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両面それぞれの物語

Mark Rosewater / Translated by YONEMURA "Pao" Kaoru

2011年8月29日


 これから話すことの前提に、イニストラードの中心のメカニズム(そう、「メカニズムX」だ)の理解が必要になる。そこで、まずはこれを見てもらいたい。

 これこそが、両面カードである。(両面と言っても表と裏があるのは普通のことだ。このカードが独特なのは、両方が表であるということなのだ)。我々は、先週土曜日のイニストラード・PAXパーティでこの両面カードをお披露目した。今日のカードは両面カードである。これらの特集ではイニストラードの他のメカニズムと並んで両面カードについて語っているが、それらを見逃した諸君のために、今日のコラムのプレビュー・カードについてプレイヤーたちがどんなことを語っているかということをご紹介しよう。デザインはカードの裏面を使うという大禁忌を犯したのだ。それはどのように、そしてなぜ起こったのか。それらは今日のコラムで明らかになるだろう。


イラスト マイケル・C・ヘイズ/Michael C. Hayes

墓地問題

 普段、最初のコラムではセットのデザイン・チームを紹介するのだが、今回は文章が長くなったので紹介は次回に回すことにして、ここでは軽く触れるだけにしておこう。


マーク・ローズウォーター/Mark Rosewater、トム・ラピル/Tom LaPille、ジェンナ・ヘランド/Jenna Helland、
グレアム・ホプキンス/Graeme Hopkins、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfield.

 さて、まず話を一番最初に戻そう。オデッセイと呼ばれるセットの話だ。オデッセイ・ブロックのことを知らない(なんと言っても10年前だ)諸君に説明しておくと、オデッセイ・ブロックは墓地をテーマとしていた。そこで導入されたスレッショルドとフラッシュバックというメカニズムになじみがなくても、後者はイニストラードで理解できることになるだろう(その話は次回に取っておこう)。

 メカニズム的に、オデッセイは墓地が全てだった。物語は、卑劣なイカと孤独なマーフォークの戦いで、闘技場での一騎打ちも含まれていた。当時は、開発部がセットを作った後でクリエイティブ・チームが適当な物語をそれに載せる形だったので、しばしば、その2つはお互いにかみ合わないものになっていた(もう一つ代表的なのは、クリエイティブ・チームが史上最高のアーティファクト作成者ウルザの物語をやっていたそのブロックは、開発部がエンチャントをテーマにしたモノだった、というのがある)。

 オデッセイ期には、現在のクリエイティブ・ディレクターにしてクリエイティブ・チームの監督者であるブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuthはまだマジックのクリエイティブ側に所属していなかった。ブレイディは当時は編集者で、マジックのテクニカル・ライティングに努めていた。しかし、ブレイディと私はしばしばメカニズムとクリエイティブの乖離について嘆いていた。「墓地セットなら、ゴシック・ホラー系のストーリーがいいに決まってるじゃないか。墓地に注目させたいんだから」などと言っていたはずだ。

 ブレイディと私は古典ホラーの設定について大いに語り合った。当時はブレイディがクリエイティブ・ディレクターではなかったし、私も主席デザイナーではなかった(オデッセイのデザイン・リーダーを勤めてはいた)。そして数年後、私は主席デザイナーになり、5カ年計画を策定して進めることになったのだ。

 5年では不十分で、6カ年計画を立てた。そして、ホラーはというとこの計画には入らなかった。アイデアは出したが、当時は充分な助けが得られなかったので取り下げたのだ。やりたいのは山々だったし、ブレイディとはそのブロックについてよく話し合っていた。我々はともに時流の問題だということを知っていた。そして、何がどうなったか、マジックに関係ないところでホラーは再び人気を取り戻していた。時は来た。ホラーが再びポップカルチャーの頂点に立つ日が来たのだ。あとは最後の一押しが必要なだけだった。


ああ、ホラーが! ホラーが!

 一番最初の会議の際に、私はデザイン・チームに一つ明確な指針を示した。このセットのデザインにおいて最優先されるのは、ホラーの雰囲気を出すことであると。ホラーなら何でも良いのではなく、ゴシック・ホラーならファンタジーとも整合性がとれる。「1950年代のユニバーサルのホラー映画に近づけるんだ。ソウじゃなく」 最初の会議で、私はチームのメンバーにホラーと言って連想することを列記させた。


イラスト ニルス・ハム/Nils Hamm

 そのリストを見て、いくつかのことが明らかになった。まず1つめ、ホラーにしようと思ったら、怪物が勝負だと言うこと。書き出された最初の3つは、吸血鬼、狼男、ゾンビだった(フランケンシュタインの怪物はゾンビなので、ハロウィンの三巨頭が顔を揃えたことになる)。これら3種の怪物は集団で移動し、群れをなし、災いを生む。つまりこのセットは部族的要素が必要だということを意味していた。

 私は何もイニストラードに押し込んではいない。このセットの要素全ては、ホラーというジャンルに必要なものである。プレイヤーは怪物デッキを組みたいだろうから、部族的要素を入れた。他に類を見ないホラーの表現が必要だったので、部族的要素が強くなりすぎないようにした。リミテッドで部族を使わなければデッキにならなかったローウィンとは違い、イニストラードでは部族も使えるがそれ以外の選択もできるようになっている。

 我々はセットに肉付けし、必要と思われるホラー要素を詰め込み始めた(詳しくは次回で)が、私が最も気にしていたのは、このセットの感情的中心となるものだった。ホラーとは何なのか? 再現しなければならない本質とは何か? ここで私の文筆側が目覚めた。文筆者として、あるジャンルが何の目的のために存在するのかを分析するのは私の得意とするところだった。人気のあるジャンルに人気があるのは、人間の持つ語りたいという欲求に合致するからである。

 さて、それではホラーとは何なのか? それは道徳についての説話である。人が暗黒面に落ちたら何が起こるかを通じて善悪を教えるものである。単純な例を挙げると、ホラー映画で最後の生存者がどれほど善良か気づいているだろうか? 物語の他の登場人物は何らかの欠点を持ち、そのせいで殺されることになる。

 ここから派生したのがホラーのお約束の一つである、怪物は人間を食い物にするだけでなく、究極的には人間から生まれるのだという考えである。上に挙げた3種の怪物について見て見よう。吸血鬼はどこから来たのかといえば、他の吸血鬼に噛まれた人間である。狼男はどうだろう? これも他の狼男に噛まれた人間だ。ゾンビは? ああ、他のゾンビに噛まれた人間だ(ああ、確かに、噛まれてなくてもゾンビだらけの世界で死んだらゾンビになるものだ)。人間は犠牲者としてだけでなく怪物の元としても、ホラーに欠くことの出来ない存在である。これが、このセットの中心に人間が据えられている理由の一つである(これについても詳しくは次回)。

 ホラーの要素についてこうして見ているうちに、感情的中心となる中核部分を見つけ出した。ホラーとは、変身なのである。無垢な者が邪悪なる者に変わるのである。こうして我々はこのセットの中心に据えるべきものを見つけ出すことができた。あとは、それをどう実装するかだけの問題だ。


邪悪なる月が昇るとき

 ホラーにおいて存在に複数の状態があるのなら、マジックにも、カードの一部に複数の状態を持たせるメカニズムが必要である。吸血鬼が狩りをするのはいつかといえば、太陽の光がない夜である。狼男が吠えるのはいつかといえば、人間でなくなる夜である。ゾンビが脳を求めてうろつくのはいつかといえば、いつでもいいけれど夜は彼らの時間だろう。そう、ホラーでは昼と夜が重大な意味を持つ。となれば、それをマジックでも再現しなければならない。


イラスト ライアン・イー/Ryan Yee

 チームにこの昼夜の問題に取り組ませたところ、多くのアイデアが寄せられた。プレイテストの結果、アイデアは2つに絞り込まれた。1つめは文字通り、今が昼であるか夜であるかを示すというメカニズム。過去のいくつものチームが昼夜の問題に取り組んできたが、一度としていい解決策を見いだせてはいなかった(神河物語のデザインにおいても挑戦されていた。その顛末はこちら(リンク先は英語)から確認できる)。最大の問題は、どのシステムも複雑すぎて表現が非常に冗長になるということだった。

 私のひらめきは、両面を使った昼夜カードを作り、他のカードがそれを出すというアイデアだった。文章のほとんど(より視覚的にするためにテキストレスにすることもできるとわかった)は昼夜カードに記されていた。その後、昼夜を変更するのは呪文を唱えることによる誘発型能力に変更された。ここで我々はもう一つの問題に直面した。それは、昼夜の変化をプレイヤーが操作できるようにしたいということだった。プレイによって今起こっていることを変更できるようにすれば、プレイはずっと楽しくなる(これは後に狼男の変身メカニズムでも問題になる。それについても今日話してしまいたいのだが、ふさわしくないので次回かその次か、先に回すことにする)。

 その一方で、チームはもう一つの変身メカニズム、両面カードに取り組んでいた。このアイデアの元は、開発部が開発しているもう一つのトレーディング・カードゲーム、日本向けにだけ発売されているデュエルマスターズから来ている。日本ではトレーディング・カードゲーム市場が活況であり、数多くのTCGが発売されている。そのため、デュエルマスターズのチームはよりギリギリのラインを追求している。言ってみれば、デュエルマスターズの世界は銀枠世界なのだ。

 さておき、デュエルマスターズでは1年ほど前に両面カードが導入されている。見た目もイカしていて、人気もあるカードだ。トム・ラピル/Tom LaPilleは最近それを目にしていたので、私が変身テーマの実装について聞いたときに両面カードという方策を示してくれた。両面カードはズバッと来たが、一つ大きな問題があった。マジックの裏面が存在しないのだ。実現のためには、多くの問題を解決しなければならなかった。


あれやこれや

 2つの異なるシステムを試しているうちに、一つの事実が明らかになった。それは、この変身というテーマはホラーにあまりにふさわしいと言うことである。たとえば、我々は狼男をデザインすることになるだろうとわかっていた。狼男はホラーの象徴的お約束であるだけではなく、マジックでほとんど取り上げられていない非常に魅力的なクリーチャーでもある。今まで1万2千枚以上のカードが存在する中で、狼男はわずか3枚しか存在しないのだ!(オデッセイにも獣人テーマは存在しており、数枚のスレッショルド・クリーチャーはそれを表現していた) 変身メカニズムを用いて、狼男の人間としての姿と狼男としての姿の両方を表すことが出来るのだ(人間の姿は人間・狼男となっている。この理由は後に説明する)。

 また、2つの姿を持つことで様々なホラー的存在を表現できる。今日のプレビュー・カードにしてもそうで、デザイン中はそのままジキル博士とハイド氏と呼ばれていた。両面カードを見かけたら、それを用いてどのようにして有名なホラー的存在を表現しているかがわかることだろう。

 プレイテストの結果、一つの結論が見えてきたが、その実行にはまだ問題が山盛りだった。昼夜カードには2つの問題があった。1つには、呪文を唱えるたびに変わるので、カウンターを動かし忘れがちになる「記憶問題」があった(昼夜カードは各面に3つずつの場所があったので、呪文を唱えるたびにカウンターを該当する場所に動かす必要があったのだ)。また、昼夜カードを参照するカードがなくなっても、その時点では意味を持たない記録装置を延々動かし続けなければあとで参照するときに問題が生じるという問題もあった。

 両面カードにはまた別の問題があった。戦場に出てしまえば何の問題もなく見事に働くのだが、ライブラリーや手札にある間はそうはいかなかった。我々が考えた解決策はいかにも単純なものに思えた。2枚のカードを作ったのだ。1枚は片面のソーサリー・カード(マジックの裏面をした普通のカードだ)で、これがデッキに入る。この呪文で、特別製のトークン、つまり両面カードを出すのだ。両面カードの1面目のイラストをソーサリーのイラストに使って、「トークン」をソーサリーなしでプレイすることは出来ない(あるいはその逆も)というルールを制定することにした。トークンのルールを書き直す必要があるだろうが、そう難しいことではないと誰もが思っていた。

 両面カードに関するもう一つの問題は、ルール上の問題だった。昼夜カードには不安定性はあったが、マジックの基本ルールはなにも破壊しない。その一方、両面カードはそうは行かなかった。当時のルール・マネージャーだったマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebは、(神河ブロックで使われた)反転カードを使うべきだと主張した。

 それで処理できると彼は言った。反転カードのルールを、戻ることもありうると変更する必要が出てくるが、さして問題ではないと。問題は2つあった。まず、反転カードは狙っていたようには受け入れられなかったと言うこと。最大の問題は、このカードはほとんど2つ分の特性を持つのであまりにごちゃごちゃ詰め込んだ形になってしまうのだ。両面カードならこの問題は解決できる。人間の時は、このカードは完全に人間である。狼男の時は、このカードは完全に狼男である。また、両面カードなら、タップ状態の時にどっちなのか混乱することもなくなる。

 2つめの問題は、文章の長さである。反転カードは文章欄が狭く、狼男メカニズムの複雑な文章を書くのには場所が足りないと思われた。両面カードの話が長すぎるので狼男メカニズムについては置いておくが、これからのプレビューの間に必ずお話しすることを約束しよう。

 結局のところ、昼夜カードよりも両面カードの方がうまく行くということが明らかになったので、両面カードで話を進めることにした。この先に待ち構えている困難のことはまだ誰も知らなかったのだ。


両A面の話

 両面メカニズムの実現までには2つの大きな障害があった。

1. マジックの裏面が必要な領域にある間どう処理するか

2. 巧く機能するようなルール

 ここからはこの1つめの障害をどう克服したかということを主眼にする。2つめの障害は非常に大変な作業の末に克服されたが、そこについては私が書くよりも(現ルール・マネージャーの)マット・タバック/Matt Tabakのような適任者がいるだろう。

 私は、この1つめの障害をマジックのゲームで処理できるようにする形で解決してあった。少なくともゲームプレイ上は問題ではなく、ロジスティック上の問題である。マジックのデザインにおいて学んだことの一つに、ゲームを作り上げるのには様々な要素が絡んでいるということがある。マジックの根幹の何かを傷つけたら、普段は気にもしないような問題が持ち上がってくるものだ。


不気味な人形》 イラスト マット・スチュワート/Matt Stewart

 ここでは、各両面カードごとに2枚のカード(両面カードと、それを出すソーサリーだ)を作るという私の単純な解決策は通用しなかった。ああ、この言い方は適正ではない。90%成功させるために大金をはたくことは出来た(強調しておくが、つまり、10パックに1枚ほどの確率でそのソーサリーを引けてもそれが呼び出す両面カードを引けない、あるいはその逆、ということがあったのだ)。これは受け入れがたい話だったので、他の方策を探すことになった。

 2種類の解決策が、別々の提案者からもたらされた。1つめはプロツアー殿堂顕彰者にして元マジック開発部デベロッパーの(現在は組織化プレイで認定イベントの環境作りに奔走している)マイク・チュリアン/Mike Turianによるもので、そのままデッキに入れさせれば良いというものだった。調査から、プレイヤーのおよそ90%はスリーブを用いて構築戦を行なっていることがわかった。両面カードを不透明のスリーブに入れてそのまま使いたいというプレイヤーには、何も面倒はないとマイクは主張した。

 マイクの意見は説得力のあるものだったが、スリーブを持っていない、あるいはスリーブを使いたくないプレイヤーにも選択肢を与えなければならない。また、この90%という数字はあくまで構築に限ったものであり、マジックの重要な要素であるリミテッドのことを考慮していない。したがって、不透明スリーブのない状況での扱いについても考えておく必要があった。

 そして2つめの解決策は、アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheによるものだった。両面カード1枚ごとに1枚のカードを入れるのではなく、両面カードすべての代用として唱えることの出来るカード1枚を作ってはどうかというのだ。1枚だけにするという利便性には惹かれたが、プレイヤーがどのカードを手に入れるかを好きに出来るべきではないと思った。そこで、私はアンヒンジドの《Letter Bomb》を参考にした。そのカードにも識別問題があったので、オーナーのサインを入れることで解決したのだった。そこで、我々はプレイヤーに記載させるチェックリストという印刷可能なものを発想することができた。

 チェックリストはイニストラードのブースター・パックのおよそ3/4に、基本土地の代わりに入っている。イニストラードの基本土地は手に入れにくくなっているので、土地のデザインを4つから3つに減らした。チェックリスト・カードがルール・カードではなく土地カードのスロットに入っている理由は、ルール・カードの印刷に用いるインクはカード用のものとは異なるので混ぜてしまうと裏から区別できてしまうのだ。コモンと入れ替えることも考えたが、コモンが欠けるよりも土地が欠ける方が受け入れられると考えた。また、コモン・スロットには両面カードも含まれているのだ(これについてはまた触れる)。

 チェックリスト・カードは、戦場以外の領域にある間ずっと使う。カードが手札、ライブラリー、墓地、裏向きで追放されている、場合にはチェックリスト・カードを代わりに置いておく(両面カードのルールについて厳密に知りたい向きは特設ページを確認してくれたまえ)。なお、チェックリスト・カードを使う場合、どの両面カードの代用なのかが分かるようにはっきり印をつけておかなければならない。


両正面

 私は、過激な発想は強力な抵抗を受けるということを予想していた(そして、だからこそ、デザインには他者によるダブルチェックが必要なのだ)。しかし、デザインの間、誰もひるみはしなかった。その大きな理由は、この時点での計画は両面カードを出すソーサリーを使うというものだったことにある。この方法では両面カードをライブラリーや手札に入れるという問題は回避されており、ほとんどの問題はまだ表面化していなかったのだ。

 やがて、開発部のメンバーが集まって両面カードに関する質問を投げかけてくることになるのだが、それはこの時点ではなく、デベロップに渡ってからのことになる。普段なら、私はこのようにして私のデザインを守るために開発部の大勢を敵に回して戦ったのだ、となるところだが、イニストラードではそうして戦ったのは私ではなく、デベロップ・リーダーのエリック・ラウアー/Erik Lauerだったのだった。


イラスト デビッド・パルンボ/David Palumbo

 なぜ反対意見が具体化するまでにそれほど時間がかかったのかは分からないが(現在のシステムに変更してからも少しかかっている)、いずれにせよそれはデベロップの中盤に発生した。メカニズムXがなぜ来年のデザイン演説での評価対象になっているのかがわかることだろう。デザインとは、非常に基礎的な何かをひっかきまわすことである。両面カードを批判する人たちは、このメカニズムが破るべからざるルールを破っていると感じているのだ。この変更によって、ゲームプレイのみならず組織化プレイ全体におけるロジスティック上の頭の痛い問題が発生している(そのことを軽視したことは一度たりともない)。また、カードの表面をマジックのカードの裏面に描くのは美しくないという人も多くいたのは事実である。

 それら全ての間、私はアイデアのダブルチェックを行なうことになっているエリックと密に相談していた。再び強調しておくが、デベロップが常時デザインのアイデアをダブルチェックするのは必須のことである。当時作ろうとしていたものは、システムに負担をかけるものになるのは間違いない。こういう強烈なものこそ、しっかり精査されなければならないのだ。

 私は両面カードに確固たる自信があった。よく、「箱の中で済むことをするのに箱の外に出るな」と言っているが、これこそが箱の中で済まないことだと感じていた。デザインの感情的中心は変身というコンセプトであり、メカニズム的にも、視覚的にも、感情的にも、両面カード以上に効果的な方法を見つけることは出来なかった。セットはまだ発売されておらず、両面カードの存在を告知しただけなので、まだ反響を見るには早いだろう。ただ、私としては、うまくできたと自信を持っている。

 その一方で、いつもの通り、両面カードに関する意見を聞かせて欲しい。メール、ツイッター(@maro254、ただし英語で)、その他どんな方法でも良いので意見を聞かせてくれたまえ。第一印象を聞くのも大好きだが、実際にカードを手に取り、遊んでみての感想も知りたいと思っている。

 両面カードに関しては多くの議論があったが、結局、デザインのイメージが印刷に至った。どのブースターにも両面カードが入っていることに注意してくれたまえ。各ブースターに1枚ずつ両面カードを入れるため、両面カード用のシートを準備しなければならなかった。両面カードはコモンのスロットに入る(このため、チェックリストはコモンでなく土地スロットに入ることになった)が、すべての稀少度が存在する。

 両面カードの稀少度は、ブースター・パックに入っている割合で定義される。専用のシートではあるが、各稀少度の通常のカードと同じ程度の確率で封入されるように調整した。つまり、レアや神話レアの両面カードが入っているパックにも、通常のレアや神話レアが入っているということである。また、両面カードがフォイルであることもある。その場合、両面カードの両方の面がフォイルになっている(フォイルの神話レアの両面カードと、フォイルの神話レアと、フォイルでない神話レアが入っているパックというのもあり得ないわけではない)。


狼男のように飢えて

 今日のコラムで両面カードを作るために解決してきた数多くの問題をお見せできたと思う。今日のまとめに入る前に、もう一つ説明しておく問題が残っている。まずはこの狼男を見てもらいたい。

 各面のタイプ行に注目してもらいたい。人間側が「人間・狼男」、狼男側が「狼男」となっているのが分かるだろう。全ての狼男がこうなっている(中には、そのどちらかの面に追加のサブタイプがついているものもあるが)。なぜクリーチャー・タイプを狼男にしたか、そしてなぜそれが両方の面に書かれているのかについて簡単に説明しておこう。


イラスト マーク・エヴァンス/Mark Evans

 ここ数年、開発部は「共鳴」と呼んでいるものに傾倒している。考え方としては、プレイヤーの想像通りに働くカードがそれなりにあれば、それまでの知識とあいまってマジックはより楽しい物になる、というものである。共鳴を作ることの一つには、単語を作ることがある。文筆家として、私は言葉の力を知っており、言葉の使い方がマジックにとって重要だということもわかっている。

 これまでの狼男は、人間・狼というクリーチャー・タイプを持っていた。これはロクソドンやレオニンと言った、動物の特徴を持った人間型生物で用いられている方法である。しかし、私は、狼男はミノタウルスやケンタウルスのようなものであると主張した。確かにクリーチャー・タイプに存在する狼を一部として持っているが、その名前は前例を破るのに充分有名であると。

 イニストラードでは狼男を参照する必要があって、狼を参照するのではまずいと思われた。たとえば、怪物を示す表記として「吸血鬼、狼男、ゾンビ」と列記している。この問題はかなりの議論を呼んだが、何時間もの議論の末に狼男を使うことになった。


イラスト マーク・エヴァンス/Mark Evans

 この議論の間に、また別の、よりメカニズム的な問題が浮上してきた。両面カードは戦場以外のあらゆる領域で変身前の状態である。つまり、戦場以外にあるときに変身後の特性を参照することは出来ないのだ。この問題を解決するため、狼男は両方の状態において狼男のサブタイプを持つようになった。しばらくの間は、狼男側は「狼・狼男」だった(人間側が「人間・狼男」であったのと同じく)。しかし、多くの人がこれを奇妙だと言ったので、狼男側から狼のサブタイプを取り除くことになった。我々は意識的に、狼男に影響を及ぼすカードは狼にも影響を及ぼすようにしている。来週のうちに見ることになるが、これは重要なことなのだ。


国の両面

 ああ! もう、文字数が残っていない。両面カードのデザインについてのいくらか(特に「狼男メカニズム」の話)は次のコラムに回すことにしよう。両面カードはイニストラードの世界のほんの氷山の一角である(いや、氷山に喩えたからと言って、イニストラードが世界的・歴史的悲劇を生むということを予言しているわけではない、決して)。

 それではまた次回、「デザイン演説2011」で予告したカードのうちの一枚を公開し、このセットがどれほどホラーというテーマにそぐうものになっているかを説明しよう。

 その日まで、禁忌を破る喜びがあなたとともにありますように。

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