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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『霊気走破』を走り切る その2

Mark Rosewater
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2025年1月27日

 

 『霊気走破』の2週目へようこそ。今週は、本セットのセット・デザイン・チームを紹介し、『霊気走破』がどのようにして誕生したのかという物語の続きを語っていく。そして、ドラフトにおける10のアーキタイプを見ていく。

 先週の『霊気走破』を走り切る その1の続きに入る前に、セット・デザイン・チームを紹介したい。いつものように、チーム・リードがメンバーを紹介する。今回のリードは、『霊気走破』のセット・デザイン・リードを務めたヨニ・スコルニク/Yoni Skolnikだ。ヨニについては私が紹介する。

クリックして『霊気走破』のセット・デザイン・チームを表示

 

エネルギーの発見

 先週、展望デザイン・チームがレースを表現するために考えた3つの柱について話した。それぞれが競争の異なる側面を表現するものだった。

  • 機体――レーサーとそのマシン
  • エンジン始動!――レースそのもの
  • エネルギー・カウンター――燃料とテクノロジー

 この最後の要素(エネルギー・カウンター)は、私たちにとって特に重要だった。レースにおいて、レーサーが最新技術を駆使して機体をチューニングすることは大きな要素の一つである。そして、再びアヴィシュカーを舞台とすることになったため、エネルギーはこの世界観をメカニズム的にもうまく表現できると考えた。

 私たちは、訪れる次元のメカニカルな特徴よりも「レース」というテーマを重視することを選んだ。しかし、展望デザイン・チームにとってエネルギーはその2つの要素のバランスを取るのに最適なものだった。プレイヤーからもアヴィシュカーへの再訪を求める声が多く、その大きな理由の一つがエネルギーだった。エネルギーは非常に人気のあるメカニズムであり、長年にわたって新しいカードが求められていた。エネルギーは寄生的なメカニズムであり、新規カードの追加は非常に大きなメリットをもたらす特性がある。また、『モダンホライゾン3』でもエネルギーが採用される予定だったため、2つのセットでエネルギーを扱うことで相乗効果が期待できると考えた。

 エネルギーというメカニズムが最初に誕生したのは、『ミラディン』の開発中だった。『ホームランド』に収録された《鋸刃の矢》というカードにインスピレーションを受け、私は回数制限があるが、互換性のあるアーティファクトというアイデアを思いついた。当初は、パーマネントに蓄積されたチャージ・カウンターを取り除くことで能力を起動できるようにしていた。この際、どのパーマネントにあるチャージ・カウンターでも自由に払える仕様にしていた。しかし、すぐに気付いたのは、プレイヤー自身が持つカウンターを使用する方が、我々が求めていた感覚をより適切に表現できるということだった。また、プレイヤーがどのアーティファクトからチャージ・カウンターを取り除くべきなのかを考える必要がなくなり、ゲームの複雑さも軽減された。

 しかし、デザイン・チームが『ミラディン』の案を提出すると、当時のヘッド・デザイナーであるビル・ローズ/Bill Rose は 「セットが複雑すぎる」と指摘し、エネルギーは削除されることになった。その後、私は何度も他のセットでエネルギーを使用することを試みたが、最終的には毎回削除することになった。それから13年後、『カラデシュ』の開発時、ついにエネルギーを適切に活用できる場を見つけた。このメカニズムは非常に好評だったが、競技環境では強力すぎた。多くのエネルギー・カードが禁止カードとなってしまった。新たなリソースシステムはバランス調整が難しく、私たちは少しやりすぎてしまったのだ。

 この経験から、エネルギーをセットに入れると多くの問題が発生することが明らかになっていた。展望デザイン中に、我々はいくつかの方針を決めた。

  1. 我々はエネルギーの供給源を抑えつつ、エネルギーの使用方法には工夫を凝らした。これにより、スタンダード環境におけるエネルギーのパワーレベルを抑えつつ、より範囲が広いフォーマットのエネルギー・デッキに新たな楽しい選択肢を提供できるようにした。
  2. 『カラデシュ』と『霊気紛争』では、対戦相手のエネルギー・カウンターに干渉できないようにしていた。今回は、プレイヤーがより相互に影響をおよぼせるように調整した。
  3. エネルギーは初登場時、独立したリソースシステムだった。我々は、エネルギーが単にマナを完全に置き換えるのではなく、マナのコストを軽減する形で活用できるようにしたいと考えた。


 この3つ目のポイントから、『霊気走破』のデザイン上の最大の革新が生まれた。それが「混成エネルギー・コスト/hybrid energy cost」である。例えば、{2/e}というコストは、2マナまたは1エネルギーで支払うことができる。この混成エネルギー・コストは、マナ・コストや能力コスト、キッカー・コストなどに割り当てた。ただし、マナの代替手段として完全にエネルギーのみを使用するケースは限られており、唯一の例外は機体の搭乗コストの代替手段だった。

 では、なぜエネルギーは『霊気走破』に採用されなかったのか? 最終的に、展望デザイン・サミット(展望デザインの最後の大規模プレイ・テスト)での大きなフィードバックが要因となった。プレイヤーの意見では、各メカニズムは個別には楽しいものたが、全体としては噛み合っていないと指摘された。我々は一つのセットにトリッキーなメカニズムを詰め込むのを回避する努力をしているが、機体、エンジン始動!、エネルギーの組み合わせはプレイヤーにとって過剰すぎると判断されたのだ。

 ヨニは、エネルギーの役割を単純化するための数ヶ月間の調整期間を求めた。最初はエネルギーを1つのアーキタイプだけに限定するという方法を試したが、うまくいかなかった。次に、小さいコストに使用するのではなく、よりたくさんのエネルギーを要求し大きな影響をもたらす別のメカニズムを試した。

 ヨニとデザイン・チームはこの新しいメカニズムを気に入ったが、すぐにエネルギーは必要ないことに気づいた。1ゲームに1回だけ起動できるというのは、とても魅力的なアイデアであり、まるで一度だけ使えるニトロスイッチを押すような感覚をプレイヤーに与えた。このメカニズムは最初「ターボ/Turbo」と呼ばれたが、後に「消尽/Exhaust」と改名された。これは、将来的にレース以外のセットでも使用できるようにするためだった。

モーター「サイクリング」

 このセットにおける4つ目にして最後のメイン・メカニズムはサイクリングだった(他の3つはエンジン始動!、騎乗、消尽)。もともと、サイクリングはアモンケットとイコリアからの復活的な立場として採用された。当初はイコリアが3つ目の次元の予定だった。サイクリングは落葉樹でありどのセットでも有用なメカニズムだが、本セットでは更に2つの大きな利点があった。

 サイクリングのフレイバーはこれまで少し汎用的だったが、本セットではテーマと一致している。先行デザインの段階では、「バイサイクリング/Bicycling」や「モーターサイクリング/Motorcycling」といった名称のバリエーションも試された。言葉には力があるが、サイクリングという名前が、ついにテーマに完全に適合する場を得た。

 セット内の機体の数が多いため、様々な問題が発生した。最も大きな問題は、ミックス問題である。乗り物は搭乗させるクリーチャーが必要なため、ドローが機体ばかりに偏るとそれらは使えないカードになってしまうリスクがある(この問題について、先週の記事で二次的な用途を作ることによっても解決させた)。しかしサイクリングがあれば、不要なカード(ここでは機体)は別のカードに変換でき、そうした問題を軽減できる。

 本セットには多くのサイクリングを持つカードがあり、それらは大きく2つのカテゴリに分かれる。1つ目は汎用的なサイクリング・カードで、捨てることで別のカードになる。2つ目はサイクリングすると効果が誘発するカードだ。2つの効果から選択できるため、モードを持つカードのように機能する。

大次元レースP.T.A

 『霊気走破』はレースをテーマにしているが、その舞台となる次元の特徴もセットの重要な要素の一つである。特に、アヴィシュカーとアモンケットは、それぞれ機体とサイクリングと関連性のある世界であるため、これらのメカニズムをセットに組み込んだ。また、特定の次元に関連するメカニズムや、一部の象徴的なデザインをカメオ的に登場させることも行った。例えばムラガンダでは、バニラ・クリーチャーを参照するカードや、バニラの伝説のクリーチャーのサイクルを収録し、この次元の特徴を反映させた。

好きなアーキタイプを選ぼう

 最近、我々は各2色の組み合わせに、ゲーム世界内での代表的特徴を持たせるという試みを行っている。これにより、各世界の設定により個性を持たせ、ドラフトの際の指針を提供できる。『霊気走破』においては、各2色の組み合わせが、メインレースに参加する10のチームのうちの1つと関連付けられている。ただし、これはラヴニカやタルキールで見られる勢力セットとは異なる。勢力セットでは、5つほどの勢力のアイデンティティを中心にデザインされ、それぞれ明確なメカニズムが割り当てられる。一方で、本セットのアーキタイプごとにフレイバーを持たせるアプローチも、結果的に勢力セットに似た雰囲気を持つことになった。そのため、『霊気走破』が勢力セットに見えるのも理解できる。

 これから、各アーキタイプの概要、対応するチーム、そしてメカニカルな特徴を紹介する。これらのフレイバー説明の多くは、ミゲル・ロペス/Miguel Lopezによる「プレインズウォーカーのための『霊気走破』案内」(その1 / その2)に基づいており、 ここから読める

白青:ガイドライト・ボヤージャーズ {W}{U}

フレイバー
 ガイドライト・ボヤージャーズは、不可思議な自動機械の集団であり、偶然の成り行きで有能なレーサーとなったチームである。彼らはギラプール・グランプリの初回大会に迷い込んだが、十分に優れた成績を収めたため、主催者たちは驚きと興味を持ち、2回目の大会への招待を行った。意外にも、彼らはこれを受け入れたのだった! しかし、ボヤージャーズが他者に伝えない真実がある。彼らがレースに参加する目的は「勝利」ではなく、安定した領界路を高速で通過することによって、元いた世界へ帰還する手がかりを得ることなのだ。彼らがアヴィシュカーへと放り出されたような現象が、再現されるのを望んでいる。彼らが領界路を最初に通過すればするほど、もう一度、「不幸」な事故が起きる可能性は高まる。

メカニズム
 白青は、遅めのコントロール寄りのアーキタイプであり、アーティファクト・クリーチャーで盤面を整え、最終的に対戦相手を圧倒することを目指す。機体との相性も良いアーティファクト・シナジーを持つ。

青黒:スピードデーモンズ {U}{B}

フレイバー
 スピードデーモンズのクルー達は、言うなれば遠足に来ているようなものだ。スピードデーモン自体は、ヴァルガヴォスの次元に属する下級のクリーチャーであり、「死」と「速度」を体現するクリーチャーである。彼はヴァルガヴォスによって解放され、ウィンターの監督役を任されている。ウィンターは、霊気灯を確保することに成功すれば、自由を与えると約束されているのだ。ウィンターとスピードデーモンに加え、憑依された者、錯霊、剃刀族、その他のダスクモーンのクリーチャーたちが同行している。彼らは、ヴァルガヴォスの同化を多元宇宙全体に広げるために活動している。

メカニズム
 青黒は、じわじわと相手のライフを削る出血デッキである。盤面を混乱させ、さまざまなカードを使って、少しずつ相手のライフを削っていく戦略を取る。

黒赤:ジ・エンドライダーズ {B}{R}

フレイバー
 エンドライダーズは、ガスタルという死にゆく次元の生存者たちである。ガスタルは毒ガスが充満し、ドラゴンの暴君と、ロード・ウォリアー、さらには巨大な乾燥雷嵐が大地を引き裂き、無慈悲な環境が生存者を追い詰めている次元である。彼らは、リーダーであるファー・フォーチュンに導かれ、一瞬だけ開いた領界路を通ってアヴィシュカーへと辿り着いた。そこにはガスタルにはありふれているガスはほとんどなく、代わりに豊富な新鮮な水が存在していた。ガスタルでは水が極めて貴重であり、水戦争が絶えず勃発している。もし、ファー・フォーチュンがグランプリで優勝し、霊気灯を手に入れることができれば、 彼女はガスタルの水門を開き、故郷を救うことができるかもしれない。

メカニズム
 黒赤は、超攻撃的なビートダウン・デッキである。エンジン始動!と最高速度を活用し、アタッカーのパワーを最大限に引き出すことを目的とする。

赤緑:ゴブリン・ロケッティアーズ {R}{G}

フレイバー
 ゴブリンの基準で言えば、彼らは最高の中の最高である。だが、他の種族の視点では、彼らはやりすぎで混沌とした集団にしか見えない。彼らの故郷では、ロケッティアーズはテストパイロットや宇宙飛行士に相当する存在であり、スピードと勇敢さへの愛を爆発的な化学的手段に応用した文字通りのロケット科学者なのだ。彼らはブーストゴッドという神を崇拝している。ブーストゴッドは、彼らの故郷を囲む速度限界という障壁からの脱出を約束する存在である。この勇敢なゴブリンたちは、ついにその限界を突破し、アヴィシュカーにたどり着いた。今、彼らの目的はレースに勝利し、自分たちの使命が成功したことを故郷の民に証明することである。

メカニズム
 赤緑は、消尽メカニズムを活用し、クリーチャーを一回り大きいサイズに強化するミッドレンジ・デッキである。

緑白:アラクリアン・クイックビースト {G}{W}

フレイバー
 クイックビーストは、アヴィシュカーと安定した領界路で繋がっている次元の出身である。彼らの故郷であるアラクリアは、広大な都市であり、十を超える異なる地区で構成されている。各地区にはそれぞれ魂として象徴される偉大な獣が存在し、その獣には通常、魂の繋がりを持つ人間のパートナー がいる。ただし、稀に特別な絆を築くことによって、新たなソウルリンクが生まれることもある。アラクリアは強力なトーナメント文化とスポーツの伝統を持っており、その一環として、アヴィシュカーとの外交的な交流を目的にギラプール・グランプリへ代表選手を送り込んだ。その代表選手こそ、若く才能ある乗り手のカラドーラと、アラクリアの統一地区を代表する偉大な魂、ラゴリンである。

メカニズム
 緑白は、ミッドレンジ・デッキである。多くの機体と騎乗をプレイし、それらを強化しながら勝利へと導くプレイスタイルを推奨している。

白黒:チャンピオンズ・オブ・アモンケット {W}{B}

フレイバー
 アモンケットのレーシングチームは、バスリ・ケトと勇士ザフールの2人の共同キャプテンによって率いられている。バスリはアモンケットの民に広く知られた英雄であり、砂を操る熟練の魔法戦士でもある。一方、ザフールはミイラ化した戦士であり、かつて戦車競技の伝説的な英雄として名を馳せた存在である。彼は、新しい競技に挑戦する機会を喜んで受け入れた。彼らは、生者と死者の両方が共存するアモンケットの希望と夢を体現する存在なのだ。

メカニズム
 白黒は、アグレッシブな消耗デッキである。エンジン始動!と最高速度を活用し、対戦相手のリソースを削り取りながら、無限のゾンビの軍勢を攻撃に送り込む。

青赤:キールホーラーズ {U}{R}

フレイバー
 キールホーラーズは、異次元の海を渡る荒くれ者の海賊団であり、人型のサメと彼らに付き従う人型魚類、そして領界路を越える旅の途中で勧誘した悪党たちを引き連れている。彼らは故郷から遠く離れながらも、略奪し、食らい、霊気を吸い込むことに飢えている。そんな彼らの参戦を支援したのが、カーリ・ゼヴである。彼女自身も海賊であり、キールホーラーズのレース出場を後援することを決めたが、その理由は彼女とラガバンだけが知る謎に包まれている。

メカニズム
 青赤は、ディスカード、特にサイクリングを活用して攻撃的なカードを引き込み続け、攻め続けるデッキである。

黒緑:スピード・ブルード {B}{G}

フレイバー
 スピード・ブルードは、「スピードそのもの」になることを目指す、特異な人型昆虫の集団である。彼らは小さな幼虫から成長し、やがてラジアンと呼ばれる指導者的存在へと進化する。ラジアンは自らの身体と命を捧げることで、スピード・ブルードの機体の生ける心臓となり、エーテルを燃料とする生物機械へと変貌する。こうしてスピードそのものとなるのだ。

メカニズム
 黒緑は、墓地利用に特化したデッキであり、墓地を溜めながら大型の脅威を戦場に戻すことに焦点を当てている。

赤白:クラウドスパイア・レーシング {R}{W}

フレイバー
 クラウドスパイア・レーシングのチームは、高速かつ空気抵抗を最小限に抑えたプロレーサー集団である。彼らの出身地であるケイレムは勝利の意志を魔法として具現化できる次元であり、彼らは昨年のギラプール・グランプリにおいて優勝し、今年の大会への自動出場権を獲得している。その実績があるため、彼らは再び優勝することを約束されたチームとして注目されている。そんな中、チャンドラは恋人であるニッサを再びプレインズウォーカーとして目覚めさせるため、クラウドスパイアの申し出を受け入れ、名誉ある共同キャプテンとしてチームに参加することとなった。彼女は、勝利魔導士でありクラウドスパイアのエースパイロットでもあるコロディンと共に、チームを率いることになった。

メカニズム
 赤白は、機体とのシナジーを強く持つアグロ・デッキである。

緑青:エーテルレインジャーズ {G}{U}

フレイバー
 エーテルレインジャーズは、アヴィシュカーの旗艦チームである。彼らの機体は高速かつ操作性に優れ、霊気を燃料とし、地表すれすれを浮遊しながら走るため、レース中にどのような地形に遭遇しても適応できる。エーテルレインジャーズの主任技師であり、チームの広報担当を務めるのはピア・ナラー(チャンドラの母親)である。そして、仮面のレーサーであるスピットファイアがエーテルレインジャーズのエースパイロットを務めている。

メカニズム
 緑青は、マナ加速を活用し、大型クリーチャーや機体を展開するランプ・デッキである。また、蓄えたマナを消尽コストに使用し、相手を圧倒する戦略を取る。

ゴール・ライン

 本日のコラムは以上となる。『霊気走破』のデザイン話を楽しんでいただけなら幸いだ。いつものように、今回のコラムや『霊気走破』に関するあらゆる感想を、メールやソーシャル・メディア(XTumblrInstagramBlueskyTikTok)を通じて(英語で)送ってもらえると幸いだ。

 来週は、『霊気走破』の展望デザイン・ハンドオフの文章をお届けする。

 それまで、アクセルを踏み続けるのが良いだろう。


(Tr. Ryuki Matsushita)

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