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あなたの街のティーチングマイスター 第22回:MTG専門店しかのつの(奈良県)弓場博文さん

原田 武


 「ティーチングマイスター」とは、初心者にマジックを教える認定資格を持つ人のこと。「あなたの街のティーチングマイスター」では、『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』がリリースされたこのタイミングに、全国各地にいる彼らの紹介インタビューをシリーズで掲載していきます。

 今回は地元・奈良県にてショップを立ち上げた、レベル2ジャッジ資格も持つこの方です。

 

変わるもの、変わらないもの

──本日はよろしくお願いします。はじめに、マジックとの出会いについて聞かせてください。

弓場:1998年の春、『ストロングホールド』が発売された後くらいのタイミングで遊び始めました。当時学生だった私はTRPG同好会に所属していたんですが、部内でマジックを遊んでいる人がいたんです。とても楽しそうだったのでそのままルールを教わって、自分でも遊ぶようになりました。

 もともとゲーム全般が大好きで、マジックに触れる前はコンシューマーゲームを延々とやっているような子供でした。同好会に入ったのも「TRPGってどんなゲームなんだろう?」という好奇心がきっかけで、だからこそマジックのゲームシステムには強く惹かれましたね。

 デッキ構築ひとつとっても、単色で組むか多色で組むか、種族でまとめたりすることもできますし、同じ色のデッキであっても戦略ごとに様々な形が考えられる。その幅の広さの中で自己実現が出来る、という要素がとても楽しかったんです。

──自由度の高さにハマったということでしょうか。

弓場:はい。今となってはそういったゲームも多いですが、当時の僕には衝撃的でした。自由度というくくりだと、インスタントで相手のターン中も動けるのも新鮮だったかもしれません。

 あとはアートの美しさです。それだけで一つの絵画のような、綺麗なイラストが1枚1枚に描かれている贅沢さに惚れ込みました。

 

 今でも即興でデッキの構成を考えるドラフトは好きな遊び方の一つですし、大好きなロン・スペンサー/Ron Spencer氏のサイン入りアートを壁に飾ったりしています。そう思うと、感じている魅力はずっと変わっていないのかもしれません。

 そうしてマジックを知り、後はひたすらのめり込みました。部活や休み時間で遊んで、放課後はショップに行って……という感じでほぼ「すべそれ」みたいな学生時代を送っていましたね(笑)。まずは仲間内でしっかり勝てるようになりたいと、好みのアグロ系デッキのプレイングを研究したのはいい思い出です。

──青春ですね。その後、現在に至るまでマジックを?

弓場:そうですね。かれこれ30年近くになりますが、一度も中断することなく遊び続けてきました。社会人になってからも毎週末のように友人達と集まっていましたし、仕事の兼ね合いで神戸に移っていた時期も「CARD SHOP蒼猫亭」さんに通いながら楽しんでいました。

──以前このシリーズでも取材させて頂いた、元町のお店ですね。

弓場:色んな人脈も出来ましたし、ジャッジ資格を取ったのもそちらでご縁があってのことだったので、本当にお世話になりましたね。自分の店を持つようになった今でも、蒼猫亭さんのようなスタンスのお店にできればいいなと思っている節があります。

──様々な意味で、重要な出会いの場所になったということですね。

他ではないこの場所で

──では続いて、こちらのお店が出来るまでの経緯についてお聞かせいただけますか。

 

弓場:2017年にオーナーとしてスタートさせて、今年で8年目になります。一度お店作りにトライしてみたいという気持ちもありつつ、やはり大きかったのは僕自身マジックが好きでたまらないということと、奈良のマジックコミュニティを維持したいという想いがあったことです。

 学生時代に通っていたショップも次第に無くなっていくなかで、奈良にマジックが遊べる場所を!という願いを実現する場所として立ち上げたのが「しかのつの」になります。地元愛と言いますか、ここで開かなければという意思は強かったですね。

 ただ、道のりとしては決して楽なものではありませんでした。ジャッジとして様々なお店を見てきた経験はあったのですが、自分で運営するとなると手探り状態です。加えて、試行錯誤しているうちにコロナ禍も来てしまって……当時はかなり厳しかったですね。

──逆風の中で、それでもお店を続けたモチベーションはなんだったのでしょうか。

弓場:繰り返しにはなってしまいますがやはりマジックが好きだということ、それから奈良でのコミュニティを広げていきたいということの2点です。僕自身が大好きなマジックを、地元で一人でも多くの人に楽しんでもらうためにどうすればいいか、ということをずっと考えて取り組んできました。

 店名に「MTG専門店」を掲げているのも、とにかく純粋にマジックを遊べる場でありたいという気持ちの表れです。結果的に今でもお店を続けられていて、多くのお客様にお越しいただいていることには感謝しかありませんね。

──理念を持ってやり抜かれているのですね。ではティーチングマイスター取得のきっかけも、やはり「奈良でマジックを」という想いにあるのでしょうか。

弓場:その通りです。未経験の方がマジックをやってみたいと思った時に入り口として役立てるような、そんな活動が出来たらと考えて取得しました。

 

 例えば大阪まで足を延ばせば、マジックを扱うお店はたくさんあります。でもこの地域から出向こうとすると、移動だけで片道1時間近くかかってしまうんです。興味を持ち始めた段階の方にとって、この距離感はひとつのハードルになってしまうんじゃないかなと。

 マジックを遊んでいく第一歩としてこのお店に来ていただいて、気に入ったらぜひそのまま。もっとマッチしそうな場所があれば送り出していく。そんなイメージで活動していますね。

──確かに県内なら行ってみようかな、と思われる方はいらっしゃるかもしれません。そうしてお越しになった方にティーチングをする中で、やりがいを感じた瞬間があれば教えてください。

弓場:マジックについて熱く語っていい、というところがやりがいに直結している気がしますね。あまり押し付けがましくなっても良くないと思って普段はあまり語らないようにしているんですが、ティーチングに来てくださる方は皆、マジックに興味のある方ばかり。

 「このゲームはここが面白くて、ここが凄いんだ!」と溢れる思いをぶつけることができるというのはマイスターならではの喜びかもしれません。元々人にものを教えることは好きだったのですが、ティーチングマイスターは格別ですね。

──好きなことについて気兼ねなく語れる時間、実はとても貴重なものなのかもしれませんね。

居心地のいい「沼」を

──各地で大盛況の『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』。既に多種多様なイベントも開催されていますが、改めてこのコラボへの意気込みをお聞かせください。

弓場:僕もちょうどマジックに出会うまで、「FINAL FANTASY」「FINAL FANTASY VII」はプレイしていたんです。キャラクター達にも思い入れがあったので嬉しかった半面、「このキャラも入れてほしかった!」なんて思う場面もありましたが(笑)。

 コラボがきっかけでのご来店も何件もありましたし、中にはプレリリースに出場していかれた方もいらっしゃいました。これをきっかけにマジックの知名度が上がっていると嬉しいですね。ひとくちにカードゲームといっても様々なタイトルがありますが、「カードゲーム」ではなくて「マジック」として認知してもらうことが第一歩なのかなと考えています。

 MTGアリーナもある時代ですが、実際にカードを触って遊ぶ体験とはまた別物だと感じています。実物には実物の良さもありますから、アリーナで終わらず是非一度カードを手に取って遊んでみていただきたいですね。

──実物の良さ、と言いますと。

 

弓場:「不便さ」だと考えています。自分の手でカードをタップしたり、ダイスやカウンターを乗せたり、シャッフルしたり……アリーナでは全て自動で処理してくれる部分ではあるんですが、こういった手間こそが楽しさに繋がるんじゃないかなと。

 料理で考えると分かりやすいかもしれません。ただご飯を食べるだけなら冷凍食品をレンジでチンすれば十分ですが、自分で一から材料を切って焼くと一段美味しく感じたりするじゃないですか。不便は贅沢、不便は娯楽なんです。

──自分の手を動かす不便さ、それが楽しさに繋がるんですね。

弓場:カードの傷みやインクの匂い、フォイルの光り方などもデジタル化しきれない魅力です。これも実物で確かめてみていただきたいですね。

──では最後に、これからマジックを始めてみたい!という方へメッセージをお願いします。

弓場:「沼も浸かれば天然温泉」です。

──「沼も浸かれば天然温泉」……?

弓場:はい。マジックという沼、とても居心地がいいんですよ。僕自身ずっと好きで抜け出せずにいます。先日娘に「一番好きなゲームは何?」って聞かれたんですが、「マジックは今でも一生やりたい」なんて返してしまいました(笑)。

 なにより面白いですし、人脈が出来たり出会いがあったりといった効能もあります。少し踏み込めばどんどん沈んで行きますし、深く入り込めば入り込むほど楽しみも広がっていくので、是非一歩目に挑戦してみていただきたいと思っています。

──言い得て妙ですね。一緒にのぼせるまで浸かりましょう、と。

弓場:ええ。ゆっくり浸かっていただけるお店を目指して設備や備品にも気を使っています。軽食や飲み物もありますから、夜遅くまで心ゆくまで遊んでいただけますよ。

 心地よいマジックライフを送っていただけるようにお手伝いが出来ればと思っていますので、是非一度お気軽に立ち寄ってみてください!貸出デッキやリミテッドのイベントもありますので、手ぶらでのお越しも大歓迎です。

──最後までありがとうございました。


 

MTG専門店しかのつの
住所:〒630-8115 奈良県奈良市大宮町6-1-10松井ビル3階北
公式サイト:https://www.shikanotsunomtg.com/page/5

「MTG専門店しかのつの」は、ニコル・ボーラスチックな角の生えた鹿がトレードマークの奈良市のお店。かの東大寺から電車で一駅という立地上、度々観光客の方も来店されるとのこと。日本限定プロモを手にすべく、海外の方が「プレインズウォーカー・シリーズ」に参戦したこともあるのだとか。


過去の「あなたの街のティーチングマイスター」連載記事はこちらから

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