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企画記事
市川ユウキのプロツアー『マジック2015』レポート 大会レポート編
市川ユウキのプロツアー『マジック2015』レポート 大会レポート編
by 市川ユウキ
0.前置きと目標
さて、デッキ調整録編に続いて今回は大会レポート編です。
今回使用したデッキとその解説については、前回の「デッキ調整録編」をお読みください。
私は今回のプロツアーでは一つの目標を掲げていました。
それは、100位以内に入賞しプロポイントを上乗せ1点、今期のプロポイント累計を「35点以上」にしてプロプレイヤーズクラブ・ゴールドレベルを獲得することです。
プロプレイヤーズクラブについてわからない方に説明しますと、シーズン中に獲得したプロポイントの累計で、次のシーズンで得られる特典が変わってくるというシステムです。
プロポイントはグランプリで優勝すると8点、プロツアートップ8で20点以上、などプレミアイベントで好成績を残すと賞金などと付随して加算されていきます。
レベルに応じて様々な特典がありますが、例えば今回私が目指している「ゴールドレベル」は、以下の3つの特典が得られます。
- 次のシーズンの全てのプロツアーの参加権利
- プロツアーの航空券
- グランプリの3bye(1~3回戦の不戦勝)
競技マジックを始めて以来、プロツアーへの継続出場を目標としている私としては、プロプレイヤーズクラブ・ゴールドレベルを得ることは一つの夢と言っても差支えないでしょう。
これは前回のプロツアー『ニクスへの旅』でトップ4と言う望外な成績を残しプロポイントを大量に得たから目指せるものであって、そう毎回目指せるわけではありません。
しかも、今回のプロツアーが2013-2014年シーズンの最後のイベント、ここでプロポイントを上乗せしないと、これまで溜めたプロポイントも水泡に帰すると言うわけです。まさに背水の陣。
1.旅路
プロツアーは金曜日から開催されますので、最低でも木曜日には現地に居なければなりません。今回は直行便があり、乗り継ぎミスなどによって遅延することもないので、素直に木曜発、木曜着の便を手配してもらいました。
今回のプロツアー『マジック2015』が開催される地はアメリカのポートランド。正直あまり地理に詳しくはありませんが、前回のアトランタと違って西海岸にあるらしく、9時間のフライトで済むのは高評価。前回は13時間でしたからね!
ですが比較的短いと言っても、9時間はやはり長旅。ノートパソコンでも開いて時間でも潰そうかなと、電源を付けた矢先に隣の席の人がこちらに身を乗り出し、
「ワオ!キミもマジックプレイヤーなのかい?!」
と、まさかの行きの飛行機でマジックプレイヤーと遭遇。どうもデスクトップにあるMagic Onlineのアイコンが見えたようです。
なんかこの子見たことあるなあ......思い出した! 3月にあったグランプリ・北京で渡辺雄也プロと決勝戦を戦ったSherwin Puだ!
話を聞いていると出身は台湾のようですが、今はアメリカに住んでいるとのことで英語がペラペラでした。凄い!
筆者は語学力が全くなく、英語も全然できないのですが、そんな私に配慮してゆっくり話し掛けてくれて、プロツアーはどういうデッキで行くかとか、どういうデッキが多いだろうとか、ドラフトはどういう感想かなどのマジック談義で話が盛り上がり、非常に楽しいフライトになりました。
また、フライト中に足元に放り投げた筆者のサンダルが片方なくなると言う珍事にも笑いながら一緒に探してくれました。後ろの席の人に英語で聞いてくれたり。
カバレッジでは真剣勝負からか顔が強張っているように見えますが、実際会ったら笑顔が可愛い好青年でしたよ!
そんなこんなしているとポートランドに到着。入国審査もササっと済ませ、ホテルにチェックイン。
荷物を置いたらロビーで他の日本人プレイヤーと集まって最後の調整。
『基本セット2015』のコモンカードを広げて、各色どれが一番点数的に高いか、じゃあアンコモンも入れてみたらどの辺りに位置するかなどのドラフトピック談義。
また、デッキを一緒に調整した山本賢太郎プロや、デッキをシェアした杉山さん(グランプリ・名古屋2014 トップ8)と今回使うデッキのサイドイン・アウトやゲームプランの共有など、前日と言ってもやれることはたくさんあります。
ホテルの近くには、サブウェイとピザが出てくるのがひっじょ~に遅いピザ屋しかご飯が食べれるところがありませんでした......。消去法で毎日サブウェイを貪る日々。
2.初日・ファーストドラフト
と、いうことでいよいよ本番です。
今回のプロツアー、ひとつ大きな心配がありました。そう、このドラフトラウンドです。
関東で強豪がこぞって集まるドラフト合宿、通称「菊名合宿」に前回に続いて参加させていただいたのですが、今回は全く要領が得られず、どうやったら勝てるかなどが自分の中で全く噛み砕けませんでした。10回以上練習しましたが1回も3-0したことがなく、それはGP台北を経ても変わりませんでした。正直、不安ばかり募って行きます。
そして、その不安は的中。レアは運よく入っていますが、まとまりのない緑白を組み上げてしまって最初から2連敗。しかも、どちらもミスが絡む敗戦で心もズタズタです。
ドラフトの最終ラウンドは下家のマテイ・ザトルカイ/Matej Zatlkaj。
どうも1パック目で私が流した《陽刃のエルフ》から緑白に一直線だったようで、まさかの緑白ミラーマッチ。お互いに攻め手のない典型的なダメデッキでしたが、私の方がレア分強く何とか辛勝。
練習通りの1勝2敗でしたが、何とか踏みとどまったかなと言ったところ。2日目に望みを繋ぐためにスタンダードでは1勝でも多く勝ちを重ねたいところです。
3.初日・スタンダード
構築ラウンド初戦の相手は青単信心でした。メインの相性はかなり悪いのですが、1ターン目《思考囲い》で相手のハンドを見たらなんと土地1枚でのキープ。これは1マナ域を落として相手がもたついてくれればメイン取れるか!と思っていたら相手は3連続土地ドローの剛腕、逆に私は初手の2枚で土地が止まって敗戦......。
心もバキバキで、「今、目の前にどこ○もドアが出て来たら俺日本帰るんだけど......。」とか思いながらサイドボードをしていましたが、サイド後は《霧裂きのハイドラ》がハンドに複数寄って来たり、《凍結燃焼の奇魔》を《マグマのしぶき》で除去できたりと、相手の動きと自分の動きが噛み合って何とか勝利!
次の対戦相手は青白コントロールを使用するイヴァン・フロック/Ivan Flock。《次元の浄化》を打ち込んで来たあたりどうも《拘留の宝球》などは入っていないようで、守ることに長けたヘビーコントロール型のようです。
1ゲーム目はクリーチャー除去呪文などの無駄牌を複数引いてしまい敗戦。
2ゲーム目は先手3ターン目にキャストした《紅蓮の達人チャンドラ》の[0]起動がドンドン有効牌を連れて来て勝利。
3ゲーム目は《変わり谷》を含む土地4枚、《エルフの神秘家》、《霧裂きのハイドラ》、《ラクドスの復活》とまさに絶好なハンドをキープ!対して相手はワンマリガン、これは勝負あったか!?
と、思ったら初手から4ドローが全て土地。
相手の動きも芳しくなく、《ラクドスの復活》で相手のハンドを全て叩き落としたのは良かったのですが、《太陽の勇者、エルズペス》のトークンと遊んでいる間に《スフィンクスの啓示》の3枚目をトップデックされて敗戦・・・・。
この時点で2勝3敗です。目標の100位以内を目指すにあたり、2日目のドラフトで期待できないことを加味すると、もうスタンダードでは負けられないなぁ......と思っていると、周りの日本人プレイヤーからこう一言。
「市川君、前回も2勝3敗から10連勝してトップ8入ったじゃん! キミこっからでしょ!」
そ......
そ............
そうか!!
と、思ったかは記憶にはございませんが、そこから息を吹き返しなんとか3連勝。
赤単タッチ白アグロを扱うジョシュ・アター=レイトン/Josh Utter-Leytonに対して、2枚目の《漁る軟泥》を引かなければ負けというところでトップデックしたりしてドローも完全に復調、トータル5勝3敗で2日目に望みを繋ぐことに。
晩御飯はピザが出てくるのが遅いピザ屋で。日本人全体を通しても1敗以上のラインに誰もいないようで、
「この流れは日本人惨敗だったプロツアー『神々の軍勢』を思い出す......!」
と、出場していたプレイヤーから話を聞きながら、ピザを頬張っていました。
4.2日目・ドラフト
さて、2日目です。
初日を3連勝で終えた私のモチベーションはかなり高く、
「構築デッキは強い、ドラフトさえ3-0できればトップ8だってあり得る、ドラフト・・・ドラフト・・・!」
と念仏のように唱えていました。
ピックは初手《貪る光》から。環境の除去の弱さを考えると初手で文句ないカードでしょう。
2手目は色が噛み合えばレア並の効果を発揮する《密林の酋長》で、赤緑にピックをややシフト。緑は流れてくるのですが、あまり赤の流れが良くなく、不穏な空気。
......と、思っていたらなんと、12手目で『基本セット2015』の低マナ界では1、2を争うグッドコモン《天麗のペガサス》が! これで白緑にシフトし、レアも噛み合って(3パック目2手目で《不動のアジャニ》が!) 練習でも今までできたことがない強力デッキが完成。
結果は初戦で取らなくて良いリスクを取ったプレイをしてしまって1ゲーム目を落としたものの、それ以外は流石にデッキが強く、危なげなく勝利して3連勝。
ん......? 2勝3敗から連勝街道......? この流れどこかで......?
5.2日目・スタンダード
12回戦 黒単信心 ○×○ Eduardo dos Sa Vieira
13回戦 青単信心 ○×○ Christian Seibold
14回戦 緑赤信心 ×○○ Tzu-Ching Kuo
15回戦 黒白ミッドレンジ ○○ William Jensen
16回戦 黒白ミッドレンジ ○○ Jon Finkel
......。
............!!!
........................!!!!!
う、うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
2大会連続トップ8だあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!
正直集中し過ぎていてあまり覚えていないのですが、
3ゲーム全てで2ターン目《群れネズミ》をして来て「あれ? これハイドラ・チャレンジデッキだっけ?」みたいな感想を抱きながら全力で群れてくるネズミとライフレースした黒単信心戦や、
青単信心相手に《霧裂きのハイドラ》をX=4で2連打したにも関わらず相手の《夜帷の死霊》にこちらのライブラリーから《変わり谷》、《変わり谷》、《ミジウムの迫撃砲》と捲られてまさかの敗戦をしたり、(試合動画)
緑赤信心に先手1ターン《エルフの神秘家》→2ターン《旅するサテュロス》→3ターン《炎樹族の使者》経由からの《ニクスの祭殿、ニクソス》、計7マナで《世界を喰らう者、ポルクラノス》がX=1でこちらの《エルフの神秘家》を叩き落としながら出て来たり、
15回戦は今期絶好調のWilliam Jensen(何と今期グランプリトップ8に8回!)とマッチング。
どうもその好調ぶりはプロツアーでも健在、このラウンド開始時点で未だ2敗で、既にトップ8を確定させていました。
試合の詳細はカバレッジを取っていただいたのでそちらで。
観戦記事・第15回戦:市川ユウキ(日本) vs. William Jensen(アメリカ)
どちらのゲームも接戦でしたが、良いタイミングで《歓楽者ゼナゴス》が駆けつけてくれて勝利することができたり、
全て辛勝ながら勝利を重ねて次ID(合意の上の引き分け)で2連続トップ8だ!と思っていたらアメリカの英雄と下当たりして、IDできずにガチったり、(試合動画)
と、トップ8までは本当に苦難の道でしたが、終わり良ければ全て良し、全ては良い思い出です。
0-2ラインで当たったマテイ・ザトルカイ/Matej Zatlkajはトップ8が決まったあと
「ユウキ、0-2ラインからトップ8入ったのかよ!!すごいな!!おめでとう!!」
とハイタッチして来てくれました、良い奴!
6.シングルエリミネーションと祭りの終わり
準々決勝 緑白アグロ ×○× ジャクソン・カニングハム/Jackson Cunningham
準々決勝の緑白アグロ戦は相手の手数の多さを前に受けきれず、コロっと負けてしまいました。
直前のテストプレイでも感じていましたが、3ゲーム中どこかで相手が事故ってくれないと辛いマッチアップだなあと思っていました。まあしょうがないですね。
しかし個人的には前回と違って平常心でプレイすることができましたし、良いプレイで会場を沸かせることもできたので、ある程度満足しています。
観戦記事・準々決勝:市川ユウキ(日本) vs. Jackson Cunningham(カナダ)
シングルエリミネーションも終えてみんなが居るホールに戻ってくると、前回のプロツアーで一緒にトップ8だったアンドレア・メングッチ/Andrea Mengucci君が「ミスもなかったし、キミは良くやったよ!Good Job!世界選手権には出れるの!?頑張って!」と慰めてくれました。良い奴!
またその後は、行きで隣の席だったSherwin Pu含む日本勢とフリードラフト(ウィザーズから回数制限ありで配られる無料のドラフトセット)して遊んでいたりしました。
こういう時につくづく思うのですが、英語が話せないことのなんと勿体ないことか。
言ってることはなんとなくわかるんですが、自分の感情を言葉にするには私はまだまだ勉強が足りません。試合後の感想戦だってもっとしたいですし、3日目に外人とやるフリードラフトで英語が喋れないのは、物凄く"楽しみ"を損している気がします。
プロツアーは、もちろん掛かってる賞金や権利も大きいですし、勝つことによって名誉も得られます。
しかし、僕はそこ以上にプロツアーに"楽しさ"という魅力を感じているのです。
新たな出会いがあったり、目標に向かってマジックプレイヤーとして成長できたり、スポットライトを浴びながら行われる緊張感のある試合も、とても楽しいですよね? だから継続して出たいのです。
取りあえず今期一杯の目標は『英語で意思疎通ができるようになる』ですね!
そんなわけで大きいモニターで決勝戦なんかを見つつ、ドラフトに明け暮れながら、私のプロツアー『マジック2015』は幕を閉じたのでした。
7.まとめ
と、いうことで今回の成績によってプロポイントを20点加算し、累計で51点。
何と目標としていたプロプレイヤーズクラブ・ゴールドレベルを飛び越え、最上級レベルのプラチナレベルに到達しました。
それと同時にプロポイントランキング・日本人2位になりましたので、12月にフランスのニースで行われる世界選手権への出場権も獲得しました。こちらは参加者数24人と、プロツアーよりも格式の高い大会ですので、出られるだけで非常に光栄です。存分に楽しんでこようと思います。
来期1年間のプロツアーへの参加権利も取得できて、本当に嬉しいです。プラチナレベルは私には少し不相応な感じもしますが、1年間プロマジック生活を満喫したいなと思います。
大会レポート、いかがでしたでしょうか?
こちらを読んで「プロツアーに出てみたい!」と思ったら、参加権利を得るためにPTQ(プロツアー予選)やグランプリに挑戦してみてください。
その道は険しく、決して楽ではありません。
ですが、それを達成できた時はそれに見合った楽しみが、あなたにきっと待っていることでしょう。
最後まで読んでいただきありがとうございました、またどこかでお会いしましょう。
市川
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