MAGIC STORY

タルキール龍紀伝

EPISODE 11

デベロッパー、デザインをする

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デベロッパー、デザインをする

Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2015年3月13日


 昨年、ショーン・メイン/Shawn Mainは「Latest Developments」でデザイン代理がデベロップ・チームにいるということの意味について語りました。ええ、この過程は両方で行われているのです――デザイン・チームもまた、デベロップ・チームのメンバーを1人迎え入れています。異なる能力をもつ人をチーム間で相互交流させることで、我々は一貫して質の高いエキスパンションを発売し続けることができるのです。『タルキール龍紀伝』では私はデザイン・チームのデベロップ代理であり、デザイン・チームからデベロップ・チームへと引き継ぎをおこないました。

 我々がそれぞれのセットでお互いのチームのメンバーを迎え入れる理由の1つは、最終的にセットの挙動によって慌てるチームがないようにするためです。マルチバースの中でそのセットで行われていることをたどることは比較的簡単ですが、それを見つけるためにはそのセットを見ていなければなりません。デザインからデベロップの間で、我々は作業過程のどこかの段階でセットを大体6個ぐらい抱えているので、全てを見続けることは困難です。


魔女の目》 アート:Daniel Ljunggren

 デベロップ・チームは、将来のセットがしようと計画していることをそのセット以前のカードでサポートするために、そしておそらくより重要なこととして、その時点でデベロップしているセットが機能することを阻害するカードによってそのセットの発展をふさいでしまわないようにするために、メンバーの一員からの定期的な情報を求めています。同様に、デザイン・チームのメンバーは新しいカードを生み出すとともに、そして我々がデベロップ作業でデザイン・チームのより大きな計画と矛盾を起こさないようにするためにデベロップ・チームに参加するのです。

デザインの考え方をデベロップする

 デザイン・チームにいるデベロッパーの役割は、デザイン・チームに何をすべきかすべきでないかを伝えることでも、全く正しいように見えないことを何でも試すことでもありません。その役割とは、デザイナーとして振る舞い、ある種かなり突拍子もないことを試して、よりイカれたものを制御しようとすること――もしくは、少なくともそれらのメカニズムを構築フォーマットで見かけるカードに発現させる方法を見つけることです。メカニズムが驚異的に楽しく興味深そうに見えても、デベロップがそのメカニズムのバランスを取ることができなければ、我々は実際に人気の出るようなカードを作るのに苦労するでしょう。これはデベロップが壊れていないストームのカードを作ることができないということではなく、壊れていないストームでなおかつ読みやすくてうまくプレイできるデザインが多く存在するとは信じていないということです。

 個人的にデザイン・チームで働く上で一番難しいことの1つは、いつでも何でも物事を修正したいという自分の願望を抑えることです。デザインすることの一部は、新しいことを試し、そして必然的に失敗することです。私はよくそのプレイテストの部分を飛ばして、まっすぐに「次の違うことを試す」部分に行こうとします。失敗することは過程の一部であり、そして失敗したメカニズムのどの部分が実際に楽しいのかを解明することは、デザインが最終的に楽しいメカニズムにたどり着く方法の1つです。大抵、1回のプレイテストで有用なカードやメカニズムを収穫することはできませんが、そのセットが表現しようとしていることを表現するためにどんな余地があるかについての解明に、そのチームは一歩近づくでしょう。

物事を順調に進める

 他のデザイナーに、デベロップがうまくやれそうなものとそうでないものについて時間を多くかけずに伝えようとすることは重要ですが、デザイン・チームにおけるデベロッパーの役割は、物事を順調に進めるとともに、デザイン・チームが考え出したカードやメカニズムを、デベロップが実際に機能させられるものであるようにすることです。

 デザインが両面カードを思いついたときのことを例に挙げると、トム・ラピル/Tom LaPilleがそのデザイン・チームのデベロップ代理でした。両面カードを適正なものにすることは困難でしたが、デベロップへの固有の問題は何もなく、クリエイティブ(追加のアートを発注しなければなりませんでした)や実際にそのカードを写植する人や印刷する人など他の系統の人たちへの課題を引き起こしました。トムはこのメカニズムを機能させられると信じていて、マジック開発部の他の人たちも同じように信じるようにするために、十分な実際の強さと楽しさを備えたカードを作るためにベストを尽くしました。

 『タルキール龍紀伝』で機能しなかったメカニズムの1つに「オーラ変異」というものがありました。『タルキール覇王譚』ブロックの元々の構想の1つは、『タルキール覇王譚』ではクリーチャーを、『運命再編』では土地を、そして『タルキール龍紀伝』ではクリーチャー以外を変異させるというものでした。我々が挑んだこの最初の展望は、オーラ変異で『テーロス』ブロックのエンチャントやオーラのテーマとのブロックを越えたシナジーを強調するというものでした。

 デベロップ代理として、私はこの計画に見えたいくつかの問題をすぐに指摘しました。そのバランスを取るのは難しくはありませんが、デベロップが簡単に解決できないゲーム・プレイ上の大きな欠点がありました。なぜなら(当時の)『運命再編』の変異はクリーチャーではなかったので、『タルキール龍紀伝』リミテッドでのその変異カードを表にしてより大きなクリーチャーにする方法がなく、コンバット・トリックがなければ2/3のクリーチャーで安心して変異をブロックすることができました――そのことは私が変異の楽しい部分であると信じているものの多くを取り除いていました。

 我々は変わった誘発型能力をもったオーラを作ることでその問題をすぐに解決しようとしました――それらがブロックされなかった場合は軽いコストで表になり、対戦相手にエンチャントされる、もしくは不利な能力を持ったオーラをタダでそれをブロックしているクリーチャーに表になってつけるといったものです。しかし我々はクリーチャー以外を変異させる考えそのものが成功しないと気づき、クリーチャーの変異能力のバリエーションへと向かいました。

 さて、私はデベロッパーがこのデザイン・チームにいなかったら同じ結論には至らなかっただろうと思いますが、そのデベロッパーがこれらのことに早く気づくことができるだけでなく、デベロップが楽しく意味のあるカードを作ることが簡単な領域にデザイン・チームを向かわせることを望んでいます。そのデザイン・チームがこのような働きをするメカニズムに取り組む時間が多いほど、ファイルの最終バージョンとなり得るデザインのカードが多くなります――そうする方が、我々のセットはデベロッパーがあまりに多くのカードを作るよりも楽しめるものになることでしょう。

コストの問題

 デザインの目標の1つは、かなり平均したパワー・レベルでのプレイテストをすることです。全てが正確に同じパワー・レベルである必要はありませんが、我々はリミテッドのゲームが「えー、この除去呪文と飛行クリーチャーのメカニズムは機能していますなあ」と言うことにならないよう、そのセットが達成しようとしていることが十分な強さになるようにしたいと思っています。我々はデザイン時点での除去を、オーラのついたクリーチャーが盤面を制圧してしまうようなことがない十分な強さに、しかし人々がオーラをつけるという面白いことができないと感じないような強さにしたいと考えています。基本的にそのカード・パワーの大部分がカードとメカニズムの相互作用にある場合は、我々はすぐにそれらが本質的に楽しいかそうでないかを解明することができます。デザインが強いカードを追加しないならばデベロップで修正する必要はなく、そしてデザインが追加したならば、それをどうすればデベロップで機能させられるようになるかを考え出すために、ある程度時間をかける価値があります。


悪魔の監督官》 アート:Chris Rahn

 デザイン会議のとき、カードのマナ・コストやパワーとタフネスを提案するのはそのチームのデベロッパーの役割です。我々はその場でカードに変更を加えられますが、プレイテストの途中でカードを1マナ重くするよう全員に伝えるのはかなりの混乱を招きます。そのため、そのデザイン・チームのデベロッパーは半定期的にそのセットのファイルを見直して、コストが変わったカードがあっても、できるだけプレイテストがスムーズに行われるようにしなければなりません。

 一般的に、ほとんどのデザイナーは大多数のカードのコストが何マナぐらいかをある程度考え出すことができます。アンコモンの4/4飛行絆魂は? デザイナーがそれを6マナ以外に設定したならば驚きです。その一方で、新メカニズムはコストの設定がより難しいものが多く、それを最初に試してみるのにパワー・レベルの調整について経験豊富な誰かがいることは良いことです。

 カードがデザインの終わりを通過する目標の1つは、我々が(理論上)印刷可能なものを持つことです。ファイルが完成している必要はありませんが、デザイン・チームが作ったカードとメカニズムが軽すぎるというだけで使われているのは良くないことでしょう。結局のところ、人々は強いものを好んで、偏りやすいものです。1つのメカニズムをセットの他のものより強くすれば、人々が「このメカニズムは本当に楽しいけど、他のはつまらない」という意見を言うことは自然なことです――機能するものに人々は惹き付けられ、機能しないものには不満を抱くのです。デザイン・チームのデベロッパーの仕事は全てをかなり近いレベルにして試すことであり、それによって我々は物事を現在の姿だけでなく、バランスが取れたときに楽しいかどうかを解明することができるのです。

 同時に、デベロップ代理にとって重要なのは、そのセットをそれの中だけでなく「現実世界で機能する」ようにすることです。どのメカニズムでもそれに沿ってセット全体を作り上げるならそれを機能するようにできますが、デベロップはセット1つのリミテッドだけでなく、スタンダードでも機能するようにしなければなりません。オーラのようなメカニズムは除去を弱くすればリミテッドでは機能しますが、スタンダードに強力な除去を持たせないようにする計画でも無ければ、それらのものはあまり影響を及ぼすことができないでしょう。デベロップ代理が後になって大混乱が起きないところにデザイン・チームを進ませることができれば、終わりまでによりセットは洗練され、デザインの展望をより多く保つことができるのです。

 今週はここまでです。来週はMファイル『タルキール龍紀伝』編をお送りします。

 それではまた来週お会いしましょう。

 サムより (@samstod)

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