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企画記事
インタビュー:諸藤 拓馬 ~「楽しんで勝つ」マジック~
インタビュー:諸藤 拓馬 ~「楽しんで勝つ」マジック~
by 崎村 彗彦
皆さんこんにちは!そして初めまして!福岡の「カードゲームショップばぶるす」でカバレージライターを務めている崎村と申します。
まずは先日行われたグランプリ・神戸2015に参加された皆さん、お疲れ様でした! なんと本戦参加者2572人という、国内としては2番目に大きいグランプリとなり、国内外からの多数のプロも参戦し、非常に熱気のあった3日間でした。僕も参加していたのですが、改めて、今の日本のマジック人気の高さが伺えるグランプリでした。いやー、楽しかった、最高でした!
しかも!普段から「ばぶるす」にてマジックを楽しんでいる、諸藤 拓馬さんが「アタルカ・レッド」を駆り、2572人の頂点に立ったのです!
グランプリ・神戸2015チャンピオン 諸藤 拓馬 |
諸藤 拓馬とは?
諸藤さんは、地元の競技レベルの大会は必ずと言っていいほどトップ8にいる強豪です。僕もたまにフライデー・ナイト・マジックやグランプリ・トライアル等で対戦する機会があるのですが、毎回全く歯が立ちません...!
それもそのはず、日本のトーナメントシーンにおいて、彼は知る人ぞ知る強豪。過去には2005年の日本選手権優勝をはじめ、グランプリやオープントーナメントでのたくさんの入賞に加え、初めて参加したプロツアーである世界選手権2005では、日本を団体優勝に導くなどの伝説を残しているプレイヤーなのです。
世界選手権2005 日本代表チーム |
その他、多数のグランプリ入賞やプロツアー予選(PTQ)突破などを果たしており、「自分の《梅澤の十手》が対消滅したけど勝った(※当時のルール)」「引きたいカードを予言してそのままめくって勝った」など、様々な逸話を持つプレイヤーでもあります。そして今回のグランプリ制覇により、その経歴に新たな1ページが加わることになりました。
これらの実績があるにも関わらず、意外にも今まで彼の実力について語られることは多くありませんでした。そこで、今回のグランプリ優勝を機に、諸藤さんが培ってきた実力、愛される理由、そして何より、マジックを楽しむ秘訣について、密着取材をしてきました!
拙い文章ですが、最後まで楽しんでいただけたら幸いです。
......グランプリ後、福岡のとある焼鳥屋にて。
――まずは、優勝おめでとうございます。トップ8からは最後まですごくドキドキして見てました!
諸藤「ありがとう!ほんとに皆さんのおかげです!」
――今回が実に10年ぶりのタイトルだそうですが、非常に長い期間、マジックを楽しんでいるんですね。
諸藤「確か最初に始めたのが中3の冬ぐらい、だいたい『第4版』が発売したあたりだったかな。間が空いたりしてるから多分トータルでは10年くらいやと思うよ。友達の家で初めてやったのが面白くて、その頃から日本選手権やオープントーナメントに良く参加していたよ。」
諸藤「それから少し休止期間に入って、復帰したのは2010年ごろ、平島君(※1)が『ジャンド』を使って活躍しているのを見てからやね。同じ時期に復帰した友村君(現ばぶるすオーナー)や、その時に仲良くなった青木君たちと一緒に、またグランプリ回るようになった。最近はお店を通じて友達も増えたから、楽しく回れてるよ。」
楽しみながらゲームをやるために
――諸藤さんといえば、いつもマジックを楽しそうにプレイされていますね。今大会でもずっと笑顔だったのが印象的でした。
諸藤「今回もたくさんいいゲームできたし、優勝もできたからめっちゃ楽しかったよ。知らない人とのコミュニケーションも含め、自分の中ではずっとマジックは『ゲーム』だと思ってて、楽しくプレイせんと損やと思うんよ。」
――楽しくプレイ、ですか。でも、こういう大きい大会だと緊張で結構ピリピリしたりもすると思うんですが......
諸藤「大舞台になっても、ずっと『ただのゲーム』と思ってやってるから、あんまり緊張するってことはなかったね。自分の中ではそれが当たり前になってるから、あんまり気の利いたアドバイスなんかはできんね(笑)。」
――なるほど。では、そういったゲーム、つまりマジックを楽しむ上で大事にしている事とかあるでしょうか?
諸藤「(友人を見ながら)試合前に一緒にトイレに行くことかな。」
――毎回必ずやっているんですか? ルーティン的な?
諸藤「そうそう、ルーティン的な。こっちはゲームに集中するためのゲン担ぎみたいなもんやね。あと、相手には必ず『どこから来たんですか?』みたいに声をかけるようにしとるよ。相手も緊張の無い状態でできるだけ楽しくゲームしたいし、ピリピリしてもしょうがないしね(笑)。」
――なるほど(笑)。グランプリの初戦など、緊張してしまう場面ではそういったゲン担ぎや心配りも大事かもしれませんね。実際その方が楽しいですしね!
仲間とともに楽しむマジックを
――「PTQ突破多数」とありますが、実はプロツアーには全然行かなかったと聞いたんですが。その話、本当ですか?
諸藤「うーん。ちょくちょくグランプリや日本選手権に参加したり、いくつか勝って海外プロツアーの権利取ったりしたけど、どれも行かなかったね。」
――ええ!参加人数が今より少ないとはいえ、当時もプロツアーの権利は貴重なはずですが...
諸藤「飛行機が苦手、っていうのもあるけど、友達と遠征に行くことが何よりも楽しくて、1人では行く気は全くなかったんよね。当時の日本選手権とかも自分だけ権利取って1人で行ってたりしたけど、結構辛かった部分があったね。あ!でもホノルルは飛行機我慢して行ったけど普通にバカンスって感じで楽しかったよ。日本語通じるし(笑)。」
――(笑)。確かに話せる仲間がいると、楽しいですもんね。
諸藤「うん、一緒に旅行をする、って意味合いもあるから、遠征は基本的に毎回誰かとじゃないと行かないね。ここ最近はお店を通じて友達もできたし、一緒にグランプリに出る、って言ってくれる人も多いからいつも楽しいね!」
諸藤にとっての楽しいマジックには、仲間たちが欠かせない。 |
仲間との練習
――今回はどのような経緯で、最終的に「アタルカ・レッド」というデッキに行き着いたんですか?
諸藤「毎回スタンダードのグランプリに出るときは、まず環境にあるデッキを全部回すところから始めてるね。今回だと『アブザン・アグロ』『ダーク・ジェスカイ』『エスパー・トークン』『アタルカ・レッド』『エルドラージ・ランプ』『赤緑上陸』『エスパー・ドラゴン』と、若干コントロールに寄せた『アブザン』も試したね。グランプリ前週の金曜ぐらいに、みんなで集まってひたすら回して、それぞれの対戦表を作った。本当はオリジナルデッキも作りたかったけど、今回は時間が無くて諦めたよ(苦笑)。」
――なるほど! こうしてデータにしてみると、確かに「アタルカ・レッド」の勝率が良いですね。
諸藤「もちろん完璧なデータではないかもしれんけど、少なくともトップメタだろう『アブザン・アグロ』には勝てないと話にならない、ってことで幾つかに絞ったんよ。なら、一番勝率が高かった『アタルカ・レッド』が強いんじゃないか?って話になって。
その週末、グランプリ・トライアルにまっしー(※2)と75枚デッキシェアして出たら1・2フィニッシュしちゃって。2人とも普段コントロールばっか使ってるのにゲームもほとんど落とさず勝っちゃったから、これは本当に強いデッキなんやって自信を持って本戦に持ちこむことができた。」
――ここまでの調整は完璧だったんですね。ただ、その直後グランプリ・ブリュッセル2015(リンク先は英語)で「《先祖の結集》」デッキが結果を出しました。表に載っていないですけど、これ、結構相性悪いんじゃないですか?
諸藤「うん、対戦してはみたけど、めっちゃ相性が悪くて勝てんかったんよ。でも、直前に出てきたデッキだし、『そんなに持ちこむ人もおらんやろー!』って予想して、当たらないことを前提に行ったらやっぱり当たんなくてさ! 予想通り『アブザン・アグロ』と、2日目はエスパーとばっか当たりよったね。」
――よく「『アブザン・アグロ』は全てのデッキに有利」って言われていましたが、『アブザン・アグロ』を使う、というのは選択肢になかったんですか?
諸藤「うん。もちろん『アブザン・アグロ』を使う選択肢もあったけど、決定的だったのはグランプリ・ブリュッセル2015での採用カードの変化やね。アタルカ・レッドは《搭載歩行機械》入り『アブザン・アグロ』に対して若干不利なんだけど、みんなが同型を意識して《荒野の後継者》を入れたり、サイドボードから《アラシンの僧侶》が抜けて《自傷疵》になってたりね。結局、立ち位置的にはすごい良いところにいるなって感じてたよ。」
――なるほど。そういった理由で、メタゲーム全体がアタルカ・レッドにとって追い風だったんですね。よくわかりました!
いざ本戦へ
――実際に、本戦はチームの皆さんとデッキシェアされたわけですが。
諸藤「うん、自分からデッキシェアしよう、って言ったわけじゃないけど、やっぱり勝つならみんなで勝つ方が楽しいけんね。友村君や濱君(※3)をはじめ、お店によく遊びに来てくれる人たちも結構シェアするって言ってくれたから、今回は気合入れてサイドインアウトのデータも作ったよ。前日トライアルの時にも取りたいカードが出てきて、最後まで悩んだけどね。」
――ほんとにギリギリまで調整してたんですね。枚数までこんなに詳細に!
諸藤「実際は相手の構成によって違うから細かい部分は感覚に任せてるけどね(笑)結構みんな調子よくてたくさんバブルマッチまで行ったんだけど、そこで相性の悪いデッキに当たって負けちゃった人も多くて。みんなで2日目残りたかったんやけどね...。」
――それでも、2日目のマッチでは、いつも通り戦う諸藤さんの姿が印象的でした。
諸藤「他のデッキを使ってるチームのメンバーも何人か2日目に残ったしね。初日負けちゃったみんなも残って応援してくれたし、頑張ったよ。トップ8に残った時もみんなすごく喜んでくれたしね。」
――そうですね。そして最後は、最高の形でみんなと喜びを分かち合うことになりました。
諸藤「今でも本当に感謝しています。練習に付き合ってくれたみんなや、みんなを誘ってくれた青木君、優勝して一緒に喜んでくれた福岡の皆さん、本当にありがとね」
チームばぶるす
――僕が聞くのもなんですけど、「チームばぶるす」ってどんなチームだと思いますか?
諸藤「チーム、って感じじゃなく、あくまでお店で知り合い、一緒にグランプリに参加する"仲間"って感じやね。俺も一時期マジックやめてて、復帰してからもMagic Onlineや身内だけで遊んでたこともあったけど、ばぶるすができてからは遊びに行くことが増えて、お店を通じて知り合った人たちとの交流が楽しいからやってる感じかな。」
――環境の変化が、意識の変化につながったわけですね。
諸藤「うん。単純にMOだけじゃなくリアルのマジックがしたいってのもあったけど、お店でみんなでワイワイできるからかな。1人でやってもつまんないしね(笑)。」
――そう聞くとチームって、学校の部活みたいですね。活動をする上で、大事なことって何かありますか?
諸藤「そやね。あまりかっちりしたのが得意じゃないけん、自分はチームで何かするってのは向いてないと思うんやけど、コミュニティでデッキや情報のシェアは、たくさんした方がいいと思うね。対戦データが多ければ多いほど、単純に勝ちやすくなるのはもちろん、さっき言ったサイドボードのインアウトなんかも自信を持って進められる。何より、最終的に1対1でしかないこのゲームにおいて、背中を押してくれる人間がいるのはとっても心強いことだと思うよ。」
――コミュニティを作り、たくさん情報交換をすること、ですね。
諸藤「なかなかコミュニティを建設するのは大変やと思うけど、まずはお店に足を運ぶことやろうね。そういったコミュニティを牽引していくのは往々にして上手いプレイヤーだと思うから、お店の上手いプレイヤーの方、日本のトッププロの皆さんにはぜひ頑張って牽引していってほしいです!」
おわりに
――今後、プロツアーシーンで再び諸藤さんを見る機会が増えそうですね!
諸藤「とりあえず次のアトランタには行くつもりやけど、地元の大会を盛り上げることが一番やね。4月に行われるオープン戦はもちろん、これからもちょくちょくフライデー(・ナイト・マジック)なんかの大会にも出るつもりやし、お手柔らかにお願いします。あと、やっぱりホノルルは行きたいね(笑)。」
――最後に、皆さんに強くなるためのアドバイスがあればお願いします。
諸藤「特にこれ、ってのはないけど、さっき言ったようにメタゲームを見てどれが強い、強くなりそうか、みたいなのを考えるようにすれば勝てるようになるよ。毎回対戦表作ってやるのはしんどいけど、どの大会で何が勝って何が負けたー、っていうのは重要やけん。あとは何より、友達と一緒に楽しむことやね!」
――ありがとうございました!
仲間とともに始め、そして今も変わらず仲間とともにゲームをプレイしている諸藤さん。地元にマジックを楽しめるお店ができたことは、彼や周りの人間にとって大きなものだったようです。
印象的だったのはインタビュー中、特にゲームやコミュニティの話になると、子供のような笑顔を見せて思いを語ってくれたことです。グランプリ後で疲れているにも関わらず、終始「何でも聞いてくれ」と筆者を気遣ってくれたのも印象的でした。こうした要素も、彼が多くのプレイヤーに愛される理由の1つなのだと思います。
チームばぶるすにとって、このような最高の形でグランプリ・神戸2015は幕を閉じたわけですが、これも全て運営していただいたジャッジの方々や、主催のBIG MAGICのスタッフの皆様のおかげだと思います。本当にいつも楽しいグランプリを提供していただいてありがとうございます!
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました!
※1 平島 佑太郎......冷静かつ紳士な福岡の強豪。コントロールデッキのプレイングには定評がある。主な戦績は、The Finals2008 ベスト4等。
※2 まっしー(真島)...福岡で精力的に活動している若手プレイヤー。プロツアー『戦乱のゼンディカー』出場。変なコントロールデッキには定評がある。
※3 濱...ばぶるすの名物店長。面倒見がよく、彼目当てで店に来るお客も多い。猫好き。
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