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開発秘話

Play Design -プレイ・デザイン-

プレイデザインの教訓

Bryan Hawley
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2019年11月18日

 

 皆さんこんにちは、私の名前はブライアン・ホーレイ/Brian Hawley、マジックのプレイデザイン・チームのリードです。本日、我々はこちらでスタンダードにいくつかの禁止を告知しました。それに加えて、今年は多くのことが起きていたので、プレイデザインを代表して私は我々がどこにいるのか、そしてたどり着いた方法、学んだこと、そして次に向かう場所を通る少し時間を設けたいと思います。

我々の出発点

 『戦乱のゼンディカー』に始まり『基本セット2019』までの間、我々――そのころは開発部と呼ばれていました――は看板セット、ひいてはスタンダード・フォーマットのパワー・レベルを徐々に下げるように意識的に努めていました。この方向性における我々の第一目標は、そのほとんどが通常は競技プレイに十分な影響を与えない高コストのカードや効果のデザイン空間を広げることでした。

 我々はこれらの目標を達成しましたが、利益を上回る損失がありました。主要なブースターパックは万人向けであるべきであり、低いパワー・レベルだとスタンダードをプレイしないプレイヤー向けのカードを実際に作っていなかったのです。それに加えて、スタンダード内のパワー・レベルが低いということは、このフォーマットがパワー・レベルを間違ったカードにより敏感であるということであり、この事実によってこれらのスタンダード・フォーマットはひどく歪んでいました。《密輸人の回転翼機》や《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》などのカードはそのフォーマット内のカードが強ければ起きないような方法で支配的でした。

目覚めた猛火、チャンドラ》 アート:Chris Rahn

F.I.R.E

 『ラヴニカのギルド』をデザインしているころ、主に上記の点に対応するために我々は「F.I.R.E」と呼ばれる理念を採用しました。

マジックは……

  • Fun(楽しく)
  • Inviting(興味を引き)
  • Replayable(繰り返し遊べて)
  • Exciting(ワクワクする)

ものであるべきです。

 この理念はマジックのデザイン方法に多くの変更を起こし、プレイデザインが我々の仕事に働きかける方法を変化させました。

 まず、『ラヴニカのギルド』から『エルドレインの王権』までの看板セット(その結果スタンダード)のパワーを意図的に上げました。我々はさまざまな理由でそうすることを選びました。我々はスタンダードは少し高めのパワーレベルだとより楽しいと考えています。実際にたどり着くかどうか分からない特定の場所にレーザー照準をつけた奇妙な仕組みのカード(《高山の月》を見ながら)を作らずに、より多くのプレイヤーに関係のあるカードを作るのは簡単です。また、我々は高マナ域でのデザイン空間を開きましたが、パワー・レベルの低めなスタンダードではそれらを容易に受け止めることができないために、奇抜な戦略の空間を失っていることに気が付きました。

 我々の意図では、このパワーアップは1年間を通して行う段階的なものであり、その後『ラヴニカへの回帰』と『テーロス』ぐらいの範囲でスタンダードのパワー・レベルを安定させるというものでした。各時期のスタンダード・フォーマットの強さはとても漠然としたものなので、厳格かつ厳密に定義しようとはしませんが、この時期は我々の狙いを説明している良い範囲です。

 次に、我々は低コストのプレインズウォーカー、色対策、自由度の高いコンボ・カードなどの、以前は扱われていたが『戦乱のゼンディカー』から『基本セット2019』期には避けていたり大幅にパワーダウンさせたりしていたよりリスクの高いデザイン空間に戻りました。我々はこれらのすべての上手い扱い方を学びましたが、何段落か後にまたお話します。

責任は我々にあります

 強すぎたカードを除けば、看板セットの強さに関する限り『エルドレインの王権』は新しい標準の範囲内にあります。一番上ではありますが範囲の中に収まっています。我々は今後のセットのパワー・レベルが同じぐらいになることを望んでいて、時間とともに看板セットのパワー・レベルを上げ続ける意図はありません。セットやフォーマットによって相対的に強かったり弱かったりする効果はいろいろありますが、我々の意図では今後も看板セットをこれぐらいのレベルに固定しようと考えています。

 しかしながら《王冠泥棒、オーコ》に関しては我々の失敗です。彼が我々の意図したものよりも、はるかに強力であることには疑問の余地がありません。彼がこれほど強くなった理由はたくさんあり、簡潔に説明することはできません。この話の根底にあるのはプレイデザインが単なるプレイテスト・チームではなくデザイン・チームである(そしてそうである必要がある)という事実です。

 我々は相当量のプレイテストを行い、そして最終的なカードのパワー・レベルに関して最終責任を負いますが、あらゆるプレイテストの結果に対してパワー・レベルをどうするべきかを選ぶ必要があります。我々はカードのデザインや再デザインを行い、プレイパターンを変更し、カード、デッキ、メカニズム、そしてフォーマットのレベルでのデザインの課題に取り組み、構築フォーマットが上手くいくようにしています。

 このことはそれ自体が記事になる可能性がありますが(おそらくなります)、この記事ではこのことがオーコにとって具体的にどういう意味があるのかについて焦点を当てていきます。パワー・レベルは別にして、我々はさまざまな構造の食物デッキに取り組み、プレインズウォーカーをマナ・カーブ上で移動させてファイル内の他のもののコストの変化に対応し、楽しい構築フォーマット向けカードになる見込みのあるものを見つけるために、さまざまなデザインを試しました。初期バージョンのオーコは、その強さの大部分が(もっと広く)盗む能力に結び付けられていて、対戦相手にとっては大鹿に変えられるよりも楽しくないものでした。

 突き詰めると、我々は彼のその対象となるパーマネント・タイプを本質的に無効化するという能力に適切な配慮をしませんでした。そして数多くあった遅い時期の再デザインの間に、その純粋なカード・パワーを見失い、かなりの割合で行き過ぎてしまいました。

 『エルドレインの王権』の基本的なパワーは新しい標準における我々の狙いを示していますが、《王冠泥棒、オーコ》は違います。

ケンリスの変身》 アート:Kimonas Theodossiou

学んだ教訓

 「F.I.R.E.」の理念に移行して、我々は多くを見て、そして学びました。この節では、我々が学んだ多くの事柄と、それらを今後どこで活用していくのかついてお話しします。その前にひとつお断りしておきますと、多くの場合我々の仕事は将来に向けてのものなので、それらの取り組みの影響が見えるようになるまで時間がかかるかもしれません。

 緑が積極的に対戦相手のクリーチャーに対処できないせいで時々アンプレイアブルの境界線上にあった時期を抜け出て、我々は最近の数セットにで緑が相手のクリーチャーと戦える方向に向かおうとしていました。その影響を見ると、緑の効果が少し万能になりすぎたままになっています(それとは別ですが、素の強さにも関係しています)。カラー・パイ全体で見てみると、通常白の領分であるクリーチャーと除去のハイブリッドの空間(ですがそれよりも強い)に踏み込んでいます。我々は緑のメカニズム的表現を少し狭めて、相手のクリーチャーが大量にいる盤面を突き進むための他の方法を研究します。

 3マナのプレインズウォーカーは我々がどれだけそれらのリスクを分かっていたのですが、それでもなおリスクのほうがが大きい空間でした。楽しく健全な役割を担ったものも見られますが(《ボーラスの壊乱者、ドムリ》《黒き剣のギデオン》など)、多くのカードを無力化するものも複数見かけられました。例えば《時を解す者、テフェリー》はほとんどのインスタントを無力化し、《王冠泥棒、オーコ》は自身よりも重いほとんどのパーマネントを無力化します。我々は3マナのプレインズウォーカーを作り続けますが、慎重かつ入念に作り、会話の頭に「このプレインズウォーカーが強いなら、何が環境から締め出されるだろうか?」と問いかけていきます。

 具体的には、我々はプレインズウォーカーが攻撃されるということに激しく頼りすぎ、そして3マナのプレインズウォーカーへのその攻撃という対抗手段の信頼性は低いものでいた。これまで何度も掘り下げてきた、伝統的な4マナや5マナのプレインズウォーカーの忠誠値の形から逸脱すればするほど、それらがゲームに与える影響の想定についてより注意して再確認する必要があります。さらに、戦闘以外でプレインズウォーカーに対処するための手段を提供するために、可能な限り早く多様なカードをもっと多く収録します。

 マジックのデザインの性質上、実際のメタゲームがどうなるのかを正確に予測することができないので、我々は起きるかどうか分からない物事に対する安全弁や対抗手段を供給するためにさまざまな確率論的試みをデザインします。これら安全弁のうちあるものは結局弱く(基本でない土地に対する《荒廃ワーム》)、またあるものは最終的にそれ自体が問題になるほど強力(《夏の帳》)でした。この針の穴に糸を通すようなことへの明確な答えはありませんが、我々が向かう最初の明確な道筋はより幅広い攻撃性の低い試みをして、最悪の状況をできるだけ増やし、最高の状況を咎めることを減らすように目指すことです。

 『基本セット2020』では、前の年のテーマを呼び戻すために具体的にカードをデザインするという実験をしました。我々の目的は、よく変化の少ない小康状態と表現される8セットのスタンダードを次の年のスタンダードを支配するリスクが少ない方法でより新しく斬新なものにすることでした。新しく興味深い中味という観点からはいくつか前向きな面が見られましたが、それらのデッキでスタンダードの多くが構成されていたので、極めて短期間のためにカードを手に入れるようにプレイヤーへ負担をかけすぎていました。

 さらに、それらのカードは依然としてこのリスクの大部分を招いていました。《死者の原野》は《風景の変容》を復活させて8セットのスタンダードで適切なレベルでヒットさせるように具体的にデザインされたカードでしたが、《風景の変容》自体がなくなったローテション後でも支配的であることが判明しました。我々は年を跨いだセットを混ぜてシナジーを形成する機会を探し続けますが、この具体的なやり方を大きく減らして、それらのデッキのメタゲームでの割合を低いものにするように目指していきます。

要約

 我々の主な目的は常にプレイ環境を可能な限り楽しいものにすることです。スタンダードのパワーを下げるという決定の撤回はその一部であり、それは去年を通して段階的に行われました。『エルドレインの王権』は我々が狙うセットの強さの上限に到達し(失敗したカードを除く)、そして我々の計画ではセットのパワー・レベルを大体これと同じぐらいで安定させるつもりです。我々はいくつかの場所でつまづきましたが、その間違いから見て、聞いて、学んでいます。

(Tr. Takuya MASUYAMA / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru)

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