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Making Magic -マジック開発秘話-
混成の歴史 その1
2024年2月12日
私はよく、「あなたがデザインしてきたものの中で、一番誇りに思っているものはどれですか?」という質問を受ける。それに対して私は基本的に、「一番愛している子は誰かって?」と答えている。創作者は創作に打ち込む中で、作っているものとの感情的な結びつきを形成するものだ。だから私は、何年にもわたって制作に携わってきたメカニズムやカード、ツールの数々をとても気に入っている。しかしながら、どうしても一番誇りに思うものを選ばなければならないなら、混成マナを選ぶしかないだろう。それはコンセプトがシンプルで、柔軟に使えて、開発部の道具箱に欠かせないものになったのだ。そこで今回の記事では、混成マナの物語を振り返ろうと思う。それがどのように作られ、さまざまなセットでどのように使われてきたのか見ていこう。
『ラヴニカ:ギルドの都』ブロック
混成マナが生まれたのは、私が多色ブロックのデザインに取り組んでおり、新たな可能性を実験したいと思っていたときだった。そこで私は多色を、核となるデザインの基本原則に分解してみた。多色は、2色以上の色の組み合わせである。赤であり緑である多色呪文は、赤単色や緑単色には合わない赤と緑の要素を持ちあわせているから多色なのだ。多色の基盤となるのは、この「And」という考えにある。「赤であり緑である」多色カードは、その色だけでなく効果も赤と緑なのである。
それから私は、我々が作る多色デザインのさまざまな形について分解して考えた。1つを除いてすべてのカテゴリが、この「And」の考えにもとづいていた。1つの例外は私が「重なり」と呼ぶもので、これは「And」の考えではうまく説明できなかった。重なりのデザインは両方の色が個別に合う効果を持ちながら、そのカードを唱えるためには2色とも使うため、マナ・コストは唱えやすいものだった。それらは「赤であり緑である」とは感じられず、それぞれの色ができることをするカードだった。そこで私はひらめいた。もし多色が「Or」だったらどうだろうか?
その瞬間、混成マナが明確な解答になった。私の頭の中で、2つのマナ・シンボルが合体する姿さえ見えた。自分の望みが明確化するのとそのコンセプトがほぼ一瞬のうちに形になる、稀有な体験だった。私は興奮のあまりカードをいくつか作り(これについてはその2で詳しく話そう)、周りに見せた。開発部メンバーの反応は全体的に芳しくなかった。この新型マナを使って何をするのか、誰もよく理解していなかったのだが、私は夢中になった。それは驚くべき可能性を秘めていると、心から感じたのだ。
結局、私は混成マナを『ラヴニカ:ギルドの都』に入れることにした。リード・デベロッパーのブライアン・シュナイダー/Brian Schneiderは、デベロップの段階に入ってから取り組むことが多すぎると感じ、それを抜いた。私はその後、『時のらせん』のデザインに混成マナを入れることにした。するとブライアンが私を訪ね、混成マナを『ラヴニカ:ギルドの都』に戻せないか訊いてきた。ラヴニカの方に、新規メカニズムの目新しさが足りなかったのだ。私はゴーサインを出し、『時のらせん』から混成マナを引き抜いた。こうしてブライアンは各混成マナの組み合わせに(コモン、アンコモン、レアの) 垂直サイクルを作り上げ、我々はそのブロックの続く2セットでも同じようにしたのだった。
デザイン初期の混成カード(マナ・コストに混成マナ・シンボルを含むカード)は、それを唱える際に使用したマナの色になった。しかしそれは記憶問題を引き起こし、我々はシンプルに両方の色であるようにした。混成カードのフレームには、かつて私と何人かの開発部メンバーが多色カード向けの新たなフレームとして提案したものが使われた。フレームにそのカードの色が示されれば、より実用的だと我々は考えていた(少なくとも2色のカードに関しては。3~5色のカードは金色のままだ)。我々はグラフィックデザイナーにフレームを試作してもらい、それをブランド・チームへ提案した。ブランド・チームは反対したが、試作したフレームは残された。そして我々が混成カードを制作したときに、この放棄された多色向けフレームを使おうと私は提案したのだ。
市場調査によると、混成マナは『ラヴニカ:ギルドの都』ブロックで最高の評価を得た。私としては、これが歴代最高ではないとしても、歴代最高クラスの評価を得た「メカニズム」(混成マナはツールでありメカニズムではないが、市場調査ではメカニズムと呼ばれていた)の1つであると信じている。
混成マナは当初、マナ・コストにしか使われていなかった。ほとんどは伝統的な重なりのデザインであり、どちらの色でも使える能力を持っていた。珍しいデザインもわずかながらあり、それは以前はどちらの色でも使わない能力を持っていた。だがその新たな能力は、我々がどちらの色でもできるだろうと感じていたものだった。
中でも面白いデザイン領域があったのが、アンコモンのカードだった。このブロックには、マナ・コストが混成マナで、単色の起動型能力を2つ持つクリーチャー10枚で構成されるサイクル(ギルド魔道士)があったのだ。単色のデッキでも片方の能力は起動できるものの、2つとも使うには2色デッキである必要があった。重なりのデザインは単色のデザインでできることに限られていたが、ギルド魔道士は混成マナが他の方法ではできないことも実現できる、ということをデザイナーに示したのだ。
『未来予知』
私は『時のらせん』から混成マナを抜いたものの、このブロックには2枚のカードが姿を見せることになった。『未来予知』のミライシフト・カードである。《ウーコーの手下悪鬼》は、実質的に初となる、起動コストに混成マナを含む起動型能力を持つ単色のカードだ。それをやることになるのは間違いなかったため、『未来予知』で予告したというわけだ。《偶像の石塚》は、起動コストに混成マナを含む起動型能力を持つ初の土地だ。私はミライシフトで2色土地のサイクルを作り、それらはそれぞれ異なる2色土地サイクルを示唆するものだった。《偶像の石塚》は1年後に『シャドウムーア』と『イーブンタイド』で採用され、サイクル完成に至った。
『シャドウムーア』ブロック
開発部には、新たなデザイン要素について話し合うときに使う尺度がある。その尺度の一端にあるのが、「華美/splash」だ。華美なデザインはそれ自体が注目を集め、基本的に斬新で、プレイヤーたちに素晴らしい眺めを多く見せてくれる。そして反対側の端にあるのが、「質実/workhorse」だ。質実なデザインはセットのプレイ感を良くする助けになるが、本質的にエキサイティングなものではない。ほとんどのマジックのセットには、この華美と質実の要素が両方必要だ。我々は当初、混成マナを華美の側に置いていた。それは新型のマナであり(我々が頻繁には作らないものだ)、新たなフレームを必要とし、新たな形でデッキ構築との相互作用を生み出すものだ。しかし私は混成マナを作った当時から、その本当の強みはツールとしての柔軟性の高さにあると理解していた。私は混成マナの質実側の面を強調できるセットを探し求めた。
私がその機会を得たのは、2年半後のことだった。開発部ヴァイスプレジデントのビル・ローズ/Bill Roseが、その年を基本セットなしで主要セットが3つではなく4つ出る「マジック・イヤー」にしたいと希望したのだ。最後にそれをやったのは、『ラヴニカ:ギルドの都』ブロックと『コールドスナップ』が出た年で、『コールドスナップ』は大失敗した。そのとき私はビルに言った。「次に4セットのブロックをやりたいときは、私に言ってくれ。有機的にできる方法を見つけるから」と。
そしてそのブロックは、『ローウィン』ブロックという形に結実した。私は大型セット1つと小型セット1つによるミニ・ブロックを2つ作ることを提案した。1つ目のミニ・ブロックが『ローウィン』ブロックで、典型的なテーマを持つものだった。そして2つ目のミニ・ブロックである『シャドウムーア』ブロックには、『ローウィン』ブロックに存在するものを意識した独自のテーマを持ってほしかった。適したクリーチャー・タイプを持つクリーチャーなら『シャドウムーア』ブロックの方にも存在できる、という風に。検討を重ねたすえに、私は「色」もうまく機能することに気づいた。『シャドウムーア』ブロックが「色重視」のテーマを持つなら、『ローウィン』ブロックのカードとも噛み合うだろう。それらも当然、色を持っているのだから。
「色重視」のテーマを設定した私は、それに沿ったメカニズム的要素を探し始めた。混成マナが浮上するのは早かった。我々が最終的にたどり着いた混成マナの色の働きのおかげで、混成カードはスタック上だけでなくあらゆる領域で両方の色を持つため、色重視のテーマに完璧に合っていた。例えばマナ・コストに{W/U}の混成マナを含むクリーチャーを白のデッキに採用しても、デッキに青のカードが入っている状態になるのだ。
混成マナがセットの核となるメカニズムになる、というアイデアには興味を引かれた。私は自身とデザイン・チームに尋ねた。「セットにどれくらいの数の混成カードを入れられるだろうか?」と。我々が選んだ結論は、半分弱というものだった。我々はこのセットのオンライン発表で、クリックすると開封できるブースターを公開した。ブースターから出てきたカードにはテキストが書かれていなかったが、アートとフレームのデザインは見ることができた。収録カードの約半数が混成カードであるという事実は、少なからず人々を驚かせた(なるほど、混成マナには華美な部分が少し残っていたかもしれない)。
後から言うのは簡単だが、混成カードを多く使いすぎだったと思う。これにより我々は必要以上にデザインを先に進めることを余儀なくされ、セットには金色フレームのカードにした方が良かった混成カードがいくつも入ることになった。責任の大部分を混成マナに押し付けるつもりはないが、「ローウィン=シャドウムーア」ブロックは歴代でも特に売り上げの悪かったブロックの1つだった。我々は開発コード『Wrestling』でついにローウィン再訪の機会を得ることになったが、再訪までこれだけ時間がかかったという事実は、最初にうまくいかなかったことを示している。
さて混成マナは『シャドウムーア』に大きな足跡を残したため、新機軸が次々と導入された。
このセット収録のカードのうち6枚には、我々開発部が「ツーブリッド/twobrid」と呼ぶ新型の混成マナが導入された。ツーブリッド・マナは特定の色マナ1点または任意の色や無色マナ2点で支払うことができる。ツーブリッドの呪文はどんなデッキにもタッチできたが、メインカラーのマナが出せるデッキに採用したいという傾向があった。これはまた、デッキに色をタッチする新たな手段にもなった。その色の呪文を唱えることができる土地を必要とせずにタッチできたのだ。
中でも注目を集めたのは、同様のコストで5色すべてのツーブリッド・マナ・シンボルを使ったものだった。
「色重視」のテーマは、我々に新たなデザイン領域をもたらした。ギルド魔道士から得た着想をもとに、我々はカードの色を両方参照する常在型能力や誘発型能力を持つカードを作った。効果は同じで異なる色を見るものもあれば、参照する色によって効果が異なるものもあった。この種のカードは両方の色を持つ呪文を使えば2つとも機能するため、多色のカードを使うことに褒賞が用意されるという点で興味深いものだった。
前段のカードを少しだけひねったものには、エンチャントしているクリーチャーの色によって機能が変わるオーラも含まれている。これらの「色重視」テーマによって、混成カードの多色的な性質がこれまでにない形で重視されるようになったことも、特筆すべきだろう。
また別のひねりで、それを唱えるために使用したマナの色に応じて効果が変わる呪文も作られた。さまざまな混成カードのおかげで、我々は多くのデッキで機能しながらも1つのデッキに最適化されたカードを作ることができた。そのことを私は嬉しく思っている。
混成マナの興味深い副作用として、通常は単色デッキで扱うような重いマナ・コストを2色デッキで扱えるというものがある。例えば私が黒5マナのクリーチャーを作るとしよう。それは黒単デッキ以外ではまずプレイできないだろう。一方で黒と赤の混成マナ5点なら、黒単デッキでは黒5マナのカードとして使うことができ、赤単では赤5マナ、そして黒赤のデッキでは黒と赤マナ合わせて5点のカードとして使える。これは以前にはできなかったことだ。多色カードを作る際の問題の1つは、2色デッキを最も成立させるものは3色デッキの成立も後押しする点にある。だから我々が2色環境を作るときはいつも、色がさらに広がらないよう用心している。混成カードは、色の広がりを抑えるのに一役買ってくれる有用なツールなのだ。
『未来予知』で示唆された通りに、我々は起動コストに混成マナを含む能力を持つ単色のカードの作成に乗り出した。
これらはコモンのサイクルで、それぞれのカードの色に合う混成マナ・シンボルが1つずつ採用された。起動型能力はどれもパワーやタフネスを強化し、できるなら毎ターン複数回起動したいものだった。それらはメインカラーが合うデッキでも使えるが、両方の色が合う(あるいは単色の)デッキでプレイするよう最適化されていた。
『シャドウムーア』は、起動コストに混成マナを含む能力を持つ混成カードが初めて登場したセットだった。こちらは起動型能力に重なりのデザインを持たせられるという点で、有用なツールだった。他にも用途はあるが、それは追々、実際に取り挙げることになってから話すことにしよう。
『シャドウムーア』は、新規メカニズムを持つ混成カードが初めて登場したセットだった。『ラヴニカ』では、あえて混成カードにギルドのメカニズムを持たせなかったのだ。「共謀」は呪文の色を見るため、特に面白いものになった。
また『シャドウムーア』では、混成カードのもう1つの利点も披露された。今度はドラフトだ。通常、ドラフトで単色のデッキを組み上げるのは難しく、シールドデッキでは不可能であることが多い。その理由を伝えるために、2つのデッキの可能性を見てみよう。デッキAは緑と白の2色デッキ。デッキBは緑単色のデッキだ。ここでは便宜上、セットの収録カードは5色に分かれているものとする(通常は無色のカードもあるが、ここでは無視しよう)。デッキAはカード全体の40%を使用でき、デッキBは20%のカードを使用できることになる。
『シャドウムーア』では、およそ半数を混成カードが占めていた(計算しやすいよう、ちょうど半分だとしよう)。つまりこの場合、デッキAは全体の50%を採用でき、デッキBは30%を使用できるわけだ。使えるカードがデッキAは25%増、デッキBは50%増となっている。これによりおそらく、『シャドウムーア』はマジック史上最もドラフトで単色デッキを組みやすく、シールドデッキで安定して単色デッキを組める数少ないセットと言えるだろう。
『イーブンタイド』では『シャドウムーア』の跡を追うものがほとんどだったが、いくつか加えられたものもあった。
このセットでは、色ではなく基本土地タイプとの相互作用を持つ混成カードが初めて登場した。特定の2色土地とのシナジーを生みつつも、他の混成カードとのシナジーを抑えることができた。
それから、コストとして特定の色のクリーチャーをタップする混成カードも初めて登場した。過去に我々は、プレイヤーが特定の色をプレイしていることを確認するような、色付きのパーマネントをタップするものを使っていたが、混成カードはそれをすり抜ける手段をもたらした。例えば青単デッキに《弾け毛玉》が3枚入っていれば、カラー・パイにおいては赤の領域にある能力を起動できるのだ。マジックにとっては新しいものではなかったが、我々には目が離せないものだった。
『イーブンタイド』でおそらく最も思い出深いのは、《運命の大立者》だった。これはのちに多くのカード・デザインを生み出し、メカニズムも生み出した。混成マナが得意とする重い起動コストが、良く活かされている。
『シャドウムーア』ブロックからは、混成カードに関する教訓を多く得た。使いすぎの危険性も学べた上に、将来的に実りあるデザインの水脈がどこにあるのか、より良い知見を得られたのだ。
『アラーラ再誕』
混成カードが次に使われたのは、1年後の『アラーラの断片』ブロック第3セットでのことだった。『アラーラ再誕』は、開発部ではギミック・セットと位置づけられている。このセットは全体が金色カードで構成されており、市場にクールなセットを提供する一方で、デザインするのが難しくもあった。このブロックの第1セットである『アラーラの断片』は、基本的に5つの断片、つまり5つに分かれた次元に注目したものだった。断片はそれぞれ2つの色が失われており、特定の色とその友好色2つが焦点だった。『アラーラの断片』は、史上初の3色セットだった。続く『コンフラックス』では、可能な限り多くの色を使うことに焦点が当てられた。そして『アラーラ再誕』の初期のアイデアは、収録カードすべてが金色であることだけでなく、友好2色に注目するというものだった。
問題は、3色セットであり5色セットでもある『アラーラ再誕』がドラフトに使われることだった。収録カードがすべて金色なので、コモンもすべて2色である必要があった。(すべて多色のセットにして伝統的な混成カードは認める、ということについても議論したが、ビルはすべて金色のセットにこだわった。)それはうまくいかなかった。柔軟性が足りなかったのだ。その解決策となったのは、コモンとアンコモンで混成金色カードを15枚作ることだった。
その仕組みはこうだ。各カードはマナ・コストに色マナが含まれ、一部は不特定マナも含まれ、そして色マナの友好色2つからなる混成マナが含まれていた。例として《飛行機械の鋳造所》を挙げよう。ベースカラーは青なので青を中心にした断片「エスパー」に属し、白と黒の混成マナ・シンボルが含まれる。白と黒は、青の友好色だ。このカードはデッキに白青か青黒が含まれていればプレイできたというわけだ。
混成マナをこのように使うことでデザイン上の問題を解決する助けにはなったが、このようなマナ・コストは多くの混乱を招くことになると我々は気づいた。この方法はもう使えないとは言わないが、『アラーラ再誕』ほどの高い割合で作ることはしないだろう。
それから、混成マナ1点のサイクリング能力を持つコモンのサイクルもあった。アイデアとしては両方の色を使うデッキでプレイするものだが、片方の色マナを引き出せなくてもそのカードをサイクリングで回すことができる。
『アラーラの断片』は、収録カードすべてが金色であることに起因するさまざまな問題を解決するために、混成カードの質実な部分に本格的に取り組んだ初めてのセットだった。
次回へ続く……
本日はこれで以上だが、混成カードの物語はまだ終わっていない。(記事タイトルの「その1」が手掛かりになっただろうか。)来週はプレビュー記事があるため、その2は2週間後になる。この記事や混成マナ全般に関する意見は、メール、各ソーシャルメディア(X(旧Twitter)、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、マジック:ザ・ギャザリング『Fallout』統率者デッキのプレビューと、再来週の「混成の歴史 その2」でお会いしよう。
その日まで、あなたが「Or」の喜びを受け入れますように。
(Tr. Tetsuya Yabuki)
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