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企画記事
理想の職場!? ホビージャパン 一戸健史氏インタビュー!
理想の職場!? ホビージャパン 一戸健史氏インタビュー!
by 金子 真実(WotC 日本コミュニティ担当)
皆さんは「ホビージャパン ゲーム開発課」をご存知だろうか?
様々なホビーを取り扱い、マジックプレイヤーに馴染み深い「マナバーン」「公式ハンドブック」などを出版するホビージャパン。
そのうちの「ゲーム開発課」には八十岡翔太や浅原晃、大礒正嗣、藤田憲一、森田雅彦、大塚高太郎、和田寛也といった、現役・過去のトッププレイヤーが多数所属している。「時の人」でもあるプロツアー『戦乱のゼンディカー』チャンピオン、瀧村和幸もまたこの課の所属だ。
プロツアー。グランプリ。ニコニコ生放送の実況。様々な形でマジックと関わっているトッププレイヤーたち。だが、プロツアーに出場するには1週間ほど会社を休まなくてはならない。コンスタントに参加し、さらに海外のグランプリに出場する彼らにはなおさらだ。では、そんな彼らは、会社でどのように働いているのだろうか?
今回、プレイヤーたちの生活の裏側に迫るべく、この「ホビージャパン ゲーム開発課」の課長でもあり、さらにゲーム事業部自体を統括する部長でもある、一戸健史氏にインタビューを実施した。どのようにしてこの職場ができあがり、そしてどうしてマジックプレイヤーが集まってくるのか?その秘密に迫っていこう。
一戸氏とマジックの関わり
――まずは、一戸さんがどういった仕事をしているのか教えていただけますか?
一戸「現在、ゲーム事業部の部長とゲーム開発課の課長を兼任しています。やっている仕事は主に個々の業務管理、イベントのプラニングと実施、それと他社との折衝なんかですね。」
――ありがとうございます。いきなりですけど、一戸さんは、過去マジックの黎明期に深く関わってらっしゃったとか。いつ頃からマジックを始めたんですか?
一戸「『リバイズド』が出たころですね。その後、渋谷にDCIトーナメントセンターができて、最初は普通に一般の客として行っていました。そこからホビージャパンに入った感じです。」
――当時、マジックとはがっつり関わっていたんですか?
一戸「当時はレベル3ジャッジでしたしね。2000年までは、世界選手権にもジャッジとして参加しています。2001年のトロントの世界選手権からは当時の『ゲームぎゃざ』編集部に異動していたので、取材しに参加していました。」
――編集部に異動したあとはどういったお仕事を?
一戸「編集部に異動したあとは、『ゲームぎゃざ』の編集からスタートして、3年目くらいから編集長になりました。......そうそう、『マナバーン』を創刊したのは私です。あれに関しては、生みの親と言っても過言ではないでしょう(笑)。他にも、公式ハンドブックの編集とか、マジックカード辞典とか作っていました。」
――ありがとうございます、今も雑誌を楽しませていただいています。
一戸「結局2010年まで、10年くらい編集部に籍はありましたね。その後、ゲーム開発課を立ち上げることになります。」
ホビージャパン ゲーム開発課の立ち上げ
――ゲーム開発課はどんなスタートを切ったんですか?
一戸「最初は『ゲーム開発準備室』って名前だったかな。4人からのスタートでした。」
――4人!? たった4人からスタートしたんですね?
一戸「そうですね。最初のメンバーは私と景山太郎(※2000年前後の強豪チーム「チームジョン」のリーダー。)と浅原、そこに八十岡を加えた4名でした。」
――なるほど、どうしてその4人が?
一戸「最初は将来的にゲームを開発すること前提で、景山と浅原を編集部に引き入れました。編集部にいたころは景山には編集の仕事も割り当てていましたが、浅原はけっこう暇だったはずです(笑)。」
――浅原さん、暇してたんですか?
一戸「このときはかなり暇してましたね(笑)。編集部に席はありましたが、MagicOnlineばっかりしてました。あとはお茶汲みとか(笑)。」
――そういえば今日もお茶を持ってきていただきましたね(笑) 最後の八十岡さんは?
一戸「さすがに3人じゃ足りないので、もう1人誰を入れるか検討したんですよね。それで浅原をリクルーターに指名したんですよ(笑)。そしたら誰を引っ張ってくるかリストアップしてくれたんですけど、『まずはプレイヤー・オブ・ザ・イヤーだろ』と(笑)。で、そこから八十岡に声をかけました。」
――浅原さんがご自身で「俺はホビージャパンのリクルーター」なんて言ってましたが、本当だったんですね(笑)
一戸「そうですね、初期のころはほとんど浅原の紹介ってパターンだったと思います。」
――それにしても、最初の4人は本当にすぐにでもゲームが始まりそうなメンバーですね。
一戸「ゲーム開発準備室のころは、商品研究という名目で、お昼に集まって夜までゲームしてましたね、実際(笑)」
――そういったいわゆる「ゲーマー」のメンバーを集めたのは、そういった人がゲーム開発に一番向いていると思ったからですか?
一戸「実のところ、最初はよくわからなかったんですよね、どういう人材を集めるべきか。私もアナログゲームの制作に携わったことがあったわけじゃなかったので。景山と浅原を最初に誘ったのも単純に昔からの知り合いだったという点が一番で、なんとなくゲーム制作に適している気がしたからです(笑) でも、結果としては正解だったのかなと。今も続いていますし。」
――最初はわからなかったのですね。
一戸「そう、ゲームを作ることがどれくらい大変かもわかってなかったんですよね。正直最初は『1回作ったら、次のリリースまでの2、3ヶ月とか休めるんじゃ!?』なんて言ってましたが、実際は全然そんなことはありませんでした(笑)」
――実際は忙しかったと(笑)
一戸「少しずつ人数は増やしていったんですけど、とにかく出張が多くて忙しかったですね。今では30名を超え、だいぶ楽にはなりましたけど。」
――30人以上!増えましたね。
一戸「開発だけじゃなく、営業や事務局を担当する人も入ってきて、どんどん大きくなっていきましたね。」
ホビージャパン ゲーム開発課の環境
――ゲーム開発課が立ち上がって、動き始めて、人も多くなってきて、皆さんどのような形で働いているのですか?
一戸「ひとことでいうと、まぁ『ユルい』です(笑)」
――ユルい、ですか?
一戸「まず、うちの課は出社時間がユルいんですよね。最初のメンバーが編集部の流れをくんでいることもあって。一般的に編集部って結構出社も自由だったりするじゃないですか? うちも同じように、結構好きに来て好きに帰るスタイルを取っています。浅原なんか、夕方来てすぐ打ち合わせに行ったかと思ったら、そのまま帰ってこなかったりしますね(笑)」
――それは確かにユルいですね(笑) でも、それでも大丈夫なんですか?
一戸「まあ、彼らも自分たちの仕事をしていないわけではないですからね。成果物がちゃんと出る分には、自由に働ける範囲で働いてくれれば良いと思っています。メリットに思っているというよりも、このスタイルを特にデメリットには感じていない、というところですね。」
――そのへんが、いわゆる「プロツアー休み」が問題ない理由ですかね?実際、浅原さんには多大なご協力を頂いていますし、八十岡さんをはじめプロツアー継続参戦組もがっつり一週間休むわけですが。
一戸「そうですね、これも、ちゃんと各自がコントロールして自分の仕事に問題がなければ、特に反対しません。プロツアーのスケジュール自体はだいぶ先まで決まってますし、そのスケジュールに問題なければ好きに遊んでもらってます。」
――でも確かに、そういった形で自身をコントロールできなければ、「プロツアーで一週間休みます!」なんて通らないですよね。
一戸「自社のイベントと被ってる時には、相談に来たりしますしね。もちろんどうしても無理な場合もありますが、基本的には『代わりの人が居るなら大丈夫』ということが多いですね。」
――それは寛容ですね......!
一戸「なんだかんだ、みんな真面目ですからね。やるべき仕事はちゃんとやってくれているので、休みを取ってもらうことに関しては特に問題は感じないですね。むしろ、自分たちでイベントをやってるし、開発もしているわけなので、他社のイベントに参加してくるというのは、実際に仕事につながってくるんですよね。」
――なるほど、仕事につながるなら、有意義ですね。
一戸「製品開発に限らず、他社の研究って重要ではありますからね。」
――実際、プロツアーにはみんな行きたがりますか?
一戸「やっぱり、プロツアーは別格なんでしょうね。『幕張は遠いから』とグランプリ・千葉2015に出場しなかった大礒が、『ミルウォーキー(プロツアー『戦乱のゼンディカー開催地)に行ってきます』って言うので、思わず突っ込んじゃいましたよ、『ミルウォーキーって幕張より近いのか?』って(笑)」
――そういったスケジュールについても、調整できているなら問題なし、と。
一戸「そうですね、仕事に大きな影響がなければ。とはいえ、みんな会社でもゲームやってたりするわけですが......(笑)。」
――会社に来ても!?
一戸「まあ、研究って意味ではそれも仕事ではありますからね。遊んでいるといえば遊んでるんでしょうけど。そのあたりの線引きは難しいですが、結果的に仕事につながっていると判断できるなら、そこは気にしないです。」
――本当に自由なんですね。
一戸「まぁ、そうかもですね(笑)。」
社内でのマジックニュース
――そういえば、先日瀧村さんがプロツアー優勝しましたが、社内では話題になりました?
一戸「すごく驚きましたし、盛り上がりましたよ(笑)。プロツアー優勝ですからね。部署を超えて、全社的にも話題になりました。ゲーム開発課以外にもマジックプレイヤーは多いので。」
――驚きが大きかったですか?
一戸「そうですね。実際、瀧村の実力って知らなかったんですよ。他のマジックプレイヤーも一流の人が多いし、瀧村は練習で1勝11敗したとかの話題もありましたから、正直驚きました。」
――なるほど。
一戸「でも、彼が入ったのはわりと最近なんですが、開発中のゲームのデバッグをやってもらったら、そこの上の人間が『瀧村さん、けっこうすごいですね!』って絶賛してたから、きっとそういうことなんだと思います。」
――なるほど、そういったところで評価されていたんですね。ちなみに、プロツアー優勝で昇給はありますか?(笑)
一戸「いや、それは無いですね(笑)。でも、社内でのマジックヒエラルキーは上がりましたよ。さすがにプロツアー優勝ですからね。うちの連中、準優勝やベスト8だと逆に叩きますから。最近だと八十岡がプロツアーで準優勝したときも、何事もなかった感じでしたね(笑)」
――プロツアー準優勝でも厳しいんですね!八十岡さんといえば、今年殿堂入りしましたが、そちらはどうだったんですか?
一戸「どうなんですかね、盛り上がったようなそうでもないような(笑)。というか、私も含めてうちの連中は、八十岡はいつか入るとみんな思っていたので、『お〜、入ったのか』くらいだったかもです。ちなみに大礒のときもあまり盛り上がった記憶はないです(笑)。」
――殿堂になると信じていた、と(笑)。
一戸「よく言えばそうですね(笑)。」
理想の職場
――最後に一戸さんにお尋ねしたいのですが、一戸さんにとって理想の職場ってどんな職場ですか?
一戸「理想の職場......難しいですね(笑)。でも、現状の職場で満足しているので、今の職場が理想といえば理想ですかね。最初に4人で始めたって言いましたけど、その2010年から、1人も辞めてないんですよね。」
――えっ、1人も、ですか?
一戸「そうですね、誰も辞めてないですね。」
――それは本当にすごいですね。仕事が楽しいのもそうなんでしょうし、職場の人間関係も良好なんでしょうね。
一戸「良好なのかな?(笑) ともあれ、そういう意味では理想の職場に近いのかもしれません。」
――自由な働き方も、そのあたりに貢献しているのかもしれませんね。
一戸「そうですね、ゲーム開発でのノウハウを積み上げるという意味でも、ずっと続けてくれるというのは大きなメリットです。」
――マジックプレイヤーを雇用するメリットをお話していただきましたが、それとは別に、所属しているマジックプレイヤーへの応援・サポートという考えはありますか?
一戸「会社としては、って言われると難しいですけど、私個人としては、やはり所属しているメンバーが勝つとうれしいですし、参加するからには勝ってほしいと思っています。」
――親心ですね(笑) 今日はありがとうございました。
終わりに
「この世の中に、こんなにゲーマーにとって天国な職場があるなんて!」
インタビューを終えた私の率直な感想だ。
離職者ゼロ。自由な働き方。休暇の取りやすさ。ここまで、自身の趣味に対して理解のある職場というのも珍しいのではないだろうか? もちろん、この天国は、所属している方がそれぞれきっちり自分の仕事をこなしているからこそ認められている天国なのだろう。
冒頭に書いた通り、多くのマジックプレイヤーが所属している「ホビージャパン ゲーム開発課」。その多くが、プロツアーへの参加や解説など、様々な形でマジックに深く関わっている。その背景には、これだけマジックプレイヤーをサポートしてくれる、すばらしい職場があった。そしてその職場は、この部署の立ち上げから関わり、作ってきた一戸氏の想いによってできているのだ。
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