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恐るべき物語 その1
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恐るべき物語 その1
Mark Rosewater / Translated by YONEMURA "Pao" Kaoru
2011年9月19日
私はどのセットでも、1回か2回のコラムを使ってカード個別、あるいはサイクルについての話をするのが好きだ。私がリーダーを務めたセットでは、話す内容も多くなるのでコラムを2回に分けることが多くなる。今回、これを語るにあたって、ちょっとした問題があった。それは、全カードの公開と時期が重なるということだ。この問題を解決するため、私はその1では今までのプレビューされたカード、そしてその2で他のカードについて語ることにする。それでもよければ、読み進めてくれたまえ。そうでない諸君は、私のコラムを読み進める代わりにカード・ギャラリーを楽しんでくれたまえ。
前々回のプレビュー記事でこのカードを紹介した時にこのカードの出来方については語ったが、重要なことを忘れていた。デザイン・チームが最初にデザインした時は、ゾンビ・トークンの数は20体だったのだ(フラッシュバックはすでについていたので、場合によってはこれ1枚で40体のゾンビが出ていたことになる)。キチガイじみた数のゾンビが出てくるのは本当に魅力的だと思った。
デベロップ・チームは、プレイテストを通じて、20と言う数は多すぎると判断した。デザインとデベロップの両チームに所属していたトム・ラピル/Tom LaPilleは、すでにデザインでテーマとして用いていた13という数に合わせることを思いついたのだ。
よい再録を見つけ出す鍵は、もしそのカードが存在しなかったとしてもそのセットのために作られていただろうと思えるようなカードを探すことだ。このカードに関することで話しておきたいことは、このメールのやりとりのことだ(言い換えているのは古いメールを探すのが無理だからだ)。
マジックのクリエイティブ・ディレクター、ブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuthからのメール:「このカードから「吸血鬼」という言葉を取り除くわけにはいかないか? クリエイティブ・チームは吸血鬼の設定を詰めているんだが、吸血鬼は火に弱いとはしたくないのだ」
私からのメール:「そんなこと言ってもこのカードは再録だ」
ブレイディからのメール:「おお、ああ、そうか。わかった、じゃあこれを前提に」
このカードはデザイン中、肉屋のナイフと呼ばれていた。イニストラードの装備品は、単なる武器でないものを採用することにしていた。ホラーの物語では、怪物と戦う人々はほとんど計画や作戦というものを持たず、手近にあるものを掴んで武器にするものだ。そこで、できる限り多くの「武器としても使える日用品」を盛り込むことにした。《肉屋の包丁》はまさにそれである。
変身のシステムを導入した直後、私は、ジキル博士とハイド氏をカード化するべきだと思った。問題は、それをどのようにしてカード化するかということだった。最初は、ジキル博士は小さく、タップを必要とする起動型能力を持つ、というところから始まった。ジキル博士をいかにも科学者然とさせたかったのだ。そのため、彼は青に決まった。一方で、ハイド氏は暴力的で、攻撃のことしか頭にないようにした。ずっと大きくて、そして赤であると定まった。
《礼儀正しい識者》の起動型能力に、《人殺しの粗暴者》への変身をもたらすものが必要なことは分かっていた。最初は物あさり系の能力をつけることから始めた。これによって、プレイヤーはどのカードを捨てるか選べるからである。最初の版では、土地を捨てたら変身するようになっていたが、これはプレイしてみると出来が悪かった。土地を出来るだけ速く投げ捨てて5点のダメージを与えるようにするのが自然だが、そうするとマナが足りなくなってゲームの回転が悪くなるのだ。最初に加えた変更は、土地カードを捨てることからクリーチャー・カードを捨てることへの変更だった。この変更はうまく行って、元に戻す必要はまったくなかった。
ハイド氏側は最初に作られたときからほとんど変化なく過ぎた(数字は多少変化しているが)。私は、ハイド氏が落ち着いたらまたジキル博士に戻るというアイデアが気に入っていた(ハルクの影響は否定できない――気づいていない諸君のために言うと、ハルクはジキル博士とハイド氏の同類に分類できるのだ)。《人殺しの粗暴者》に加えられた変更は、《礼儀正しい識者》の側に現われた。《人殺しの粗暴者》への変身にアンタップを加え、《人殺しの粗暴者》がすぐに攻撃に行けるようにしたのだ。
このカードのできばえに、私は非常に満足している。
部族が全て友好色なのに、このサイクルはどういうことだと多くの人々から質問を受けている。それへの答えは全て同じで、開発部はセット1つ単位ではなくそれ以上の全体像を見て考えなければならないのだ、ということである。マジックには対抗色2色土地が必要で、M10土地の対抗色版が望ましいものだと考えられたということである。エリック・ラウアー/Erik Lauerは、たとえば土地の複数のセットに渡る配分などで、複数のセットがきちんと働くようにすることの責任者である。エリックはこのサイクルがイニストラード・ブロックのどこかに必要だと判断したのだ。
問題は、デザイン上強力な友好色テーマを持っているということだ。エリックと私はこれについて話し合い、違和感があってもこのサイクルは必要だという結論に達した。このセットのデザイン・リーダーとして、私は土地抜きでこのセットを提出したが、土地を入れるならこれを抜くべきだという指定もつけた。デベロップは入れ替えるだろうと分かっていたが、デザイン側ではそのカードを作っていないという表明をしておく必要があると思ったのだ。
この問題を解決するために、エリックは我々がデザインした他のレア土地サイクルを残すことを認めてくれた。
このサイクルの土地は各部族の「住処」を表すものとして作られた。このデザイン上の鍵は、対応する部族と組み合わせて使いたくなるように作られてはいるが、それほど寄生的ではなく、部族と無関係に使うこともできるようになっているということだ。たとえば、狼男部族は(人間から狼男へと変身するために)呪文を唱えない時にマナを使う使い道が必要になる。そこで《ケッシグの狼の地》はマナを使えるようになっているが、一般的な赤緑デッキになら入るようになっている。
この譲歩に私は満足している。このセットに必要なものをすべて詰め込んであって、デザイン側のイメージした物にかなり近づいている。対抗色2色土地がブロックの後半で対抗色テーマが出ることの示唆か、という質問があったなら、私は「違う」と答えるだろう。
マジックのカードの中に歌に触発された物がどれだけあるかは分からないが、私がデザインした中で言うならそれは明らかだ。その数は、1つ。このカードだ。「Creepy Doll」はジョナサン・クールトン/Jonathan Coultonという歌手の曲のタイトルだ。聞いたことがない諸君は、是非聞いてみるといい。
彼の公式サイトからはこの曲をダウンロードすることもできるし、他の曲を探すことも出来る(リンク先は英語)。
トム・ラピル/Tom LaPilleと私はともにジョナサン・クールトンのファンなので、デザインを始めた時に二人で「Creepy Doll」というカードを作ろうと同意していた。いかにもホラーっぽいし、強力なアーティファクト・クリーチャーっぽい。
デザインした時に、破壊されないものにすることにしていた。人形を壊せないというのは重要な要素だ。実際、物語の最初に主人公はありとあらゆる手段で排除しようとするが、どうしても戻ってくるものなのだ。人形は小さいので、1/1にした。0/1でなかった理由は、これを恐るべきものにするために接死を与えるためだ。
不幸にして、接死はこのカードを少しばかりやっかいにしすぎた。触れた物全てを殺すような、そして壊すことも出来ないクリーチャーをどう扱おうというのだろう? 攻撃しない以外の選択肢はない。このデザインを解決するための鍵は、元ネタにあった。Creepy Dollは全ての人を不安にするから怖いのだ。その不安さをカードに再現するにはどうすればいいか?
やがて、クリーチャーの効果を一定にしないようにするという答えが見つかった。未知なる物は不安をもたらす。攻撃したらクリーチャーのうち1体が死ぬ、と分かっていれば、それを最初から計算に入れることができる。覚悟が出来ていれば怖いものではない。では、死ぬかどうかが分からなかったらどうだろう? そこには緊張が生じる。このカードがゲームにおいてどう働くか、本当に楽しみだ。諸君を不安にしてくれることだろう。
このカードに関する話題と言えば、自分につけたいと思うような唯一の呪いだということだ。開発部の中には、そんな呪いは作るべきではないという意見もあったが、この効果は使い方を見つけるまでは間違いなく不利益をもたらすものだと主張した。同意する人のほうが多かったので、このカードはデザインされたままに採用されたのだ。
このカードは元々緑で、「おいしさの呪い」と呼ばれていた。デベロップがスリス能力(クリーチャーがプレイヤーに戦闘ダメージを与えたときに+1/+1カウンターを得るということを示す開発部のスラング)を吸血鬼につけたとき、この呪いを赤に変更した。なぜなら、この呪いはスリス能力をエンチャントされたプレイヤーの対戦相手のクリーチャー全てに与えるようなものだからである。この決定を理解はしたが、それでも私にとってはこのカードはやはり「おいしさの呪い」のままだ。
このカードは幽霊っぽいものを作ろうとしてデザインされた。私は祖霊というアイデアが好きで(白には良い幽霊が存在するのだ)、このカードの後ろにはその発想があった。また、私は墓地にある間に何らかの効果をもたらすカードを作りたかったのだ。
このセットには怪物が必要で、従って怪物狩りも必要だということがわかっていた。そのために、怪物を参照する手段が必要となった。怪物というサブタイプをつけることも考えたが、このセットの吸血鬼は怪物なのに他のセットの吸血鬼はそうでないというのはいかにも奇妙な話だ。結局、我々は怪物を名指しにすることに決めた。前々回の記事で言ったとおり、幽霊(あるいはスピリット)は後になって加えられた部族である。従って、これらのカードを最初にデザインした時点での怪物は「吸血鬼、狼男、ゾンビ」であった。幽霊が4つめの部族として導入されたときに、我々は、この一覧にスピリットは加えないことにした。3つはちょうどいい数に思えたし、また、スピリットの半分(白)は良いスピリットだったからである。
これは、デザインされたことをもっとも誇りに思っているゾンビ・カードだ。何回か前に行ったと思うが、私は映画のようなゾンビ・デッキを作りたかった。そのために、ゾンビ・デッキが後になればなるほど強くなるような方法がいくつも必要だった。このカードはまさにそれで、間を飛ばしてゾンビをもたらすものである。
このカードはほぼデザインしたままだが、一つだけ大きな変更があった。私が作った時、これはアンコモンだった。部族ドラフトを推奨するための、構築の軸となるアンコモンの一枚だったのだ。パックを開いてこのカードを見たら、「さあゾンビに走れ!」と言われているような気がするものだ。不幸にして、このカードは少しばかり強すぎた。リミテッドを染め上げてしまうのを防ぐために、デベロップはこれをレアに格上げにしたのだ。
ちなみに、このセットの絵の中で私が一番好きなのはこのカードの絵だ。
このカードをデザインしたのが誰だったかは忘れてしまったが、このカードを一目見た私はすぐにそれをファイルに入れた。これこそがトップダウン・デザインだ。
今日の「このカードの最初の名前は?」のコーナーはここだ。さて、このカードの元ネタは何だかわかるかね?
分かった諸君はこちらをクリックしてくれたまえ。
ネクロノミコン、またの名を「死者の書」と呼ばれるものだ。このカードはネクロノミコンの雰囲気を再現するため、トップダウンでデザインされた。デザインにおいては、ネクロノミコンは人を狂気にいざなうので、このカウンターは狂気カウンターと呼ばれていた。カードを捨てるというコストは、その狂気を表したものだ。
何人もから、デザインにおける13というテーマについての質問を受けた。13と言う数字は不吉な数とされ(なぜかには諸説ある)、多くのホラー物語でそう扱われている。
13というテーマは、チームのジェンナ・ヘランド/Jenna Hellandがデザインしたこのカードが最初であった。このカードは最初「ヘルマウスへの突入」と呼ばれていた(ヘルマウスとは、テレビ番組「バフィー~恋する十字架~」に出てくる地獄の入り口の名前である)。チームがこのカードを気に入ったので、私はこれをセットに入れることにした。このカードが最初に13という数字に気づかせてくれたカードであり、それ以降13を使える場所を見つけたら使うことにしたのだ。
透明人間は最初のブレインストーミングで現われたのだ。
最初のプレイテスト時の変身後の名前は、「突然変異のタコ」だった。13/13でトランプルがついている化け物にはふさわしい名前だと思ったのだ。
なぜ青にトランプルがついているのかという質問を数多く受けたが、トランプルは何色であっても超巨大クリーチャーにならついていていいし、青には巨大海蛇系のトランプルの伝統があると答えることにしている。
最初は、このカードはカウンターを5つ持って戦場に出て、取り除くというものだった。エルドラージの覚醒にあったLvアップからアイデアを借用したのだ。最終的に取り除くのでなく乗せていくようにしたのは、増殖と相互作用するようにしたかったからである。
このカードは、人間のロードが変身したら狼男のロードになるという着想から生まれた。このカードについて私が気に入っているのは、これがどちらの姿をしていても、他の狼男を強化することができるという点である。
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これはリチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldがデザインしたカードだ。リチャードの作った原版は死亡することを誘発イベントにしていたが、それはルール上の問題があったのでデベロップが起動型能力に作り直した。このカードは非常に雰囲気が良くて、また今までのどのカードとも違うプレイ感覚をもたらしてくれる。まあ、リチャードの作品なのだからそれは言うまでもないだろう。
このカードに関する質問にお答えしよう。このカードはゾンビを作る。なぜ部族ソーサリーにしなかったかというと、イニストラードでは部族というカード・タイプを使うつもりがなかったからだ。部族を強いテーマとしているこのセットで使わないなら、いつ使うのかという話になるが――もう使わない。そう、部族というカード・タイプに死を宣告しよう(エルドラージ覚醒でエルドラージ呪文があったように、どうしても必要な状況があれば――まあ、封印の奥底から引っ張り出すことになるだろう)。
どういうことかと答えるに際して、イニストラードのデザイン期に話を戻そう。私は部族をテーマとしたセットに取り組んでいたわけで、可能な限り部族というカード・タイプを使っていた。《神聖を汚す者のうめき》は部族ソーサリー ― ゾンビだった。問題はそこで、線引きがあまりに難しかったのだ。セットが部族を使うなら、そういうフレイバーのカード全てに部族をつければいい。ただ、このセットはトップダウンであり、クリーチャーでない呪文の大半が部族というカード・タイプを使うことになっていたのだ。
その結果、カードの文章が増えるだけで、意味はなかった。部族テーマのカードはクリーチャーに影響するものがほとんどで、部族タイプのカードは影響を受けない。この例外がゾンビで、ゾンビ・カードを墓地から戻す手段はいくつもあった。だからこそこの質問はこのカードに関するものになっているのだろう。
部族を入れてプレイテストを行なった結果、やはりほとんどの場合意味がないということが分かった。最終的に、部族を入れても文章が増えて混乱を招くだけでゲーム上ほとんど意味がないという結論に達したのだ。
イニストラードのデザインにおける挑戦事項の一つに、その部族にとって有意義な、しかしそれ以外の場合にも使えるカードを作るというものがあった。このセットをローウィンのように部族以外が存在できないような世界にはしたくなかったのだ。その一方で、部族を中心にドラフトすることを選べるようにはしたかった。
そうするための鍵の一つは、部族カードをコモンでなくすることだった。非常に強力な部族カードを作り、それをアンコモンに据えた。それらのカードを引いたら、手なりに部族に進むようにしむけたのだ。そして、コモンにもいくらかの部族テーマを置いたが、それらのカードは部族以外でも使えるように仕上げたのだった。
このカード名は、狼男を助けるための方法を探していたことからつけられた。どうやって完成したかを完全には覚えていないが、霧のようなものが欲しかった。霧が出たら夜のように暗くなるだろうというものだ。狼男を強化するのは緑に置きたかったので、これで完璧だ。
イニストラードについての前触れはほぼ解決されたが、一つだけ議論の余地があるように思われる。「銀枠の白カードを元にしたカード」というのはどれか? その答えはここにある。《金輪際》は、このカードを元にしているのだ。
イニストラードのデザイン中に、呪いを作っていたときのことだ。この《Look at Me, I'm the DCI》を呪いにしたらおもしろいだろうと思った。結局はこのカードをイニストラードから取り除いたのだが、それは、白は怪物と戦う人間の色なので、白の「邪悪」な部分をデザインから取り除くためだった。
数ヶ月後、エリック・ラウアー/Erik Lauerから、白に《頭蓋の摘出》のようなカードを置きたいという相談を受けた。ある特定のカードが強すぎるとなったとき、環境内に対策カードを置いておくということは安全弁になる。私は彼に、そういうカードは作ったし、イニストラードのファイルの99番に入っていると答えた(没になったカードが99番として保存されているのは、こういう時のためだ)。イニストラードのデベロップ・リーダーであるエリックは、そのカードをエンチャント(プレイヤー)からエンチャントに変更した上でセットに投入したのだった。
このカードは各怪物の種類ごとに1枚の強烈な神話レアを作ろうとしていたときに作られたもので、吸血鬼が常に直面する、「エサを育てるべきか食うべきか」というジレンマを再現するために作られたカードである。このカードに関しては様々な議論が交わされたが、最終形に私は満足している。
ところでこのカードのイラストを見て混乱している諸君がいるようだ。オリヴィアは彼女のドレスの一部をつまみ、指で引き上げている。布をつまんでいるところが見えていないから混乱しているのだと思うが、アーティストが見える指をまっすぐに描いたのは、そうしないとエレガントに見えなかったからである。それだけのことだ。
長年にわたり、私はプロツアーのフィーチャー・マッチ・エリアで働いていた。プロプレイヤーからのトリビア的質問(トリビア・ゲームショーをプロツアーでやっていたから)を受けることも多かった。トリビア的質問の答えがプロプレイヤーの誰かである場合、その質問者が答えだということを理解するのに時間はかからなかった。
それとは関係ない話だが、最初にデザインされた両面カードは何だと思うかね? そう、《金切り声のコウモリ》/《忍び寄る吸血鬼》だ。狼男を描写するために両面カードが必要だということはわかっていたが、どういう条件で変身したり戻ったりすれば良いのかが決まらなかったのだ(これについてはまた今度)。その結果、最初の両面カードの栄誉を手にしたのは「吸血鬼がコウモリに変わる」というものだった。デザインの鍵は、意図して変身できる関係上、各面にそれぞれ長所があるようにすることだった。片面は大きく、もう片面は回避能力を持つという特長が与えられることになり、5/5と2/2飛行という形に落ち着いた。
最初はインスタント速度で変身できたが、ゲーム上あまりに煩雑になってしまった。そこでこの変更をアップキープの誘発型能力に変更し、好きなように変身できるという雰囲気を残したままで処理できるようにした(同時に、弱くなった。2/2飛行クリーチャーで攻撃し、ブロックされなかった後で5/5に変身するのは強すぎた)。
このカードは最後のマジック・インビテーショナルでティアゴ・チャン/Tiago Chanが優勝したことの賞として作られたものである。そのイベントが行なわれたのは2007年10月だが、実際にカードになるまでにこれほど時間がかかったのにはいくつかの理由がある。まず、ティアゴが最初に出したカードを調整して印刷できるようにはできなかった。
否定の魂力/Denying Channel
土地
{T}: {1}をあなたのマナ・プールに加える。
{2}{U}{U}、否定の魂力を捨てる: 呪文1つを対象とし、それを打ち消す。
これは土地としても使える、打ち消すことが出来ない打ち消し呪文であり、どうしても作れる形には調整できなかった。最初はこれの調整版を土地ブロックであるゼンディカーに入れようとしたのだが、どうしてもうまく行かなかったのだ。
やがてティアゴは中国に行き、連絡が途絶えた。戻ってきた彼に連絡を取り、デベロッパーのザック・ヒル/Zac Hillと私がついて新しいカードのアイデア出しに協力した。そのカードはいろいろな変遷を経たが、その中で墓地からインスタントやソーサリーを唱えられるようにするというものがあった。これならフラッシュバックでいける、ということでこのカードをイニストラードに入れたのだった。
インビテーショナル・カードはイベントで見られるように強くするものなので、このカードもデベロップ中にさらなる変遷を遂げ(トム/Tomがいつの日か語るかも知れない)、やがてこの形に落ち着いて印刷されることになった。おめでとう、ティアゴ! このカードを楽しんでもらえれば何よりだ!
私は、このセットに必要なトークン・タイプの一覧を作った。最終的にはその全てが作られるようになったわけではないが、蜘蛛が作られたのは何よりだ。最初、蜘蛛は1/1で黒だったが、蜘蛛なら緑で、タフネスがパワーより大きくないといけないし、到達も必要だという声が多かった。確かにその通りだと感じたので、そう変更した。
このカードのデザインは私のジョニー的見せ場だ。見た目に奇妙で、その実いくらでも使い道があるカードを作るのが大好きなのだ。
これは、デザイン中から元ネタが変わった唯一の両面カードである。元は村人の集団が誰かが死んだことによって怒れる群衆になるというものだった。怒れる群衆というネタは使い過ぎだったので、このカードは別のコンセプトを与えられることになった。
このセットで最も気味悪いイラストを選べと言われたら、これを選ぶ。人間という部族を扱うと決めてすぐ、このカードが浮かび上がってきた。これを気に入った諸君には、闇の隆盛を楽しんでもらえることだろう。
もう一つよく受けた質問に、レジェンドの《Headless Horseman》をなぜ再録しなかったのかというものがある。確かにこのカードはホラーの物語を元にしており、しかもイニストラードに多いゾンビでもある。それへの答えは、一回は入れた、というものだ。最初のプレイテストには入っていたし、それから数ヶ月はセットに残っていた。なぜ除かれたかというと、このセットには2手目のゾンビが必要になったからである。他のカードも検討されたが、《Headless Horseman》を変更するのが最も簡単だったので、《歩く死骸》が生まれることになった。
これまで黒には《灰色熊》がいなかったので、このカードは開発部で議論を呼び起こした。充分な議論の末、黒にもたまには2マナのバニラ2/2クリーチャーがいてもいいじゃないか、ということになった。
そして......。
今回の話はこれでおしまいだ。次回、他のカードについての話をしよう。
その日まで、あなたの仕事が多くのおもしろい話とともにありますように。
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