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クローゼットより その1
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クローゼットより その1
Mark Rosewater / Translated by YONEMURA-Pao-Kaoru
2011年7月11日
やあ、忠実なる読者諸君。今日は非常に個人的な話をしたい。約10年間、(そしておよそ500週間)過ごしてきたが、まだ諸君に話していない秘密がある。今日は、妻のある、そして三人の子供のある大人としてふさわしくないようにも思えるあることをもう隠しておけなくなって、ついに公開するのだ。言葉で表すのは難しいので、写真で示すことにしよう。覚悟はいいかね。
私の隠された秘密、それは......
Tシャツ集めだ。
私の持っているTシャツを全部一緒に洗濯するようなことがあれば、クローゼットに入りきらずにあふれてしまうことだろう。だが、幸いにして私は5人家族であり、そんなことは起こらないのだ。
私の膨大なTシャツ・コレクションの中で、大半はマジック・ザ・ギャザリングに関するものだ。これには3つの大きな理由がある。1)私はマジックの大ファンである。2)Tシャツはその人の人となりを表すものであり、私が何で糧を得ているかを表すことが出来る。さらに、他のマジック・プレイヤーを探すのに、マジックTシャツを着るのはすばらしい方法だ。3)私のマジックTシャツのほとんどはタダだった。
今回のコラムで(そして次々回のコラムで『その2』をやる予定だ)、私はこれまでのマジックTシャツのベスト20をカウントダウン形式で紹介していく。それぞれ、どこで手に入れたか、どういう思い出があるか、なぜお気に入りになったかについて語っていこうと思う。現在、私は50枚以上のマジックTシャツを持っているが、あまり気に入らなかったものについてはチャリティに放出してしまったと書き添えておく。
続きを語る前に、上の写真を見て当然浮かんだであろう疑問にお答えしておこう。そう、私のシャツは色順に並べてある。これによって必要なものを探すことが容易になるのだ。そう、コレクションの右上半分はフランネルのものだ。およそ80枚ほどある。
さて、それではいよいよ本題に入ろう。
20) グランプリ・リオ(1998)
グランプリ・リオは南米初のグランプリであった。南米のトップ2人、ジョン・フィンケル/Hon Finkelとスティーブン・オマホニー=シュワルツ/Steven O-Mahoney-Schwartzによる印象的な決勝戦が行なわれた(フィンケルが勝った)。だが、そのことがこのシャツをお気に入りにしているわけではない。
グランプリ・リオはマジック・インビテーショナルの第2回(当時はデュエリスト・インビテーショナルと呼ばれていた)が開催された場所である。巨大なグランプリが行なわれている部屋は私の知る限り最も暑い会場だったが、その下のフロア、会場で唯一空調の効いた部屋ではマジック・インビテーショナルが行なわれていた。その部屋はガラス張りで、観客はガラス越しに観戦したのだ。おそらく観客はオールスター・ゲームに魅了されていたのだろうとは思うのだが、記憶を掘り返しても暑かったことしか思い出せない。
インビテーショナルの勝者はダーウィン・キャスル/Darwin Kastleで、決勝では前世界王者のヤコブ・スレマー/Jakub Slemrと対戦していた。ダーウィンはインビテーショナル・プレイヤーとしての賞を受ける最初のプレイヤーとなり、《なだれ乗り》を作ったのだった。
(最初の優勝者であったオーレ・ラーデ/Olle Radeがカードを作るのには数年の時を要した。その理由については、こちらの記事(リンク先は英語)を参照。)
だが、インビテーショナルもこのシャツがお気に入りになっている理由ではない。
グランプリ・リオが私の心の琴線に触れるのは、私がその場所でローラに求婚したからである(リオで、という話であり、グランプリ・リオで、というわけではない)。その兼に関する詳細は別のコラムに取っておくが、一言で言うと、私は海中で求婚したのだ。
このシャツはまた《道化の帽子》のイラストを使っており(多分リオのカーニバルになぞらえたのだろう)、それも私のお気に入りなので、総合で20位にランクインしたわけだ。
19) ドイツ選手権(2002)
アメリカ以外のシャツはそれほどトップ20にランクインしていないのだが、この2002年のドイツ選手権のものは例外だ。私が持っているシャツのほとんどは私自身が足を運んだイベントで手に入れたものだが、2002年のものだけでなくドイツ選手権には行ったことはない。いや、このシャツを見て一目惚れして、主催者の一人につきまとって頼み込んで分けてもらったというわけではないよ。
ではどうやって? うむ、私がどれほど色を愛しているか、そして世界中のマジックシャツを手に入れることを愛しているかということを説明することは出来るが、それがこのシャツを求めた理由ではない。私がこれを求めた理由のその1、そしてこれがトップ20にランクインしている理由は、このシャツが私のもっとも気に入っているイラストの一つを使っていることである。そのイラストとは、アングルードの《Squirrel Farm》である(メカニズム、イラスト、名前、フレイバー......それらが一体となって最高のカードに仕上がっている)。
誰かが《Squirrel Farm》をデザインしたマジックTシャツを作ったと知ったとき、手に入れなければならないと使命に燃えたのだ。幸いにして手に入れることの出来たこのシャツを、19位にランクしよう。
18) 《司令官グレヴェン・イル=ヴェク》のカードが背中に描かれた汎用マジックTシャツ(1997)
マジックのようなゲームのデザイナーであることのすごいところは、自分の仕事の結果がゲームそのものを飛び出してより広い世界の一部になっていることを目に出来ることである。このシャツには、私の様々な「はじめて」が詰まっている。
そう、これは私が作ったカードがはじめてデザインされたマジックTシャツである。これを手にしたとき、私はすでにマジックのTシャツコレクターであって、ごく初期のものから集めていた。カードがデザインされたシャツも沢山持っていたが、このシャツに至るまでは私の作ったカードをデザインしたものは存在しなかったのだ。
《司令官グレヴェン・イル=ヴェク》は、私がはじめてデザイン・チームに所属した(そしてリーダーを務めた――新人デザイナーがリーダーを務めるなんてことはもうあり得ない話だ)セット、テンペストのカードだ。ウェザーライト・サーガの敵役ヴォルラスのナンバーツーとしてデザインされた存在である。
正面にマジックロゴ、背面にカード全体を描いたこの類のシャツはもう作られないが、当時はそれこそ山ほど作られた。そして、これはその山の中から1枚、18位にランクインしたものだ(もう1枚がトップ10にランクインしている)。
17) デュエリスト団体戦(1996)
デュエリスト・インビテーショナルについてはかなりの時間を割いて語ってきたが、デュエリスト誌の宣伝のために私が立ち上げたマジックのイベントはインビテーショナルだけではない。オリジン・コンベンションでは毎年「デュエリスト団体戦」と名付けた5人チーム戦を行なっていた。
各チーム・メンバーはそれぞれ異なった形式で対戦する。2人はリミテッドで、3人は構築戦である。そして、5人中3人が勝ったチームがそのラウンドの勝者となるのだ。もう一つひねっていたのは、これらの形式は認定戦ではなかったので、ウィザーズは例年いくつかのチームを送り込んでいた。だいたい、その中の1つは開発部チームであった。なお、私は毎回ヘッド・ジャッジをつとめていた。
参加者にとって特別なものになるように、毎回、そのイベントで配るだけのためにシャツを作っていた。手に入れたければ、そのイベントに参加しなければならない(プレイヤーとしてでなくジャッジとしてでもいいが)。お約束として、デュエリスト誌の宣伝キャンペーンには存在するマジックのイラストと、そのアーティスト自身による描き直しとを使うことになっていた。テーマとして、そのイラストはジンとイフリートに限っていた。そして、このシャツは第1回のデュエリスト団体戦(多分3回、もしかしたら4回やったが)のものであり、アラビアン・ナイトの《Juzam Djinn》の描き直しである。ところで、このジンにつまみ上げられている人間がデュエリスト誌の編集長である。
見ても分かるとおり、このシャツは何度も何度も着たので、かなりくたびれてしまっている。私の妻はこれを捨てさせようとしたが、17位にランクするお気に入りの品を捨てるなんてとんでもない!
16) ファイレクシア・シンボル(2011)
これは最近手に入れたものの1枚だ。マジックのロゴが入ったTシャツを着るのは楽しいことだが、マジックのファンにだけ理解できるサインというのもまた一興だ(ギリシャ文字のΦだと思い込む人たちが多い)。この区分の次点につけているのは、もう一つのお気に入りのシンボルのシャツだ。
ファイレクシア・シンボルがプレインズウォーカー・シンボルより上位に着たのは、私がファイレクシアの熱烈な支持者だからである。この愛情は傷跡ブロックで、ファイレクシア人が感染という形で毒を蘇らせてくれたことに起因する(知らない人は私のコラムを熟読しておいてもらいたいところだが、私は毒の大ファンなのだ)。
私は傷跡ブロックのプレリリースでは常にこのシャツを着ていて、それから起こることを暗示していたとも言える。ファイレクシア人の出番が終わったというわけではないので、今後もこのシャツを着ることがあるだろう(ゲームに関連してだ。単に気に入っているから着るということももちろんある)。ファイレクシア人がこっそりと16位奪取。
15) アイスエイジ・プレリリース (1995)
見栄えのするシャツもあれば、歴史を物語るシャツもある。このシャツは後者に属するものだ。このシャツはマジック史の一歩、史上初のプレリリースの記念品であり、私は幸運にもそれに参加できたのだ。ここで「史上初のプレリリース」と言っているが、これは世界中で行なわれるプレリリースの起こりというわけではない。アイスエイジに関しては、プレリリースはカナダのトロント1カ所でのみ行なわれたのだ。ウィザーズはプレリリースというアイデアを、ごく小さな、特別なイベントとして始めたのだ。
私はそのイベントに、デュエリスト誌の取材で向かった。イベントにプレイヤーとして参加することが出来(イベント参加者の目線での記事だったのだ)、2日目に進出できることになったのだが、そこでドロップすることにした。そのイベントの勝者であったデイブ・ハンフリー/Dave Humpherysは、後にプロツアー殿堂入りし、さらに現在では開発部で上席デベロッパーとして勤務している。
他におもしろかったところを挙げてみよう。
- イベント開始時に、カードは武装した警備員によって運び込まれた。
- 運営上の限界から、イベントの開始は何時間も遅れた。
- アンティありのプレリリースだった。アンティとは、試合の結果によってカードを得たり失ったりするというものだ。
- このイベントでは1995年のカナダ選手権が行なわれており、優勝者は(ニューヨークで開催された最初のプロツアーのトップ8のなかで最も著名な)エリック・タム/Eric Tam だった。
- イベント全体が巨大なコミック・コンベンションで行なわれていた。参加していた「スター」には(O.J.シンプソン事件で有名な)カトー・カエリン/Kato Kaelinがいた。マジックのカードのうちいったい何にサインしてもらうのがふさわしいかという議論が巻き起こり、結論として挙げられたのは《ガズバンのオーガ》だった。
ここで配られたシャツは2種類あった。もう1種類がこれだ。
このシャツは背中に文章が書かれているという点でおもしろいものだ。また、プレリリースそのものではなくセットそのものに関するシャツというのも特殊な話である。
このシャツを15位に位置づけたのは、その思い出による。私がはじめてウィザーズ持ちで参加したイベントであり、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldやスカッフ・エリアス/Skaff Eliasと交流することができた最初の機会だったのだ。
14) テンペスト・プレリリース(1997)
アイスエイジが私の最初のプレリリースだと言ったが、テンペストこそ私の最初のプレリリースである。初めての時のことは忘れがたいものだと言うとおり、テンペストは私がマジックのデザイナーとして腕をふるった最初のセットであり、まさに忘れがたいものだ。マジックのデベロッパーとして雇われた私が、デザインする機会を求めて悪戦苦闘したわけだが、幸いにも私は(アラビアン・ナイト以来デザインしていなかった)リチャードに自分のデザイン・チームに入るように頼むことが出来、その庇護を持って機会をつかむことが出来たのだ。
私はプレリリースに出向き、私が何年もかけて作ったセットのブースターを剥くプレイヤーたちを見て目を細めた。誰も、感情的になって立ち上がったりはしなかったが、それはそれとしてこのシャツの色はすばらしく、イラストも印象的だ。ということで、これが14位である。
13) グレート・デザイナー・サーチ2(2011)
グレート・デザイナー・サーチとは、一般から新しいデザインのインターンを求めるという大規模な人材募集イベントだ。トップ8に残った人には、多くの――多くの、やることがある。したがって、彼らに感謝と褒賞を込めて、記念品を送ることが重要だと感じたのだ。
このシャツはそのためだけに作られたもので、世の中に10枚しか存在しない。トップ8の8人にそれぞれ1枚、あとこのイベント全体の審査員を務めたケン・ネーグル/Ken Nagleと私に1枚ずつだ(毎週、我々に加えてゲスト審査員が2人いた)。これこそがコレクターズ・アイテムというべきだろう。
また、このシャツを作ったのは私なので、色やデザインも私が決めることができた。前と後ろに使った画像は、このイベントのためにウェブで使った画像そのままだ。ここで謝罪しなければならないことが一つある。ジョナサン・ウッドワード/Jonathan Woodwardの名前が最初間違っていたのだ。ウェブ上の画像はすぐに気づいて差し替えたのだが、シャツのデザインのために画像を準備する際には元の間違った画像を渡してしまったのだ。ジョナサン、ホントに申し訳ない!
私が誇りに思っているイベントのシャツなので、これは13位に刻まれることになった。
12) デュエリスト・インビテーショナル (1999)
マジックの歴史において私が果たしてきた役割を知らない諸君のために、ここで言っておこう。マジック・インビテーショナル(このシャツが作られた時点ではデュエリスト・インビテーショナル)も、私の生み出したものだ。このシャツがここにランクインしているのは、デュエリスト・インビテーショナル(およびマジック・インビテーショナル)のTシャツはこれ1種限りだからである(グレート・デザイナー・サーチのシャツと違って、枚数自体が少ないわけではない)。
それはなぜだろうか? インビテーショナルをより特別なものに感じさせるために、私は必ず公式インビテーショナルのシャツをポロシャツにしていたのだ。つまり、襟付きの織物地のものだ。また、私はプレイヤーに複数のシャツを配ることで、イベントの間ずっと着ていられるようにしていた。これによって、観客に誰がプレイヤーなのかを識別できるようにするとともに、イベントの外見をより洗練されたものにすることができるのだ。インビテーショナルの集合写真を見たなら、全員が同じポロシャツを着ていることがわかるだろう。
ポロシャツを作ったのなら、このTシャツはなぜ作られたのか? その答えは、私は作っていない、だ。このシャツはバルセロナで行なわれたデュエリスト・インビテーショナル(勝者はマイク・ロング/Mike Longで、彼の作ったカードは《ルートウォーターの泥棒》)で配られたもので、ヨーロッパのウィザーズ事務所が作ったものである。私はめったにポロシャツを着ないので、デュエリスト・インビテーショナルの際には私は常にこのシャツを着ていた。ということで、これが12位だ。
11) 世界選手権 (1996)
ローマで行なわれた2009年の世界選手権を除いて、私は1994年にジェンコンで開催された第一回から全てのマジックの世界選手権に臨席している。
ほとんどの世界選手権には、それぞれのTシャツが存在する。その中でトップ20にランクインすべきはたったの1枚、1996年のものだ。この年の世界選手権はワシントン州レントンにあるウィザーズの本社で開催された(今の本社から道一本はさんだところだ)。
このシャツが気に入っている理由は、ここにはこのイベントに関係した全ての国が記されているということだ。また、歴史的に見ても、世界選手権のシャツはおとなしいものが多かったので、このシャツが目立った。
次点は1995年のこのシャツだ。
このシャツは、デュエリスト・インビテーショナルのTシャツと同じように、ヨーロッパ事務所の手によって作られた。このシャツはアメリカ寄りだと冗談を言ったことを覚えている。背中に使われているカードは《当然の酬い》(英語名は Justice)で、アメリカ王者の名前はマーク・ジャスティス/Mark Justiceだったからだ。
どうしてもトップ20に世界選手権のシャツを入れたかったので、1996年のものを11位に入れてみた。
シャツはいいね
トップ20の半分まで着たので、もとい来たので、今日のコラムはおしまいにしよう。マジックの歴史と私のクローゼットを、こんな観点から見てみるのもおもしろかったのではないだろうか。それではまた次々回、トップ10をお目にかけよう。その前に、それではまた次回、基本セットの基本について話そうと思う。
その日まで、あなたの着るものと思い出があなたとともにありますように。
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