み合わせたときに強すぎることが証明されたんだ。
残念。
普通、構築のテストとなると、セットをフューチャー・フューチャー・リーグに投入してプレイテスターにガンガン回してもらうんだ。このセットの場合、『ラヴニカへの回帰』や『ギルド門侵犯』で気に入った部分を伸ばすという目標を達成しているかどうかが重要だった。『ドラゴンの迷路』のカードをデッキに入れることができたとしても、それが『ラヴニカへの回帰』や『ギルド門侵犯』で登場したデッキに入るんじゃなければこのセットの目的は達成できていないんだ。そこで、私はチーム内外の何人もの人に『ラヴニカへの回帰』あるいは『ギルド門侵犯』を使ったギルド・デッキをデザインするように言った。それから、そうして作ったデッキに『ドラゴンの迷路』から使いたいカードを選んでもらい、それがデッキにふさわしいと思うかどうかを聞いた。私は『ドラゴンの迷路』のカードをラヴニカへの回帰・ブロックのデザイン上にできていたマナ・カーブの穴を埋めるように配置し、抜けているギルドがないようにした。それらのデッキを慎重にテストし、ブロック構築をテストし、そしてスタンダードへ。ここではギルドに基づいたカジュアル構築のデッキで使われていたカードが使われているかどうかに着目したんだ。
一番時間をかけたカードは、多分プレインズウォーカーの《ラル・ザレック》だと思う。彼は8回もデザインし直され、コストも3回は変わっている。それでも問題なのは、彼に「個性」がなかったことだ。彼はイゼット団の一員なんだから、ただ青赤っていうのではなく、いかにもイゼットでなきゃならない。カードを引いてダメージを与える、ってだけでは、プレイヤーはそっぽを向いちゃう。ついに閃いたのはデュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズで彼が使っていたデッキが「ストーム」系だったということ。それを踏まえて出来たのが、奇妙で常識外れで、そして強力で魅力的で、どうにもならないほどの成果があり得る今のデザインだった。この結果には満足してるよ。
最終調整
それからは、微調整だけだった。編集が加えられ、いくつかの変化があった。元々、10体の伝説のクリーチャーはレアと神話レアに配置されていたけれど、クリエイティブ・チームのダグ・ベイヤー/Doug Beyerは全員がレアであるべきだと強く主張した。その結果、ここになってデザインされ直したカードもある。それから文章の整形。いくつものミスがここで修正された。「してもよい」とか「?まで」とか「プレイヤー1人を対象とする」のか「対戦相手1人を対象とする」のか、そういったことが世に出る直前までかけて調整されたんだ。
そして私がいなくなって、セットが完成して、ここに至って――テーブルについて、ブースター・パックを開けてカードを手に入れられるんだ!
私がウィザーズという会社を離れて6ヶ月ほどになる。ウィザーズにいた頃のことを懐かしく思い出すことはない、なんて言ったら嘘になる。もちろん、今ニューヨークでやっていることも大好きだけどね。開発部の全員がマジックに注いでいる愛情は明瞭で明白で、『ドラゴンの迷路』のようなセットも含むあらゆるセットの中に息づいている。私が『ドラゴンの迷路』でやってきたことについて色々と話してきたけれど、デザイン・チームやデベロップ・チームの全員が途方もない努力と洞察を重ねてきたことをわずかもないがしろにするつもりはない。マジックを作っているのは開発部の全員の力で、その中でたまたま何人かがクレジットに名前を連ねてるってだけなんだ。
みんなが『ドラゴンの迷路』を楽しんでくれたらいいね。みんなの話や、このセットを通じてみんなが手に入れた思い出を聞きたいと思う。よかったら、教えてくれないかな。
ザック
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