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安全な街の外側で

by Tom LaPille / Translated by YONEMURA "Pao" Kaoru

2011年9月9日


 ようこそイニストラード・プレビュー第2週へ。いつもならセットのプレビューの一番最初にデベロップ・チームの紹介をするのですが、先週は話す内容が多すぎてそれどころではありませんでした。


エリック・ラウアー/Erik Lauer、マーク・ゴットリーブ/Mark Gottlieb、デビッド・ハンフリー/David Humpherys
トム・ラピル/Tom LaPille、アダム・リー/Adam Lee、ケン・ネーグル/Ken Nagle.
エリック・ラウアー(リーダー)

 エリックは今までに多くのデベロップ・チームに参加してきました。イニストラードでリーダーを務めているための時間的制約により基本セット2012のデベロップ・チームには入っていなかったのですが、イーヴンタイドから新たなるファイレクシアまで皆勤を続けていたのは開発部で唯一、それに近い人もいないでしょう。また、彼はフューチャー・フューチャー・リーグの責任者でもあり、ミラディン包囲戦と基本セット2011、基本セット2010ではリーダーを務めました。そんな彼は、私が今まで出会った中で最も頭の切れる人物の一人です。

マーク・ゴットリーブ

 マーク・ゴットリーブの名を聞くと、前の役職であるルール・マネージャー、そしてマーク・ローズウォーターの天敵として思い出される方もいるでしょう。マークの現在の役職はデベロッパーですが、その現在の役職も以前の役職も彼のデザイン能力を曇らせるものではありません。マークが手をつけたカードはイニストラードに大量に存在します。彼以外のメンバーは、カードに何かさせたい時にそれを簡潔に記すことに長けていますが、彼は汚くて文章が長くて正気とは思えないような、それでいてセットに望ましい風合いを加える、高い稀少度のカードを作ることに秀でているのです。

デビッド・ハンフリー

 デイブは現在マジック開発部のデベロップ・マネージャーですが、それと同時に経験豊富なトレーディング・カードゲームのデベロッパーでもあります。彼はウィザーズに入社してまだ日が浅いのですが、他のゲーム会社で培った経験から、チームにおける強力な人材でした。10月の商品は翌年の商品を決定づけるので、そこに最強のチームを投入するのが望ましいことです。ですから、デイブが選ばれるのは当然でした。

トム・ラピル

 私でーす。私は基本セット2012、アーチエネミー、マスターズ・エディション3、マスターズ・エディション4のデベロップ・リーダーを務めましたし、このコラムを書いてもいます。イニストラードのデベロップ中には、両面カードのさまざまな実装を、社内にいるあらゆるレベルのプレイヤーに試してもらうことに集中していました。また、来年2月に発売されるセット「闇の隆盛」のリーダーを務めていますので、そちらにも時間が取られました。これについては今はまだお話しできませんので、次に生きましょう。

アダム・リー

 最近、大型セットのデベロップ・チームには、クリエイティブ・チームの代弁者を迎えています。今年はアダムがその役を務めてくれました。デベロップの初期には、彼はこの世界で何がそのような存在で、何が存在しないのか。また、クリエイティブ・チームがある特定のカードで表現したいのは世界のどんな要素なのかを伝えてくれました。デベロップが進むにつれて、アダムの役目は減り、そして彼は別のプロジェクトに異動しました。しかし、デベロップの初期において彼の存在が有益だったのは間違いありません。

ケン・ネーグル

 ケンは商品開発チームで多くの経験を積んできましたが、今回は少しばかり違う役目を務めてくれました。他の人と同じ位置に立つのではなく、奇妙な発想を投げかけることに徹したのです。奇妙なことや少しばかり的外れなことを私たちに投げかけてくれました。彼のアイデアの中には、たとえば色違いのフラッシュバック・カードのように、セットにすっぽりとハマったものもありますし、そうでないものもあります。しかし、いずれにせよ、彼がもたらしたものによってこのセットはより良いものになりました。

 そして、今日のプレビュー・カードの話に入りましょう。

 競技的なマジック・プレイヤーとして、私は、基本土地以外のおもしろい土地カードが好きです。ゲーム・デザイナーとしてはマジックのマナ・システムを崇敬していますし、思っていますし、デッキの三分の一以上は単なるリソースに占められていると言うことは本当にすばらしいものだと考えていますが、私の中にいるスパイクはデッキの土地スロットで何か他のことが出来るようにすることが大好きなのです。一例を挙げれば、私の今までで一番好きなリミテッド・カードは《ウルザの工廠》なのです。

 リミテッドの強いプレイヤーは、ドラフトのデッキに土地を17枚ぐらい入れるものです。私は18枚目の土地として《ウルザの工廠》を入れ、土地を増やすことで土地事故を防ぐとともに、後半になってマナを使うことができるようにして逆土地事故も防ぐことにしたのです。なんてすばらしいことでしょう。

 この種のことは、構築環境ではもっと激しく起こります。たとえば、今年の前半に行なわれたプロツアー・名古屋でトップ8に入賞した、ルイス・スコット=バルガス/Luis Scott-Vargasのデッキを見て見て下さい。

ルイス・スコット=バルガスの《鍛えられた鋼》デッキ
プロツアー・名古屋2011(ミラディンの傷跡ブロック構築)[MO] [ARENA]
18 《平地
4 《墨蛾の生息地

-土地(22)-

4 《メムナイト
4 《信号の邪魔者
1 《大霊堂のスカージ
4 《レオニンの遺物囲い
3 《刃の接合者
4 《刃砦の英雄

-クリーチャー(20)-
2 《オパールのモックス
4 《急送
4 《起源の呪文爆弾
4 《きらめく鷹の偶像
4 《鍛えられた鋼

-呪文(18)-
2 《不退転の大天使
4 《変異原性の成長
2 《骨髄の破片
2 《存在の破棄
1 《四肢切断
2 《エルズペス・ティレル
2 《激戦の戦域

-サイドボード(15)-

 ルイスは《平地》を22枚入れる代わりに、《平地》18枚と《墨蛾の生息地》4枚を投入しました。彼は白マナ源が20個あれば(《オパールのモックス》がありますから!)呪文を使い切るのに充分だと考えたのです。《刃砦の英雄》のような4マナ呪文を唱えるには土地が24枚ほど必要です。彼は残りのスロットを、無色の、ただし他の強力な力を持つ土地、《墨蛾の生息地》で埋めました。また、ルイスのサイドボードに2枚の《激戦の戦域》が入っていることにも注目が必要です。白マナ源を18枚にしても充分でしょうが、相手も《鍛えられた鋼》デッキであった場合を考えて《激戦の戦域》をメインには入れなかったわけです。コントロール・デッキを相手にするのなら、《平地》18枚のうち2枚を《激戦の戦域》に入れ替えても驚くことではありません。

 あれは、内部でのミラディンの傷跡ブロックのテストプレイの最初のことでした。プロツアー・名古屋のトップ8に入賞したデッキほど調整されてはいませんでしたが、《墨蛾の生息地》を使ったよく似たデッキを私たちも作っていました。はっきり言うと、対戦していて楽しくないデッキだと判断しました。そういったデッキに入れられる基本でない土地を作るのはイカしたことですが、《墨蛾の生息地》は不愉快な終わり方をもたらすことがありました。赤単バーン・デッキにとって、たとえばライフを7点まで削ったところで息切れして、《墨蛾の生息地》3枚を使って毒殺させる、というような不自然な状況です。しかしながら、この環境には他にそれほど使える土地はありませんでしたので、こんな状況は何度も何度も起こりました。

 私たちは選択肢の不足にいらだちました。アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheはそれを受けて、《胆液の水源》や《マイコシンスの水源》、《イシュ・サーの背骨》などと組み合わせて使える《ファイレクシアの核》を作りました。これらを組み合わせれば《墨蛾の生息地》と比肩できるほどに強力になることを確認して、満足していました。プロツアー名古屋のトップ8にはこのエンジンを使っているデッキはただの一つも存在していませんでしたが、イベント全体においてはよく使われていました。このカードは役目を果たしたと言えるでしょう。

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 しかし、スタンダードに目を戻すと、《ファイレクシアの核》は全くどこでも使われておらず、《墨蛾の生息地》は猛威を振るっていました。《墨蛾の生息地》と比べうるカードは《地盤の際》ぐらいで、これはスタンダードから消えゆこうとしています。環境には《墨蛾の生息地》が群れをなし、群れをなし、群れをなして私たちを悩ませることになりそうです。どうしたらいいのでしょう?

 イニストラードのデザインはトップダウンで行なわれましたし、このセットのカードの多くはよく知られたファンタジーの文脈を表すようにデザインされましたが、マジックのセットの何もかもが設定やフレイバーによってできあがるわけではありません。最終的には、プレイしたときに楽しめるようなものに仕上げなければならないのです。《墨蛾の生息地》問題にうんざりしていたので、エリックはイニストラードにも興味深い効果を持つ無色の土地を増やそうと決定しました。

 《墨蛾の生息地》はどこにでもいましたが、特に単色デッキでよく見かけられました。そういったデッキでは非常に優秀だったので、それと直接競うような土地を作ることはばかげたことに思えました。うまく行かなければ何も得るものがなく、《墨蛾の生息地》は新しいカードの存在する世界にも蔓延することになるでしょう。成功したとしても、頭を悩ませるのが《墨蛾の生息地》からその新しいカードに変わるだけです。そこでエリックは、無色土地を4枚入れるような余裕がなくて、1枚か2枚だけ入れたくなるような2色デッキに焦点を定めました。

 2色に対象を定めたら、次はその土地のテーマ的な定義を考えました。友好色の組ごとに部族が存在しているので、それぞれの部族の土地を与えるのが自然に思えました。デザイン時に、私たちは部族デッキが入れたくなるような土地を作ろうとしました。イニストラードでは、ゾンビを大量にプレイするプレイヤーは実験に多くの屍体を使いますし、狼男を大量にプレイするプレイヤーは呪文以外に大量のマナを使う方法が必要となります。

 私のプレイビュー・カードは、人間のために作られた土地です。部族土地サイクルの中で一番のお気に入りでもあります。

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 このカードはイニストラードの人間という部族のために作られましたが、他のいろいろなデッキでもよく働きます。《極楽鳥》や《ラノワールのエルフ》から立ち上がるような緑白デッキなら何にでもこのカードを入れて、ゲームの後半で小型のマナ・クリーチャーに新たな価値を与えることができます。ほとんど白単色のトークン・デッキに、白緑の二色土地とともにこれを散らし入れることもできます。白単や緑単のデッキに土地のためだけに他の色を加えるというのは違和感があるかも知れませんし、あるいは逆に興奮するような話かも知れませんが、デッキビルダーがスタンダードで選ぶ基本でない土地がいろいろと存在するのであれば、それが私たちの狙いなのです。


ガヴォニーの居住区》 イラスト Peter Mohrbacher

 もちろん、イニストラードには他にもおもしろい基本でない土地が存在します。《地盤の際》が消えゆく中、そういった起動型土地を提供したいと思ったのです。しかしそれは《地盤の際》ほど強すぎるものでは困ります。心地よい驚きを与えるようなカード、そう《幽霊街》こそがふさわしいカードでした。

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 そしてお待ちかねの対抗色のM10型2色土地も登場しました。

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 これで全部ではありません! イニストラードには、マジックにかつて存在したコモンの5色マナ安定化土地が入っており、《旅の準備》の持つような色違いのフラッシュバック・コストを支払うことが楽になるでしょう。


イラスト Cliff Childs

 次回、イニストラード・プレビュー最終回にも、さらに興奮するようなカードをお見せしましょう。土地だけがイニストラードではないのです!

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