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新たなるファイレクシア、派閥のアート
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新たなるファイレクシア、派閥のアート
Doug Beyer
2011年5月18日
ファイレクシアは故郷たる次元を再び手に入れた。そして真のファイレクシアの流儀で彼らの凱歌を響かせた。世界を感染させ、宿主の中で成長し、進化し、そして勝利へと転移した。全てのチェックボックスに印がつけられ、膿漿のチェックポイントはクリックされ、肉体と金属のクリップボードは綺麗にされた。「ミラディンを新ファイレクシアに」作戦は今や達成された。会議室に用意されたお祝いのケーキがこれだ。
やったぞ! |
だが我々の終点は簡単なものではなかった。新たなるファイレクシアというセットは一風変わった芸術的挑戦を意味するものだった。それはマジックにおいて、最もファイレクシア的なセットだ。ホラーというクリーチャータイプの数と毒カウンターの密度だけでなく、ファイレクシアのイメージの総量という観点において。我々の前に置かれた仕事は、新たなるファイレクシアの全カードが必要とするイラストレーションを、ほとんどセット全体を占める量のファイレクシア的イラストレーションを発案することだった。その仕事へと向かうにあたって、我々クリエイティブ・チームはそのための適切な道具を全て持っていた。山積みのスタイルガイド、ほぼ20年間に及ぶ参考イラストレーション、そして才能ある、気さくなアーティストの一団。それでも私はそれらが一つになると確信はしていなかった。
ファイレクシアには問題が二つあった。一つは、それは不気味なものだということだ。ファンタジー・アートに魅了された人々はとても大勢いて、その中でもマジックのアートに魅了された人は特に多い。何故ならマジックのアートは現実を理想化しているからだ。我々は、美を愛する人々による素晴らしい作品を提供してきた。現実社会の停滞からの愉快な脱走。ファイレクシアはその反面、嫌な感じを故意に起こさせている。それは我々の繊細な感受性を食い物にしている。我々を魅了するファンタジーの美と信念を求める願望を掴み上げ、それらが発する愛すべき警告音をねじ曲げる。
二つ目は、首尾一貫しているということだ。ファイレクシアには特別の外観と雰囲気がある。過去においてファイレクシア人には様々な個性を持つクリーチャーデザインが存在したが、彼らは全員、共通の要素を持っていた。概して言うと、ファイレクシア人たちはファイレクシア人っぽいのだ。何故これが問題となるのだろうか? ああ、問題ではなかった、我々が一つのセット全てをファイレクシアにしてしまうまでは。それも、既にファイレクシア人を呼び物としていた二つのセットの後に、彼らでいっぱいのセットを。それはよくない事に思えた。一貫性も行きすぎると視覚的単調さとなってしまう。時折我々はその「答え」についてクリエイティブ・チーム内で話し合った。20番目か50番目、もしくは175番目のカードが開発部から渡されて「これについてどう思う?」と聞かれた時、我々は答えを準備しておかねばならない。あまりに首尾一貫した外観と雰囲気のままでは、答えを使いきってしまうだろう。
この一貫性の問題は解決できるものだった。我々は今回、ファイレクシアは五つの色に枝分かれすることを知っており、それは各色に列する派閥のための独特な外観をデザインする好機を与えてくれた。我々は完全に統制された画一さを破壊し、いくつかの喜ばしい多様性をファイレクシアに与え、そしてその過程において我々自身もコンセプト的な「答え」を手に入れた。
別の問題は、不快さだった。ああ、その問題に対しては多くの解決策はなかった。我々は新ファイレクシアにおいて、ミラディンの残された要素が生死の境にしがみついているであろうと知っていた。今年の物語の「清純なる」エンディングとこのセットにおいて、その事が強烈な英雄的要素を求める者たちへの慰めになるかもしれないということも知っていた。我々はただ公約することを決めた。かつて作り出してきたどのセットよりも多くのファイレクシアを表現し、数の正義を執行し、そしてそれがどう動いていったかを観察すると。
世界構築という観点から、君たちが目にしたその結果が「プレインズウォーカーのための新たなるファイレクシア案内」シリーズだ。
白...ひびの入った白磁
我々はただちに、ファイレクシアの5つの派閥それぞれの見た目の特徴やトレードマークとなるものを追い求めた。白磁は冷たく、磨かれた骨のようになめらかで、ぞっとするような白磁人形を連想させる。ゆえに我々は白磁の外観が、歪んだ宗教的形態に満ちた、見た者をおじけつかせる派閥にふさわしいと考えた。だけどこの、白に列するファイレクシアの最終的な外見となったアイデアは、チーム外のウィザーズ・オブ・ザ・コースト社の同僚社員(ダンジョンズ&ドラゴンズのアートディレクター、マリ・コルコフスキ/Mari Kolkowsky)からの何気ないコメントによるものだった。彼女は農場の古い汚水溝の外観について言及してくれた。それはしばしば白磁で覆われ、だがひび割れていてその下の錆びた鉄が姿を見せている。それが私たちに差し込まれた鍵となった。コンセプト・アーティストのリチャード・フィッター/Richard Whittersは突然閃き、所々にひびの入った高貴な白磁で覆われた怪物たちをスケッチした。時折これらのファイレクシア人は、古い汚水溝のように白磁の下に黒い鉄が見え隠れしている。だが時折それは皮膚のない、じくじくと赤く滲む腱だ。グロいよ。
《磁器の軍団兵》 イラストレーション:Eric Deschamps |
《強制された崇拝》 イラストレーション:Karl Kopinski |
《審問官の総督》 イラストレーション:Igor Kieryluk |
《ファイレクシアの非生》 イラストレーション:Jason Chan |
青...薄い色を帯びた輝く金属と医療用器具
青に列するファイレクシアのために我々は、分析を重んじる臨床の科学者と解剖学者でいっぱいの派閥という首尾一貫した外観を求めた。外科用メスで完成を探し求める歪んだ外科医。我々はこの派閥の外観として、銀青色の金属という案を思いついた。水銀海は既にミラディンの青においてこの連想に加わっているし、我々はそれを同様にファイレクシアへと取り入れた。その外観は歯科医を訪れる時や外科医のメスの下に横たわる時の冷たく、恐ろしい一面を完全にとらえていた。磨かれて輝く外観は、陰険な見た目をした注射器や視鏡、そして医療器具もどきと一緒に上手く作用して、連続殺人犯が患者を扱う雰囲気をこの派閥へと与えてくれた。
《無感覚の投薬》 イラストレーション:Brad Rigney |
《つながれた喉首追い》 イラストレーション:Stephan Martiniere |
《詐欺師の総督》 イラストレーション:Izzy |
《ファイレクシアの変形者》 イラストレーション:Jana Schirmer & Johannes Voss |
《翼の接合者》 イラストレーション:Kev Walker |
イラストレーション:Chippy |
黒...汚れて腐食した砲金
整備士のガレージの臭いを知っているだろうか? 鋼の強い臭いと使用済み油の、身体に悪そうで不快な臭い? 古い車の下部構造のさびた臭いと、とても古い汚れの染みこんだカーペットの臭い? それが黒に列するファイレクシアの臭いだ。視覚的には、黒灰色の金属(ダークスティールではないよ、注意)と常にそれを覆う黒い油。胸郭と眼窩の形をした、ぎざぎざの腐食したフランジ。有毒のがらくたの山から刻み出された死の形。だがそれはがらくたではなく、恐ろしくも有能なものだ。黒に列するファイレクシア人はその背景に最も多くの歴史を背負っている。世界を破壊し、人々を堕落させ、力を手に入れることが全てである。腐食した金属と油に汚れた屍の組織とともにあってさえ、それは滑らかで艶やかさを持ち続けている。成功した競争者だ。その成功の過程はただひたすら気味が悪いものだが。
《寄生的移植》 イラストレーション:Jason Felix |
《狂気コウモリ》 イラストレーション:Daarken |
《盲目の盲信者》 イラストレーション:Jana Schirmer & Johannes Voss |
《外科的摘出》 イラストレーション:Steven Belledin |
赤...産業と内なる熱
赤に列するファイレクシアは焼炉層、ファイレクシアの地獄的な産業地帯であり、ファイレクシアの基盤構造を維持しているシステムと最も強い結びつきを持っている。ゆえに我々は赤に列するファイレクシア人へと、彼らのデザインがその仕事の目的に沿うように、一種の奴隷や労働者のような外見を求めた。我々はアーティストのチッピー/Chippyが思いついてくれた、クリーチャーの身体内部が空洞にされ、金属の支柱にとって替えられて熱く輝く内核を埋め込まれるというファイレクシア化されたゴブリンのコンセプト・アート(リンク先は英語)を愛している。それは類似したテーマを持つ別の形態学を多く生み出し、赤のファイレクシア人クリーチャーの多くがこの「金属の胸郭と内部の輝き」という外観を持つことになった。もし静かなる焼炉に「ファイレクシア文明の炎を燃やしている召使の下役」という雰囲気を感じ取ってもらえたら、それはある意味我々が目指していたものである。時折、「とち狂って周囲に無頓着な、怒りに突き動かされた怪物」という雰囲気もあれば、それも我々が願っていたことだ。
《切りつける豹》 イラストレーション:Matt Stweart |
《焼炉の悪獣》 イラストレーション:Karl Kopinski |
《溶鉱炉の大長》 イラストレーション:Chippy |
《勝利の破壊》 イラストレーション:Jung Park |
緑...銅をまとう獣
緑に列するファイレクシアの外観は少々難問だった。我々はいかにして、自然の獰猛さという緑が持つ一貫性を止めながら、機械に取りつかれたファイレクシアの使命を遭遇させればいいのだろうか? 素材はとてもはっきりとしていた。ミラディンの絡み森は、金属が融合した獣が緑青に汚れた銅のジャングルを徘徊するものとして既に描かれており、ゆえに我々はそういった緑青の金属板をファイレクシアにも同様に持ってきた。だがクリーチャーのデザインはより困難だった。銅の緑青をまとったミラディンの獣はセット数個分のバリエーションを持つ。それらと十分に異なる、銅の緑青をまとったファイレクシアの獣をどのように作り出せばよいだろう?
最終的には皮膚の腐食、伝統的なファイレクシアの目を持たぬ顔、そして粘体の有益な適用、これらの組み合わせによってファイレクシア人が切り離された。緑に列するファイレクシア人はしばしば自然からインスピレーションを得た組織を持つ。蛇や猪、巨大な厚皮動物といったように。彼らは視覚能力の代わりに、圧倒する見苦しさ、菌腫、鱗に似た金属といったファイレクシア的よじれを得た。彼らの表皮は鱗がはがれて斑模様を成しており、その下の渦巻く金属の内骨格を露出させている。彼らは自然のライフサイクルを嘲笑する、粘体の滴る槽から生まれ出る。
《とどろくタナドン》 イラストレーション:Dan Scott |
《有毒の蘇生》 イラストレーション:Matt Stewart |
《死の頭巾のコブラ》 イラストレーション:Jason Felix |
《マイコシンスの悪鬼》 イラストレーション:Kev Walker |
外観は一つとなる
新たなるファイレクシアが発売されてより、私はこのセットをどう思うかについて多くのプレイヤーの意見を聞いてきた。嬉しいことに、多くのプレイヤーがファイレクシアの露骨で鋭い悪行を掘り下げて、ファイレクシアが表現する真剣な物語の真価を認めてくれた。戦争の勝敗が判明してもまだ窮地で残っている頑固なミラディン人たちがいることも私は知っているが、何人かのミラディンファンでさえこのセットの様相を楽しんだと私に伝えてくれた。我々はファイレクシアを一つの文明へと変えるためにとても多くの仕事をした、その結果かつてなかったほどに幅広くカードとイラストレーションを支えることができた。我々の才能あるコンセプト・アーティスト、アートディレクター、そしてイラストレーターたちの苦心に感謝したい。そして私は、ファイレクシアにふさわしい成功だと言おう。
今週のお便り
親愛なるダグ・ベイアーへ
この数週間、私はずっと疑問に思っています。ファイレクシアとグリクシスとの間の根本的な違いとは何なのでしょうか、ファイレクシアは「ヴィスを気にかけなくてもよいグリクシス」のように思えます。
グリクシスの住人は彼らの世界の生命エネルギーが枯渇していることを心から気にかけているように思いますし、ファイレクシアは死んだクリーチャーを使用して生命と機械の融合した怪物を作り出す存在です。考えてみますとそれは生きているとは言えません。
私は貴方の回答を予想しています、「ああ、いいかな。新ファイレクシアには白と緑のマナがある。青黒赤のマナにのみ触れることができるグリクシスとの比較は無意味だ」と。それはとても満足のいく回答かもしれませんが、ヨーグモスが作り出したオリジナルのファイレクシアはただ黒のマナだけに触れることができて、とはいえ他の世界を侵略することに心を傾けていました。それは機械を動かし続けるためにより多くの生命エネルギーを見つけ出す絶望的な活動よりも、ずっと計画的な侵略行動に思えます。
ゆえに、この二つに大きな違いはあるのでしょうか、それともクリエイティブ・チームの説明不足な箇所なのでしょうか?(私はどちらの答えでも満足です、誠実さは偉大なる美徳です!)
読んで下さってありがとうございました!
--MitlaMit
とても面白い質問だ、MitlaMit。質問をありがとう! 生命エネルギーを求めるグリクシスの冒険(リンク先は英語)の物語、もしくはヴィスの存在は、ファイレクシアが世界を侵略するための動機付けとは似て非なるものだ。グリクシスはより大きな次元アラーラ、かつては5色のマナ全てに触れることのできた世界の一つの断片だ。アラーラ次元が5つの断片に分かたれた時、グリクシスは生命に関係する色、白と緑のマナを猛烈に渇望した。その一方で、私はファイレクシアが何かを失ったと感じたことは今までないと考えている。ファイレクシアは常にアーティファクトと黒マナで動く機械の文明であり、それをよしとしている。グリクシスが陥ったように、滅びに向かいながら共食いをしてはいない。君は正しい。ファイレクシアは他の次元の生命エネルギーを補給したり飲み干したりするために侵略しているのではない。ファイレクシアは心から他の世界を支配し、転換し、堕落させることを求めているゆえに侵略するのだ。多元宇宙の至る所へと拡大・増殖することはファイレクシアの核となる精神に組み込まれている。
《グリクシスの奴隷使い》 イラストレーション:Dave Kendall |
必要不可欠なものとしてのヴィスというコンセプトは、グリクシスの苦境に特色を与えているものだと私は考えている。我々はヴィスを、多元宇宙の至る所で普遍的に必要とされるものとは考えていない。グリクシスの生命は元々それらのマナを手にしていたが失った。突如として満たされなくなり、必要性が生まれた。だからといって白と緑のマナを持たない全ての世界が、グリクシスがヴィスを切望することになったように、白と緑のマナを要求していることを意味するものではない。だがそれは興味深い思考実験だ。もしかしたらここ新ファイレクシアで勝利を収めるまで、ファイレクシアはずっと4つのマナの長所を「切望」していたのかもしれない。新たなるファイレクシアの赤の派閥、「静かなる焼炉」はファイレクシアがいかにして憐れみという要素、かつては常に欠けていたものを獲得したかを間違いなく示していると私は考えている。質問をありがとう!
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