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絵の具と画素のミラディン包囲戦
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絵の具と画素のミラディン包囲戦
Doug Beyer
2011年3月2日
君が今やっている事を止めて、アート評価レンズを首にかけるんだ!(それは《浸透のレンズ》のようなもので、数秒先の未来を見る代わりにマジックのアートをいくらか深く見るものだ) 名前欄とカードタイプ欄の間に挟まれた言葉無き空間を探求するには絵ェ頃合いだ。なので今日我々はミラディン包囲戦のアートに注目しようじゃないか。
まずはセットの半分、果敢なミラディン軍のすかし模様入りから始めよう。それからファイレクシアを見ていこう。
《ゴブリンの戦煽り》 イラストレーション:Chippy |
私はこのアートから始めたいと思う、何故ならこれはまさに全ミラディン軍が持つ心意気や雰囲気を完璧に表現しているからだ。加えてこれは、我々が傷跡ブロックの2つのセットで見てきたミラディン軍ゴブリンの最も象徴的なイメージと言えるかもしれないからだ。それはChippyが傷跡のコンセプトアートチームにいて、ミラディンの傷跡スタイルガイドでゴブリンの外見デザインを担当していたからというのもあるだろう。私はこいつの、全力で争いへと突入する「機雷なんか、ファイレクシアの機雷(仮)なんか糞くらえだ」(訳注:アメリカ南北戦争時のある将軍の有名な言葉をもじっている)的態度がたまらなく好きだ。はっきりと描かれた大きな頭とずんぐりした四肢が、向こうみずに戦いへと突撃する身ぶりと合わさって、クールでかつ面白おかしくもある。Chippyはかつてオリジナルのファイレクシア・スタイルガイドに意見をくれた一人だが、私は彼のミラディン側デザインも愛している。
《ミラディンの血気》 イラストレーション:Karl Kopinski |
このアートは骨の折れる注文だったが、私はKarl Kopinskiがいかに素晴らしくこのアートを引き出してくれたかを公表したいと思う。このシルヴォクのシャーマンは周囲の絡み森の木々、その銅の「枝」を使用して彼女自身の巨大な映し身を作り出している。それがKarlへと我々が依頼したものであり、Karlが寄越してくれたのがこのアートだ。確認してほしい、柔らかに曲がる銅のリボンが彼女の顔の造作をそれとなく表現しているのを。見てほしい、彼の色と光の使い方が、金属内部に多くの空間があるように見せているのを。それによって表現された深みと構造を。銅は何故か頑丈に見え(メカニズム的に重要だ)、同時に流れるようにも見える(この呪文がどのように働くかという背景的に重要だ)。
《ケンバの軍勢》 イラストレーション:Anthony Francisco |
オリジナルのミラディンスタイルガイドでは、Todd Lockwoodがミラディンのレオニンの姿をデザインした(Lockwoodのいくつかのコンセプト・アートを参照)。ここ傷跡の地では、レオニンが気を揉むのはオーリオック達やロクソドン達ではなく、ファイレクシアの侵略者達だ。Anthony Franciscoは我々が描写を依頼した彼ら誇り高き種族の金属を帯びた身体組織と、獰猛で果敢な感情の両方をとても上手にアートにしてくれた。彼らはその命が尽きるまで故郷を守る覚悟ができている。
《水銀の噴出》 イラストレーション:Erica Yang |
我々が尋ねるまでもなく、実際に「クリーチャーが霊気へと融けてゆく」のを描くのは全くもって簡単ではない。だがこの場合、君達のためにこれを描いてもらう誰かを見つけ出す理由がいくつかあった。その一つは君達にErica Yangについてよく知って欲しいと思ったからだ。Ericaはエルドラージ覚醒からマジックの仕事をしていて、彼女はその朧げな色使いで既にその地位を確立している。私はファイレクシア人達のザクザクと音のしそうな暗い金属色と「噴出」の水っぽい光とのコントラストを愛している。
《タイタンの炉》 イラストレーション:Svetlin Velinov |
ファイレクシア人達は本気でミラディン次元への侵攻を始めていた。ゆえにミラディン人達が秘密兵器を必要とすることがあればそれは今だ。水銀海が割れると、我々は金属の海底に刻まれた秘術の環を見ることができる。我々はまたその機能を見る。巨大な9/9のゴーレムの製作だ。私はSvetlin Velinovが描いてくれた巨像を愛している。神秘的な海底の組み立て工場で、金属が複雑に絡み合ったその姿が連結機構から立ち上がり、炉の魔法で押しやれられた水銀の壁に力強い影を映している。海水の形状は《タイタンの炉》というアーティファクトは実際には不可視の球体(もしくは少なくとも半球)であることをほのめかしていて、その金属製の迫力、周囲の海を押しやる力は、タイタン自身の心臓から外へと放射されている。
《神への捧げ物》 イラストレーション:Terese Nielsen |
再録カードのアートを依頼するのはいつも楽しいものだ、何故なら我々はカードの背景を新たな舞台へと通訳することになるから。一方我々はTerese Nielsenの作品を2インチ程に縮小するのをいつも残念に思っている。何故なら彼女の絵は細部までとてもきらびやかだからだ。ゆえに我々は《神への捧げ物》をここで紹介できることをとても嬉しく思っている。私はTereseの多くの作品を愛している。《銀皮の鎧》、《自然のらせん》、M10の新たな《聖なる力》《邪悪なる力》、そして勿論ミラージュからやって来た《神への捧げ物》の彼女版。だがここに彼女はそのシーン構成によるストーリーテリングへの熟達を示してくれた。見てほしい、レオニンの高僧の平然とした様を。金属のファイレクシア人が粉々に破壊されるのを。ここには二つの入り組んだファイレクシア人の姿があって、この呪文の働きが君の目に映っている。完璧なカードだ。Tereseは全くもってイカしている。
《剃刀ヶ原のサイ》 イラストレーション:Kekai Kotaki |
Kekai Kotakiの《調和者隊の聖騎士》はこのセットの象徴的イメージの一つだ。だけど私は彼の《剃刀ヶ原のサイ》をより贔屓してさえいる。この突進するサイ型アーティファクト・クリーチャーの純粋な物理学的運動量はいかほどか、そしてその通り道にいる小さなオーリオックの紳士の正気を君は疑うだろう。物理方程式を解きたくなるマジックのアートは多くないが、この作品を見て実際、私は加速度の積を計算したくなった。
《軍団の結集》 アート:Steven Belledin |
時おり、カードアートはそのカードで何が起こっているかを示している。それは素晴らしいことだ。だが時おりそれを通り越して、そこにどんな舞台や物語があるのかの本質を語ってくれるものがある。我々は、ヴァルショクとシルヴォク達がオキシダ山脈の峡谷に攻撃のために集結した一場面をSteveに依頼した。そして彼は自由な解釈で、更にファイレクシア人達が溶岩の地平線に輪郭を成している絵を描いてくれた。彼は何十人もの戦に狂う人々を描き、Peter Jackson発明の動画ソフトで製作した巨大スケールの戦争(訳注:映画Lord of the Ringsシリーズのこと)のような雰囲気を出してくれた。これはミラディン人とファイレクシア人との紛争を完璧に切り取った一枚であり、もしくはそれ以上に、二つの軍勢が激突する直前のその決定的な瞬間、感情は高ぶり死の鐘はまだ鳴らされていない瞬間だ。
《裏切り者グリッサ》 イラストレーション:Chris Rahn |
バキューン。君達の物語にドラマを加えたいって? かつての英雄の一人をファイレクシア化して、Chris Rahnが彼女を描いてくれた。Chrisはこのかつての主人公のしなやかな魅力を引き出すと同時に、ファイレクシアの影響でおぞましくも色っぽくなった彼女には元のままの所など残されていないとはっきり示してくれている。かつて世界を守ったキャラクターの180度の倫理的転換はありとあらゆる疑問を呼び起こす。そしてここにグリッサは裏切り者という新たな皮をまとい、不安を誘うようにくつろいでいる。
《法務官の相談》 イラストレーション:Daarken |
この絵を挙げるのは、このセットにおけるカーンの象徴的描写だからではない。その名誉はJason Chanの《堕落した良心》に属する。私がこれにスポットライトを当てる理由は、この絵には囚われのカーンとファイレクシアの法務官達との関係が完璧に描かれているからだ。カーンの側に立つのは緑に列する法務官、「飢餓の声、ヴォリンクレックス」として知られる彼は明らかに誘惑的に、忍び寄るようにその鉤爪をこっそりと玉座の上にかけていて、その牙には何かの腱がぶら下がっている。君は感じるだろう、ヴォリンクレックスはカーンのむき出しの心へと手を伸ばし、その魂を直接握りつぶそうとしているのだと。カーンの機械の父祖としての夢想がそれを跳ね飛ばさない限りは。
《腐敗狼》 イラストレーション:Nils Hamm |
Nils Hammは大変おぞましく、ぞっとする要素のアートで急速にマジックにおいてその名を確立した。彼の《死の男爵》、《グリクシスの戦闘魔道士》、そして《墓所のタイタン》はどれもぐしゃぐしゃどろどろとしていて、《腐敗狼》も同様の素晴らしいその系統を踏襲している。私は彼の油ぎったパレットで生み出された、骨ばって刺々しい形状を愛している。それはファイレクシアが自然の形状を使用し、だがねじ曲げることによって恐ろしい者達を生み出すということを伝えてくれている。おそらくこの怪物には、狼の生物組織はほとんどなく、ただその本質だけが残されている。ミラディンの(比較的)自然の生命をあざ笑うために、ファイレクシアの炉の司祭と生誕の槽で大雑把な青写真として使用されていたものだ。
《絡み森の大男》 イラストレーション:Mark Zug |
もし君の人生でMark Zugを十分に楽しんでいないなら、君は彼の作品の一つをしばらくじーーーっと見つめる義務がある。ここに彼は絡み森のレンズを通して見たファイレクシアの獣を、銅の外骨格と緑青色をしたあばた状の外甲殻で仕上げてくれた。Markはテクスチャーの達人だ。大男の皮膚だけでなく背景を占める絡み森の「木々」にも注目して欲しい。そして私はその前脚にかかる影の描写を愛している。君はその上にかかる梢の姿を思い描くことができるだろう。
《恐ろしき天啓》 イラストレーション:Shelly Wan |
君はこの絵が《鱗粉の変わり身》と同じ人物によるものだということを信じられるだろうか? すごい画風の幅だ! 我々は皆、Shelly Wanは「童話の本」を場外に飛ばしてしまえることを知っているが、ここに彼女は「とても恐ろしい生物化学的未来を幻視したことによる精神的外傷を受けた悲痛」も描けるということを示してくれた。とはいえ彼女はこのエルフを救い難い恐怖の内にあると描いたのかもしれない。私はShelly Wanはアートディレクター達に正反対の印象を与える絵を描いたと言っても大丈夫だと考えるよ。
《グリッサの急使》 イラストレーション:Dave Kendall |
Dave Kendallはまさに我々がファイレクシアを再訪するのを待っていた画風を持つ男だ。彼はそのむずむずするような画風をシャドウムーア、グリクシス、ゼンディカーの陰鬱な部分(《砂利エラの斧鮫》、《枝角のスカルキン》、《肉組み》、《崩れゆく死滅都市》、《墓所の切り裂き魔》)といった場所で発揮する機会を得てきた。だが彼はデュエルデッキ:ファイレクシア対ドミナリア連合にてファイレクシアが居心地の良い場所だと知った。それはああ、やはり間違いない配置だった。彼の薄汚れた肉質の画風と毒々しいパレットは、ファイレクシアの解剖学的/機械的見苦しさと完璧に調和する。彼の《入れ子のグール》もチェックして欲しい。これもまた私の個人的お気に入りだ。
《ファイレクシアの槽母》 イラストレーション:Stephan Martiniere |
私は多くのクリーチャーを処理してきたことを判っている。後ろめたいよ。開発の意図は堅固で変えられないんだ。再録版《ファイレクシアの憤怒鬼》を描いてくれたStephan Martiniere。同様に彼が手がけたその母たる《ファイレクシアの槽母》は、このセットの感染持ちクリーチャーの頂点を極める栄光に値するだろう。この作品は、もとは絆魂を持った小さなアーティファクト・クリーチャーのために依頼されたもので(ゆえに小さな血液貯蔵庫がその腹部についている。あう)、だがそのカードは没になった。それで我々はMartiniereの素晴らしい怪物をよりいっそうドラマティックなカードにする自由を行使したのさ。
《ノーンの僧侶》 イラストレーション:Igor Kieryluk |
ミラディン包囲戦のいくつかのファイレクシア側カードは、ファイレクシアの古典的スタイルを保持している。だがもし現代のファイレクシアの支配的勢力を完璧にとらえている作品を一つ選ぶならば、それはIgor Kierylukの《ノーンの僧侶》だ。これはファイレクシアがかつての黒とアーティファクトのみの帰属意識を越えて拡散していることを示している。白へ、そして全ての色へ。そんなぞっとするような歓喜を君は受け入れるために、しばし立ち止まらざるを得ない。君はその瞳にファイレクシアの未来を見たかもしれない、もし彼等に瞳があれば。ひび割れた磁器に似た素材が柔らかな赤い腱を覆っていて、恐ろしい解剖学的構造と堂々とした態度とがともかくも融合を果たしている。それこそが白に列するファイレクシアの完璧な要約だ。この作品は、ファイレクシアがかつて他のどの次元でも不可能であったことを成し遂げたと示している。素晴らしい働きだ、Igor!
私が論じる機会を得ることができなかった作品はとても多い。マジックのアーティスト達の品質は驚異的なものだと私は常に本気で主張するよ。私が絵を描けなくて本当によかったと思う、何故なら彼ら彼女らは私を嫉妬の炎で焼き焦がしてしまうだろうから。もしもマジックがこの素晴らしい水準のファンタジー・アートを提供する市場でしかなかったとしても、私は幸せだよ。
今週のお手紙
親愛なるダグ・ベイアーへ、
ミラディンと大消失についての記事を読ませて頂きましたが、私はミラディン人達の身体の金属について興味があります。故郷の次元に帰ったミラディン人達は、その身体に一緒に成長していた金属板をつけたまま生きることになったのでしょうか、それとも大消失の際に金属ははがれ落ち、普通の肉体と替わったのでしょうか?
そう、私は普通の肉体に替わったと考えている。多くの資料を提供するまでもなく、フィフス・ドーン小説の最後に、少なくとも数人のミラディンのキャラクターが、彼らの故郷の次元でほとんどそっくりそのまま昔からの人生を送っていることがほのめかされている。メムナークの魂の檻が彼らを再び故郷へと送り届けた時、金属は脱ぎ去られたと思われる。彼らはミラディンで起こった出来事を記憶してはおらず、ことによると影響を受けてさえいないかもしれない。その結論を下せる十分な情報はないが、それら数行の記述からは、私は彼らの身体の金属部分、ミラディンに連れてこられた際にもたらされたそれは、もはや再び故郷に帰った彼らの一部ではないと推測している。
また来週!
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