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天使は蘇り、悪魔は解き放たれる
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天使は蘇り、悪魔は解き放たれる
Doug Beyer / Translated by Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori
2012年4月9日
イニストラードにおける人類の運命はまもなく決定される。戦場が選ばれ、報奨が用意され、闘士達は激突しようとしている。そして全てが語られ、行われたならば、一体の天使だけでは済まないものが世界へと再び放たれるだろう。
スレイベン大聖堂の中庭に、大天使アヴァシンと悪魔的なものどもの群れが閉じ込められている巨大な銀のオベリスク、獄庫がそびえ立っている。前回、我々は正反対の目的を持つ、意思の堅い女性二人が対決するであろうことを学んだ。一人は獄庫を危害から守ると誓ったスレイベンの守護者、若き聖戦士サリア。もう一人はデーモン・ロードを発見し彼を滅ぼすという確固たる目的を持つ、次元を渡る屍術士リリアナ。今日、この二人は衝突する。
リリアナの進む道
リリアナはスレイベンへと歩みを進めた。彼女の足は痛み、その肌に刻まれたルーンは疼いていた。彼女はデーモンのグリセルブランドを探し求めるためにイニストラード中を駆けずりまわってきた。苛立たしい手がかりの数々を一つに繋ぎ、じれったいデーモンからイニストラード次元に縛られた腹立たしい人間まで、あらゆる類のクリーチャーとやり合ってきた。彼女は同輩プレインズウォーカー、獣魔術師ガラクと戦いさえした。彼女の汚らわしいアーティファクト、鎖のヴェールに端を発する黒マナの呪いを与えられた彼の血の復讐は理解できるが、それでも彼のリリアナ狩りは彼女のグリセルブランド狩りの妨げだった。近頃は、彼女が蘇生させたゾンビの群れをガラクへと突きつけて去ることによって、何とか逃れてきた。そうしなければならなかった。そして今彼女は、明らかに自分の領分ではない場所に身を置いていた。僧侶、聖印、そして(最悪なことに)天使の彫像――聖なる都市スレイベンの中に。だが一つの事実が彼女に笑みをくれた。彼女が見つけるべき男はヴォルパグ、スカースダグ教団として知られるデーモン崇拝カルトの長だった。
リリアナはスカースダグ教団の指導者が僧正でもあると知ったが、驚きはしなかった。あらゆる世界で、見つけ出すことのできる力ならばどのような形であろうと求める人々――彼女がよく理解する原則だった。リリアナのヴォルパグとの対面は彼女が予期していた通りに進んだ。彼女はグリセルブランドの居場所を知りたいと要求したが、ヴォルパグは拒否した。彼女は即座に肉体的苦痛を与えて脅迫したが、ヴォルパグは彼の主人へとあらゆる犠牲を払っても、死の脅迫下にあってさえ秘密を守るという誓いを立てていた。彼女はこの無価値なデーモンの下僕を殺す呪文を用意したが、彼は最後の吐息とともに何かを漏らした。ヴォルパグは死の際に冷酷にも言った。デーモンが眠る場所を知る自分以外ただ一人の人物は死んだと。猛り狂うアンデッドの軍勢による先日のスレイベン包囲戦によって死亡した、月皇ミケウス。
ついに、物事はリリアナに向き始めた。もう少しの更なる脅迫が彼女をスレイベン大聖堂の地下墓地、ミケウスの眠る場所へと導いた。彼女はミケウスの腐りつつある身体に邪悪な生命を吹き込んで前月皇を蘇らせ、その腐った唇から決定的な秘密を聞き出すことができた。奉仕を強いられ、不浄なるミケウスは死の魔術師が知りたいと切望していたことを語った。グリセルブランドは獄庫の中に封じられている。
「それじゃあ、」彼女は考えた。「すぐに探さなきゃね、獄庫を壊せる誰かを。」
獄庫での衝突
リリアナは多くの魔力を投入し、グール達を召喚して小軍隊を立ち上げた。スレイベンが彼女を止める十分な戦力を揃える前に、彼女は聖戦士達と司祭達を殺しながら、獄庫の立つ大聖堂の中庭へと進軍した。大聖堂を防衛する戦力を乗り越えるためには暗黒の魔術を増幅する必要があるだろうと、彼女は今一度鎖のヴェールの誘惑的な力を呼び起こした、だが真の問題は前方、月光に映し出されたシルエットにあった。月の銀の堅固な、そびえ立つ聖なるモノリスを粉砕するのに必要な魔法を、一人の屍術士がどうやって奮い起こせるだろう? 有効かもしれない考えが彼女にはあったが、その役割はアヴァシン教会に演じさせる必要があるだろう。
アート:Steve Argyle |
示し合わせたかのように、スレイベンの守護者サリアがアンデッドの脅威に対処すべく、精鋭の聖戦士の幹部達を伴って現れた。リリアナの不浄な軍勢が大聖堂の庭園になだれ込むと、サリアと彼女の聖戦士達は獄庫を囲み、その生命をかけて守った。グールと聖戦士は激突し、剣は死者を切り裂き鉤爪は生者を引き裂いた。
これこそまさにリリアナが求めていたものだった。暗黒の魔術の波をもって彼女は聖戦士達を無力にすると、苦痛の呪文で彼らを押しとどめた。グール達は彼らへの攻撃を続け、抵抗できず無力な彼らの骨から肉を恐ろしくも痛々しく齧った。そしてリリアナは奥義たる最後通牒を、若き守護者へと恐ろしい選択を強制する呪文を告げた。
「このぴかぴかの岩と、」彼女は言った。「あんたの仲間達。壊滅するのはどっちか、お選びなさい」
サリアは威圧的な呪文の力を頭上に感じた。彼女はその監視下、獄庫にいかなる危害も及ばせないと誓っていた。それはスレイベンの守護者としての約束であり、彼女の前任者から受け継ぎ果たしてきたものだった。それは彼女一人の任務であり、彼女のみが責任を持つものだと知っていた。だがこの魔女がサリアの聖戦士達へと行っていることを止めないだろうとも知っていた。サリアは躊躇し、囁き声で死の魔術師へと悪態を呟いて、自身の宣誓と、自身が率いる戦士達の命、更にはリリアナの前に立ちはだかる全てのイニストラード人の命とをはかりにかけた。
アート:Michael C. Hayes |
その一方で、彼女の聖戦士達は沈黙を守るべく奮闘し、リリアナのグール達が彼らを引き裂く苦痛を押し殺していた。だが結局サリアに選択をさせるには、彼女の聖戦士の一人のくぐもった叫び声だけで十分だった。
獄庫が務める役割が何であろうと、それは人類を救ってはいない。スレイベンの城壁はアンデッドに包囲されている。吸血鬼の血統は公然と人間の村を歩き回り、狼男の吠え群れは土地から土地を蹂躙している。獄庫は聖なる秘宝かもしれないが、それが彼女へと苦痛と死を加担させているのならば、サリアの約束は何の価値もない。落胆し、サリアは銀のオベリスクを指した。リリアナは頷き、彼女の呪文は完成した。
一瞬、あらゆる音が途絶えた。
牢獄、破壊される
割れ目が獄庫に現れ、その中から光の筋が夜を貫いた。そして爆発がグールを粉々に吹き飛ばし、聖戦士達を地面へと打ち倒し、そしてリリアナとサリアに破片が降り注いだ。黄金の光のらせんが獄庫の残骸から天空へと伸び、空をその輝きで照らした。月の銀のモノリスは砕け散り、暗黒の霊気の帯があらゆる方角へと発せられた。悪魔的存在の群れは今や彼らの牢獄から解き放たれ、そして彼らは影の中へそっと逃げた。あらゆる目が、人間達の前に姿を現した光り輝く存在を見ていた。
それは希望の天使、アヴァシン。純にして、全にして、永遠。
《希望の天使、アヴァシン》 アート:Jason Chan |
復活
数時間のうちに、アヴァシンの帰還は次元の全域に聖なる魔法のうねりをもたらした。アヴァシンの存在は教区の司祭達の聖なる祝福と路傍の祭壇に刻まれた護法を生き返らせた。天使の飛行隊は帰還し、彼女らの絶望は消え去り、各州にはびこる恐るべきけだもの達を必ずや打ち負かすだろう。衰えていた大魔道士達の神聖魔法は再び力を取り戻し、今や再びアヴァシンの名のもとに力強い呪文を振るうことができる。
アート:Mike Bierek |
かつてイニストラードでは見られなかったクリーチャー達が姿を現し始めた、あるものは暗黒の時代の間隠れて姿をくらましていたもの達で、そしてあるものは全く新しく、アヴァシン自身の神聖なる務めから創り出された。我々が目にするように、邪悪は世界から拭い去られてはいない――そこからは程遠い。暗黒はイニストラードの本質そのものに組み込まれているのかもしれない。だがそれら、アヴァシンの庇護に依存する者達は戦いの中で新たな武器を手にする。
《銀刃の聖騎士》 アート:Jason Chan |
サリアの聖戦士隊は再建され、その力と信仰も復活した。そして彼女が人類のために四つの州全てを取り戻す希望を持ち、吸血鬼やゾンビの軍勢を押し戻す自身の務めへと戻るまで長くはかからなかった。
残るは、リリアナとあのデーモンとの待ち合わせだけだった。
グリセルブランド
グリセルブランドが獄庫から解放され、彼が最初に考えたことは、勿論、力だった。
デーモン類にとっては苦々しい時であり、中でもグリセルブランドにとっては特別だった。このデーモン・ロードの目的は全て遂げてきた――そして同時に、元に戻った。アヴァシンがあの銀の牢獄に捕えたデーモン達は再び解き放たれた。スカースダグ教団は今一度、崇拝すべき十分な暗黒の存在を得ることができるだろう。そしてグリセルブランド自身は死ぬべき運命の者達を誘惑し、再び彼らの魂を食らい始められるだろう。
だがアヴァシン、看守たる彼女自身が今や復活し無傷で帰還した。グリセルブランドの策は全く何もなさなかった。天使達は舞い戻り、神聖なる力は復活した。彼が今やるべき最良の行動は、定命の者達が祝祭を挙げる間、灰口へと逃げ込むことだった。彼は好機を待ち、力の確約で定命の者達を誘惑することで、この世界における彼の優位性を再建するだろう。そしておそらくある日、彼は復讐を図る準備を整えるだろう。この世界は、今一度至尊なるグリセルブランドを見るであろう、そして彼にひざまずき、むせび泣くであろう。
だがその考えは遮られた。
グリセルブランドの死
リリアナは彼女の獲物がこそこそと逃げ去るのを見るために遥々ここまで来たのではなかった。恐らくそのデーモンは大聖堂の中庭、光の爆発の中で彼女の姿を見なかったのだろう、もしくは長い年月が経って彼女だと認識しなかったのかもしれない。だが彼女は彼を認識した――彼女の魂の所有権を主張するデーモンの一体。
やるべきことが完了し、リリアナはスレイベンに見切りをつけて灰口へとグリセルブランドを追った。大聖堂での戦いは彼女を大いに消耗させていたが、時間が非常に重要だと彼女はわかっていた。天使達と聖なる術士たちは突然この世界に、悪臭のごとく現れたように思えた。そしてプレインズウォーカー・ガラクもやがて彼女を捕まえるであろうことを知っていた、彼女がもしそれを許すならば。つまり今しかなかった。
そのやり取りは、結局のところ短いものだった。デーモン・ロードは彼女を見て驚き、この再会がどれほど深刻なものであるかを直ちに知った。彼は虚勢を張って話を進めようとしたが、リリアナは何体かの下僕を殺すことによって速やかに彼を黙らせた。彼女はゲームやお喋りのためにここにいるのではない。彼は更なる力を申し出て、取引を試みた――だが彼女はその嘘を見抜いて拒否し、彼との契約から魂を解放するように攻撃した。ついにグリセルブランドはこの成り上がり者に死を与える時だと決意し――
アート:Nils Hamm |
――そしてリリアナは鎖のヴェールに、彼女の死の呪文を煽らせた。彼女が夢中になっているとも気付かない憎悪の深みの中で煮えたぎる、悪意の渦が彼女から噴き出した。それがグリセルブランドをついに死に追いやるに十分だと知るものの、その感情は彼女を狼狽させ、つかの間、彼女は自身の魔法が変貌したものを制御できるのだろうかと怪しんだ。だがその瞬間、彼女はグリセルブランドを完全に破壊し、魂の譲渡は成された。
グリセルブランドの立っていた地面には今や何もなかった。灰口の硫黄臭い空気は変わらずそのままだった。下位デーモンの群れが下がってリリアナへと十分な空間を提供し、立ち去ろうとするプレインズウォーカーを囲んで沈黙の円を作った。
アート:Todd Lockwood |
四つの州全土で、人間達は静かな喜びの中アヴァシンの再来へと感謝を捧げた。月が昇ると、村人たちは扉のかんぬきを外し、彼らが持つ祝福されし銀の槍と天使から力を得た魔法を今一度準備した。天使の飛行隊は苦しむ人々の呼び声に応え、夜のクリーチャー達へと反撃した。アヴァシンは進撃を導き、次元全てを包み込むようにその翼を広げた。
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