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モダンにおける《有翼の叡智、ナドゥ》の禁止について

Michael Majors
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2024年8月26日



 『モダンホライゾン3』のリード・デザイナーとして、本日私たちが下した決断について皆さんにお伝えしたいことがあります。

 《有翼の叡智、ナドゥ》は、デザインに失敗しました。

 コミュニティの皆さんはプレビュー・シーズンの時点で、《手甲》や《コーの先導》と《有翼の叡智、ナドゥ》の組み合わせでライブラリーをすべて引き切ることが可能であると見抜きました。とはいえ当初の予想通り最初期のリストは洗練されておらず、脆弱性が高かったり、《有翼の叡智、ナドゥ》が主要なゲームプランというよりはバックアップ・プランとして使われていたりしました。「プロツアー『モダンホライゾン3』」を迎える前には「ナドゥ」デッキは明白に強力なデッキとなっていましたが、まだ禁止されるほどのものではありませんでした。

 皆さんもご存知の通り、プロツアーによってすべてが変わったのです。世界最高のプレイヤーたちは頂点へ登りつめるためにこのデッキの調整に力を尽くし、そしてやり遂げました。彼らは《タッサの神託者》をデッキから抜き、どのような状況にも対応できるよう《忍耐》と《春心のナントゥーコ》を用いる複雑なループを組み込んで、効率的に無限マナを生み出せるようにしました。これにより、干渉手段や全体除去を受けても対抗できる形に仕上がったのです。このループはまた、領域を移動するパーマネントが多く複雑なゲーム内処理を要するため、ターンが非常に長くなります。

 このデッキは美しく、しかし悪夢のような管理上の煩雑さを抱えていました。

 このデッキはプロツアーで59%もの勝率を記録し、サイモン・ニールセン/Simon Nielson選手にプロツアー優勝トロフィーをもたらしました。それ以来、このデッキのパフォーマンスは下がっています。しかしそれは、このデッキが客観的に見てオンライン環境では比較的弱いという事実も関連しているでしょう。多くのプレイヤーはデッキをすべて引き切らない限り弱い《タッサの神託者》を使い続けています。《忍耐》ループは、オンライン・タイマーの影響下では非現実的だからです。このことにより、このデッキはマリガンや干渉手段により弱くなりました。それにも関わらず、このデッキはMagic Onlineにおけるメタゲームの勝ち組に入り続けており、地域チャンピオンシップ予選においても驚異的な使用率を叩き出しています。

 《手甲》や《コーの先導》のようなもう1つのコンボパーツを取り除いても、《有翼の叡智、ナドゥ》が抱える管理上の問題は解決しないでしょう。たとえ勝率が下がっても《有翼の叡智、ナドゥ》は《稲妻のすね当て》のようなカードを使うようになり、長い目で見てトーナメントの楽しさが損なわれる問題は残り続けます。このデッキは人々の時間を独占する可能性があり、しかもその時間は楽しくもなく、干渉しやすいデッキでもありません。このデッキを環境に残すだけの、説得力ある論拠はありません。

 これらの理由から、《有翼の叡智、ナドゥ》は禁止となります。

このカードはどのようにして禁止されるに至ったのか?

 《有翼の叡智、ナドゥ》は、『モダンホライゾン3』の開発期間の大半において以下のようなカードでした。

有翼の叡智、ナドゥ

{1}{G}{U}
クリーチャー — 鳥・ウィザード
3/4
飛行
あなたはパーマネント・呪文を、それが瞬速を持っているかのように唱えてもよい。
あなたがコントロールしているパーマネント1つが、対戦相手がコントロールしている呪文や能力の対象になるたび、あなたのライブラリーの一番上にあるカード1枚を公開する。それが土地・カードなら、それを戦場に出す。そうでないなら、それをあなたの手札に加える。

 《有翼の叡智、ナドゥ》は干渉手段に対抗する強力な選択肢の1つであり、私たちのテストを通してさまざまな「バント・ミッドレンジ」戦略に採用されていましたが、その役割を演じる以上の存在ではありませんでした。

 もう少し背景をお伝えすると、『モダンホライゾン』セットのプレイテストはスタンダードのセットにおけるFFL(フューチャー・フューチャー・リーグ)とは異なります。初代『モダンホライゾン』でも『モダンホライゾン2』でも、私たちは少人数の契約プレイヤーのグループを招聘し、そのグループと少人数のプレイ・デザイナーを交えて短期間集中のプレイテストに取り組んでいました。プレイテストの期間は他の仕事の責任を負うことなくそのセットだけに集中できるため、テストの密度は濃くなりますが、期間自体は通常より短くなっています。

 プレイテストが終了すると、さまざまなグループによるセットの最終チェックが行われます。これはどの製品でも行われる通常の手順です。最終チェックではさまざまな部門や分野の者がプロジェクトのあらゆる構成要素について意見を出し、最終的なフィードバックを送ります。

 その最終チェックの会議の1つにおいて、《有翼の叡智、ナドゥ》の瞬速を与える能力が統率者戦において大きな懸念材料になると議題に挙がりました。そしてその能力を削除すると、このカードのターゲット層や居場所がわかりにくくなりました。すべてのカードにターゲットや居場所を用意するのは、重要なことです。最終的に私が目指したのは、統率者戦でこのカードを中心にしたデッキを構築できるようにすることでした。その結果、最終版のテキストになりました。

 そこで0マナで対象に取る能力との相互作用が大きな問題となることを、見落としてしまったのです。そしてそれは、社内で最後に《有翼の叡智、ナドゥ》を見た者にも見落とされました。その時点で制作プロセスはずっと先へ進んでおり、《有翼の叡智、ナドゥ》の最終版はプレイテストされることなくそのまま出荷されることになったのです。

 以下にこの出来事の要点や教訓をお伝えしようと思いますが、その前に、今回の件は制作プロセス上の失敗であったとはいえ、カードの最終版における責任はリード・デザイナーである私にあることを強調しておきたいと思います。

リスクの度合い

 《有翼の叡智、ナドゥ》を取り巻く初期の話題は、「なんでタフネス4もあるの?」や「誘発1回までなら良かったのに」といったものが多くを占め、極端なものでは「引用符(訳注:日本語版ではかぎ括弧)をつける場所を間違えたのか?」というコメントもありました。

 すでに述べてきた通り、物事に対する最も明白な回答は基本的に正しいものです。

 《有翼の叡智、ナドゥ》はパワーレベルの最大までカードを押し上げてみようという試みではなく、失敗の産物でした。もし私がリスクの度合いを把握していたなら、タフネスを削ってちょうど良い場所に着地できると期待せず、テキスト欄をまったく異なる内容に変えていたことでしょう。

 しかしながら、『モダンホライゾン』セットの監督という仕事の大部分はリスクの綱渡りをすることです。《ウギンの迷宮》 や 《黄泉帰る悪夢》もまた、目を皿のようにして出荷を見届けたカードの一例です。これらのカードもうまくいかない可能性はありましたが、活動が停滞しているデッキや真新しいデッキに活力と勢いをもたらすために、やる価値があると判断したものです。

 私たちが変更を加えた具体例を挙げると、《色めき立つ猛竜》は開発初期にはもっと「続唱」のような能力を持っていました。その結果、このカードから 《明日の瞥見》がよく唱えられていました。そのデッキは強すぎるというほどではなかったのですが、コンボが動き出すターンは永遠に感じられるほど長引き、あまり楽しいものではありませんでした。私たちは《色めき立つ猛竜》を色々と変更して、何度か失敗もしました。そして悪用を可能な限り回避できるように作り直す必要に迫られ、現在の形になりました。新たな「瞥見」デッキを作れるという利点は、プレイ・パターンのつまらなさを補えるものではなかったのです。

 『モダンホライゾン3』には他にも、使い方がすぐにはわからないようになっている構築の自由度が高いカードがたくさんあります。私たちはグループ単位でそれらを試し、ほとんどのカードについて最適な使い方を結論づけることはしませんでした。私にとってマジックは、あれこれと実験し議論を交わすパズルが用意されたときに最も面白くなるのです。

 「なるほど、失敗したんだね。リスクを取りたいという願望もわかった。じゃあこれからは?」

私たちが学んだこと

 今回の失敗は、デザインと管理上の両面の問題でした。この問題について、私たちはさまざまな方法で解決を試みています。禁止制限告知のタイミングを変更し、地域チャンピオンシップ予選やそこからさらに広がる競技の舞台のために最適なタイミングにしました。将来的にカードを禁止しないという保証はできませんが、競技フォーマットに時間と熱意を捧げたいと願うプレイヤーの皆さんへのダメージができる限り小さくなるように、対策を講じることはできます。

 内部の話になりますが、その対策は複合的なものになります。

1. 限られた時間の中でも、関連する全グループがプロジェクトの変更に影響を与えられる時間を確保したい。

 契約プレイヤーたちが積極的にプレイテストを行っている間に最終版のナドゥが精査されていれば、もっと良い方向へ向かっただろうと私は信じています。

2. 明確な結論を出せない場合はもっと保守的になるよう努め、他の者にもその姿勢を推奨する。

 私は、《手甲》が《有翼の叡智、ナドゥ》と組み合わせることで強力になるということを把握していませんでした。しかし私が《有翼の叡智、ナドゥ》のテキスト欄の意味を十分に理解していないことは認識していました。私がやるべきだったのは、もっと積極的に他の意見を求めることでした。そこで明確な結論が出なければ、理解できている方へ戻ることもできたはずです。私は、「誰かのために本当に素晴らしいものを作る」という目標に囚われていたのです。その結果、誰も幸せにならない事態になったのでした。

 最後になりますが、マジックは実に複雑なゲームであるということを強調しておきたいと思います。私たちは常に物事を正しく進められるわけではなく、フォーマットの反応を常に予測できるわけでもありません。それでもこのゲームの制作に携わる仕事は、心から好きでやっている仕事です。解決策が明白な失敗に陥ったときはそのことを真摯に受け止め、ゲームの作り方を改善する道を常に探し求めていきます。

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