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基本セットの歌われぬ英雄たち

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基本セットの歌われぬ英雄たち

Doug Beyer / Translated by Mayuko Wakatsuki

2011年6月29日


 2年前の6月に『基本セット2010』が我々のゲーム世界の中心へと降り立って以来、フレーバーは基本セットの主人として君臨してきた。時々味わいを楽しむことで知られているあなたがたのような人達にとっては喜ばしいことだったろう。君は焼き立ての《聖句札の死者》の魅惑的な香りを知っている。カップの中の熱い《古えのヘルカイト》にビスコッティ(訳注:イタリアのビスケット。エスプレッソに浸して食べることが多い)を浸す。絶妙に調理された《分裂するスライム》が口の中で溶ける感覚に頷き、瞳を閉じる。なんて素敵な時間。

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 そこにはフレーバー的大ヒットがいくつもある。きっと誰もが喜んでくれるような細部に至るまでのデザイン。お洒落なカフェの外に出された黒板に描かれ、道ゆく人々の気をひいてメニューをチェックさせるもの。だけど基本セットのフレーバーにはもう一つの狙いがある。私が実に興奮したものだ。それらはスポットライトを独り占めはしない、小さな気取らない一口菓子のようなフレーバーだ。だけどただ静かに、香り高いデザインでセットを仕上げてくれる。それらのカードは派手なために、もしくはお馴染みのファンタジー的表現のためにセットにいるのではなく、フレーバーを見せてくれるためにセットに入っている。それらは多元宇宙の幻想世界とゲームのメカニズムの間で橋渡しをする。それらはゲームの新たな一片の楽しさ、見えざる縒り合わせの驚きとともに、我々の期待を大釜の中に投げ入れる......そして何か美味しいものができあがる。それこそが私の愛する類のカード達だ。君の道を開けてくれる《氷の牢獄》、その眼前に呪文を唱えることは許されない《聖なる狼》。クリーチャーからクリーチャーへと拡散する《壊死の疫病》、もしくは物を壊す《躁の蛮人》。

 設定からデザインされ組み上げられたこれらのカード達は、より多くの愛を受けるに値する。これら小さく出しゃばらないフレーバーの勝者達は基本セットの、ひいてはマジック全てにおける歌われぬ英雄達だ。彼らはドアマットのように君の心をゲームのルールへと引き寄せて歓迎してくれる。彼らは君のファンタジー知識という精神的建造物を足場として、マジックへの確固とした理解を助けてくれる。加えて彼らは全くもって気持ちのいい奴らだ。歌われぬもの達を謳おう。

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 『基本セット2012』はこの週末に発売される。そしてそれは風味豊かなカードではちきれんばかりだ。新規プレーヤーの心を曇らせる、よろめくような複雑さからのちっちゃな勝利。私のプレビューカードはそんな1枚だ。すごく派手ってわけじゃない、だけど私のことが好きならば、君はそれを見て笑顔を浮かべるだろう。顎がカクンと落ちるようなものじゃない。とはいえもし君がそれに殴られたなら、その全てを「感じる」だろう。そのカードが『基本セット2012』に入ることを私は嬉しく思う。そのカード自身とその仲間達、このセットの隠されたフレーバーの宝石へと光を当てさせてくれるから。

 そのカードを紹介するにあたって、私はまずアートについての説明を皆と共有したいと思う(我々がカードのイラストレーター達へと、何を描いて欲しいかを伝えるために送るテキストだ)。アーティスト、Michael C. Hayesへと我々が依頼したものがこれだ。読んだなら、絵を思い描いてみてほしい。

色:なし(アーティファクト・クリーチャー)

場所:あなたの頭上。もしかしたら、天井の高いダンジョンの小部屋

状況:乾いてひびの入った石で作られた、背の高い(15フィート/5メートル)ゴーレムもしくは彫像。信じられないほど頭でっかちで不安定。巨大な胸と腕を持ち、その胴体中央部分から砕け始め、前方に(見る者に向かって)倒れてくるように見える。

焦点:ぐらつき砕けている巨像

雰囲気:一秒で我々は建物ほどもある石の下敷きとなって押しつぶされるだろう。


イメージを思い描けたかな? こんな感じになったかな?

 燃えるようなスタートを切った。今やこいつをいくらかのルールテキストで囲む時だ。このカードは様々なデザインを想像できる。だが言及するべきだろう、このカードはアンコモンであり、つまり一定水準のシンプルさが求められることを意味すると。レアや神話レアにならば試せるような狂気じみた能力、それをアンコモンにあてがうのを我々は躊躇する。例えば私はこんな能力を思い描いた。「それはゴーレム・アーティファクト・クリーチャーになる。そのパワーはその上に置かれた石カウンターの数に等しい」もしくは「そしてそれが対戦相手の上に倒れたなら、このクリーチャーは瓦礫の山クリーチャートークンとなる、あー、そんな感じ」(私のテキスト化技能ではここまでだ)。だけどこの崩れゆく巨像の本質をたった数行の利口なテキストで説明することができるなら、より理解が簡単になり、そして誰にとってもよりよい基本セットのアンコモンとなるだろう。

 加えてそれはまさに、我がヴォーソス魂の中にある居心地のよいカフェを訪れてくれるような、そんな類のカードになってくれるだろう。

 それが、こんな感じの何かであったなら。

 これこそが、対戦相手の頭上へと崩れ落ちる大きな石像だ。頭でっかちで不安定で、その脚はかろうじてその重量を支えている。ゆえに歩き回って君を痛めつけにやって来ることはできない。だけど君がその腕が届く範囲内へと戦いに来たなら(すなわち、これに攻撃したなら)、君は打ちのめされるだろう。ついには当然の結果として、またとっておきの切り札として、それは一度だけ圧倒的で自滅的な攻撃を執行することができる。そしてそうした時、建物ほどもある石塊が踏み潰してくるような一撃となる。

 これこそが、歌われぬ英雄の一例だ。彼らは風味豊かで楽しいちょっとしたカードだ。もし我々が正しい仕事を行って基本セットの大半を作り上げていたなら。彼らの能力はただの規則的・機械的に適正なルールテキストのごた混ぜではない。そして彼らの名前は《グラクシプロン》のようになんだかわからないようなものではない。カードの全ての構成部分、名前、ルールテキスト、アート、フレーバーテキスト(もしトランプルの注釈文の後に空白が残っていたなら)は一つのアイデアとして凝集する。その結果生まれるのが構築で評判の天使や多元宇宙をぶらつき歩くプレインズウォーカーや、実績をアピールする炎を吐くドラゴンでなくとも、それはフレーバーを伝えてくれて、いくらかの愛を受けるに値するカードだ。

 だから『基本セット2012』へようこそ、上手にデザインされて風味豊かなアーティファクト・クリーチャー君。そして我が胸のお気に入り部屋へようこそ、《崩れゆく巨像》君。

だが待ってくれ、まだあるんだ。

 私の胸には、この不吉なゴーレム向け以外の部屋もある。私はM11でアーロン・フォーサイス率いるチームに所属していたのと同様に、マーク・グローバス率いるM12デザインチームに所属していた。そして我々は風味に満ちたデザインの全陣容を作り出すべく熱心に働いた。それらの多くは既にM12カードの中にあり、『基本セット2012』特設サイトのカードイメージギャラリーで君達も見ているだろう。青のイリュージョンというテーマ、《幻影の熊》とその友人達。《グリフィンの乗り手》のワンツーパンチと彼女の多才な空飛ぶ乗騎。クリーチャーを食らい尽くす《貪る大群》に氷の(そして《霜のタイタン》関係の)インスタント、《霜のブレス》。二足歩行をする大石弓にして鋭い目をした男の名は《大石弓の精鋭》。親密かつ優雅に彼の周囲の森との繋がりを持つツリーフォーク、《ダングローブの古老》。二つで一つの基本的なファンタジーの武具、《大剣》&《カイトシールド》。

 私個人の計画は、マジックにおける魔道士のフレーバーと見た目の見本になるような、5枚の「魔道士」サイクルを作り出すことだった。最も低位の一回限りの特務魔道士から、最も強大で世界をまたにかけるプレインズウォーカーまで、呪文を唱える者達はマジックの心であり魂だ。我々のゲームにはどれほどダイナミックで機知に富む魔術師達がいるか、そしてマジックの五つの色のプリズムが基本的な人間の魔術師をどれほど特別な、色に列する魔道士に変えるのか。基本セットはそれらを率直に表現するためのすぐれた場所だと私は思っている。私はラヴニカのギルド魔道士達が彼らそれぞれのギルドの精神をいかに完璧に表現しているかを愛していて、だからこそ私はこれら単色魔道士達へと同じものを望んだ。幸いにもM12のデザイン・リーダー、マーク・グローバスがこの計画をサポートしてくれた。そして我々は最終的に《雪花石の魔道士》と友人達のサイクルとなった多くのデザインに取り組んだ。彼らはそれぞれ「呪文を唱える」ことのできる魔術師だ。ベーシックな特務魔道士のように。そしてアーティストIzzyに感謝を。彼らの外見は全員とてもクールだ。


『基本セット2012』カードイメージギャラリーで魔道士サイクルをチェックしよう。

 君がプレリリースで『基本セット2012』を楽しんでくれることを願ってやまない。《崩れゆく巨像》を誰かの頭上に落とす、その楽しさは私が個人的に保証しよう(もしくは対戦相手の巨像に《反逆の行動》をさせるんだ。なんということだ、これ以上に反逆的な行動はないね)。そしていくつかの風味豊かなカードを探して、君の胸に小さな輝きを灯して欲しい。


今週のお便り

 今週のお便りはJoeから。

親愛なるフレーバー導師、ダグ・ベイアーへ

 トークンを作り出す呪文のフレーバー的な意味について、貴方はどうお考えなのか私は疑問に思っています。これはデザインについての疑問です。《ファイレクシアの再誕》のような、点数で見たマナコスト6点のトークンを作り出すソーサリー、もしくは戦場に出たときの能力持ちの点数で見たマナコストが6のクリーチャー、X/Xのパワーとタフネスを持つクリーチャー。フレーバー的見方からは、これらの違いはどのように説明されるのでしょうか?

--Joe


 興味深い質問だ、Joe。我々が、何が起こっているのかという「脳内の映画」フレーバーを見に行く前に、二種類のカードタイプについて考えよう。カードの様々な部分を追いかけて、それらがいかにして互いに影響し合っているかを確認しよう。我々は二つのとても単純なカードをイメージした、一つはバニラクリーチャー、もう一つは事実上同じバニラのクリーチャー・トークンを生み出す呪文。例えば、未来予知のこれらの2枚はとても似通っている。偽《タイタンの契約》は、気にかかる「ゲームに敗北する」という部分のない{4}{R}のソーサリーだ。

 これらのカード・タイプ間の違いは何なのだろう?

  • カード名:我々はクリーチャー・カードとクリーチャー・トークンを生成するカードは明確に異なるような命名をする傾向にある。それらが全く同じ結果(盤上に一体のクリーチャーが現れる)になろうとも、そのカード名から、トークンを生成して墓地に行く、《被覆》で打ち消されてしまう、等々の性質を持つソーサリーを握っているのか、それとも、自身がパーマネントとして戦場に出る、《蔑み》で落とされる、等々の性質を持つクリーチャーを握っているのかが分かるように。ソーサリーは行動や儀式であり、対するクリーチャーは生きている存在だ。いくつかのトークン生成呪文の名前はクリーチャー的に響く(例えば《ゴブリン斥候隊》や《実験用ネズミ》)が、我々はそれらの名前がより行動や出来事のように響くよう努力している(《成長の発作》、《大軍の結集》)。
  • アート:クリーチャー・トークンを生み出す呪文のアートはしばしばクリーチャー・カードのアートとしばしば非常に似通ったものになってしまっている。それはただクリーチャーを示そうとしていて、そこから逃げ出すのは難しい。だが《タイタンの契約》は他の選択肢を提示している。登場したクリーチャーよりもむしろ召喚行動そのものにより注目することができ、新たな生物がやって来るまさにその瞬間を見せている。
  • メカニズム:君が言及した通り、Joe、クリーチャー生成呪文カードを作り出すのか、クリーチャーを作り出すのかというデザイン面の質問だ。そしてそれは全くもって正しい。例えば君はカードを《グレイブディガー》で回収できるようにしてあるコンボを可能にするよう求めるかもしれない。もしくは君は皆に呪文を《余韻》させてより多くのトークンを作り出せるよう求めるかもしれない、等々。だが私は言おう、何故そのようなカードが呪文かクリーチャーかのどちらかに決まるのか、そこには二つの実に基本的な理由がある。戦場へと一度に一体以上のクリーチャーを作り出そうとしているなら、それはしばしば呪文となる(例えば《ドラゴンの餌》、《複製の儀式》)。また、もしクリーチャーが戦場に現れた際に何かが起こる必要があれば、それはしばしばクリーチャーとなる(例えば《包囲攻撃の司令官》、忠義深いゴブリン・トークンの一団を役立たせる能力を持つ)。

 だけど君の質問はそういった違いの、マジック世界内でのフレーバー的な意味についてだ。正直に打ち明けるが、赤の4/4巨人を召還している魔術師を映し出しているTV番組は、おそらく一連の特殊効果を映し出しているのと全く同じなのだろう。それがソーサリー・カードかクリーチャー・カードかを表現しようとしていようといまいと。ゲームにおいては、トークン・カードにはしばしば重要になってくるゲームプレイ上の感じ方の違いが存在する。それは死んだりバウンスされたり何かされた時、より「蒸発した」ように感じるのだ。なので、クリーチャー・トークンはその世界内の認識ではクリーチャー以外の何者でもないのだが、もしかしたら彼らは召喚された世界との繋がりがやや不安定なのかもしれない。ゆえに彼らは元の場所、上天へと溶けていきやすい。もしトークン生成呪文と基本的なクリーチャー召喚とを隔てている何か他のフレーバー的詳細があったなら、それは呪文を唱える行動の雰囲気へと影響を及ぼすだろう。私が言いたいのは、《ワーム呼び》と呼ばれる呪文には、ただ「《大喰らいのワーム》を唱えるよ」以上のものがあるということだ。その儀式的な響き、そしてアートには召喚者と召喚対象との関係が示されている。加えてバイバックのメカニズムは、時折霊気を引き裂いて巨大な、より巨大なワームが現れる、終わりのないドルイドの詠唱という感覚を与えてくれる。トークン生成ソーサリーとインスタント、それらがいかに異なった様子で多元宇宙に姿を現すか。私が考える、微妙なフレーバー的相違点への反映がそれだ。

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