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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

振り返り その2

Mark Rosewater
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2024年3月18日

 

 先週、私はマジックの歴史(1993年~2023年)を振り返り、それぞれの年についてマジックというゲームに加わった特に素晴らしいもの(と次点のもの)を取り挙げていく記事を始めた。なおマジックの首席デザイナーとして、私はゲームプレイ部分に影響を与えたものやランダム封入のブースター製品に注目している。その1では2008年まで見てきたので、2009年から始めよう。

2009年

この年に発売されたブースター製品:『コンフラックス』、『アラーラ再誕』、『基本セット2010』、『ゼンディカー』

第1位:上陸
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 2月の「MagicCon: Chicago」にて、私は「歴代メカニズムのベスト20」について語った(動画アーカイブポッドキャストその1その2その3)。その中で私は、「上陸」を第2位に選出した。上陸の作成は、「プレイヤーがやりたいことに報酬を与える」ということについて鍵となる学びを我々にもたらした、非常に重要なことだったと私は考えている。我々は、緊張をともなうメカニズム(プレイヤーに難しい判断を迫るものなど)を作成するのに多くの時間を費やしてきた。それも悪くはないのだが、マジックのメカニズムを作る方法は他にもあるのだ。上陸はまた、非常に優れたレンズ状の能力でもある。経験の少ないプレイヤーも楽しめる一方で、経験豊富なプレイヤーにはそれを最大限に活かせるプレイの幅が多くあるのだ。

次点:新たなカード・デザインをより多くの場所に配置する意欲

 『基本セット2010』は、基本セットのあり方を考え直した製品だった。ここで決断された特に大きな変更の1つは、基本セットに新規カードを収録し始めたことだ。これ以前は、基本セットはすべて再録カードのセットだったのだ。セットを制作する上で、新たなカード・デザインは強力なツールとなる。『基本セット2010』は我々がそのツールを使えるときと場所を考え直すきっかけとなり、その結果、マジックの製品は大いに良くなったのだった。

2010年

この年に発売されたブースター製品:『ワールドウェイク』、『エルドラージ覚醒』、『基本セット2011』、『ミラディンの傷跡』

第1位:増殖
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 『ミラディンの傷跡』のデザイン時、我々はファイレクシアンにメカニズム的アイデンティティを与えようと意欲を持っていた。初期のマジックではアーティファクトや黒と結びついていたが、真に関連するプレイ・パターンやメカニズムは与えていなかったのだ。ファイレクシアンが病をモチーフにしているというアイデアを我々は気に入っていたため、それらのプレイ・パターンに病の要素を合わせる方法を探した。そうして生まれたのが「増殖」であり、プレイヤーやクリーチャーが感染したらその影響が燃え広がっていく感覚を作り出すことができた。さらに後方互換性を持たせるため、我々はその効果をあらゆるトークンにも適用した。こうして、我々がこれまで作ってきたメカニズムとは一線を画するものに仕上がった。長年にわたってやっていると、そういうメカニズムを作るのは難しいものだ。増殖は人気を集めただけでなく、採用するセットに順応できるメカニズムであることを証明した。『ミラディンの傷跡』では-1/-1カウンターや毒カウンターを扱い、『灯争大戦』では+1/+1カウンターや忠誠度カウンターを、そして『ファイレクシア:完全なる統一』では油カウンターや毒カウンターを扱ってみせたのだ。増殖は我々の後方互換の考え方を大きく変え、セットの違いを出すためにカウンターを使うことを大きく後押ししたのだった。

次点:単独の大型セット

 ブロック構造には根本的な問題があることが明らかになりつつあった。『エルドラージ覚醒』は、単体でプレイすることを想定して作られた大型セットという初めての試みだった。『ゼンディカー』ブロックの一部ではあったものの、ストーリー上の大きな出来事(封印されていたエルドラージの解放)を活かして収録メカニズムを一新し、単体でドラフトできるようにした。これが標準になるまでには何年もかかることになるのだが、最初の一歩がここだったのだ。

2011年

この年に発売されたブースター製品:『ミラディン包囲戦』、『新たなるファイレクシア』、『基本セット2012』、『イニストラード』

第1位:変身する両面カード
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 変身する両面カードは、狼男のフレイバーを捉える最善の方法を探そうとしている中で生まれた。そこで我々は、我々が作っている他のトレーディングカードゲーム(デュエル・マスターズ)からアイデアを借りて、カードの両面を使ってみることにした。それはウィザーズ内外で議論を巻き起こしたが、両面カードはプレイヤーたちに大好評だった。デザインの観点から見ると、それは多くのデザインの可能性を秘めた大きな新ツールだった。落葉樹メカニズムの中でも、ときにデザイナーとして一歩引かなければならない(「このセットに両面カードは本当に必要なのか?」と自問しなければならない)ほどのものだ。フレイバーの観点から見ると、「アートが2点ある」という普段はできないことを実現してくれる。これにより、マジックのカードではめったにできないストーリー表現ができるのだ。

次点:トップダウン・デザインのセットの新たな試み

 『イニストラード』は最初のトップダウン・デザインのセットではなく(最初は『アラビアンナイト』だ)、また最初のトップダウン・ブロックでもないが(こちらは『神河物語』ブロック)、我々が捉えようとしているフレイバーの雰囲気や情緒を中心にセットの構造やメカニズムを組み立てた最初のセットだった。我々はプレイヤーたちにゲームの中で恐怖を感じてもらいたかったので、変身する両面カードで闇への変身を表現し、「陰鬱」のようなメカニズムで普段は疑問に思わない行動に疑いを持たせた。『イニストラード』は、その後のトップダウン・セットの作り方のモデルとなったのだ。

2012年

この年に発売されたブースター製品:『闇の隆盛』、『アヴァシンの帰還』、『基本セット2013』、『ラヴニカへの回帰』

第1位:正式な再訪

 初期のマジックはほとんどがドミナリアを舞台にしたものだった。それ以外の次元で初めて再訪したのはミラディンだが、そこはファイレクシアの手に落ち、最初の訪問時とはメカニズム的にも大きく異なる次元になっていた。その点『ラヴニカへの回帰』は、根本的な部分が変わっていない次元に我々を連れていった。このことは我々に、セットのメカニズム的な核の部分を変えずに次元を再訪する方法を考えさせたのだった。

次点:門
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 再訪とは、前回訪問時の間違いを修正することでもある。『ラヴニカへの回帰』で我々が修正したことの1つは、多人数戦を適切にサポートできるほどマナ基盤が強固でないことだった。このセットで我々はコモンに2色土地のサイクルを求め、レアにはショックランドのサイクルを求めた。だがこれにも、レアのショックランドと比べてコモンのタップイン2色土地が「著しく悪く感じる」という問題があった。その解決策が、コモンの2色土地サイクルに土地の新たなサブタイプ「門」を加えることだった。これにより我々は、門に関連する軽いメカニズム的テーマを作ることができ、それらに副次的な目的を与えることができた。このサブタイプを使ってメカニズム的アイデンティティを加えるというアイデアは有用性を示し、セットを構築する上で貴重なツールになったのだった。

2013年

この年に発売されたブースター製品:『ギルド門侵犯』、『ドラゴンの迷路』、『基本セット2014』、『モダンマスターズ』、『テーロス』

第1位:信心
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 『ディセンション』のデザイン中に、アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheがあるカードをデザインした。私はそのカードに、メカニズム1つ作れるだけの可能性を感じた(カードのマナ・コストにある色マナ・シンボルの数で効果の規模が決まるカードだった)。そのメカニズムは最終的に「彩色」と呼ばれ、『イーブンタイド』で採用された。しかしマジック・ファンからの反応は精彩を欠いたものだったので、我々はそれを失敗と判断した。それから数年後、『テーロス』のデザイン中に、我々は人々が神々に抱く信心を表現したメカニズムを探していた。我々は彩色がメカニズム的には求めるものであることに気づいたが、過去の失敗に躊躇していた。そこで彩色の問題点を見つけ出し(フレイバーがなかったこと、一貫性がなかったことなど)、それを修正した。こうしてできた「信心」は、大きな成功を収めた。マジックのデザインにとって、実行することの大切さが叩き込まれた瞬間だった。どれだけ優れたアイデアも、正しくデザインしなければ失敗することがある。信心の成功は我々に新規メカニズムの評価の仕方を考え直させ、そこに強力なアイデアがあると感じるなら昔の間違いを正す意欲をもたらしたのだ。

次点:怪物化
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 以前のデザインにおいて、我々はそのデザインで捉えようとしていることを凝縮して1つの線にすることを好んで行っていた。『テーロス』では「神、英雄、怪物」だ。「信心」は神々のために用意されたメカニズムだった。怪物にはゲーム序盤から中盤にプレイできるカードを求めたが、巨大な怪物はゲーム終盤に出てほしかった。それを解決したのが、ゲーム中に1度だけ起動する、クリーチャーを強化できる能力だ。このアイデアは非常に強力で、同じデザイン領域を使う(つまりゲーム後半級のクリーチャーの小さい形態を早い段階で戦場に出せる)メカニズムを多数生み出した。

2014年

この年に発売されたブースター製品:『神々の軍勢』、『ニクスへの旅』、『コンスピラシー:王位争奪』、『基本セット2015』、『タルキール覇王譚』

第1位:『タルキール覇王譚』のセット構造

 数多くのセットを手掛けたエリック・ラウアー/Erik Lauerが、昨年の末に退職した。退職祝いの席で彼がデザインしたセットで最も誇りに思っているものを聞くと、その答えは『タルキール覇王譚』だった。3色のセットを作るのは非常に難しい。プレイヤーたちが特に強力なカードだけを使いすべてが多色のスープになってしまわないようにしながら、3色でのプレイを成立させることが求められるためだ。『タルキール覇王譚』はこの問題を解決するという偉業を達成し、3色のセット構造の手本となった。例えば『ニューカペナの街角』も、『タルキール覇王譚』のセット骨格をもとに制作が始まった。今回の2部作の記事ではさまざまなメカニズムやテーマについて語っているが、革新的なセット構造もまた、開発部のデザインの進化に欠かせない要素なのである。

次点:「変異5マナの法則」

 『タルキール覇王譚』にて、エリックは「変異」メカニズムの懸念点に対処する道も見出した。「変異5マナの法則」とは、あなたが変異クリーチャーで対戦相手の変異クリーチャーに向かって攻撃した場合、相手があなたの変異クリーチャーを「食う」(変異クリーチャーを表向きにして、自身は破壊されず、あなたのクリーチャーを破壊する)ためには最低5マナかかることを指す。この法則は、プレイヤーがゲームの中でできることとできないことを理解しやすくするための指標をデザイナーは組み込むことができる、という考えをもたらした。たとえプレイヤーがその指標に気づかなくても、それはより良いプレイ感を生み、結果的にそのセットをより楽しめるのだ。

次点:統治者
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 これはリチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldによって作られた他のトレーディングカードゲーム「Vampire: The Eternal Struggle」に登場する、「Edge」と呼ばれるメカニズムに着想を得たものだった。「Edge」は1つしかないゲーム用品で、プレイヤーはそれを巡って争奪戦を繰り広げていた。それをマジックの『コンスピラシー:王位争奪』に合わせたのが統治者であり、多人数戦のデザインが長年にわたって抱えていた問題(どうやってプレイヤーを攻撃させ合うか?)を解決する助けになった。統治者は、多人数戦のデザインにおける重要なツールになったのだった。

2015年

この年に発売されたブースター製品:『運命再編』、『タルキール龍紀伝』、『モダンマスターズ 2015年版』、『マジック・オリジン』、『戦乱のゼンディカー』

第1位:予示
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 当時のマジックでは、1年おきにブロックの3セット目を大型にして、独自のメカニズムを用意し単体でドラフトできるようにすることを決めていた。そこで物事を大きく動かすために、私は小型セットが2つの大型セットの両方とドラフトできるようにブロックを構成することを提案し、それをサポートするべくタイムトラベル設定を作り上げた。第1セットは現在の時間軸で、龍のいない次元だ。主人公のサルカン・ヴォルは過去(第2セット)へ向かい、龍を救う。そして第3セットでは、龍がいる別の時間軸が描かれる。この「現在、過去、別の現在」という舞台設定を捉えるべく、私は「変異」を過去と別の現在に合わせるというアイデアを思いついた。「予示」は変異の原型であり、変異を持たないものでも裏向きの状態で無色の2/2のクリーチャーにし、特定のカードには表向きにする手段も与える。(別の現在に合わせた「大変異」は、それほどの好評を得られなかった。)私は予示が示してくれたものを心から気に入っている。核となる良いデザインのアイデアとそれを発展させたものは、それに関連しながらも異なる、同じくらい楽しいものを作れるのだ。

次点:濫用

 表面的には、このメカニズムは人気がないように見える。一般的に、プレイヤーは自分のクリーチャーを生け贄に捧げたくないものだが、このメカニズムはクリーチャーを失うというよりは呪文と交換するような感覚だった。私がこれを取り挙げたのは、このメカニズムが「マイナス面」があるメカニズムを作らないという流れに対抗する助けになったからだ。プレイヤーにパーマネントをリソースとして消費する妥当な理由を用意しなければならないものの、それが実現できればプレイヤーたちは喜んで行うということを、このメカニズムは私たちに教えてくれたのだ。

2016年

この年に発売されたブースター製品:『ゲートウォッチの誓い』、『イニストラードを覆う影』、『エターナルマスターズ』、『異界月』、『カラデシュ』

第1位:ゲームのリソースとしてのアーティファクト・トークン
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 『イニストラードを覆う影』は、ミステリーが展開されるコズミックホラーをテーマにしたセットだった(コズミックホラーの物語はミステリーのように始まることが多い)。ミステリーの感覚を捉えるべく、我々は「調査」と名前がつくメカニズムを求めていた。はじめはカードを引く能力だったが、それではこのセットにカードを引く効果を加え過ぎることになる。そこで我々は、手掛かり・アーティファクト・トークンというアイデアを思いついた。カードを引くためにマナを支払う必要があるため、実際にはカード0.5枚を引くのに近い効果になった。このセットの核となる手掛かり・トークンは大人気となり、我々はその後のセットでもテーマと結びつくアーティファクト・トークンを、それを生成するキーワード処理はなしで使い始めることになったのだった。

 この年には良いものがたくさんあるので、次点を1つ2つと言わず、3つ挙げよう。

次点:エネルギー
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 「エネルギー」は元々、初代『ミラディン』のメカニズムとして作成されたが、十分なスペースが確保できなかったため抜かれることになった。それが居場所を見つけるまで何年もかかったが、我々はついに成し遂げたのだ。デベロップ上の問題はいくつかあるものの、このリソースはフレイバーに富み、面白いデザインをいくつも実現できる。また、はじめは孤立的メカニズムだったが、再登場させるたびに後方互換のメカニズムになってきている。

次点:機体
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 我々は機体の採用を何年も議論していたが、先送りにされ続けてきた。そしてついに我々はアーティファクト・セットに着手し、今度こそ実現するときだと感じた。数々の反復工程を経て我々が心から気に入るものに仕上がった機体は、一晩で常盤木になった。機体はフレイバーに富み、我々がその後何度も利用することになる「クリーチャーのパワーをリソースとして使う」というアイデアをもたらしたのだ。

次点:合体
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 マジックはときどき、プレイヤーたちに「そんなことできるの?」と思わせるものをデザインする必要がある。マジックのデザインには仕事をきっちりこなす質実なメカニズムが多く必要だが、ときには華美なものも必要だ。進化を続けるゲームのクールな点は、ときどき思いもよらぬところへ連れて行ってくれることなのだ。

2017年

この年に発売されたブースター製品:『霊気紛争』、『アモンケット』、『破滅の刻』、『イクサラン』、『アイコニックマスターズ』、『Unstable』

第1位:パンチアウト・カード
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 定期的に新たなデザイン領域を探す難しさの1つは、外部のゲーム用品(カウンターやトークン)や記憶問題をともなうものになりがちな点である。『アモンケット』ではその限界を押し広げて、開発部の新たなツールが導入された。それがパンチアウト・カードだ。パンチアウト・カードはマジックのカードと同じサイズであるためブースターに収まり、カウンターやトークン、あるいは記憶の補助に使えるものをパンチアウト部品として制作できる。パンチアウト・カードは、両面カードと並んで10年前にはできなかったデザインを実現する新たなツールの1つなのだ。

次点:宝物トークン
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 手掛かりは、セットを組み立てるツールとしてのアーティファクト・トークンというアイデアをもたらした。『イクサラン』では、今や最も使われるアーティファクト・トークンとなったものが導入された――宝物だ。マナはこのゲームの鍵となる要素であり、宝物はフレイバーに富み、我々がほとんど常盤木のように使うほど有用なツールであることを証明してみせたのだった。

2018年

この年に発売されたブースター製品:『イクサランの相克』、『マスターズ25th』、『ドミナリア』、『基本セット2019』、『ラヴニカのギルド』、『アルティメットマスターズ』

第1位:英雄譚

 『ドミナリア』にて、我々は物語を伝えることを表現する方法を求めていた。我々がたどり着いたのは、何年も前にプレインズウォーカー・カードをデザインしていたときに破棄されたメカニズムを使うことだった(あまりに機械的で、プレインズウォーカーに主体性を持たせられなかったのが理由だった)。「英雄譚」はフレイバーに富み、クールなデザインを多く実現でき、そして大いに人気だった。すぐに落葉樹になると、姿を見せるセットの数を増やしていくのだった。

次点:包括

 『ドミナリア』では、歴史を感じさせるものを捉える必要があった。必要としているものを伝えるすべが1つもないことに気づいた我々は、我々が歴史を感じる3つの異なるものをつなぎ合わせて、我々が求めるフレイバーを捉えようとした。プレイテスターたちはそのフレイバーを感じ取れなかったため、私は思い切った手段に出た。我々が求めるフレイバーを捉える言葉をそのまま使い、その新たな用語を構成するものを注釈文に書き連ねたのだ。この実装はうまくいき(「歴史的」というメカニズムを生み)、今では「包括」と呼ぶものができた。包括は、多くのプレイヤーが30年分のカードを使う「エターナル」の世界におけるデザインで非常に有用であることを証明した。これにより我々は、後方互換性を保ちながらもデッキ構築の新たなテーマを作ることができるようになったのだった。

2019年

この年に発売されたブースター製品:『ラヴニカの献身』、『灯争大戦』、『モダンホライゾン』、『基本セット2020』、『エルドレインの王権』

第1位:出来事
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 『エルドレインの王権』では、冒険に出かけるアイデアをクールな形で実現したいと考えていた。それなら主たる呪文を唱える前にもう1つ呪文を唱えられるというのはどうだろうか? 楽しいカードフレームの支援もあり「出来事」はすぐに人気を集め、デザインの新たな可能性を開いたのだった。

次点:「背景」セット

 『灯争大戦』は3年にわたるストーリーの完結編であった。ドラマティックな結末のために、ラヴニカという舞台とプレインズウォーカーの軍勢が必要だった。メカニズム的なテーマが関連しない次元を舞台にすることはできるだろうか? 『灯争大戦』はその大いなるテストであり、それがうまくいったことで、昔の次元で他の新たなテーマを探検する道が開かれたのだった。

次点:食物トークン

 宝物に続き、食物は2番目に人気のあるアーティファクト・トークンとなっている。それはフレイバーに富み、全体的に便利で、宝物とともに常磐木になろうとしている。

2020年

この年に発売されたブースター製品:『テーロス還魂記』、『イコリア:巨獣の棲処』、『基本セット2021』、『Jumpstart』、『ダブルマスターズ』、『ゼンディカーの夜明け』、『カラデシュ・リマスター』

第1位:モードを持つ両面カード
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 変身する両面カードは世に出るなり有用なツールであることを示したが、両面カードにはさらに多くのことができることがわかった。分割カードは常に人気を博している。そのアイデアをさらに進めたものが「モードを持つ両面カード」であり、これによりパーマネントにも分割カードを作ることができ、テキスト欄も大きくできた。その多彩さは、ある1年間に出た各セットに異なる方法で採用されるほどだった。

次点:手軽なデッキ構築

 デッキ構築は、トレーディングカードゲームで最も高いハードルの1つであり続けてきた。その解決策の1つが構築済みデッキだが、それはデッキのカスタマイズの楽しさを奪ってしまっている。『Jumpstart』は、そこへ斬新な解決策をもたらした。デッキ構築作業の大部分を我々が行い、2つのハーフデッキを組み合わせるだけにしたらどうだろうか? それは非常に価値ある入門用ツールであることが証明されたのだった。

2021年

この年に発売されたブースター製品:『カルドハイム』、『時のらせんリマスター』、『ストリクスヘイヴン:魔法学院』、『モダンホライゾン2』、『フォーゴトン・レルム探訪』、『イニストラード:真夜中の狩り』、『イニストラード:真紅の契り』

第1位:デッキ外のカード

 ゲーム開始時にあなたのデッキに入っていないマジックのカードというアイデアは、開発部が長年にわたって実験してきたものだった。『アヴァシンの帰還』では、あなたのデッキに混ぜ合わせられる「禁忌/forbidden」と呼ばれるメカニズムを試し、『カラデシュ』では、ゲームの外部からアーティファクト・カードをあなたの手札に持ってくることができる「発明/invention」と呼ばれるメカニズムを実験した。(『イコリア:巨獣の棲処』の「相棒」にも、それらと関連する領域が使われている。)教訓と学びを重ねた結果、ついにこのメカニズムはセットに採用されるに至った。結果として、アーティファクトのようなパーマネントよりはインスタントやソーサリーの方がうまく機能することがわかった。開発部がさらに探求したいと考えているデザイン領域であることは間違いない。

次点:ゲーム外のゲーム用品
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 こちらも開発部が長年にわたり実験してきて、ついに『フォーゴトン・レルム探訪』で印刷に至ったものだった。デザイン・チームは、ダンジョンがこのセットで役割を持つことを望んでいたが、そのフレイバーを捉えるカードを見つけるのは難しいとわかった。そこでデザイン・チームは『灯争大戦』のあるアイデアを参考に、他のカードによって成立するダンジョンを作ることにしたのだった。これは慎重に扱わなければならないものの、豊かな水脈が期待できるデザイン領域である。

2022年

この年に発売されたブースター製品:『神河:輝ける世界』、『ニューカペナの街角』、『統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い』、『ダブルマスターズ2022』、『団結のドミナリア』、『Unfinity』、『兄弟戦争』、『ジャンプスタート2022』

第1位:ノスタルジックな再訪

 私のブログ(Blogatog)には、多くの人がコメントを書き込んでくれている。その中でも長年にわたり要望を受けていたのが、神河への再訪だった。難関となったのは、初訪問時は売り上げの面でもプレイヤーの評価の面でも低迷したという市場調査結果だった。次元を再訪する際に、最初の訪問で人気を集めたところへ行かない理由があるだろうか? 最終的に我々は日本のポップカルチャーに着想を得た次元を作り、それを神河にする方法を見出した。それはこの年のヒット作になり、正しく扱えば懐かしさを利用することには大きな力があることを示してみせた。実際に、『神河:輝ける世界』の成功は2025年発売予定のコードネーム『Wrestling』にてローウィンを再訪する道を開く助けになったのだった。

次点:試作
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 2013年の項で取り挙げた「怪物化」が示した通り、デザインにおいては、プレイヤーたちが大きなクリーチャーを多くデッキに入れられる方法を見つける必要がある。怪物化はクリーチャーを軽いコストで唱えられて、その後それを強化できるデザインだったが、「試作」は異なるアプローチをとっており、キッカーの仕組みに近いものになっている。カードが2つの状態を擁しており、ゲームの進行や使えるマナの量に応じてどちらを使うか選べるのだ。テキスト欄の一貫性を維持しつつマナ・コストやパワー/タフネスを変化させるというアイデアのおかげで、我々が必要とするフレームをデザインするスペースを確保できた。試作のアプローチは、今後も新たなデザインの水脈につながると私は信じている。

2023年

この年に発売されたブースター製品:『ドミナリア・リマスター』、『ファイレクシア:完全なる統一』、『機械兵団の進軍』、『機械兵団の進軍:決戦の後に』、『指輪物語:中つ国の伝承』、『統率者マスターズ』、『エルドレインの森』、『イクサラン:失われし洞窟』

第1位:ユニバースビヨンド

 『Secret Lair x The Walking Dead』が初めて公開されたとき、他の知財の世界を舞台にしたマジックのカードというアイデアは議論を呼んだ。『指輪物語:中つ国の伝承』は、ユニバースビヨンドのポテンシャルを存分に示したセットであったと私は思っている。それがマジック史上最も売れたセットになったのは、偶然ではないと私は考えているのだ。1人のデザイナーとして、私はトップダウンの着想が他ではできないデザインへと我々を導き、喜びの感情があふれる泉に触れられるのを大いに楽しんでいる。

次点:バトル
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 我々は新たなカードタイプを軽々しくは作らず、バトルを価値あるものにするべく多くの時間を費やした。プレイヤーたちの反応には大いに満足しており、これは未来永劫にわたって我々が使えるものだと言えることを嬉しく思う。いつどこでとは言えないが、今後さらなるバトルがやってくるだろう。

「そして今に至る」

 私の時間旅行を楽しんでもらえたなら幸いである。これまでを振り返り、デザインにもたらされた革新をすべて見ていくのは興味深いものだった。今回の記事や私が取り挙げたデザイン上の革新に関する意見は、メール、各ソーシャルメディア(X(旧Twitter)TumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『サンダー・ジャンクションの無法者』のプレビュー開幕でお会いしよう。

 その日まで、あなたが最も喜びを感じる革新を見つけそれを楽しみますように。


 (Tr. Tetsuya Yabuki)

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