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プレインズウォーカーレビュー

プレインズウォーカーレビュー:《ボーラスの工作員、テゼレット》

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プレインズウォーカーレビュー

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By 中村 修平

戦いの始まり

 世界は変わってしまいました。

 ファイレクシアの影響はもはや黒や緑に留まるものではありません、ミラディン包囲戦では青や白にも勢力を伸ばし、最も非ファイレクシア的な色、赤にすらもその侵食は迫りつつあります。ミラディン世界にとって漠然とした、得体の知れない存在であったものは、実体を持った悪性変異として姿を現したのです。

 時は満ち足りました。今こそ恐怖と混沌に彩られたファイレクシアの教えを撒き散らす時間です。他方、ミラディン世界の原住人達も黙ってファイレクシアの暴威に屈する謂れはありません。ただ死ぬならばまだ良い方、下手をするともっとおぞましい何者かに作り変えられてしまうものが侵略者であるファイレクシアであり、直接戦火を交えるのはまさにその異形に作りかえられたかつての同胞達なのです。彼らにとっては生存を賭けた、負けることは許されない戦いがそこにあるのです。

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 今週末、1月29~30日に日本各地で開催されるミラディン包囲戦・プレリリーストーナメントは、相克する二つの陣営の争乱がテーマのセットです。

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 あなたはトーナメント参加時にミラディン、ファイレクシアのどちらかの陣営を選択します。プレリリーストーナメント用に作られたスペシャルブースターパック、ミラディン・パックかファイレクシア・パックが渡され、この陣営ブースターにはそれぞれ自陣営カードのみが封入されています。このどちらか3つに、ミラディンの傷跡ブースターパック3つを加えた6つのブースターパックから40枚以上のシールドデッキを構築することとなります。

 プレリリース会場はミラディン世界の各地で勃発している戦いの局地戦となります。敵味方が入り乱れる戦場で最後に立っているのどちらの陣営なのか、その鍵となるのは新キーワード能力です。

ミラディン軍

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 ミラディン軍の新能力は『喊声』。

 喊声持ちクリーチャーが攻撃に参加する度に、自身以外の攻撃クリーチャーのパワーをターン終了時まで+1/+0上昇させるという非常に攻撃的なもので、一緒に攻撃するクリーチャー数が多ければ多いほど効果が上がっていきます。ただでさえ強かった《マイア鍛冶》のようなトークンを製造するカードはより価値を増すことでしょう。

 一方、攻撃に参加しなければならないという条件から、喊声持ちは常に相討ちブロックをされるという危険をはらんでいますが、逆に喊声持ちの総攻撃が複数回出来ればそれだけで決定的な差を作る事が可能です。《調和者隊の盾》のようなタフネスが上がる装備品での強化や、ブロッカーを除去で排除という動きは、例え実際にはそれが出来ないにしても、対戦相手の視点からは常に脅威であり、相討ち要員を排除されたら・・・という圧力は相当なものです。

 さながら、これまでのリミテッドにおける感染持ちのクリーチャーのように、1体で多くのクリーチャーを引き付けるカードとなるでしょう。ミラディン軍のプレリリースカードはそんな喊声持ちクリーチャーが必要としている要素、一緒に攻撃に参加するクリーチャーの確保と自身の頑丈さが1枚のカードに収納されたかのようなカード、《刃砦の英雄》です。

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ファイレクシア軍

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 感染、増殖という既に強力なキーワード能力を持っているファイレクシア軍の新テクノロジーが『生体武器』。

 装備品なのに戦場に出る際にはクリーチャーとして現れるという、これまでの装備品が持っていた弱点を解消している強力なものです。装備付けかえコストが若干高めに設定されていますが、クリーチャーとして見た場合、例えば、この《皮羽根》だと4マナ2/2飛行とリミテッド戦では充分に及第点を与えられる性能です。

 また意外な事に、ミラディン軍の新システム・喊声との相性の良さも見逃せません。少しでもクリーチャーが欲しい喊声というシステムにとっては、クリーチャーであり、呪文でもある生体武器というカードは「攻撃の際に取り外して自らに付ける」という選択肢もある幅の広いカードです。

 もちろんパワーが2倍換算となる感染持ちとパワーが上昇する装備品との相性の良さは言うに及びません。この薄気味悪いほどの柔軟性がファイレクシアのファイレクシアたる所以でもあるのでしょう。

 ファイレクシア軍のプレリリースカードは、なんと前ミラディンブロックの主人公であった《グリッサ・サンシーカー》がダークサイドに堕ちてしまった姿、《裏切り者グリッサ》。もちろん姿ばかりではなく機能的にもファイレクシア流の味付けが施されていて、他者の血で墓地のカードを回収する能力はクリーチャー除去系の使いきりタイプのアーティファクト、ついこの間まであった《処刑人の薬包》の様なカードが勝手に循環していくさまはまさにファイレクシアの教えを体現しています。

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中立者

 この熾烈を極める両者の戦いをただ1人、どちらにも属さない立場から観察している存在がいます。

 先ほどの《処刑人の薬包》を作った、エスパーという断片――ミラディン世界とはまた違ったアーティファクト文明が栄えていた世界でもあります――を含む、5つの断片から構成されていたアラーラ。その次元にいた4人のプレインズウォーカーの中で、ただ1人その後の消息が不明であった者・・・その現在の姿が、《ボーラスの工作員、テゼレット》です。

Tezzeret, Agent of Bolas

 行方不明だった《求道者テゼレット》は、上古から存在し続けるドラゴンであり、ファイレクシアと同じくらい邪悪なプレインズウォーカーである《プレインズウォーカー、ニコル・ボーラス》の僕としてミラディンの包囲戦に現れました。
 求道者だった頃からテゼレットは好奇心で身を滅ぼしかねない存在でしたが、とうとうニコル・ボーラスに支配されてしまって再登場となります。

 かつては良くも悪くもオリジナリティに溢れた存在であり、アーティファクトのサーチ能力によって幅広い選択肢を取れる事が長所だったプレインズウォーカーでしたが、ボーラスに支配された工作員の今では、その能力は失われてしまっています。例えるなら、同じくボーラスに支配されてしまった《狂乱のサルカン》のように、かなり単調な動作の繰り返しをするタイプになっています。
 カードのフレイバー的にもしかすればプレインズウォーカーが他のプレインズウォーカーに支配されるとそういう傾向が出てしまうのかもしれませんね。

 ですが、それは決してテゼレットが弱くなってしまったという事ではありません。

 新テゼレットのセールスポイントは-1能力が戦場に与える影響力の大きさです。アンタップ状態で、かつ召喚酔いが無いアーティファクトと色々と制限が多いですが、5/5というサイズのクリーチャーが即戦場に現れ、しかも攻撃に参加でき、効果が永続するというのは歴代のプレインズウォーカーの中でも屈指の影響力。
 これまでのプレインズウォーカーで最も攻撃的な《槌のコス》ですら、ターン終了時までの4/4クリーチャーを用意するだけでした。+能力、-能力の違いこそありますが、こうして対比してみると一目瞭然です。

 この事が具体的にはどういう事に繋がるかというと、以下の3点が挙げられるでしょう。

対プレインズウォーカーに対して、無類の強さを発揮する

 すべてのプレインズウォーカーは、戦闘ダメージで忠誠値が減るという特性から、クリーチャーに対処しなくてはならないという共通の問題を抱えています。
 ですから、ほとんどのプレインズウォーカーは戦場に出す前に、次のターンまで生き残れるように布石を打っておかないといけない、という制限を抱えています。

 戦場に出したそのターンから5/5速攻を用意できるテゼレットは、先出しならばまずクリーチャー処理とテゼレット自体の処理を同時に要求し、後出しならば突然殴りかかってくる5点ダメージ源とやはりその製造元であるテゼレット自体の処理を要求するという、厄介極まりない存在となるのです。

気兼ねなく使い捨てに出来る

 究極奥義以外の能力は弱めに設定されているというプレインズウォーカーの特性の中で、別の見方をすれば「4マナ5/5速攻クリーチャー(条件付き)」というのは、同じマナ域の呪文に比べて破格ともいえる性能です。

しかも5/5にしたアーティファクトを攻撃にまわせるような展開だと、5/5の処理と新テゼレットの処理を別々に行わなければいけない状態を容易に作り出せ、対戦相手に大きな負担を強いる事になるのです。しかも、5/5というサイズは、プレインズウォーカーのみではなく対戦相手を倒すのにも充分なサイズではありませんか。

時間を味方につけられる

 しかも時間を与えれば与える程、効果が上積みしていくというのがプレインズウォーカーの特性で、これもしっかり新テゼレットは保持し続けています。

 +能力は単純計算で「デッキ内にアーティファクトが5分の1以上入れなければ効果が見込めない」という条件があるものの、追加の5/5要員を補充でき、究極奥義はよりアーティファクトへの依存性が高いものの、デッキによっては使えば即勝てるレベルの能力にもなり得てしまうのです。

課題と展望

 課題は戦場に出したときに適当なアーティファクトを用意できるデッキであるという事です。
 これさえクリアできていれば、必然的にデッキ内のアーティファクト率5分の1という、+能力が要求する水準をクリアしている事でしょう。

 新テゼレットを1ターン早く出せるようになる《永遠溢れの杯》はまず投入するとして、他にどのようなアーティファクトを入れるか、それが問題です。現行スタンダードデッキでは非常にハードルが高い課題であり、この要求に応えれるデッキは残念ながらありません。

 ですが、今は無いという事が、これから以降も無いという事にはなりません、むしろ新テゼレットがあるからこそ、それを生かしたデッキが組まれるかもしれません。
 クセは強いですが、新テゼレットはその価値があるカードなのです。


 テゼレットの価値、そして「ミラディン包囲戦」の可能性を、まずはプレリリースで試していただければと思います。


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